1 カレイドスコープ 2 黒猫魔法店 3 奇跡の石 4 魔法店の仕事 5 アイドルコンテスト
6 滅びの予兆 7 守るための剣 8 闇の魔術師 9 未来への道 10 花の都




 ――『高杉 浩治』という少年がいた。



 地の精霊剣を携え――

 何故か、瀕死の重傷を負い――
 クラベル滝の近くで、気を失っていた剣士――

 そんな彼を発見したのは……、
 黒猫魔法店の店主、パルフェであった。

 浩治は記憶を失っており、
それが回復するまで、黒猫魔法店に居候する事となる。

 二人で、店の仕事をしながら……、
 穏やかな日々を送る、パルフェと浩治……、

 そんな日々の中、様々な出会いもあった。

 花を愛する少女フローレ――
 スマイル魔法店の看板娘ココット――
 浩治を故郷の仇と狙う火の精霊剣を持つライナ――

 そして、風の国の王女ルティル――

 バルフェとルティルは……、
 次第に、浩治の優しさに惹かれ、想いを募らせていく。

 彼女達の想いの力か……、
 徐々に、記憶を取り戻し始める浩治……、

 ――それは、異世界の記憶。

 この世界とは全く違う――
 本来、自分がいるべき世界の記憶――

 彼の記憶が甦ると共に……、
 フロルエルモスに、大きな危機が訪れる。

 闇に魅入られし者の手により、
水の魔石が暴走し、邪竜神ミマナが降臨してしまったのだ。

 地の精霊剣を手に、ミマナに闘いを挑む浩治……、

 そして、全ての精霊石の力を……、
 少女達の想いを集結させ、ミマナを倒し……、





 それ以後――

 少年の姿を見た者はいない。






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『廃都フロルエルモス 〜ハートフルメモリーズ〜

その8 闇の魔術師







 ――そして、闘いが始まった。





「多少、予定が狂ったが……、
虫ケラ共よ、望み通り、少しだけ遊んでやろう」

「ああ、すぐに終わらせてやるよっ!」



 暗雲に包まれる中――

 イストール山を舞台とした――
 フロルエルモスの未来を掛けた空中戦――

 相手は、ドーバンと溶岩竜……、

 俺は、白竜であるミレイユを……、
 パルフェとレネッは、空飛ぶホウキを駆り、戦闘態勢に入る。

「いくわよっ、氷河のつぶてっ!!」

 隙を窺うように、敵の周囲を旋回し……、
 まず、最初に口火を切ったのは、レネットだった。

 氷属性の攻撃魔術を、
いきなり、溶岩竜の横っ面にブチ込む。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!!」

 大きな氷槍に、片目を潰され……、
 溶岩竜は、体を形成する灼熱の泥を撒き散らしながら、苦しげな咆哮を上げた。

 たった一発の魔術で、このデカブツに傷を負わせるなんて……、

 さすがは、レネット……、
 天才を自称するだけの事はある。

「この大物は私に任せなさいっ!
パルフェ達は、あの陰気な奴の相手をしてやって!」

「で、でも……」

「あなたには切り札があるでしょう!?
ドーバンを倒すには、それしか方法は無いわっ!!」

「――わかった、任せるっ!」

 溶岩竜を、レネットだけに任せて良いものか……、

 逡巡するパルフェに、
氷の魔法を連射しながら、レネットが叫ぶ。

 レネットが言う“切り札”……、
 それが、何なのかは知らないが……、

 奴に対して、有効な手段があるのなら、使わない手は無い。

 俺は、レネット言葉に頷くと、
半ば強引にパルフェを促し、ドーバンへと迫った。

「フンッ……まずは小手調べだ」

 向かって来る俺達に、ドーバンが手をかざす。

 すると、地表から、無数の岩が、
浮かび上がり、俺達に向かって、一斉に飛来した。

 石つぶての広範囲高速連射――

 その攻撃を回避する為、
パルフェは、ホウキの軌道を大きく迂回させる。

「行けっ、ミレイユッ!!」

「――おっけ〜っ!!」

 だが、俺は、構うこと無く……、
 石つぶての弾幕の中へと突っ込んだ。

「無茶だよ、マコト……っ!!」

 無謀とも言える俺の行為に、パルフェが悲鳴を上げる。

 だが、俺の考えを察したのか……、
 すぐに、それを噛み殺すと、パルフェは、懐から魔法薬を取り出した。

 そして、それを自分の周りに、
サラサラと、振り撒きながら、呪文詠唱を始める。

「うおおおおおーーーーーっ!!」

 リフレクの魔法薬で、障壁を展開……、
 さらに、ミレイユに、錐揉み飛行をさせ、一直線に突き進む。

「むっ……!?」

 意表を突かれたのだろう……、
 ドーバンは、弾幕を厚くし、俺の接近を阻む。

 ……だが、もう襲い。

 障壁によって、全ての攻撃を弾き、
俺は、最短距離で、一気に、ドーバンへと肉薄した。

「――アイスブレイド!!」

 氷の魔法剣を振るい、敵の胴を薙ぐ。

 だが、初撃の時と同様に……、
 俺の攻撃は、何らかの力で、アッサリと防がれてしまった。

「何をしても無駄だ……、
ワタシの『闇の衣』は、あらゆる攻撃を無効化する」

 剣を鷲掴みにし、俺を嘲笑うドーバン。

 だが、そんな事は先刻承知――

 いくら地の精霊剣があるとはいえ……、
 それでも、俺とドーバンの力の差は歴然である。

 おそらく、俺の攻撃は無意味……、

 そして、闘いが長引けば、
一方的に消耗する分、俺達が不利になる。

 ならば、奴に勝つ方法は――
 最大威力の攻撃による短期決戦のみ――

 そして――
 決着の鍵を握るのは――

「邪なる力よ、聖なる光の前に退け――」

「なに……っ!?」

 ――パルフェの呪文詠唱が完了する。

 俺の攻撃に気を取られていた、
ドーバンは、ようやく、それに気付くが、もう間に合わない。

「女神よ、我に破邪の力を……っ!」

 パルフェが、ステッキを振り上げる。

 その先端に宿るは――
 まさに、太陽のように眩き光――





「――セントプリフィアァァァァーーーーッ!!」





 悪を討つ破邪の光――

 光の精霊石を触媒に――
 邪悪を封じる究極の光属性魔術――

 ――それが、パルフェの切り札であった。

 パルフェのステッキから放たれた光が、
ドーバンの周囲を飛び回り、球状の魔方陣を描き出す。

「クッ……これは……!?」

 光で描かれた魔方陣の牢獄――

 その中から逃れようと、ドーバンは、
両手から魔力を放出するが、光の魔方陣はビクともしない。

「凄い……これなら……」

 パルフェが持っていた切り札――

 破邪の魔術の力に、
俺は、状況も忘れて、呆然としてしまう。

 ――まさか、勝てるのか?

 魔王の配下に……、
 あの闇の魔術師に、勝てるのか?

「ぐおおおぉぉぉーーーーっ!!」

 徐々に、徐々に……、
 魔方陣が縮み、ドーバンを圧倒していく。

 成す術もなく、魔方陣に押し潰されるドーバン……、

 このまま、魔方陣は収縮を続け……、
 もはや、ドーバンが、封印されるのも、時間の問題であろう。

「勝った……のか?」

 最後まで油断は出来ないが……、

 拳大にまで収縮した魔方陣……、
 それを前に、俺は、勝利が目前にある事を理解する。

 だが、何故だ……、
 何かが、頭の片隅に引っ掛かる。

 違和感、とでも言えば良いのか……、

 ――どうも、腑に落ちない。
 ――何故か、納得することができない。

 あまりにもお粗末過ぎやしないか?

 いくら、究極の光魔術とはいえ……、
 魔王の側近ともあろう者が、これで終わりなんて……、

 と、そんな疑問も晴れぬまま……、

 ついに、魔方陣は……、
 ドーバン諸共、完全に消滅した。

「やった……やったよ、マコト!!」

「ああ、そうだな……」

 闇の魔術師の最期――

 あまりに呆気なさ過ぎる……、
 その瞬間を見届け、ミレイユは素直に喜ぶ。

 だが、はしゃぐミレイユに、
俺は、歯切れの悪い返事しか出来ない。

 未だ、信じられないのだ……、
 ドーバンが、ああも、アッサリと倒れた事が……、

「これで、未来は変わるよね?
もう、フロルエルモスは、滅んだりしないんだよね?」

 嬉しそうに飛び回るミレイユ……、

 そんな彼女の言葉を聞き、
俺の脳裏に、再び、先程の違和感が湧き上がる。

 ――これで、未来が変わる?

 確かに、未来は変わるだろう。
 本来、街を滅ぼすべき存在であったモノは倒されたのだ。

 この世界の少女――
 パルフェ=シュクレールの手によって――



「しまった!! 逃げろ、パルフェ!!」

「――えっ?」



 そこまで考えた瞬間――

 俺は、違和感の正体……、
 自分の、とんでもない思い違いに気が付いた。

 パルフェでは、ダメなのだ……、

 彼女では、未来は変えられない。
 この世界の者である彼女では、未来は変えられない。

 何故なら、パルフェでは、ドーバンに勝てない、という事実がある。

 もし、パルフェが勝てるなら……、
 最初から、フロルエルモスが滅ぶわけが無いのだ。

 本来の歴史で、パルフェが、
ドーバンに、セントプリフィアを使わなかったとは思えない。

 間違いなく、彼女は、それを使ったはずだ。

 にも関わらず……、
 何故、街は滅んだのか……、

 答えは簡単――





 セントプリフィアは――

 あの闇の衣には――
 ドーバンには、全く通用しない――





「いや、見事、見事……、
さすがのワタシも、今のは、少し驚いた」

 一体、どんな手品を使ったのか……、

 魔方陣に捕われていた筈の、
ドーバン姿が、唐突に、パルフェの背後に浮かび上がる。

「だが、切り札というモノは、最後まで、残しておくべきではないか?」

「そ、そんな……どうやって……?」

「なに、簡単な事だ……、
幻影のみを残し、転移したまでのこと……」

 振り返る事も出来ないまま、声を震わせるパルフェ……、

「これは、謝礼だ……受け取れ」

 そんな彼女に対し、余裕の笑みを浮かべ……、

 ドーバンは、ローブの中から、
細い手を伸ばし、パルフェの背に当てると……、

 回避しようもない――
 零距離からの攻撃魔術を――

「やらせるかよっ!!」

「きゃあ……っ!?」

 ――咄嗟に、攻撃魔術を放つ。

 かなり荒っぽい方法だが、
俺は、爆発の襲撃で、パルフェを弾き飛ばした。

 ドーバンの攻撃は空を切り、大地へと突き刺さる。

「すまん、パルフェ……大丈夫か?」

「全然、へっちゃらだよ……、
爆発する寸前にに、リフレクを使ったから……」

 ホウキを操り、姿勢制御するパルフェの傍へと飛び……、

 攻撃回避の為とは言え……、
 俺は、魔術で吹き飛ばしてしまった事を、謝罪する。

 だが、パルフェは、至近距離で、
爆発したにも関わらず、傷一つ無く、微笑んで見せた。

「ほとんど、条件反射だな……」

 呆れた口調で、サケマスが安堵の溜息を吐く。

 ああ、なるほど……、
 魔法薬の調合が失敗した時と同じ、って事か……、

「まさか、日頃の失敗が、こんなカタチで役に立つとは……」

「ああ、まったくだ……、
それに、意外だったのは、俺達だけじゃないみたいだぞ」

 サケマスと苦笑し合い、俺は、ドーバンへと視線を戻す。

「なかなか、思い切りが良いな……」

 予想外の手段で回避され……、
 感心したように、ドーバンが俺達を見ていた。

「面白い、面白いぞ……、
虫ケラの割には、それなりに楽しめそうだ」

 心底楽しそうに……、
 ドーバンは、人を見下した笑みを浮かべる。

 そして、杖の先端を、俺達へと向けると……、

「さあ、第二幕だ……、
これを、どうやって凌いでみせる?」

 途端、ドーバンの周囲に、幾つもの魔力球が、一斉に出現した。

「うそ……こんなの……、
多属性魔術の、同時展開なんて……」

「なんて、出鱈目な……」

 その光景を見て、俺達は言葉を失う。

 ――そう。
 まさに、出鱈目だった。

 火、氷、雷、水、地、風……、

 各々の魔力球が、別の属性を持っており、
それら全てに、高位魔術級の魔力が込められているのだ。

「……行け」

 無数の魔弾に、ドーバンが、言葉短く命じる。

 それと同時に、全ての魔弾が、
縦横無尽に飛び交い、俺とパルフェに襲い掛かってきた。

「きゃあああーーーっ!!」

「うわあああぁぁぁぁーーーーっ!!」

     ・
     ・
     ・





 そこから先は――

 敵の多彩な攻撃の前に……、
 俺とパルフェは、防戦一方であった。





「このままじゃ、ジリ貧だ……」

 反撃する隙を窺いつつ……、
 俺達は、必死に、ドーバンの攻撃を回避し続ける。

 だが、敵の波状攻撃は、途切れる事無く……、

 徐々に、体力と魔力を奪われ、
まるで好転しない現状に、俺は舌打ちをする。

「リ、リフレ……きゃあっ!?」

 もう何度目だろうか……、

 ドーバンの攻撃をかわし損ねた、
パルフェが、悲鳴混じりに、防御魔術を展開する。

 その光景が、さらに、俺を焦らせていた。

 実戦経験の乏しいパルフェ……、
 そんな彼女が、今まで健闘できたのは、防御魔術の巧みさにあった。

 しかし、それも、いつまで続くか分からない。

 次の瞬間、防御に失敗し、
ドーバンの攻撃が直撃するかもしれないのだ。

 どうする、どうする、どうする――

 ――反撃する隙が見つからない。
 ――例え、攻撃しても、闇の衣に防がれる。

 考えろ、考えろ、考えろ――

 ――どうすれば良い?
 ――どうすれば、闇の衣を打破できる?

 気持ちばかりが焦り……、
 同じ言葉ばかりが、頭の中を、グルグルと駆け巡る。

 しかし、どんなに考えても、
現状を打開する策は思い浮かばず……、

「いつの間にか、こんな所まで……っ?」

 気が付けば、戦闘空域は、
フロルエルモスの真上へと移動していた。

 周囲を気にする余裕も無く……、
 無我夢中で闘い続ける内に、ここまで来てしまっていたのだ。

「ふははははっ、どうしたっ!?
先程から、逃げてばかりではないかっ!?」

 雨霰と、ドーバンの攻撃魔術が降り注ぐ。

 そのうちの一発の魔弾……、
 俺が避けたモノが、眼下の街へと落ちる。

「――しまった!?」

 街の中央に建つ城……、
 その一部が、魔弾によって破壊された。

 思わず、その光景を目で追ってしまい、一瞬、俺の動きが止まる。

 あまりに迂闊な……、
 その隙を、敵は見逃してはくれなかった。

「ぐっ、ああ……っ!!」

「――マコトッ!?」

 同時に三発の魔弾が、俺に浴びせられる。

 咄嗟に、リフレクの魔法薬を使い、
何とか直撃は免れたが、その衝撃を殺しきれず……、

 ……俺は、ミレイユの上から、放り出されてしまった。

 落下する俺を捕まえようと、
ミレイユが、翼をたたみ、急降下してくる。

 だが、それも間に合わず……、
 俺は、そのまま、地表へと叩きつけられた。

「うっ……ぐぅ……」

 建物の屋根を突き破り……、

 そのガレキに埋もれたまま、
俺は、襲い掛かる激痛に、顔を顰める。

 全身を強打した為、体中が痺れ、全く動かす事が出来ない。

 だが、あの高さから落ちて、
この程度で済んだのは、幸運と言うべきだろう。

 おそらくは、防具の力と……、
 落ちた所にあった家屋が、クッションになって……、

「……って、スマイル魔法店だし」

 ガレキに混ざり、数多くの魔法薬が、散乱している。

 その瓶のラベルに描かれた、
スマイル印を見て、俺は、思わず苦笑してしまった。

 どうやら、俺が突っ込んでしまったのは、スマイル魔法店だったらしい。

 許せ、レネット……、
 後で、ちゃんと修理するから……、

 見事にブチ抜かれた屋根を見上げ、
俺は、心の中で、今頃、溶岩竜と闘っているレネットに詫びる。

「……また、負けられない理由が出来たな」

 と、言ってる内に、体の痺れが取れてきた。

 俺は、ガレキを押し退け、
フラつく体を、剣で支えながら、立ち上がる。

 痛みはあるが、大きな怪我は無い。
 これなら、すぐに、戦線に復帰出来るだろう。

「でも、どうすれば……?」

 闇の衣の存在――

 立ち塞がる大きな難題が、
体の痛み以上に、俺の戦意を萎えさせる。

 敵の防御を破る術も無く……、
 このまま、無闇に闘い続けて、どうする?

 しかし、悠長に迷っている暇は無い。

 こうして、手を拱いている、
今も、パルフェは、一人で闘い続けているのだ。

 だから、一刻も早く、彼女に加勢しなくてはいけないのに……、

「畜生、動けよ……っ!」

 勝ち目の見えない闘い……、
 その恐怖に竦み、震える足を叱咤する。

 しかし、どんなに心を奮い立たせようとしても……、

 それ以上の絶望が……、
 俺の心と体を、容赦なく蝕んでいく。

「こんな時……あんたなら、どうするんだ?」

 藁にも縋る想いで、剣に語り掛ける。

 地の精霊剣――
 『高杉 浩治』に託された剣――

 この剣を手に取った時……、
 剣に宿った想いが、俺に、全てを教えてくれた。

 高杉 浩治とは、誰なのか――
 かつて、この地で、何が起こったのか――

 そして、彼は――

 少女達を残して――
 何処に消えてしまったのか――

「カッコ悪いな、俺……」

 己の命を賭けて、街を守った彼……、

 そんな彼と比べて……、
 今の自分は、なんて、情けないのだろう。

 この剣を託されたのに……、
 彼の想い、そのものを託されたのに……、

「俺は、何の為に……ここにいるんだ?」

 ――守る為だと思っていた。
 ――運命に抗う為だと思っていた。

 ――自分には、それが出来ると思っていた。

 でも、結果はどうだ?
 この世界に来て、俺は何をした?

 何も出来ていない……、
 ただ、運命に翻弄されていただけ……、

 ああ、そういえば……、
 女装だけは、上手くなったかもな。

 ……無様な俺には、お似合いの結末だ。

「いや……まてよ?」

 ふと、ある事を思い付き……、
 俺は、散乱したガレキの中を漁り出す。

 そして、この惨状の中……、

 たった一つだけ……、
 無事だった『それ』を発見し……、

「はっ、はは……」

 あまりに、突飛な思い付き……、
 その馬鹿馬鹿しさに、俺は、思わず笑ってしまった。

「ダメで元々……やってみるか?」

 『それ』を懐にしまい、俺は、空を見上げる。

 上空には、ドーバンの猛攻から、
必死に逃げ回っている、パルフェの姿と……、

「――来いっ、ミレイユ!!」

 降下してくるミレイユを呼び……、

 彼女の背に飛び乗ると……、
 勇気を振り絞り、俺は、戦場へと舞い戻った。

     ・
     ・
     ・










「懲りずに戻ったか……、
大人しく寝ていれば良いものを……」

「……生憎と、目覚めは良い方でね」

「良いだろう……もう少し、遊んでやる」



 ――再び、ドーバンと対峙する。

 余裕を見せているつもりか……、
 ドーバンは、展開させていた、全ての魔弾を消した。

 そして、杖を片手に構え、音も無く、俺達へと迫る。

「下がってろ、パルフェ!」

 俺が倒れている間……、
 たった一人で、奮闘していたパルフェ……、

 彼女の体力も、魔力も、もう限界だ。

 俺は、パルフェを後ろに下がらせ、
魔法剣を発動させると、一人で、ドーバンを迎え撃つ。

高速化アクセラレーション――残像グラデーション――」

 目前まで迫るドーバン……、
 それに構わず、俺は、呪文を詠唱する。

 そして……、

「――ぬっ?!」

 ドーバンの杖が……、
 俺の体を、真っ二つに薙ぎ払った。

 あまりの呆気無さに……、

 いや、斬り裂いた俺の姿が、
掻き消えた事に、ドーバンは眉を顰める。

 それが残像だ、と気付き……、
 俺の本体を探す為、ドーバンが、周囲を見回せば……、

「こ、これは……っ!?」

 無数の俺の残像が……、
 ドーバンを包囲するように、出現していた。

 超加速の多段変速と残像効果の併用――

 所詮は、子供騙しの戦法だが、
敵に接近するには、今の俺には、これしか無い。

「――ええい、小賢しいっ!!」

 ドーバンが杖を振るい、十数発の魔弾が放たれた。

 魔弾が、俺の残像に命中し、
それを消し去るが、俺本人には当たらない。

「おおおおっ!!」

 ミレイユの背を蹴り、俺は、宙に身を躍らせ……、

 ドーバンの攻撃の間隙を突き、
残像の影に紛れながら、ドーバンへと迫る。

 そして――
 懐に入った瞬間――





 ――爆発が起こった。





「な……に……っ?」

 いや、爆発などではなく……、
 それは、小規模の花火と言うべきだろう。

 大量に発生した爆煙の中に、俺とドーバンの姿が消える。

 そして、煙が晴れ……、
 俺達の姿が、徐々に見え始め……、

「馬鹿な……ワタシの闇の衣が……?」

 煙が完全に消えた時……、

 俺の魔法剣は……、
 敵の肩に、深々と突き刺さっていた。

「貴様、何をした……?!」

「……女装爆弾ってのを使ったんだよ」

 ドーバンの肩に、突き刺した剣を、
さらに抉り込みつつ、俺は、不敵に笑ってみせる。

 ――そう。
 あの女装爆弾である。

 ドーバンに肉薄した時、俺は、
至近距離で、女装爆弾を炸裂させたのだ。

 ……それは、まさに賭けだった。

 スマイル魔法店に落下し、
それを見つけた時、俺は、一つの案を思い付いた。

 それは、あまりにも馬鹿げたアイデア……、

 女装爆弾の効果は……、
 対象者を、強引に女装させること……、

 つまり、相手の衣服を、
強制的に剥ぎ取り、武装解除をする、という事だ。

 ならば、ドーバンの闇の衣も――

 もしかしたら――
 解除出来るのではないか――

「そんなフザケた方法で……っ!!」

 憎々しげに、ドーバンが呻く。

 無理もないだろう……、
 俺だって、この結果が、信じられないくらいなのだ。

 “女装させる”という効果は発揮されなかったが……、

 闇の衣に付与されていた、
強力な防御効果は、完全に消去されている。

 もちろん、俺も、爆発の中にいたので、
施されていた数々の魔術付与は、全て消えてしまった。

 正直、かなり惜しくはあるが……、

 まあ、それで、闇の衣を、
打破出来たのだから、妥当な代償である。

「――勝負は、これからだっ!」

 とにかく……、
 これで、闇の衣は消え失せた。

 今なら、俺達の攻撃は、ドーバンに届くはずだ。

 先程は、無効化されたが――
 もう一度、セントプリフィアを使う事が出来れば――

 ――まだ、俺達に勝機はある。

「人間をナメるなよ、ドーバン!!」

 絶望的な闘いの中……、
 まさに、崖っぷちに見えた光明……、

 それを掴み取る為、俺は、
腰のルーンナイフを抜き、ドーバンの首を狙う。

 だが――

「勝負は、これから……だと?」

 怒りに声を震わせながら、
ドーバンは、ナイフを持つ、俺の左腕を掴む。

 そして――
 俺に鋭い眼光を向けると――



「……もう、終わりだ」

「しまっ……た……?!」



 ――魔眼が発動。

 先のモノを、遥かに上回る、
強烈な魔力に、俺の全身が硬直してしまった。

 あの時は、防具に付与された力で、すぐに解放されたが……、

 その付与効果は、既に消え……、
 今の俺には、この呪縛を破る術が無い。

「マ、マズイ……」

 敵を前にして、完全な無防備状態――

 絶体絶命の危機に、俺は、
呪縛から逃れようと、必死に体を動かそうと試みる。

 しかし、どんなに頑張っも、体は、ピクリとも反応しない。

 そんな俺の体に……、
 闇の魔術師は、ゆっくりと手を添える。

 次の瞬間――

 ドーバンの手に――
 黒く禍々しい魔力が集まり――





「マコトォォォーーーーッ!!」

「いやぁぁぁぁーーーーーっ!!」





 闇の波動が――

 容赦無く、俺の体を貫いていた。





<その9へ>
<戻る>


なかがき

 ――今回は、戦闘だけで終わっちゃいました。(汗)

 さて、前回の戦闘シーンの一部では、
某ナウ○カの“あのシーン”を意識して書いたわけですが……、

 今回は、昔、某有名週刊誌に、
連載されていた、『タイ○ウォーカー零』が元ネタです。(笑)