1 カレイドスコープ 2 黒猫魔法店 3 奇跡の石 4 魔法店の仕事 5 アイドルコンテスト
6 滅びの予兆 7 守るための剣 8 闇の魔術師 9 未来への道 10 花の都




「やっぱり、過去なんだな……」



 大木のある丘――

 小高い場所から街を見下ろし、
俺は、改めて、自分がいる“場所”を確認した。

 眼下に見えるは、美しい街……、

 そこは、未来において、
廃都となった姿しか残していない街……、

 だが、その街は……、
 確かに、俺の目の前に存在している。

 『フロルエルモス』――

  花園都市の名の如く、
街全体に、色彩豊かな花が咲き乱れ……、

 そんな花々の、あたたかな香りが、街を包んでいるかのようだ。

 いや、それだけではなく……、

 特に、目を引くのは……、
 街の中心に建つ、立派な城……、

 城の外壁から水路へと流れ出る水と、
キラキラと輝く水飛沫が、街の美しさを、より一層、際立たせている。

 ……本当に、綺麗な街だ。

 目を見張る程に美しくて……、
 今まで、俺が見てきた、どんな街よりも、存在感があった。

 だが、その存在感が故に、俺は、思い知らされる。

 この“場所”が……、
 本来、俺のいるべき“場所”ではない事を……、

「……俺は、帰れるのかな?」

 街の向こうに見えるのは、イストール火山……、

 そこから、さらに上へと、
目を向け、俺は、澄み切った青空を見上げる。

 いつの時代も変わらぬ空……、

 でも、今の俺には……、
 皆と、同じ空の下にいる事すら出来ない。

 ――ここには、誰も居ないのだ。

 浩之達も、母さん達も――
 旅の途中で出会った仲間達も――

 そして――

「絶対に……帰ってみせる」

 何よりも大切な少女達……、

 彼女達の姿を思い浮かべ、
俺は、弱気になりがちな自分を叱咤する。

「マコト〜、こっちに来てよ〜!
スズナリ草が、こんなに生えてるよ〜!」

「おっと……」

 ミレイユの声に、俺は我に返った。

 見れば、大木の根元で、
ミレイユが、元気に飛び回りながら、俺を呼んでいる。

 ――そういえば、材料採取に来てたんだった。

 俺は、自分の仕事を思い出し、
慌てて、地面に置いていた大カゴを背負う。

 そして――
 もう一度だけ、空を見上げると――



「……待っててくれ」



 強い決意を新たに――

 俺は、仕事を再開する為……、
 ミレイユが待つ、大木へと走り出した。






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『廃都フロルエルモス 〜ハートフルメモリーズ〜

その3 奇跡の石







「早く逢いたいの、この想い届いて欲しい♪
あ〜やふやな〜気持ちに、不安になるから〜♪」

「ねえ、マコト……?」

「ああ……歌が聞こえる」





 時が経つのは早いもので――

 過去へと時間跳躍し……、
 黒猫魔法店の居候となって、一週間が過ぎた。

 最初の数日は、パルフェに、
泣きそうな懇願され、ベッドから出してもらえなかったが……、

 その甲斐あってか……、
 俺の体は、すっかり良くなり……、

 日常生活を送るだけなら、
まったく問題無い程にまで回復する事が出来た。

 ――となれば、いつまでも、ゴロゴロしてはいられない。

 パルフェに外出の許可を貰った俺は、
早速、街の中や、その周囲を、リハビリも兼ねて、散策してみる事にした。

 不謹慎ではあるが……、
 折角、過去に来たのだから、色々と見て回りたかったのだ。

 こういう、物見高いところは、
自分でも、やっぱり、冒険者なんだな、と思う。

 もちろん、観光だけで終わらせるつもりは無い。

 散々、世話になっているのだから、
これからは、パルフェの仕事を手伝うつもりだ。

 幸い、サーリアさんの店でのバイトの経験もあるし……、

 尤も、魔術の才能が無い俺に、
出来る事と言えば、せいぜい、材料の採取くらいなのだが……、

 まあ、それはともかく――

 未だ、体は本調子では無いので、
必ず、同行者を連れて行く事を条件に、俺は、街の外へと出た。

 砂浜で、ヒトデ石やタンピポを――
 ナムル川で、黒雲石やハーブスを――
 クラベル滝で、ビタタマやセントランを――

     ・
     ・
     ・

 同行者として、ミレイユを連れ……、

 次々と、パルフェに教えてもらった、
採取場所を回り、図鑑片手に、材料を集めていく。

 で、次は、食材にもなるマツヤケでも、
探そうかと、タリムの森へと、足を踏み入れたのだが……、

「何処からだ、ミレイユ?」

「え〜っと……こっちから、聞こえてくるよ」

 森の中で仕事を始め……、

 しばらくすると、突然、
森の奥から、誰かの歌声が聞こえてきた。

「駆けてく遊歩道、流れる街路樹♪
まだ見ぬあなたと〜、出会い求めて〜♪」

「……綺麗な声だね」

「ああ、なんか……、
初音島の、ことりさんを思い出させる声だ」

「誰、それ……?」

「……気にするな」

 なんて会話を交わしつつ……、

 美しく、澄んだ声に導かれるように、
俺とミレイユは、藪を掻き分け、森の奥へと進んでいく。

 このまま行くと……、
 確か、泉のある場所に出る筈だけど……、

 と、頭の中の地図を参照しながら、
俺は、一応、用心の為に、腰の剣に手を掛けた。

「差し込む日差しに〜♪
優しく微笑んで〜、見つめてる、奇跡を〜♪」

「……どうやら、泉の近くにいるみたいだな」

 木漏れ日を反射して、
泉の水面が、キラキラと輝いている。

 目指す先に、その景色を見つけ、
俺は、自分の認識が、間違っていなかった事を確認した。

「いつかきっと〜、出逢う恋〜♪
溢れる、この気持ち、止まらない胸の鼓動〜♪」

 泉に近付くにつれ、歌声が、ハッキリと聞こえるようになってくる。

 それにしても……、
 この曲、何処かで聞いたことがあるような……、

 と、微かな記憶を手繰りながら、
俺は、歌声の主を求めて、さらに、泉へと歩み寄っていく。

 その足取りは、自然と、静かなモノになっていた。

「さて、と……一体、誰がいるのやら……」

「気をつけてよ、マコト……、
もしかしたら、セイレーンかもしれないし……」

「はははっ、まさか……」

 心配性のミレイユに、俺は肩を竦める。

 だが、万が一を考え、
俺は、充分に警戒しながら、泉の畔へと……、



「――浩治?」



 ……いきなり見つかった。

 突然、歌の主に、声を掛けられ、
俺は、思わず、その場に立ち尽くしてしまう。

「ゴ、ゴメンッ! 決して、怪しい者では――っ!」

「…………」

 歌を邪魔してしまった事への、
罪悪感から、俺は、慌てて、頭を下げた。

 だが、いつまて経っても、返事は無く……、

 不思議に思った俺は、ゆっくりと頭を上げ……、
 そこに至って、ようやく、俺は、歌の主の姿を目の当たりにした。

 エメラルドグリーンの髪――
 白いレースの縁取りのある、黄色のワンピースを着た少女――

 ――彼女が、さっきの歌の主のようだ。

 唐突に現れた俺に、驚いたのか……、
 泉の近くの岩に腰掛けた少女は、俺を、ジッと見つめている。

 でも、その表情は、驚き以外にも、
何処か、落胆のような雰囲気があるようにも……、

 そういえば……、
 俺を見た瞬間、誰かの名前を口にしていたような……、

 と、少女の態度に、首を傾げていると……、

「その服……もしかして、パルフェさんのかな?」

「ああ、そうだけど……、
キミは、彼女のことを知ってるのか?」

「もちろん♪ だって、友達だしね」

 どうやら、俺の着ている服に、見覚えがあるらしい。

 先程までの様子は何処へやら……、
 少女は、気さくに微笑むと、こちらにやって来た。

 そして、俺に手を差し出すと……、

「ボクの名前は『ルティル』……、
キミは、確か……マコトで良かったよね?」

「あ、ああ……よろしく」

 既に、パルフェから、俺の事は聞いているらしい。

 なら、詳しい説明は必要ない……、
 そう納得しつつ、俺は、ルティルの手を握る。

「いつも、こんな所で唄ってるのか?」

「バイトが休みの日だけね。
ボク、歌が好きで、暇があれば、こうして練習してるの」

「どうりで、上手いわけだ」

 途中までしか聴けなかったが……、
 ルティルの歌声を思い出し、俺は、素直な感想を述べる。

 由綺姉達や、ラスティちゃん……、

 今まで、多くの歌姫の歌声を聴いてきたが、
ルティルの歌声は、そんな彼女達にも負けないくらいに綺麗だった。

 まあ、俺は専門家じゃないから、
何処がどう良いのか、なんて具体的な事は言えないけど……、

「さっきのは、何て歌なんだ?」

「『Poetry Love』……、
ボクが作詞・作曲した曲なんだけど……」

「――えっ?」

 先程、覚えた既知感――

 聞き覚えのある曲だったのだが、
どうしても思い出せず、俺は、ルティルに曲名を訊ねる。

 だが、その何気ない疑問で……、
 まさか、ルティルの正体が明らかになろうとは……、



「……ルティル=エル=サーレ?」

「なっ――!?」



 ――聞き覚えがあるのは、当然だった。

 何故なら、俺は、冬弥兄さんと、
由綺姉達が、この曲を歌っているのを、聴いた事があるのだ。

 『Poetry Love 〜出会いは詩うように〜』――

 古代魔法王国時代……、
 フォルラータには、歌好きの王女がいて……、

 その王女が、作詞・作曲した曲は、
未来にまで伝わっており、多くの歌姫達に唄われている。

 ……『Poetry Love』は、その代表曲なのだ。

 にも関わらず、ルティルは、
王女の曲を、自分で作詞・作曲した、と言っている。

 つまり、彼女は――
 俺の目の前にいる少女こそが――

「キミは冒険者だもんね……、
だったら、ボクの事を知っててもおかしくないか」

「やっぱり、そうなんだ……」

 歴史書などでしか見たことの無い人物――

 そんな彼女を目の当たりにし、
戸惑う俺に、ルティルは、ちょっと困ったような笑みを浮かべる。

 だが、唐突に……、
 パンッと両手を合わせると……、

「お願いだよっ、マコト!
ボクの事は、街の人達には黙っててっ!」

「あ、ああ……」

 懇願するルティル……、
 その勢いに圧されるように、俺は頷いた。

 どうやら、ルティルは、自分の身分を隠したいらしい。

 理由は分からないが……、
 彼女にも、色々と事情があるのだろう。

「……パルフェは、この事を知ってるのか?」

「親しい人達は、皆、知ってるよ」

「なら良いけど……、
その代わり、今後も普通に接するぞ?」

「そういう事なら、大歓迎っ!
さすが、冒険者だけあって、融通が利くねっ!」

「…………」

 別に、融通が利くのは、
冒険者だから、って訳でもないんだけどな……、

 単に、俺の知り合いの王族は、変わり者が多い、ってだけで……、

 例えば、HtH城の園村親子を筆頭に……、
 カノン王国の佐祐理さんとか、トゥスクルのエルルゥさんとか……、

 皆、王族のクセに、やたらと庶民的だからな……、

 まあ、話がややこしくなるので、
イチイチ、誤解を訂正するつもりは無いが……、

「それにしても……、
まさか、こんな所で、ルティル姫に会えるとは……」

 何となく、歴史を感じてしまい、俺は、感慨深げに呟く。

 すると、俺の頭の上に、
乗っていたミレイユが、何やら自慢げに胸を反らした。

「ボクは、すぐに気付いたよ♪
ルティルは、絶対に、只者じゃない、ってね♪」

「――というと?」

「だって、レア物を持ってるもん。
その髪飾りって、『風の精霊石』でしょ?」

 そう言って、ミレイユが指差したのは、ルティルの髪飾り……、

 小さな緑色の宝石をあしらった“それ”は、
ルティルの長く綺麗な髪を、ポニーテールに纏めている。

「うん、その子の言う通り、これは、風の精霊石だよ」

「精霊石って……あの精霊石か?」

 ミレイユの指摘に、ルティルが頷く。

 そんな彼女達の言葉に、驚きつつ、
俺は、以前、コミパで読んだ文献の内容を思い出していた。

 『精霊石』――

 魔法店などで売っている、
魔導石よりも、遥かに強力な魔力を持つ属性石。

 清らかな心から生まれる奇跡の石、と呼ばれ……、

 王族などは、精霊石を握って、
生まれてくる事もあるそうで、王家の証としても扱われているらしい。

 そんな大層な代物を、髪飾りとして使っているなんて……、

 なるほど……、
 それなら、ルティルが王族なのも頷ける。

 ――って、ちょっと待てよ。

「精霊石と言えば……、
確か、バルフェ達も、それらしいのを持っていなかったか?」

 彼女達が持つ“それ”を思い出し、俺は、驚きを隠せない。

 ――そう。
 パルフェ達もまた、精霊石を持っていた。

 パルフェは、『光の精霊石』のペンダント――
 ライナは、『火の精霊石』が埋め込まれた大剣――

 それらに加えて、ルティルまでもが――

 精霊石は、心より生まれる、という、
特殊な性質であるが故、とても希少な物である。

 あまりにも希少すぎて、
俺の時代では、ロクにお目に掛かった事もなければ……、

 誰かが持っている、という噂すら聞いた事が無いくらいだ。

 だと言うのに……、
 そんなレアなアイテムが、三つも揃っているなんて……、

 あまりの偶然に、俺は、自分の目を疑う。
 だが、次に、ルティルが発した言葉は、そんな俺を、さらに驚愕させた。

「フローレさんも『水の精霊石』を持ってるし、
ココットは『雷の精霊石』、レネットさんは『闇の精霊石』を持ってるよ」

「へっ……?」

「ああ、そういえば……、
大魔術師のお婆様も『氷の精霊石』を持ってるらしいよ」

「おいおいおいおい……」

 ということは……、
 この街には、七つもの精霊石があるのか?

 どうなってるんだ、この時代は……、

 古代魔法王国時代ってのは、
こんなにも、精霊石がゴロゴロしてるのかよ?

「……これで『地の精霊石』があれば、グランドスラムだな」

 世界を司る属性は八つ……、
 精霊石の種類も、それと同じ数だけある。

 八つの精霊石の内、この街に無いのは地の精霊石だけだ。

 その事を、冗談めかして言ったのだが……、

 『地の精霊石』……、
 俺が、その単語を言った途端、ルティルの表情が曇った。

「去年までは、あったの……、
浩治が『地の精霊石』の剣を持っていたから……」

「――“浩治”って?」

「あっ……」

 訊ねる俺に、ルティルは、
失言した、とでも言う様に、口に手を当てる。

 ……その名は、さっきも耳にした。

 俺が、藪の中から現れた時にも、
ルティルは、“浩治”という名を口にしていたのだ。

 まるで、現れた俺を、その人物と間違えたかのように……、

「なあ、“浩治”って、誰なんだ?」

 言葉を濁すばかりで、
ルティルは、一向に話そうとしない。

 あまり、深く詮索してはいけない事なのかもしれない……、

 と、思いつつも、どうしても、
気になった俺は、もう一度だけ、ルティルに訊ねた。

 すると、ルティルは……、
 ようやく、重い口を開くと……、

「……パルフェさんからは、何か聞いてるの?」

「いや、何も……」

「だったら……ボクからも、何も言えないよ」

「……そうか」

 何となく、予想はしていたが……、
 パルフェも関わっていた事に、俺は戸惑う。

 そういえば……、
 あの時、サケマス達は……、

 フロルエルモスは――
 “あいつ”が、命懸けで守った街だからな――

 もしかして……、

 サケマス達が言っていた、
“あいつ”というのが、“浩治”なのだろうか?

「わかった……じゃあ、これ以上は訊かない」

「うん、ありがとう」

 一体、パルフェ達に……、
 フロルエルモスに、何があったのか?

 正直、気にはなるけど、これ以上は、何も話してはくれないだろう。

 だいたい、ルティルとは、まだ初対面なのだ。
 そんな相手に、あまり根掘り葉掘り訊くのは、失礼である。

「ところでさ、マコト……、
そろそろ、その子を紹介してくれない?」

「えっ……?」

「――ほえ?」

 さっきまでの暗い表情は消え……、
 ルティルは、笑顔を取り戻すと、自分から話題を変えてきた。

 彼女のの視線の先は、俺の頭の上のミレイユだ。

「こいつは……白竜のミレイユだ」

「よろしく〜♪」

 そういえば……、
 まだ、ちゃんと紹介してなかったな。

 と、呟きつつ、俺は、ミレイユを抱き上げ、ルティルに渡した。

 嬉々として、ミレイユを受け取り、
ルティルは、彼女の柔らかな毛並みを堪能する。

「やっぱり、白竜なんだ……、
マコトは、そんなところまで、あの人に似てるんだね」

「…………」

 何かを懐かしむように、ミレイユの背中を撫でながら、ルティルが呟く。

 無意識なのか……、
 それとも、自覚しているのかは分からない。

 ただ、ハッキリと分かるのは――
 俺と同様に、白竜を連れていた者がいて――

 それが“浩治”という人物だ、という事だけ――

「まあ、マコトは女の子だし……、
あの人には、初対面で、水浴びを覗かれたんだけどね」

「…………」

 さっきも座っていた岩に腰掛け、
ルティルは、苦笑交じりに、ミレイユに語り掛けている。

 俺は、何も言わず……、
 水辺に腰を下ろして、その様子を眺めるだけ……、

 ……何も訊かない、と約束した。

 だから、気にはなるけど……、
 “浩治”について、これ以上、詮索はしない、と決めたのだ。

「ねえ、マコト……」

「……んっ?」

 ルティル達の話に、耳を傾けながら……、
 俺は、いつの間にか、ウトウトと、眠り掛けていたようだ。

 突然、ルティルに呼ばれ、俺は、慌てて、我に返る。

 見れば、既に、ミレイユは、
ルティルの膝の上で、丸くなって眠っており……、

 そんな彼女の頭を撫でながら……、
 ルティルは、寝ぼけ眼の俺を見て、クスクスと笑っていた。

「ボクにばっかりに喋らせないで、
マコトも、何でも良いから、面白い話を聞かせてよ」

「話と言われてもな……」

「キミは、冒険者なんでしょ?
ボクが知らない国の事とか、色々、知ってるんでしょ?」

「う、う〜む……」

 いきなり、話を振られ、
俺は、どうしたものか、と困ったように、頭を掻く。

 確かに、俺は、この旅で、世界中を回ってきた。

 故郷のリーフ島から始まり……、
 最後に寄ったカノン王国で、大陸を一周した事になる。

 もちろん、その途中で、
様々な出来事と遭遇したし、多くの仲間にも出会えた。

 とはいえ、それは、ルティルにとっては、未来の世界……、

 そんな世界の話を、
軽率に話してしまって良いものか……、

 と、未来への影響を危惧し、俺は迷う。

 すると、俺の迷いを知ってか知らずか……、
 ルティルが、上手い具合に、助け舟を出してくれた。

「ボク、歌が聴きたいな……、
世界中には、たくさんの歌があるんでしょ?」

「あ、ああ……」

 彼女の言葉に頷いてから、俺は、ハッと気付く。

 という事は、俺が唄うのか?
 正直、歌は、あまり得意じゃないんだけどな。

 でも、期待されている以上、
それに応えないわけにもいかないし……、

「じゃあ、まずは……、
ルティルの歌を聴かせてくれよ」

「ボクの……?」

「さっきは、途中で終わっちゃったし……」

「――うん、良いよ♪
出来れば、感想なんか聴かせてくれると嬉しいな」

「OK、善処する」

「それでは――」

 コホンッと、咳払いを一つ……、
 胸に手を当てて、ルティルは唄い始める。

     ・
     ・
     ・





 想いよ届け、と――
 あふれる気持ちを込めて――

 まるで、詩のように――

 お互いの絆を信じて――
 奇跡のような出会いを求める歌を――





「早く逢いたいの、この想い届いて欲しい♪
あ〜やふやな〜気持ちに、不安になるから〜♪」





 この少女の胸には……、
 一体、どんな想いが秘められているのだろう?

 ……少女は、どんな想いで、唄っているのだろう?





「いつかきっと〜、出逢う恋〜♪
溢れる、この気持ち、止まらない胸の鼓動〜♪」





 ――カウジーさんは言っていた。

 歌には力がある、と……、
 歌を紡ぐ者は、幸せを運ぶ者だ、と……、

 ならば、彼女の歌にだって、幸せを運ぶ力はあるはずだ。

 そして、彼女の歌は、きっと、
彼女自身にも、幸せを届けてくれるはずだ。





「詩うように〜、出会う恋〜♪
約束は〜、二人を〜、結ぶ永久の絆♪」





 俺には、何も出来ないけれど……、

 こうして……、
 歌を聴いてあげる事しか出来ないけれど……、










「――そっとそっと想いを込める♪」










 せめて、この歌声が……、

 少女の想い人に届きますように……、










 と、心から願いながら……、

 俺は、目を閉じて……、
 少女の美しい歌声に、耳を傾けるのだった。





<その4へ>
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なかがき

 ハートフルメモリーズの、
二人目のヒロイン『ルティル』の登場です。

 しかし、前回同様、内容のほとんどが、状況説明だけで終わってしまいました。

 とはいえ、これで、物語の、
基礎部分と伏線は、全て語り終えたと思います。

 まあ、原作をプレイした事があれば、バレバレなんですけどね。

 あと、誤解の無いように注釈……、
 原作では、レネット、ココット、大魔術師は、精霊石を所持していません。

 それでは、次回は、誠とパルフェ達との日常編です。