「朝ー、朝だよー」

 朝――

 目覚めのまどろみを楽しんでいた俺は、
あかねの声に覚醒した。

「む〜〜〜……むにゃむにゃ」

 しかし、このまま起きるものしゃくなので、
俺は寝たフリを決め込む。

「もうっ! 早く起きないとキスしちゃうぞぉ☆」

 おっ!! おはようのキスか!
 だったら、なおさらここで起きるわけにはいかないな。(爆)

「もお〜、しょうがないな〜♪」

 あかねはそう言って、ゆっくりと俺に顔を近付けてくる。

「おはよう、お兄ちゃん……ちゅっ☆」

 そして、俺の頬にあかねの柔らかな唇の感触が……って、ええっ!?

 なにぃっ!?
 
お兄ちゃんだぁっ!?





Heart to Heart & 藤田家のたさいシリーズ
クロスオーバーSS 外伝

Leaf Quest
そして、たさいへ……






 俺の名前は『誠』。

 ここ、『リーフ大陸』でも一、二を争う大きさの国『トゥーハート』では
結構有名な腕利きの剣士だ。

 どれくらい腕利きなのかと言うと、
以前も、大量発生したモンスターを一網打尽にしたばかりだ。

 ……もっとも、そのほとんどを倒したのは、相棒の二人なんだけどな。

「ねえねえ、お兄ちゃん。王様の御用って、一体何なんだろうね?」

 その相棒の一人が、今、俺の隣りを歩いているこいつだ。

 名前を『あかね』といい、まあ、一応、俺の妹である……らしい。

 で、そのあかねと一緒に、俺は今、城下町を歩いている。
 こんな朝っぱらから、この国の王が俺を呼び出しやがったのだ。

 って、そんなことよりも……、

「なあ、あかね……」

「ん? な〜に、お兄ちゃん」

「…………何で、俺がお前の『お兄ちゃん』なんだ?」

「しょうがないよ。このお話では、そういう設定なんだもん」

「しょうがないって……お前な、よっっっく考えろよ。
俺とお前が兄妹でいいのか? 本当にいいのか?」

「…………………やだ」

 俺の言葉に、あかねはようやく事態の重大さに気付いたようだ。

 ……兄妹じゃ、恋人にはなれないもんな。

「どうしよう……もう設定は変えられないよ?」

「大丈夫だ! 実は血が繋がっていない兄妹だったってことにすればいいんだ」

「あっ! そっか! でも、そんなことしていいのかな?」

「いいのいいの。こういう世界では、そういう設定は当たり前だからな。
というわけで、これからはお兄ちゃんじゃなくて……」

「うん! まーくんって呼ぶね♪」

 ……結局、そうなるわけな。

 嬉しそうなあかねの笑顔に、多少ゲンナリしながらも、
俺はあかねを連れて城への道を急いだ。








 というわけで、城に到着した俺達は、早速、謁見の間に案内された。

 そこには、偉そうに王座に座るツンツン頭の男が一人。
 この男こそが、この国の王『矢島』だ。

「誠よ、よくぞ来てくれた」

 矢島はそう言って、偉そうに俺達を王座から見下ろす。

「ったく、こんな朝っぱらから一体何の用だよ、矢島?」

「お前……一国の王を呼び捨てにするとはいい度胸だな?」

 と、俺の態度に顔を引きつらせる矢島。

 フンッ! 一国の王だかなんだか知らんが、所詮は矢島だ。
呼び捨てで充分だぜ。

「ンなことより、ちゃっちゃっと用件を言ってくれよ」

「ぐっ、くくく……わ、わかった」

 怒りに顔を真っ赤にしつつも、矢島は何とか落ち着きを取り戻す。
 そして、俺達への用件を話し始めた。

「実はな……お前に魔人の討伐を頼みたいのだ」

「魔人?」

「そうだ。その魔人はとんでもないスケベな奴で、
昨夜、この城にいる10人もの美少女達を攫っていったのだ!」

「……美少女達って?」

「料理長の『あかり』、メイド頭の『セリオ』、同じくメイドの『マルチ』、
宮廷魔術師の『芹香』、その妹で近衛隊長の『綾香』、芹香の助手の『琴音』、
門番の『葵』、司書の『智子』、弓隊隊長の『レミィ』、そして、伝令兵の『理緒』の10人だ」

「そんなに女の子かっさらって、どうするつもりなんだ?」

「決まっておるだろう! 奴は自分のハーレムを作ろうとしているのだ!」

「なっ!!」

 矢島の言葉に、俺は絶句する。

 ハ、ハーレムだとっ!?
 そ、そんな
漢の夢を実現させようとしているのか?!

 そりゃ、ある意味尊敬に値するけど、
でも、嫌がる女の子を攫ってまで作ろうってのは、黙ってられねぇな。

「……分かった。その魔人を倒して、
女の子達を助けてくればいいんだな?」

 俺の返事に、矢島の表情が輝く。

「おおっ! 引き受けてくれるか!」

「ああ……で、報酬は?」

「何だ? 善意で引き受けてくれるのではないのか?」

「ったりめーだ!! こちとら命かけて仕事するんだぞ!
それ相応の報酬を貰わなきゃやってられねーぜ!」

「そ、それもそうだな……では、どうしたものか」

 俺の現実的な意見に、矢島は頭を捻り出す。
 そして、何か良い案が浮かんだのか、ポンを手を叩いた。

「そうだ。本来ならば私の妻となるべき女性なのだが、
隣りの小国の姫との婚姻を許すこととしよう」


 
がいんっ!!


「はうっ!!」

 矢島のその言葉と同時に、
どこからともなく現れた人物に、矢島は張り倒される。

「どうしてわたしが貴方と結婚しなくちゃいけないんですか!?
そんな設定、ありませんでしたよ!」

 と、フライパンを縦に構えた少女が、床に倒れた矢島を見下ろす。

 彼女こそか、今、矢島が言った隣りの小国の姫様だ。
 名前を『さくら』という。

「だいたい、貴方なんかにわたしとまーくんの婚姻を認めてもらう必要なんかありません!
わたしとまーくんが結ばれるのはもう決まっていることなんですから!
……ねっ♪ まーくん♪」

 そう言って、俺にニッコリと微笑みかけるさくら。

「あ、ああ……そうだな」

 ……さくら……フライパン握ったまま微笑まれると、ちょっち怖いんですけど。

 と、ちょっと汗ジトになりつつも、俺は頷く。

 さて、何故、一国の姫であるさくらが
あかね同様、俺をまーくんと呼ぶのかをここで説明するとしよう。

 と言っても、理由は簡単、俺もさくらもあかねも幼馴染みだからだ。

 ちなみに、例のモンスター大量発生事件の時の相棒のもう一人が
このさくらだったらする。

「う、ぐぅぅぅ……ちょっとした冗談じゃないか」

「……冗談でも、許しません」

 さくらに睨まれ、身を小さくする矢島。

 ったく、なんつー情けない王様だ。
 この国、こんなのが王様で大丈夫なのか?

「ま、まあ、それしゃあ、報酬は相場の倍の賞金でいいかな?」

 さくらの鋭い視線に堪えつつ、矢島は話を元に戻す。

「ああ。それくらいでいいよ」

「うむ……それでは、これは餞別だ。持っていくがよい」

 そう言って、矢島はパンパンと手を叩く。

 すると、一人の兵が、宝箱を抱えてやってきた。
 音をたてないように、慎重に俺達の前に置く。

 なるほど。
 このテの話にはお約束の「さあ、その宝箱を開けるがよい」ってやつか。

 さてさて。では早速……、


 
ガチャッ……


 俺はゆっくりと箱の蓋を開け、中身を取り出した。

「銅の剣に棍棒にひのきの棒、それに布の服が二着……、
おいおい……王様のクセにこの程度のモンしか出せないのかよ」

 そのあまりのセコさに、俺は心底呆れてしまった。

 ったく、国民から税金はたんまり取ってるクセによ。
 こんなモンだったら、今、俺達が装備している物の方がよっぽどいいぜ。

「し、仕方がないだろう! これがお約束というものだ!」

 と、ムキになって反論する矢島。

 ……ま、いいけどさ。
 お前なんか最初からあてにしてないし。

「んじゃま、サッサと行きますかね。
さくら、お前もついて来るんだろ?」

「はい。もちろんです☆」

 俺に声をかけられ、さくらは嬉しそうに頷くと、
ててててっと俺に駆け寄ってくる。

「頼んだぞ! 勇者よ!」

 ……人を勝手に勇者呼ばわりするなよ。

 立ち去り際、矢島からの無責任な激励に、俺は大きくタメ息をつく。

「……この国の勇者は一人だけだぜ」

 『勇者』という単語で、『ある男』のことを思い出しながら、
俺は相棒のさくらとあかねを連れて、城を後にしたのだった。








<つづく>