<C.園村 はるか & 河合 あやめの場合>





「う〜む……なかなか良い子がいないなぁ〜」

 バラ色の学生生活を実現させる為、ナンパをする決意をした俺は、
可愛い女子を捜し求めて、街へと繰り出した。

 ……のだが、なかなか俺のハートにヒットする子は見つからない。

 もう、かれこれ一時間は商店街を歩き回っているのだが、
完全に徒労に終わってしまっている。

「やれやれ……ちょっと一休みするか」

 と、俺は自販機の前で立ち止まり、烏龍茶を買うと、
それを一口飲んで、一息入れることにした。

 う〜む……、
 こうして探してみると、なかなか見つからないものだよなぁ。

 烏龍茶を飲みながらも、
俺は前を通り過ぎて行く女の子達の観察を続ける。

 だが、俺の前を通り過ぎていくのは、
皆、そこそこ可愛いってくらいの女の子達ばかり……、

 はあ〜……、
 なかなか、神岸さんくらいに家庭的で、園村さんくらいに清楚で、
河合さんくらいに可愛い子ってのは見つからないなぁ〜……、

 ――は?
 理想が高すぎる? もっと分をわきまえろ?

 何を言っているんだっ!?
 俺みたいな超絶イイ男には、そのくらいの子が相応しいってモンだろうがっ!!

 しかし、ナンパってのは、結構、時間のかかるものなんだな。
 俺が街を歩けば、女の子の方から寄って来るもんだと思ってたけど……、

 ああっ! しまったっ!!
 俺としたことが、『矢島フィールド』を解除するのを、すっかり忘れていた。

 どうりで誰も言い寄って来ない筈だよな。
 矢島フィールドが展開されてたら、女の子は絶対に寄って来られないからなぁ。








「――説明しましょう♪
さっきから彼が言っている『矢島フィールド』っていうのは、
全身から硬派な雰囲気を醸し出すことによって、
女性が寄って来られないようにする、一種の結界のようなものよ。
本来、矢島君は凄くモテモテで、常に女の子が言い寄って来るんだけど、
四六時中、女の子が側に居られたら、自分の硬派なイメージが崩れてしまう。
そこで、このフィールドを展開することにより、
普段、彼は女の子が自分に寄って来られないようにしているのよ。
……もっとも、今更、説明する必要は無いんでしょうけど、
『矢島フィールド』は彼の架空のものでしかなく、
そんなものは最初から、全然、まったく、これっぽっちも存在していないわ。
つまり、矢島君に女の子が寄って来ないのは、元から彼に魅力が無いってことね。
一応、世間一般の標準よりも高いルックスだし、背も高いし、身体も逞しいから、
女性にモテる要素は充分にあるんでしょうけど、
こんな馬鹿げた事を妄想してしまうその性格が、彼のモテない要因に繋がっているんでしょうね。
そして、何より、一番の原因は、本人がその事に全く気が付いて……」









 ――はて?

 あんなところでフレサンジュ先生が何やらブツブツ言ってるぞ。
 一体、何やってるんだろう?

 ……ま、いいや。
 それよりも、今は矢島フィールドを解除しないとな。


 ………………。

 …………。

 ……。


 ……よしっ! 解除完了♪

 これで準備は万全だっ!!

 さあっ!! 俺の可愛い子猫ちゃん達っ!!
 遠慮無く、俺の側へ寄って……、








「うおぉぉぉーーーっ!!」


 ズドドドドドォォォーーーッ!!








「…………?」

 ……な、何だ?
 今、何かが物凄い勢いで走り抜けていったような?

 あまり突然の事に呆然としつつ、
俺は土煙を巻き起こしながら駆け抜けて行ったものを見送る。

 一瞬だけ、姿が見えたけど……、
 あれって、もしかして藤井か?

 ……うん。
 間違いなく、今、駆け抜けて行ったのは藤井だったぞ。

 なんか、何かから逃げているような、そんな必死の形相だったけど、
あいつ、一体何をやったんだ?

 もしかして、食い逃げでもやったのか?

 う〜む……藤井ならやりかねんな。
 何せ人一倍……いや、人千倍は食い意地が張ってるからな。

 ま、捕まったら、しっかりお勤めしてこいよ。
 その間、園村さん達のことは、安心して俺に任せておけ。

 もっとも、お前が出所してきた頃には、
園村さん達はお前の事なんかすっかり忘れているだろうけどな。

 と、俺がそんな事を考えつつ、
藤井が走り去っていった方角を眺め、ほくそ笑んでいると……、

「あの〜、ちょっとお訊ねしたいんですけど〜」

「――はい?」

 いきなり、後ろから声を掛けられ、
俺は思わず間の抜けた声を上げてしまった。

「な、何です……っ!!」

 慌てて、後ろを振り返る俺。
 そして、俺に話し掛けてきたであろう女性の姿をして、俺は言葉を失った。

 そこには、美人のお姉さんがいた。
 しかも、二人もっ!!

 一人は、桃色の髪を長い三つ網に纏めたた、おっとりとした雰囲気のお姉さん。
 そして、もう一人は、空色の髪を紐で一纏めにした活発そうなお姉さんだ。

 フッ……さすがだな、俺。
 矢島フィールドを解除した瞬間、こんな美人が同時に二人も寄って来るとは……、

 ……おっと、自分の魅力の効果に陶酔してる場合じゃないな。
 このチャンス、何としてでもモノにせねばっ!

「俺に何か用ですか?」

 と、ちょっと渋めの声でお姉さん達に返事をしつつ、
俺は飲み終えた烏龍茶の空き缶を、少し離れたところにあるゴミ箱に投げた。

 ふふん……、
 バスケ部員である俺にとって、この程度の距離のシュートなど簡単に……、


 カラン――

 コロコロコロコロ……


 ……は、外してしまった。(泣)
 クソッ! いきなりみっともないところを見られちまったぜ。

 俺は地面に落ちた空き缶を慌てて拾い上げ、ゴミ箱に放り込む。
 そして、気を取り直して、お姉さん達に向き直った。

「で、何です?」

「え、えっとですね……、
今、このあたりをあなたと同じ制服を着た子が通り掛りませんでした?」

「――へ?」

 と、桃色の髪のお姉さんの言葉に、俺は首を傾げる。

 ――俺と同じ制服を着た奴?
 それって、もしかして藤井のことか?

 ってことは、藤井はこの二人から逃げてるってことになるな。

 藤井の奴、ホントに何をやったんだ?
 こんな美人二人に追い駆けられるなんて……、

 ――はっ!!
 まさか、この二人のお姉さんに、痴漢行為を行ったのではっ!?

 うむ……あの最低男なら有り得るな。

 となれば、俺のするべきことは簡単だ。

 まずは、この二人に協力して、藤井を捕まえる。
 そして、協力したお礼に、お姉さん達に色々とサービスしてもらう。
 さらに、藤井が痴漢行為をしたって事を、長岡にでも話して、学校中に広めさせる。
 となれば、当然、藤井は人生の坂道真っ逆さま。
 園村さん達にも、愛想を尽かされ……、

 くっくっくっくっ……、
 完璧だ……完璧な計画だっ!!
 これで、園村さん達は俺のものになったも同然だな。

 ……さて、そうと決まれば早速実行だ。

「それらしい奴なら、あっちに走っていきましたけど」

 と、俺が藤井が逃げていった指差すと、
二人は顔を見合わせ、やっぱり、といった表情で頷き合う。

「あらあらあらあら♪ あやめさんの思った通りでしたね〜♪」

「ふっふっふっ〜……私達から逃げられると思ったら大間違いよ♪
さあ、行くわよ、はるかっ!」

「はいですっ!」

 空色の髪のお姉さん改め『あやめ』さんの掛け声とともに、
桃色の髪のお姉さん改め『はるか』さんは、俺が指差した方角へと走っていく。

「あ、教えてくれて、どうもありがとね♪」

 そして、あやめさんも俺に一言お礼を言うと、
はるかさんを追って、凄いスピードで走っていった。

「…………よっしゃ!」

 それをしばらく、見送ってから、俺もおもむろに駆け出す。

 せっかくだから、藤井の奴が捕まる現場をバッチリ見物させてもらわなきゃな。
 それに、場合によっては、俺の力が必要になるかもしれないし……、

 くっくっくっくっ……
 藤井 誠……容赦はしないぜっ!
 今までの恨み、キッチリ返してやるからなっ!

 …………しかし、あの二人、ムチャクチャ足速いな。

 この俺が本気で走ってるのに、ついて行くのがやっと……、
いや、ヘタしたら置いて行かれそうだ。

 クッ……、
 少しペースを上げるか……、

 と、俺が思い始めた時、先を走る二人が角を曲がり、
その姿が見えなくなってしまった。

 しまったっ!!
 このままじゃ見失っちまうっ!

 慌てて走るスピードを上げる俺。
 しかし、そんな俺の心配は杞憂に終わった。

 何故なら……、





「う、うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!
か、勘弁してくださぁぁぁぁーーーーいっ!」


「あらあらあらあら♪
捕まえちゃいましたよぉ〜♪」


「もう観念するしかないわねぇ〜♪」





 ……曲がり角の向こうから、藤井の悲鳴と、
はるかさん達の何やら楽しそうな声が聞こえてきたからだ。

 藤井の奴、とうとう捕まったみたいだな。
 どれどれ……一体、どんなヒドイ目に遭っているかジックリと見てやるとするか♪

 と、浮かれ足ではるかさん達のところへと急ぐ俺。

 そして、曲がり角を曲がった瞬間、俺は見てはいけないものを見てしまった。
















「んむむむむむ〜っ!!」


 んちゅ〜〜〜☆

 くちゅくちゅくちゅ……


「んふふふ〜……(ちゅぽ☆)……、
ふはぁ〜♪ 誠君、ご馳走様♪」


「次ははるかの番ですね〜♪ えいっ♪」

「ふむむむむむっ!!」


 んちゅ〜〜〜☆

 くちゅくちゅくちゅ……


「んっんっ……ふぁ……ふぅん……(ちゅぽ☆)……、
はふぅ〜♪ ご馳走様です、誠さん♪」

















 はるかさん達から、立て続けにディープキスをされる藤井。

 そして、唇が離れ、解放された藤井は、
まるで二人に生気でも吸われてしまったかのように、バッタリとその場に倒れてしまった。

 そして……、
















「あ……あ……あううううう〜〜〜」(バタッ)

「あらあら〜♪ 倒れちゃいましたね〜♪」

「ちょ〜っと刺激が強すぎたかしらね?」

「取り敢えず、このまま放っておくわけにもいきませんし……」

「家で介抱してあげなくちゃね♪」

「そうですね〜♪ 二人で添い寝してあげましょうね〜♪」
















 倒れたままピクリとも動かない藤井を、二人掛りで運んでいくはるかさん達。
 その姿は、まるで人攫いのようにも見えなくもない。

 そんな二人と、運ばれていく藤井の姿を呆然と見送りながら、俺は……、
















「何故だぁぁぁぁーーーっ!!」
















 世の中の不公平さに絶叫を上げつつ、
血の涙を流すのであった。








<園村 はるか & 河合 あやめ編 おわり>
















 ――さあ、この後、どうする?


まだまだぁ! この程度では諦めんっ!!
ダメだ……もう立ち直れない。



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