『うたわれるもの』二次創作SS

 「好事も無きに如(し)かず」(作:オルカ)

(タイトル意=たとえ良いことであっても、あれば煩わしいから、むしろ何事もなく平穏なのが一番良い)







 コキッ、コキキッ

 長時間机の前に座り続けて、肩と腰がすっかり硬直して軋み音を立てる。

「ううう…これで良し、と。つ、次はなんだベナウィ?」
「今日はこれで終わりとしておきましょうか」
「そうか…って、え?」
「どうなさいました、聖上?」

 トゥスクル皇ハクオロは、自分の目の前で佇んでいる侍大将――ベナウィを見つめた。
 その怪訝そうな視線に、青年武将は冷静で端整な顔に僅かな笑みを浮かべて佇んでいる。

「もう今日の政務は終わりだというのか? いつもならこう、ああ、これで終わりだ、と安堵のため息をつきかけた機を見計らったように、
意地悪く、次の書類をうずたかく積み重ねるというのに?」
「…いえ…確かに聖上に目を通して頂かなければならない書類はこれこのとおりですが」

 表面上はまったく変化を見せず、ベナウィは隣室の扉を開き、そこに林立する巻紙の山を示して見せた。

「ならば何故? 常なら人を朝から晩まで馬車馬の如くこき使い、少しでも進行が遅れようものなら、
表面上はどこまでも慇懃にチクチクサクサクと礼儀正しく上品に皮肉や嫌味をまぶした正論を述べて政務を続行させるお前が」

 ――ピシッ――

 一瞬、何かが切れかける音が鳴ったような気がしたが、ベナウィは簡潔に黙礼してみせた。
 これがカルラならとうに顎か鎖骨を叩き折られているところである。

「無論、聖上の御裁可を頂かねばならない事は多々ございますが、ここ数日の激務は流石に人としての限界を超えるものではないかと。
ここで多少の休息をとって頂かねば御身に差し障りあると愚考した次第でございます」
「うむ…それはありがたいが…しかしなぁ…」

 ハクオロは文机の隅にひっそりと隠れていた茶碗を取り上げ、すっかり冷め切った茶を啜った。
 エルルゥの淹れてくれる熱い茶が欲しかったが、新たに淹れなおしてもらうのも気が引ける。

「聖上。聖上が少々休息をとられる間はございます。今日のところは私共に預けてください」
「そうか? まあ、お前がそう云うのであれば…甘えさせてもらうか」

 ベナウィは武将の範疇を守って内政にはあまり口を出さないが、文武両面に高い識見と才覚を持ち、
ハクオロにとっては良き相談役である。それだけに信用も厚い。

「さて…せっかくの休日、どう使おうかな。またトウカと釣りにでも…いや、最近アルルゥにかまってやっていなかったからなぁ…ふぅむ…」

 強ばった関節をコキコキと鳴らしながら書斎を出て行くハクオロの背を、ベナウィは黙って見送った。

 ――何故かその目には、えもしれぬ憐憫のような色があった。



 * * * * *



 廊下をいくらも行かないうちに、まるで計ったようにカルラが現れた。

「あら、あるじ様」
「カルラか。どうした、こんなところ…」

 どすっ!!

「どうなさいましたあるじ様?顔色が悪いですよ?」

(い、いきなり拳を手首まで鳩尾に突き刺されて、血色良い顔になれるかっ!!?)

 呼吸さえままならず、ただ空しく口を開閉させるハクオロの身体をカルラは見た目よりずっと頑強な肩に抱え上げた。

「いけませんあるじ様! と、いう事でという事ですからという事ですので、
可及的速やかにたちどころに瞬く間に私の部屋でお休みになってはいかがでしょうそれがいいですそうしましょう! ではっ!!」

(いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! さらわれる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?)

 悲鳴は言葉にはならず、肉食獣に捕まった獲物のごとく、
ハクオロは身動きもできないままあっという間にカルラの私室に連れ込まれた。

 ぼふっ!(ハクオロが寝台に放り出される)
 ばたむっ!(同時にカルラは足で扉を閉めた)
 じゃこっ!(扉に閂をかけて)
 ぐゎしっ!(更にしんばり棒まで噛ませる)
 パタパタパタッ! しゃしゃ〜〜〜〜〜っ!(そして最後の仕上げに窓の戸板を落とし簾を下ろす)

 この一連の行動を、カルラは僅か1ミリ秒で完了するのである!

「いらっしゃ〜〜い♪」
「カツラサンシかお前はっ!?」
「? なんですのそれ?」
「いや…ポロッと口から出てきたのだが」

 それは失われた記憶の断片ではあったがその事に気づく余裕も無く、
ハクオロは何故か敷布で胸元を覆い隠しながら、狭い寝台の上で後退った。

「まあそのような歴史上の偉人はさておいて。ささ、あるじ様、このカルラがついておりますからどうぞおくつろぎになって」
「そう云いながら人の下帯を解こうとするんじゃないっ! 何なんだ一体!?」
「大丈夫ですわ。だから気を楽になさって」
「具体的にどう大丈夫なんだ―――――!?」
「まあそれはさておいて」
「さておくなっ! だから、なんでそこで服を脱ぐっ!?」
「だって〜〜〜〜〜〜」
「かっ、かわいく指なんか咥えたってダメだっ!」

 片肌脱ぎの状態で半ばハクオロに覆い被さったような体勢のまま、カルラは少し潤んだ瞳を向けてきた。
 まるでアルルゥが甘えておねだりする時のような顔が、意外に違和感なく似合っている。

「だってヒマだったんですもの」
「ヒマだと、お前は主人の鳩尾に拳を突き刺すのか!?」
「いやですわ、それは目的を達成するための手段です」
「――目的って…?」

 詳しく訊くと後悔しそうな気がしないでもなかったが、訊かないわけにもいかない。

「実は…話せば長くなるのですが省略してお話しますと」
「うむ」
「医術士とその患者という設定って、ちょっと萌え? と思いまして」
「自分は全然萌えん! じゃあそういうことで」

 視線を合わせないようにしながらハクオロは素早く寝台から降りかける。
 ――が、それより早くカルラの手足が巧妙に絡みついてきた。

「ああん先生ィ〜〜、カルラ、身体が火照ってしょうがないんですのー。これはきっと病気ですのー。診ていただきたいですのー」
「カルラ…それはキャラが違う!」
「ぱぎゅ?」
「だーかーらー!! その口調は止めなさい!!」
「…わかりました」
「そうか。わかってくれればいいんだ」
「それはそれとして、先生ぃ、私にお注射してくださいナ♪」
「それもやめーーーーーいっ!!」
「先生…優しくしてくださいね?」
「私に優しくしてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! って、うほっ!?
そ、そんなトコに指を這わせるんじゃないっ!? う、うおほっ!? おおおおお!??」
「ん〜〜〜んふふぅ、元気になってきましたわ、あるじ様」
「……い、いやーーーーーーーーっ!?

 犯される〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」



 * * * * *



「うううううう…た、太陽が黄色い…」

 さんざんカルラの肢体を自分の色に「染めさせられ」て、
ようやく満足して眠ったカルラの部屋から抜け出してきたハクオロは、望楼から皇城裏の広場を見下ろした。

「まったくカルラめが…強引にすぎる…」

 それはまあ…気持ちよかったけど。

 吹き抜ける爽風の中で、ともかくも心地よい疲労に浸かりながらハクオロは欄干に身体を預け、ゆっくりと景色を見渡した。

「ん?ア ルルゥとカミュか?」

 展望台の割と足元の木陰で丸くなったムックルに身体を預け、二人は何やらおしゃべりをしているようだった。
 大きな声ではないが、よく通る声はさほど耳を澄まさずとも、こちらに届いてくる。

「やっぱりアルちゃんってかわいいよね。食べちゃいたいくらい」
「んー。カミュっちもかわいい」
「えー? そう? あはは、ありがと」

 無邪気な語らいに、自然と自分の口元がほころんでくるのがわかる。
 純真可憐な少女達の、微笑ましい光景だった。

「…ねぇ、アルちゃん?」
「ん〜?」
「アルちゃんの乳首、舐めてもいい?」

 ぶふうっ!

 思わず吹き出すハクオロの耳に、追い討ちをかけるようにアルルゥの、無邪気な声が聞こえてきた。

「うん。じゃあ舐めっこしよ」

 ぶぶぷううううっ!!

「アルちゃんの胸、まだちっちゃいけどかわいいなぁ」
「おお〜。カミュっちおっきぃ」
「うふ。なんだか透き通るような色…きれい」
「ん〜。たぷたぷ〜」
「あっ…やん…」
「…くふぅ…ふう〜」
「や…やめなさい二人ともっ!」

 放っておけばどんどん歯止め無く進行していきそうな二人の様子に、ハクオロは思わず欄干から身を乗り出し、下界の二人に叫んだ。
 と、先程のカルラとの睦みあいで、酷使された腰があっさり砕ける。

「え?」

 あっけなく均衡が崩れ、視界が反転する。

「あれ?」

 伸ばした手は僅かに届かず、空を切った。

「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる…
















 どっかあああああああああああああああああんんんんっ!!!

「…おとーさん?」
「おっ、おじ様!?」

 お約束とおりにきっちりきれいに大の字で陥没した穴から、ハクオロはヨロヨロと身を起こした。ゆっくりと二人の方に振り向き。

「ふ……ふふふふ、私は宇宙人グレゴリー…」
「おとーさん、こっち帰ってくる!」

 びしいっ!

「おおう!?」

 アルルゥの脳天唐竹割りを正面から受け、危ういところでハクオロは現世に戻ってきた。

 ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…

「…おや?」

 だが、まるでその代わりのように顔の上半分を覆った仮面の隙間から血を噴出し、ばったりとうつ伏せに倒れこむ。

「………………」

 アルルゥとカミュはしばし無言で視線を交差させ、その視線をもう一度ハクオロの後頭部に向けた。
 ゆっくりと、赤い染みが地面に広がっていく。

「う、うわ〜〜〜〜っ! ど、どーしよどーしよアルちゃんっ!?」

 薬師の祖母や姉ほどではないが、アルルゥにも多少の心得はある。カミュに較べれば冷静に、アルルゥは口を開いた。

「血止め」
「ちっ、ちどめ―――! どうするの!?」
「傷口に近いところの動脈を抑える」
「動脈、どうみゃくーっと、…ここ?」
「うん」
「わかった! うぉりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 きゅーーーー!!

「どう? 止まった?」
「ん。少し、遅くなった」
「よーし、もっと力入れてー!!」

 きゅっきゅきゅ―――――!!

「更に!」
「夢の合体三回転半捻り〜〜〜〜〜」

 きゅきゅっきゅー、きゅっきゅっきゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

「カミュっち」
「なーにアルちゃん?」
「おとーさん、泡吹いてる」
「…え?」
「顔色、ムラサキ」
「え? なんで? 血は止まったじゃない?」

 カミュは、夢中になって頭に上がった血が下がり、冷静に、状況を見直した。

 そして、二人がかりで頭の傷口に一番近いところにある動脈……頚動脈を絞められ、
そろそろ痙攣も小さくなりつつあるハクオロ、という状況を確認した。

 ……………。
 ……………。
 ……………。

「う、うわ―――――っ! おじ様死んじゃだめ――――――!!」
「…お姉ちゃん呼んでくる!」

 ムックルに跨り、あっという間に姿を消したアルルゥを見送って、カミュはとりあえずハクオロの頭を自分の膝に乗せた。

「お、おじ様! おじ様生きてる? しっかりしておじ様?」

 頭を揺さぶらないようにしながら、カミュはハクオロに呼びかけ続けた。

「…ごほっ…」
「おっ、おじ様―――! ご、ごめんなさい、大丈夫!?」
「…カミュ?」
「うん、カミュだよ! おじ様大丈夫?痛くない?」
「痛いっていえば全身くまなく痛いが…まあ、なんとか大丈夫、かな」

 少しおぼつかない様子ながらも、自分で上体を起き上がってきたハクオロにカミュは安堵した。
 ホッとすると同時に、ふと、軽い疑問が浮かび上がってくる。

「でもどうしたのおじ様? いきなり落ちてくるなんて」
「え? ああそうか、望楼から落ちてしまったんだ…」

 一旦納得したように頷いて、ハクオロは首を傾げた。

「――おや? 何か…何か、とっても大事なことがあったような気がしたんだが…」
「え? ――ひょっとして、おじ様、また記憶が飛んじゃったの?」

 しばらく考え込んで、ハクオロは面目なく頷いた。

「うーむ。どうやらそうらしい。多分、何かに驚いて望楼から落ちたような…気はするんだが」
「記憶喪失って、一度なると癖になるのかな?」
「脱臼じゃないんだから…やれやれ、血だらけだな」

 最初の出血こそ派手だったが、そう大した傷でもなかったらしい。既に乾き始めた血を手拭で拭きながら、体の具合を確かめる。
 所々痛みはあるが、重傷というほどのことはなさそうだった。

「……おじさま…」

 ふと、何か空気の色が変わったような気がして、カミュの方に振り返った。
 途端に、いつの間に近付いていたのか、至近距離でハクオロはカミュの顔と正対した。

 カミュの、真紅の瞳が瞬きもせずに自分を見つめている。

(…真紅!?)

 カミュの、いつもは青玉のような瞳が鮮血の赤に染まっている。

「おじ様…血…いっぱい出てる…」
「ま、まてカミュ、落ち着け、正気に戻れ!」
「おじ様…カミュ…喉が渇いちゃった…」
「いや、だからね、カミュ?あ、アルルゥがもうすぐ戻ってくるから、早く目を覚ますんだ!」
「刀∞≡θ…」

 何かをカミュが呟いた、と同時に、何とも不可思議な感覚が一瞬だけ周囲で弾けて、消えた。

「おじ様…」

 ハァ…ハァ…ハァ…

「いっ、息を荒げるなカミュ! 下帯を解いて手を潜り込ませるなカミュ! 引っ張り出してほおばるなカミュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「にゅふ〜〜〜〜〜〜!?」
「あうう、息がかかって…髪がさわさわしてっ…この微妙な刺激がっ……じゃなくて!止めなさいカミュ!
こんな真昼間から! しかも外で! 野外で! こ、こんなところをアルルゥに見られたら…!!」
「おとーさん」
「ハクオロさん?」
「うわあああああああああああああああっ!?」

 いつの間に戻ってきたのか、ムックルに跨ったままのアルルゥがほんの数歩先に佇んでいた。
 その後に乗っていた姉のエルルゥが、愛用の薬箱を手に降りてくる。

「エッ、エルルゥ、アルルゥ、こ、これはその、違う、違うんだ!
これにはふかーくておもーいわけとか何かきっとそーいう拠所ない事情とかがあるといいなぁと思う次第でございますが!」
「だーじょーぶよお・じ・さ・ま☆」

 ハクオロの珍宝から口を離し、カミュは、『ニンマリと』笑った。

「同じだよ…カルラそっくりの笑いだよぉ…」

 自らに訪れる徹底的な破滅を覚悟…というかどちらかというと諦念に至り、
次にくるであろう逆上したエルルゥの噛みつき攻撃に備え、ハクオロは目をつぶって身構えたのだが。

「アルルゥ? ハクオロさんいないじゃない」
「ん〜? カミュっち〜?」

 すぐ目の前でそんなことをいってキョロキョロと辺りを見回す姉妹の様子は、ふざけたり現実逃避しているわけではなさそうだった。
 本当に、そこにいるハクオロ達がわからないようである。

「ふふ。他の人はあたし達を『認識』することができないんだよ。だから大丈夫」
「ま、また妖しげな術を…」

 目は二人の姿を映し耳は声を聞いてはいるのだろうが、それを脳が知覚できていないというか。
 詳しい理屈はよくわからないが、『主(ムディカバ)』であるムックルさえハクオロ達の存在を気づけないでいるようである。

「うふふ…二人に見られながらだなんて、何だかとっても背徳的で興奮しちゃうなぁ」
「カミュ―――――!! その発想はすっげぇ淫猥で不健全だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 力づくででもカミュを押しのけようとして、いつの間にか金縛りにかけられてしまっていることにハクオロは気づいた。
 もはや万事休すである。

「…あれぇ? なんで? おじ様、ここ元気ないよ?」
「う…いや…さっきカルラに散々搾り取られたからなぁ…流石に今すぐはちょっと…」
「そんなぁ〜〜〜〜〜〜」

 一応、これもケガの功名というものだろうか。
 とにかく、裏カミュ(仮名)の毒牙にかかることだけは何とかギリギリのところで免れるかもしれない。

「あ〜、だからなカミュ、今日のところはあきらめておとなしく目覚めてくれるととても嬉しいのだが」
「…あ。じゃあ、立ってもらえばいいじゃない」
「へっ?」

 中指をピッ、と立てて微笑んだカミュにメチャクチャ嫌なものを感じたと同時。

 ズヌプッ!

「○×△■☆◇♯▼◎※$〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
「わ〜。やったよ〜〜〜〜」(川澄声)
「カミュ…それ反則…!」

 ハクオロの後門に刺した中指をそのままに、無理矢理活をいれられた珍宝に、カミュは嬉しそうにそっとその小さな唇を寄せた。そして。
 妙に鋭く伸びた犬歯がキラリと光った。

「いっただっきま〜〜〜す♪」

 がぶううううっ!!!

「痛い〜〜〜〜〜〜!!? っていうか何でソコから吸血する――!!?
口とか下で気持ちよくしてくれると実は内心ちょっぴり期待はしてたのに――――!!!」

「ハクオロさん…どこいったんだろ…」
「おとーさん…」

 出血で朦朧とする意識の片隅で、愛しい娘達の呼び声が、休息に暗くなっていく世界と一緒に消えていった…。



 * * * * *



 ……………。
 ………………………。
 ……………………………………………………。



「――はあっ!?」

 反射的に跳ね起きよう…として、しかし疲弊しきった身体はごく僅かな身じろぎしかできなかった。
「――どうなさいました、ハクオロ様?」

 耳に心地よい、臈長けた声に慌ててハクオロは振り返った。その先にウルトリィが煙るような笑みを浮かべて座っている。

「大分お疲れのようですね。先日、エルルゥ様から頂いた薬草茶です。少し苦いですが、疲労回復には良く効きますよ」
「あ。ああ――ありがとう」

 湯気のたつ茶碗を受け取って、すこしトロミのついた緑色の液体を一口、二口含む。
 時折、エルルゥに出される覚えのある苦味に、多少苦笑しながらも気分が落ち着いてくるのを感じる。

 少し余裕をもって周りを見回す。
 国師として、多少の祭器が目につくという以外は8割の整頓と2割の煩雑さが程よくまとまった、居心地の良い部屋である。

 御付のムント僧正と、妹の…カミュの姿は無かった。
 二人きり、である。

「ところでウルト…どうして私はここにいるんだ?」

 あれからどういう経緯で今の状況に至ったのか。
 あまり、訊きたくは無かったが、知らないままでいるのも精神衛生上非常に不安であった。

 その問いに、ウルトリィはやや視線を逸らせて、少し云いにくそうに口を開く。

「その…何か、奇妙な波動を感じて外に出てみたら…ハクオロ様が木陰の所で倒れていましたので、とりあえず私達の部屋に運んで」
「ウルト一人で私を? 意外に力持ちなんだね」
「いえいえ、少々物の重みを軽くすれば私の力でも」

 さらっと重力制御を使ったことをほのめかすウルトリィに、
まあ、彼女が妖しげな術を使うのは今更だしとあっさり納得して、ハクオロは質問を重ねた。

「私一人だったのかい? 傍にたとえば――カミュやアルルゥ達とかいなかっただろうか?」
「いえ? 周囲には誰もおりませんでしたが」
「そうか…すまない、面倒をかけたな」

 正体は不明だが、事の終わった後、裏カミュはいつも抜け目無く表面上の痕跡をきれいに拭い去っておく。
 今回もその例に漏れなかったようだ。

「ところでだな、ウルト。実はさっきからずっと訊きたかったんだが」
「はい、なんでしょう?」

 少し背を伸ばす、その僅かな動きだけで小さく震えるウルトリィの豊かな胸につい視線が固定されそうになって、慌ててハクオロは頭を振った。
 我ながら、今日はこんな目にあっているのに男というものは…と内心苦笑しながら、ハクオロは、さっきからずっと気になっていたことを質問した。

「この…今、私の首に結わえられている、このよだれかけは、フミルィルのものじゃないのか? っていうかなんで私につけるかな?」

 しばしの間とはいえ、母親代わりとなって育て、そして今は本当の両親の元にいる『娘』の名を出され、ウルトは少し哀しげな目になった。
 その目に一瞬、思わず詫びの言葉を口にしそうになるのをグッと堪える。

「お気になさらずに…もう…大丈夫ですから」
「うむ。だと、良いんだが…それで、コレの意味は?」

 つい、と視線を窓に向けて、そしてウルトリィは、ポツリと呟いた。

「……寂しかったんですの」
「寂しいと貴女はいい歳をした男の首によだれかけをつけるのか!?」
「いわないでっ! わかってます!こんなことは空しい代償行為だということはっ!
でも! こんな愚かな行為でも…眠るハクオロ様をあやしつけていると…まるでフミルィルがそこにいるようで…」
「いや…それは幾らなんでも無理がありすぎるだろ…」
「最近は、カミュも嫌がってあまりつきあってくれなくなったし」
「カミュ…ちょっとでもつきあってあげるのはやはり妹ならではだな…」
「アルルゥ様に…お乳を含ませた時は、本当に可愛くて可愛くて…」
「ウチの娘に妙なことしないで下さいっ! つか、あんなこと教えた犯人は貴女ですかっ!!?」
「…ふふ…愚かな女と、笑ってください…」
「いやもう素で愚かと断定するしか」
「…ハクオロ様…」
「なんだい?」
「久しぶりに、おむつを替えてみたいんですけど?」
「広い世間にはそーゆー趣向の持ち主もいるだろうが、私は普通だっ!!」
「ううう…」

 部屋の隅で体育館座りですすり泣きをはじめたウルトリィに、ついつい情に負けてしまいそうになるが…ハクオロは懸命に己を繋ぎとめた。
 それはできない。男として、大人として断固としてできなかった。

 その代わりといってはなんだが、代案を提示してみることにする。

「…じゃあ、自分でしてみたら?」



 …………。
 …………………。

 1秒。
 5秒。
 1分。3分。



 なんとなく漂白された空気の中で、ウルトリィが、ゆっくりと手を合わせた。

「…なるほど」
「ちょっと待て!? 自分で云っておいてなんだが本気か貴女はっ!!?」
「ええっ!!? ……じゃあ、私は一体どうすればっ!!?」
「いや…もうお願いだから何もせんといてください…」

 何かこー、自分が信じていたものがガラガラと音を立てて崩壊していく気分というものをタップリと味わいながら、
そんな懇願をするしかなかったのだが。

「わかりました! では、やはり自分の子供は自分で産むしかないのですねっ!?」
「なんでそんないきなり前向きなんだウルト!? ……まあ、それは確かにそういうものかもしれないが」

 そう言いつつ、既にこの後の展開にある予想がついて、ハクオロは半ば腰を浮かせた。
 それを知ってか知らずか、ウルトリィは頬に手を添え、ゆったりと微笑んだ。

 まるで、慈母のような顔で。

「…私を女にしたのはハクオロ様でございますから」
「あうっ…」

 簡潔な事実に、思わずうめくハクオロの手を、いつの間にかウルトリィが取っていた。

「ハクオロ様。――いえ。あ・な・た…」
「うわ、ウルトその若奥様のような声と上目遣いは反則っ!!
し、しかしだな、ウルト、その、申し訳ないが、今日はもう私は本当に疲れて疲れきって物理的に不可能というか…?」

 妙に体が火照っている気がして、ハクオロは自分の体の変化に眉を顰めた。
 それは、確かにウルトの熟れた身体は男として非常に魅惑的ではあることを否定はしない。

 しかし、今はそんな気にはなれないし、何よりさっき云ったように、疲労困憊した身体はとても応じられないだろう。
 その、はずなのだが。

「…なぜ反応できるのだマイ・サ〜〜〜ン!?」
「あら? 何故かこんなところに先日チクナロさんから購入した秘薬が…」

 いつかどこかで見たような覚えのある『なにか』がさり気なく置かれた棚に目をやって、
小首を傾げるウルトリィにハクオロはゆっくりと、ぎこちなく尋ねた。

「あの…ウルトさん?」
「はい、なんでしょう?」
「どうして、あんな、精力剤を、貴女が所持しておられるのですかなっ!? っていうかさっきのお茶!!?」
「乙女の秘密というやつですわ☆ 気にしないでくださいまし☆」
「ああっ! なんだかとってもカルラちっくなお言葉っ!!!?」

 思えばカルラとウルトリィは、昔からの知り合いのようでもあった。
 正反対のタイプに見えて、実は意外に共通項も多いということに、今更ながら思い当たったが…もう遅い。

「さあ…奪ってくださいませっ」
「うわああああ、受身なようで実は全然受身じゃないーーーーー!!!!」



 * * * * * *



「…ハクオロ様?」

 はっ。

 その呼びかけに、意識が飛びかけていたハクオロは慌てて椅子の上で居住まいを正した。
 寝台に横になったユズハが、光のない瞳に心配そうな色を浮かべてこちらを向く。

「どう…なさったのですか? ひょっとして…退屈なさっておいでなのでしょうか…」
「い、いやそんなことはないぞユズハ! いや、その、最近、政に追われてなかなか休めなかったものでな…ちょっと疲れてるかな」

 結局、5回も務めてしまって涅槃に至ってしまいそうな心地で、ユズハの部屋まで避難してきたハクオロは、力なく笑った。

「そう…なんですか。お疲れなのに、わざわざ私に気をつかっていただいて…ごめんなさい…」
「ユズハが謝ることはない。私がユズハに会いたかったのだから。
それに、こうしてユズハの顔を見ているだけで、なんだかとても安らげるのだから」

 正直にそう云いながら、ハクオロは優しくユズハの黒髪を指で梳いた。

 そんなことで、嬉しげに目を細めるユズハに、愛しさが募ってくる。
 オボロが妹に過保護になってしまうのも、無理もないかなと思ってしまう。

「あの…ハクオロ様?」
「なんだい?」

 おずおずと口を開きかけるユズハに穏やかな気分で応じる。こんな暖かな時間を過ごせることが、今はとても嬉しかった。

「あの…私…今日はハクオロ様に…お願いが…」
「お願い? なんだい、云ってごらん」
「でも…その…」
「遠慮することはない。ユズハはもっと我侭になったって良い。私はユズハの我侭なら、どんなことでもかなえてあげたいと思うんだ」
「…ハクオロ様」
「さ、云ってごらん?」
「…………」

 頬に添えられたハクオロの手に指を絡めて、ユズハは嬉しそうに小さく微笑んだ。

「あの…ハクオロ様」
「うん」
「先日…ハクオロ様の陰茎を私の膣に挿入して、十分に膣内射精していだだいたのですが」

 ずがっしゃああああんん!!!!

「ユ、ユズハ…それは…事実だが…もうちょっと、この…」
「???」

 故トゥスクルの説明をそのまま口にしているだけのユズハは、純真なるが故に自分の発言の意味がよくわかっていない。
 それは理解しているが、しかし、この無垢な少女の口からこういう言葉が出てくるのは、いくらなんでも格差がありすぎた。

 というか、あんまりだと思う。

「それでですね、ハクオロ様…あれからしばらくして、月のものがきてしまいまして。どうやら、私、身篭ることはできなかったようなのです」
「そ、そ、そうか」
「ですから…ハクオロ様?」
「いや、あのね、ユズハ。女として子供を産みたいというユズハの気持ちは十分わかっているが、しかし…」

 あせる必要は無いのだと、云いたかった。

 しかし、もうあまり時間のないユズハに、あせるなと、云うことは難しかった。

 生れついての病弱な体。いつ発作を起こすかわからない酷使されてきた心臓は、
いつその労働から開放されてもおかしくはない。次の朝を迎えられるかどうか、自分でもわからないまま夜を迎えてきたユズハである。

 ユズハという娘が、確かに存在したのだという証明。ユズハという娘が、懸命に生きた証。

 新たな命を送り出したい。
 そのユズハの願いを、ハクオロは叶えてやりたいと、真摯に思う。

「いや、でもね、ユズハ、なんかこー、もう今の私は逆さに振っても血もでないというか」
「ユズハは…そんなに女として魅力がないのでしょうか…」
「そんなことはないっ! そんなことはないぞっ! だから問題は、ユズハではなく私に…?」

 ユズハの白い顔に赤味があるように見えて、ハクオロは彼女の額に手を置いた。

「ユズハ…熱があるんじゃないか?」
「少し熱っぽいですけど…これくらいは、いつものことですか…こほっ、こほっ…!」
「せ、咳が出てるじゃないかユズハ。あまり無理をしてはいけない! 私共々!」
「いえ、だいじょ…こほっ、すぐおさこほっ、ごほっ、こほっ、今日は体調がとっても良くこほっ! こほこほこほっごほっ、こほっ、こほっ…!」
「ユ、ユズハ! 本当に無理するんじゃない! エルルゥを呼ぼうか?」
「い、いえっ、大丈夫、本当に大丈夫……………ごほっ!」

 口元に手をやり、最後に一際大きな咳をすると、それで無理矢理押さえ込んだようにユズハの咳は止まった。
 そろそろと、ユズハは手を口元から離す。

「………あ………血が……」
「吐血してるじゃないかユズハっ! お願いだから無理をしないでくれ頼むから!」
「と、吐血くらいいつものごどでづ…もう、全然大丈夫でづがら…」
「力こぶなんか作ったってダメだっ! 安静にしてなさいっ!」

 椅子から立ち上がってエルルゥを呼びに行こうとしたハクオロの服の袖を、ユズハは掴もうとした。
 だが慌てていたため伸ばした手は空をつかむ。

 どべしっ。

「うお!? ユズハッ!!?」

 良い音をさせて、顔面から床に落ちたユズハはそのままピクリとも動かなかった。
 しばらく愕然として身動きひとつハクオロはとれなかった。

 が、ハッと気を取り直して、慌ててユズハに駆け寄ろうとした、直前。

 ずりずりずり、はっし!

「うおおお!? ヘビ少女?」

 奇妙に滑らかな動きでユズハは這いよってくると、ハクオロの足首をがっしり掴んだ。

「ハクオロ様…意味はわかりませんがその言い様はあんまりだと思います…」
「うわ、本気で怖いいいいいいいいいっ!!!?」

 口から血を垂らし、凄絶とも言える表情でこちらを見上げてくるユズハに、ハクオロは完全に圧倒されていた。



 * * * * *



「う…ううう…おやっさん…ユズハが…ユズハまで辺境の女にぃ…」

 恐らくは、もはやこの皇城内で唯一、一人きりになれる場所…厠の中で、真っ白に燃え尽きた拳闘家のような口調でハクオロはうわ言のように…、
 というか、もう、うわ言風味なうわ言を歯の間から漏らしていた。

 結局、更に二回、いたしてしまったハクオロである。

 自分が死ぬとしたら、その死因は戦場で倒れるか政の重圧による過労死のどちらかだろうと思っていたが、
第三の原因、腎虚という可能性が鬼のように高くなってきていた。

「ああ…いっそこのままポックリ逝ってしまえた方が楽な気がしてきた…」

 そんな泣き言をいいながら、ハクオロは衣服を整えて立ち上がった。

 確かにここは1人だけでいられる貴重な空間ではあるが、快適な環境であるとは言い難い。
 狭いし、何よりあまりに長時間篭りつづけていたら、臭いが染み付くのみならず、よからぬ噂まで立ってしまいそうだった。

「さて…どこに逃げようか」

 そう云って、アルルゥ手製の帯を締める。
 瞬間。

「聖上ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 どばあああんんっ!!!

「うおおおおおおおおおおおっ!!? エルンガ――――!!?」
「なんで某が人が用足しをしていると浣腸してくる厠の禍日神なのですか!!?」

 傍若無人に容赦なく、ものすさまじい勢いで厠の扉をブチ砕いてきたトウカは、
ブンブンと両手を上下に振りながら無意味に全力で否定してくる。

「まあ…確かにお前は街道の禍日神ヲイテゲだからな」
「聖上は某を愚弄しているのですかっ!」
「いや、そんなつもりはないと…思うのですが、はい」

 自信なさげに弱々しく否定する自分の前で、ベナウィ以上に生真面目にかしこまっているトウカに、とりあえず尋ねてみる。

「それにしても…この狼藉は一体何の真似なんだ、トウカ?」
「狼藉とは心外な。某はただ、聖上の御身を心配して」
「心配すると、お前は人が入っている厠の扉をブチ破るのか?」
「…はっ!? こ、これは、某としたことが…! これでは後に入る人が大迷惑ですな!」
「いや…それもあるけど。他にもっとあるだろ気にかけること? 用を足しているであろう人間のこととか」
「何をおっしゃいます! そのようなことは言わずもがな、某が常に第一に考えるのは聖上でございます!
そのためならばこのトウカ、憚り多き事ながら多少、法から逸脱することになっても気にいたしませぬ!」
「できれば気にしてほしいなぁ…で、どういう理由があるというのだ?」
「はっ! 某が何気なく聖上が厠に入るのを見かけて既に半刻、あまりに長く篭られているので、
これはもしや聖上の御身に何かあったか、と心配になりまして」

「そ、そうか…いらぬ心配をかけたようだが、別に大事は…」
「聖上はここしばらく政に追われてろくな鍛錬もなさっておられぬご様子。
人間、あまり動かないでいると便通が悪くなるのが道理でございますれば、某、早速エルルゥ殿の下に赴いて、これこの通り通じの薬をば」
「そ、そうか」

 多少、思い込みや早とちりが激しくて暴走してしまいがちな所もあるが、トウカの人柄は実直で誠実なものである。
 今の行動も私心のない、どこまでも自分に対する忠義からくるものである。それは良いのだが。

「では、聖上。早速、薬を処方いたしますので、下帯をお解きください」
「いや。だから。自分は別に便秘じゃないし。ってか、その薬ナニ!?」

 卵をその片端から摘んで細く伸ばしたような、何かの果物に良く似た形の薬袋を手に、トウカは平然と云った。

「恥ずかしがることはございません。ささ聖上、どうぞ臀部を露にして某の方に」
「だーかーら!! 私は別に便秘じゃないし!」
「聖上…確かにみっとも無いことですが、聖上の御身にもしものことがあっては国の一大事。
某、ここは不興を被ることになってもかまいませぬ! 大儀の前の一時ということで、ご容赦くださいっ!」
「慌てるなっ!思い込むなっ!先走るなあああっ!だからって浣腸だなんてお前やっぱりエルンガー!!?」
「ぬう!? 逃げないでください聖上!」
「誰だって逃げるわ馬鹿たれええええええええっ!!!」
「大丈夫です! 安心して下さいっ! そ、某も殿方にそのようなことをしたことはありませぬが、
たとえこの身に代えても聖上をお救いいたしますれば!」
「ああああああああああああああああああああ、頼むから人の話を聞いてくれえええええええええええええ……!!」



 * * * * *



「ふむ。半月というのもこれはこれで趣があるものだな…まあ、俺の柄じゃあないが」

 望楼の一角に無造作に胡座をかき、オボロは満天の星空を見上げると、手にした杯を一息で干した。

 傍らに控えるドリィがごく自然な動作で自分の杯を満たしてくれるのに任せながら、
オボロは少し離れたところで黙って杯を重ねているハクオロに視線を向けた。

「兄者…今日は少々、呑み過ぎではないのか?」

 一体何があったのか、夕食も食べずに姿を消していたハクオロが、オボロ達の前にふらりと現れたのはつい先刻のことである。
 何故かハクオロは頬をゲッソリとこけさせ、見るからに憔悴しきっているにも関わらず、何も云わず、何も語らず、ただ無言で酒を要求してきた。

 なにかこう、鬼気迫る雰囲気にとても事情を訊く気にはなれなかったのではあるが。

「兄者様。そのような呑み方は、楽しいものではないでしょう…?」

 酌をしながらも、気遣わしげに様子を窺うグラァをチラリと見やり、ハクオロは――深々と息をついた。

「…すまん。が、どうにも呑まなきゃやってられん気分というものもあるのでな」
「ヤケ酒か? 俺でよければつきあうぞ、兄者」
「「僕たちも」」

 特にどうということもなく。
 ただ、そう云ってくる弟達に、ハクオロはほんの微かにだが、笑みを浮かべた。

 何が変わるわけでもない。ただ、心の居住まいを正して、ハクオロは杯を空けた。
 黙って、静かにグラァにそれを向ける。やはり無言で、グラァは杯を満たしてくれた。

 それを、先程のように一気に煽らず、少しずつ口をつけるハクオロを見やって、オボロもまた自分の杯を傾けた。

 静かだった。

 望楼の隅に備えられた篝火が、時にはぜる音。
 微かに聞こえてくる虫の音。
 遠く、ざわめく僅かな人の気配。

 聞こえてくるのは、ただそれだけの音。

 静かな夜だった。

 空の半月は、穏やかな光を黙って投げかけてくる。

 何の気遣いも無用。気心のしれた者同士の、安らいだ時間。
 今、自分が聖上などと呼ばれ、一国の皇であることを、忘れそうな気分だった。

 それほど昔のことではなかったはずなのに。
 モロロ畑で日が落ちるまで土にまみれ、そのまま酒好きのテオロにつきあわされるように皆で集まって、飲んだ。

 その風景が、無性に懐かしかった。

 呼びにきたエルルゥはソポク姉さんの傍で、親父さん達に囲まれている自分を拗ねたように見ていた。
 アルルゥはいつも最後まで起きていることができず、トゥスクルさんの待つ家までの短い距離を、いつもハクオロの背中で過ごしていた。

 生活は決して豊かではなかったが、ヤマユラの集落は明るかった。

 畑を広げ、作物を育て、人が増え、それを養うために頭をひねり、数字を相手に格闘を続け。
 それを実現させるために夜遅くまで算術に頭を悩まし、エルルゥを心配させて。けれど、それが徐々に実現していくことは、楽しかった。

 皇となった今も、扱う数の桁は増えたが、その苦労は同じかもしれない。

 ただ、戦のために…効率よく敵を殺し、味方を死なせる計算など、する必要は無かった。
 そんなことを考えなくても良かった。

 ――会いたかった。

 今はもう、常世にはいない人達と、ただ夜通し騒いでみたかった。

 心が疲れたとき、いつも思い出されるのはヤマユラでの短い生活だった。
 もう、二度と戻ってこない。

「ああ…半月というのも、これはこれで趣のあるものだな」
「なんだ兄者、今頃気づいたのか?」

 少し酔いが回った顔をしているオボロがおかしそうに応じる。

「やれやれ…風流な酒というのも悪くはないが、やはり俺にはあまり似合わんようだな。
酒の席はやはり馬鹿騒ぎするのが良いか。――おい、お前たち」
「「はい」」

 全てを心得て、ハクオロとオボロの前にドリィ・グラァは進み出てきた。
 そんな双子にちらりと視線を向けてから、オボロは意味ありげにハクオロを見やる。

「兄者。どちらがどちらか、わかるか?」
「えっ…?」

 ドリィとグラァは、双子であるだけにその容姿はまったく区別がつかない。
 後ろで結わえた長い黒髪も、女の子のような繊細な容貌も、華奢で小柄な身体も、何から何までそっくりである。

 姿形ばかりか、この兄弟は思考や性格まで全く同一であるそうだが…。

「そりゃ…右がドリィ、左がグラァだろう?」

 唯一にして明白な差異として、ドリィは蒼、グラァは朱の袴を常に身につけている。

「なるほど…じゃあ、こうしたらどうだ?」
「「はい」」

 阿吽の呼吸でオボロの無言の指示に頷き、二人は同時に腰帯を解くと袴をその場に脱ぎ捨てた。
 目の覚めるほど白くて細い足が剥き出しになる。

 そして二人はその場で小さな輪を描いて回った。

 くるくるくるくるくるくるくる………
 ピタッ!

「さあ兄者、今度はどちらがどちらかわかるか?」
「ええっ!?」

 ピタッ、と全く同時に立ち止まり、こちらにキラキラとした瞳を向けてくるドリィとグラァを見比べ、ハクオロは目を白黒させて唸った。
 なんだか幻惑されてしまって、どちらがどちらであったか、全くわからない。

「確率は二分の一…っと、こっちがグラァか!?」
「兄者、そっちはドリィだ」
「はい、若様」

 うれしそうに微笑むドリィと、少しガッカリしたようなグラァに、ハクオロはあきれたようにオボロに問い掛けた。

「お前よくわかるな。いくら付き合いが長いとはいえ…」
「まあな。何となく、ピンと区別がつくんだ。自分でも馴れとしか理由がつけられんが…」

 ふーむ、とハクオロは腕を組んだ。おそらく宴席の余興として、この二人の班別は定番なのであろう。
 双子とはお互い親の代からの主従関係にあるオボロだからこそ分かるものなのだろうが…このまま引き下がるのも何となくおもしろくない。

「よーし、もう一回だ。今度は当ててやる」
「そうか? 難しいぞ兄者」

 余裕で笑うオボロにちょっとした対抗意識を燃やして、今度は少し緩やかにクルクルと回る二人を慎重にハクオロは注視した。

 踊るような足取りで二人は回る。

 まだあどけなさを残す少年だが、これでも弓兵衆蒼組・朱組の隊長であり、
また諜報活動にも優れた二人は筋力こそないがいかにも敏捷で、その動きは舞のような美しささえあった。

 ふわっ。

 上衣の裾が辛うじて二人の腰を隠しているが、それでもちょっと動くだけでめくれそうになる。

(……!? い、いかん、一瞬、この二人が男の子だってことを忘れそうになった…)

 頭では相手が♂だとわかっている。
 いくらかわいい顔をしているからといって、この二人はXY染色体だということは理解している。

 どんなに体つきが華奢で手足も細くて色白で滑らかな肌をしていて、
カミュやクーヤくらいの年齢の女の子にしか見えないからといって、そんな。

「…どうした兄者、顔が赤いぞ?」
「っっっっつつつ!!!?」

 思わず脊髄反射のままハラホロヒレハレと珍妙な舞などしてしまいながら、
ハクオロはなるたけ平静を装いながら、どことなく期待に満ちた目でこちらを見ているドリィとグラァに向き直った。

 二人のうち一人が一歩、前に出てくる。

「さあ兄者、こっちは誰だ?」

 酒のせいもあるかもしれないが、珍しくいたずらっぽい口調と目線でこちらに問いかけてくるオボロを一瞥して、ハクオロはジッと目つめた。
 ドリィかグラァか、外見上の違いなどまるでわからなかったが…なんとなく。

「………グラァ?」
「そうです、兄者様!」

 嬉しそうに、いつもより少し大きな声でグラァは答えてきた。

(…な、なんか無駄に嬉しそうだな)

 それこそ女の子同士のように手をとりあってきゃいきゃい笑声をあげているドリィとグラァに、思わずちょっと引いてしまう。

「オボロ…この二人、本当に男なんだよな?」
「当たり前だろ? まあその気持ちもわからなくはないが…」

 手酌で酒を注ぎながら、オボロはなんでもなさそうに言ってきた。

「じゃ、この際その目で確かめてみるか? おい、ドリィ、グラァ、腰帯を脱いで見せてやれ」
「「あ…はい、若様…」」

 ぽっ。

「だっ、だから何故、そこで頬を染めるっ!!?」
「兄者様、どうぞお気になさらず…」(ポッ)
「僕達、兄者様と若様がお望みなら…」(ぽぽっ)

 月明かりの下で、上衣の裾を指先でちょっとつまんでみせる双子の姿は、男でも女でも、かわいらしいものだった。

「…………オトコでもいいかも…」
「はは、兄者、冗談きついな」

 愉快そうに笑って杯を傾けるオボロが、どこまでも冗談として笑い飛ばそうとした時。

「ハッ、ハクオロさん?」
「……………へっ?」
「よぉ、エルルゥ」

 思わず呆けた声を上げるハクオロの横で、オボロが気さくに手を挙げる。
 男たちの視線の先で、望楼に上がる階段の手すりに手をかけたまま、そこで固まってしまったエルルゥの口元が、ピク、と引き攣った。

「…あ。いや。その…エルルゥ?」
「………………」

 怒っているわけではなさそうだったが、なんとも形容し難い…表情の選択に困り果てたような顔で黙り込んでしまったエルルゥに、
順序立てて話すこともできずハクオロも意味の無い声を洩らすしかできず。

 そのまま凝り固まってしまいそうになった場の空気が、凝固しきる前に。

「「あ……」」

 つつつつつっ

 異性の前で恥らったのか、ドリィとグラァはエルルゥの視線から逃れるように、こそこそとハクオロとオボロの背中に隠れてきた。

「…はっ、ハクオロさんっ!?」
「え、いや、あのエルルゥ、これは…! ちょ、ちょっと、お前たち…?」
「ご、ごめんなさい兄者様」
「で、でも、エルルゥ姉様の前でこんな格好…恥ずかしいです…」
「…はうぅ…」

 ちょっと潤んだ瞳でそんなことを言われると、とても二人に無下な真似はできなかった。しかも上目遣い。

「……ハクオロさん…オボロさん……」
「あ。あの。エルルゥ?」

 何かものすさまじくえげつないものを感じて、ハクオロはエルルゥに呼びかけた。
 茫洋とこちらを見ていたエルルゥは、なおそのまま沈黙を続けていたが。

「ハクオロさん…やっぱり男の子も好きなんですか…?」
「やっぱりってなんだ――――――!!!?」
「えっ、いえっ、その…ひっ、人にはそれぞれ好みというものはありますしっ…!
え、えとその、そんな、男の人同士で、男の人同士でだなんて、そんな、ハクオロさんがそんな人だったなんてっ…!」
「ちがうっ! オボロはともかく自分はキッパリと違うっ!!」
「な、何を人聞き悪さ炸裂なことを言ってるんだ兄者! 俺たちの間柄は昨日今日始まったような、いい加減なものじゃないだろう!」

 とりようによっては色々な解釈もできそうなことをオボロが口走る。

「え、うそ、オボロさん…ああでもドリィくんとグラァくんは元々オボロさんの…と、いうことは…………男四人でいっぺんに…?」
「だーーかーーらーーーーーー!! おい、ドリィ、グラァ、お前たちからもそれはエルルゥの勘違いだと言ってやってくれ!」
「…僕たちはその…若様と兄者様だったら…」
「勘違いじゃ…なくても…」

 ぽぽぽぽっ

「頬を染めるなっ! 指をもじもじ付き合わせるなっ! 瞳をそんな潤ませるなああああああっ!!!
―――だ、だからなエルルゥ、自分はな?」
「……は、はい…」

 半ば自失したように茫、としていたエルルゥは、少し霞みがかかったような瞳を、俯け気味に向けてきて。


 …………。
 ………………。
 ………………………………………………。


「…うふ」(ぽっ)
「何故ッ!!?」

 例えるなら、森の中を歩いていて蜂蜜の匂いを嗅ぎつけたアルルゥに良く似た表情を一瞬だけ見せて、
エルルゥは少し緩みかけた口元を慌てて引き締めたようだった。

「あ、あの、私、もう遅いから寝ます。
ハ、ハクオロさんも、あまり夜更かししないように、程ほどで切りあげてくださいね?――で、ではっ!!」

 しゅたっ! と手を挙げて挨拶をすると、エルルゥは、こそこそと望楼を降りていった。
 後には、例えようも無い虚無の風に吹かれるハクオロと、何となく居心地の悪い思いを味わっているその他。

「あー、兄者? なんか…ひょっとして、変な誤解でもされた、のかな?」
「………………」

 答えない、ハクオロに少し頬を引き攣らせながら、オボロはおずおずと様子を伺う。
 が、そんな彼の様子に気づいた様子も無く、ハクオロは虚空を見上げて何かを話をしているようだった。

 ――心が疲れた時、思い出すのはヤマユラでの短いが、暖かな生活。



「おやっさん…エルルゥが…エルルゥが、もうどうしようもないくらい辺境の女にぃ…」

(ガッハッハッ! ――アンちゃん、なんか、そりゃー、辺境の女とは、ちょっと違うと思うぞー?)



「兄者…おい、兄者、壊れるな! こっち戻ってこーい!?」

 望楼から、オボロの困惑した、そして困惑するしかない声が、夜風に乗って消えていった。



 * * * * *



「…う、ううう…肩が凝って凝ってもうバキバキ音を立てやがりますぜ」
「フフ。すみませんが、もう少しだけクロウにも付き合っていただきますよ。
――せめて軍略の面だけでも、聖上の負担をなるだけ軽くして上げられるように」

 皇城内の一室で、ベナウィは長年の副官であるクロウの、珍しく少し泣きが入った顔をやんわりと見つめた。

「ったくよー。言っちゃなんですが大将、俺はこういう細かい数字とか、見ているだけで頭が痛くなってくるんすけどね」

 いつもは陽気な巨漢は、情け無さそうに文机の前で硬直した身体を解しながら、涼しげな表情を保っているベナウィに向けて溜息をついた。

「クロウ。あなたは武人としては一流です。ですが、武将は己一人だけではなく指揮する隊の戦いを考えねばなりません。
――部下を上手く使いこなすことも、覚えて頂かなくては」

 武将としてのクロウの能力は、決して低いものではない。
 状況判断、咄嗟の対応能力、統率力、いずれも水準以上と評価しても良いだろう。

 ベナウィの副将として長年培った実績と経験を持つクロウは、拡大を続けるトゥスクルの陣営の中では、数少ない生粋の武人――
 元が叛乱を起こした農民や他国を併呑する中で組み込まれた出自不明の雑兵ではない、軍事面の専門家としての武人であり武将である。

 今、現在、歩兵衆隊長を務めるオボロとて武人としては一流と評しても良いが、元は辺境の盗賊団の頭領である。

 まあまがりなりにも人の上に立つ経験のあるオボロは武将として部下を統率する指揮能力も決して低くはないが、
知と勇を比較するに、勇に大きく傾斜している。武将である前にまず武人でありたいという傾向が強い。

 そして実のところ、クロウも基本的にオボロとそう大差は無い。
 ベナウィなどから見ると、その辺りがどうも危なっかしくて仕方が無いのである。

「人がただ集まればよいというものでもありません。膨張する、有象無象の兵を編成し、構成し、軍として形を成す。
彼等に訓練を施し、武器を与え、食わせてやらなくてはなりません。…この戦国の世では、常に軍を揃えておく必要があるわけですが…」
「だから頭が痛くなってくるんですぜ。そりゃ、算術も大事だとはわかっちゃいますが、人には向き不向きというものがあるんですから」
「不向きだからといってやらずに済むほど、我々は幸せではないのですよ」

 現在、トゥスクルの軍体制は徐々に変更を重ねている。
 現在の主力である歩兵衆・弓衆も増強はしているが、今後10年をかけて、騎兵衆を主体とする編成へ。

 トゥスクルはハクオロ皇の手腕により、経済的・軍事的に格段の発達を遂げている。
 が、領土の拡大に比例するほど、その内実は整ってはいない。

 国境周辺に充分な戦力を貼り付けておけるほどの余力はない。
 砦や防塞を築かせてはいるが、その程度の守りで万事解決にはならない。

 限られた兵力を有効に活用するにはどうするか?…兵力の不足を、兵の迅速な移動で賄うしかない。
 それが現状である。

 その方針のためには機動力に優れた騎兵衆を活用することが重要になってくる。

 以前、騎馬民族であるクッチャ・ケッチャとの戦の時は、
国境から僅か数刻で皇都まで侵入を許してしまったが、それも優れた騎兵衆があればのことだ。

 更に移動しつつ戦うクッチャ・ケッチャ軍を追撃するのに、ベナウィ達は散々手を焼かされたものである。

 今、そのクッチャ・ケッチャの吸収により騎兵衆は大幅な増強を成すことができた。
 いざ他国の侵攻があった場合、少数の守備隊は設けた砦で防戦に努め、皇都から迅速に援軍を派遣する。

 この構想を具体的なものにするため、ここしばらくベナウィとクロウは日数を費やしていた。

「しかしね大将。…どうして、このクソ忙しい時に総大将にわざわざヒマを作ってあげたんですかい?」
「言ったでしょう。少し休息をとっていただかねば聖上は焼ききれてしまいかねませんでしたから」

 はあ、と気の無い返事をして、クロウは首を捻った。

「あのですね大将。昨夜、カルラが大将に、何か言ってませんでしたか?」
「まあ多少の話はしましたが、それが何か?」
「えっと。それとですよ、あと、ウルトリィ皇女も大将のところに行ってませんでしたかい?」
「ええ」
「…エルルゥの姐さんも」
「そうですね」
「アルルゥにカミュにトウカ、それに珍しくユズハまで夜遅くになって次々と大将のところに赴いたようだという報告を聞いたんですが…」
「…………」
「…大将? もしかして…総大将のことで、なんか…」
「――断れるわけないじゃないですか、クロウ。一度拾った命、なればこそ無下には…」
「はあ……」

 ベナウィの秀麗な顔に少し陰が差したように見えて、クロウはそれ以上の質問を止めてイヤイヤながらも文机に向かった。

「…でもですねぇ。――総大将、ちゃんと休息とれたんでしょうかねぇ」
「…………」

 クロウの質問に、ベナウィは答えなかった。

 答えなかったが、二人は、同時に溜息をついた。








<終わる>


【後書き】

 ども、はじめまして。
 こちらには初投降となります。

 そしてまた、私には初のうたわれSSなのですが…まあ、どんなものでしょうね。

 執筆上気をつけたことは、台詞の中に、我々には使い慣れてはいるが、
この作品世界では存在しない表現・単語を使わないように、ということでしょうか。

「シチュエーション」とか、「カーブを描いて」、とか。

 時代劇なんかと同じですね。江戸時代の人間が逢引きするのを「デート」なんて言うわけないですから。
 そういう意味では地文でもなるだけそういうことはしないようにしたり。


<コメント>

クーヤ 「……のう、ハクオロ?」(−−?
ハクオロ 「な、なんだ、クーヤ?」(−−;
クーヤ 「おぬし……最近、やつれてきてはいないか?」(−−?
ハクオロ 「そ、そうか……?」(;_;)
クーヤ 「そんなに、皇の仕事が大変なのか?」(・_・?
ゲンジマル 「もちろんですとも。世継ぎを残すのも、立派な皇の勤めでございます」(−o−)
ハクオロ 「――んなっ!?」Σ( ̄□ ̄)
サクヤ 「――えっ? と、ということは……」(*−−*)
クーヤ 「なんだ……やはり、好色皇という噂はまことであったか?
      それならば、サクヤの室入りの件、早急に進めなければな」( ̄ー ̄)
サクヤ 「は、はう〜……」(*・・*)
ハクオロ 「……もう、好きにしてくれ」(T_T)
クーヤ 「そうか? では、おまけにヒエンも付けてやろう」(^○^)
サクヤ 「ええっ!? どうして、お兄ちゃんまでっ!?」(@○@)
クーヤ 「うむ……トゥスクルの皇は、好色皇であり、さらに男色皇でもあるという噂をだな……」(−o−)
ハクオロ 「違うーーーっ!! 私は正常だーーーーーっ!!」(T△T)
クーヤ 「しかし、こういうのも兄妹丼というのかのう?」(−o−)
ハクオロ 「うっがあああああーーーーっ!! 誰だぁぁぁぁーーーーっ!!
       クーヤに妙なことを教えた奴はぁぁぁぁーーーーっ!!」Σ( ̄□ ̄メ

ゲンジマル 「…………」( ̄3 ̄)〜♪

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