特別な日には……







 時計を見ると、まだ約束まで時間がある。

 鼻歌まじりに髪をブラッシング。
 化粧も少しだけ。
 いつもより少しだけ念入りにおめかし。

 はずした眼鏡はケースに入れて、ハンドバックの中に。
 新調したコンタクトの具合もええ。

 白系統で合わせた上に、焦げ茶のコートを羽織る。
 そうそう、交換用のプレゼントも忘れたらあかん。
 それに定期も。

 最後に姿見で身だしなみをチェックして、私は家を出る。

 凍てついた空はとても澄んでいて、星が宝石のように煌いていた。








 ありがとセリオ、もういいわよ。今度は私の番ね。

 ――え? メイドロボだから気にしなくて良い?

 なに言ってるのよ、あなたはメイドロボである前に女でしょうが。
 それに髪を梳かすの手伝ってもらったんだから、私にもお礼をさせなさい。

 綾香様の手を煩わせる事はありません?

 ……ダメよ。使用人の身だしなみを整えさせるのも、マスターとしての義務なの。
 それ以上に私は、セリオの準備を手伝ってあげたいの。イヤかしら?

 そうそう、人間素直が一番よ。
 それじゃ場所変わって……。

 うーん、やっぱりセリオって良い髪してるわね。
 櫛通りも滑らかだし……、

 メイドロボの髪って、CPUの冷却装置を兼ねた特殊金属製でしょ。
 なのに人間の、それも上等な髪と同じって言うんだから、羨ましいわ。

 ああ、謝らなくていいわよ。それはセリオの個性じゃない。
 そりゃ、ちょっとは嫉妬しちゃうけどさ。

 だったら、私もそれに負けないようにお手入れに力を入れれば済む事だもの。
 その時は、また手伝ってね。

 さーて、服はどうしようかしら。

 ……ちょっとセリオ、まさかあなたその格好で行くつもりじゃないでしょうね。

 ダ・メ。メイド服がダメなら制服で?
 却下。せっかくなんだからオシャレしなさいよ。

 私の服を貸してあげるから。
 服とかに頓着しないで、お仕着せの物ばっかり着てるのは、姉さんにそっくりね。

 ……姉さん? セリオ、ちょっと気になる事があるから、その服持ってついて来て。

 やっぱり……姉さん、いくらパーティーだからって、ドレスはないでしょう、ドレスは。

 だめですか? って……、
 友達同士の集まりなんだから、そんなの着て行ったら絶対に浮いちゃうわよ。

 はぁ、もう二人とも仕方ないわね。
 ここは私が、二人に合う物を選んであげるわ。

 セリオ、私の服はそこに置いといて、姉さんの服を出すの手伝って。
 長瀬さんに送っていってもらうって言ったって、後そんなに時間ないんだから……、








 ウフフフフ……、

 顔がニヤけるのが止められない。
 鉄檻の隙間から指を刺しこんで、少し硬めの毛皮の手触りを楽しむ。

 アタシの前にあるのは、ステーツに帰ったDadたちからの贈り物。
 今日の事を話したら、ワザワザ送ってきてくれたノ。

 これを見たら絶対みんな、ビックリするヨ。

 ――ン? なぜかって?
 ンフフ……これはネ、ブラウンベア(羆)!! ……のヌイグルミネ。

 ヌイグルミって言っても、素材は本物のベア・スキンヨ。
 Dadが休みを利用してアラスカまで撃ちに行って来たんだって。
 その毛皮をMamとシンディで親子のテディベアにしたの。

 そのヌイグルミを取り囲んでる鉄檻は、ミッキーとDadの手作り。

 「狂暴なベアは、しっかりとした檻の中に入れておかないとナ、HaHaHa!」

 ――な〜んて、Dadらしいジョークネっ!

 他にも一緒に、ベアの燻製も送ってきてくれたノ。

 美味しいから、アタシも好きな物なの。
 今日のパーティーにはDadが残して行ったシャンパンと一緒に持って行くの。

 ……ただ、ちょっと量が多くて、一人で運ぶのはタイヘン。
 だからシホに来てもらって、一緒に運ぼうって事になってる。

 そろそろシホが来る時間ネ。
 檻入りテディを綺麗な袋でラッピングして、口をリボンで縛る。

 あとは待つだけ……と思った瞬間に、庭から爆音が聞こえた。
 誰かが、Dadが防犯に残して行った地雷を踏んだんだと思う。

 ……きっとシホ。
 誘った時に「今度は引っかからないわっ!」ってミョーに燃えて、庭から入るなんて言っていたから……、

 なんとなく予想していだけに、ついつい顔が笑っちゃうヨ。

 あらかじめ用意しておいた濡れタオルを持って庭に出ると、
案の定、シホが壁の端っこでひっくり返って目を回していたヨ。

 ……あ、トモコが門の所で固まってる。
 家の方向が違うけど……シホがトモコを途中で誘ったのかな?

 とりあえずトモコにはその場で待っててもらって、庭の地雷原をすり抜ける。
 どこにトラップが仕掛けてあるかはバッチリ分かってるから、この位は楽勝ネっ!

 シホまであと2メートル。
 ここまで来るともうトラップはないネ。

 アタシは安心してまっすぐシホに向かうと……、
 足元でカチリッていう音がして、アタシはひっくりかえった。

 スタン・グレネードと同じくらいの爆音と閃光……、
 それにちょっとの衝撃でブラックアウトしそうになる中、アタシは思った。

 ……Dad、教え忘れはない? って、あれほどしつこく聞いたのに……、








 琴音ちゃん、遅いなぁ。
 ちょっと準備があるから……なんて言っていたけど、何をしてるんだろう?

 少し早めにした約束の時間はもうとっくに過ぎちゃってる。
 そのせいでお母さんにジーンズからドレスみたいなのに着替えさせれちゃったよ。

 いくら男の子みたいな葵だって、ちょっとは女の子に見えるでしょ、なんて言われて……、

 あ、誰か来た……琴音ちゃんかな?
 は〜い、今行きます……、

 遅いよ琴音ちゃ……うわっ! 琴音ちゃん、そのサンタルックはなに?
 それに後ろのソリは……。

 ええっ!! ソリに乗って念力で飛んできた!?
 せっかくのクリスマスなんだから、ちょっと趣向を凝らしてみたって……、

 ソリを引いてるの、トナカイじゃなくてイルカなんだ。

 ふーん、ヌイグルミが足りなくて……、
 でも、なんかファンタジックで私は好きだよ。

 ……って、琴音ちゃん、そのトナカイの着ぐるみはなんなのかな?
 まさか私にトナカイの役目をしろなんて言うんじゃないよね?

 大当たりです、って笑顔で言われても……冗談?
 もう、琴音ちゃんキツイよ〜。

 それより、そろそろ行かない? 予定より時間が過ぎちゃってるし……、

 それじゃ、行ってきま〜す。

 うわぁっ! 本当に飛んでるよっ!!
 家がもうあんなに小さく……え? あんまり暴れないでって……ゴメンゴメン、ついね。

 でも、空って寒いね。風をさえぎる物がないから……、

 袋の中に毛布があるって? さすが琴音ちゃん、用意がいいね。
 うーん、あったかい。琴音ちゃんも入って入って。

 あれ……琴音ちゃん、なんで街の方に行くの?
 先輩の家は逆……、

 ああ、雛山先輩っ!
 もうバイトが終わる時間だから、ついでに拾って行くんだ。

 約束の時間に遅れたのは、途中で雛山先輩と話していたからだったんだ。
 そういう事なら仕方ないか……。

 へぇ〜、上から見ると、街ってこんなに綺麗なんだ〜。
 キラキラ輝いて、宝石箱を見てるみたいだね。

 あ、雛山先輩発見。
 ほら、あのクリスマスツリーの下だよ。

 雛山せんぱ〜い、迎えに来ましたよ〜。








 ……うっし、これでツリーの飾り付けは終わりだな。

 雅史、そっちは……、
 おお、ちょうど終わったところか。

 あかり〜、こっちは全部終わったぞ〜。

 次は料理の準備だな……、
 おっとっと、マルチ、転ばないように気をつけろよ。

 それにしてもあかりの奴、また料理の腕を上げたな。
 匂いだけでもハラがグーグー鳴りそうだ。

 つまみ食いはダメってなぁ、雅史ぃ〜。
 なんかハラが減っちまってよ、ちょっとくらいなら……、

 マルチ、お前まで止めるか?
 そりゃ、ハラすかしていた方がメシも美味く感じるけどよ……、

 ――そのチャーハンは?
 そんな事だろうと思って別に作っておいたから、今は我慢してね、か。

 あかり、分かってるなぁ。
 それじゃ、遠慮なく頂かせてもらうぜ。

 料理の配膳も済んだし、酒もある。
 クラッカーも人数分あるし、どーせ志保がわめくだろうからカラオケセットも用意した。

 さて、これでパーティの準備はオッケーだな。
 後は他の連中が来るのを待つだけか……、

 そうだ、暇だし誰が一番に来るか賭けねぇか?

 ……あかり、堅い事は言いっこなしだ。

 オレは委員長に100円。
 まじめだから、きっと10分前には来るぜ。

 ほう、雅史は琴音ちゃんか。
 手堅いところを突いてきたな。

 マルチはセリオか。
 多分、来栖川のお嬢様たちと一緒に、セバスに送って来てもらうだろうからな、案外当たるかも知れん。

 で、あかりは?
 ふむ……やっぱり志保か。

 そりゃ、あのお祭り好きのあいつが、間違っても遅れて来るなんて事はありえねぇし。

 ――おっ!
 噂をすれば何とやら。今、行きますよ〜。

 オレは期待を込めて玄関を開ける。

 そこに立っていたのは……、

















 特別な日、そして特別な時間。

 そんな時は気の合う友達を誘って、

 料理を食べて、

 おしゃべりして、

 笑って、








 そんなパーティーを開きませんか?









 後書き

 久しぶりの東鳩SSです。

 ここ最近は葉鍵のSSは書かず、別ジャンルの友人当てのSSばっかり書いていたので、
なかなかキャラが動かない。(汗)
 少しばかり苦労してしまいました。

 今回はそれぞれのクリスマスパーティーの準備の様子を書いてみました。

 パーティ最中のトラブルも面白いかと思ったんですけど、
私がそれやるとほぼ確実に笑えないギャグになってしまうので、こんな形になりました。
 ほのぼのした感じを味わってもらえれば幸いです。

 それと、この作品の注意のような物を少し。

 セリオの髪(CPUクーラー兼任)についてですが、こんな設定は公式設定にはなかったはずです。

 この設定は大清水さちさんの漫画『TwinSignal』に登場する、
Aナンバーズという高性能人型ロボットから拝借しました。いや、この設定好きなんですよ(笑)

 芹香・セリオの服装云々はは、私のイメージです。

 芹香嬢は原作にある通り、高校までは完全な箱入りだった上、
高校に入ってすら外を好きに歩く自由すら与えられていないに等しい状態です。

 ここから考えると、彼女の持ってる服のほとんどは箱入りに育てた祖父や使用人が選んできた物で、
それに逆らうことなく着てきたのではないかと思えるんですよね。

 セリオも、メイドロボですし、言われない限りは身だしなみを整える以上には、
服装に気を配る事はないんじゃないかと思い、芹香同様に頓着しないものとしました。

 服装といえばもう一つ、母親に着替えさせられたという葵の服ですけど……、
 TVアニメ版のあの服を想像してください。

 もう一つ、レミィに送られてきていた羆の皮製のテディベアと燻製ですけど、
燻製の方は実際にあるそうですね。

 ムツゴロウさんこと畑正憲氏の著作『REX恐竜物語』(奇跡のラフティ)の登場人物が、
「アラスカでスモークドベア(熊の燻製)なんて頼んだら、100ドル近く取られちまう」
なんて事を言っていますし。

 テディベアはどうなんでしょう?
 あったら洒落の効いたアイテムとして感心できるんですけどね。

 ……しかし、レミィ母が作るのはともかく、潔癖症のシンディが熊の毛皮なんてさわるだろうか?

「毛皮ってかなり不潔なのよっ! 中世にペストが大流行したのも、
当時の服が毛皮で出来ていたのも一因なんだからっ!!」

 とか言って触るのも嫌がりそうな。(笑)

 余談ですが、ペストが流行した一因に皮の服(正確には毛織物)があったのは確かなんですけど、あれは洗濯のし難さ+肌着を着けない習慣から来てるんですけどね。

 さて、パーティーの参加者たちが用意したプレゼントはいったいなんでしょう?

 さすがにそこまで考えが及ばなかったので、レミィの分以外はご想像にお任せします。

 それと、書かれなかった人たちの合流までの行動とか、
浩之の家に最初に来たのは誰か、っていうのも。(笑)

 では、メリー・クリスマスっ!!

天城 風雅


<コメント>

浩之 「よ〜し、全員、集ったなっ! それじゃあ、そろそろパーテイーを始めるぞっ!」(^○^)
葵 「――えっ? 藤田先輩、藤井君達が、まだ来てませんよ?」(・_・?
志保 「当ったり前でしょ。だって、呼んでないもの」ヽ( ´ー`)ノ
琴音 「そんな……仲間外れだなんて……」(;_;)
智子 「まあ、藤井君がおったら、料理が全然足らなくなるやろうしな〜」(−−;
綾香 「それに、誠達なら、自分達だけでよろしくやってるわよ」ヽ( ´ー`)ノ
浩之 「ってゆーか、どうせ、今頃――」(−o−)

誠 「頼むっ! 勘弁してくれぇぇーーーーっ!!
   藤井 誠っ! 今夜も飛びまぁぁぁぁーーーすっ!!」(T○T)
あかね 「ああああっ!! また逃げたぁぁぁーーーっ!!」Σ( ̄□ ̄)
フラン 「誠様っ! 少々、往生際が悪いと思いますっ!」Σ( ̄□ ̄)
さくら 「皆さん、追い駆けますよっ!」Σ( ̄□ ̄)
エリア 「今夜こそ、誠さんと結ばれるためにっ!!」Σ( ̄□ ̄)

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浩之 「――な〜んてことに、なってるに決まってるって」(−o−)
あかり 「あははははははは……」(^_^;

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