月姫 & AS クロスオーバーSS

戦力二乗の法則

〜 第七幕 「出会いは冤罪のように」 〜









「さて、秋葉様……お覚悟をっ!」

 ホウキの柄を、眼下の町並みに向けて、アンバーは意気込んだ。

 手には、1枚のカード。

 それを手裏剣の様に投げると、
アンバーは一気にホウキを加速させ、急降下に入った。

(切り裂く光、断つ者よ。我が識に対し、その身を以て答え、命に従え。
汝を描くは争いの形……)

 投げたカードは輝きを増し、その光は凝縮して物体となる。

「いっけー♪ シューティングソードっ!」

 光は無数の白刃となって、眼下の闇に吸い込まれていく。
 彼女はそれを追うように、雲を抜け、加速し続ける。

 目指す場所はもちろん、宿敵・遠野秋葉がいる場所、古巣でもある遠野家。

 光は森に突き刺さる。
 そこは、遠野家の裏庭。

 木々の間に、紅い色彩を見て取って、アンバーは進路を強引にずらした。

 相手に見られた瞬間に、勝機など皆無に等しくなる。

 秋葉の[略奪]の能力。
 その本気の一撃を喰らえば、それこそ魂ごと奪われかねない。

 見た者から、問答無用で奪い取る能力。
 それを防げない以上、取れる戦法はどうしても限られてしまう。

 相手の死角から一気に近づきつつ、彼女は眼前に無数の黒い壁を構築した。
 それを飛ばした瞬間、また進路を変えて、大きなカーブを描いて森へと突っ込む。

 その瞬間、秋葉へと飛ばしたはずの壁は、音もなく消失した。
 それは紛れも無く、秋葉の[略奪]だった。

(参りましたね〜……秋葉様、双眼鏡でも使ってらしたんでしょうか)

 あまりの長射程に、アンバーはそんなことを考える。

 月のない夜を選んでいたので、黒い壁は見えにくいはずだった。
 やはり、本気の秋葉は伊達ではない。

(――まあ、それはそれで)

 やってみる価値はあるかもしれませんね♪と、彼女は笑う。
 魔力を扱えるようになって、自信もあるのだろう。

 ミラーゴーグルを落とすと、魔力を両手の間に溜め、それを頭上に放った。

 直後――圧倒的なまでの閃光が、周囲に広がった。

 白色に埋め尽くされる世界。
 だが、その中において、アンバーは動きを見せた。

 瞬時に上空に飛び上がり、秋葉の姿に狙いをつけて、カードを投げる。

(我が呼ぶ者の名は予期せぬ災い。
戦の形に導かれ、魔を討つ矢となりて現れよ……)

 投げられたカードは、再び白刃となって飛ぶ。
 アンバーは、返す手でもう1枚カードを投げた。

「ライトニング・エッジ!」

 2枚目のカードは雷となり、刃を追って駆け抜ける。
 それを見届けると、彼女は森の中に飛び込んだ。


 ズガガガァァァッ!!


 辺りの光が薄れた瞬間、遠くで轟音が響いた。

 姿を確認されれば終わりなので、
命中したかどうか、どの程度の効果があったのかは分からない。

(む〜……これは、動かない方がよさそうですね)

 ミラーグラスを外して、じっと気配を殺し、相手の出方を待つ。
 それ次第では、屋敷内に突入し、志貴を奪取して逃げるつもりだったのだが――

 ――それは、全く予期しない事態だった。

(―――!?)

 周囲に、紅い物が見えた。
 その正体に思い当たった瞬間。

『甘いわね、琥珀。それで気配を消したつもりかしら?』

 身体の感覚は消え失せ、彼女の意識は、そこで闇へ落ちた。

 ――そして、落ちた意識は再浮上して、淡い光の中へ。

(……はあ、また負けちゃいましたねー)

 うっすらと汗をかきながら、琥珀は目を覚ました。
 枕元では、2匹の黒猫が仲良く眠っている。

 もちろんここは、ウィネス魔法店。

 目に優しく、眠るのにも苦にならない程度の明かりが、
光の魔導石を用いたランプから、部屋に広がっている。

 さっきまでの戦闘は、レンの[夢を見せる]能力による模擬戦闘。

 夢の中というのは、現実に限りなく近い感覚で行動できる。
 さらに、何をやっても他人に迷惑をかけないので、シミュレーションには最適だったらしい。

(早起きと言うには、ちょっと違う時間帯ですけど……まあ、ちょうどいいですね)

 猫達を起こさないように、琥珀は部屋を抜け出した。
 足音を立てないように、ホウキに乗って階下へと降り、工房に入る。

「……ふうっ。さてさて、お薬の開発をしましょうかね♪」

 魔力を扱えるようになり、
魔法薬の開発も行えるようになった琥珀は、新薬の開発に没頭していた。

 もちろん、猫サーリアを元に戻すのを最優先にしている。

 ――もっとも、そうしたのは琥珀自身なので、責任は彼女にあるのだが。

(サーリアさんが元に戻ったら、
レンちゃんに頑張って頂きませんとね♪)


 シャッ、シャッ、シャッ……


(………?)


 シャッ、シャッ、シャッ……


「……ふにゃ?(何の音ですかぁ?)」

 階下から聞こえた音に、レンとサーリアは目を覚ました。

 レンの姿は、いつもの人の状態。
 サーリアはレンの肩に飛び乗って、一緒に音がする方へと向かう。


 シャッ、シャッ、シャッ……

 シャッ、シャッ、シャッ……

 シャッ、シャッ、シャッ……



「……あはっ♪」

(…………)

 レンには、その正体が分かってしまったようだ。
 仮契約とはいえ、今の主人の性格を理解していない訳ではない。

 それに加え、志貴からもこう聞いていたのだ。

『琥珀さんは、たまにトンデモナイことするからなぁ……』と。

 階下に降りたレンは、音を立てないように、その方向を覗き見る。


 シャッ、シャッ、シャッ……

 シャッ、シャッ、シャッ……



「……あはっ♪」

 そこには、案の定と言か、予想通りと言うか……、
 包丁を磨いで、その輝きに悦に入る琥珀の姿が。

「あらら、まさか見られちゃうなんて。
レンちゃんも、気配の殺し方が上手くなりましたねー♪」

 くるりと振り向き、いつものように笑う琥珀。
 だが、彼女に対して、レンもサーリアも、リアクションを取ることは出来なかった。

 手には、妖しく輝く包丁が。
 そして側には、すらりとした長刀が、抜き身の状態で置かれている。

 もしも、返り血でも浴びていようものなら、殺人犯として通じる状況だ。

「待ってて下さいね。これだけ終わったら、朝ごはんにしますから♪」

 ゆっくりと軽く、懐紙で刀の汚れを拭う。
 すっかり古い汚れがとれると、打ち粉を打ち、軽やかに払う。

 きれいに打ち粉を払ってしまうと、刀は一層の輝きを増す。

「……あははーっ♪」

(…………)

「にゃぅ〜……(恐いですぅ〜……)」

 琥珀は、しばらく刀を光にかざしていたが、どうやら満足したらしい。
 雪のような輝きを最後に、刀を鞘代わりのホウキに収めた。

「さてさて、私もまだまだ負けてられませんからねー☆
かずさちゃんみたいに頑張りませんと♪」

 両手に1本ずつ、包丁を逆手に持ち、キッチンへと消えていく琥珀。
 2人は、それを見送ることしかできなかった。

「みゅ〜……(何かあったですかね〜……?)」

(…………?)

 彼女が、いつも楽しそうに料理をしているのは、2人とも知っているのだが……、
 いつもとはどこか違う様子に、困惑せずにはいられなかった。


 キィン! キィン!


「かっぜっの〜吹く丘〜駆け出す〜♪ こっどっも〜の時は〜♪」

 明らかに、通常の調理では出ないような、激しい金属音。
 それを不審に思ったレンは、勇気を出してキッチンへと向かう。

「だけど〜♪ 青い〜♪ そーらにっ手はとっど〜かない〜♪」

 水平に構えられた左の包丁。
 その上には、生卵が3つ乗っている。

 軽い予備動作を経て、卵が空中にふわりと浮いた。

「おっとっな〜になって〜空は〜♪ ちっかっづ〜いたのに〜♪」

 その刹那、琥珀の手が閃く。

 右手の振りで、卵の殻だけを斬り、
中身が出た瞬間に、返す手で殻を弾き飛ばした。

 殻は見事に三角コーナーへ。

「そのあ〜おさ〜♪ もーう〜見〜えなーいよ〜♪」

 じゅわっ♪と音がして、下で温められていたフライパンが、本来の働きを始める。

 ちなみに普段は、おたまとセットで、
目覚ましなどに使われることが多い。(特に対サーリア用)

「立ちど〜ま〜って〜♪ 時〜の音が〜♪」

 腰を落とし、包丁の角度を僅かに変える琥珀。
 真剣な眼差しで、卵の焼け具合を確かめる姿は、まさに料理人。

「世界〜隔てーる〜♪ Frag〜me〜nt〜♪」


 ギュィィ……ン♪


 包丁が、フライパンの底をかすめる。

 宙に浮き上がる、3人分の目玉焼き。
 それを目で追いながら、琥珀は素早く腕を凪ぐ。

(…………!?)

 その軌跡は、志貴のそれを見慣れているレンでも、完全には捉らえられなかった。

 最初の一閃が走ったと……、

 そう見えた瞬間、目玉焼きは、
見事に3等分され、並べられていた皿に着地する。

「か〜ぜ〜吹く〜♪ ばらばらの〜せーか〜いを〜♪
かーけ〜ぬ〜けーる〜の〜をかーんじーてる〜♪」

 宙に放り投げられる野菜達は、
一瞬の閃きでばらばらにされ、フライパンの上で音を上げる。

「手〜に〜入ーれ〜て〜もっそ〜の〜かーぜは〜♪
あーお〜さを〜う〜しーな〜〜う〜♪」

 どこからか取り出した何かの肉も、
同様にフライパンへ送られ、その上から琥珀は謎の調味料を振る。

 塩胡椒だと思いたい。

「そ〜れーでも〜♪ ほら窓際〜にーお〜り〜た〜つ〜♪
そ〜こーか〜ら〜見ーえ〜る〜あ〜おぞーらに〜♪」


 じゅわっ♪

 じゅわっ♪

 じゅわっ♪



 片方の包丁をしまい、琥珀はフライパン上で具を踊らせる。
 手に持っているのが包丁でなければ、普通の料理人に見えるだろう。

「か〜ぜが〜ふ〜き〜♪ と〜きが〜きざ〜まーれ〜るあ〜の〜けーし〜き〜〜♪」

 最後に、豪快にも大皿に盛り付け、歌は止んだ。
 あっけにとられる2人の前で、琥珀は優雅に振り向いた。

「…………(汗)」

「にゃ………」

「……見ましたね?」

 いや、あれだけ派手な音を立てて、
大声で歌いながら料理していれば、見るなという方が無理だろう。

 そもそも、見るなと言わなかった琥珀にも、
それは問題あるが、この状況では小さな問題だ。

「もうっ、大○長の委員長さんも言ってるように、
覗きの犯人は死を覚悟しなくちゃいけないんですよ?
マ○ティーさんみたいな銃殺刑とか……♪」

 根本的な間違いは、きっちり無視して、琥珀は2人ににじり寄る。

 その笑顔は、楽しそうではあったのだが、
2人には違うように見えていたのだろう。

 身の危険を感じ、レンが1歩下がると、琥珀が1歩詰める。

 距離が開く。
 琥珀が詰める。

 じりじり、じりじりと、部屋の隅に追いやられる。

 もう下がれない。そこに琥珀の手が伸びて――


 ひょいっ♪


「ぎにゃっ!?」

(…………!?)

 ――首根っこを掴まれ、サーリアは琥珀に持ち上げられた。

 じたばたもがいているが、こうなってはどうしようもない。

「うふふふ……サーリアさん、聞いてください。今朝、やぁっとお薬が完成したんですよ♪
そういう訳で、久しぶりにこの注射器の餌食になって下さいまし☆」

 包丁をしまい、妖しい液体が入った注射器を取り出す琥珀。

「うにゃっ! ふにゃにゃぁっ!!(嫌ですぅっ! あれは飲み薬だったですよぉ〜〜!!)」

「もうっ、猫語で言われても分からないじゃないですか♪
何を言ってもむだむだむだです。あ、レンちゃん。先に食べてて下さいな」

 寝室に連れていかれるサーリアを、レンはただ見ているしかなかった。
「さ〜ぁサーリアさん、大人しくしましょうねー。
私もこういうのは久しぶりですので、下手に動くと変な所に射しちゃいますよ?」

「うみゃぁぁ〜っ!!(痛いのはイヤですぅ〜っ!!)」

「まあまあ、そう言わずに♪ 痛いのは最初だけですから、我慢してくださいね。
すぐ気持ちよく……じゃなくて、元に戻れるんですから☆」

「ふ、ふみゅ〜…?(な、何の薬ですかぁ〜…?)」

「えへへー。ちょっと社会的に危ないお薬ばっかりで、
名前を出すのも際どいですけど、その効能といったらもう……♪」

「みゃ、うみゃぁっ!!(や、止めてくださいですぅっ!)」

「サーリアさん。もう、私のお薬なしじゃいられないかも☆」

「ぎにゃぁぁぁっ!!」


 ぷすっ☆


「てへっ♪ 私の朝ごはんはサーリアさんで決まりっ☆ なんちゃって」

(…………)

 実際、お互いの会話が成り立っていることに、レンはちょっとため息をついた。

 それは、はっちゃけた自分の主(仮)に対してだろうか。
 それとも、琥珀に遊ばれてしまうだろう、サーリアの身を案じてのものだろうか……、

 2階から、元気いっぱいの琥珀と、元に戻り、
やけに疲れた表情のサーリアが降りて来たのは、朝食がすっかり冷めてしまった頃だったとさ。








 なでなでなで


「うぅっ……琥珀お姉さん。
朝から(ピー音)とか(自主規制)や(検閲削除)は、さすがに酷いですぅ」

 サーリアをなでているレンが、次第に無表情になっていく。
 その視線は琥珀に向けられ、鋭いものへと変わる。

「ご、ゴスロリや猫耳はいいじゃないですかぁ〜……、
着せ替えゴッコとか写真撮影とか、復活記念に色々しちゃいましたけど……、
あぁっ、レンちゃんまでそんな目で見ないで下さいよ〜」

 ぱくぱくと、温め直した朝食を口に運びながら、琥珀は2人を相手にしていた。

 その箸が漬物をつまんだ所で、
サーリアが(ほぼ無意識に)爆弾を投下する。

「はぅぅ……サーリアは、もうお嫁に行けない体にされてしまったですぅ……」

(………!?)

「ち、違いますよレンちゃん! わわわ私は決して、
公共の毒電波にも乗せられないような行為をしていたのではない訳で、
確かに巫女服とかウサ耳とか翡翠ちゃんルックとかもさせちゃいましたけど、
け、決してそんなことはっ!」

 一気に言ってしまってから、琥珀はぜーはーと肩で息をした。
 口の中に何かあったら、確実に吹いていたであろう。

 レンは、ちらりとサーリアに視線を向ける。
 慌てている琥珀の様子を見れば、正しいのはどちらかが一目瞭然なのだが……、

「き、きっと『あの写真を公開されたくなければ……』って脅迫されて、お店の乗っ取りですーっ!」

「も、もう、そんなことしませんって。
乗っ取りなんて、負担ばっかり多くなってあんまり利益ないじゃないですか♪」

 落ち着きを取り戻し、楽しそうに語る彼女を見て、レンは肩をすくめる。
 本気でウィネス魔法店を乗っ取るのなら、琥珀は一晩でやれてしまうだろう。

 ただ、彼女いわく「裏から操って、美味しいトコ取り」というのが理想らしいので……、

 実は、サーリアが操られてるんじゃないか。
 そんな事を考えるたび、レンは自分の契約者(仮)を疑うのだった。


 カランコロン♪


「ごーめーんーくーだーさ〜いっ!」

「あら? この声は……」

 琥珀は席を立ち、店の方へと向かう。
 そんな、元気な声で訪ねて来る人物に、彼女は大体の心辺りがあった。


 カチャリ――


「はいはいはーいっ♪」

「琥珀さん、おはよっ」

 そこにいたのは、相変わらず小さいままのフィアだった。
 最近は、中身までも幼くなって来ていると、もっぱらの噂だ。

 小さいままでは、酒樽の運搬等の力仕事は行えず、簡単な掃除くらいしか出来ないらしい。
 そのため、それが終わると、決まって彼女はこちらに足を運んでいた。

 この症状を改善するために、日夜努力している(?)3人の応援……、
 と言うのが、その理由なのだが、実は普通に遊びに来ているだけだったり。

「あら、フィアさん。今日もジジちゃんと遊びに来たんですか?」

 琥珀がちょっとだけ意地悪く言うと、彼女の読み通り、フィアは言葉に詰まった。

「う……く、クララが待ってるのっ。
ほら、やっぱり琥珀さん達がいるって言っても、サーリアの家だし、あたしが来た方が……」

「あはっ☆ 冗談ですよ。待ってて下さいね、ジジちゃん起こしてきますから」

 自らの予想通りに、琥珀は口元をほころばせ、奥へ引っ込んだ。

「――にゃ? フィアちゃんが来てるですか?」

「ええ、そうなんですよ〜。昨日までは、
サーリアさんは徹夜明けで寝込んでる、ってことにしてますから、そういうことでお願いしますね。
さあ、レンちゃん……じゃなくて、今日1日はジジちゃんですね。
それでは、ちょっとお着替えしましょうね〜☆」

(………!?)


 ひょいっ♪

 ぱたぱたぱた……


 食事の途中のサーリアに声を掛け、
レンを抱き上げた琥珀は、サーリアの部屋へと、階段を登って行った。

 それとほぼ同時に、フィアがドアから顔を覗かせる。

「あれ、サーリア? 今日は起きてたんだ」

「そ、そうですっ! サーリアだって、こうもりさんじゃないんですよ」

 口裏をあわせようと、慌てるサーリアの心境を知ってか知らずか、
フィアはちょっと、すまなそうな表情になる。

「ごめんごめん、そういう意味で言ったんじゃないよ。
でも、あまり無理しちゃダメだよ。まだまだ注文も多いんでしょ?」

「だ、大丈夫ですよぉ。琥珀お姉さんもいるですし、最近は――」


 ぱたぱたぱた……


 サーリアの言葉を遮るように、琥珀が階下へと降りて来た。
 肩には、黒猫の姿になったレンを乗せている。

 しかし、その猫の首元にあるのは、澄んだ音を響かせる小さな鈴。

「お待たせしました〜。ジジちゃん、起こして来ましたよ〜」

 琥珀は、裏にある事情など関係ないと言わんばかりの、
いつもと変わらない笑みで応対する。

(…………)

 その横顔を、レンが横目で見ていても、

(む〜………)

 サーリアが、口をもごもご動かしながら、
複雑な表情で見ていても、琥珀の表情は崩れない。

 さすがは、遠野家随一の演技派、といった所だろうか。

「じゃあ、フィアさん。今日1日、ジジちゃんをお願いしますね♪」

 肩のレンを、大事に抱き上げると、何事もなかったかのようにフィアに渡す。

 フィアにとっては、確かに何事もないのだが、
2方向からの視線に、琥珀が気付かないはずはない。

「はーい。それじゃ、行ってきまーす」

「夕飯までには、帰って来て下さいね〜♪」

 どこかズレた返事を受け、駆け出すフィア。
 そんな彼女を見送って、サーリアは小さく呟いた。

「……琥珀お姉さん。それ、何か違うですよ?」

「いいじゃないですか♪ レンちゃんはレンちゃんで可愛いですけど、
今のフィアさんは別な感じで可愛いんですよ☆」

 と、そこで琥珀は、何かを思い出すかのように、ゆっくりと口を開いた。

「あ〜。そういえば、ラスティちゃんも、歌ってる時とか可愛いですよね〜♪
とっても輝いて――」

「………にゃにゃ?」

 沈黙。ひたすらに静寂。

(―――あ)

(琥珀お姉さん……ラスティちゃんと、会ったことないはずですぅ)

 空いてしまった間は取り戻せず、気まずい雰囲気が漂い始める。

「あ、あはは〜」

 明らかに動揺し、目をそらす琥珀。

 何かまずいことがあると、彼女はいつもそうしてきた。
 だからこそ、サーリアには分かってしまった。

 ――疑問は、確信へと変わる。

 先に仕掛けたのは、サーリアだった。

「琥珀お姉さん」


 びくぅっ!!


 肩を跳ね上がらせ、背筋をピンと伸ばす琥珀。
 状況証拠としては、充分だろう。

「さ、さあ、サーリアさんっ! 今日も一日、元気に――」

「ラスティちゃんに、どこで会ったですか?」

 ――再び、静寂。

 琥珀の硬直は、一時的なものだった。
 そこでサーリアが捕まえていれば、洗いざらい話すことになっていただろう。

「え、え〜と……お買い物に行ってきますっ!」


 ばたんっ!


 しかし、彼女は捕まらなかった。

 例のマントを纏い、いつものホウキを手にすると、低空飛行で器用にドアを開ける。

 開け放たれたドアを突破してしまえば、
鳥籠から出された鳥のように、その姿は空へ。

 サーリアが、慌ただしく後を追った頃には、空に飛行機雲が残っているだけだった。








「あのさ、すご〜〜く言いにくいんだけど――」

 湯飲みを置くと、サフィは申し訳なさそうに口を開いた。

「――やっぱり、琥珀が不用心なのがいけないと思うよ?」

「うぅ……サフィさんまで……」

 派手に泣きまねをしてみせてから、琥珀は煎餅の封を開ける。
 どこから持って来たのだろうか、明らかにこちらの世界の物ではない。

 買い物に行くと言って、彼女が来たのは夢の回廊だった。

 フォンティーユから離れてしまえば、
サーリアには追い付かれまいと考えていたのだが……、

「ね、本当なの? あの子が、飛んで追い掛けて来たって……」

「はい……確か、サーリアさんって、風系魔法は苦手だったと思うんですけど……」

 ――そう、サーリアは追って来たのだ。

 才能に溢れたアンバーの風系魔法と、ホウキに内蔵された、
原理不明の飛行ユニット(通称:まじかるブースター)を併用した、
その飛行速度に追い付かんばかりの勢いで。

「多分……無意識のうちに、使いこなしてたんじゃないかな。
琥珀も魔力は充分だけど、あの子は……色々あって、異常に魔力が強いんだよ」

(多分、我に返った時は、墜落しちゃってるかもしれないけど……大丈夫だよね)

 私が何かしちゃったかなぁ、と、サフィは小さく呟く。
 5年前のことを言っているのだろう。

 彼女から聞いているので、その辺りの事情は、琥珀も理解している。

「あ〜……脱線しちゃったけど、あの子は私のことを覚えていないはずだし、
私とラスティ達の関係も知らないから、ね」

 琥珀が湯飲みに茶をつぎ足すと、サフィが一口すすった。
 どうやら、緑茶が気に入ったらしい。

「どう説明するかは、琥珀にお任せってことで♪」

「それで、ちょっと困ってるんですよ〜」

「でも、まさか、こっちに来ることはないでしょ?
だったら、別に大丈夫だよっ☆ 琥珀が困らなきゃ、私はそれで構わないからね」

 『こっち』とは、当然のことながら夢の回廊である。

 しかし、森の中の小さな泉という、いつもの光景ではない。

 中心にはコタツ、周囲には本棚やら勉強机やらベッドやら、
家具類が配置された個人部屋と化している。

 なんでも、彼女の意向次第で、夢の回廊の風景は、どうとでも変えられるとか。
 ラビィとのバトルの時に、コロシアムに変わったのと、似たようなものだ。

 琥珀が、転移術を失敗したのかと思ったのは、もはやいうまでもない。

「じゃあ、仕方ないですね〜。夕食に、またお薬でも……」

「琥珀、それはちょっと……」

「あはっ♪ さすがに、それは冗談ですよ〜。
そうですねー……レンちゃんに協力してもらって、催眠術でも……」

 それからしばらく、琥珀が発案する、穏やかではない方法に対して議論が交わされ、
それに対抗するかのように、絶対零度級のシャレが飛び交った。

 どうやら、話し相手がいなかったためか、随分と喋りたくて仕方がなかったようた。

「ううぅ〜〜、今だけコタツに大感謝ですよ〜」

 決して冬ではなく、コタツがあること自体が不自然ではあったが、
琥珀が直面した『ギャグの冬』の前では、それは命を繋ぐ砦だった。

(冬山で遭難するって、きっとこんな状況なんでしょうねー)

「へ〜、そうなんだ」


 ひゅぅぅぅぅ〜……


 心の凍死を避けるため、琥珀は熱い茶をぐぐっとあおる。

「こ……心を読まないで下さいっ!」

「琥珀……どしたの?」

「自覚がないのが一番悪いですね……」

 その命懸け(?)の一方的な攻防は、
天使様のネタが尽きるまで続くかと思われたが、終止符を打ったのは、全くの第三者だった。


 ぴんぽ〜ん♪


 どう甘く見ても、熾天使という御身分に似つかわしくない、チープなチャイムが響く。

「あら、お客さんが来たみたいですねー☆」

 琥珀が言うや否や、サフィは片手を高く掲げ、擦りあわせるように強く弾いた。


 パチンっ♪


「あ、それはまさかっ、焔の練金じゅ……」

 最後まで言わせず、辺りに圧倒的な光が満ちる。
 その光が収まると、周囲はいつもの風景に戻っていた。

「う〜……そっか、もうこんな時間だったんだ」

 しまった、と言わんばかりの渋い表情で、サフィは呟く。
 自慢のギャグに夢中になっていたためか、随分と時間が経っていたらしい。

「もしかして、ラスティちゃんが来るんですか?」

 なら、以前の決着がつけられますねー、と琥珀は意気込む。

「え、え〜と……最初に言っておくけど、絶対に手を出しちゃダメだからね」

 彼女にしては強い口調に、琥珀は手にしたホウキを置いた。

 即座に抜刀や、超低空飛行、
長距離狙撃が可能な臨戦体勢だったが、やはりその表情は残念そうだ。

 だが、琥珀は勘違いをしていた。
 それは、戦闘を禁じるだけの意味の「手出し」ではなかった。

 意識が白いもやに満たされる。
 霧のようなそれは、ふとしたきっかけで晴れてくる。

 いつもはすんなりと晴れるそれは、今回に限って、なかなか晴れなかった。

「残念ですね〜。今日こそ、白黒ハッキリさせられるかと思ったんですけど……」

 声が聞こえる。

「そういう意味じゃないのっ。あの妖しい薬も、絶対に使っちゃダメだからね」

 片方は知らない声。
 けど、もう片方は忘れようのない声。

 こんなことを言うと、『でも、忘れてたじゃない』って言われそうだけど、
天使の刻印で封印されてたんだから、それはそれ。

 ――視界と意識がハッキリしてきた。

 そして、いつものようにサフィが出迎えてくれる……はずだった。

「あぁぁぁ――っ!!」

「なっ……一体…!?」

 突然の叫び声は、期待していた彼女のものじゃなかった。

 どこか、遠い異国の服を着て、肩くらいで揃えた髪に、
藍色のリボンを結んだ……フィアより少し年上くらいの女の子だった。

 どうやら、俺を見て驚いてるみたいだけど……、

「君は……?」

 辛うじて、それだけを口にする。
 すると、途端に彼女は、悲しそうな表情になった。

「覚えて……ないんですね……」

 覚えてない……?
 俺が一体、何を覚えてないって……?

「そうですよね……最後にお会いしたのは、200年近くも前のことですからね……」

 そ、そんなに昔っ!?

 いや、待て……、

 そりゃ確かに俺の記憶だって、まだまだ完全とは言えないけど、
旅先で出会った人くらいは覚えてるぞ?

「琥珀……それ、本当なの?」

 頼みの綱のサフィも、一目で分かるくらい困った表情をしている。
 まさか、サフィも知らないのか?

「ええ……残念ながら。カウジーさん、私の眼を見て下さい。何か、思い出しませんか?」

 ずずいと、琥珀と呼ばれた彼女は、顔を寄せてくる。
 その眼は、強い決意が込められた、透き通るような黄色。

 黄……いや、金色?
 俺の脳裏を、似たような眼をした人物がよぎる。

 ――堕天使の長、ルーシアだ。

 かつて、熾天使セラフィと戦い、フォンティーユにその魂の本体を封印された、黒き天使。
 そして、その眼は、堕天使の刻印を受けた、アルテさんと同じ……、

「君も……堕天使の刻印を受けたのか?」

「いえ、私は堕天使なんですよ。元々は天使なんですけどね」

 ああ、そっか。俺やアルテさんみたいな人が、そうそういる訳ないか。

 それに、彼女からは敵意みたいなものは感じない。
 堕天使といっても、ルーシアみたいな奴ばかりじゃないみたいだ。

 でもそれなら、俺が思い出せないはずがない。
 実際に会ったことがあるのなら、なおさらだ。

「…………」

 サフィは何も語らず、話の続きを待っている。
 その沈黙に促されたかのように、彼女は口を開いた。

「――天使とはいっても、サフィさん……、
いえ、セラフィ様に比べれば、私はとても力の弱い天使でした。
出来ることと言えばせいぜい、お料理、洗濯、花壇のお手入れくらいです」

 それって、天使の仕事なのかな……?

「その時の私は、姿を変え身分を偽り、小さな町の宿で働いていました。
力の乏しい私には、それくらいのお仕事しか出来なかったんです」

 小さな町……多分、サフィと旅をしてた頃は、多くの町を巡ったんだろう。
 きっと、その中の1つの話…なんだよな。

「もうすぐ任期を終え、天界に帰れると思っていた、
そんなある日、町に2人の旅人が訪れました」

 話の雲行きが、何か怪しくなって来た。
 多分、俺達の事なんだろうけど……、

「その方々が、カウジーさんとサフィさんでした。
お仕事中だったので、じっくりとは聴けませんでしたけど、
歌も演奏も、心に響くものだったと覚えています……」

 う〜ん……、

 そう言ってもらえると嬉しいんだけど、
さすがに演奏中は、お客さんの顔を見てる余裕ないからなぁ……、

 でも、それだったら、俺が知らないのも当然じゃないかな?

「その日の夜、お二人は、私が働いている宿にお泊りになりました。
普段は厨房にいる私は、その日は接客を担当していました。
その際に、お世話をさせて頂いたのですが――」

 あれ、どうしたんだろう。
 何だか、うつむいて……辛そうな声に聞こえる。

 ……気のせいじゃないよな。

「琥珀……あなた、まさか!?」

「いえ、私に非がない訳ではないので……」

 今まで黙っていたサフィが、突然口を挟んだ。
 その声は、心なしか緊迫している。

 ルーシアの件で、俺達に警告を与えた時と同じくらい。

「なあ、サフィ……もしかして、何か知ってるのか?」

 答えが帰って来るまでには、微妙な間があった。
 言うべきか否か、考える時間が。

「もし、私の予想通りなら、カウジー……あなた、琥珀に――」

「いえ、これは私が説明しなければいけませんから……」

 な、何だ……?
 この、そこはかとなく嫌な予感は……!?

「その時は、私も緊張していたんでしょうね。
お飲みものに、間違えてお酒の類を出してしまいました。
もちろん、お二人はすぐに酔い潰れてしまい、
私が責任を持って、部屋まで運んだんですが……」

 嫌な予感が、どんどん強くなって来る。
 焦りにも似た、恐怖のような感じ。

「カウジーさんを、お部屋に運んだ後、私は突然抱き締められ……、
そのまま(自主規制)とか(検閲削除)されてしまい、
揚げ句の果てには(放送禁止ワード)とか(不適切表現)まで……」

 ちょ、ちょっと、待ってほしい……、
 俺、全然記憶にないんですけど!?

「確かに。あの日、お互いに二日酔いだったし、朝もなかなか起きてくれなかったし…」

 ――うあ!
 サフィまで、何か物凄く納得顔だし!!

「その件が元で、私は堕天使の扱いを受け、眼もこの色になりました。
しかし、セラフィ様に大まかな事情を話し、色々な試練を耐え、
最近ようやく、回廊に入る資格を取り戻したんです」

「ねえ、カウジー……本当に覚えてないの?」

 サフィの声が、やけに遠く聞こえる。
 それは、俺のショックのせいか、気のせいか……、

「俺は――」

「カウジー、酔った勢いとはいえ、やってしまったことは、もう責めないわ。
――でもねっ、琥珀の体と心はボロボロなのよ!
例え私の封印の影響で、記憶が完全じゃなくったって、思い出せないってどういうことよ!?
もう、ラスティがどーのこーのって問題じゃないわよ!
せめて謝罪なり思い出すなり、なんなら結婚して、男の責任取りなさーいっ!!」

 ああ、ダメだ……、
 目の前が、どんどん真っ暗になって、ぐるぐる回って……、


 ドサッ……


「あらら、さすがにショックだったみたいですねー。
ただのかる〜い冗談だったんですけど☆」

「琥珀、あなたも随分と人が悪いわね……絶対にあなた、天使って柄じゃないわよ?」

「でも、私の心を読んで、その冗談に協力して下さったのは、どなたでしょうかね〜♪」

「う、う〜〜……」

「ほら、好きな人ほど、いじめたくなるっていうやつですか?」

「あなた、もし天使として生を受けていたら、絶対に堕天してたわよ」








「ぜ、全部……嘘?」

 数分後――

 意識を取り戻したカウジーは、
魂が抜けかけたような顔をして、琥珀に尋ねた。

「ええ、私も、ただの人ですし、天使なんかじゃないですよ〜」

「よ……良かったぁ〜……」

 へなへなと脱力し、彼はぺたんと座り込む。と、
 彼は、横で聞いていたサフィに視線を向けた。

「……で、君もグルだったと」

「私は、琥珀の冗談に乗っただけだよ♪」

「でも、最後のアレは凄かったですけどね〜。
サフィさんの、意外な一面を見ちゃいました☆」

 笑いあう女性2人。
 被害者カウジーは、ぐったりしたように大の字に寝転んで、白く霞む空を見上げた。

「――ばぁっ♪」

「うわぁぁっ!?」

 突然、視界いっぱいに広がる、ひまわり笑顔。
 先程の冗談からの影響か、彼に苦手意識があるようだ。

「琥珀、そんなことやってると……怒ったラスティがやって来ちゃうわよ?」

「そうですねー。ラスティちゃん、怒ると恐いし、強いですからね〜」

 サフィがたしなめるように言うと、琥珀はあっさりと離れた。

「そっか、ラスティにも会ったんだね。でも、強いって……?」

「それは――」

 琥珀は、先日のラビィとの対決の話をしようとしたが、サフィが視線で合図した。
 (それは話したらダメ〜〜ジ受けるよっ!)


 ひゅぅぅぅ〜〜


 こたつも、熱い緑茶もない状況で放たれたギャグは、
レジスト不能な魔法のように、琥珀の精神にギャグの冬をもたらす。

 何故、視線だけでギャグが伝わるのかは、天使の力ということにしておこう。

「一部だけど、ラスティは熾天使セラフィの力を持ってるのよ?
全開だと結構危ないんだけど……普通にしてても、そこらの魔獣なら近づけないわよ。
そうね〜……ラスティが頑張れば、悪魔クラスは相手に出来るかな」

 それだけ、天使の力は大きいということだろう。

「と言っても、悪魔とかは、魔界にでも行かなきゃ会うことないし、あまり関係ないかも。
まあ、そういう訳だから、下手に怒らせちゃダメだからね。
あなたも、もう不死身じゃないんだから」

「まあ、それは……善処しようかな」

 何か心当たりでもあるのか、視線をそらすカウジー。

「善処って辺りが、何だか怪しいですねー」

「ふふっ、そうね〜♪ 無自覚で落としちゃうのは問題だけど、
もうラスティがいるから大丈夫だと思うよ」

「え、じゃあ……撃墜王だったカウジーさんは、
スナイパーなラスティちゃんに、落とされちゃったってことなんですねっ♪
きゃ〜恋人はスナイパーです〜☆」

 琥珀がトークの波に乗り、奇妙な例えを持ち出してくる。

「そうね〜。私が見て来た200年……、
誰かを好きにならないように、我慢してたみたいだけど……、
自覚せずに落とした女の子は数知れず……、
ああっ、私というものがありながらぁ〜」

 それに応えるように、よよよ、と派手に泣き真似をしてみせるサフィ。
 またまた、ネタ合わせ不要のコンビネーションが発動する。

「もしかして、隠し子とかもいらっしゃったり……」

「ちょっと琥珀さんっ! いきなり、何言い出すんですか!」

 突拍子のない発言に、さすがのカウジーも声を上げる。
 ただ、それで止まる2人ではなく……、

「あっ……」

「え、いや、ちょっと……どうしてそこで赤くなるんだよ」

「わ……私は何も見てないからねっ!
四六時中、ずーっと見てた訳じゃないんだからっっ」

 真っ赤になってうつむき、慌てた口調でまくし立てるサフィ。

「な……何を?」

「もう、カウジーさんっ!女の子に、そんなことを言わせるおつもりですか!?
そんなだから、朴念仁とか鈍感とか、女泣かせって言われるんです!
さあさあ、今すぐに、お子さんの人数と年齢を吐いちゃってください!」

 どさくさに紛れて、勢いそのままに質問が繰り出される。
 これには、彼も語気荒く反論した。

「いるわけないだろっ!」

「カウジーさん……」

 なだめるように、ぽん♪と、肩を叩く。

「正直に生きましょうよ……、
ラスティちゃんには、黙っておいてあげますから、ね?」

「俺は何もしてないんだああぁぁぁぁ〜〜っっ!!!」








(強い感情が、魔力を増幅させるとは聞いていましたが……、
やっぱり、からかい過ぎちゃったみたいですね。
もしかしたら、とは思いましたけど、曲にも魔法みたいなことが出来るんですねー。
確か、魔曲って言うんでしたっけ?)

 そんなことを考えながら、琥珀は夜の大通りに降り立つ。
 そして、平然と魔法店へ歩いていく。


 カランコロン♪


「サーリアさ〜ん。ただいま帰りましたよ〜」

 ドアが開き、店内に琥珀の声が響き渡る。

「……あら?」

 しかし、店内の明かりは消えていた。
 普段は、閉店後も明かりが点いているはずなのだが、今日は違う。

(省エネでしょうかね〜)

 奥に続くドアの隙間から、光が漏れているのを見て、何となくだが琥珀はそう思った。
 そして、ドアノブに手をかけ――

「ただいま帰りましたよ〜」


 ゴンっっ♪


「にゃぅっ!」

 勢いよく開かれたドア。
 ドアノブを掴む手には、確かな手応え。

 そして、悲鳴にも似た叫び。

 その時、琥珀が見たものは、宙
を舞うフラスコと、見事に転んだサーリア。

 そして――

(…………!)

 慌てた様子で、2階へ逃げていくレン。

 それで、現状が理解出来てしまったが、
彼女には逃げることも、対処することも出来なかった。


 ガシャァァァン!!

 ちゅどぉぉぉ〜ん♪


 派手な音を立て、割れるフラスコ。
 そして、久々に響き渡る爆発音と、ほとばしる閃光。

 ギャグちっくな衝撃波と黒煙。

 レンが、恐る恐る階下へ降りて来た時には、それはもう大層な有様だったとか。








[教えて! 紗巫衣先生〜!]


「さ〜てっ! 今回の授業は、カウジーの撃墜スコアについて……」

「――せいっ!」


 ぶんっ!


「うわわっ! 危ない危ない……って、ねえ、その本って……」
「お…俺は、いつの間にこんな物を…?」


 ぱらぱらぱら……


「やっぱり、楽譜だったんだ。
ギャグ属性って、いろんな物が出せるんだね〜」

「ギャグ属性……?」

「そうよ、笑いを志す人の属性で、
該当する人は、自分専用のツッコミアイテムを出せるんだよ。
私はハリセンで、カウジーは楽譜だね〜」

「サフィならともかく、俺は笑いを志した覚えはないんだけど……」

「ん〜……本人の素質とか、そーゆーのもあるみたいだけど、あなたの場合は別なのよ。
ほら、私のパートナーなんだから……」

「俺達はお笑いコンビじゃなぁぁぁいっ!」

「え〜……昔は、私のどんなギャグにだって、ツッコんだり、フォローしてくれたのに〜」

「世界一の歌姫になるんだ、って決意は、どこいったんだよ?」

「それはそれ、これはこれっ♪
そんなこんなでお送りする、今夜の放送は、私とカウジーの、即興漫談生放送に決定っ♪」

「やめいっ! 世界が凍る! ギャグの冬が来るからっっ!」








<つづく>


あとがき

 以前に、BBSで出ていたのですが……、
 やっぱり、カウジーは琥珀さんにからかわれてしまいました。

 某錬金術士ネタとか、某カンパニーネタとか、仕込んだネタはそこそこありますが、
一番のお気に入りは、某温泉旅館女将(爆)のセリフです。

 まさか、使える展開に持ってこれるとは……、

 さておき……、
 そろそろシメに向けて話を持っていかないと……、

 そんなこんなで、次回も宜しくお願いします。


<コメント>

シオン 「今回は、ギャグ属性について考えてみましょう」(−o−)
誠 「何気に唐突ですね、シオンさん……、
   ってゆ〜か、前回、手掛かり見つかったのに、スルーですか?」(−−?
志貴 「先輩も、お腹空いたって、サッサと帰っちゃったし……」(^_^;
翡翠 「おそらく、姉さんの料理が目当てだったのでは?」(−−)
秋葉 「今は、琥珀はいないものね……、
    で、何なんですか? そのギャグ属性というのは?」(−−?
シオン 「それは――というものです。
     そういうわけで……誠、やってみてください」(−−)
誠 「はいはい……」(←マシンガンを取り出す)(−−;
シオン 「投影に近いようですが……、
     そういえば、冬木市にも、似たような事が出来る者がいると聞いた事が……」(−−?
誠 「そりゃまた、難儀な……」(^_^;

 一方、衛宮邸――

士郎 「俺の魔術は、ツッコミアイテムか!!」Σ( ̄□ ̄)
凛 「でも、あんたって……、
   やたらと頑丈だし、すぐに回復するし……」ヽ( ´ー`)ノ
士郎 「俺は、ギャグキャラじゃなぁぁぁ〜〜〜いっ!!」(T□T)

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