1 カレイドスコープ 2 黒猫魔法店 3 奇跡の石 4 魔法店の仕事 5 アイドルコンテスト
6 滅びの予兆 7 守るための剣 8 闇の魔術師 9 未来への道 10 花の都




 廃都『フロルエルモス』――

 古代魔法王国時代に栄えていた都市の一つ。

 カノン王国の南にある、内海の孤島にあり……、
 正史では、水と花に恵まれた、美しい街であった、と記されている。

 街の周囲は、豊かな森や、美しい湖に恵まれており……、

 それ故に、魔法薬の調合に使われる、
材料が豊富に採取され、薬の生産は、世界一を誇っていた。

 花と水と緑に包まれた桃源郷――

 だが、そんな美しい街も……、

 第一次ガディム大戦勃発時に、
たった一人の、邪悪な魔術師に滅ぼされ……、





 現在では、廃都となり……、

 人々からも、忘れ去られ……、
 その無残な姿を、残しているのみである。






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『廃都フロルエルモス 〜ハートフルメモリーズ〜

その1 カレイドスコープ







「ここが、廃都か……」

「……そうみたいだね」





 その光景を見て……、

 想像以上の無残さに、
俺達は、その場に立ち尽くし、言葉を失った。

「フロルエルモス……、
話には、聞いたことがあったけど……」

「まさか、ここまで……」

 ――まさに、廃都であった。

 かつて、栄華を誇った、この地で、
一体、どれ程の凄まじい惨劇があったのか……、

 崩れ落ちた建築物の数々――
 今もなお、各所に残る焼け焦げた跡――

 そして――

「何なの、これ……」

「死の匂いに……
ドス黒い悪意に、満ち満ちてる……」

 吐き気を催す程の、強い瘴気に……、

 俺と、旅の道連れ……、
 白竜の子供ミレイユは、思わず、顔を顰めた。

 古代魔法王国時代――
 水と花の街『フロルエルモス』を襲った悲劇ー―

 遥か昔の出来事であったにも関わらず……、

 過去の生々しい痕は、
現在に至っても、この地を蝕み続けているなんて……、

「……ボク、気持ち悪くなってきた」

「おいおい、大丈夫か?」

 瘴気に当てられたのか、ミレイユが苦しげに呻く。

 そんな彼女を腕に抱き、
何度も、背中を撫でてやりながら……、

 やっぱり、連れて来たのは失敗だったか?

 ……と、俺は、内心で呟く。

 まったく……、
 一体、何処で聞いて来たのか……、

 俺が、冒険に出ると知ったミレイユは、
またしても、白竜の里から抜け出し、ここまで、付いて来てしまったのだ。

 もちろん、最初は、置いていくつもりだった。

 だが、あまりのしつこさに根負けし……、
 結局、ミレイユも、一緒に来る羽目になってしまったのだ。

 小さくても白竜だし……、
 足手まといにはならないだろう、と思っていたのだが……、

 ……どうやら、その考えは、ちょっと甘かったらしい。

「なあ、どうする……、
つらいなら、船に戻ってても良いぞ?」

「ヤダッ! 一緒に行くのっ!」

「……やれやれ」

 見るからに、キツそうなミレイユ……、

 そんな彼女に、俺は、
この孤島まで漕ぎ付けて来た船での留守番を提案する。

 水の魔導石を仕込んだ小船……、

 周囲に、結界薬である、
お香も焚いてきたので、あそこなら、安全なはずだ。

 しかし、好奇心旺盛なミレイユが、それで納得するわけもなく……、

「もう慣れたもん! 平気、平気!」

「わかった、わかった……、
少しは楽になるから、これでも舐めてろ」

 精一杯に羽ばたき、強がって見せるミレイユの口に、
ミント味の喉飴を放り込み、俺は、仕方なく、彼女を同行させる事にした。

 そして、俺は、剣を抜き放ち……、

 周囲を警戒しながら、
ゆっくりと、廃都の中へと入っていく。

「それにしても……、
ホントに、こんな所に、ミノタウロスなんているのかな?」

「こんな所だからこそ、だろ?」

 しばらく、廃都の中を進み……、
 取り敢えず、この近辺に危険は無い、と思ったのだろう。

 そう言って、ミレイユは、一旦、緊張を解く。

 俺も、それに倣い、適当なガレキに、
腰を下ろすと、乾いた喉を潤わそうと、水筒に口をつけた。

 そして、軽く休憩を取りつつ……、

 俺は、佐祐理さんから請け負った、
今回の依頼の詳しい内容を、改めて、確認する事にする。

 依頼内容は、至ってシンプル……、

 とある場所に住み着いた、
厄介な魔物を、討伐して欲しい、とのこと……、

 その場所が、ここ……、
 内海の孤島の一つ、フロルエルモス……、

 そして、討伐する相手というのが、
先程、ミレイユが言った『ミノタウロス』である。

 『ミノタウロス』――

 大きな角を生やした牛の頭に、
頑強な肉体を持つ、獰猛な人型の魔物だ。

 動きは遅いものの、その筋力から生み出される力は驚異的で……、

 並の人間なら、その一撃で、
あっという間に、肉塊にされてしまうだろう。

 今から、俺とミレイユは、
そんな相手と闘わなければならないのだ。

 だが、ここで、一つ疑問が残る。

 大陸から離れた孤島……、
 しかも、廃都なんかに住み着いた魔物……、

 そんな魔物を、何故、わざわざ、
冒険者を雇ってまで、討伐しなければならないのか。

 依頼主である、カノン王国王女『倉田 佐祐理』さん曰く――

 この廃墟の周辺は、
森や湖など、豊かな自然に恵まれており……、

 そこから採取できる薬草などは、
魔法薬を調合する上で、とても重宝するらしい。

 特に、カノン王国は雪国であり、植物の採取は困難な環境だ。

 故に、この孤島は、
カノン王国にとって、貴重な資源なのである。

 それに、近々、新生フロルエルモスを復興しよう、という計画の噂も聞くし……、

 にも関わらず、危険な魔物が、
住み着いてしまっていては、その計画もままならない。

 というわけで、その危険を、排除する為に、俺がやって来た、というわけだ。

 正直なところ、俺なんかよりも、
精鋭として名高いエアー騎士団の方が、適任だと思うのだが……、

 まあ、祐一さん達も、
カノン山脈の国境警備などで忙しいのだろう。

 それに、ミノタウロスは、
“ある特殊な生態”故に、畏怖されている魔物だし……、

 特に、女性の冒険者にとっては……、

 尤も、今回は――

「――さて、そろそろ始めるか」

 その習性を利用して、
ミノタウロスを誘い出すつもりなのだが……、

「まず、身を隠せる場所を探さないとな」

 休憩を終えた俺は、
手頃な場所を探し、周囲を見回す。

 そして、割と原型を留めている建物を見つけ、そこを利用させて貰う事にした。

「……魔法店だったんだな」

 建物の入り口の真上――
 黒猫の顔を模した大きな看板――

 その看板が、大きく傾き、
ぶら下がっている光景を前に、少し胸が痛くなる。

 ――きっと、幸せに暮らしていたんだろうな。

 それなのに……、
 こんな無残な事になってしまうなんて……、

「悪いけど……ちょっとお邪魔するよ」

 今は、もういない店の持ち主に、
了解を得るように呟くと、俺は、崩れ掛けの店内に、足を踏み入れる。

 と、その瞬間――



 ――“いらっしゃいませ♪”



「えっ……!?」

 ――目の錯覚だったのかもしれない。

 だが、確かに……、
 俺は、この目で、ハッキリと見た。

 いや、幻視した、と言うべきか……、

 綺麗に掃除された店内――
 棚に陳列された数々の魔法薬――
 カウンターに陣取る赤いリボンを着けた黒猫――

 そして――

「女の……子……?」

 桃色の髪の少女が――
 ニッコリと、こちらに微笑みかけて――

「マコト……どうしたの?」

「い、いや……何でもない」

 ミレイユの声に、俺は我に返った。

 その途端、さっきまで見ていた、
幻視は消え、店内は、元の廃墟へと戻る。

 ――今のは、何だったのだろう?

 とても気のせいとは思えない、不思議な体験に、
首を傾げつつ、俺は、敵を誘い出す秘策の準備に取り掛かる。

 と言っても、服を着替えるだけなのだが……、

「女装爆弾があれば、楽だったのにね」

「あんな物を使うくらいなら、
普通に女装した方が、なんぼかマシだ」

 過去の嫌な記憶を思い出し、俺は、吐き捨てるように言う。

 そして、服を脱ぎ……、
 リュックの中から、引っ張り出したのは……、

 佐祐理さんに用意して貰った、華音学園の制服……、

 ――そう。
 これが、秘策の正体である。

 さっきも言ったが、ミノタウロスは、“ある特殊な生態”を持つ。

 それは、種族的に雄しかいない……、
 つまり、種を維持する為の雌性体を持たない、ということだ。

 では、奴等は、どうやって、子孫を残しているのか……、

 その答えは、簡単……、

 本当に、胸クソの悪い話だが、
人間の女性を襲い、犯し、子を孕ませ、無理矢理に産ませているのだ。

 これが、女性冒険者に、ミノタウロスが畏怖される理由……、

 当然であろう……、

 もし、ミノタウロスに負けてしまったら、
その女性は、死よりもつらい目に遭うのだから……、

 まあ、それはともかく――

 ようするに、俺は、女装することで、
ミノタウロスを発情させ、罠へと誘い出そう、と言うのだ。

 ちなみに、発案者は祐一さんで……、

 おそらく、この仕事に、
俺が選ばれた理由も、女装云々にあるのだろう。

「何となく、釈然としないけど……」

「――何が?」

「いや、別に……」

 嘆息しつつ、俺は、着替えを終える。

 ここまでする必要は無いと思うが、
念には念を入れて、胸の部分には詰め物もした。

 そして、脱いだ服を、リュックの中に、
詰め込み、装備を整えると、建物の外に出る。

「何処で、罠を仕掛けるの?」

「なるべく広くて……、
障害物の無い、見通しの良い場所がベストだな」

「じゃあ、あっちが良さそうだよ」

 と、ミレイユと話をしつつ、
俺は、やや急ぎ足で、廃都の中心部へと向かう。

 そして……、

「――ここが良いな」

 俺が足を止めたのは……、
 多分、噴水広場であったと思われる場所……、

 そこに陣取る事にした俺は、早速、罠を仕掛ける事にする。

 と言っても、俺達を囲むように、
氷属性の攻撃魔術の護符を、地面に貼るだけなのだが……、

「あと、ついでに……」

「本格的だね〜……、
マコトってば、お化粧までするの?」

「違うっての……」

 軽口を言うミレイユにツッコミつつ、
俺は、自分の体に、コロンを、適当に振り掛けた。

 『魅惑のコロン』――

 異性を“その気にさせる”効果を持つ香水で、
実は、魔法店でも、割と良く見掛ける商品だったりする。

 もちろん、その効力は微々たるもの……、

 あまり効果が強いと、
倫理的に危険なアイテムになるからな。

 ちなみに、これの類似品で、『魅惑のチョコレート』というのもあり……、

 毎年、バレンタインになると、
山の様に、食べさせられていたりするのだが……、

 閑話休題――

 とにかく、この香水を使えば、
ミノタウロスを誘い出す手段しては万全だ。

 あとは、この匂いにつられて、敵が現れるのを待つばかり――

「――早速、おいでなすったか?」

 と、言ってる傍から、
ノコノコと、敵が誘い出されて来たようだ。

 棍棒を持った奴が二体、斧を構えた奴が一体……、

 ――って、ちょっと待てっ!

 もしかして……、
 敵って、一体だけじゃなかったりか!?

「ヤバイかも……?」

「逃げようにも……、
すっかり、囲まれちまったしな……」

 ポタポタと涎を垂らし、荒い息を吐きながら、
三体のミノタウロスは、ゆっくりと、包囲を狭めてくる。

 想定外の展開に、戸惑う俺とミレイユ……、

 だが、ここまで事態が、
進んでしまった以上、もう後には引けない。

「――魔法剣、起動セットアップ風 属 性 付 与ウインドコード・インストール

 覚悟を決めた俺は、
呪文を詠唱し、魔法剣の準備をする。

 そして――
 迫る敵を威嚇しつつ――

 その瞬間を――



「――今だっ!!」



 一斉に、敵の足元から、吹雪が巻き上がった。

 先程、俺が張り巡らせた、
氷属性の攻撃護符が発動したのだ。

 護符の効果により、三体のミノタウロスの足が凍りつく。

 ダメージには至っていないが、
敵の足止めをするだけなら、これで充分だ。

 ――この隙に、一気にカタをつけるっ!

「おおおおっ!!」

 足が氷漬けになり、身動きが取れないミノタウロス……、

 その内の一体、棍棒を持つ、
敵の懐に飛び込み、俺は、力一杯、跳躍した。

「ウインドブレイドッ!!」

 そして、風の魔法剣を、
水平に振るい、敵の首を跳ね飛ばす。

 ――まずは、一体っ!

 最初の一体を仕留めた俺は、
足に魔力を込めると、頭無しとなった敵の胴体を蹴る。

 その反動を利用し、バク転の要領で二段跳躍……、

 跳んだ先は……、
 二体目のミノタウロス……、

「ブモォォォーーーーッ!!」

 氷の呪縛から、力任せに脱出したのだろう。

 自由になったミノタウロスは、
跳躍する俺を殴ろうと、棍棒を振り上げた。

 だが、そんな攻撃は予測済み――

「――起動セットアップっ!」

 俺は、攻撃魔術を放ち、敵が持つ棍棒を粉砕する。

 そして、バク転姿勢のまま、
弧を描くように、敵の背後に降り立ち……、

「もう一度……ウインドブレイドッ!!」

 その勢いにのせて、
剣を振り降ろし、敵を両断した。

「これで、二体目……っ!」

 魔法剣の連続発動で、乱れた呼吸……、
 それを整えつつ、俺は、先程の自分の動きを思い出す。

 ……自分でも、驚くほどに、体が軽い。

 これも、今までの旅で得た経験の賜物か……、

 特に、タイプムーンで、魔力による、
瞬間的な身体能力の強化を覚えてからは、戦術に幅が出来たようだ。

 間違いない……、
 俺は、確実に、強くなっている。

 これなら……いけるっ!

「――マコト、右っ!」

「えっ……?」

 それは、一瞬の油断だった。

 確かに、二体の敵を屠る事には成功した。

 だが、その分、残りの一体に、
攻撃の猶予を与えてしまったのも事実であり……、

 いつの間にか、俺は、最後の一体の、
存在を失念し、死角に入るのを許してしまっていたのだ。

「ブモォォォーーーーッ!!」

 最後のミノタロウスが、その豪腕で、斧を振り降ろす。

「くう……っ!?」

 自分の失態に舌打ちしつつ、
俺は、ミレイユの声に、本能的に反応し、右に剣を振るった。

 耳元で、鉄と鉄がぶつかり、削れ合う嫌な音が響く。

 ――このままだと、剣が折れる!?

 そう判断した俺は、
咄嗟に、剣を斜め下に傾けた。

 すると、敵の斧は、俺の剣の上を滑り落ち、轟音と共に、地面に突き刺さる。

 だが、その威力は凄まじく、斧の切っ先が、
俺の胸元を掠り、バッサリと服が裂け、詰め物が落ちてしまった。

 それに構わず、俺は、
突き立った敵の斧に足を掛け……、

「もらったぁぁぁーーーっ!!」

 相手の腕を駆け上るように、再び跳躍し、敵の喉元を狙う。

 しかし、狙いが甘かったのか、
その攻撃は、浅く傷付けるだけに終わってしまった。

「――ちっ」

 ミノタウロスの巨体を飛び越え、
俺は、すぐさま剣を構え、敵と向き直る。

 そして――



「うげ……」(汗)

「う、わわわ……、
なんか、凄い事になってるよ〜」(汗)



 “それ”を見て……、
 俺とミレイユは、顔を引きつらせた。

 ミノタウロスの腰の部分を隠す布……、

 その真ん中の部分が、隆々と、
そそり立ち、盛り上がっているではないか。

 ようするに……、
 それが何を意味するのか、と言うと……、

「もしかして……、
俺を見て、興奮していらっしゃる?」

「で、でも、マコトが男だ、って事には気付いてるよね?」

「あ、ああ……、
胸の詰め物も、落ちちゃったしな……」

「…………」(汗)

「…………」(汗)

 敵を警戒しつつも、俺達は首を傾げる。

 そんな俺達を前に、ミノタウロスは、
やや前傾姿勢を取りながら、なおも鼻息を荒くしており……、

 その姿が……、
 “とある人物”を連想させ……、





『――僕達、ずっと友達だよね?』





「う、うわぁぁぁーーーーっ!!」

「ど、どうしたの!?
ちょっと、落ち着いてよ、マコト!?」

 言い様の無い恐怖に駆られ、
俺は、目の前に脅威に向かって、攻撃魔術を連発した。

 突然、冷静さを失い、半狂乱になった俺……、

 そんな俺を落ち着かせようと、
ミレイユが叫ぶが、その声も、今の俺には届かない。

「来るな、来るなぁぁぁーーーーっ!!」

 作戦も何も無く……、
 ただ、滅茶苦茶に、魔術を放ち続ける。

 それを全身に受けつつも、ミノタウロスは、ゆっくりと、こちらに迫ってくる。

 その醜悪な姿が、
さらに、俺の恐怖を膨れ上がらせた。

 間違いない……、
 あいつは“あの男”と同類だ……、

 もし、あいつに捕まってしまったら……、

 それはもう……、
 トンデモナイことに……、

「そんなの、嫌だぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 初めて“あの男”に遭遇し、
襲われそうになった時の恐怖を思い出し、俺は悲鳴を上げる。

 そんな俺の間近にまで、ミノタウロスは、迫ってきていた。

「ヒッ……」

 俺を見下ろす巨体……、
 おぞましい眼光に射竦められ、俺は後ずさる。

 そんな俺へと伸ばされる、ミノタウロスの腕……、

 だが、それを遮る様に……、
 俺とミノタウロスのと間に小さな影が飛び出した。

「しっかりしてよ、マコト!!」

「ミレイユ……ッ!?」

 その声に、俺は我に返る。

 見れば、ミレイユは、
俺を守ろうと、ミノタウロスの周りを飛び回っていた。

「ブモッ、ブモッ、ブモモォォォーーーッ!」

「へっへ〜んだ、こっちこっち〜♪」

 まるで、相手をからかう様に、
激しく飛び回り、ミレイユは、ミノタウロスの邪魔をする。

 それにイラついたのか……、
 ミノタウロスは、鬱陶しそうに斧を振るった。

「きゃ……っ!?」

 その無造作な一撃は……、
 偶然にも、彼女の翼に掠り、バランスを崩す。

 そして、トドメとばかりに、次の攻撃が……、



「うおおおぉぉぉぉぉーーーー!!」



 ……鮮血が散った。

 ミレイユは、無事だ……、
 返り血が、点々と体に付いているが、怪我は無い。

 だが、その代わり、彼女を庇った、
俺の左肩は、敵の斧によって、深く抉られていた。

 不思議と、痛みは無い……、

 左腕の感覚は無いが、
一応、ギリギリで、繋がっているようだ。

 どうやら、鎖骨が砕かれるだけで済んだらしい。

「なんとか……勝てた、か」

 大量の出血の所為だろう……、
 朦朧とする意識のまま、俺は、上を見上げる。

 そこには、血を噴出す巨体の姿――

 ミレイユを庇いながらも、
無意識に放った俺の突きは、敵の喉を刺し貫いていたのだ。

「……クッ」

 敵の喉から、剣を抜き、血を払う。
 そして、剣を鞘に納めつつ、ミレイユに向き直った。

「大丈夫……か?」

「ボクは平気だけど……、
早く、マコトの治療をしないと……っ!」

 真っ青な顔のミレイユ……、

 まあ、無理もないか……、
 俺の傷は深いし、出血も半端じゃない。

 早く応急処置だけでもしないと、手遅れになる。

 とはいえ……、
 まだ、ここで、ノンビリとしてはいられない。

 魔物は、まだ、他にもいるかもしれないのだ。

 血の匂いを嗅ぎ付け、
ここに、群がってくる可能性がある。

 だから、まずは、安全な場所まで移動しないと……、

 それに、この返り血も、
ちゃんと洗い流さないといけないし……、

 えっと、確か……、
 この島には、水場か幾つかあった筈……、

 ど、何処にあった……かな……、

「うっ、うう……」

「マコト、しっかりしてよっ!
死んだりなんかしたら、ダメなんだからっ!」

「ああ……分かってる」

「水の匂いがする……こっちだよ、マコト!」

「道案内、頼むよ……」

 安全な場所を求めて、俺は、フラフラと歩き出す。

 そんな俺を励ますように、
ミレイユが、何度も声を掛けてくれた。

 ……それが、凄くありがたい。

 気を抜くと、意識を失ってしまいそうだが、
ミレイユの声が、なんとか、俺を繋ぎとめてくれていた。

「頑張って、もうすぐだからねっ!」

「大丈夫だ……、
俺は、まだ、歩き続けられるから……」

 ――そう。
 立ち止まってなんかいられない。

 俺が目指す場所は、遥か遠くにあるのだ。

 だから――
 何処までだって――

 俺は、歩き続けて――

     ・
     ・
     ・










 朦朧とする意識の中――

 あれから、一体……、
 俺は、何処まで歩いたのだろうか……、

 気が付けば、俺の目の前には、
流れ落ちる滝と、清らかな水を湛えた泉が広がっていた。

 轟々と、流れ落ちる水の音――

 何故か、それは、傷付いた体に、
心地良く響き、俺の心を、あたたかく満たしていく。

 ――ああ、ここなら大丈夫だ。
 ――ここなら、安心して、肩の傷を治療できる。

「くっ、ああ……」

 そう思った所為だろう……、
 一気に、緊張感が解け、俺は、その場に倒れ付した。

 ……急速に、意識が暗転していく。

「マコトッ!? マコトッ!?」

 必死に叫ぶ、ミレイユの声……、
 だが、今の俺には、その声に応えるだけの力も無い。

 だから、俺は、彼女を安心させようと、微笑んで見せた。

 大丈夫だよ……、
 さっき、ヒールズの呪文薬を使ったから……、

 すぐに、傷は塞がるから……、

 ちょっと眠いだけ……、
 だから、少しだけ、眠らせて……、



「ふむ、面白い……この小僧に任せてみるか」



 それは、誰の声なのか……、

 いや、そもそも、
一体、何処から現れたのか……、

 霞み掛かった意識の中……、
 俺が見たのは、見知らぬ爺さんの姿……、

 その爺さんは、俺の傍へと、
歩み寄り、何事かを呟くと、懐へと手を入れる。

 そして……、
 そこから取り出したのは……、



 ――宝石の剣?



 何だろう……、
 妙に記憶に引っ掛かる。

 確か、誰かから聞いた事があった筈なのに……、

 ああ、ダメだ……、
 頭か混乱して、考えがまとまらない……、

 もう、意識が……保っていられない。





「さあ、小僧よ……、
お前に、この廃墟となった街を救えるか?」





 そして――
 爺さんの手によって――

 ――世界は、万色に包まれた。





<その2へ>
<戻る>


なかがき

 漫遊記劇場版スタートです。

 相変わらず、崖っぷちギリギリで生きている誠ですが、
果たして、今回は、どんな事態に巻き込まれてしまうのでしょうか……、

 そして、最後に出てきた老人の正体とは……、(バレバレ?)

 このお話は、かなりの長編になると思います。
 なるべく早いペースで書いていくつもりなので、気長にお楽しみください。