――『高杉 浩治』という少年がいた。
地の精霊剣を携え――
何故か、瀕死の重傷を負い――
クラベル滝の近くで、気を失っていた剣士――
そんな彼を発見したのは……、
黒猫魔法店の店主、パルフェであった。
浩治は記憶を失っており、
それが回復するまで、黒猫魔法店に居候する事となる。
二人で、店の仕事をしながら……、
穏やかな日々を送る、パルフェと浩治……、
そんな日々の中、様々な出会いもあった。
花を愛する少女フローレ――
スマイル魔法店の看板娘ココット――
浩治を故郷の仇と狙う火の精霊剣を持つライナ――
そして、風の国の王女ルティル――
バルフェとルティルは……、
次第に、浩治の優しさに惹かれ、想いを募らせていく。
彼女達の想いの力か……、
徐々に、記憶を取り戻し始める浩治……、
――それは、異世界の記憶。
この世界とは全く違う――
本来、自分がいるべき世界の記憶――
彼の記憶が甦ると共に……、
フロルエルモスに、大きな危機が訪れる。
闇に魅入られし者の手により、
水の魔石が暴走し、邪竜神ミマナが降臨してしまったのだ。
地の精霊剣を手に、ミマナに闘いを挑む浩治……、
そして、全ての精霊石の力を……、
少女達の想いを集結させ、ミマナを倒し……、
それ以後――
少年の姿を見た者はいない。
Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜
『廃都フロルエルモス 〜ハートフルメモリーズ〜』
その8 闇の魔術師
――そして、闘いが始まった。
「多少、予定が狂ったが……、
虫ケラ共よ、望み通り、少しだけ遊んでやろう」
「ああ、すぐに終わらせてやるよっ!」
暗雲に包まれる中――
イストール山を舞台とした――
フロルエルモスの未来を掛けた空中戦――
相手は、ドーバンと溶岩竜……、
俺は、白竜であるミレイユを……、
パルフェとレネッは、空飛ぶホウキを駆り、戦闘態勢に入る。
「いくわよっ、氷河のつぶてっ!!」
隙を窺うように、敵の周囲を旋回し……、
まず、最初に口火を切ったのは、レネットだった。
氷属性の攻撃魔術を、
いきなり、溶岩竜の横っ面にブチ込む。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!!」
大きな氷槍に、片目を潰され……、
溶岩竜は、体を形成する灼熱の泥を撒き散らしながら、苦しげな咆哮を上げた。
たった一発の魔術で、このデカブツに傷を負わせるなんて……、
さすがは、レネット……、
天才を自称するだけの事はある。
「この大物は私に任せなさいっ!
パルフェ達は、あの陰気な奴の相手をしてやって!」
「で、でも……」
「あなたには切り札があるでしょう!?
ドーバンを倒すには、それしか方法は無いわっ!!」
「――わかった、任せるっ!」
溶岩竜を、レネットだけに任せて良いものか……、
逡巡するパルフェに、
氷の魔法を連射しながら、レネットが叫ぶ。
レネットが言う“切り札”……、
それが、何なのかは知らないが……、
奴に対して、有効な手段があるのなら、使わない手は無い。
俺は、レネット言葉に頷くと、
半ば強引にパルフェを促し、ドーバンへと迫った。
「フンッ……まずは小手調べだ」
向かって来る俺達に、ドーバンが手をかざす。
すると、地表から、無数の岩が、
浮かび上がり、俺達に向かって、一斉に飛来した。
石つぶての広範囲高速連射――
その攻撃を回避する為、
パルフェは、ホウキの軌道を大きく迂回させる。
「行けっ、ミレイユッ!!」
「――おっけ〜っ!!」
だが、俺は、構うこと無く……、
石つぶての弾幕の中へと突っ込んだ。
「無茶だよ、マコト……っ!!」
無謀とも言える俺の行為に、パルフェが悲鳴を上げる。
だが、俺の考えを察したのか……、
すぐに、それを噛み殺すと、パルフェは、懐から魔法薬を取り出した。
そして、それを自分の周りに、
サラサラと、振り撒きながら、呪文詠唱を始める。
「うおおおおおーーーーーっ!!」
リフレクの魔法薬で、障壁を展開……、
さらに、ミレイユに、錐揉み飛行をさせ、一直線に突き進む。
「むっ……!?」
意表を突かれたのだろう……、
ドーバンは、弾幕を厚くし、俺の接近を阻む。
……だが、もう襲い。
障壁によって、全ての攻撃を弾き、
俺は、最短距離で、一気に、ドーバンへと肉薄した。
「――アイスブレイド!!」
氷の魔法剣を振るい、敵の胴を薙ぐ。
だが、初撃の時と同様に……、
俺の攻撃は、何らかの力で、アッサリと防がれてしまった。
「何をしても無駄だ……、
ワタシの『闇の衣』は、あらゆる攻撃を無効化する」
剣を鷲掴みにし、俺を嘲笑うドーバン。
だが、そんな事は先刻承知――
いくら地の精霊剣があるとはいえ……、
それでも、俺とドーバンの力の差は歴然である。
おそらく、俺の攻撃は無意味……、
そして、闘いが長引けば、
一方的に消耗する分、俺達が不利になる。
ならば、奴に勝つ方法は――
最大威力の攻撃による短期決戦のみ――
そして――
決着の鍵を握るのは――
「邪なる力よ、聖なる光の前に退け――」
「なに……っ!?」
――パルフェの呪文詠唱が完了する。
俺の攻撃に気を取られていた、
ドーバンは、ようやく、それに気付くが、もう間に合わない。
「女神よ、我に破邪の力を……っ!」
パルフェが、ステッキを振り上げる。
その先端に宿るは――
まさに、太陽のように眩き光――
「――セントプリフィアァァァァーーーーッ!!」
悪を討つ破邪の光――
光の精霊石を触媒に――
邪悪を封じる究極の光属性魔術――
――それが、パルフェの切り札であった。
パルフェのステッキから放たれた光が、
ドーバンの周囲を飛び回り、球状の魔方陣を描き出す。
「クッ……これは……!?」
光で描かれた魔方陣の牢獄――
その中から逃れようと、ドーバンは、
両手から魔力を放出するが、光の魔方陣はビクともしない。
「凄い……これなら……」
パルフェが持っていた切り札――
破邪の魔術の力に、
俺は、状況も忘れて、呆然としてしまう。
――まさか、勝てるのか?
魔王の配下に……、
あの闇の魔術師に、勝てるのか?
「ぐおおおぉぉぉーーーーっ!!」
徐々に、徐々に……、
魔方陣が縮み、ドーバンを圧倒していく。
成す術もなく、魔方陣に押し潰されるドーバン……、
このまま、魔方陣は収縮を続け……、
もはや、ドーバンが、封印されるのも、時間の問題であろう。
「勝った……のか?」
最後まで油断は出来ないが……、
拳大にまで収縮した魔方陣……、
それを前に、俺は、勝利が目前にある事を理解する。
だが、何故だ……、
何かが、頭の片隅に引っ掛かる。
違和感、とでも言えば良いのか……、
――どうも、腑に落ちない。
――何故か、納得することができない。
あまりにもお粗末過ぎやしないか?
いくら、究極の光魔術とはいえ……、
魔王の側近ともあろう者が、これで終わりなんて……、
と、そんな疑問も晴れぬまま……、
ついに、魔方陣は……、
ドーバン諸共、完全に消滅した。
「やった……やったよ、マコト!!」
「ああ、そうだな……」
闇の魔術師の最期――
あまりに呆気なさ過ぎる……、
その瞬間を見届け、ミレイユは素直に喜ぶ。
だが、はしゃぐミレイユに、
俺は、歯切れの悪い返事しか出来ない。
未だ、信じられないのだ……、
ドーバンが、ああも、アッサリと倒れた事が……、
「これで、未来は変わるよね?
もう、フロルエルモスは、滅んだりしないんだよね?」
嬉しそうに飛び回るミレイユ……、
そんな彼女の言葉を聞き、
俺の脳裏に、再び、先程の違和感が湧き上がる。
――これで、未来が変わる?
確かに、未来は変わるだろう。
本来、街を滅ぼすべき存在であったモノは倒されたのだ。
この世界の少女――
パルフェ=シュクレールの手によって――
「しまった!! 逃げろ、パルフェ!!」
「――えっ?」
そこまで考えた瞬間――
俺は、違和感の正体……、
自分の、とんでもない思い違いに気が付いた。
パルフェでは、ダメなのだ……、
彼女では、未来は変えられない。
この世界の者である彼女では、未来は変えられない。
何故なら、パルフェでは、ドーバンに勝てない、という事実がある。
もし、パルフェが勝てるなら……、
最初から、フロルエルモスが滅ぶわけが無いのだ。
本来の歴史で、パルフェが、
ドーバンに、セントプリフィアを使わなかったとは思えない。
間違いなく、彼女は、それを使ったはずだ。
にも関わらず……、
何故、街は滅んだのか……、
答えは簡単――
セントプリフィアは――
あの闇の衣には――
ドーバンには、全く通用しない――
「いや、見事、見事……、
さすがのワタシも、今のは、少し驚いた」
一体、どんな手品を使ったのか……、
魔方陣に捕われていた筈の、
ドーバン姿が、唐突に、パルフェの背後に浮かび上がる。
「だが、切り札というモノは、最後まで、残しておくべきではないか?」
「そ、そんな……どうやって……?」
「なに、簡単な事だ……、
幻影のみを残し、転移したまでのこと……」
振り返る事も出来ないまま、声を震わせるパルフェ……、
「これは、謝礼だ……受け取れ」
そんな彼女に対し、余裕の笑みを浮かべ……、
ドーバンは、ローブの中から、
細い手を伸ばし、パルフェの背に当てると……、
回避しようもない――
零距離からの攻撃魔術を――
「やらせるかよっ!!」
「きゃあ……っ!?」
――咄嗟に、攻撃魔術を放つ。
かなり荒っぽい方法だが、
俺は、爆発の襲撃で、パルフェを弾き飛ばした。
ドーバンの攻撃は空を切り、大地へと突き刺さる。
「すまん、パルフェ……大丈夫か?」
「全然、へっちゃらだよ……、
爆発する寸前にに、リフレクを使ったから……」
ホウキを操り、姿勢制御するパルフェの傍へと飛び……、
攻撃回避の為とは言え……、
俺は、魔術で吹き飛ばしてしまった事を、謝罪する。
だが、パルフェは、至近距離で、
爆発したにも関わらず、傷一つ無く、微笑んで見せた。
「ほとんど、条件反射だな……」
呆れた口調で、サケマスが安堵の溜息を吐く。
ああ、なるほど……、
魔法薬の調合が失敗した時と同じ、って事か……、
「まさか、日頃の失敗が、こんなカタチで役に立つとは……」
「ああ、まったくだ……、
それに、意外だったのは、俺達だけじゃないみたいだぞ」
サケマスと苦笑し合い、俺は、ドーバンへと視線を戻す。
「なかなか、思い切りが良いな……」
予想外の手段で回避され……、
感心したように、ドーバンが俺達を見ていた。
「面白い、面白いぞ……、
虫ケラの割には、それなりに楽しめそうだ」
心底楽しそうに……、
ドーバンは、人を見下した笑みを浮かべる。
そして、杖の先端を、俺達へと向けると……、
「さあ、第二幕だ……、
これを、どうやって凌いでみせる?」
途端、ドーバンの周囲に、幾つもの魔力球が、一斉に出現した。
「うそ……こんなの……、
多属性魔術の、同時展開なんて……」
「なんて、出鱈目な……」
その光景を見て、俺達は言葉を失う。
――そう。
まさに、出鱈目だった。
火、氷、雷、水、地、風……、
各々の魔力球が、別の属性を持っており、
それら全てに、高位魔術級の魔力が込められているのだ。
「……行け」
無数の魔弾に、ドーバンが、言葉短く命じる。
それと同時に、全ての魔弾が、
縦横無尽に飛び交い、俺とパルフェに襲い掛かってきた。
「きゃあああーーーっ!!」
「うわあああぁぁぁぁーーーーっ!!」
・
・
・
そこから先は――
敵の多彩な攻撃の前に……、
俺とパルフェは、防戦一方であった。
「このままじゃ、ジリ貧だ……」
反撃する隙を窺いつつ……、
俺達は、必死に、ドーバンの攻撃を回避し続ける。
だが、敵の波状攻撃は、途切れる事無く……、
徐々に、体力と魔力を奪われ、
まるで好転しない現状に、俺は舌打ちをする。
「リ、リフレ……きゃあっ!?」
もう何度目だろうか……、
ドーバンの攻撃をかわし損ねた、
パルフェが、悲鳴混じりに、防御魔術を展開する。
その光景が、さらに、俺を焦らせていた。
実戦経験の乏しいパルフェ……、
そんな彼女が、今まで健闘できたのは、防御魔術の巧みさにあった。
しかし、それも、いつまで続くか分からない。
次の瞬間、防御に失敗し、
ドーバンの攻撃が直撃するかもしれないのだ。
どうする、どうする、どうする――
――反撃する隙が見つからない。
――例え、攻撃しても、闇の衣に防がれる。
考えろ、考えろ、考えろ――
――どうすれば良い?
――どうすれば、闇の衣を打破できる?
気持ちばかりが焦り……、
同じ言葉ばかりが、頭の中を、グルグルと駆け巡る。
しかし、どんなに考えても、
現状を打開する策は思い浮かばず……、
「いつの間にか、こんな所まで……っ?」
気が付けば、戦闘空域は、
フロルエルモスの真上へと移動していた。
周囲を気にする余裕も無く……、
無我夢中で闘い続ける内に、ここまで来てしまっていたのだ。
「ふははははっ、どうしたっ!?
先程から、逃げてばかりではないかっ!?」
雨霰と、ドーバンの攻撃魔術が降り注ぐ。
そのうちの一発の魔弾……、
俺が避けたモノが、眼下の街へと落ちる。
「――しまった!?」
街の中央に建つ城……、
その一部が、魔弾によって破壊された。
思わず、その光景を目で追ってしまい、一瞬、俺の動きが止まる。
あまりに迂闊な……、
その隙を、敵は見逃してはくれなかった。
「ぐっ、ああ……っ!!」
「――マコトッ!?」
同時に三発の魔弾が、俺に浴びせられる。
咄嗟に、リフレクの魔法薬を使い、
何とか直撃は免れたが、その衝撃を殺しきれず……、
……俺は、ミレイユの上から、放り出されてしまった。
落下する俺を捕まえようと、
ミレイユが、翼をたたみ、急降下してくる。
だが、それも間に合わず……、
俺は、そのまま、地表へと叩きつけられた。
「うっ……ぐぅ……」
建物の屋根を突き破り……、
そのガレキに埋もれたまま、
俺は、襲い掛かる激痛に、顔を顰める。
全身を強打した為、体中が痺れ、全く動かす事が出来ない。
だが、あの高さから落ちて、
この程度で済んだのは、幸運と言うべきだろう。
おそらくは、防具の力と……、
落ちた所にあった家屋が、クッションになって……、
「……って、スマイル魔法店だし」
ガレキに混ざり、数多くの魔法薬が、散乱している。
その瓶のラベルに描かれた、
スマイル印を見て、俺は、思わず苦笑してしまった。
どうやら、俺が突っ込んでしまったのは、スマイル魔法店だったらしい。
許せ、レネット……、
後で、ちゃんと修理するから……、
見事にブチ抜かれた屋根を見上げ、
俺は、心の中で、今頃、溶岩竜と闘っているレネットに詫びる。
「……また、負けられない理由が出来たな」
と、言ってる内に、体の痺れが取れてきた。
俺は、ガレキを押し退け、
フラつく体を、剣で支えながら、立ち上がる。
痛みはあるが、大きな怪我は無い。
これなら、すぐに、戦線に復帰出来るだろう。
「でも、どうすれば……?」
闇の衣の存在――
立ち塞がる大きな難題が、
体の痛み以上に、俺の戦意を萎えさせる。
敵の防御を破る術も無く……、
このまま、無闇に闘い続けて、どうする?
しかし、悠長に迷っている暇は無い。
こうして、手を拱いている、
今も、パルフェは、一人で闘い続けているのだ。
だから、一刻も早く、彼女に加勢しなくてはいけないのに……、
「畜生、動けよ……っ!」
勝ち目の見えない闘い……、
その恐怖に竦み、震える足を叱咤する。
しかし、どんなに心を奮い立たせようとしても……、
それ以上の絶望が……、
俺の心と体を、容赦なく蝕んでいく。
「こんな時……あんたなら、どうするんだ?」
藁にも縋る想いで、剣に語り掛ける。
地の精霊剣――
『高杉 浩治』に託された剣――
この剣を手に取った時……、
剣に宿った想いが、俺に、全てを教えてくれた。
高杉 浩治とは、誰なのか――
かつて、この地で、何が起こったのか――
そして、彼は――
少女達を残して――
何処に消えてしまったのか――
「カッコ悪いな、俺……」
己の命を賭けて、街を守った彼……、
そんな彼と比べて……、
今の自分は、なんて、情けないのだろう。
この剣を託されたのに……、
彼の想い、そのものを託されたのに……、
「俺は、何の為に……ここにいるんだ?」
――守る為だと思っていた。
――運命に抗う為だと思っていた。
――自分には、それが出来ると思っていた。
でも、結果はどうだ?
この世界に来て、俺は何をした?
何も出来ていない……、
ただ、運命に翻弄されていただけ……、
ああ、そういえば……、
女装だけは、上手くなったかもな。
……無様な俺には、お似合いの結末だ。
「いや……まてよ?」
ふと、ある事を思い付き……、
俺は、散乱したガレキの中を漁り出す。
そして、この惨状の中……、
たった一つだけ……、
無事だった『それ』を発見し……、
「はっ、はは……」
あまりに、突飛な思い付き……、
その馬鹿馬鹿しさに、俺は、思わず笑ってしまった。
「ダメで元々……やってみるか?」
『それ』を懐にしまい、俺は、空を見上げる。
上空には、ドーバンの猛攻から、
必死に逃げ回っている、パルフェの姿と……、
「――来いっ、ミレイユ!!」
降下してくるミレイユを呼び……、
彼女の背に飛び乗ると……、
勇気を振り絞り、俺は、戦場へと舞い戻った。
・
・
・
「懲りずに戻ったか……、
大人しく寝ていれば良いものを……」
「……生憎と、目覚めは良い方でね」
「良いだろう……もう少し、遊んでやる」
――再び、ドーバンと対峙する。
余裕を見せているつもりか……、
ドーバンは、展開させていた、全ての魔弾を消した。
そして、杖を片手に構え、音も無く、俺達へと迫る。
「下がってろ、パルフェ!」
俺が倒れている間……、
たった一人で、奮闘していたパルフェ……、
彼女の体力も、魔力も、もう限界だ。
俺は、パルフェを後ろに下がらせ、
魔法剣を発動させると、一人で、ドーバンを迎え撃つ。
「高速化(――残像(――」
目前まで迫るドーバン……、
それに構わず、俺は、呪文を詠唱する。
そして……、
「――ぬっ?!」
ドーバンの杖が……、
俺の体を、真っ二つに薙ぎ払った。
あまりの呆気無さに……、
いや、斬り裂いた俺の姿が、
掻き消えた事に、ドーバンは眉を顰める。
それが残像だ、と気付き……、
俺の本体を探す為、ドーバンが、周囲を見回せば……、
「こ、これは……っ!?」
無数の俺の残像が……、
ドーバンを包囲するように、出現していた。
超加速の多段変速と残像効果の併用――
所詮は、子供騙しの戦法だが、
敵に接近するには、今の俺には、これしか無い。
「――ええい、小賢しいっ!!」
ドーバンが杖を振るい、十数発の魔弾が放たれた。
魔弾が、俺の残像に命中し、
それを消し去るが、俺本人には当たらない。
「おおおおっ!!」
ミレイユの背を蹴り、俺は、宙に身を躍らせ……、
ドーバンの攻撃の間隙を突き、
残像の影に紛れながら、ドーバンへと迫る。
そして――
懐に入った瞬間――
――爆発が起こった。
「な……に……っ?」
いや、爆発などではなく……、
それは、小規模の花火と言うべきだろう。
大量に発生した爆煙の中に、俺とドーバンの姿が消える。
そして、煙が晴れ……、
俺達の姿が、徐々に見え始め……、
「馬鹿な……ワタシの闇の衣が……?」
煙が完全に消えた時……、
俺の魔法剣は……、
敵の肩に、深々と突き刺さっていた。
「貴様、何をした……?!」
「……女装爆弾ってのを使ったんだよ」
ドーバンの肩に、突き刺した剣を、
さらに抉り込みつつ、俺は、不敵に笑ってみせる。
――そう。
あの女装爆弾である。
ドーバンに肉薄した時、俺は、
至近距離で、女装爆弾を炸裂させたのだ。
……それは、まさに賭けだった。
スマイル魔法店に落下し、
それを見つけた時、俺は、一つの案を思い付いた。
それは、あまりにも馬鹿げたアイデア……、
女装爆弾の効果は……、
対象者を、強引に女装させること……、
つまり、相手の衣服を、
強制的に剥ぎ取り、武装解除をする、という事だ。
ならば、ドーバンの闇の衣も――
もしかしたら――
解除出来るのではないか――
「そんなフザケた方法で……っ!!」
憎々しげに、ドーバンが呻く。
無理もないだろう……、
俺だって、この結果が、信じられないくらいなのだ。
“女装させる”という効果は発揮されなかったが……、
闇の衣に付与されていた、
強力な防御効果は、完全に消去されている。
もちろん、俺も、爆発の中にいたので、
施されていた数々の魔術付与は、全て消えてしまった。
正直、かなり惜しくはあるが……、
まあ、それで、闇の衣を、
打破出来たのだから、妥当な代償である。
「――勝負は、これからだっ!」
とにかく……、
これで、闇の衣は消え失せた。
今なら、俺達の攻撃は、ドーバンに届くはずだ。
先程は、無効化されたが――
もう一度、セントプリフィアを使う事が出来れば――
――まだ、俺達に勝機はある。
「人間をナメるなよ、ドーバン!!」
絶望的な闘いの中……、
まさに、崖っぷちに見えた光明……、
それを掴み取る為、俺は、
腰のルーンナイフを抜き、ドーバンの首を狙う。
だが――
「勝負は、これから……だと?」
怒りに声を震わせながら、
ドーバンは、ナイフを持つ、俺の左腕を掴む。
そして――
俺に鋭い眼光を向けると――
「……もう、終わりだ」
「しまっ……た……?!」
――魔眼が発動。
先のモノを、遥かに上回る、
強烈な魔力に、俺の全身が硬直してしまった。
あの時は、防具に付与された力で、すぐに解放されたが……、
その付与効果は、既に消え……、
今の俺には、この呪縛を破る術が無い。
「マ、マズイ……」
敵を前にして、完全な無防備状態――
絶体絶命の危機に、俺は、
呪縛から逃れようと、必死に体を動かそうと試みる。
しかし、どんなに頑張っも、体は、ピクリとも反応しない。
そんな俺の体に……、
闇の魔術師は、ゆっくりと手を添える。
次の瞬間――
ドーバンの手に――
黒く禍々しい魔力が集まり――
「マコトォォォーーーーッ!!」
「いやぁぁぁぁーーーーーっ!!」
闇の波動が――
容赦無く、俺の体を貫いていた。
<その9へ>
<戻る>
なかがき
――今回は、戦闘だけで終わっちゃいました。(汗)
さて、前回の戦闘シーンの一部では、
某ナウ○カの“あのシーン”を意識して書いたわけですが……、
今回は、昔、某有名週刊誌に、
連載されていた、『タイ○ウォーカー零』が元ネタです。(笑)