<G.アレイの場合>
さて、どこに行こうか?
高尚な目的があるとはいえ、ただ闇雲に歩き回るのは愚作と言うもんだ。
ふ、ちょっと難しい言葉を使ってしまったかな?
ともあれ、エレガンツにナンパをするべく、まずは情報収集からだ。
情報収集と言えば……、
『いらっしゃいませー』
人が集まるところ、俺は近くにあったコンビニに入ることにした。
人通りの多さでは商店街のほうがいいんだが……、
そこはそれ、俺の美女レーダーが反応したんだから間違いない。
この近辺には美女、もしくは美少女がいるに違いない!
「……あ、あの? どうかなされました?」
「うおっ!?」
おお、なんてこったい。
早速かわいい女の子に声をかけられてしまった。
さすが俺、自分からナンパしなくても相手のほうから声をかけてくれるなんて……、
そうだよ、いつもは運が悪いだけ。
本当の俺はこんなにもナイスガイなんだ!
見たか藤田! ザマミロ藤井! ついでに人類の敵テンカワ!
……む!
いかんいかん、俺としたことが女の子をほったらかしにしてしまうなんて。
ここはなるべくフレンドリーかつ馴れ馴れしくないよう話し掛けねば。
「やあやあ、俺になにか用かい!?」
「は? いえ、用事があるのはお客様では……」
ん? お客様?
おう! 何だ、よく見ればこの女の子はここの店員さんではないか!
そうだったのか、こんなところにかわいい女の子がいるなんて……、
店員ということは、ネームプレートをつけてるはず。
なるほど、アレイさんか。
良い名前だ、まるで俺と一緒になるべくしてつけられたかのような。
……少し変わった名前だけど。
さて、名前もわかったところで何か話題は……、
『ちわー、パンの納品っス』
「あ、ご苦労様ですー」
ちっ こんなときにタイミングの悪い。
……まてよ?
きょろきょろと店内を見回してみるが、いるのは目の前のアレイさんだけらしい。
そして今納品された大量のパンの山。
ふっふっふっふっふっふ。
なんて良いタイミングなんだ。
ここで俺がパンを並べるのを手伝ってあげれば、一気に二人の中は進展するはず!
そうと決まれば、レッツトライ!
「やあ、大変そうだね、手伝わせてよ?」
手伝ってあげると言わないところがポイントだ。
奥ゆかしさをアピール。
「え? いえ、お客様に手伝っていただくわけには……」
「いいのいいの、そんなの気にしない」
そう言って俺はパンの山に手をかけた。
ここは一度に全部運んで、力強さをアピールしておこう。
せーの!
「ぐっ!?」
たかがパンのくせになんて重いんだ!
しかし、持ちなおすのもなんかかっこ悪い。
薔薇色の未来のため、俺の腕よ、持ちあがってくれー!
「あの……無理なさらないように」
「いやあ、なに、こんなの朝飯前さ(きらーん☆)」
ぷるぷるぷるぷるぷる ぐらっ
「「あっ」」
ぱきっ
…しまった、ぐらついた拍子にどこかにぶつけてしまったみたいだ。
「あああ、チルドケースのガラスにヒビが……」
何、ヒビ!?
(財布の中確認……小銭ばっかし)
「と、とにかくパンのケースを移動させて」
ひょいっ、
「!!?」
え? ひょいっ、ですか?
あんなくそ重いケースを?
「ああ、ど、どうしよう。陣九朗さんに怒られます…」
………。
俺がやってしまったことと、怪力というキーワードが頭の中で混ざる。
数瞬後、頭に浮かんだのは変なふうに体のねじれた自分の姿だった。
「ええと、すいませんがあなたのお名前……いない?」
「いくらかわいい女の子の為とはいえ、俺はまだ死にたくないからな。
もっとも、女の子に『私のために死んで(はぁと)』って言われたら、その場は頷くけど」
――――――――――――――――ウィィィィィン……
しかし、さっきの子には悪い事をしたな。
―――――――――ウィィィィン…
…いや、ちがうな。
これは運命だったんだ。
きっと数日後にまためぐり合い、二人で愛を育むんだ。
――ウィィィィィン!
「待っててくれ! 俺はもっと素晴ら――」
ドバキィッ!!!
『うわらば!?』
(ん? 何かハネタかな?)
「アレイさんごめん、来るの遅れちまった」
「じ、陣九朗さん……あの」
「どうかしたか?」
そんなに怯えて。
「あの……チルドケースの……」
チルドケース?
「割ってしまいました、すいません!」
かなり潤んだ目で必死に頭を下げるアレイさん。
「あー、あれな。前からヒビはいってたんだ。
ちょっとヒビが広がってるみたいだが……いまさら気にすることはない。
どうせ新しいガラス、注文したところだしな」
「そ、そうだったんですか…」
「そ。だから気にすんな」
そう言ってアレイさんの頭をなでてやる。
うむ、言ってなかったのは悪かったな。反省。
………おや?
どうして俺は公園のゴミ箱になんか突っ込んでるんだ?
うーん、この前後のことが思い出せん。
何か体のあちこちが痛いし流血とかもしてる気がするんだが……、
ま、いいや。
こんなところに長居は無用。
さあっ!! いざ行かんっ!!
俺の恋人となるべき女の子達が待つ楽園へっ!!
<アレイ編 おわり>
作者 帝音
――さあ、この後、どうする?