月姫 & AS クロスオーバーSS

戦力二乗の法則

〜 第六幕 「トライアングル・サイド 後編」 〜









 ――カランコロン♪


「こんにちは…」

「にぃ〜〜?(誰か戻って来てませんですかぁ〜?)」

 路地から、猫サーリアを抱いて、
歩き出したクララは、真っ先にウィネス魔法店に来ていた。

 猫に好かれるということで、評判のサーリアとレン。

 そして、そんな彼女達を目当てにやって来る猫達を、
右から左へと相手にできるほど、猫の扱いに長けた琥珀。

 この三人が集まるウィネス魔法店に来れば、どうにかなるとクララは考えていた。

 街のことなら、フィアがいるアンクルノートに行くのが確実かもしれない。
 だが、そこはこれから忙しい時間帯に突入するので、人も混み始める。

 普段からあまり人前に出ない彼女にしてみれば、避けたいことだった。

 だが、店内は無人で、カーテンも閉まっていた。
 休業日のプレートが、ドアに掛かっていなかったのが不自然だが……、

 ……それはまあ、状況が状況なので仕方がない。

(留守なのかな……?)

「にぃ〜……(誰も戻って来てないみたいですぅ……)」

「大丈夫だよ。任せて……」

 サーリアの声が、不安げに聞こえたのだろう。
 クララは、サーリアを抱いた腕に力を込め、しっかりとした声で呟いた。

 相手が不安な時は、自分が不安なのに
気付かれると、相手はますます不安になってしまうから。

 だから、彼女は気丈に振る舞った。

「うにゃ?(次はどうするですか?)」

 ウィネス魔法店を後にしたクララは、街の大通りを歩いていた。

 目指す場所は、教会――

 困った時や、迷っている時は教会に行く、
というのが、フォンティーユでは慣例みたいなものになっている。

 町長の役割をしている司教様がいれば、相談して助言をしてもらえるし、
仮に何らかの事情でいなかったとしても、昼間であれば必ず誰かはいる。

 その中に飼い主がいれば、それはそれでいいのだし、
いなければ相談相手になってもらえればいいだけだ。

 それに、サーリア達が教会にいるという場合も考えると、どう考えても無駄足にだけはならなかった。

 市場の前を通り過ぎ、
街の中心とも言える噴水広場の前に出る。

 少し前までは、闇の日……、
 つまり今日になると、ラスティとカウジーが街頭コンサートを開いていた場所。

 今は、二人が旅行に行ってしまったので、人々の楽しみも一つ減ってしまっている。

 だが、じきに二人が帰ってくれば……、
 その時は、この場所も賑やかになるだろう。

「ここのコンサート……聴いてた?」

「うにゃ? ふにゃにゃ〜♪(ラスティちゃんのですか? もちろん聴いてたですよぉ〜♪)」

 サーリアにとっては、ラスティと知り合えた大事な思い出だ。
 その後も、フィアと一緒にちょくちょく聴きに来ていた。

 クララも、確かに聴きに来ていたのだが、それは人垣の後ろから。

 苦手な人込みを避けるようにして、
離れた所から聴いていたのだったが、それでもラスティの声と、カウジーの演奏は良く通った。

 演奏に使われるフォルテールは、風の魔導石によって音を奏でる魔法楽器。
 その性質上、遠くまで音が伝わるのだが、ラスティの声は天性のもの。

 歌が直接心に響くような、そんな歌声。

 そして、人垣の合間を縫って、彼女は一度だけ見た。

 以前とは違ってよく笑うようになり、街の人々に受け入れられ、
気兼ねすることもなくのびのびと――さながら、翼を広げた天使の様に――歌うようになったラスティ。

 そして、長い旅の果てに自らの居場所を見つけ、
彼女と生きることを選択し、その傍らで精一杯の演奏技術を振るうカウジーを。

 それは、二人が式を挙げ、ハネムーンへ出発する少し前の話。

「……早く帰って来るといいね」

「ふにゃ〜……うにゃにゃ……(う〜……そうなるとフィアちゃんが心配ですぅ……)」

 街のアイドルが帰って来るのを、心待ちにしている人は大勢いる。

 だが、街のアイドルを奪っていく悪者の目で見られた(カウジー談)、というように、
若干の冷やかしの意味も込めて、そういうこともあったらしい。

 だが、ごくごく少数派ではあるが、カウジーがラスティに奪われた、という見方をする人物もいた。

 数にすれば約三名……、
 内二名は気持ちの整理をつけたようだが、残りの一名は未だに諦め切れないようだ。

 だから、サーリアが危惧するのはそこである。

 もし、早く二人が帰って来たら……、

 彼女自身は嬉しいのだが、ラスティ(もしくはカウジー)と残り一名が、
何か賑やかな事件を巻き起こしてもおかしくはない。

 だからせめて、その残り一名の、
気持ちの整理が済んだ頃に帰って来て欲しいと、彼女は感じていたのだが……、

 ……それは、彼女ではどうしようもない。

「あら、クララちゃん?」

 と、クララは不意に声をかけられた。

 振り向くと、買い物帰りだったのだろうか、
食材が入ったカゴを手にした女性が。

 その女性こそ、ラスティの母。シアリィ=ファースンだった。

「こ……こんにちは」

「うにゃっ!(こんにちはですっ!)」

 慌てて挨拶するクララ。
 サーリアにとっては、店のお得意様でもある。

「ふふっ、こんにちは。可愛い猫さんね」

「ふにぃ〜……(サーリアですぅ〜……)」

 多くの人に好かれる微笑みで、シアリィも挨拶する。
 だが、やはりサーリアだとは気付かないようだ。

「あの、この子……迷子みたいで……それで教会に……」

 話をするのが苦手な彼女が、必死に言葉を紡いで説明する。

「まあ、そうだったの……、
なら、一緒に行きましょうか? 私もこれから戻るところなんですよ」

 彼女の言葉に軽い驚きを感じながらも、シアリィは優しく答え、手を差し延べた。

「あ……うん」

 クララは、少し迷ったものの、結局その手を取った。

 片腕で抱えられ、不安定になったのだろう。
 サーリアは腕から抜け出して、肩に陣取った。

「それじゃあ、司教様の所に案内しますね♪」

 シアリィの脳裏には、前にラスティが川辺で迷子の白猫に出会い、
カウジー達に協力してもらって、飼い主のアルテの所まで送り届けたという話が浮かんでいるのだろう。

 シアリィ自身、その場にいた訳ではなく、後からラスティや他の人達に聞いただけなのだが……、

 それは、ラスティが街の人達に受け入れられる第一歩だったのだ。
 それが嬉しくない訳がない。

 そして、二人は歩き出す。

 あまりクララは口を開かなかったが、シアリィとの会話はそれなりに成り立っていた。
 それも、ラスティと暮らして来た経験があったからだろう。

「そう、それでサーリアさんの所に行ったのね」

「うん……でも、誰もいなくて……」

 歩きながら、シアリィは経過を聞いていた。

「あら……?」

 だが、そこで彼女は首を傾げた。
 何か、引っ掛かるものがあったのだろう。

「レンちゃんなら、朝にフィアさんと走っていくのを見掛けましたよ」

「え……?」

 驚きの色を隠せないクララ。
 探している人物の手掛かりが、思いがけない場所から出て来たのだ。無理もない。

「あの、どこで……?」

「そうねえ……サーリアさんのお店から、大通りを横切っていったのまでは見たのよ。
だからきっと、公園に行ったんじゃないかしら?」

 そこまで言って、シアリィは笑いかける。
 その笑みは、クララには何故か「どうします?」という問い掛けのようにも見えた。

「あ、あの……」

「ふふっ、構いませんよ。また後で、ゆっくりお話ししましょうね」

 クララは名残惜しそうに、つないでいた手を離す。
 そして、走り出せるように、肩に乗っているサーリアを、両手でしっかりと抱えた。

「あのっ……ありがとうごさいましたっ!」

「ふにゃぁ〜(ありがとうですぅ〜)」

 走り去っていくクララを見送ったシアリィは、
その背に自分の娘の影を見つつ、嬉しそうに笑っていた。

「さて、午後のお仕事も頑張りませんとね♪」








「そうね……あの子が召喚魔法で、別な世界からあなたを呼んだのなら……、
自分自身をフォンティーユに召喚すれば、結果的には大丈夫じゃないのかな?」

 舞台は再び夢の回廊へ――

 あーだこーだと意見を交わし、サフィが出した結論は、
自分自身の召喚によって、フォンティーユに戻るというものだった。

「なるほどなるほど〜……確かに、ペルソナだって自分の一部ですからね。
無意識の海から、自分の一部を呼び出すのがペルソナ召喚ですから……、
なら、自分そのものを召喚するのも大丈夫ってことですねっ☆」

 アンバーも、理由はどうあれ、これには妙に納得していた。

「ねえ、ペルソナって……何?」

「そうですね〜……自分が意識していない、自分の一面……とだけ言っておきましょうか☆」

「ん〜、よく分かんないんだけど……」

「あはっ♪ まあまあ、気にしてる場合じゃないですからね。
それで、具体的にはどうすればいいんですか?」

 説明を打ち切り、話を本題に戻すアンバー。
 確かに、脱線したままではいけないのだが、無責任な感は否めない。

「あ、うん、そうだね〜……まずは魔法が使えないとダメだから、そこは私が何とかするよ」

「もしかして、魔法を教えてくれるんですか!?」

 サフィの言葉に、もしやと感じたアンバーが声を上げる。

 サーリアに、魔法を教えてもらいたいと頼んで、
遠慮され断られた彼女にとっては、これぞまさしく渡りに船と見えた。

 だが、サフィは笑って否定する。

「あはは……違うよ、魔力の感覚を目覚めさせてあげるだけ。そこから先は、あなたの努力次第だよ」

「魔力の感覚……ですか?」

「うん。魔力そのものは、誰でも持ってるものだし……素質はありそうだからね。
それに、人に道を示してあげるのは、天使の仕事みたいなものだし」

 素質――
 それは、秘められた可能性――

 サフィは、それを引き出そうというのだ。

「じゃあ……まずは、見習い魔法使いからスタートなんですか?」

「うん、そーゆーこと。それでも普通の人より、上達は早いと思うけどね。
扱えない大きな力が暴走しちゃうと、すっごく危ないから……、
まずは、それ相応の技術を身につけてからね」

 そう言うと、サフィは元気に立ち上がる。
 ずっと座っていたせいか、大きく腕を広げて背伸びした。

「サフィさん。お疲れでしたら、マッサージくらいしましょうか?」

 座ったまま、わきわきと指を動かすアンバー。
 ゲームで鍛えたその指は、それぞれ独立した生物のよう。

「んーん、別に平気だよ。それよりも、早く始めよっか」

「ちぇ……残念」

 意外にもあっさりかわされ、アンバーはちょっとだけ残念そうだ。

「あれ? 何か言った?」

「い、いえいえ何でもないですよー。それで、何をするんですか?」

 小さな呟きが聞こえるはずはないと、アンバーは予想していたのだ。
 もし聞こえていたら、何かとまずいので、早々に彼女は話題を切り替えた。

「難しく言うと……[啓示]だね。人の隠された可能性を引き出す、儀式みたいなものかな」

 いきなり、弾けるような音がした。
 それは、サフィが両手を合わせた音。

「準備するから、ちょっと待っててね。出てこい出てこい……」

 合わされた両手から、淡く光が漏れ始める。
 次第にそれは強さを増し、彼女も手の間隔を広げていく。

 不思議なことに、光は手の間にしか走らない。

「……えいっ♪」

 手を握り、そのまま彼女は何かを引き抜く。
 光の粒が弾け、彼女の手には長い杖が握られていた。

「わ、手品みたいですね〜☆」

 目の前の光景に、歓声を上げるアンバー。

 だが、サフィはまだ集中していた。
 そして、あのややこしい呪文を、彼女は唱える。

「ハイジゴディバトリアノンモロゾフリンデディバーダンッ! エンジェルセラフィーっ!」

「わっ……!」

 先程までとは比較にならない、太陽のような光が溢れ出す。
 それは、何秒も続かなかったが、アンバーはゆっくりと目を開けた。

「えへへ〜……熾天使セラフィ、ここにけんざーんっ♪」

 そこには、6枚3対の翼を背負い、
人懐っこい笑顔でVサインを出す、赤い髪の天使がいた。

「あ、その杖……サーリアさんのと同じなんですか?」

 まじまじと、アンバーは杖を見つめ、それがサーリアの杖と同形の物であると気付いた。

 どこかで見たような気はしていたのだが、
全く知らないこの場所で見るとは、さすがに思わなかっただろう。

「これ? う〜んとね……私のが最初で、色々な魔法使いの人達は、
これを真似て作ったみたいだよ。でも、いつの間にか、これが定着しちゃったみたいだね」

「そうなんですか〜。まあ、私はコレじゃないと調子が出ませんから、
別にデザインは気にしませんけどね☆」

 アンバーは、愛用のホウキに目をやる。

 一見すると、変哲のないただのホウキだが、
その内部には無数のギミックが内蔵され、総制作費は某国の国家予算に匹敵するとかしないとか。

 一部には、サーリアが作る魔法アイテムの技術も盛り込まれていて、
まさしく世界に一本しかない、アンバー専用ホウキ。

「でも、これって魔法使いっぽくないよね?」

 それが、アンバーが手にするホウキに対する、サフィの素直な感想だった。

 彼女はここから見ていたので知っているが、
それは変幻自在の曲芸飛行を可能にし、薙刀として使えたり、オーディオ機器も積んでいる。

 さらに、先程の居合抜きでも分かるように、柄には仕込みが。
その他にも、どんなギミックが詰め込まれているか、分かったものではない。

「何言ってるんですか。私は蜂起少女まじかるアンバーであって、魔法使いさんじゃありません」

「ま、まあそれはそうだけど……う〜ん……」

 確かに、魔法使いではないからこそ、サーリアに頼んでいたのだ。
 彼女としては、蜂起少女って何? と聞きたいところではあったが、それを言い出したらキリがない。

「早く戻らないと、サーリアさんが食文化の衰退を嘆いてしまいますし……、
夕飯までには戻りたいので、そろそろお願いできますか?」

 ちなみに、アンバーは冗談めかした口調だったが、あながち間違いでもないのだ。

 たまにバイトに行く、アンクルノートでの、
評判もさることながら、日常の料理も素晴らしい物だった。

 人並み外れたレシピと技術は、まさにプロの料理人。
 たまに、サーリアにも色々と伝授しているのだが、まだまだアンバーには及ばない。

 彼女が三咲町に帰ってしまったら、たちまちウィネス家の食文化レベルは低下するだろう。

「そ、そうだね。せっかく私もこの姿になったんだし……疲れちゃうから、早速始めるよ」

 サフィは、自分の杖を芝生に突き立てると、
くるくると回り始め、円の中で二つの目が直角に交わったような、そんな不思議な魔法陣を描いた。

「えーとこれは……ベームベーム…レベル15ってとこですか」

「……え?」

「いえいえ、お気になさらずに。それで……私はどうすればいいんですか?」

 描かれた魔法陣に見覚えがあったのか、ぼそりと何かを呟くアンバー。
 よく聞こえなかったのだろうか、サフィが聞き返すも、アンバーはそれを流して話を進める。

「この中に入って、座ってるだけでいーよ。あ、それは脱いじゃった方がいいね」

 サフィが指したのは……アンバーのマント。

「え……これ、ですか?」

「うん、それだよ。額が見えるくらいなら、大丈夫なんだけど……」

 どうやら、顔を隠したままではダメらしい。
 だが、まじかるアンバーがそれに応じる訳がなかった。

「ダメですダメですっ! いくらサフィさんといえど、蜂起少女まじかるアンバーの正体を
一般大公開しちゃうような、そんな条件は飲めません〜っっ!」

 大慌てでぶんぶんと手を振り、ダメなことを全身でアピールするアンバー。
 だが、それも仕方ない。蜂起少女誕生以来、初の大ピンチなのだ。

「ん〜……じゃあ、どうするの?」

「うっ……」(汗)

 サフィは、特に強制せずに聞き返す。
 そして、言葉に詰まるアンバー。

 もし強制されたり、強い論理が来たのならば、彼女は即座に切り返せただろう。
 だが、他に手がないからには、サフィの質問には答えられない。

 サフィ自身にそんな気はなかったのだが、アンバーは、二重の意味で追い詰められていたのだ。

「あ……え、え〜っと……ちょっと待ってて下さいな」

 何か策はないものかと、アンバーはホウキのあちこちにごそごそと手を突っ込む。
 内部は異次元空間と化しているのだろうか、意外と収納スペースになっている箇所も。

「……あ♪」

「なになに?どーかしたの?」

 突然声を上げたアンバーに、サフィが近づく。
 何かを見つけたのだろうか、その手には箱のような物体が。

「いえいえ、すぐに準備しますから、少々お待ち下さいね☆」

 サフィが近づくより先に、箱らしきものをささっと隠し、アンバーは3メートルほど遠ざかる。
 後ろを向いてしゃがみ込むと、何やら慌ただしく作業をし始めた。

 その背中には、もはや追い詰められた雰囲気はなかった。

「ふっふっふ……とうっ!」


 ばふっ!


 妖しい笑い声を上げて立ち上がったアンバーは、
勢いよくマントを翻して振り返った。

 そして、サフィは彼女の秘策を目にする。

「わ……」

「ラジヲっぽく言えば、三咲町にお住まいのP.Nまじかるアンバーさん、ってとこですかね〜☆」

 確かに、そこにいたのはアンバーだった。
 両手で抱えるホウキ、全身を覆うマント、そして着物。

 どこからどう見ても、アンバーには違いないのだが…。

「これなら、私の正体がバレることはありませんねっ♪」

 その顔には、黒い目隠しが。

「やっぱり、報道番組とかニュース速報でも、
モザイクは必須ですもんね〜。それに、これを使えば……」

 そう言って、懐からアンバーが取り出したのは、拡声器にも似た機械だった。

「コンナ声ニモナリマスカラ、ぷらいばしーノ問題ハバッチリデス〜☆」

 ボイスチェンジャーの類なのだろうか。
 アンバーの声は、一瞬にしてメカ翡翠のそれになった。

「い、いいのかなぁ……」

「イインデスッ。サアサア始メマショウ♪」

 アンバーは意気込むが、目隠しをしているために、自分一人では歩けない。
 溜め息をつきながらも、サフィは引っ張っていく。

「う〜ん……別に、目隠しとかしなくても、
正体はバレないと思うんだけどな〜。ラスティもそうだったし〜」

「……誰ですって?」

 拡声器らしき物を降ろし、アンバーは聞き返す。

 またもや聞き慣れた名前。
 彼女の記憶に間違いがなければ、それはフォンティーユの歌姫。

 その正体がバレないとは、どういうことなのだろうか?

「え? あ……何でもない何でもないっ! じゃあここに座っててねー」

 明らかに動揺したように、早口になるサフィ。
 その後の口調も、どこかぎこちない。

(ふむふむ……これは、何か秘密がありそうですねー。
戻ったら、サーリアさんに聞いてみましょうか)

「ほ、本当に何でもないよっ。あの子に聞いても何も出ないし〜」

「……サフィさん。人の心を読まないで下さい」

 実際にはマントを深くかぶっているだろうが、
もしもアンバーが目隠しをしていなかったら、彼女には珍しいジト目の視線だっただろう。

 その声には、そんな重さがあった。

「……てへっ♪」

「[てへっ♪]じゃないですよ……」

 可愛らしく笑って済ませようとしたサフィだったが、それにアンバーがツッコまないはずがない。

 彼女は、突然琥珀の額に指をあてると、
文字とも記号とも取れないものを、そこに描き始める。

「ほらほら、細かいことは気にしないのっ♪
始めるから、肩の力を抜いて楽にして、目を閉じててね〜」

 そこから先の、彼女の言葉は分からなかった。
 聞き取れてはいるけれど、意味の理解はできない。

 例えば、お芝居のセリフを棒読みした時に、声からは感情が伺えないように。
 例えば、意味が込められてはいるのだが、よくは聞き取れない読経のように。

 それは、アンバーが聞いたこともない言語。
 いや…正確に表すならば、人のものではない言語。

 理解できない言葉を紡ぎながらも、サフィの指は額を滑っていく。
 それをくすぐったく感じて、アンバーはちょっとだけ笑った。

 光が広がっていく。
 目隠しと、まぶたを突き抜けて、入って来る光が強くなっていく。

(あら……?)

「はいっ、これでオッケーだよ」

 アンバーが、自分に何らかの違和感を感じた直後に、光が薄れ、サフィの声がした。
 もちろん、その直後にアンバーが後ろを向き、目隠しをしっかり外したのは言うまでもない。

「どうかな? もしかしたら、簡単な魔法くらいなら、もう使えるかもしれないんだけど……」

「じゃあ、試しに何かやってみますね」

 アンバーは地面に手をつく。
 サフィは少し離れて、穏やかに様子を見ている。

(色々な文献で書かれていたことが、今なら理解できる気がしますね……)

 啓示によって目覚めたのは、魔力の感覚。
 言い換えれば、魔力回路とも呼ばれるものだ。

 それがない状態で読む魔導書は、あくまでも、
サーリアがしようとしている作業の、手順を理解するためにしか役に立たなかった。

 それが今は、自分で行える。

(この感覚を、地面と接続……自分自身を分け与えるような気持ちで……)

 その時、彼女がいる周囲の芝生に、異変が起きていた。

 正確には、先ほどサフィが描いた、魔法陣の周囲に。
 少しずつ少しずつ、芝生が波打って集まっていく。

 それは、杖で描かれた跡を埋めるように集まって来て、
やがて、何事もなかったかのように、元の芝生に戻ってしまった。

「わ……ねえ、本当に初めてなの?」

 魔法には、失敗がつきものだという考えでもあったのだろう。
 軽く驚くサフィに、アンバーはあははと笑ってみせた。

「これでも、図書館から借りて来た本で、自習してたんですよ☆」

 立ち上がり、ホウキを手に取るアンバー。
 その目は、キュピーンと妖しく輝いていた。

「さてっ、この調子でサーリアさんに追い付きますよー!!」

「え……? フォンティーユに戻る魔法は……」

「あ、そっちが先でしたね〜☆」

 果たして、暴走気味のアンバーを、正しい方向へ導けるのか。

 サフィがどのように
苦労するのかは、未だ予測不能だった。








 ズゴゴゴ………


 それは、空耳だったのだろうか。

 決して、地響きのような音はしていないのだが、
フィアが感じたその威圧感を形容するならば、そのような表現をするしかない。

 ソフィルを抱いているため、自分の身長より高いレンからのプレッシャーを、まともに受けてしまうのだ。

 もちろん、彼女は止めようとしているのだが……レンは珍しく聞く耳持たず。

 ソフィルはそれに応戦してしまい、
勘違いしていれのか、楽しんでいるのか、アルテはそれを止めようとしない。

 そのような状況で、彼女は追い詰められていた。

 もちろん、矛先を向けられている訳ではないのだが……、
 小さくなって、涙腺も弱くなっていたのだろう。

 必死で抑えてはいるが、フィアは涙目になっていた。

 だが、膠着状態というものは、
いつも第三者の登場で崩れるものである。

「ふにゃぁぁぁ〜〜っ!(レンちゃぁぁぁ〜んっ!)」

 辺りの空気を吹き飛ばすような、猫の鳴き声が響き渡る。

 レンはその意味を理解して、その方向へすぐに振り向いた。
 フィアは一瞬迷ったものの、即座にソフィルを降ろし、レンに続いて振り向いた。


 ちりんちりんちりん……


 鈴の音を響かせながら、
公園の向こうから、小さな黒猫が駆けてくる。

 その後ろには、小さな身体を一生懸命に動かして、猫の後を追っている少女が。

「あれは……クララ?」

(…………!?)

 フィアとレンは、接近してくる者の正体を察知した。
 鳴き声の中に含まれた意味を理解したのか、雰囲気でサーリアと知ったのか、レンは驚き顔だ。

「にゃっ!(とうっ!)」


 すたーんっ!


 猫にあるまじき跳躍で、サーリアが飛び掛かる!

「えっ……?」

(…………!)

 そのあまりの速度と高さに、思わずフィアが声を上げる。

 だが、レンはその容姿に似合わぬ早さで、
何かをどこからか取り出し、そして構えた。

「……レンっ!?」

 その気配に気付いて、フィアが振り向くと……グローブを手に、捕る気満々なレンが。

 フィアが、レンとキャッチボールをしようと、
ウィネス魔法店へ誘いに来た際に、アンバーが持たせた物だったが……、

 それはさておき……、

 キリっと表情を変え、キャッチャー・レンは、
正面から飛来するサーリアを受け止めようと構える。

 さすがの琥珀も、キャッチャーミットまでは持っていなかったようだ。
 ならば、受け止め損ねて、顔に直撃するのだけは避けたい。

 レンは、瞬間的に数歩下がり、肩の高さまでグローブをはめた左手を上げた。

 そして――


 ぼすっ♪


「ぎにゃっ!?」

 ――黒い疾走者は、
そのグローブに吸い込まれるように消え……いや、納まった。

 呻きに近い泣き声とともに。

「みゅぅぅ〜……(酷いですぅ〜〜……)」

(…………)

 涙目になりながらも、サーリアは抗議する。
 痛かったらしいが、それは彼女にも非があった。

 レンが無言で謝罪するも、サーリアの涙目はすぐには直らない。

「……サーリアさん?」

(…………!?)

 何があったのか、事態を把握していないと思われたアルテが、小さく呟いた。
 もちろん、レンが驚いたのは言うまでもない。

 この猫がサーリアだというのは、この場ではレンしか知らないのだ。
 サーリア自身が、この場で自分の名前を言っていない以上、直感で呟いたとしか考えられない。

 レンは、さすがにそこまでは考えられなかったが、
自分が取るべき行動については、既に考え出していた。

 この場を上手くごまかすか。
 それとも、全員にちゃんと説明するか。

 フィアは、遠くから走って来るクララの下へ駆け寄っている。
 だから、アルテの呟きは聞こえていない。

 だが、アルテに対してごまかしが通じるかと尋ねれば、レンは首を横に振るだろう。
 だからといって、説明してもよいかということになれば、レンはまた首を横に振るだろう。

 原因こそ不明だが、お店には、琥珀とサーリアが残っていたはずなのだ。

 そして、サーリアが猫になった状態で、単独で外に出すことはしないだろう。
 必ず一緒に行動するのは、レンが一番心得ている。

 そして何より、琥珀に関しての問題があった。
 彼女は、レンと一緒に身分を偽って、フォンティーユに滞在している。

 建前上は、王都から来た研修生とその妹なのだが、
琥珀がどう説明していたのかは、レンは詳しく聞かされていない。

 琥珀であれば、アルテにもその説明で通せたかもしれないが、レンには自信がなかった。
 その勘で見抜かれれば、下手をすればこちらへ来るクララにも、琥珀への疑惑を持たせてしまう。

 それはレンにとって、フォンティーユに来て以来の、最大のピンチだった。

 見れば、フィアがクララを連れて、戻って来る所だった。
 もはや、考えている時間は残されていない。

 覚悟を決めると、レンの行動は早かった。


 くいくい……


「あ、レンちゃん。もしかして、サーリアさんがそこにいませんか?」

(……、…………!)

 声なき声が、必死に説明する。
 結局、レンは妥協案を選び、アルテにだけは事情を説明することにした。

「まあ……そうなんですか。ええ……そうですね」

(……!……?)

 それには、アルテに協力してもらう必要がある。
 口止めと、口裏合わせ。

「……そうね。じゃあ……」

 アルテが答えようとした時、フィアとクララはかなり近くまで来ていた。

 「フィ、フィアお姉ちゃん……早過ぎる……よぉ……」

「あ……ごめん」

 クララは、黒猫を追って走って来た。

 公園が見えた途端に、
黒猫は彼女の腕を飛び出して、走り出してしまったためだ。

 普段大人しいためか、随分と息が上がっている。

 そんな彼女の所にフィアが来て、
手短に事情を聞き、レンとアルテの所へ連れていこうとしたのだが……

 フィアの運動能力は、今の見た目に似合わず、相当のものだった。

 本来の状態に比べれば、筋力や走力は確かに劣る。

 だが、それを差し引いても、反射神経はそのままなので、
同年代(もちろん、見た目の話である)の子供に比べれば、総合的な能力は圧倒的なのである。

 その時、二人の周囲に影が落ちた。

「ふふっ。小さくなっても、フィアさんはあまり変わらないみたいですね」

 フィアが振り返ると、そこには、レンに手を引かれて歩いて来たアルテが。

 ソフィルは肩にしっかり陣取り、
レンとは極力視線を合わせないようにしている。

 そして黒猫サーリアは、レンのリボンにしっかりとつかまっていた。

 落ちないように必死なのだが、レンはレンで気を付けているので、
落ちそうで落ちないという、ギリギリのバランスを保っていた。

 その辺りは、絶妙なコンビネーションと言うべきか。

「一緒にいるのは、クララちゃん…かしら?」

 たとえ声を出していなくても、アルテには分かってしまう。

 彼女の言葉は、自信がないように聞こえるが、
それでも相当の的中率であることは、彼女を知る者にとっては常識だ。

「こ、こんにちは……」

「あら、当たってましたね。こんにちは、クララちゃん」

 アルテとクララが、揃って頭を下げる。
 肩に乗っていたソフィルは、落ちないように重心をずらした。

「にぃ〜……(上手ですね〜……)」

 その様子を見ていたサーリアが、思わず声を上げる。
 先程から、何度も落ちそうになっているので、見習うことはあるのだろう。

 元に戻れるかどうかも分からないので、猫ライフに関する知識は、集めておいて損はない。

「あれ? レン、その猫って……」

「さっきの猫さん……」

 フィアとクララの目が、同時にレンの頭上へ向く。
 そこには、首に小さな鈴を付けた、黒猫が。

「……にゃ?」


 ――ちりん


 黒猫が首を傾げると、澄んだ鈴の音が。

 心配そうに、レンが隣を見上げる。
 サーリアがまた落ちそうになるが、お構いなしだ。

 そんなレンの視線に答えるように、アルテは表情を変えずに言ってのけた。

「紹介がまだでしたね。レンちゃんの所の、ジジちゃんです♪」

 アルテが、サーリアを抱き上げる。
 何か言おうとしたものの、彼女の「今は黙ってて下さいね」という笑みに、サーリアは沈黙を守った。

 レンが持ち掛けた口裏合わせは、つまりはこういうことである。

「そうだったんだ……琥珀お姉ちゃん、だから詳しかったんだ」

「琥珀さん、猫飼ってたんだ……」

 二人とも、何か心辺りがあるのか、妙に納得顔だ。

「ふふっ。ソフィルさんも気まぐれですから、知らなくても仕方ないですよ」

 琥珀の名を出せば、ほとんどの人は疑わないということを、レンは経験から知っていた。

 もちろん、志貴や秋葉であれば、何らかの疑いは持つだろう。
 だが、フォンティーユに来てからは、愛想もよいので、表立って疑われることもなかった。

 それを考え、即興でシナリオを描ける辺り、結構レンも機転が利くのかもしれない。
 仮契約とはいえ、そこはベテラン(?)の使い魔だということだろう。

「そっか……よかったぁ……」

「もしかして……クララちゃん。ジジちゃんの飼い主を探してたんですか?」

「うん……」

 小さな体で、街中を歩き回ったのだ。
 クララにとっては、長い道のりだったのだろう。

(……ぺこり)

「ふふっ。「ありがとうございました」ですって。クララちゃん、お手柄ね♪」

 こうして、何気ない会話に花を咲かせながら、
時間はまったりと進んでいくのであった。

「そうそう、レンちゃん。言い忘れてたけれど……」

(…………?)

「後で、詳しくお話を聞かせて下さいね?」

(…………こくこく)








 時間は少し過ぎて、夢の回廊へ――

「……あれっ、もうこんな時間!?」

「サフィさん、どうしたんですか?」

 魔法の練習中に、突然、横から声がして来たので、
アンバーは思わず聞き返した。

「え、え〜っと……放送時間なのよ」

「放送って……ああ、アレですねっ♪」

 彼女の答えを、アンバーは正確に解釈した。
 それは、サーリアが発明した魔力ラジオで聴いた放送。

 どれだけのリスナーがいるのかは不明だが、どうやら大切なものらしい。

「もう……カウジーはまだ来ないし、ラスティは……」

「じゃあ、私と一緒にやりましょうよ。
こういうの、一度やってみたかったんですよー♪」

「え? いや、さすがにそれはまずいんじゃないかな〜…」





 さて、一転してウィネス魔法店――

 猫になったサーリアを寝かしつけてから、
レンは魔法ラジオのスイッチを入れた。

「ほらほらっ、往生際が悪いですよ〜。さあ時報カウント、スタートっ!」


 ピっ…

 ピっ…

 ピっ…

 ちゅどぉぉ〜〜ん♪



「ば、爆発音っ!?」

「えへへ〜。こんな感じの演出が、リスナーの皆さんのハートを、
しっかりがっちりキャッチ&リリースするんですよ☆」

「な、何か違う気が……」

「まあ、オープニングで時間を使っちゃいけませんからね。
タイトルコール逝ってみましょうっ! サフィさん、台本通りにお願いしますね」

「う、うん……」

「アンバーとっ☆」

「サフィのっ!」

「エンジェリック放送局・セカンドシーズンっ!
天使の祭壇の前で消えてしまうほど、切なく甘いクリスマスホラー!
恋はバイオハザードっ☆はーじまーりますよ〜♪」

 オープニンクテーマらしき曲が、バックで流れ出す。


 しょーかい〜きーどうに〜♪

 シーステ〜ムーチェック〜♪



「も、もう〜……こんな感じでいいのかなぁ……」


 はーじめ〜て見る〜♪

 デースークト〜ップ〜♪



「これぐらいがいいんですよっ。気にしない気にしない♪」


 ピッ♪


 何やら電子音がして、
BGMがフェードアウトしていった。

「まあ、これでも下準備はしてるんですよー。ほら、おハガキだってこんなに沢山っ」


 ドスっ!


「うわっ……」

「ねっ、サフィさんったら人気者なんですから〜。まあ、私もファンの1人ですけどね」

「これ……全部?」

「ええ、私は今夜が初登場ですからね。
いくつかは、他の方々宛みたいですけど、やっぱりこの放送のメインはサフィさんですから♪
じゃあ、早速リクエストのおハガキでも……」

「……えっと、皆さん、本当にありがとうございますっ!」


 がさごそがさごそ……


「はいっ、え〜一枚目のおハガキは……、
何でしょうか、住所もP.Nも書いてませんが……まあいいです。
読みますよ〜☆ 「サフィさんに、[うぐぅ]とか、[はわわ〜っ]と言ってほしいです」だそうですが……」

「だ、ダメダメっ!」

「え〜……何でですか? せっかくのリクエストじゃないですか♪」

「う、うぅ〜……」

「ダメーーーーーーーっ!!」


 ズドーン!

 ドガガガガッ!

 ガッ!

 ザ、ザーー……



(…………?)

 何やら物騒な音を最後に、
魔力ラジオから聞こえるのはノイズだけになった。

 レンは少しの間、叩いたり揺すったりしていたが、結局諦めてスイッチを切った。





 さて、現場では何が起こっていたかというと――

「そんな危険なネタを、公共の場で言っちゃいけませんっ!!」

 その声は、近くの木の上から響いた。

 どうやって、そこまで登ったのかは分からないが、
並の人であれば転落しそうな頂点部分に、危なげなく立っている。

 いや、この回廊にいる時点で、タダモノではないのだが。

 手には、白いウサギらしい飾りが付いた、長めのバトン。

 その赤い両目は、アンバーを見据えて動かない。
 見掛けはレンに近い幼さだが、タイプは全く逆。

 その人物にアンバーは、何とも言えない感覚を感じていた。

 目覚めたばかりの魔力の感覚は、全力で警鐘を鳴らしている。

 滅多にない光の属性――

 サフィはこの性格なので、あまりその力を感じることはないが、
木の上の少女からは、とても強い光の波動が感じられた。

 だがその一方で、フォンティーユに来てから出会えた、
初めてのライバルかもしれない、とも感じていた。

 少なくとも、一瞬で放送を中断させたのだ。タダモノではない。

「それに、偽ハガキを作って、サフィさんを困らせちゃいけません!」

「あら、想像以上に鋭いですね〜。現に、サフィさんにはバレなかったんですけどね♪」

 口ではそう言いながらも、
アンバーは、内心ではかなり感心していた。

 確実に見抜かれない自信があったのだ。

「え、えっと……どういうこと?」

「それは――」

「えへへー。さっきのハガキは、袖の下に仕込んでたものなんですよ。
他のは紛れも無い本物ですから、後でちゃあんと読んで下さいねっ☆」

 唯一、事態が飲み込めていないサフィに、アンバーは楽しそうに説明する。
 セリフを取られ、木の上のウサぴょんバトン少女は悔しそうだ。

「せ、『セリフを取っちゃいけませんっ!』――え?」

 キッとバトンを向け、アンバーに言い放ったセリフは、ものの見事にアンバーとハモった。
 呆然と立ち尽くすその姿を見て、アンバーは「あはっ♪」と笑う。

「驚きましたか? これ、まじかるアンバーの新ネタなんですよ♪
まだ完璧じゃないですから、他言は無用でお願いしますね☆」

「あれ? 今日はカウジーが来る日じゃなかったっけ?」

 素敵なアンバーの笑みを敢えて無視して、サフィは心に浮かんだ疑問をぶつけた。
 というのも、数日おきに(つまり、放送日に)、彼はこちらに来る約束だったらしいのだ。

 それが、今日は来ていない。

「今日は、ずっと曲を書いてたみたいで……それで……」

「――私の?」

「あ、あうぅ……」

 あまりにバレバレなリアクションで、彼女には分かってしまったのだろう。
 可愛らしく、ぷぅと頬を膨らませた。

「むぅ、やっぱりラスティにぞっこんなのねっ。
いいもーんだ、カウジーの過去の失態は、私が一番よく知ってるんだもんねーだ」

「あぅ〜……」(汗)

 拗ねたように、ぷいとそっぽを向く天使様。
 機嫌を損ねてしまったことで、うろたえるバトン少女。

 そして、アンバーの目が光る。
 そりゃあもう、恰好の獲物を見つけた、肉食獣よろしく。

「なるほど……確かに、そのウサギの髪飾り……容姿も、街で聞いていた話と合致しますね」

「あ、あぅ?」

「ズバリあなたが……史上最年少の幼妻にして、
カウジーさんのロリコン疑惑を確信に変え、フォンティーユの歌姫と呼ばれる、
ラスティ=ファースンさんですねっ?」

 ――その、あまりの言葉に、ラスティと呼ばれた少女は、言葉が出ないようだった。

 幼妻と言えば、確かにそうなるだろう。
 若干12歳で結婚し、家事は着実に身につけている。

 だが、彼女としては、最愛の夫であるカウジーがロリコンであるなどとは、聞き捨てならなかった。

 例えそれが、フィアやサフィ達の、いくつもの証言があっても、である。
 自分の容姿は棚上げだろうか。

「あ〜……あのね、今のあの子は、ラスティじゃないんだよ。ある意味、あなたと同じだね」

「ま、まさかっ!?」

 サフィが、口を挟むと、アンバーがうろたえた。
 それは、ノリのよい演技かもしれないけど。

「天使の力を以て、世のため人のために、悪い人に[天罰☆]を与える正義の具現者っ♪」

(楽しんでる……サフィさん、絶対楽しんでる……)

 カウジーの代わりに来てみれば、既に放送の真っ最中。

 よく分からないけど危険な(直感なのだが)語句を、
言わせられそうになっているサフィを見て、咄嗟に変身したのだが……、

「――まじかるトワラー・エンジェルラビィ☆よっ!」

 こんな紹介をされては、逆に責められているみたいだ。

「まじかる……? ということは、恒例の対決イベントですかっ!?」

「そーなの?」

「魔法少女には、対決がつきものなんですよ。知らないんですか?」

 ラビィを置き去りにしたまま、話は変な方向へ向かっていく。
 いや、そう仕向けているのはアンバーなのだが。

「さて、ラビィさん。私が見たところ、あなたはメインヒロインですね?」

「そ、そうなんですか?」

「もうっ。結婚しちゃったんだから、当然じゃないの♪」

「う、うぅ〜……」(照)

 息もピッタリで、ラビィを追い詰める御両人。

 サフィは、ただ乗っただけなのだが、
その絶妙なタイミングは、結託しているとしか思えない。

「メインヒロインの身で、しかも、まじかるの名を冠するのなら、見逃す訳にはいきません。
勝負です!真のまじかるの名を賭けて、ガチンコマジバトルですっ!」

「あ、あうっ!?」

 ホウキの柄をラビィへ向けて、アンバーは宣戦布告する。
 その先端は……分かりづらいが、銃口になっていた。

 もちろん、赤い目のラビィの視力は、通常の○倍。
 それにはしっかり気付いたが……、

「あの、サフィさん……」

 どうしたものかと、彼女はサフィの顔色を伺う。
 内心、どうにかしてくれるかなー、という期待はあったのだが……、

「ん、よし。了承っ♪」

 ぱむっ♪と、サフィは手を叩く。

 ラビィの期待はあっさりと裏切られ、
辺りの景色は一瞬にして、闘技場へと変化した。

「やっぱりさ、普通の状態でドタバタすると、私もなにかと問題になっちゃうのよ。
だから、こうやって、別な空間を作らないとね」

「わーい♪ ノリがいいから、サフィさん大好きですー。
同じ赤髪でも、秋葉様より優しいですしね〜」

 ラビィが立っていた木は、いつの間にかチャンピオンの高台に。
 サフィに至っては、楽しげにマイクを持って、審判役を演じている。

「あっかコ〜ナ〜より〜……我らがチャンピオン、まじかるトワラー・エンジェルラビィ〜!」

 何故か設定はチャンピオン。

 コールする彼女の目は、
「早く降りて来てよっ♪」と言っているように、ラビィには見えた。

「……とうっ!」

 意を決して、ラビィはチャンピオン台から飛び降りた。
 数秒の無重力状態を経て、軽く着地する。

 ラビィの状態ならば、足を痛めかねないが……天使の力は不思議なものである。

「そしてっ! 青コ〜ナ〜より……、
異世界からの来訪者にして、魔法の経験はわずか数時間の挑戦者っ!
蜂起少女・まじかるアンバ〜☆」

「いえーーーーーーっ!!!!」

 サフィが紹介するのとほぼ同時に、マイクを持ったアンバーが歓声を上げる。

「それじゃあ、お互いの実戦訓練も兼ねて……」

 アンバーはマイクをポイ捨てし、ラビィはバトンを構える。

「レディ〜〜…ファイッッ!!」

 瞬く間に動き出す、双方の姿。
 炸裂する閃光。
 轟く爆発音。
 雄々しい声と、楽しげな笑い声。

「私は……あなたを倒しますっ!」

「私を倒しにいらっしゃいな♪」

 ……以下省略。



[戦闘結果]
・レフェリーストップにより、ダブルKO。

[総戦闘時間]
・38分41秒

[決まり手]
「そろそろ止めないと、本当にダメ〜…ジ受けるからね〜☆」

[審判コメント]
「よかったぁ〜、カウジーは、これで止まってくれなかったけど……あれ? ねえ、どうしたの?」




(えーと、飛ぶことに信条はいらず、
それを理解する……全ての魔法も、同じこと……)

 閉じたまぶたの向こう側で、光が激しく明滅し、やがて落ち着いた。

「やっと戻って来れましたね……あらら、もうこんな時間ですか」

 目を開けると、そこはウィネス魔法店だった。
 突然、現れたアンバーに、レンが駆け寄って来る。

「ただいま、レンちゃん。サーリアさんは……」

(………!)

 レンの短い、身振り手振りの説明は、かなり正確にアンバーへ伝わった。

「あらら……そうなんですか。それは困りましたね〜……、
まあ、可愛いですから、当分は猫のままでいいじゃないですか♪」

 身も蓋も無い言い方をするアンバーに、レンは小さく肩をすくめる。








 それから、琥珀が治療薬を作るまでの約3日間――

 黒猫サーリアは、
琥珀とクララにとっても可愛がられましたとさ。
















[教えて! 紗巫衣先生〜!!]

「さぁ〜てっ♪ 今回はここ、夢の回廊についての授業を……」

「先生っ! 質問!」

「はい、ラビィ……じゃなくて、ラスティ、どうしたの?」

「まだ、フィアさんが小さくなった理由が、説明されてませんっ!」

「あ、あははは……あれね……」

「まさか、うやむやにしようとしてませんよね?」

「そ、そーんなわけないもん……、
あっ、ちゃんと説明するから、ね? だからバトンは下ろしてよ〜」

「……じゃあ今度こそ、コーナー通りに教えてください」

「う゛っ……え、え〜と……あの子さ、ず〜〜っとカウジーのことを考えて、うじうじしてたよね」

「……そうなんですか?」

「ああ、ラスティは知らないんだよね。
それで、たまには幸せな気分になって欲しいなー、と思って、
昔の夢を見せてあげようと思ったんだけど……」

「……それで、間違えて小さくしてしまったんですか?」

「だ、だって〜……魔法と違って、
こーゆー細かいことは、天使の力だと難しいんだもん……」

「あぅ……じゃあ、元に戻せないんですか?」

「失敗してああなったんだから……う〜ん、難しいかな。まあ、きっと琥珀に任せれば大丈夫っ♪」

「じゃあ、カウジーさんにもしっかり、「教えて」おきますから」

「え、ちょっとちょっとぉっ! なんでよ〜!?」

「今朝のことを話したら、何だか大笑いして……あ、カウジーさんが呼んでるみたい」

「わ、待って待って〜!!」

「じゃ、今度は一緒に来ますね〜♪」

「お〜ね〜が〜い〜!
話したらダメ〜〜…ジ受けるんだからー!」








 ……何はともあれ、
フィアが元の姿に戻るのは、当分先になりそうだった。

 ――ちゃんちゃん♪








<つづく>


あとがき

 前回と比較して、随分とネタが
偏り過ぎているような気がしてきました。

 書いている時期に、某ラジヲにはまってしまったのが原因の一端ですが……それはさておき。

 ようやくアルテさん出せましたし、
琥珀さんも念願の魔法使いへの道を踏み出しました♪

 夢の回廊から無事帰ってこれたので、そのうち自力で帰れることでしょう☆

 あーでも、いつまでフィアを小さいままにしておけば……猫になったらまーくんですし。

 ……とまあ、見通しは不明瞭ですが、
日々着々と進めていくので、次回も宜しくお願いします。


<コメント>

誠 「シクシクシク……洗いざらい喋らされてしまった」(T_T)
シオン 「なるほど、とても興味深い話でした。
      機会があれば、その五月雨堂という店に行ってみる事にしましょう」(−−)
翡翠 「その時は、私達も、ご一緒させて頂きます」(−o−)
秋葉 「藤井さん……案内、よろしくお願いしますね」(^_^)
誠 「らじゃ〜……」(;_;)
シエル 「何処に行こうが、別に構いませんが……、
      あまり、派手な真似をして、私の仕事を増やさないでくださいね」(−−)旦
志貴 「それはもちろん……って、シエル先輩?!」Σ( ̄□ ̄)
誠 「い、いつの間に……、
   しかも、ちゃっかり、勝手に紅茶いれて飲んでるし……」(−−;
シエル 「皆さんが、映画のビデオを見てる時からいましたけど……、
      まあ、それはともかく、今日は面白いモノを持って来たんですよ」(^〜^)v
秋葉 「面白いもの……って、それはラジオですか?」(−−?
シエル 「実は、これで天使の歌が聞けちゃうんですよ♪」(^○^)
志貴 「天使って……そんなの、本当にいるんですか?」(・_・?
シエル 「――さあ?」ヽ( ´ー`)ノ
志貴 「まてコラ、代行者……」(−−メ
誠 「そういえば、知り合いに、いたような、いないような……」(’’)
シエル 「まあ、何でも良いじゃないですか。とにかく、とても綺麗な歌なんですよ。
     では、そろそろ放送時間なので……ポチッとな」(^^)ノ凸

志貴 「…………」(−−;
シエル 「…………」(−−;
秋葉 「…………」(−−;
翡翠 「…………」(−−;
シオン 「…………」(−−;
誠 「…………」(−−;

志貴 「な、何か……」(^_^;
翡翠 「聞き覚えのある声が……」(−−;
秋葉 「……き、気のせいですよね?」(^_^;
シオン 「手掛かり……見つかったようです」(−−;
誠 「ってゆ〜か、いつまで続くんだ、このコメント形式……」(T▽T)
シエル 「ほとんど、本編の別ルートになってますからね〜」ヽ( ´ー`)ノ

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