ソードワールドTRPG SS

『身体に秘めたもの』






 デシード島から出たのが三日前の夕刻――
 船で一晩明かして、ガルガライス港に入ったのが一昨日――

 ガルガライスで、一晩過ごした後、わたし達は、再び船上の人となった。

 目指すはオラン。
 アレクラスト大陸最大の大都会にして、冒険者の街。

 そんな船旅も二日目――

 リュードさんとテルトくんは甲板で鍛錬。
 リーオさんは食堂で寝てしまったまま放置状態。
 ジェシカ姐は『暗くて読書も出来ない』と甲板へ。
 マイナは、どうやら船員の手伝いをやっているようだ。

 わたしは、といえば……、

 わたしは、昼間から船室のハンモックでゴロゴロしていた。
 悩みたい気分だったのだ。

 森に住んでいたころ、なにか考え事をするときは、
思いっきり高いところの枝にハンモックをかけて、寝転がっていたものだった。

 ゆらゆらゆれるところも枝にかけているようでよい。
 ちょうど誰もいないので、物思いにふけるには最適だった。

 そんなわけで、空と風はないが故郷気分で考え事である。

 お題は、ファウちゃん家奪回戦。
 正確には、あの階段の踊り場。

 そこに仕掛けられていた装置のせいで、わたしは幻影を見た。

 小さいころ、よく森から抜け出して遊んでいた農村。
 そこで佇む、わたしとテルトくん。

 二人は、もはや剣も鎧も身につけず、鍬を傍らにおいていた。

 そして、わたしのおなかは……、

「わたし、テルトくんのこと……」

 あの幻覚を見せられて、初めてはっきりした。
 わたしはテルトくんが好きだ。

 さらに言えば、結婚して故郷でのんびり暮らしたい。
 そこまで考えていたのだ、自分でも気づかぬままに。

 いや、気づかなかったといえばウソになる。

 もやもやした感覚はずっとあった。
 特に、ジェシカ姐やマイナとテルトくんが絡んでいるとき。

 今にして思えば、あれは嫉妬だったのか。
 自分に嫉妬なんて感情があったこと自体、初めて知ったぞ。

 ――そして、もう一つ、気づいたことがある。

「ここに、子宮があるんだよね……」

 わたしは女。テルトくんは男。

 どこに子宮なんかが入っているのか分からない、
すっと線を引いたようなおなかをさする。

 もちろん、月に一回生理は来るし、
裸を見られれば見たヤツに制裁加えるし、男と間違えられれば怒る。

 でも、自分がお母さんになれるということは、すっかり忘れていた。

 妊娠すれば、あの幻影のようにお腹が膨らむだろうし、
生まれたら、胸も少しは膨らんで、母乳だって出るのだろう。

 そんな可能性を秘めていることなど想像もつかない、
スレンダーで細っこい、時に恨みたくなる身体がここにはあった。

 多分、前に考えたのは、恋人が出来た一昨年か……、
 妊娠しないように、危険日を計算していた。

 あの頃は、妙に真逆なことがしたくて、自分が知る限りで、
一番大きな街だったファンで、盗賊ともチンピラともわからない生活をしていた。

 すぐに胃がむかむかしてきて、逃げ出したけど……、

 ――今回は逆だ。

 テルトくんとだったら、
子供を作っていい、とあの幻影は言っていた。

 実際、悪い想像ではなかった。

 テルトくんと結婚して……、

 幻影ではタラントの風景だったけど、
現実的には、オーファンのウィンチェスタ家に嫁入りするのだろう。

 そこで、テルトくんと畑を耕して暮らす。
 話に聞いたご両親やお姉さん、ラフィちゃんともきっと一緒だ。

 そして、子供が出来て……ってことは、その前に?

 ……そこまで考えて、頭を振った。

 テルトくんは好きだが、どうも下半身の相手にする調子ではない。
 寝台の中に一緒に入る、という状況が想像できないのである。

「あー、もう……」

 想像できないからこそ、身体は疼く。

 逆に、わたしを寝台からたたき起こして、
『冒険に行きましょう!』と、テルトくんが叫んでいる姿だったら、すぐに想像できる。

 さらに、『行こう、今すぐ行こう!』という自分自身も想像できてしまう。

 わたしもテルトくんも、冒険者なのだ。
 筋金入りの。

 その証拠に、わたしはここにいる。



『あなた達は、その遺跡に行きたいのね? 
わたしも遺跡行きたい。来なさい。
テルトくん、あたしと来なさい!』




 この言葉を言ったから……、
 わたしは、テルトくんたちと一緒にいる。

 グラスランナー並の好奇心だね、
といったのは、タイデルで会った魔術師の女の子だった。

 その子は、結局、学院に腰をすえることにしたのだけれど、
ひきずられて冒険をやめなかったのはやっぱり、冒険好きだったからなのだろう。

 実家までは、南に向かって、たった数日歩けばいいだけだったのに。

「そんな格好で寝て、風邪引かないかえ?」

 急に声をかけられた。

 首だけ回して、そちらを見ると、ファウちゃんだった。

 見かけはかわいい女の子。
 その実、齢数百歳のノーライフキング。

 でも、今は魔法で人間の女の子に化けている、というちょっとややこしいお子様である。

 そんなファウちゃんが、
リーオさんコーディネートのフリル付きの服を着て立っていた。

「大丈夫、これでも身体は丈夫なの。そっちこそどうしたの?」

 そういえば、昼食が終わってから、ファウちゃんの姿を見ていなかった。
 手をヒラヒラ振ってから、ハンモックの上で座る。

「ちと様子が気になってな。あの仕掛けのせいじゃろ、沈んでおるのは」

 やはり見抜かれていたか。
 やっぱり古代帝国より前から生きてる(?)吸血鬼は違う。

「夢の中で娘と会うための装置、って話だったよね……」

 理解できない感覚だった。

 人間死んでもいつかは生まれ変わる。
 死の先には新しい生。
 死は悲しいけども、次に会うときのために笑う。

 わたしは、そう思う。

 お母さんから継いだ、
エルフの血がそう思わせるのだろう。

 ファウちゃんは自分のハンモックの上に腰掛けた。

「過去にすがる。馬鹿なことじゃ……、
キアーラが見たのは過去ではなく、未来だったようじゃがな。
有り得んことは同じじゃが」

 ファウちゃんは遠い目をしていた。
 馬鹿だといいつつ、お父さんのことでも思い出しているのだろう。

「どうせ相手は、どこぞの冒険好きじゃろう?
実物見んでも、惚けた顔で農家の女のような服になったと聞いた地点ですぐ分かったわい」

「おみそれいたしました、ファウエル様」

 王様に向かうように頭を下げる。
 その様子がおかしかったのか、ファウちゃんは小さく声を立てて笑った。

 ファウちゃんは昔、お姫様だったようなので、
わざとやってみたのだが、ツボにはまってくれたらしい。

「それにしても、そなたも難儀な相手に恋してしまったものじゃのう。
ライバルは多いわ、感度は悪いわ……、
ある意味、プリシスの城塞より難攻不落じゃぞ」

「分かってるつもりなんだけどね……でも楽しそうなんだよ、テルトくんと暮らすの」

「ほう……」

 ファウちゃんに、幻影の中でのことを一切合財しゃべった。

 ファウちゃんが上手く相槌を入れてくれるおかげで、
いくらでもしゃべることが出来て、しゃべり終えたころには、
ただでさえ軽い身体が半分くらいになった気分だった。

「それはまた――」

 ファウちゃんは感慨深げだった。

「わしにはそういう道はないからのう……、
魔法を使っても良いが、どうもこれ以上歳を取りたいと思わん。
父上と母上と共にいた時から、時を進める気がないのだろうな。
一度だけ恋人を作ってみたが……違和感がありすぎた。
永遠にこの歳でいるのがお似合いらしい」

 得することもあるしな、と付け加えたファウちゃん。

 軽く笑う顔に、寂しさが漂っていたのは気のせいではないだろう。
 エルフよりも長生きする彼女は、永遠の子供、永遠のヴァージンでいるつもりのようだ。

 いつかは年老いるこっちとしては、それはそれでうらやましい。

 だが、テルトくんへの、この感情がもてない、というのもいやだ。
 有限の命を持つのも悪くはないのだ、きっと。

「ところでキアーラ。その幻影は、一体いつなのかの?」

 そういえば……、
 ずっと先のような気もするし、意外とすぐのような気もする。

 でも……、

「今すぐ、ではないね。うん、懲りるまでは冒険続けるよ」

 テルトくんはきっと、しばらくは剣を手放すことはないだろう。
 第一、まだクロニカの件が済んでいない。

 ――わたしも、だ。
 しばらくは、道具箱を手放せまい。

 『グラスランナーの好奇心』が一杯になるのは、まだまだ先だ。
 リコリスさんを眠らせてあげる、という約束も、まだ済んでいない。

「それなら、わしを放り出して実家に帰る、なんてことはなさそうじゃな」

 ファウちゃんはニヤリと笑った。

「いざとなったら、うちの子になる?」

「考えておこう。庶民の子をやるのも面白そうじゃ」

 二人して、声を出して笑った。

 体重が全部なくなって、風になったような気分だった。
 おなかも、まだまだ軽くていい。

「キアーラさん、ファウさん、ご飯が出来ましたよ」

 いつの間にやら、夕飯の時間だったらしい。
 マイナが部屋のドアをノックしていた。

「はーい!」

「すぐいくぞー」

 二人そろって、軽い気持ちで食堂へ向かった。





 シチューを3杯もおかわりして、
『よくその身体に入るなぁ』とあきれられたのは余談である。





<おわり>


<コメント>

誠 「――で、誰が好きなんだ?」( ̄ー ̄?
テルト 「はい……?」(・_・?
誠 「しらばっくれても無駄だっての……、
  いるんだろう? パーティー内に好きな子が?」ヽ( ´ー`)ノ
テルト 「ボ、ボクは、いつも冒険のことで、頭が一杯で――」(@○@;
誠 「そんな、何処ぞの赤毛の勇者みたいなこと言って、
  誤魔化そうとしても、バレバレだって〜の」ヽ( ´ー`)ノ
テルト 「別に、誤魔化してるわけじゃ……、
     『好き』とか、そういうのじゃなくて、
     ボクは、ただ、あの人に認めて貰いたいだけですよ。
     いつも、子供扱いされてるから……」(*−−*)
誠 「実際、パーティー内では、お前が一番、子供だろ?」(−o−)
テルト 「だからこそ、ですよ……、
     もっと信用して欲しい、と言うか、頼られたい、と言うか……」(*・・*)
誠 「まあ、何にせよ、答えを出すなら、早めにな?
  それが、彼女達の為でもあると思うぞ?」(^_^;
テルト 「……彼女達って?」(・_・?
誠 「少なくとも、盗賊の姉ちゃんは、
  明確なビジョンを持ち始めてる、ってことだよ」(−o−)
テルト 「ボクのことより、貴方はどうなんですか?
     周りには、随分と沢山の女性がいるみたいですけど?」(¬_¬)
誠 「いや〜、まあ、その……、
  俺は、ちゃんと、答えは出してるし……」(^_^;
テルト 「ふ〜ん、へえ〜……、
    恋人が三人……いや、四人ですか?」(¬o¬)
誠 「うっ……」(−−;
テルト 「…………」(¬_¬)
誠 「…………」(^_^;;


テルト 「――汝は邪悪なりぃ〜っ!!」( ̄□ ̄メ
誠 「お前よりは、なんぼかマシだぁ〜っ!!」( ̄□ ̄メ


キアーラ 「ああいうの、何て言うんだっけ?」(^_^?
ジェシカ 「五十歩百歩かしら?
      近親憎悪でも、間違ってないかもしれないわね〜」ヽ( ´ー`)ノ
リーオ 「きゃ〜、二人とも、女の敵〜♪」(^▽^)
マイナ 「……テルトさんの馬鹿」(−−メ
リュード 「師匠として忠告……、
      テルト、女を敵に回すと怖いぞ……?」(−−;;


STEVEN 「このSSは、真魚GMと行った、
       SWTRPGセッションの後日談となります。
       詳しい内容は、下記のリプレイを参照してください」<(^▽^)>

SWTRPGリプレイ『始まりの叙事詩〜黒の歴史書〜』(直リン)

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