「……すまんっ!」
開口一番、俺は頭を下げた。

「こうして意見を聞くのも厚かましいと思ってる……
でも一人で色々考えるのも限界なんだ!
知恵だけでも……いや、知恵だけでいいから貸してくれ!さくら!あかね!エリア!フラン!」








Heart to Heart

番外編

「地球に優しく」(後編)







「確かに、まーくんが
私達を頼ってくれるのは嬉しいんですけど……」

「どうせなら、あたし達が
ご飯を作りに来た方が、手っ取り早いのになぁ」


さくらとあかねは、思った通りの反応を返してくれる。
俺はそれが嬉しいと思う反面、それはいけないと考えを振り切った。

「いやまぁ、確かに偶にさくらとあかねが飯を作りに来てくれるのは嬉しいけど……
いつもだなんて、そんな厚意の上に胡坐を掻く真似をしてちゃ駄目だと思うんだ。
ただでさえさくら、あかね、エリア、フラン、4人の世話になりっぱなしなんだからさ」
俺は落ち着かせるように、できるだけ優しい口調で4人に言い聞かせる。

「あたしなら、まーくんをお世話しっぱなしでもいいんだけどなぁ」
「でも、私達にお世話をかけまいとするまーくんは、とっても優しくて惚れ直しちゃいますよ?」
「あっ……確かにそうだね。えへへ」
何だかさくらとあかねは、2人で盛り上がっているようだ。
小声なのだが俺の耳には丸聞こえなので、少しずつ自分の頬が紅潮していくような気がする。

「……おほんっ!」
やや大仰に咳払いするエリアにより、俺達は改めて問題に直面した。

「つまり誠さんは出費を抑えるために、自分でできるようなエコ活動をしたいと」
「まぁ……有体に言えばそうなるな。尤も出費を抑えるのが第一だから、エコは二の次だけど」
俺は腕を組み、うんうんと頷きながら話す。

本当は理緒さんにでも話を聞ければかなりの力になるかとは思うが
バイトで忙しい理緒さんを捕まえて拘束する訳にもいかない。

「分かりました、やりましょう」
一番最初に乗り気になったのは、意外にもさくらだった。
「やってくれるのか!助かるぜ」
感謝の意を込めて、俺はぎゅっと両手を握り握手する。

「あっ……」(ぽっ☆)
途端にさくらの顔が赤くなるのが目の前で見てとれる。
「あーっ、さくらちゃんずるいー!あたしもするからまーくんあたしにもして!」
「あ、あの……誠さん、やりますから私にも……」
「ま、誠様……私にも……」
「わわっ、皆やってくれるのは嬉しいから、順番!順番にな!」
何だか握手だけで、俺達はひと騒動してしまった。

(まーくんがあんな事になったら、私達でもゴミを減らす努力をしなければなりませんし……
気が早いという事はありませんよね?今から楽しみですよね、まーくん……きゃっ☆)
さくらが小さく呟いた言葉は、
あかね達の喧騒に掻き消され、俺の耳に届く事はなかった。



「さてと、具体的にどうやって無駄を減らすかだが……」
落ち着いた俺達は、改めて問題に向き合う。
「はいっ!まーくん隊長!」
「ではあかね隊員どうぞ」
あかねが右手をシュタッと挙げて発言するので、何だか自然とこちらもあかねに合わせてしまう。
「何が無駄か徹底的に調べるために、藤井家をこの際洗いざらい調べた方がいいと思います!」
「……うっ」
あかねの無垢な提案に、俺は少し身が怯む。

確かにあかねの提案も一理ある。
俺がどんな無駄を出しているか、他人の目からパッと見た程度では分からないだろう。
だが調べられるとなると……それなりに見せたくないものもある訳で。
具体的にはベッドの下の男としての最高機密文書だ。


「し、仕方ないな……ウチの中の無駄、皆で探してくれ」
観念した俺は、やれやれと肩を竦めて頷く。
流石にさくら達もPCには触らないだろうから……PCの中に保存してある秘蔵画像データなら、何とかなる。
そう考え俺は最高機密文書に諦めを付けた。
さらば最高機密文書、浩之から譲り受けたその想いは決して無駄にはしない。




藤井家の探索が始まり、少し時間が経った時の事だった。
「あーっ!まーくん!」
台所をチェックしていたはずのあかねが声を荒げる。

「なんだなんだ……!?」
声の大きさに驚いた俺は、急いで台所に向かう。
「まーくん、ほら、これ!」
あかねの右手には……昨夜俺が捨てた、お茶「選ばれしもの」(○鷹)のペットボトルが握りしめられていた。

「このお茶のペットボトルが、どうかしたのか?」
「まーくん、今までペットボトルをゴミとして捨ててたの!?」
信じられないといった表情で、あかねが俺に詰め寄る。
「え、えと、まあ、そうだけど……無駄にならないようにちゃんと潰してスペースを小さくしてるし……」
「それだけじゃいけないんだよっ!」
あかねはいつになく強気な口調だ。

「ペットボトルはラベルを剥がして軽く洗って、近くのスーパーの回収ボックスに持っていかないと!」
「なぬ……回収ボックス!?そんなのがあったのか!?」
あかねの意見にには俺も腰を抜かす。
いや……単純に自分が見落としていただけだろうが。

スーパーに買い物に行く事なんて飯の材料の買い出しがほとんどである。
飯の材料を買いに行くという事は……即ち、それなりに空腹状態でスーパーに来ているという事で。
空腹状態という事は、食べ物に真っ先に目が移り、余分なものが見えないという状態である。

確かにペットボトルを潰せば、ゴミ袋に入れるスペースは小さくなるだろう。
だがそもそも潰さなければならないペットボトル自体がなくなったら……
それだけでも大幅なゴミの削減に繋がりそうだ。
ご飯にお茶はつきもの、飯を食えばそれだけお茶を飲む。
お茶を飲んだ後のゴミが無くなり、更にそれがリサイクルで環境に貢献できるとなれば一石二鳥だ。
いや、一石三鳥にも四鳥にもなるかもしれない。

「……確かに、こりゃ見落とすな」
自分の頭の中で情報を整理した俺は、改めて自分がいかに周りを見てなかったか反省する。
でもそれは同時に、気付いてくれた相手への感謝の気持ちも生まれる。
それはつまり……

「気付いてくれてありがとな、あかね」
なでなでなでなで……
感謝の気持ちを込めて、俺はあかねの頭を撫でる。
「うみゃあぁあぁあぁ〜……ん♪」
あかねは気持ちよさそうな表情をして、ご満悦の様子だ。



「……!」
「……!」
「……!」

だが俺のその行動は、他の狩人に火をつけたようだ。
……あれ?俺、もしかして今ので詰んだ……?



「まーくんまーくん!これ見てください!」
今度はさくらに急かされ、流し台の方に足を向ける。
「何か見つけたのか?」
「はい……これ、まーくんがいつもカップ麺を食べる時に使っているやかんです」
「何の変哲もないやかんだが……これがどうかしたのか?」
「まーくん、いつもお湯を計る時……そうですね、例えばカップ麺を5個食べるなら、お湯はどれくらい入れるとか計ってます?」
「計るって……目分量だけど」
「じゃあ……お湯を入れて麺が伸びるタイミングをずらすとか、余っちゃった時とか。そういう時はどうします?」
「カップ麺にお湯を入れるタイミングをずらす時はお湯はやかんに入れっぱなしだな……余ったらどうせ水道水だから捨てちゃうかも、余るにしても大した量は余らないし……」

「そこですよまーくん!」
「おわっ!?」
急に来たさくらの大迫力に、再度身を怯ませる俺。

「そういう時沸かしたお湯は一度ポットに移してしまいましょう。そうすれば捨てる事無く、温かいままでお湯が保存されて
カップ麺にお湯を入れるタイミングをずらすにしても、お湯が余っちゃっても、しばらくの間温かいままになります」

「そ、そうだったのか……」

さくらの案はごくごく初歩的なものだ。
だが初歩的過ぎて、ついつい見逃しがちだ。
改めて、女の子の着眼点って凄いな……と感心する。

「…………」
「…………」(汗)
少しの思慮から意識を戻せば、さくらが何かに期待する目で、きらきらと俺を見つめている。
……やっぱ、やらなきゃダメなんだろうな。

「気付いてくれてありがとな、さくら」
なでなでなでなで……
感謝の気持ちを込めて、俺はさくらの頭を撫でる。
「はふぅう……ん、気持ちいいですぅ……♪」(ぽわ〜)
さくらは少しだけ頬を染めて、蕩け顔になりすっかり御機嫌だ。

……俺以外にそんな表情を見せるなよな。
なんて、独占欲が少し過ぎるかな?


「あっ、そうだ」
「えっ?」
突然なでなでを中断されて、目をきょとんとさせるさくら。
「今はみんな探してくれてるからいいけど……少し経ったら忘れそうだ、俺。
だから見つけた事は、張り紙にしておいてくれないかな?」
「あっ……はい!分かりました!」
「それじゃあ、皆にも言ってくるな」
さくらが俺の言葉に頷いたのを確認すると
藤井家の探索をしている皆にも伝えるため、俺は台所を出て行ったのだった。



     ・
     ・
     ・

「まさかここまで無駄があったとは……」
所々張り紙に埋もれた我が家を見渡しながら、俺は少し狼狽する。

さて……張り紙をしてもらったのはいいものの、俺が実践しなければ何の意味もない。
どんな張り紙をされているのか、一つ一つ確認していこう。

「リビングの壁に張り紙が……
えーとなになに、使わない部屋の電気は消しましょう。
また、蛍光灯は時々掃除をする事をお勧めします。
明るくなりますし電気代の節約にもなります……
これを書いたのは……エリアの字だな」
なでなでなでなで……
「はぁ……誠さん、ありがとうございます……」(ぽわ〜)
蛍光灯を磨いたりするのは結構大掃除かもしれないが……まあ、休みの日にでもやるように心がけていれば違うだろう。


「物置の内側の壁にも張り紙が……
えーと、古新聞・古雑誌はお近くのスーパーのエコ・ステーションにお持ちください。
勿論古紙回収業者の方にトイレットペーパーなどと交換するのも良いのですが
スーパーのエコ・ステーションにお持ちいただくとそのスーパーのポイントが付与されます。
スーパーのポイントというのは食材その他生活用品にダイレクトに直結しますから、こちらの方がお得かと思われます……
この文章でも丁寧な口調になってしまうのはフランだな」
なでなでなでなで……
「ま、誠様……ワタシにまでそのようなお戯れを……」(ぽわ〜)
しかし近所のスーパーにそんなコンテナみたいなものがあったなんて……俺、どれだけ見落としてるんだ。


なでなでなでなで……
「まーくん……♪」(ぽわ〜)

なでなでなでなで……
「うみゃあぁ〜ん……♪」(ぽわ〜)

なでなでなでなで……
「誠さん……♪」(ぽわ〜)

なでなでなでなで……
「誠様……♪」(ぽわ〜)






どれくらいそんな事をしていたのだろうか。
半ば張り紙を見つける宝探しとなでなでに没頭していたら、気が付けばもうすっかり辺りは夕焼けに包まれていた。
「おっ……と!もうこんな時間なのか」
俺になでなでにすっかり蕩け顔になった4人の改めて意識を引き戻す。
「あらもうこんな時間、お夕飯の準備をしないと……」
「お風呂の用意もしないといけませんね……」
「何も連絡がないとお母さんも心配するだろうし……」
「ルミラ様にも一言連絡を入れないといけませんし、夕飯のお買い物もまだですね……」
各自、過ぎ去った時間に気づき慌てだす。
そうか、もう今日1日が終わってしまうのか。

4人で一緒にいられる大切な時間。
俺に出来る事は、少しでも長くこの時間を維持して行く事だ。
だからこそゴミ袋の出費なんかでこの生活を苦しいものにしたくないし
地球環境も守って、次の世代へ緑を繋いでいかなければならない。

そう思えば、張り紙だらけになったこの家も
息が詰まるどころか、チャレンジ精神が沸いてきた。

何より、皆が俺のために見つけて、してくれた事なんだ。
絶対に守って、お返ししてやらないと……な。



「でも……」
不意にあかねが呟いた言葉。
それがいけなかった。

「これでスーパーエコロジーまーくんの誕生だね!」
そんな事を言われ、俺も少し調子に乗っていたのかもしれない。

「あぁ……昨日までの浪費癖の俺は死んだ。
今日、これからここにいるのは……地球環境を守る、藤井 ECOとだ」


その瞬間、


ビュゴオオオオオオオオオオオオ…………
猛烈な吹雪が俺以外の4人を襲った。


「畜生ーーーーーーっ!笑えぇーーーーーー!!!」
ズガガガガガガガガガ!!


ヤケになった俺のマシンガンが炸裂する。
「ふぶき」で動きを止め、動かなくなった的にマシンガンを当てる……
しょうもない必殺コンボを生み出してしまった俺は、頭を抱えるのだった。


地球に優しく…END













⊂おまけ⊃

「さて、もうそろそろ寝るか……」
作業に一区切りをつけた俺は、ベッドに横になる。
もう辺りも真っ暗だし、明日からはまた学校だ。
PCの横にも「夜更かししてPCは電気代の無駄ですからね」なんて感じのエリアの張り紙がある。
まあ、エリアと最初に会った時徹夜でプログラムの復旧作業をしてたから、エリアにとっても思い出深いんだろうなぁ。

「……ん?」
ふと視線を壁の方にやると、いくつかベッド脇の壁にもいくつかの張り紙がしてあるのが見えた。
おかしいな、こんな張り紙あったっけ……と思いつつ俺は体を起こし、張り紙の内容を確認する。
「えーと……」

『生ならゴム代タダよ誠君!』
『早くはるかに可愛い孫を抱かせてくださいね♪』
『勿論、みーちゃんがまこりんの筆下ろしをする時も
ゴムなんていらないからね!』

「だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!
何勝手な事書いてるんだ
この母親達はぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!」


この張り紙を捨てると非常によろしくない事が起こりそうな嫌な予感がしつつも
教育上と精神衛生上よろしくないので、俺は
母親達の張り紙をくしゃくしゃと丸めると、ゴミ箱に捨てたのだった。

……あ、余分なゴミが増えてしまった。


今度こそEND


[後書きのコーナー]

はい、(作者の)本宮です。
HtH単発SS「地球に優しく」、いかがでしたでしょうか?

随分SSを書く事から遠ざかっていましたが
久し振りにLFRをプレイして、
久し振りに学園の図書室に足を運んで、
久し振りにHtHを読み耽って……
気が付いたらHtHSSを書き始めていました。

いやぁ……相変わらず、生活の端々からネタだけは出るんですよね。
まぁ、当時と比べると表現が回りくどくなったかな……?という気はします。
予定外に長くなって、前後編構成になってしまいましたし。

ちなみに節約ネタやゴミ袋の値段はうちの地元基準です。
都会にはエコステなんてあるのかなぁ……?
などと疑問が沸いてしまいますが、そこは大目に見てください。

皆様が楽しめる作品をお届けできたらいいなあと思っております。
それでは、今後とも「学園の図書室」、並びに「ILLUSIONISTS」をよろしくお願いいたします。


<コメント>

STEVEN 「一番、手っ取り早いエコ……、
       というか、出費を抑える方法って、何か知ってるか?」(−−ゞ
浩之・誠 「そ、そんな方法があるのか?」Σ( ̄□ ̄)
STEVEN 「これは、ボクの実体験から来るものなんだが――」
浩之・誠 「ほほう……」φ・_・)

STEVEN 「ズバリ! 結婚すれば良いっ!」(・_・b

誠 「――ぶっ!?」Σ( ̄□ ̄)
浩之 「そりゃ、また……極論だな」(^_^ゞ
STEVEN 「だってさ、ボク達が、どんなに自力で頑張っても、所詮、主婦には敵わないし?
       嫁さんがやってる事を見ながら、少しずつ覚えていくんだよ」(−o−)
誠 「な、なるほど……」(−−;
STEVEN 「実際、結婚する前、ボクは、コンビニを利用してたんだけど、
       嫁さんと、スーパーで買い物するようになってからは、一切、コンビニには行かなくなった。
       スーパーの方が、遥かに安いからな」(−o−)
浩之 「あ〜、そうなると、ペットボトルの回収ボックスとかも把握してそうだな」(−−;
STEVEN 「うむ、牛乳パックも、ちゃんと解体して、持っていくぞ。
       ある程度の底値も把握出来るようになった」<(^▽^)>
誠 「……しっかりと、奥さんに教育されてるな」(^_^ゞ
浩之 「調教、とも言うかもな。
    まあ、何にしても、リア充爆発しろ、と言っておいてやろう」ヽ( ´`)
誠 「まったくだな……」ヽ( ´`)
STEVEN 「その台詞……お前らに言う資格あるのか?」(^_^メ