<G.川澄 舞の場合>





 さて、やはりナンパをするとなると、やはり人通りが多く、
女の子達が良く利用するような場所に行かねばなっ!

 となれば、やっぱりあそこしかあるまいっ!

 ……と、いうわけで、俺はこの街に唯一ある商店街へとやって来ていた。

 以前、この街に来た時のリサーチの結果、
この商店街は可愛い女の子の出現率が高いのだ。

 ふっふっふっふっ……、
 やはり、今の世の中を支配するのは情報だな。

 いかに有益な情報を得て、それを有効に用いるか……、
 それが可能な者こそが、あらゆるものを支配するのだっ!

 ああ……、
 やっぱり、俺って素晴らしいなぁ……、

 ……おっと、せっかくナンパに適した場所に来たわけだし、
いつまでも浸っているわけにはいかないな。

 さて、可愛い子はいないかな?

 と、俺は商店街の中を歩き回りながら、たまに通り過ぎて行く女の子達を物色する。

 う〜む……、
 なかなか、この俺にふさわしい女の子ってのは見つからないものだな。
 まあ、それも当たり前だと言えるんだけど……、

「――ん?」

 と、今日は日が悪いかと、半ば諦めかけていた時、
俺はこちらに向かって歩いてくる一人の女性に目を止めた。

 ややつり上がったクールな眼差し――
 大きなリボンで無造作に纏められた長い黒髪――

 そして、何かスポーツでもやっているのだろう。
 服の上からでも分かる、バランス良く鍛えられたしなやかなプロポーション――

 ――美人だっ!!

 ターゲットを補足した俺の目がキュピーンッと鋭く光る。

 多分、大学生だろうか?
 何処となく年上な気がするからな。

 年上のお姉さんとの長距離恋愛か……悪くない。

 よっしゃっ!!
 そうと決まれば、早速、アタックだっ!!

 内心、気合いを入れつつ、俺はさりげなさを装う為に、何食わぬ顔で歩みを進める。
 そして、俺と彼女がすれ違う直前に……、

「あの、ちょっといいかな?」

 と、俺は努めてフレンドリーに彼女に声を掛けた。
 だが……、








「…………」

 スタスタスタスタ……








「…………」

 俺の声に全く反応を示すことなく、彼女は俺の横を通りすぎていく。

 ……あれ?
 もしかして、聞こえなかったのかな?

 むう……、
 もうちょっと積極的にいくべきだったか。

 ――ならば、これでどうだっ!!

 俺はすぐさま彼女を追い駆けると、再び彼女の進行方向の先に立ち、
先程の反省点も踏まえて、もっと積極的にアプローチを試みる。








「お嬢さん、ちょっとお話が……」


 スタスタスタスタ……








 ――だが、結果は同じだった。

 俺、もしかして無視されてる?

 いやいや、そんな事があるわけないっ!!
 この世の女の子が、俺みたいなイイ男の存在を放っておくわけがないっ!!

 じゃあ、何故だ?!
 何故、あの子は俺に反応しないんだ?!

 何かが……何かが足りないのか?
 この完全無欠な俺のどこに足りないところがあるって言うんだ?


 ……。

 …………。

 ………………。


 ……そうか、わかったぞ。
 これは、神が俺に与えた試練なんだなっ!!

 俺は生まれた時からパーフェクトな男だ。
 それはもう、非の打ち所が無いほどの……、

 しかし、それはきっと、神のミスなんだ。
 なにせ自然の摂理から考えて、そんな完璧な男がいるのは間違っているだろうからな。
 つまり、俺という存在は、あまりに完璧過ぎて、自然の法則から逸脱してしまっているんだ。

 だから、神は、その代償として、俺に数多くの試練を与えてるんだ。

 うんっ!! きっとそうに違いない!
 そう考えると、今までの不運も充分に頷けるからなっ!!

 ふはははははははははははっ!!
 見ているがいい、神よっ!!
 俺はお前の試練を見事乗り越え、バラ色の人生を歩み続けてやるぜっ!!

 というわけで……、
 神が与えたもうた試練に打ち勝つ為にも、まずはあの子を落さねばっ!!

 俺は拳をギュッと握り締め、再度気合いを入れると、
彼女の先回りをすめ為に、駆け出した。








 そして……、








「ねえ、彼女♪ 俺とお茶しない?」


 スタスタスタスタ……








「あのさ、ちょっと道を訊ねたいんだけど……」


スタスタスタスタ……








「やあ♪ 俺と遊ばないかい?」


スタスタスタスタ……








「あの……」


 スタスタスタスタ……








「もしもし……?」

スタスタスタスタ……








「少しは俺の話を……」


 スタスタスタスタ……








 ……全然、見向きもしてくれないし。(泣)

 ちくしょう……どうなってやがるんだ?

 普通、これだけ話し掛けられたら、
ましてや道を訊ねられたりしたら、絶対に立ち止まるはずだぞ?

 それなのに、あの子は、全く俺の存在に反応を示さない。
 ただ、真っ直ぐに正面を見据えて、早足とも言える速さで歩いていくだけ……、

 ……ふ〜んだっ!!

 もういいよっ!!
 お前みたいな愛想の無い冷たい女なんて、こっちから願い下げだいっ!

 後から泣いてすがりついて来たって、知らないからなっ!
 そっちから寄ってきても、もう絶対に相手なんかしてやらないからなっ!

 ざまあみやがれってんだっ!!
 はーっはっはっはっはっはっはっ!!
















 しくしくしくしくしくしく……、(泣)
















「おっ……舞、遅かったな?」

「……ゴメン。遅れた」

「まあ、大して待ってないから良いけどな。でも、佐祐里さんはとっくに来てたんだぞ」

「あははー。気にしなくて良いですよ〜。
祐一さんの為におめかしするのに時間が掛かっちゃったんですよね〜♪」


 ――ぽかっ!


「きゃ〜♪」

「はっはっはっ! まあ、それは嬉しいんだけどな……、
舞、お前、履いてる靴が左右バラバラだぞ」

「あ……」

「やれやれ……今頃になって気付いたのか?
どうやら、頭の中は動物園でいっぱいだったみたいだな」

「……はちみつくまさん」

「あははー♪ 違いますよ、祐一さん。
舞の頭の中は、いつも祐一さんの事でいっぱいなんですよー」


 ぽかっ! ぽかっ! ぽかっ!


「きゃ〜♪ 痛い痛い♪」

「はいはい……遊ぶのはそのくらいにして、取り敢えず、二人のアパートに戻ろうぜ。
舞の靴をちゃんと履き替えないとな」

「……ぽんぽこたぬきさん」

「祐一さん、違いますよ〜。二人のアパートじゃなくて、三人のアパートです」

「三人って……舞と佐祐里さんと……あと、誰?」

「もちろん、祐一さんですよ〜♪」

「……早く、祐一も一緒に暮らす」(ポッ☆)

「そ、そうなの……」(汗)

「あははー♪ 佐祐里達はいつまでも待ってますからね〜♪」

「は、はははははははは……」(大汗)








<川澄 舞編 おわり>

 原案 石川 流衣
 執筆 STEVEN
















 ――さあ、この後、どうする?


まだまだぁ! この程度では諦めんっ!!
ダメだ……もう立ち直れない。



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