<H.柏木 楓の場合>





 人通りの多さでは、やはり商店街だろう。
 特に、常に人波が動く駅前は一番だろう。

 と、いうことで、俺はここでナンパに繰り出すことにした。






 5分後――。






「結構です」

 俺の言葉に、あっさり拒否する女性。
 う〜む。
 言葉のかけ方が間違えたか・・・。
 『一緒にクレープ食べよう』よりも『一緒にチョコパ食べよう』のほうがよかったのか?
 うんうん、そうに違いない。
 失敗したなぁ・・・俺・・・。






 そして、20分後――。






「ヤダ」
「え〜、バッグ買ってくれるんならいいよ〜」


 なかなか捕まらないな・・・。
 もう、10人の女の子に声をかけている。
 どうして誰も捕まらないんだ?
 と、いうより振り向いてもくれない。
 俺みたいなナイスガイが声をかけているのに・・・。

 ・・・。

 そうか! あまりにも格好良すぎて釣り合い取れていないと思っているのか。
 なんだ、そんなこと心配しなくていいのに・・・。
 格好良すぎるっていうのも結構大変なモノだな・・・。






 さらに20分後――。






「何であんたなんかと・・・」
「ふ〜んだ」
「しらな〜い」
「これから、デートなの!」

 ・・・。
 う〜む、先程から誰も俺様の微笑みに捕まらないな・・・。
 今日は、厄日なのか?
 そういえば今日の朝の占い、11位だったものな。

 そうだ、そうだったのだ!
 早く気付けよ、俺!
 やはり、占いには勝てなかったか・・・。

 今日は、帰って休んだほうがいいな。
 目覚○しテ○ビの占いは信憑性高いからな・・・。


 そう思って家の方に足を向けたとき、俺の袖を引く奴がいた。

「あの・・・すみません」
「ん、なんだよ・・・うおっ!?」

 思わず声を荒げて振り向いた俺を見つめているのは、おかっぱ頭の女の子。
 げっ、しまった・・・
 めちゃくちゃ可愛いじゃないか。

「?」

 俺様がジッと見ていると、そのぷりちーな女の子は首を傾げながらこちらを見る。
 あれは・・・「何で、話かけてきてよ」っていう目だ!!
 ヤバイ、ヤバイ。
 思わず、見とれてしまった。
 俺は瞬時にして、状況を立て直し、次に言うセリフを頭の中で作り出す。

「やぁキミ、どうしたの?」
「道を・・」

 ん? よく見ると、手には地図が・・・。

「もしかして、道に迷ったのかい?」
「はい・・・」

 素直にコクリと頷く。

 なんだ、道を訊ねてきたのか・・・。
 ちょっと残念・・・。
 う〜ん、だが可愛いぞ。
 これは、是非ともお近づきにならないと・・・。

「ここら辺の近くなのですが・・・」
「どれどれ・・・」

 俺は彼女に近づき、顔を近づけながら地図を見る格好になる。
 もちろん、わざとだ。
 その時、サラサラとした髪から漂う匂いが俺の鼻腔をくすぐる。

 くうぅ〜、たまらないねぇ〜(オヤジ調)
 女の子も可愛いし、言う事ないッス。

 おっとっと。
 話が脱線したよな。

 う〜ん、でも確かにここの近くっていえば近くだ。
 場所もだいたい把握できる。

 だがな・・・。

「確かにここら辺の場所だね」
「本当ですか・・・?」

「道を教えたいけどもね・・・」
「はい?」

「その前に、ちょっと休んでいかない?」

 指差した方向は喫茶店。

「え?」

 驚愕の顔でこちらを見る。

「でも、ちょっと・・・」

 困った顔をしながら俺のほうを見る。
 まぁ、普通そうだろう。
 だが、今のところ予定通り。

「ちょっと入り組んでいる場所だからね。チョコパでも食べながら話そうよ」

 訳の判らん理由で、女の子を誘う。

 ふっふっふ・・・。
 訳がわからんと思いきや、これぞ俺様の必殺技『チョコパ作戦』だ!!
 『クレープ作戦』は通用しなかったが、これは効果絶大!

 何せ、クレープと違って、パフェは『完璧な』っていう意味だからな!
 正に完璧なお菓子!
 俺のミラクルボイスでこの言葉で言えば、振り向かない女の子はいないのだぁぁぁーーっ!!(意味不明)

「チョコレートパフェ・・・?」

 一瞬、その言葉にピクリと反応する。
 よし! 喰らいついた!

「それって、ご馳走して貰えるのですか?」
「あぁ、もちろんだよ!」

 俺はニコリと爽やかスマイルを見せる。

「なら、ちょっとだけ・・・」

 よっしゃー!
 やはり、チョコパで正解じゃー。
 思惑通りに進んでいることで、俺、思わず心の中でガッツポーズ。

 やはり、いつもは運が悪いだけだったのさ。
 俺の手に掛かればこんなもんさ!

 本当の俺の力はもっとすごいのだ!
 見てろよ! 藤田 浩之! 藤井 誠!!
 この女の子をモノにしたら、次はお前らへの復讐劇だ!!




 その衝動を抑えつつ、俺はこの女の子と一緒に喫茶店へ入っていったのだった――。




















「えーっと。柏木 楓って名前なんだ」
「はい。よろしくお願いします、矢島さん」

 丁寧におじぎをする楓さん。
 なんで、さん付けなのかって?
 いや実は、俺と同じ年だったんだよ。
 一応、初めはな。
 言葉使いも注意しないと。
 それこそ、いい男の嗜みっていうものさ。

 ちなみに今日は、人を捜してこの街に来ているそうだ。
 まぁ、彼氏相手だか、友達だか、どういう人だか判らんが、俺には然程問題にすることではないだろう。


 新しい恋の予感を感じつつ、俺は楓さんを見る。

「・・・で、楓さんはどれを食べるんだい?」

 俺は楓さんの顔を眺めながら、メニューを渡す。

 ここは、俺が知っている中でも結構有名な喫茶店だ。
 中の雰囲気、客に対する料金の優しさ、接客。
 どれをとっても、三ツ星に値する。
 デートとかで来るには絶好の場所なんだ。

 もちろん、パフェの種類の数も多いぞ。
 チョコパを筆頭に、フルーツパフェ、抹茶パフェと色々とある。
 ここは、種類の豊富さもうりの1つだからな。

「う〜ん・・・」

 真剣に悩んでいる楓さん。
 その悩んでいる顔も可愛いぞ〜!

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 そこで、ちょうどよくウエイトレスが俺のところにやってくる。

「俺はコーヒー・・・彼女は・・・」
「私は・・・このビックパフェ――」

 ビックパフェ!?
 確か、2、3人前くらいの量があるぞ!
 そんな量を1人で食べるのか!?

 ・・・。
 ・・・まてよ。
 はは〜ん。

 もしかして、楓さん。一緒に食べて欲しくてコレを頼んだんだな。
 まったく、可愛いところがあるなぁ〜。
 そんなことしなくてもいいのに・・・。
 照れ屋さんなんだから・・・。


「――をまず10個お願いします・・・」


「「!?」」


 俺とウエイトレスは、言葉を失った。

 10個!!
 これも『まず』!?
 10個は俺でも食べられないぞ・・・。

「あの・・・10個でしょうか・・・?」

 ウエイトレスも耳を疑ったのか、もう一度楓さんに聞く。

「はい・・・10個です・・・」
「か、か、かしこまりました・・・」

 すると、慌てて厨房のほうに駆けていく店員。

「あの・・・大丈夫なの?」

 俺は恐る恐る聞いてみる。

「?」

 俺がそう言うと、首を傾げて疑問符が無数飛び交う。
 何を言っているのか判らないようだ。

「いや、そんなに食べて大丈夫なのかなって・・・」
「はい・・・これでも、かなり抑えてますよ。ちょっと少ないかも・・・」

 少なめ!?
 これで!?

 俺には、充分に食べているような感じがするのだが・・・。
 どういうことなんだ・・・??

 ・・・そっか。
 確か、『甘いものは別腹』っていうからな。

 まぁ、あまり深く考えないようにしよう。
 こんなときに女の子と話さないなんて、失礼に値する。

 さて、何か話題は・・・。



「楓さんってどんな事が趣味なの?」

「食べる事です・・・」


「へ、へぇ〜。ど、どういう食べ物が好きなの?」

「食べ物全般何でも好きです・・・」


「そ、そうなんだ。で、でも、パフェは好きなんでしょ?」

「嫌いじゃないです・・・」


「・・・」

「・・・」



 は、話し難い・・・。

「お待たせしました。ジャ、ジャンボパフェです・・・」

 そんな俺が困っていた時、おっかなビックリの表情でウエイトレスの人は、トントントンを3つパフェを置く。
 よし、ナイスタイミング。
 そして、おもむろに俺と楓さんの前にスプーンを置く。

「じゃ、じゃあ、食べようか? 楓さ――えぇぇぇーーっ!?

 俺が言いかけたその時に、すでにパフェがなくなっていた・・・。
 パフェそのものがなくなっているのではなく、中身だけが・・・。

 いったい、これはどういうことでしょう?
 目の前のものはいきなりなくなる・・・。
 これぞ、怪奇現象・・・。

 こ、こんな事があっていいのか!?

「・・・このパフェ、美味しいですね」
「えっ?」

 俺の混乱している中、楓さんがそんな事を言ってくる。

「お、美味しいって・・・?」
「はい、このパフェ美味しいです・・・」

「食べたの?」
「・・・いけなかったのでしょうか?」

 上目使いで俺のほうを見る。
 う〜ん・・・。可愛い・・・。

 い、いや、そういうことでなくて・・・。

「いつの間に食べたのかなって・・・?」
「見えなかったのですか?」

 見えなかったって・・・。
 そういうレベルなのか?

「残りのパフェです・・・」

 再びウエイトレスがやってきて、無くなった器を取り、新たなパフェが7つ並ぶ。

 シュッシュッシュッシュ・・・。

 そして、俺は見た。
 何時の間にかドンドンと消えて行くパフェの姿が・・・。

 み、見えない・・・。
 これは、いったい・・・!?

 そして、7つのパフェの入っていた器がすべて空になっていた。

「・・・」

 何も言葉の出ない俺。
 何々? やっぱり楓さんが食べたの?
 これってグル○デホ○ッグラ??

「か、楓さんって・・・食べるの早いんだね・・・」
「そうですか? 少々遅めなんですけど・・・」

 ???
 遅め??
 そんなバカな・・・。

 もしかして、食べてないんじゃ?
 う〜ん・・・。
 そんなに早く食べられるばずないしな。


 ん?
 でも・・・。
 何だか楓さんの口に・・・。

「あ・・・楓さん、口にクリーム・・・」
「えっ・・・(ポッ)」

 すっごく、可愛い〜。
 何が何だかよく判らなくなってきたが、可愛いので文句ナシ!!
 だめだぁ〜。辛抱たまらん!!

 俺はガシっと楓さんの手を握る。

「か、楓さん!」
「えっ? えっ?」

「あの・・・これから一緒に――」


「あれ? 楓さんじゃないですか!」


「!! 誠・・・君・・・?」

 安堵の溜め息みたいなものを吐く楓さん。
 くそっ! 邪魔が入ったか!!
 しかも藤井!!

 しかし・・・。
 楓さんって、藤井の知り合い?

 それってもしかして・・・。

「楓さん、探したよ。今日、こっちに来るって耕一さんから連絡があったから・・・」
「すみません・・・。どうしても、勝負したくて・・・」

「そう言うと思ったよ。ここの近くに美味しいラーメン屋があるからそこで勝負しよう!」
「はい・・・」

 な、何だか、主人公の俺様を無視して、話しの展開が進んでいるんですけど・・・。
 そして楓さんは、席を立つ。

「矢島さん、ありがとうございます。探していた人、見つかりました」

「ど、どういうことですか?」
「あの・・・私の探していた人って誠君なのです・・・」


 が〜〜〜〜ん!!!


 そ、そんなぁ〜。
 まさか、探していたのが藤井だったなんて・・・。

 またしても、藤田、藤井系列!!
 何で俺様に付きまとう!!


 何故だぁぁぁー―っ!!


 シクシクシク・・・。


「あの・・・ご馳走様でした・・・」

 そう言うと、ペコリをお辞儀して颯爽と喫茶店を出る楓さん。

 うっうっ・・・。
 な、何でいつも可愛い女の子みんなアイツらばかり・・・。
 も、もう誰も信じられないぞ!!
 みんな、大っ嫌いだぁぁぁーーーっ!!


 だっ!



「ちくしょぉぉぉぉーーーっ!!」



 俺は泣き叫びながら、喫茶店を飛び出そうとする。


「待ってください!」


 そう言って、俺の腕を掴んだのは、さっきのウェイトレス。

「なんか、訳有りだと察しますが・・・」

 あぁ・・・。
 キミには、俺の気持ちが判ってくれるんだね。

 その微笑みも天使の微笑みのようだ・・・。
 俺は、名も知らないキミに惚れてしまいそうだよ・・・。










「一応、お金払ってください」










「・・・」















 そして、何もかも真っ白になった――。










<柏木楓 編 おわり>

作者 ぴろり
















 ――さあ、この後、どうする?


まだまだぁ! この程度では諦めんっ!!
ダメだ……もう立ち直れない。



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