1 カレイドスコープ 2 黒猫魔法店 3 奇跡の石 4 魔法店の仕事 5 アイドルコンテスト
6 滅びの予兆 7 守るための剣 8 闇の魔術師 9 未来への道 10 花の都




「うっ、うう……」

「――あっ、気が付いた?」

「お、俺は、一体……?」

「まだ、動かないでっ!
今、あなたの傷を治癒してるんだからっ!」

「俺は……どうして、こんな所に……?」

「それは、こっちのセリフだよ。
薬草の採取に来たら、血塗れで倒れてるんだもの」

「血塗れ、って……?」

「とにかく、詳しい話は後ねっ!
一応、傷は塞がったけど、動けそう?」

「あ、ああ……歩くだけなら、なんとか……」

「じゃあ、私の家まで行きましょう。
そこで、ちゃんと治療して、安静にしなきゃね」

「えっと……ありがとう」

「どういたしまして♪
ところで、あなたのお名前は?」

「藤井 誠……キミは?





「私の名は、パルフェ……、
黒猫魔法店の『パルフェ=シュクレール』よ」






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『廃都フロルエルモス 〜ハートフルメモリーズ〜

その2 黒猫魔法店







「こ、ここは……?」




 ――目を覚ます。

 随分と、長く寝ていたらしく……、
 驚くほどに、目覚めは、スッキリしていた。

「あ……れ?」

 窓を覆う、カーテンの隙間から差し込む、
朝日の眩しさに、目を細めつつ、俺は、ゆっくりと体を起す。

 そして、寝ぼけ眼のまま、ボ〜ッと周囲を見回した。

「……?」

 見知らぬ部屋――
 ベッドに寝かされた自分――

 自分が、全く身に覚えの無い、
おかしな状況に置かれている事に、俺は首を傾げる。

「え〜っと、確か……」

 寝起きで、未だハッキリしない頭を、
フル回転させ、俺は、現状の把握に努める。

 そして、自分の体に、包帯が巻かれ、治療が施さているのに気付き……、

「ああ、そうか……」

 断片的な記憶ではあるが……、

 俺は、事の経緯を思い出し、
自分の置かれた状況を理解する事が出来た。

 ――そう。
 俺は、重傷を負っていた。

 ミノタウロスと闘って――
 一瞬の油断から、大怪我をして――
 滝の付近まで逃げたけど、そこで気を失って――

 ――そして、見知らぬ少女に会ったのだ。

 『パルフェ=シュクレール』――

 そう名乗った、桃色の髪の少女は、
手持ちの治癒薬と魔術で、俺に応急処置を施してくれた。

 さらには、俺の傍で気絶していた、ミレイユの手当てまでも……、

 そして、俺達は……、
 彼女の自宅へと運ばれて……、

 ……そこから先は、よく覚えていない。

 おそらく、彼女の家に到着した途端に、
俺は、また、気を失ってしまい、今まで寝かされていたのだろう。

「随分と、世話になっちまったな……」

 寝ぼけた意識が覚醒するに従い、
断片的な記憶が繋がり、頭の中が整理されていく。

 そして、ある程度、状況を理解し……、

 そこに至って、ようやく、俺は、
傍らで眠る少女、パルフェの存在に気が付いた。

 ずっと、俺を治療してくれていたのだろう……、
 パルフェは、ベッドに突っ伏して、スヤスヤと寝息をたてている。

 見れば、ミレイユもまた、
彼女同様に、俺の枕元で、体を丸めて眠っていた。

「ありがと、な……」

 俺の命を救ってくれた少女達……、
 申し訳なさと、感謝を込めて、少女達の頭を撫でる。

 目覚める気配の無い二人……、

 そんな彼女達を起してしまわないように、
俺は、自分の体の状態を確かめようと、静かに、ベッドから出た。

 パルフェの治療のおかげだろう……、
 重体だったにも関わらず、俺の体は、すっかり完治していた。

 まあ、血が足りない所為か、
まだ、少し、頭がフラフラするけど、動けない程じゃない。

 この程度なら、ちゃんと栄養を取れば、すぐに回復するだろう。

「取り敢えず、服を何とかしないと……」

 ――どうやら、怪我の後遺症などは無いようだ。

 と、体の状態を確認した俺は、
今の自分の姿の惨状を見て、思わず顔を顰めた。

 俺の怪我は、余程、酷かったのか……、

 パルフェには、治療の際に、
俺の服を脱がせる余裕すらなかったらしい。

 俺の姿は、ミノタウロスと闘った時のままで……、

 血に塗れた服は、乾いてパリパリになってるし……、
 胸元は大きく裂け、ほとんとほ服としての用途を果たしていない。

 とてもじゃないが、人前に立てるような恰好ではなかったのだ。

 そもそも、男の俺が、
女物の服を着ているなんて、見るに耐えない。

 サッサと着替えてしまおうと、俺は、自分の荷物を探し、部屋を見渡す。

 だが、荷物は見つからず……、

 その代わり……、
 見つけてしまったのは……、

「……これを着ろ、って言うのか?」

 “それ”を見た瞬間……、
 俺は、貧血とは別物の眩暈に襲われた。

 パルフェが用意したのだろう……、

 枕元には、俺の為の着替えが、用意されていた。

 ……それは良い。

 世話になった者として、
彼女の心遣いには、素直に感謝するべきであろう。

 ただ、何故に……、

「……これって、女物の服じゃね〜か」

 用意されていた服を両手で広げ、俺は、深々と溜息をつく。

 おそらく、パルフェの服なのだろう……、

 ピンクと白を基調とした、
可愛らしい服は、彼女が着れば、きっと似合うに違いない。

 しかし、男の俺が着るとなると、非常に躊躇われるデザインだ。

 とはいえ……、

 この服以外に……、
 着る物が無いのも事実なわけで……、

「ううっ、何でまた、こんな服を……」

 普通、こういう場合、親父の服とか出すだろ?
 それとも、パルフェって、独り暮らしだったりするのか?

 なんて事を、内心で呟きつつ……、

 俺は、ボロボロの服を、脱ぎ捨てると、
仕方なく、パルフェが用意してくれた服に、袖を通した。

「まあ、スカートじゃなくて、
キュロットなのが、せめてもの救い、か……」

 姿見に映る自分の姿――

 あまりの情けなさに、
激しい頭痛を覚えつつ、俺は、最後に、マントを羽織る。

 ご丁寧に、魔術師用のステッキまで……、

 まあ、これは、杖代わりになるから、
足取りが安定するまで、使わせて貰うとしよう。

「さて、と……

 着替えを終えた俺は、寝ているパルフェに毛布を掛ける。

 そして、丸一日、寝ていた所為で、
鈍った体を覚醒させようと、俺は、静かに部屋を出た。

「おっ、とと……」

 やはり、まだ、足元が覚束無い……、

 早速、先程のステッキを、
役立てつつ、俺は、何とか階段を降りる。

「魔法店……なのか?」

 一階には、見覚えのある大壷が二つ……、

 いや、それだけじゃなく……、

 会計用のカウンターと、
その向こうには、魔法薬も並べられていた。

 サーリアさんの店でも見た“それ”……、

 どうやら、パルフェは、
この島で、魔法店を経営しているらしい。

「……こんな所で、商売が成り立つのか?」

 予想外に、充実した品揃え……、
 そんな店内を見回して、俺は、頭を捻った。

 確かに、この島は、魔法薬の材料が、豊富に採取出来る環境にある。

 とはいえ、この孤島には、
廃都があるだけで、ほとんど人口は無い筈だ。

 にも関わらず、どうして、こんな辺鄙な場所で……、

「……物好きだな〜」

 まあ、そのおかげで、俺は助かったのだが……、

 と、肩を竦めつつ、俺は、
杖代わりのステッキを頼りに、店の外へと出る。

 そして――
 外の景色を見た瞬間――



「そんな馬鹿な……」



 ――俺は、自分の目を疑った。

 そこには……、
 紛れも無く、『街』があった。

 石畳で舗装された道――
 数多く建ち並ぶ、立派な家々――
 賑やかに行き交う、沢山の住人達――

「……どうなってるんだ?」

 まだ、目が覚めていないのか、と、俺は何度も目を擦る。

 だが、どんなに目を瞬かせても、
目の前に広がる街並みは消えてくれない。

 おかしい……、
 いくらなんでも、おかしすぎる。

 この島には、こんな街は無かった筈だ。

 例え、存在していたとしても、
これだけの規模の街ならば、地図に載っていてもおかしくない。

 でも、俺は、そんな話は聞いた事も無いし……、
 手持ちの地図に載っているのは、あの廃都だけ……、

「まさか……?」

 俺は、とある予感を覚え、
今、出てきたばかりの、パルフェの家を見上げた。

 そして――

「これは……っ?!」

 目立ち過ぎる外観……、
 見覚えのある、その佇まいに、俺は目を見張る。

 玄関の上に飾られた、
黒猫の顔を模った大きな看板――

 『黒猫魔法店』――
 俺を助けてくれたパルフェの家――

 ――この店は、あの廃都で見たモノと、全く同じモノだったのだ。

「そんな……嘘だろ?」

 力無く垂れた俺の手から、
ステッキが落ち、カランッと乾いた音を立てた。

 それに気付く事無く、呆然としたまま、俺は、店を上げる。

 まさか……、
 こんな事が有り得る訳が……、

 脳裏に浮かんだのは、ある一つの事実――

 だが、それは、あまりにも、
荒唐無稽で、とてもじゃないが、納得出来るものではない。

 いや、違う……、
 納得したくなかったのだ……、

 ……この現実を、認めたくなかったのだ。

「有り得ない……有り得るわけが無いっ!」

 不吉な考えを、振り払うかのように、
大きく叫ぶと、俺は、落としたステッキを拾うのも忘れ、走り出す。

 現実から逃げるように……、
 その現実を否定する何かを求めるかのように……、

「はあ……はあ……」

 体調が万全でもないのに、
全力で走った所為で、すぐに息が上がった。

 それでも、肩で息をしつつ、何度も転びそうになりながら、走り続け……、

 気が付けば、俺は、
街の中心部にある噴水広場に来ていた。

「はあ、はあ……ぐっ……」

 傷口が傷み、激しい眩暈に襲われる。

 俺は、手近にあった、
掲示板らしき物にもたれ、自分の体を支えた。

「痛い、って事は……夢じゃ無いんだよな」

 フラフラと歩く俺の姿に、
周囲の人々が、訝しげな表情を浮かべている。

 そんな事に構う余裕も無く、俺は、掲示板にもたれたまま、呼吸を整える。

 と、その時――

「これは……っ!?」

 ふと、俺は、掲示板に、
掲載されている用紙の内容に目を止めた。

 近々、イベント会場にて、アイドルコンテストが開催される、とのこと――

 だが、そんな事は関係ない。
 俺が目にしたのは、その記事の片隅に記された日付だ。

 そこには――

「は……ははは……」

 “それ”を見て……、
 俺は、体の力が、一気に抜けてしまった。

 そのまま、人目も憚らず、バッタリと、仰向けに倒れ込む。

 記事にあった日付――

 そこには、歴史書などでしか、
見たことの無い、古代魔法王国時代の年号が記されていたのだ。

「ははは、勘弁してくれよ……」

 否定しようのない現実を突きつけられ、
放心状態の俺は、乾いた笑みを浮かべながら、空を見上げる。

 そんな俺に、トドメを刺すかのように……、

 徐々に、周囲が……、
 大きな“何か”影に覆われ始めた。

「あれ……は?」

 上空には、巨大な雲――
 歴史書にある通りならば――
 あの雲の向こうに浮かんでいるのは――

 『魔法王国グエンディーナ』――

 古代魔法王国時代に、
魔法文化の栄華を極めし浮遊大陸王国――

「…………」

 ――廃墟であった筈の魔法店。
 ――遥か昔に使われていた年号。
 ――大空に浮かぶ巨大な浮遊大陸。

 もう、否定しようがない……、

 原因は分からないが……、
 俺は、気を失っている間に……、



「あ〜っ! こんな所にいた〜っ!!」

「――えっ?」



 突然、大声で呼び掛けられ……、

 我に返った俺は、慌てて、
体を起し、声がした方へと目を向ける。

 見れば、パルフェが、大急ぎで走って――

「ふぎゅ……っ!」

 ――あ、コケた。

 たまに思うのだが……、

 どうして、女の子って……、
 ああも見事に、何も無い所で、転べるんだろう?

 なんて事を考えつつ、俺は、
彼女を助け起すため、立ち上がろうと、足に力を込める。

 だが、さっきまでの無理が祟ったのか、まるで動かない。

 そうこうしている内に、
パルフェは、自力で起き上がったようだ。

「はみゅ〜……鼻ぶつけた〜」

 転んだ拍子に打ったのか……、
 赤くなった鼻を擦りつつ、こっちに駆けて来る。

 そして――
 俺の顔を見た途端――

「怪我人が、勝手に動き回っちゃダメじゃないっ!」

 ――凄い剣幕で怒られた。

「ホント、びっくりしたんだからっ!
目を覚ましたら、ベッドが空になってるんだもの!」

「うっ……ゴメン」

 余程、驚き、心配したようだ。
 俺を叱る、パルフェの目の端には、涙の跡が見える。

 そんな彼女に申し訳なく、俺は、素直に頭を下げた。

「謝るなら、私じゃなくて、
あなたの使い魔に、ちゃんと謝ってあげてね」

 凄く心配してたんだよ、と言って、パルフェは、俺に手を差し出す。

 使い魔……って、ミレイユのことか?

 そうだな……、
 あいつには、早く無事な姿を見せてあげないと……、

「ああ、わかった……、
それと、助けてくれて、ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして♪」

 パルフェの言葉に頷き、俺は、彼女手を掴んだ。
 助け起して貰い、先程、落としたま黒猫のステッキを受け取る。

「ところで、体の調子はどう?
一人で、ここまで来られたんだし、大丈夫そうだけど……」

 俺の周りをクルリと一周し、
パルフェは、俺の体の状態を確かめる。

 男としては、強がりの一つも言いたいところだが……、

 これ以上、心配は掛けられないので、
俺は、素直に、自分の体の不調を告げることにした。

「怪我は大丈夫……、
ただ、血が足りないみたいで、フラフラするよ」

「じゃあ、いっばい、栄養を摂らないとね」

 苦笑いする俺に、パルフェは、ニコリと微笑む。

 と、そこへ……、
 絶妙のタイミングで……、


 ぐぅぅぅ〜〜〜……


 自己主張する我が胃袋……、

 その間抜けな音に、
さっきまでの悲壮感は、一気にフッ飛んだ。

「は、はは……」

「ふふふふ……」

 思わず、笑みが毀れる。

 それを堪えつつ、
パルフェは、俺に肩を貸してくれる。

「――ご飯にしよっか?」

「ゴメン……ご馳走になる」

 そして……、
 俺は、パルフェに支えられながら……、

 ……黒猫魔法店へと戻るのだった。

     ・
     ・
     ・










「それじゃあ……、
詳しい事情を、説明して貰おうか?」

 少し遅めの朝食も終わり――

 真っ先に訊ねて来たのは、
パルフェの使い魔である黒猫の『サケマス』であった。

「事情、というと……?」

 小生意気な黒猫の言葉に、
俺は、食後のお茶を飲みながら、首を傾げてみせる。

 その態度が、気に入らなかったのか……、

 サケマスは、ちょっとイラついたように、
その柔らかそうな肉球で、テーブルをペシペシと叩いた。

「だから、クラベル滝……、
何で、あんたは、あんな所に倒れてたんだ?」

「しかも、あんな大怪我をして……」

 訊ねるサケマスに、パルフェが言葉を続ける。

 見れば、黒猫魔法店の居候……、

 猫耳少女の『ライナ=フォーゼル』や、
白竜の『ネージュ』も、興味深そうに俺を見ていた。

「と言われても……、
一体、何処から説明すれば良いのか……」

 そんな視線に晒され、俺は、どう答えるべきか考える。

 ……まさか、真実を話す訳にもいかない。

 いくらなんでも……、
 “こんな事”を信じて貰えるわけがない。

 未来からやって来た、なんて――

 とは言うものの……、
 ずっと黙っている訳にもいかず……、

「……じゃあ、まずは、何処から来たんだ?」

「そ、それは……」

 答えあぐねる俺に、
痺れを切らしたサケマスが、話を促してきた。

 ある意味、確信を突いた問いに、俺は言葉に詰まってしまう。

 だが、すぐに気を取り直すと……、

「え〜っと……、
フォンティーユって街は知ってるか?」

 取り敢えず……、
 口から出任せで対応してみた。

 正直に、リーフ島と言いたいところだが……、

 この時代に、あの島の存在が、
“リーフ島”として認識されているかどうか、良く分からないからな。

 だがら、なるべく、歴史の古い街の名を挙げてみたのだが……、

「知ってる……天使を奉る街だな」

「あの街の出身なんだ……、
だから、マコトは、天使様の祝福を受けてるのね」

 咄嗟の出任せは、
意外にも、アッサリと信じて貰えたようだ。

 どうやら、俺が持つ『天使のスカーフ』に説得力があったらしい。

「で、フォンティーユから来た、
冒険者が、何で、あんな所で倒れてたんだ?」

「あっ、マコトって、冒険者だったんだ……どうりで……」

「……?」

 再度、訊ねるサケマスとは、
関係無く、何やら、納得顔で頷くパルフェ。

 気にはなったが、話の腰を折るわけにもいかず、無視して話を進める。

「冒険者だ、って分かってるなら、だいたい予想はつくだろ?」

「魔物退治の依頼か?
この辺で、危険な魔物が出た、なんて聞いた事ないぞ」

「でも、最近、世界中で、
魔物の動きが、活発になって来たらしいよ?」

「その噂なら、オイラも聞いた事があるけど……」

 意図しているわけではないのだろうが……、
 俺をフォローするパルフェに、サケマスは、困ったように耳を伏せる。

 どうも、この使い魔は、俺の事を、あまり信用してはいないようだ。

 まあ、素性の分からない奴が、
いきなり、家に転がり込んで来たのだから、無理もないか……、

「ねえ、マコト……、
あなた、これから、どうするつもりなの?」

 ――詮索するのは、これでおしまい。

 と言うかのように、パルフェは、
立ち上がり、テーブルの上の食器を片付け始める。

 彼女を手伝う、俺とライナ……、

 と、その途中、食器を洗いながら、
パルフェが、何気ない口調で、俺に訊ねた。

「……どうしたら良いんだろうな?」

 洗い終えた食器を、ライナが、タオルで拭いていく。

 ライナから、それを受け取り、
食器棚に戻しながら、俺は、自嘲気味に笑って見せた。

 本当に、どうすれば良いのか……、

 どうすれば……、
 元の時代に戻れるのか……、

 何の手掛かりも、当ても無く……、

 時間を渡るなんて方法を、
どうやって調べれば良いのか、まるで見当がつかない。

 俺には、帰りを待っている人達がいるのに……、

「今は、ゆっくりと休んで……、
ちゃんと体調が良くなってから、考えようよ」

「……ああ」

 表情を曇らせる俺を、優しく気遣うパルフェ……、

 そんな彼女の言葉に甘え、
俺は、さっきまで、寝ていた部屋へと戻る。

 そして、ベッドに横になり――
 やはり、体が休息を欲していたのか――

 俺は、すぐに眠りへと落ちて――


 ――カリカリカリ


「んっ……?」

 部屋の扉を引っ掻く音――

 まどろみ始めていた俺は、
その耳障りなノック(?)で、強引に覚醒させられた。

「何だ、一体……?」

 気だるげに体を起し、俺はドアを開ける。

 すると、ドアの隙間から、
サケマスが、スルリと部屋の中へと滑り込んできた。

「……ちょっと、話があるんだ」

 そう言って、サケマスは、後ろ足で器用にドアを閉める。

 そして、ベッドに飛び乗ると、
何の用かと、首を傾げる俺を睨みつけ……、

「お前…・・・嘘ついてるだろう?」

「うっ……!?」

 いきなり、図星を刺され、俺は、思わず呻いてしまった。

 サケマスは、それを見逃さず、
畳み掛けるように、俺に問い詰めてくる。

「バルフェは、人を疑う事を知らないからな。
でも、そう簡単に、オイラの目を欺けると思うなよ」

「そりゃまた、随分と、頼れる使い魔っぷりだな」

「茶化さないで、サッサと正直に話せ」

「もし、その内容が……、
お前にとって、気に入らないモノだったら?」

「今すぐ、追い出す……、
例え、パルフェが、何と言おうとな……」

「…………」

 サケマスの真剣な眼差し――

 その挑戦的な態度に、気圧されつつも、
俺は、サケマスに対して、好感を持ち始めていた。

 コイツ、ただの生意気な猫だと思ってたけど……、

「大切なんだな、パルフェの事が……」

「……当たり前だ」

 照れ隠しのつもりか……、
 俺の言葉に、サケマスは、そっぽを向いてしまう。

 そんな彼に苦笑しつつ、俺は、椅子に腰掛けると、サケマスに向き直った。

「わかった……、
お前にだけは、全部、話しておくよ」

 そう言って、俺は、口を潤そうと、
デスクの上に置かれた水差しの水を一口飲む。

 そして……、



「実は、俺は――」

「マコト……まだ、起きてる?」



 話しを始めようとした途端……、

 またしても、ドアが……、
 しかし、先程よりは、遠慮がちに、ノックされた。

 どうやら、やって来たのは、パルフェのようだ。

 サケマスに目配せをし、
俺は、ドア開けて、パルフェを迎え入れる。

「――どうかしたのか?」

 何食わぬ顔で、俺は用件を訊ねる。

 すると、パルフェは……、
 息を切らせ、妙に慌てた様子で……、

 半ば強引に、俺の腕を掴むと……、

「休んでたのに、ゴメンね……、
今、大魔術師のお婆様がいらっしゃって……」

「――大魔術師?」

「うん、それで……、
マコトに会わせて欲しいって……」

「はあ……?」

     ・
     ・
     ・










「なるほどねぇ……、
あの悪戯好きのジジイが、やりそうな事じゃわい」

 突然、現れた老婆――

 大魔術師と呼ばれる、紫色のローブ姿の、
眼鏡を掛けた老婆に、俺は、全てをありのままに話した。

 俺が未来から来たこと――
 元の時代に戻る方法が分からないこと――

 そして、近い将来――

 フロルエルモス――
 この街が、滅ぼされることを――

「クラベル滝の辺りで、強い魔力を感じ、
もしや、と思って来てみれば、まさか、あのジジイ絡みとはねぇ……」

「……知ってるんですか?」

 その話をする途中――

 時間跳躍の現場を見ていた、
ミレイユが、思い出したように“ある人物”を話題に出した。

 微かにだが……、
 確かに、俺も覚えている。

 “宝石の剣を持った老人”――

 気を失った俺の傍に、忽然と現れ……、

 おそらくは……、
 俺達に、時間跳躍を行った張本人……、

 どうやら、老婆には、その老人に心当たりがあるようだ。

 呆れ果てたように呟く老婆に、
俺は、逸る気持ちを抑えつつ、その正体を訊ねる。

 すると、老婆は……、

「ワシも、直接は知らぬが……、
お主も、名前くらいは聞いた事があるじゃろう?」

 俺が想像していた以上の……、
 トンデモナイ“大物”の名前を口にした。

 ――『宝 石 の ゼ ル レ ッ チ』キシュア=ゼルレッチ=シュバインオーグ

 平行世界を旅する第二魔法の使い手……、

 タイプムーンで知り合った、遠坂 凛さんの大師父であり、
真祖の姫君『アルクェイド』さんの世話役でもある、はっちゃけ爺さん。

 まさか、そんな大物が関わっていたなんて……、

 でもまあ、確かに……、

 時間跳躍なんて離れ業……、
 “魔法使い”じゃなきゃ、出来る芸当じゃないよな。

「でも、一体、何の目的で……?」

「さてねぇ……しかし、それにしても……」

 ゼルレッチの意図を測りかね、俺は頭を捻る。

 老婆とサケマスもまた、俺と同様に、
首を傾げていたが、彼女達の関心は、別のところにあるようだ。

「この街が、滅ぶ運命とは……、
確かに、パルフェに聞かせられる話ではないね」

「全くだよ……」

 そう呟き、老婆達は、先程、パルフェが出て行った玄関を一瞥する。

 ――そう。
 今、この場に、パルフェはいない。

 老婆が来てすぐに、サケマスが、
客に出す茶菓子が無いと、彼女に買い物を頼んだのだ。

 パルフェに真実を知らせまいとする、サケマスの配慮である。

 もちろん、最初は、パルフェも、
話に参加したがり、買い物に行くのを渋っていたが……、

 『トリアノンノン』という名を出すと、
ライナとネージュを伴い、嬉々として出掛けていった。

 というわけで……、
 当然、今の話も、パルフェには聞かれておらず……、

 ……やはり、その判断は、間違いではなかったようだ。

「近い未来、自分の街が滅ぶ……、
パルフェには、ちょっと刺激が強いだろうからな」

「それもあるがの……」

「フロルエルモスは……、
“あいつ”が、命懸けで守った街だからな」

「…………?」

 神妙な表情を浮かべる老婆とサケマス……、

 どうやら、パルフェにも、何やら、複雑な事情がありそうだ。

 サケマスの言う“あいつ”というのが誰なのか……、

 ちょっと気にはなるが、流石に、
あまり込み入った事を訊ねるわけにもいかない。

 俺は、好奇心を抑え、話を進める事にする。

「それで、婆さん……、
俺達が、元の時代に帰る方法はあるのか?」

「正直、難しいねぇ……」

「……そうですか」

 訊ねる俺に、婆さんは、申し訳なさそうに目を伏せる。

 グエンディーナの時代で、
大魔術師と呼ばれているくらいなのだ。

 何とかしてくれるとでは、と期待していたのだが……、

 やっぱり、この時代でも、
時間跳躍なんて芸当は“魔法”の領域らしい。

 となると、残された方法は、ただ一つ……、

 ゼルレッチと会って……、
 もう一度、宝石剣を使って貰うしかない。

 でも、あの神出鬼没で有名な、
悪戯ジジイを、どうやって見つければ良いんだ?

 相手は、平行世界すらも含めて、この世で、ただ一人だと言うのに……、

「まあ、安心せい……、
他に方法が無いわけでもないしの」

「――本当ですか?!」

「とは言え、今すぐには無理じゃ。
準備には、かなりの手間と時間が掛かるからの」

 落ち込む俺を気遣ったのか……、
 老婆は、優しい声で言うと、ポンポンと俺の肩を叩く。

 そして、手に持つ杖で、器用に眼鏡の位置を直すと……、

「さてと、そうなると……、
準備が整うまでの、滞在場所が必要じゃの?」

「だったら、宿屋にでも――」

 そう言って、思案する老婆に、
宿屋の場所を教えて貰おうと、俺は話を振る。

 と、そこへ――



「――ただいま〜♪」

「ただいま……」

「ミュウ、ミュウ〜♪」



 ――買い物組が帰ってきたようだ。

 甘い匂いが漂って来る紙箱を片手に、
パルフェ達が、軽い足取りで、リビングへとやって来る。

「お待たせしました♪
すぐに、お茶とケーキの用意をしますね♪」

「それには及ばぬよ……、
ところで、おぬしに頼みがあるのじゃが……」

「――何でしょう?」

 全員分のにお茶を出そうと、
パルフェは、鼻歌まじりで、キッチンへと向かう。

 老婆は、そんな彼女を呼び止め、俺に目を向けると……、

「この者には、まだ養生が必要じゃ。
もうしばらく、おぬしが面倒を見てやってくれぬか?」

 事もあろうに……、
 トンデモナイ問題発言をしてくれた。

「――はい、わかりました」

 しかも、パルフェは、それをアッサリと了承するし……、

「おいっ、ちょっと待ったっ!
いくらなんでも、それはマズイだろ!?」

 さすがに、そんな事態を、
黙って聞いているわけにはいかない。

 俺は、二人の間に割って入ると、その提案に異を唱える。

 だが、パルフェは、
それはもう、不思議そうに首を傾げると――

「……どうして?」

 ――と、あっけらかんと言ってくれやがった。

 そんな無警戒極まりない、
彼女の態度に、俺は、軽い頭痛を覚える。

 で、仕方無く、率直に問題点を指摘することに……、

「客商売なんだし……、
世間体とか、色々と問題あるだろ?」

「だから、何が問題なの?」

「若い男女が、その……、
一つ屋根の下で暮らす、なんて……」

「……えっ?」

「何じゃと……?」










 ――あれっ?

 この沈黙は、何かな?










「マ、マコトって……」

「おぬし……男じゃったのか?」

「――待てや、コラッ!!」

 驚くパルフェ達一同……、

 そんな彼女達の失礼な態度に、
さすがに腹が立った俺は、つい声を荒げてしまった。

 しかし、女扱いされたのだ。
 男としては、黙っているわけにはいかない。

 怒鳴った勢いのまま、
俺は、椅子を蹴って立ち上がり、パルフェ達を問い詰める。

「俺の何処が女に見えるんだっ!?
だいたい、声とか喋り方で、分かるだろうっ?!」

「冒険者だ、って言うから、
話し方が乱暴なのは仕方ないかな、って……」
それに、倒れてた時も……、
今だって、女の子の服を着てるし……」

「パルフェが、こんな服を用意したからだろうがっ!?」

「だからって、その服を、
素直に着るのは、普通じゃないと思うぞ?」

「……もしや、趣味か?」

「変態……?」

「ミュウ〜……」

「ちがぁぁぁ〜〜〜うっ!
女装してたのは、魔物を倒す為の作戦だっ!」

 散々、好き勝手な事を言うパルフェ達……、

 そんな彼女達を相手に、
俺は、テーブルを叩きながら、必死に弁解する。

 で、小一時間後――

 何とか誤解を解き……、
 俺は、息を荒げつつ、再び、椅子に座った。

「まったく、どいつもこいつも……」

 未だ怒りがおさまらず……、
 俺は、その鬱憤を、パルフェが買ってきたケーキにぶつける。

 むむむ……、
 このガトーショコラは、なかなか……、

 この味わいなら、パルフェが、
店の名前を聞いただけで、嬉々として買いに出掛けたのも頷ける。

「はみゅ〜、幸せ〜♪」

「……おいしい」

 見れば、パルフェとライナも、とても幸せそうに、ケーキに舌鼓を打っている。

 甘くて美味しいケーキのおかけで、
俺の変態疑惑騒動も、すっかり落ち着いたようだ。

 と、そこへ――

「何はともあれ……、
これで、当面の問題は解決じゃな」

「……何がだ?」

 カモミール茶を飲みながら、ポツリと呟く老婆……、

 嫌な予感を覚え、俺は、
ケーキを食べる手を止めて、老婆に訊ねる。

 すると、老婆は……、
 ニヤリと意地悪い笑みを浮かべ……、



「今後も、女装を続ければ、
世間体の問題は、クリアしとるじゃろう?」



 ……と、のたもうた。

「おいっ、ふざけるなっ!
そんな真似するくらいなら、野宿した方がマシだっ!」

 老婆の言葉を、俺は、即効で拒絶する。

 冗談じゃない……、
 いつまでも、こんな恥ずかしい恰好していられるかっ!

 だいたい、そこまでして、
パルフェの世話になる必要は無いのだ。

 ……助けてもらったのには、感謝している。

 だからこそ、これ以上、
彼女に、迷惑をかけるわけにはいかない。

 幸い、結界薬なら、まだ残ってるし……、

 足りなくなれば、それこそ、
恩返しも兼ねて、この黒猫魔法店から買えば良い。

 そう考え、俺は、野宿暮らしを提案したのだが……、

「ワシの言う事が聞けないなら、さっきの話は無しじゃな」

「――なんですとっ?!」

 だが、相手も然るもの……、
 しっかりと、こちらの退路を塞いできやがった。

「……婆さん、状況を楽しんでるだろ?」

「長生きの秘訣は……、
生活に潤いを持たせることじゃよ」

「……サッサとくたばれ」

 せめてもの抵抗にと、俺は、苦し紛れに悪態を吐く。

 そんな俺に、老婆は、
ニヤニヤと、心底、楽しそうに微笑みながら……、

「それで……どうするんじゃ?」

「クッ……」

 老婆に訊ねられ、俺は言葉に詰まる。

 どうするも、こうするも――

 頼れる相手がいない以上――
 俺に、拒否権なんて無いわけで――



「了解した……地獄へ落ちろ、ババァ」

「ほっほっほっほっ……♪」



 こうして――

 俺は、半ば強制的に……、
 黒猫魔法店に、居候する事になった。










 しかも……、

 この時代にいる間は、
女装をし続ける、という条件付きで……、










「うううっ……、
どうして、いつも、こんな事に……」(涙)

「まあ、良いじゃない……凄く似合ってるんだし♪」

「あのな、パルフェ……、
それは、全然、フォローになってない」(涙)

「と、とにかく、今日から宜しくね、マコト」

「……よろしく」(泣)










 ああ……、

 俺は、これから、どうなるんだろう?





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なかがき

 やって来ました、過去の世界……、

 と言っても、今回は、状況説明ばかりで、ほとんど内容は無し。

 この話は、原作未プレイでも、
理解出来るようにしたいので、どうしても、説明が多くなってしまうのです。

 ついでに、古代魔法王国時代の情景も、少しは書きたかったし……、

 まあ、それはともかく……、
 果たして、誠は、無事に、元の時代の戻れるのか?

 そして、彼が、この時代に連れて来られた理由とは?

 全ては、悪戯好きの、
はっちゃけ爺さんだけが知っている。(笑)