月姫 SS

     
琥珀さんと夜のお屋敷







「……よし」

 監視カメラの配置は、頭に叩き込んだ。

 今夜の巡回は、確か琥珀さんだったはず。
 だけど、最近はゲームに熱中してて、意図的にすっぽかすこともあるみたいだ。
 (世間一般では、それをサボりと言います)

 ――なら、チャンスは、その一点。

 突破できないのであれば、まあ……その時はその時だ。

 残念そうな表情は、誰のであっても見たくないけど……あの子の場合は特にそうだ。

 きっと、もう門の前で待ってるんだろう。
 そんなことを思いながら、ポケットにいつものナイフを落とした。

 シエル先輩が、夜な夜な街をパトロールしているから、
死徒の類はいないとは思うけど、万が一ということも有り得る。

 そんな時に、あの子を守るどころか、自分の身すら守れないのでは話にならない。

 準備オーケー。
 さあ、出発だ。

 音を立てないようにドアを開け、暗がりの廊下を凝視する。

 ……よし。
 誰もいないみたいだ。

 足音も聞こえないってことは、やっぱり琥珀さんは自室にいるんだろうか?

 いや、油断するべきじゃない。

 もしかしたら、屋敷の中を巡回している可能性だってある。
 たまたま、こちらの方には来ていなかっただけかもしれない。

 なるべく足音を立てずに、廊下を疾走する。
 階段近くまで来たら急停止して、曲がり角から顔だけ出して様子を伺う。

 ……よし、誰もいないな。
 今こそ突撃だ。立てよ国民よ!!

 ……っと、危ない危ない。
 昨日、琥珀さんとやったゲームを思い出してしまった。

 そんなことを考えながら、階段の方へ踏み出そうとした時…!

「あはっ♪ ダメですよ、志貴さん。
夜間の外出は禁止だって、秋葉様に言われてるじゃないですか〜」

 階段の下には、笑いながら立ち塞がる琥珀さんが……、
 というか、俺が見落としたのか?

「ほーらっ、志貴さん。秋葉様に見つかったら、後々面倒なことになりますよ?」

「え……ってことは琥珀さん? もしかして、見逃してくれるとか?」

 ぼやぼやしている俺を急かすような言葉に、俺は少しだけ期待を持った。
 例えば、何かと交換条件に、このまま外に出させてくれるとか。

 ……でも、現実は決して甘くはなかった。

「はい。そういう訳で、夜間の[外出]は禁止ですけど、
私の部屋でゲームする分にはのーぷろぶれむですから、このまま素直に昨日の続きをしませんか?」

 うっ……やっぱりそ〜来たか。
 前に有彦が来てから、琥珀さんのゲーム好きが加速したからなぁ……、

「というか、琥珀さん。ザ○量産しないで下さいよ。
ただでさえ○邦は最初キツイんですから……」

「何をおっしゃるんですか! ガ○ダムが完成したら不利になるのはこちらなんですよ?
ですから、ジ○ンは最初の電撃作戦で一気に攻めないと勝てないんです!」

 ……その割には、もうすぐグ○とか○ムとか作れるじゃないですか。

「……っと、それはさておき、今夜は先約があるんだ。
だから、琥珀さん、明日の夜じゃ……ダメかな?」

「残念ですね〜……私としても、志貴さんに手荒な真似はしたくないんですが……」

 俺の意見を却下した琥珀さんの手に、どこかで見たようなロープが現れる。
 あれは……危険っ!?

「えいっ♪」

 琥珀さんがそれを引っ張るのと、
俺の危機感が反射的に足を動かしたのは、ほとんど同時だった。


 
ガバァッ!


 勢いよく、俺がさっきまで立っていた所に、暗黒への扉が開く。
 確かその向こう側は、遠野家の地下牢に直通しているはずだ。

「あ……危ないじゃないですか琥珀さんっ!! これ、落差何メートルあるんですかっ!?」

「――え? いえいえ。すぐにサ○ダー○ードみたいな、
なが〜い滑り台にご案内されますから、そう大して痛くないですよ♪
終着点は私の部屋ですけどね〜」

 いつの間に、遠野家はアミューズメントパークになってしまったんだろうか。

「……じゃなくてっ、やっぱり実力行使ですか!?」

「はい。遠野家に仕える侍女としては、
やはりこれくらいのスリルとサスペンスがないと、志貴さんも退屈かと思いまして♪」

 いや、あのですね琥珀さん。
 この状況を楽しんでるのは、絶対に俺じゃないですって……、

「さてさて、それでは、私のお部屋へ拉致監禁した後に、
昨日の続きを致しまして、その上で聞き分けが良くなるお薬を……!」

 キャー、とか何とか言いながら、
頬に手を当てて、やんややんやと色んな計画を口にする琥珀さん。

 その口から語られる計画は、どう転んでも無事じゃ済まないような気がする。

「冗談……ですよね?」

 無駄とは思いつつも、最終確認してみる。
 答えは……、


 
ガバッ!


「うおぉぉっ!?」

 またもや、足元に広がるブラックホール。
 だが、それは俺の真下ではなくて、せいぜい右足を呑まれる程度の範囲だった。

「てへっ♪ 間違えちゃいましたね」

 あわよくば、ゲームオーバーになっていたであろう大穴に一瞥をくれ、俺は体勢を立て直す。

 相手を説得するのが無理ならば――
 もはや語るまい――

「だったら……琥珀さん。止められるものなら、止めてみて下さいっ!!」

 眼鏡を外して、ナイフの刃を出す。

 もうなんだか、俺もものすごーく変なテンションになって来たけど……、
 何だか、楽しくなって来たからどーでもいいや。

「おおっ! 志貴さんも、何だかどこかのキレちゃった、銃使いのハンターさんみたいですね〜♪」

 ああ、確かそれは、琥珀さんの部屋にあった、マンガのキャラだったような。

 誰より殺人鬼に近い場所にいて、一歩間違えただけで、見境なく人を殺す、
悪魔になってしまいそうな自分を、ギリギリで制御しながら戦い抜くキャラ、だったっけ?

 いや……、
 「翼ある銃」の話はさておき……、


 
くいっ♪

 
ダンっ!!

 
ガバァッ!!


 琥珀さんがロープを引くと同時に、俺は床を蹴って一気に飛ぶ。
 一瞬後、さっき俺が立っていた場所の床が抜けていた。

「遅い! 遅いです、エ○オン! もっと早く反応して下さいっ!」

「……見える! 見えるぞラ○ァ! 俺にも穴が見える!!」

 何と言うか、セリフがアレなのは、間違いなくゲームの影響だろう。

 床に走る碁盤の目のような死の線が消え、
穴に変わる刹那に、俺の足はその床を通り過ぎ、また次の着地点へと跳躍する。

 だが、いつまでも逃げ回ってはいられない。
 確実に琥珀さんは、俺を追い詰めようとしていた。

 次々に穴は空いて、次第に逃げ場は少なくなっていく。

「あはっ♪ 体力勝負には長けてませんけど、チェックのかけ方は知ってますよ〜」

 そりゃそうだ。
 チェス、将棋、オセロ、囲碁……その手のゲームでは、勝ったためしがない。

 でも、それは…厳密なルールの中での話。

「盤ゲームとは違うのだよ、盤ゲームとはっ!!」

 数少ない逃げ道を選びながら、天井に走る死の線を凝視する。
 俺の考えが正しければ、視えるはずだ……!!

「こんな時に、よそ見してちゃダメですよ? はい、ターゲット・ロックオンです♪」

 ……え?


 
かぱっ♪


 俺の足元に、マンホールくらいの穴が空いた。

 いや、まあ……、
 油断と言えば油断になるんだろうか。

「私の勝ちのようですね、志貴さん。それでは、一足先にお部屋で待ってて下さいね〜」

 勝利を確信し、笑顔で手を振る琥珀さん。
 俺の視界は、一瞬で真っ暗になった。

 だけど……っ!


 
がしっ!


「まだだっ! まだ終わらんよ!!」


 
ダンっっ!!


「えぇぇっ!?」

 暗くて見えなかったんだろう。
 俺はギリギリの所で、穴のふちに手をかけてとどまっていた。

 そして、腕の力を一気に爆発させて、跳び上がった。

「この状況を楽しんでいる琥珀さんには分かるまい……、
俺のこの眼を通して視える、死の線の意味が! 直死の魔眼は伊達じゃないっ!!」

 右手に持っていたナイフをくるりと持ち替え、刃を指に挟む。
 いつかの夜、奴が見せた投擲の構え。

 そして、俺には視える。
 この状況を切り抜ける、数少ないラインが!

「そこっ!!」


 
シュンっ!!


 大きく横に腕を凪ぐ。
 空気を切り裂きながら、半端じゃないスピードで飛んでいくナイフ。


 
ガッ!


 そのまっすぐな軌跡は、自分でも惚れ惚れするくらいの精度で、
自分が狙った一点、天井にあった黒い点を貫いた。

 琥珀さんの足元に、音もなく落ちるロープ。
 先端には、何が何やらよく分からない部品が沢山ついていた。

 やっぱり、トラップの制御装置が天井にあると踏んだのは正解だったみたいだ。

 慌てて、リモコンらしき物体を取り出した琥珀さん。
 だけど、どのボタンを押しても、何も起こる様子はない。

「はい琥珀さん、これで俺の勝ちだね」

「酷いです、志貴さん……、
秋葉様にバレないように、半月もかけてセッティングしたんですよ〜…?」

 ――うわ!
 終いには泣き落としですか、琥珀さん。

「え、えっと……それじゃ、行ってきます!」

 眼鏡をかけなおし、天井から落ちて来たナイフをキャッチすると、
俺はそそくさとその場から退散した。

 いや、だってホラ。
 琥珀さんの演技って、いろんな意味でシャレになってないし。

 こんな風に泣かれたら、こっちが悪いような感じがするし。

 と言う訳で、三十六計逃げるにしかず。

「志貴さんっっ! 戦いはこの一戦だけではありません!
次の機会までには、遠野グループに10年戦える量のトラップを発注しちゃいますから、
覚悟してて下さいましねーっ!!」

 琥珀さんは最後まで、それっぽいセリフで俺を見送ってくれた。

 まあ、確かに、後で何されるか分かったもんじゃないけど、この際それはそれ。
 玄関のドアを開けて、一気に走り出す。








 きっと、門の辺りには――

 待ちくたびれた様子の黒猫がいるだろう――








<おわり>


あとがき

 蜂起少女まじかるアンバーに似てなくもないですが、お薬もホウキも使ってません。

 というのも、これはアンバーの前に書いていた、
言わば試作型みたいなものなんです。

 しばらく前にハードディスクが壊れたので、その時に一緒になくなってしまいましたが、
話の大部分の流れは覚えていたので、新たに書き直しました。

 ただ、元々はこんなに濃いネタ使ってなかったんですが……、
 気付いてみれば、ネタ不足という理由を盾に、
ガン○ムのセリフを使いまくるというとんでもない状態に。

 一番、その手のゲームの影響を受けたのは、作者自身でした。(笑)

 そんなこんなで、相変わらずの出来ですが、楽しく読んで頂ければ幸いです。


<コメント>

あかね 「ま〜くんのた〜めな〜ら、エ〜ンヤコ〜ラ♪」(^○^)
さくら 「大願成就のた〜めな〜ら、エ〜ンヤコ〜ラ♪」(^○^)

 ザック、ザック……
 ザック、ザック……

誠 「お前ら……なにやってるんだ?」(−−?
さくら 「はい、まーくんって、いつも窓から逃げるじゃないですか?」(^_^)
あかね 「だから、窓の真下に落とし穴を――って、まーくんっ!!」Σ@○@)
さくら 「ああっ、バレてしまいましたっ!!」(T△T)
誠 「お前ら、とうとうトラップまで……、
   ってゆ〜か、そんな真似、誰に教わった?」(T_T?
あかね 「うみゃ、海坊主直伝だよ〜♪」(^▽^)
誠 「お前らは、何処ぞのスイーパーの相棒か〜っ!!」Σ( ̄□ ̄メ

S 「トラップと言えば伊集院 隼人……古いか?」(^_^;

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