新ソードワールドTRPGリプレイ『ヘッポコーズ』シリーズ　ＳＳ

「ねぼけぼけ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（作：阿黒）

　――冒険者にとって、時に野営を行うのはよくあることである。

　寧ろ遺跡探索など、人里離れた場所に、
赴くことの多い彼等には、普通に宿に泊る方が少ない。

　だから、どんな場所でも、
同じように眠ることができる、というのは冒険者の基本であろう。





　　＊　＊　＊　＊　＊





　マウナ・ガジュマは一人、
火の番をしながら夜明けを待っていた。

　彼女の仲間たちは、焚き火の回りで、それぞれ毛布に包まり、熟睡している。

　ここ最近、初夏という季節にも関わらず、
時に雪が舞ったりする異常気候のせいで、底冷えがする。

　そんな中で野営というのは初めてのことで、
冒険者としては、まだ駆け出しの自分達には少し辛いかな、とも思っていたが……、

　まだ組んで間もない仲間たちは、
揃いも揃って神経だけは図太いようで、そういった繊細さとは無縁のようだった。

　……自分のことは見事に棚に置き忘れているマウナである。

　と、先程、マウナと見張りを交代して、
眠りについたイリーナが、むくりと起き上がった。

「どうしたの、イリーナ？」

「ん〜……おちっこ」

　ぐらり、とよろめくマウナを無視して、寝ぼけ眼のイリーナは、
ごぞごそと毛布から這い出すと、森の奥へフラフラと歩いていった。

　寝ぼけているから仕方無いとはいえ、
１６歳の乙女が軽々しく人前で言う台詞じゃないでしょ、と、マウナは思う。

　少々（いやかなり）ヘボイが、小さな身体で、
武器屋にある物では、最も大きなバスタードソードを軽々と振り回すとはいえ……、

　……性別・女というカテゴリーにギリギリ含まれる筈の身としては。

　さして間も置かず、とろんとした目つきのイリーナが帰ってくる。

「さむ……」

「イリーナ、少し暖まる？」

「ん〜、いいです……おやすみなさい」

　寝ぼけているが、それでも礼儀正しく、
ペコリと礼をすると、イリーナは、自分の毛布に手を伸ばして……、

　……僅かに眉をひそめた。

「つめたい……」

「あー、冷えちゃったか。
ほら、やっぱ、火であったまってから寝たら？」

「………ん〜」

　マウナの言葉を聞いているのかいないのか、
イリーナはキョトキョトと幼い仕草で回りを見回して。

「ひーすにいさん……」

　もぞもぞと、幼馴染みの魔術師の青年の毛布に潜り込んだ。

「んあ？　なんだ、イリーナ」

「さむい〜、いれて〜」

「ん〜〜〜〜……ほれ、こっちこい」

「んふ〜〜〜、ぬくぬく〜〜〜〜」

　思わず石になっているマウナの前で、
ヒースは慣れたように、イリーナに腕枕してやる。

　イリーナは躊躇せず、ヒースに、
ピッタリと寄り添うと、すぐにすやすやと安らかな寝息を立てはじめた。

　ヒースも、そんな妹分の肩に毛布をかけてやると、すぐに鼾を再開する。

「こ、こいつら……なにげにばかっぷる……？」

　眠気などすっかり吹き飛んで、呻くようにマウナは呟いた。





　　＊　＊　＊　＊　＊





　――冬も間近に迫り、野営には厳しい季節が訪れていた。

　レイカ村で分けてもらった毛皮に包まって、
焚き火の傍でお茶を飲みつつ見張り番のマウナは周囲に気を配っていた。

　ヤスガルン山麓から降りてきてはいるが、まだまだこの辺りは獣が多い。
　行きの時は、熊は出るわワイバーンは出るわと、森の動物達の襲撃には困らなかった。

　帰りくらいは平穏無事でいたいものである。

　しかし、ワイバーンより熊に苦戦する私達って一体……、

　ふっ、と遠い視線をマウナは闇に向けていた。
　と、先程、見張りを交代して横になったイリーナが、もそもそと起きだしてきた。

「どうしたの、イリーナ？」

「ん〜……おちっこ」

　ぐらり、とよろめくマウナを無視して、寝ぼけ眼のイリーナは、
ごぞごそと毛布から這い出すと、森の奥へフラフラと歩いていった。

　……あ、なんかデジャヴ。

　そーいえば、前にも、こんなことがあったような。
　あの時は、確か……、

　と、一旦、森に進みかけたイリーナが、戻ってきた。

　忘れ物でもしたのかと見ていると、
そのままイリーナは、幼馴染みの兄貴分の所まできて、ユサユサとその肩を揺らす。

「ひーすにいさん、ひーすにいさーん……」

「……んだよ、イリーナ？」

「あのね、おちっこ」

　ぐらり、とますますマウナの傾きが大きくなる。

「……一人で行けよ」

「くらいの、こわいの」

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜、も〜〜〜〜〜〜〜……、
しょーがねーなー、おまえは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

　普段は何かとゴネる、性格捻じくれ魔術師が、
寝起きで不機嫌そうながらも、起き上がってくる。

　枕元に置いてあったメイジスタッフを、
手にとると、呪文を唱えつつ慣れた手つきで印を結ぶ。

　杖の先端にポウッ、と魔術の白い明りが灯った。

「ほれ、いくぞ」

「そこにいてね？　みててね？」

「あーあー、見ててやるから、さっさと済ませるぞ」


　――ごんっ！


　思わず後頭部から引っくり返る、
マウナに、気付いた様子もなく、二人は森の奥に消えていった。

「そうなの？ そーいう関係なの？
っていうか<それどーゆー関係なのアンタ達！？」

　何やら口から砂を吐きつつ<
苦悩するマウナは、傍目から見るとすっかりアヤシイ人になっていた。





　　＊　＊　＊　＊　＊





「――ヒース、そろそろ閉店なんだけど」

「ん……？」

　溜まり場である『青い小鳩亭』の酒場で、いつものように、
呑んだくれていたヒースの頭に、ウェイトレス姿のマウナは軽くポン、とトレイを載せた。

「おう、もうそんな時間か」

　ノロノロと辺りを見回し、
少し顔が赤いが、割とまともそうな様子のヒースは首を傾げた。

「バスとエキューはどうした？」

「エキューは、もう部屋に戻ったわよ。バスは今日は神殿に泊るって」

「なに！　それじゃバス君に奢らせてやれんではないか！？」

「――たかるな」

「はっはっはっ、素っ気無く冷たいツッコミが心地いいぞ、マウナ〜」

「それはいいから……イリーナが、珍しく潰れてるんだけど」

「おう？　そういえばなんか静かだと思ったぞ。
ほれ、イリーナ起きろ、帰るぞ」

　懐が暖かく調子に乗ったヒースに付き合って、
珍しく深酒したイリーナは既にテーブルに突っ伏して、眠っていた。

　ちらりと、壁に立てかけられた巨大な鉄板――

　――ではなく、並みの男では持ち上げることも困難な、
イリーナ愛用のグレートソードを見て、ヒースはため息をついた。

「しゃーない……イリーナは俺が送っていくからマウナ、それ預っててくれな」

「心配しなくても、誰も盗んでいけないから」

「そりゃそーだ……よっこらせっ、と」

　まだ１８歳のくせに、
親父臭いかけ声をあげて、ヒースは小柄なイリーナを背負った。

　魔術師だが、筋力だけならドワーフの神官戦士ガルガドと、
同じくらいのヒースは、苦もなくイリーナをおんぶして歩き出す。

「ヒース〜、今日の飲み代は？」

「ツケといてくださいマウナさん。明日まとめて払う。イリーナの分も」

「ウチはツケ禁止なんだけど……ま、いいわ」

　苦笑して、マウナが二人を見送ろうとした時、ヒースの背でイリーナがぼんやりと目を開けた。

「……ひーす、にいさん？」

「あ、起しちまったか？　どうだ、歩けるか？」

「ん〜〜〜〜……おんぶ〜♪」

「お前って、眠いと幼児化するよなあ……、
何気に首が絞まるので、もう少し手加減してくれなさい」

　ますますぎゅっ、と抱きついてくる、
妹分にぼやきつつ、邪険に振り払おうとはしないヒースである。

「んふ〜、すりすり♪」

「イリーナさん、マジくすっぐったいからやめれ。
てゆ〜か、人のうなじに頬すりよせるな甘えるな息吹きかけるな俺様ゾクゾクんってきちゃうぞ」

「きゅう……」

「せめて人語を使え。仔犬か、お前は」

「ン……わう？」

「……イリーナ……酔ってんな、お前……」

「わうわうっ」

「いーかげんにしろ」

「くぅん……だって、ひーすにいさん、さいきんかまってくれないじゃないですか。
かまってくれないと、わたし、さびしくてしんじゃいますよ？」

「それは、ウサギの話だ……、
今度の休みには、一緒に買い物にでも行くか？」

「わんわんっ♪」

「……わかった。おごってやるから」

「クンクンクンクン……」

　嬉しそうに甘い鼻声をあげ、イリーナは、
それこそ犬のようにヒースの耳たぶをカプッ、と甘噛みした。

　さらにペロペロと首筋や耳の裏を舌で舐め上げる。

「ぐはははははははっ!
イ、イリーナ、こそばゆいから止めウヒャヒャヒャヒャヒャ！！」

「――アウン☆」

「あーもうこの犬っ娘！　お前なんかこーしてくれるっ」

　ヒースは器用に後を振り向くと、
お返しとばかりにイリーナの鼻の頭を甘噛みした。


　――かぷっ


「きゃう〜〜〜！？
はううう、い、いたいでふ、ひーふひーひゃあ〜〜〜」

「あんまり聞き分けないと、躾なおすぞ、お前は〜」

「くぅん……ひーすにいさんひどいです」

「ひどくない！　お前のグレソ突込み→��治癒�＄ｸ神力尽きるまで繰り返し、に較べれば全然ひどくない！
っていうか、あの鉄板でシバかれて、生きてる俺様も、大概スゴイな」

「う〜〜〜〜〜……」

「イリーナ、そのキラキラ輝く、ヘルハウンドのよ〜な、
殺伐とした瞳で、俺様を睨むのは止めてくれなさい怖いから」

「へるはうんどじゃないもん！　かわいいこいぬさんだもん！」

　いや、イリーナ怒るポイントはそこじゃないでしょ。
　と、マウナが小さく突っ込んだが、二人には聞こえていなかった。

「わたしはひーすにいさんの、
かわいいこいぬさんなんですから、もっとやさしくしてほしいです！」

「優しくしてるだろー？　俺様動物好きだし！
ったく、まあ、ペットの躾は飼い主の責任だけどな……」

「ええ、ちゃんとしつけてください」

「あ〜はいはい。とりあえず、帰ろっか？」

「そうですね。わたし、ねむいです……」

「やっぱり俺におぶさっていく気満々かい、お前さんは」

「えへへ〜……ひーすにいさん、やさしいからだいすきっ」

「ったく、いーから寝てろ、お前は……じゃあな、マウナ」


　――ぱたん


　扉が閉まり、イリーナを背負ってヒースは出て行った。

　後には、延々と繰り広げられた、ばかっぷるの、
爛れっぷりに魂を口から吐いている、マウナと常連客たちが残された。

「あんたら、あんたら、あんたら……、
っていうかヒース、あんた、イリーナにナニやってんの！？」

「くう……酔いつぶれた彼女を背負ってくなんて、
ヒースのくせに萌えるシチュじゃないか……、
僕もいつか、マウナさんをおんぶしてお持ち帰りしたい……」

「アンタ寝たんじゃなかったのエキューーーー！！」

　とりあえず、いつの間にか、隣りで頷いている、
エルフ耳フェチの少年に、マウナは思い切り抉るよーな拳ツッコミを入れた。








　ちなみに翌日――

　二日酔い気味のイリーナと、
ヒースに対して、マウナは二人の関係を問い質したのだが……、

「あー？　昨夜は呑みすぎて記憶があやふやなんだが……、
しかし、なにを言ってるんだ、貧乏半分エルフ？
俺様は、こんな幼児体形なんぞ、端からアウトオブ眼中だぞ？」

「私も何も覚えていませんね〜。
でも、マウナ、私とヒース兄さんは、ただの幼馴染みですよ？
ところで、幼児体形って誰のことですか、ヒース兄さん？」

「ＨＡＨＡＨＡ！　だから、お前も生物学上の分類で分けるならば、
なんとかギリギリ一杯で女性というカテゴリーの隅っこの端に、
ヒッソリと補欠としてなら置かせてやってもいいかもしれんよーなそうでもないよーな身であるならば、
そんなアイアンゴーレムを粉砕したこともあるゴツゴツとリベット補強された門柱にしか見えない棍棒を、
振り上げるのは止めてくれなさい俺様余裕で死ねるから！！」


「汝は邪悪なりーーーーーーー！！」


「こ、この、無自覚ばかっぷるどもが……」

　縦回転でスッ飛んで、酒場の壁の壁画になっているヒースと、
それに��治癒�≠�かけてやっているイリーナとを見遣って、
マウナは肺が空っぽになりそうな、深く重たいため息をつくしかなかった。








「ネックは身長差だよなあ……、
今はまだ、僕よりマウナさんの方が背、高いから……」

「気が付くと、こっそりドリーム入った計画立てるの止めて、エキュー」








＜おわり＞

【後書き】

　キーワードは『寝とぼけ』と『ばかっぷる』ですか。
　あと『何気にエキュー』くらい？

　つらつらと考えてみると、私はお馬鹿な話は、
そりゃあもう、しこたま書いているんですが、『ばかっぷる』なお話というのは……ほとんど書いた覚えがない。

　と、いうわけで、バカップル挑戦です。
　元ネタがマイナーなのでどれくらいの人がわかってくれるのか、疑問なんですが。

　……私自身、リプレイNEXTの方は全然読んでないし。

＜コメント＞

ヒース　「なんじゃこりゃ〜〜〜っ！！
　　　　　何故に、この俺様が、こんな筋肉重戦車なんかとっ！？」（￣□￣メ
イリーナ　「……それは、誰の事ですか、ヒース兄さん？」（＾ー＾メ
ヒース　「ハッハッハッ！！　謝るから、そのグレソを納めてくれなさい。
　　　　　お前に攻撃されたら、素手でも死ねます」＜（Ｔ▽Ｔ）＞
イリーナ　「ヒース兄さんなら、大丈夫ですよ♪
　　　　　　私だって、ヒース兄さんのライトニングをくらっても、こうして生きてるんですから♪」（＾ー＾メ
マウナ　「そういえば、そんな事もあったわね〜」ヽ( ´ー`)ノ
バズ　「仲間もろともライトニング……鬼ですな」（−−；
エキュー　「僕も射殺されそうになった事ある……しかも、レーティング５０で……」（−−メ
ガルガド　「……日頃の行いを、ここいらで清算させるべきかのぅ？」（−−；
ヒース　「嫌だああああーーーーっ！！
　　　　　こういう役回りは、ノリスだったはずだぞぉぉぉぉっ！！」（Ｔ△Ｔ）
ノリス　「……えっ、何？（←ノリス定食、食べ中）」（・＿・？

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