<A.エリア・ノースの場合>
「おおっ!?」
ナンパをしに街へ繰り出そうと決意した俺は、
校門を出よとしたところで、とある小柄な女の子の存在に気がついた。
少し大きめの制服を着た小柄な少女だ。
金髪に近い茶色の髪が、この学校の女子の制服の特徴であるワインレッドに良く映える、
育ちの良さそうな、なかなかの美少女だ。
しかし、あんな子、この学校にいたっけ?
一応、俺のハートにジャストミートする女の子の顔と名前は、
全員覚えているつもりだったが……、
もちろん、その筆頭に上げられるのは神岸さんだ。
俺は家庭的な子が好きだからな。
その点については、あの子は充分に合格ラインだ。
なんかもう、家庭的という言葉が体中から滲み出ている感じだ。
……そう。
例えるならば、まさに主婦といった……、
まあ、それはともかく……、
彼女を俺の栄えある恋人候補に加えようと考えた俺は、
ちょっと彼女を注意深く観察してみることにした。
誰かを待っているのだろうか?
彼女は校門の側で、塀に持たれながら、人待ち顔で、何度も校舎へと目を向けている。
彼氏でも待っているのだろうか?
もしそうなら、あんなに可愛い子を待たせるとはけしからんな。
よしっ! ここは、親切なこの俺が力になってあげるとしよう。
そして、あわよくば、そいつから奪い取ってやる。
ふっふっふっふっ……、
と、若干、打算的なことを目論みつつ、俺はその少女へと歩み寄った。
「やあやあ。誰か待っているのかい?」
「え? あ、はい」
突然、話し掛けてきた俺に少し戸惑いつつも、彼女は俺の言葉にコクリと頷く。
「……もしかして、彼氏?」
「いえ、そうではなくて……大切なお友達です」
――よっしゃっ!!
彼女のその言葉を聞き、俺は心の中でガッツポーズをした。
大切なお友達ってことは、相手は男じゃないっ!
つまり、彼女は現在フリーということだっ!
――ようやく、俺にもチャンスが巡ってきたみたいだな。
と、内心、感動に打ち震えながら、早速、俺は彼女に接近を試みる。
まずは、俺の親切さをアピールしないとな。
この子は育ちが良さそうだから、紳士的な男が好みに違いない。
「もし良かったら、俺が呼んできてやろうか?
もしかしたら、知っている子かもしれないし」
俺がそう言うと、彼女は少し固い表情をしつつも、ニッコリと微笑む。
「そうですか? それでは、お言葉に甘えさせていただきます。
園村 さくらさんと河合 あかねさんというんですけど、ご存知ですか?」
――なぬっ?!
彼女が口にした名前を聞き、俺はかなり驚いてしまった。
なんとっ! この子、園村さん達の知り合いだったのかっ!
偶然っていうのは、結構あるものなんだな。
「ああ、その子達のことなら良く知ってるよ。友達だからな」
「え? そうなんですか?」
俺の言葉に、彼女の強張っていた表情が一気に柔らかくなった。
俺が園村さん達の友達だと知り、心の中にあった警戒心が無くなったようだ。
以前、園村さん達に告白してフラれたとはいえ、
まさかこんなところで彼女達との交遊関係が役に立つとは思わなかったな。
とにかく、これでこの子の俺に対する不信感は無くなったわけだから、
目標へ向かって大きく一歩前進できたな。
あとは、俺の存在をよりアピールしつつ、ポイントを稼ぐのみっ!
「じゃあ、ひとっ走りして二人を呼んでくるからここで待っててくれよ」
俺は彼女にそう言うと、校舎へ戻る為に踵を返す。
と、その時……、
「……まてよ」
俺の脳裏にある予感が浮かんできた。
それも、出来ることなら考えたくないような、ハッキリ言って最悪の予感が……、
さっき、この子って、園村さん達のことを大切なお友達って言ったよな?
ってことは、当然、奴のことも知っているはず……、
まさか……、
まさか……、
「……あのさ、一つ訊いていいかい?」
「はい。何ですか?」
「園村さん達と知り合いってことは……、
もしかして、藤井のことも知ってたりする?」
と、俺が確認するように訊ねると、彼女はさも当たり前のように頷いた。
「誠さんのことですか? もちろん、知っていますよ?」
「…………」
彼女のその答えに、最悪の予感は、さらに大きなものになっていく。
「じゃあさ……もしかして……」
――これ以上、訊いてはいけない。
俺の中の何かが、そう叫んでいるのが分かる。
しかし、俺は、どうしても訊かずにはいられなかった。
「キミも……藤井の恋人だったりするの?」
「違いますよ」
いよっしゃぁぁぁーーーっ!!
彼女のキッパリとした否定の言葉に、
俺は今までの生涯の中でも最高の幸せを感じた。
おおっ!! 神よっ!!
今まで無神論者だったけど、今、この瞬間から、俺、あんたを信じるよっ!
そうかぁ〜……、
園村さん達っていう例があるから、この子も藤井の恋人だと思ってたけど……、
……良かった。
本当に良かった。
この子は、藤井の恋人じゃなかったんだぁ〜。(感涙)
「私は誠さんの恋人ではなくて……妻です」
――そうっ!!
この子は藤井の恋人じゃなくて…………はい?」
今、なんか、とんでもない単語が出てきたような気がしたけど……、
気のせいかな?
「あの……今、何て言ったの?」
絶対に気のせいだと思うが、念の為、俺は確認してみることにした。
「ですから、私は誠さんの恋人ではなくて妻です」(ポッ☆)
「…………」
その瞬間……、
俺の意識は、完全にフリーズした。
「エリアさ〜ん! お待たせ〜!」
「すみません、エリアさん。遅くなっちゃいました」
「いえいえ。私も今、来たところですから」
「あれ? エリアさん、制服着てきたんだ」
「はい。ちょっと気分転換に」
「ふふふ……それを着ていると、本当にこの学校の生徒みたいですねぇ」
「どうせなら、本当に生徒になっちゃえば?
お母さん達に頼めば、何とかしてくれるかもしれないよ」
「それはとてもありがたいんですけど……、
でも、私にはまだあちらの世界の仕事が残っていますから」
「そうですか……残念です」
「……ねえ、ところで、この人、誰?
何か固まったままピクリとも動かないんだけど……」
「誰って……お二人のお知り合いじゃないんですか?」
「あたし達、こんな人、全然知らないよ。ね、さくらちゃん」
「はい。全然知らない人ですよ」
「……でも、お二人のお友達って言ってましたよ?」
「うにゅ? そんなことは絶対に無いよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……怪しいですね」
「うみゅ、怪しいね」
「もしかして、これが世に言うストーカーというものなのでしょうか?」
「ねえ、さくらちゃん、エリアさん……怖いから早く行こうよ」
「そ、そうですね……こんな不気味な人の側にはいたくないです」
「じゃあ、行きましょうか」
…………はっ!!
いかんいかん……、
何かよく分からんが、ボーッとしてしまったな。
……はて?
そういえば、何で俺はこんなところで突っ立っているんだ?
確か、街でナンパをしようと決意して、校門を出ようとして……、
そして……、
……あれ?
何か、記憶の隅に引っ掛かるものがあるような……、
さっきまで、ここに誰かいなかったか?
俺、誰かと話をしていたような……、
痛てっ! 痛てててててててっ!
ぬう……、
何故か、その事を思い出そうとすると頭痛が……、
まあ、いいや。
忘れちまったんなら、別に大した事じゃないんだろう。
痛い重いをしてまで、無理に思い出す必要はない。
とにかく、今、俺がすべきことは街へ行くことだっ!
そして、可愛い女の子をゲットすることだっ!
さあっ!! いざ行かんっ!!
俺の恋人となるべき女の子達が待つ楽園へっ!!
……そして、俺は街へと繰り出していったのであった。
<エリア・ノース編 おわり>
――さあ、この後、どうする?