Heart to Heart

   
 第50話 「長い一日」







 
ピンポーン……ピンポーン……


 ある日の朝――

 あたしとさくらちゃんは、まーくんのお家に来ていた。
 何故なら、いつもの待ち合わせ場所にまーくんがいなかったから。

 あたし達、学校に行く時は、いつも通り道にある公園で待ち合わせてるの。

 でも、今朝は、いつもの時間になっても、まーくんは来なかった。
 きっと、またお寝坊さんだね。

 だから、今朝はさくらちゃんとまーくんをお出迎えなの。


 
ピンポーン……ピンポーン……


 で、さっきから何度もチャイムを押してるんだけど、全然出てくる気配は無い。

「まーくんってば、本格的にお寝坊さんだね」

「……そうみたいですね」

 チャイムを押していたさくらちゃんは、カバンから鍵を取り出した。
 まーくんのお母さんから預かっている合鍵だ。
 もちろん、あたしも持ってるよ。


 
カチャカチャ……


「うふふふ……♪」

 鍵をドアの鍵穴に入れるさくらちゃん。
 何だか、とっても嬉しそう。

 ……えへへ♪
 実は、あたしもちょっと嬉しいの。
 だって、もしかしたら、まーくんの寝顔が見られるかもしれないでしょ?


 
――カチャン


 あっ、ドアが開いたみたい。

「えへへへへ♪」

「うふふふふ♪」

 いそいそとあたし達は、お家の中に入る。








 そして、あたし達は目を見開いた。

 だって……、

















 玄関先で、パジャマ姿のまーくんが倒れていたんだもんっ!!
















「……38.2℃……完璧に風邪ね」

 玄関先で倒れていたまーくんを発見したあたし達は、
慌ててまーくんをお部屋に連れていって、ベッドに寝かせた。

 そして、あたし達のお家に電話をした。

 さくらちゃんのお母さんはお出掛けしてていなかったけど、
あたしのお母さんがいたから、すぐに来てもらった。

 で、まーくんのお熱を測ったんだけど……、

「「そんなにっ!?」」

 まーくんのお熱を聞いて、あたし達は大声を上げてしまった。
 慌てて、口を押さえる。

 今、まーくんは眠ってる。
 もしかしたら、気を失っているのかもしれないんだけど、
とにかく、起こしちゃダメだもんね。

「まーくん、そんなにお熱があるのに、どうしてあんなところで……」

「多分、あなた達が来たから出迎えようとしたのね。
で、途中で力尽きて倒れた、ってところかしら?」

「じゃあ、わたし達のせいで……」

「あなた達が責任を感じることは無いわよ。無茶した誠君が悪いんだから。
でも、階段から落ちたりしなくて良かったわ。
弱った体じゃロクに受け身なんて取れないだろうから、最悪の場合……っと」

 そこまで言って、お母さんは慌てて口を閉ざす。
 でも、あたし達は、その言葉の続きは分かっていた。



 ……最悪の場合、まーくんは死んでいた。



 脳裏に過ったその言葉に、あたしは頭から血の気が引くのが分かった。

「まーくん……」


 
――ふらっ


「さくらちゃんっ?!」

 突然、よろめいたさくらちゃんをあたしは支える。

「さくらちゃん、あなたまで倒れてどうするのっ!
こういう時こそ、しっかりしないさいっ!」

「は、はいっ」

 お母さんの厳しい声に、さくらちゃんは我に返る。

 でも、やっぱりまだ足に力が入らないみたい。
 ペタンと床に座り込んでしまう。

 実は、あたしもさっきから足がガクガク震えて、立ってるのがやっとって感じ。
 さくらちゃんが倒れたりしなかったら、多分、先にあたしが倒れてたと思う。

「あらあら……」

 そんなあたしの様子を見て、お母さんは苦笑する。

「誠君がちょっと風邪引いて倒れたくらいでそんなになっちゃうなんて。
ホント、誠君のことが大好きなのね」

「お母さん……まーくん、大丈夫だよね?」

「心配いらないわよ、あかね。
さあ、誠君のことはお母さんに任せて、あなた達は学校に行きなさい」

 と、お母さんはあたし達に優しく微笑む。

「えっ……でも、今更……」

 あたしは時計を見た。
 時計の針はとっくに9時を回っている。
 もう完全に遅刻だ、
 だったら、今日はお休みして、まーくんの看病を……、

「あなた達の気持ちは分かるわ。でも、行きなさい」

 あたしの言いたいことを察したお母さんは、そうキッパリと言った。

「お母さん、でも……」

「自分が原因であなた達に学校を休ませたりしたら、誠君が責任を感じちゃうでしょ。
この子、そういうこと凄く気にするから。
そんなこと、あなた達だって知ってるでしょ?」

 お母さんの言葉に何も言えず、あたしとさくらちゃんは黙って頷く。

「だったら、早く行きなさい。学校には、連絡しておくから」

「うん……わかった」

「……あやめさん……まーくんのこと、お願いします」
















 そして、学校――

 お母さんから連絡がいっていたので、
あたし達は遅刻したことで先生に怒られることはなかった。

 そして、何事も無かったかのように授業が再開する。

 教科書片手に、先生が説明しながら黒板にチョークをはしらせる。
 クラスメートのみんなは、それをノートに書き写していく。

 でも、今のあたし達に、そんな余裕なんて無い。

 まーくんのことが心配で……、
 熱に苦しむまーくんの顔が頭から離れなくて……、

 授業に集中することなんて、出来るわけがない。

 授業中、あたし達は何度も時計を見た。
 その度に、タメ息をつく。

 時間が、すごくゆっくり流れてる気がする。

 もっと早く時間が過ぎて欲しい。
 早く、放課後になって欲しい。



 早く……、



 早く……、



 早く……、



 でも、どんなに願っても、時間の進みは変わらない。








 一日が、こんなに長いと感じたことは無かった。








<続く>
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