Ｈｅａｒｔ ｔｏ Ｈｅａｒｔ
＋白雪姫
「ひろゆき姫」
昔々あるところに――
ひろゆき姫という、それはそれは可愛らしいお姫さまがいました。
リーフ王国の国王・耕一の娘として生まれたひろゆき姫は、チンピラみたいに目付きの悪く、
言葉使いも男まさりですが、世界一可愛いのですっ！！
そうじゃないと話が進まないのでしかたないのです。
「……って、ちょっと待てっ！！
俺まで女装ネタか？！」
時空の狭間から呪詛の言葉が聞こえてきますが……、
気にしたらその時点で負けです。
「白雪姫と言ったらラストで王子とキスだろっ！！
まさか、王子って……もがっ！！」
――こらっ、冒頭でオチ言うんじゃない。
「だ〜っ、やっぱり、相手って雅――（ぷすっ）」
皆さん、なにも見てないし聞いてないですよね。(にっこり)
イネス先生から麻酔薬入りの注射以外に、
記憶がちょっと消えちゃう注射も頂いたんですけど……、
……一本いっとく？
――コホンッ。
さて、このひろゆき姫の生みの母親、つまり王妃様は、
ひろゆき姫を産んですぐに亡くなられてしまいました。
そのころリーフ王国は隣国のヨーク帝国との戦争をしており、
王妃・楓はヨーク帝国の放った暗殺者に殺されてしまったのです。
その後、耕一王は鬼の如き強さでヨーク帝国を破りましたが、
戦争に勝ったところで死んだ人間が生きかえるわけもなく、
ひろゆき姫は母というものを知らずに育ちました。
ひろゆき姫はそんなこと気にもしていませんでしたが、
そんな姫を不憫に思った耕一王は姫の寂しさを慰めるためにも、再婚をすることにしました。
耕一王は、楓王妃が亡くなってから、ずっとそばで自分を支えてくれたその女性となら、
３人で新しい家庭が築けると思い、ひろゆき姫に相談しました。
再婚話に最初は難色をしめしたひろゆき姫も、耕一王と相手の女性の真摯な説得に……、
「しょーがねーなー」
と、最後には再婚に賛成しました。
耕一王が選んだ女性は、亡くなった楓王妃の姉妹で、名を千鶴といいました。
千鶴王妃はとても美しく、やさしい人柄でした。
義理の親子、嫁と姑や継母と娘は仲が悪いことが多いのですが、
ひろゆき姫と本当の親子のように仲良しでした。
また家庭的な性格をしていた千鶴王妃は、
メイドがいるにもかかわらず、家族の部屋の掃除と洗濯は、自らの手でおこない……、
王宮にはお抱えの宮廷料理人がいるにもかかわらず、
千鶴王妃は愛する家族のために自慢の料理の腕を振るいました。
家族の団欒を大切にする王妃様は、
可能な限り３人で食卓を囲むようにしていました。
しかし、それが悲劇の始まりでした。
なんと、千鶴王妃は料理が下手だったのです。
ちょっと下手なくらいなら逆に愛嬌があって良いのかもしれませんが、
千鶴王妃の手料理は『クジラですら一撃、象でもダース単位』と、
男塾における毒の強さと同じ方向で評価されるような代物でした。
さらに、自覚症状がないので救いがありません。
食事のたびに耕一王とひろゆき姫は死線をくぐりました。
しかも、耕一王と千鶴王妃は新婚ホヤホヤの夫婦です。
「耕一さん、この鳥の唐揚げは自信作なんですよ。
はい、あーん♪ してくださいね」（はぁと）
なんて、下に手を添えて、食べさせてあげるのは日常茶飯事です。
「そんな、自分で食べれますよ、千鶴さん」（汗）
耕一王は娘の前で恥かしかったり、まだ死にたくなかったりで、やんわりと辞退しますが、
「遠慮しないで、あーん♪」（はぁと）
らぶらぶなオーラ力がみなぎっている千鶴王妃には敵いません。
耕一王は何かを呟いた後、観念したように口を開けます。
「楓ちゃん会いに行くよ……あーん」（涙）
もぐも……ぐふっ！！！！
照れからか顔を真っ赤にしながら口のものを胃袋に流し込む耕一王。
ひろゆき姫が尊敬の眼差しでそれを見つめています。
「その……お味の方はどうですか？」
千鶴王妃が期待の眼差しで耕一王に尋ねます。
「トッテモオイシイデス」
「ふふ、よかったです。あら、ひろちゃんどうしたんですか、こっちをじーっと見て？」
千鶴王妃がひろゆき姫の視線に気付いて尋ねると、
ひろゆき姫が答えるよりも早く耕一王が答えました。
「ひろも、きっと食べさせて欲しいんですよ、千鶴さん」（ニヤリ）
ひろゆき姫は「謀ったな、シャア！」という表情で耕一王を見ましたが、
優しい笑みを浮かべた千鶴王妃に唐揚げを彼女の口元に……、
……といった感じの、視覚的には仲睦まじく、
実質的には拷問に近い食事がしばらく続いたのでした。
そんなこんなで一ヶ月――
千鶴王妃の手料理を食べつづけたひろゆき姫は、
食後、三途の川の辺で、亡き母と３度目の邂逅を果したのを機に、
千鶴王妃の手料理の無い世界を夢見て、家出をしました。
実はひろゆき姫と千鶴王妃は３度の食事だけではなく、
お茶、お菓子が千鶴王妃のお手製のおやつも一緒に食べていたので、
色々追い詰められていたのです。
ひろゆき姫の家出に最初に気付いたのは千鶴王妃でした。
ひろゆき姫の部屋を掃除中、机の上で……、
少しの間、旅に出ます。
探さないで下さい。
ひろゆき・ソム・柏木
……と、書かれた置手紙を見つけたのです。
千鶴王妃はひろゆき姫の家出に大きく驚きました。
千鶴王妃は、やはり親子二人のところに自分が割り込んだのが、
いけないのだろうか等と真剣に悩みました。
それに比べ、理由が痛いほど分っていた耕一王は千鶴王妃にあまり深く考えないように言い、
置手紙にあった通り、ひろゆき姫を探すこともしませんでした。
腹が減ったら……もとい、胃の調子が良くなったら、
自分から帰ってくるだろうと思ったためです。
しかし、家出の理由に心当たりがない千鶴王妃は心配で心配でなりません。
そこで千鶴王妃はお城の宝物庫にある魔法の鏡を使ってひろゆき姫を探すことにしました。
この鏡は尋ねられた質問の答えを魔法の電波で見つけてくれるという優れものです。
千鶴王妃は鏡の前に立つと、さっそく呪文を唱え、ひろゆき姫の居場所を尋ねます。
「テクマクマヤコン・マークンロリコン……、
祐介さん、世界一の美少女がどこにいるか教えてください」
ちなみに祐介とは魔法の鏡に宿る人格の名前です。
「ちょっと待ってください、千鶴さん」
魔法の鏡に優しそうな顔をした少年の顔が浮かびあがり返事をすると、
早速電波を使って世界一の美少女を探し始めました。
チリチリチリチリチリチリチリチリ……
「わかりました。世界一の美少女、月島瑠璃子さんは、
城下町にある王立雫病院で看護婦さんをしています」
「ちょ、ちょっと、世界一の美少女はひろゆき姫じゃないんですか」
千鶴王妃は魔法の鏡にくってかかります。
千鶴王妃は世界一の美少女は９割方ひろゆき姫で、
自分が選ばれる可能性も１割くらいあるんじゃないかなーと思っていたのです。
ちなみに、千鶴王妃は今年（ピー）才で美『少女』にはかなり厳しい年だったりします。
「ひろゆき姫はもちろん、芹香さんとかみことさんとか、
他にもきれいな娘はいっぱいいるし……、
僕の好みだと瑠璃子さんが一番じゃないかなと……」
「うぅ〜……じゃあ、しょうがありませんね。
ひろゆき姫がどこにいるか教えてください」
千鶴王妃は、ＨｔＨ世界で祐介の恋人は沙織ちゃんなのに、
瑠璃子さんが一番と言いきる祐介くんに、色々聞きたいと思いましたが、
グッと我慢して本題を切り出しました。
「ひろゆき姫の居場所ですね」
チリチリチリチリチリチリチリチリ……
「わかりました。ひろゆき姫はレェーウェルの森に居ます」
レェーウェルの森はお城の南に広がる広大な森です。
しかし、耕一王に探す気がないため兵隊を派遣して探すことはできません。
そこで千鶴王妃はポケットマネーで国一番のハンター・津岡を雇いました。
王妃はひろゆき姫がお腹を空かせているといけないと思い、
腕によりをかけて作ったアップルパイを持たせた上で、
森からひろゆき姫を連れかえるようハンターに命じました。
さて、その頃ひろゆき姫は――
森で出会った７人の小人たちの家に招待されていました。
食いしん坊な男の子の小人の藤井まーくんと、その恋人のさくらっち、
あかねっち、えりりん、フラン、なーちゃん、くーちゃんの７人の恋人たちは、
レェーウェルの森の管理人だったので、ひろゆき姫を保護したのです。
ひろゆき姫は、最初は追っ手に見つかりにくい森の奥で、
テントを張ってしばらく胃休めをするつもりでしたが、
森の管理人のまーくんたちと話し合った結果、しばらく藤井家に居候させてもらうことになりました。
ひろゆき姫は藤井の七人が森の見回りにいってる昼間は、
家の掃除やみんなの服の洗濯をして家の留守を預かり、
夜はみんなに森の様子を聞いたりお城での生活を話したりして楽しく過ごしました。
何日か経ち、胃の調子も良くなってきたある日――
いつものようにひろゆき姫が家で留守番していると……、
「あおーん！！」
玄関の方から犬の鳴き声が聞こえて聞こえてきました。
その鳴き声を確かめに玄関に向かい、ドアを開けると……、
そこには、森の中に似つかわしくないメイド服を着て、
バスケットを抱えた少女と、大きなニビ色の猟犬がいました。
「ひろゆき姫さまですね。はじめまして、わたしは津岡チキと申します。
千鶴王妃の使いであなたをお城に連れ戻しに参りました」
ひろゆき姫は隠れんぼで鬼を泣かせてしまうほどの自分が、
こんなに短期間で見つかったことに驚きました。
目の前の少女にそんなことができるとは思えなかったからです。
そんなひろゆき姫の疑問にチキちゃんが答えます。
「森にいることは王妃さまが魔法の鏡で調べたんですよ」
「で、森の入り口から、その犬が匂いを辿ってきたわけか」
「――はい」
その答えを聞き、最初はなんとか逃げだそうと考えていたひろゆき姫も、
魔法の鏡と、賢いわんちゃんが相手ではどうしようもないと諦めました。
「今までお世話になった人にお礼を言わないといけないし、
もうすぐ家の人が帰ってくるから少し待ってくれないか」
もともと王妃さまと仲が悪かった訳ではありませんし、
本気で心配されている以上、ひろゆき姫は帰ることを決断しました。
「わかりました。夜１２時にもう一度お迎えに参ります」
チキちゃんは少しの間ひろゆき姫の顔を見つめた後、
あっさりとその願いを聞き入れました。
「信じてくれてありがとう。お願いします」
逃げるかもしれない自分を強引に連れかえろうとせず、
それどころか、見張らずに、お別れの時間までくれたチキちゃんに、
ひろゆき姫は軽く頭を下げました。
「いえ、それでは月が高く昇る頃にまた」
チキちゃんは後ろに控えていた大きなわんちゃんの上に跨ると、静かに森の中に消えていきました。
夕方、ひろゆき姫がまーくんたちにお城に帰ることを告げると、
まーくんたちはひろゆき姫のためささやかな送別会を開きました。
珍しいキノコや木の実を使った美味しい料理が山のようにテーブルに並びました。
ひろゆき姫は明日からの食生活を考え、
まーくんと同じくらい料理を平らげ、二人につられた女の子たちもいっぱい食べました。
宴会が終わってしばらくすると、チキちゃんがひろゆき姫を迎えにやってきました。
「ひろゆき姫さま、そろそろよろしいでしょうか？」
森の管理人であるまーくんは夜の森の怖さを良く知っていたので、
チキちゃんに泊まっていくことを勧めました。
「夜の森は危険ですよ。今晩は泊まっていったらどうですか」
「わたしには頼もしい人生のパートナー（予定）がいますから大丈夫です」
大丈夫といわれても、女性二人＋わんちゃん一匹では不安です。
まーくんは森の出口まで二人を送っていくことにしました。
残りの６人も送りにいこうと思いましたが、
二人に合わせていっぱい食べたため、お腹が苦しくて動けません。
「じゃあ、一応、森の出口まで送りますよ。
皆は帰りが遅くなるから先に寝ておいてくれ」
皆の状態を見たまーくんがそう言うと、くーちゃんが少し不満そうな顔をしました。
「……順番は一つずつずらすから」
その様子を見たまーくんがくーちゃんに近づき耳元でそう呟くと、
くーちゃんの機嫌はすぐに直りました……なんの順番かは謎ですが。
「「「「「「さよーならー、またねー♪」」」」」」
ひろゆき姫は６人に見送られ、しばらく世話になった家を出ました。
「やっぱり、この森にも山賊とか出るんですか？」
道すがら、チキちゃんがまーくんに尋ねます。
「昔はいたんですけど、えりりんが転職するように説得して、
今は山賊も密猟者もいないんですよ」
「そんなヤツらが、よく説得なんかに応じたな」
まーくんの返事にひろゆき姫が疑問を投げかけます。
「まあ、ファイヤーボールで散々どつかれた後、笑顔で転職か転生かの二択を迫られればな」
「……えりりんって、そんな性格だったのか？」
「ああ見えて、うちじゃ怒らせると２番目に怖いんだよ」
「へー、ちなみに一番は」
「――フラン」
「へっ？ フランちゃんとなーちゃんが、一番怖く無さそうだと思ったんだけどな」
「爆発するえりりんに対してフランを怒らせると、
こう真綿で首を絞められるように、じわじわと……」
「色々苦労してそうだな、まーくん」
「ハハハハハハハハッ」
過去に思い当たる節が色々あったのでしょうか、
まーくんの乾いた笑いが森に木霊します。
「そうですよ。女の子を怒らすと怖いんですよ」（くすっ）
先頭を歩いていたチキちゃんの後ろを歩いていたわんちゃんが、
左右に振っていた尻尾を急に丸めるあたり真実味があります。
「まあ、６人もの女の子に手を出したんだから、
多少の苦労は自業自得ってやつだけどな」
「……うぐぅ」
「お前がいっても可愛くねーぞ」
……などと、他愛も無いおしゃべりをしているうちに、一行は森の出口に辿りつきました。
「それじゃ、お世話になったな。また今度お礼しに行くよ」
「まあ、また遊びにきな。家出じゃなければ歓迎するよ」
さよならの挨拶を交す二人見ていたチキちゃんは、
ふと、千鶴王妃のアップルパイを預かっていることを思い出しました。
お腹を空かしていたら渡すようにと渡されていたものですが、
ひろゆき姫がまーくんたちに保護されていたのですっかり忘れていたのです。
「あの実はひろゆき姫にとアップルパイを預かってきたのですが、
これをまーくんに差し上げたらどうでしょうか」
「――アップルパイ？」
「はい、これです」
チキちゃんがバスケットからアップルパイを取り出し、
ひろゆき姫に手渡しながら返事をします。
この時ひろゆき姫が少し頭を働かせれば、そのアップルパイをチキちゃんに渡したのは誰なのか、
ひいてはそれが誰の手に因るものなのか容易に判ったはずですが……、
「丁度いいや、デザートに食っといてくれ」
……と言い、アップルパイをまーくんにプレゼントしました。
「ありがたくいただいておくよ」
美味しそうなアップルパイを貰ったまーくんは、ホクホク顔です。
「んじゃ、またな」
「お世話になりました」
「ああ、二人とも元気でな」
こうして、ひろゆき姫は無事にお城に帰っていきました。
二人の背中が見えなくなるまでしっかり見送った後、
まーくんは森の中へと引き返していきました。
「やみーにかっくっれていきるっ♪
おれたちゃ、よーかいにんげんなのさー♪」
美味しそうなアップルパイを貰ったまーくんは、
ご機嫌に懐かしのアニメソングを歌いながら家路を急ぎます。
なにか出そうな夜の森ということを考えると凄い選曲ですが、
誰も聞いてないので問題ありません。
家まであと半分のところまできた時、まーくんのお腹が……、
ぐ〜……
……と、鳴りました。
森を歩いている内に段々お腹が減ってきたのです。
まーくんはアップルパイ片手に考えました。
やっぱりこれは家に帰って皆で食べるべきか、
それともこの場でこっそり始末してしまうか。
「う〜ん」
ぐ〜……
「う〜ん」
ぐ〜……
「う」
ぐぅ〜……
「こんなにお腹が減ってたら良い考えも浮かばないな。
とりあえず食べてから考えることにしよう」
暫し熟考した後、まーくんはすごい結論に達しました。
「いただきまーす♪」
まーくんは見た目は美味しそうな千鶴王妃作のアップルパイを、
大きな口を開けて一口で食べました。
もぐもぐもぐ……
ぱたっ――
ある意味こっそり一人で食べた天罰なのかもしれません。
アップルパイ一切れなら不味いで話は済んだかもしれませんが、
丸々一個は完全に致死量だったのです。
まーくんは悲鳴すら上げれず糸の切れた人形のように崩れ落ちました。
翌朝帰って来てないまーくんを探しにきた恋人たちは、
地面に倒れているまーくんを見つけました。
そう――
まーくんは死んでいたのです。
六人はまーくんの亡骸を家へと運びベットの上に乗せると、
死んだまーくんの周りに座って三日間も泣き続けていました。
恋人たちはまーくんを土に埋めようとしましたが、
まーくんの頬はまだ生きているように紅く、まるで眠っているようでした。
「まーくんを暗く冷たい土の中に埋めるなんてできないよ」
そんな今にも目を覚まして、再び微笑んでくれそうなまーくんを、
恋人たちは埋めることができず、ガラス製の透明な棺桶をつくると、その中にまーくんをいれました。
その棺桶は山の上に作った台座の上に置き、
いつも誰か一人がそばにいて見張り番をしていました。
猫も来てまーくんのことを悲しんで泣きました。
まーくんが眠りについてから一週間たった日の朝――
三人の冒険者が藤井家にやってきました。
世間を騒がせて調子に乗っている魔王ガディムを軽くシメてきた帰りという冒険者に、
さくらっちたちはまーくんをなんとか生き返らせる方法はないかと聞きました。
世界中を旅してきた冒険者なら、なにか方法を知ってるかもしれないと思ったのです。
事情を聞いた三人の冒険者、武道家のあやっち、料理人のはるっち、
獣使いのみーちゃんは、山の上で眠るまーくんの様子を見て言いました。
「北の国にどんなに深い眠りも覚ますという薬、
『謎ジャム』があるって聞いたことがあるわ」
「同じ国に、寝てる人を起こさせたら業界（？）トップクラスの
少年がいるって噂を耳にしたことがあります」
「でも、そんな遠くに行かなくても、
みーちゃんたちでなんとかできるかもしれない」
みーちゃんの言葉を聞いた六人は喜びました。
「「「「「「お願いします、どうかまーくんを助けてください」」」」」」
「「「了解♪」」」
三人の冒険者は娘たちの快く引き受けました。
「じゃあはるっちからいただきますね♪」
「あー、はるっちズルイ」
「じゃあ、あたしは二番♪」
「なっ？！ あやっちまで」
「みーちゃんは最後ですね」
「悪いわね、早いもん勝ちよ」
「うぅ〜、ちゃんと残しといてよぉー」
あまりに乗り気な三人を不信に思ったさくらっちが尋ねます。
「どんな方法でまーくんを復活させるんですか？」
「はるっちたちの生命エネルギーを口から分け与えるんですよ」
「く、くちからって……キ、キスするってことですか？」
「まうす・とぅ・まうすは人命救助の基本ですよ」
そう言うや否や、はるっちは両手を誠君の頬に添えて、
んちゅ〜〜〜☆
「「「「「「っ！？」」」」」」
その光景を見た瞬間、六人はあまりの事に固まりました。
「んっ……んっんっ……ぅふん♪」
しかも、はるっちは音符マークがつくほどノリノリで、
まーくんの口に舌まで差込んだりしています。
――ちゅぽっ☆
はるっちとまーくんの唇が、湿った音を立てて離れます。
「はふう〜☆」
はるっちはちょっと上気した頬に手を当てて、満足気に微笑みました。
「…………」
しかし、まーくんはまだエネルギーが足りないのか反応しません。
「「「「「「…………」」」」」」
恋人達も呆然としてなんの反応もしません。
そこへすかさず……、
「次はあたしね♪」
んちゅ〜〜〜☆
今度は、あやっちがまーくんの唇を奪いました。
「うっ、うふん……はぅ……ううん……♪」
「うっ、くふ……はぁ……うくく……」
もちろんディープキスです。
段々回復しているのか、今度はまーくんも少し反応しています。
その反応に気を良くしたあやっちは、さらに攻めたてます。
「んん…くぅ……はぅん……ふぁ……んんん♪」
「うくっ……んんっ……うぅ……ふぅ」
まーくんを救うためかどうか怪しく思ってしまうほど、長々と口付けをするあやっち。
――ちゅぽっ☆
しばらくしてあやっちも満足（？）したのか、
はるっちの時と同様の音を立てて、二人の唇が離れます。
「んふふふふふ♪」
ニンマリと微笑んで、舌なめずりをするあやっち。
しかし、これはあくまでまーくんを助けるためにやっているのです。
「あうぅ〜〜〜〜」
その証拠にまーくんが言葉にならない声を発しました。
「「「「「「あうぅ〜〜〜〜……」」」」」」
恋人たちも目の前でまーくんにディープキスかまされて、ちょっとばかり壊れてきています。
何人かは『おしおき』と書かれた箱のなかに、
メモ用紙になにかを書いては次々と放りこんでいますが、悪いのはまーくんなのでしょうか？
そんな恋人たちの様子を気にも留めず、
待ってましたとばかりにみーちゃんが名乗りをあげます。
「三番手みーちゃん、いきまーす♪」
そばまでスキップしながら近づいたみーちゃんは、
まーくんの額に掛った髪をやさしくかきあげると……、
――ちゅ☆
あらわになった額にやさしくキスしました。
そして、みーちゃんはその口をまーくんの耳に寄せて、
「かわいい恋人達を泣かしちゃダメでしょ、誠」（ぽそぽそ）
小さな声でなにかを呟きます。
すると、まーくんがむっくりと上半身を起こし、目を細く開けながら呟きました。
「……真昼の日差しが眩しいぜ」
そう、まーくんはついに息を吹き返したのです。
恋人たちはその姿を見て大喜びです。
「太陽のせいで目が『いたいよう』……」
――ヒュウウウ〜〜〜〜……
感動で盛りあがった雰囲気が凍りつきました。
恋人たちの笑顔も引き攣っています。
「どうです、界王様？ これで弟子に……って、あれ？」
まだ、意識がはっきりしないのか、意味不明なことを呟くまーくん。
周りをキョロキョロ見渡している内に段々と目の焦点が合ってきました。
「あれ？ 俺は生き返ったのか」
「「「「「「まーくん」」」」」」
それを聞いた六人の恋人たちが、みーちゃんを押し退け、
まーくんの胸に飛び込みます。
「――へっ！？」
突然のことに対応が遅れたまーくんは六人を支えきる事ができず、
棺桶の置いてあった台座から勢いよく転落しました。
――ごちん☆
しかも後頭部から。
…………………、
……………、
………、
…、
し〜〜〜〜〜〜〜ん。
いやーな静寂が、あたりを支配し……、
ぴくぴくぴく……ぴくぴく…ぴくっ……
まーくんが痙攣する音だけが耳につきます。
「――えっ、弟子試験合格ですか？」
「「「「「「そっちに逝っちゃだめー（です）！！」」」」」」
その後、恋人たちの献身的な介護で現世に帰ってきたまーくんは、
ご飯を食べる時は、ゆっくり、少しずつ味わって食べるようになったとさ。
めでたくもなく、かなしくもなく、そして、オチもなく……、
お・わ・り。
＜おわり＞
＜あとがき＞
ひろゆき姫／七人の恋人たちを最後までお読みいただきありがとうございます。
私の普段のものに比べて文量二倍……しかも、オトせませんでした。
シリアスならともかく、ネタ勝負の話だらだら書いちゃいけませんよね。
あと、雅史王子がひろゆき姫の目を覚ます話を期待してた方すみません。
最初のプロットだと大活躍だったんですけど……何処で間違ったんだろう？
いや、アイディア自体がトチ狂ってるってツッコミは勘弁してください。
＜コメント＞
沙織 「取り敢えず、火の玉スパァァァーーーイクッ！！」Σ（￣□￣メ
祐介 「にょえぇぇぇーーーーーーっ！！」（＠○＠）
キラ〜ン……☆
誠 「お〜……よく飛んでるな〜」（‘＿‘）
さくら 「まーくん……他人事じゃありませんよ」（＾＿＾メ
あかね 「順番って、何の順番なのかな？」（＾＿＾メ
誠 「い、いや……それは……」（；＿；）
エリア 「まあ、それは別に良いとしまして……」（＾＿＾メ
フラン 「誠様……くるみさんやなるみさんにまで手を出すのはどうかと……」（＾＿＾メ
誠 「て、手なんか出してないぞっ！ ただ、添い寝してるだけだっ！」（Ｔ□Ｔ）
さくら 「……白状しましたね」（＾＿＾メ
誠 「あう……」（Ｔ＿Ｔ；
あかね 「じゃあ……一人一枚ずつだね」（＾＿＾メ
誠 「――はい」（Ｔ▽Ｔ）