プシッ!
ごくごくごく……
「ぷはぁ……みなさん、今日もマキで行きますよ〜♪」
月姫 & AS クロスオーバーSS
戦力二乗の法則
〜 第五幕 「大空を翔るモノ」 〜
町外れの民家の住人である女性……、
シアリィ=ファースンは、一人で朝食をとっていた。
5年前、街を襲った一連の騒動の中で、
神官であり審判者の地位にあった夫を亡くしてから、彼女はずっとラスティと暮らして来た。
それだけで淋しくはなかったし、去年の冬からは、
カウジーも居候として一緒に住んでいたから、質素な生活ではあったけれど、幸せでもあった。
やがて、5年前の再来を思わせる騒動を経て、
ラスティとカウジーは結婚式を挙げ、今はハネムーンの最中。
そして、家には彼女だけが残った。
「ふぅ……」
家が広く、静かになった。
そう思うようになったのは仕方がないだろう。
もちろん彼女とて、実の娘の幸せを邪魔する気は毛頭ない。
だが、こうも長く一人でいるのには慣れていなかった。
もちろん、いずれ二人とも帰ってくるのは知っている。
この寂しさが、一時的なものだとは知っている。
それでも……、
コンコン♪
「あら……?」
突然、響いたノックの音。
もちろん突然じゃないノックなどないのだが、それはそれ。
ファースン家に来客というのも珍しいので、
少々、首を傾げながらもシアリィはドアに向かった。
ガチャリ――
朝日の中、そのドアの向こうに立っていたのは……、
「あ、どうもおはようございます。
えーと、シアリィ=ファースンさんで間違いないですよね?」
大量の荷物を背負い、肩には一匹の黒猫を乗せ、着物の上には黒のマントを羽織り、
ホウキを手にした魔女、蜂起少女まじかるアンバー&レンがいた。
「はい、そうですけど、あなたは……?」
「ウィネス魔法店の者です。以前ご注文を承った、お薬の配達に参りました♪」
荷物を降ろしてごそごそと納品の書類を出し、それと照合しながら薬瓶を取り出すアンバー。
楽しそうなのだが、本人はいたってマジである。
「風邪薬に解熱剤、絆創膏一箱と……はい、こちらでよろしいですね?」
「え、ええ……ありがとうございます」
「確かシアリィさんは、もうお代を払ってましたね。
それでは、私はこれで失礼しまーす♪」
突如として現れた蜂起少女に、驚きっぱなしのシアリィ。
そんな彼女の反応に頓着することもなく、アンバーは颯爽とホウキに飛び乗った。
「えーと……レンちゃん、次の配達先ってどこでしたっけ?
……あ、そっか。よーし、次行きますよ〜!」
気合いと共に、ホウキは「ばひゅんっ!」と音を立てて空へと飛び去る。
そして、後には……、
唖然としたまま立ち尽くすシアリィだけが残された。
[オペレーション・メテオ]――
それは彼女が考案した、一斉配達作戦の名称である。
名称の由来は、「流星の如く空を切り裂く飛行で、どんな場所でもすぐにお届け☆」という、
本人のスローガンかららしいのだが……信憑性はほとんどない。
アンバーとサーリアが共同で、まずフォンティーユ内の配達先へと薬品を配達する。
その後、ウィネス魔法店で二人とも薬品を補充してから、
今度はアンバーのホウキに乗って、隣街のダイダロン、
その他遠方の配達に行く、というのが、作戦の全容である。
遠方の配達先というのは、大部分が商隊の人達なので、本来であれば配達に行く必要はない。
通常は、期限の日に先方が受け取りに来るのだが……、
実はその辺りは、サーリアの無計画によって問題になったのだ。
二日前のこと……、
「――え? 倉庫、いっぱいになっちゃったんですか?」
(……こくこく)
その日もせっせと薬品(一部はサーリア特製の魔法薬)を作っていた三人だったが、
予期しなかった問題はその時に発覚した。
作った薬品を保管しておく倉庫が、ついにいっぱいになってしまったのである。
「む〜……レンちゃんに整理整頓してもらったですから、もっと入ると思ってたですけど……」
元々、異次元空間と化していた倉庫を、
どうにかするにあたっては、当然、ながらレンが仕切ることになった。
サーリアも琥珀も、薬瓶を割ってしまう危険性がとても高いためだ。
数日間の彼女の奮闘で、どうにか倉庫は本来の姿を取り戻したのだが……、
それでも、その容量には限界があった。
「人々を助けたい」という願いから、サーリアは多方面から、無謀とも思える数の依頼を受けた。
その心掛け、と言うか優しさは確かに立派なのだが……、
それだけで、倉庫が広がることはなかった。
その大量の依頼による薬瓶の量は、琥珀の計算でも倉庫の1.5倍らしい。
「うーん……これ、どうしましょうか?」
三人の周りには、今日も今日とて大量に作られた薬品が。
どうにかまとめて倉庫に入れないと、普通に歩くのも大変になってしまう。
「にゃぁ……な、なら机とイスに、全部、乗せて……」
「床で晩ご飯、ですか?」
黙り込むサーリア。
レンも想像してるらしく、部屋には沈黙が降りる。
そもそも、落下して割れたら元も子もないのだが。
「……フィアさんの所、行きましょうか?」
「はいですぅ……」
結局、その日は、アンバーのホウキで部屋から脱出し、
アンクルノートで夕食&対策会議となった。
「だって、カウジーったら、結婚の約束までしてくれたのに、結局はラスティと……」
「気付いて頂けなかったんですね……ええ、そのお気持ちはとってもよく分かります!」
当然の流れとして(と言っていいのかは微妙だが)、琥珀がフィアの愚痴を聞いてやり、
お互いに慰めあう光景が、多くの客に目撃されていた。
「あ、あのぅ……」
「琥珀さんっ!」
「フィアさんっ!」
両者の間で交わされる熱い握手。
それはさながら、正々堂々戦い抜いた後のスポーツ選手のようだった。
もちろん、恋する乙女達には、異世界だとか立場だとか、そんな細かいことは関係ない。
まあ、その後で、「ならいっそのこと、ある分を全部、配達しちゃいましょう!」という、
琥珀の意見で、今朝の配達作戦が立てられたのだが。
早々に自分達の配達分を終わらせたアンバーは、ウィネス魔法店に戻っていた。
その傍らにあるいつものホウキには、
材料採集の時に使っていた巨大なカゴがぶら下がっていた。
手術用の糸が何重にも束ねられてそれを吊り下げている辺り、
今回は荷物の量も、重量も、半端ではないのだろう。
「レンちゃん、そっちは梱包終わった?」
(……ふるふる)
「そうですか……じゃあ終わったら、今度はカゴに移しましょうね。
高さが同じくらいの物を並べるんですよ」
二人は、終わっていなかった梱包作業の最中だった。
本来であれば、昨日の段階で終わっているはずだったのだが、
あまりの量に今日までズレ込んだのだった。
二人の周囲には、段ボール箱(に似たような物)とか、乾燥させた葉っぱが詰まった袋が。
見慣れない物が多いが、きっと緩衝材の類だろう。
こちらの世界には、発泡スチロールやウレタン材は存在しないから、それらで代用している。
いや、そもそもこれが普通なのだろうか。
バタンっ!
「ごめんなさいですっ! 遅れちゃったです〜!!」
突然、ドアが開き、サーリアが飛び込んでくる。
大急ぎで配達を終わらせて来たのだろう。額にはキラリと汗が光っていた。
「あ、サーリアさん! 今、走ったら……!」
突然の状況を、いち早く悟った琥珀は、瞬時に注意を発した。
だが、その言葉は最後まで紡がれることはなく……、
カツンッ――
「にゃにゃ?」
「あっ……」
(………)
……サーリアも、急には止まれない。
「ぎにゃぁぁぁっ!!」
床に置かれていた何かにつまづいて、宙に浮かぶサーリアの身体。
いい感じでスピードが乗っていたのが、不幸中の幸いだったのだろうか。
そのまま彼女は琥珀とレンの間を飛んで行き……、
ぼすんっ!
奇跡的にも、床に置かれていた梱包待ちの薬瓶には激突しなかった。
そして、二人の近くに詰まれていた、数々の緩衝材の山にダイビング。
「あの〜……サーリアさん?」
(………?)
そのまま、ぴくりとも動かないサーリアを気遣ってか、琥珀が遠慮がちに呼び掛ける。
レンは首を傾げるばかり。
だが二人の予想に反して、気絶した彼女の身体は、
ゆっくりゆっくりと、その山の中に沈んでいく所だった。
「まあ、何と言いますか……、
この世界の物は、案外、向こう側の世界の物よりも良質なのかもしれませんね。
とりあえず、緩衝材としての性能は立派ですし」
そして、全ての梱包作業が終わり……、
積み込みまで完了したのはおよそ一時間後だった。
「ほーらっ。サーリアさん、ちゃきちゃきフライトに行きますよ?
この改良型ホウキの初フライトなんですから♪」
「はいです〜、もう少し待ってて下さいです〜!」
ぱたぱたと階段を駆け降りてくるサーリア。
その服装がいつも通りだったのに気付いた琥珀は、自分の荷物の中から何かを取り出した。
「ちょっと待って下さい、サーリアさん。
いくらもうすぐ夏だからといっても、そんな格好じゃ凍っちゃいますよ?」
「にゃ?」
「まあ、何と言いますか……、
説明しだすと本当にキリがなくなっちゃいますから、これでも羽織ってて下さいな」
サーリアが見たのは、今となってはとっても見慣れた物。
琥珀が蜂起少女まじかるアンバーへと変身する、たった1つのキーアイテム。
黒いフードつきマントだった。
だがしかし、見慣れているサーリアとレンには、それがいつもと違う物であることが解った。
いつもよりは若干厚手で、裏地は冬物のコートに近い。
「あはっ♪ これは寒冷地仕様なんですよー。
確かに暖房薬は便利ですけど、せっかく作った商品を使う訳にはいきませんし、
この改良型ホウキのだんちなパワーの前では、焼け石に水って所ですから」
自慢げにそのホウキを指す琥珀。
趣味なのか何なのか、赤いカラーリングが施されているのはご愛嬌。
ちなみに、その標準性能はというと……、
・定格出力:全世界のハムスターの発電量1日分。
・最大加速力:うぐぅダッシュの3.2倍。
・最高速度:未計測。
・航続可能距離:零式艦上戦闘機(増槽装着時)くらい。
・安定性:EV○初号機くらい?
……だそうな。(インチキばかりの性能表より)
何にせよ、これほどの大荷物&定員オーバーの3人乗りなので、
改造を余儀なくされた結果がこれである。
琥珀いわく「これで夜空を駆ける赤い彗星もヒートエンドしちゃいますよ〜♪」だそうだ。
見えない所で、武装も強化しているに違いない。
ばふっ!
そうこうしているうちに、サーリアはマントをかぶせられ、
琥珀は細かい所をちょちょいと修正する。
「はい。これでサーリアさんも、まじかるでラブリーな蜂起少女に変身完了です♪」
手鏡をずずいと突き付ける琥珀。
その鏡が映すのは、パッと見だったら間違えてしまうような、蜂起少女の姿だった。
「髪を降ろして頂きたかったですけど……さすがにそこまでしたら、すぐには戻せませんからね」
「にゃ〜♪ これでサーリアも、琥珀お姉さんみたいに料理上手になれるですか?」
「えーと……まあ、それはそれということで。まずはホウキに乗って下さいな」
颯爽とホウキに飛び乗ると同時に、黒いマントを翻して変身する琥珀。
そして「ヘイ、カモン♪」とでも言わんばかりに、アンバーが手招きする。
「にゃ……」(汗)
(…………)
ぐいぐい……
「にゃにゃっ! 引っ張らないで下さいです〜!」
以前の曲芸飛行が効いているのか、恐る恐る近づくサーリア。
レンは手慣れたもので、怖がるサーリアの手を引いて、無言で定位置につく。
「あはっ♪ レンちゃんも分かってますねー。それでは早速フライトに行きますよ〜♪
あ、そうそう。長距離飛行にはやっぱりこれは欠かせませんよね?
ミュージック、スタートですっ!」
ホウキが浮かび上がると同時に、久しく聴かれなかった曲が聞こえてきた。
「投薬! 投薬! 投薬! 投薬!(あはー♪)」
それは紛れも無く、まじかるアンバーのテーマソング、[投薬☆まじかるアンバー]だった。
と言うか、改造したとはいえ、彼女はどうしてもオーディオ機器を外す気にはならなかったようだ。
さておき。そうこうしている間に、更なる出力を得たホウキの咆哮が店全体に響き渡り、
カゴを力強く持ち上げながらホウキが舞い上がった。
「あはっ♪ 揚力は上々ですね〜。
それでは、ちゃっちゃと出発しちゃいましょうっ!!」
ぎゅぉぉぉぉんっ!!
二輪車のようなパワフルな加速で、3人乗りのホウキは外へと飛び出していく。
「にゃ〜〜〜!!」
(…………)
「やりましたぁ☆ このまじかるアンバーのチューニングには、
やっぱり、死角はなかったみたいですね〜♪」
反応は三者三様。
まあ、アンバーが楽しそうなのは言うまでもないのだが。
大通りを滑走路代わりにして、一気に加速するホウキ。
そのまま上昇する様は、飛行機の離陸によく似ていた。
風を切りながら、フォンティーユの街から飛び立つ3人。
最初は悲鳴を上げるだけだったサーリアも、数分後にはすっかり慣れていた。
もちろん普通の飛行であって、曲芸飛行ではなかったが。
だが……、
レンもサーリアも気付いてはいなかった。
いや、悪意もなく、特定の個人や組織に害を与える訳でもなく、
ただ「そうしてみたい」という動機の計画には、不自然さや作為的な部分は現れない。
その上、複雑に絡み合う事象の糸を見分け、全てを操れる琥珀が立てた計画なのだ。
その裏にあるもう一つの計画に気付ける者は少ないだろう。
……そう。
オペレーション・メテオは、単なる一斉配達作戦ではなかった。
「……あはっ♪」
そして、彼女の狙いを知るのは彼女自信だけ。
その計画の全容を知るのは、サーリアでもレンでもない。
お茶目な蜂起少女だけなのである。
「さ…寒くなってきたですーっ!」
身を縮ませながら、マントの前を必死に押さえるサーリア。
平気なのかなんなのか、いつもと変わらない表情のレン。
「もう少しの辛抱ですって♪ さあ、突っ込みますよ〜!!」
そして、一人で盛り上がってるのは、言うまでもなくアンバーだった。
スピードは底抜けに増していき、体感温度はかなり下がっているはずだ。
だからこそサーリアに、寒冷地仕様のマントが渡されたのだ。
それでも寒がっているのは……まあ、仕方がない。
彼女が指先で細かい操作を繰り返す度に、ホウキは敏感にそれに応え、
クランクやS字カーブ、果てはヘアピンや某コークスクリューを走り抜けていく、
白い車体を思わせるような、そんなライン取りをしていく。
もちろん、空中なので道路がある訳がない。
だが、その技術は紛れも無く、実戦で培われたものだった。
「ここで……決めてみせますっ!」
すっかり勝負師、いや、走り屋の目をした彼女が、バイクのように、
(とは言っても、バイクのアクセルとは違って、持ちにくそうだが)ホウキの柄をくいっと捻ると、
大空にホウキの咆哮が響き渡った。
どうやら、彼女の中では公道最速伝説の真っ最中らしい。
今の彼女の目には、すぐ近くを並んで飛んでいる鳥も、ライバルの車体に見えているのだろう。
ギュワァッ!!
「にゃぁーっ!?」
(………!!)
突然、その軌道が急激に変化し、遥かなる青空を目指した。
ちょうど太陽が雲に隠れた辺り。
アンバーは、直視してもあまり眩しくない、その境界を目指していた。
薄い雲を通した空の色を「みずいろ」と、そう評したのは誰だったか。
ならば、雲を通した陽光は白に近いレモン色とでも言えるのだろうか。
そして、一瞬だけ視界がホワイトアウトした後には――
一点の曇りもない、青空が広がっていた――
「やっぱり、宇宙(そら)は遠いですね〜。
このホウキの推進方法では、あのゼロGの領域までは行けませんか……」
残念そうに呟くアンバー。どうやらこのホウキでは、大気圏離脱は出来なかったようだ。
(……くいくい)
「はい、どうかしましたか……?」
レンが後ろからアンバーのマントを引っ張った。
何事かとアンバーは振り返ったが……、
「にゃ……」
「あ……ごめんなさいサーリアさんっ! 寝ないで下さい!
レンちゃん、寝ないようにほっぺつねってて下さい!」
あまりの寒さに、うつらうつらしてるサーリアが。
慌てて琥珀が指示を出す。
ぎゅ〜〜……
「あ〜、おかあさーん……サーリア、もうすぐそっちに逝くですよぉ〜」
「わっ! サーリアさんっ、漢字も怪しいですし、しっかりして下ださいっ!」
レンがサーリアの頬をつねると、
その口からお花畑が見えているとしか思えない言葉が出てきた。
「え、え〜と……ビームバリアーの展開は……」
慌てながら、アンバーがホウキをいじくると、周囲を光の膜が包み込んだ。
それは、吹き荒れる風を極所的に弱め、凍てつく寒さを春の陽気に変えた。
[ご説明しましょう! このまじかるビームバリアーは、
元々は機体の前方にバリアーを展開して、大気の抵抗をどうにかして拡散し、
音速の壁を突破するためのものでした。
ですが、まじかるアンバーのステキな閃きがピカーッて輝いたおかげで、
なんと周囲の気圧や温度まで思うがままなのですっ♪]
まあ、蜂起少女の技術力は、アナ○イムにも匹敵するという話だ。
「あ〜、あったかいですぅ……ぽかぽか〜」
(……ふるふる)
「えっ、ベリルじゃない、ですか?
レンちゃん、確かにコタツは私の部屋にありましたけど……寒くなったらね」
確かに、猫はコタツで丸くなると言うが、まだまだそんな季節ではない。
「ふふっ、向こうに着いたら、フィアさんに頼まれてたお魚と、
貴重な魔法薬の材料と……ああ、志貴さんのお薬に使えそうな物を探さないといけませんねー♪」
(……こくこく)
「そうですね。フィアさんも、料理上手ですからね〜。
こちらの世界の料理も、この機会にちゃんと教えて頂きましょうか♪」
今や両者共に、フォンティーユの料理女王として(ごく一部で)名を馳せている二人である。
もちろん仲が悪い訳ではなく、お互いに足りない物を補い合う仲だ。
もちろん、その腕はレンもサーリアも、街の人達も認めていることだ。
琥珀とレンの働きぶりで、最近はウィネス魔法店にも余裕が出て来ており、
アンクルノートが忙しくなった時は、今までのお返しとばかりに、
三人がお手伝いに行くようになったのだが、そこでの琥珀の人気は、半端ではなかった。
料理に接客と、月茶で経験済みのスキルに加え、力仕事は例のホウキを利用してこなしてしまう。
さらには、彼女の作る料理は、フォンティーユの物ではない、
(街の人達は、王都での物だと思ったらしい)ので、当然の流れといえば当然だろうか。
ただ、その実態が、蜂起少女まじかるアンバーであるということは、ほとんどの人が知らない。
「それじゃあ、生物は鮮度が命ですし、サクっと配達終わらせちゃいましょうか♪」
ホウキがより一層の唸りを上げ、その後方に白く長い尾を引く。
「あはっ♪ミノフ○キー粒子を散布しなくていいから、こちらの世界では楽に飛べますねー☆」
そして三人は、音速を越える。
本来であれば猛烈に打ち付けてくる風も、否応なく発生する衝撃波も、
展開されたまじかるビームバリアーが全て相殺し、ホウキは空を切り裂いて飛んでいく。
実は、この飛行でさえも、ただの慣らし運転に過ぎなかった。
そして……、
「そろそろ、いい時間帯になってきましたね……」
日没を見届けると、アンバーはぽつりと呟いた。
ホウキに吊されたカゴの中には、
フォンティーユから運んで来た薬品類の代わりに、生鮮食品や各種原材料が。
いずれも、立ち寄った街で購入したり、その周辺から採集した物だ。
「む〜! むーー!(どーしてサーリアを縛るんですかぁーっ!?)」
(…………)
……いや、訂正しよう。
その中には、縛られたサーリアとレンも入っていた。
縛られたとは言っても、マントごとぐるぐる巻きにされているので、
どちらかと言えば手土産に近い。
サーリアに限って言えば、毛糸の帽子までかぶせられ、さらにマスクまで装備させられている。
こうなると、風邪をひいてる姿と大差ない。
「ごめんなさいね、サーリアさん。
帰りは全開で飛ばしますから、振り落とされないようにこうしてるんです。それに……」
アンバーは言葉を切ると、明らかに妖しい笑顔を浮かべた。
「全世界に、このまじかるアンバーの技術力を見せ付ける計画……、
オペレーション・メテオ……完遂させてくださいな♪」
カゴにフタをかぶせて、しっかりとロープで固定する。
その様子は、一体どれほどの速度を出すのだろうかと、そんな考えを二人の脳裏に走らせた。
「あ、もしかして、サーリアさん……、
ぐるぐる巻きじゃなくて、もう少しマニアックな縛り方の方がお好きでしたか?」
「む〜〜!!(そーいう問題じゃないです〜!!)」
「ふふっ……そんなに喜ばないで下さいな。
そんな目をされると、思わずいろんなことをしたくなるじゃないですか。ねーレンちゃん?」
アンバーはレンに話を振る。
だがレンは、別段突っ掛かるでもなく、首を傾げただけだった。
(……?)
「あ、もしかして。レンちゃん、縛られるのに慣れてるんですか?
もう、志貴さんったらマニアックなんですから、本当に何でもアリなんですねー♪」
そもそも、アンバー自体が何でもアリなのだが、それはそれ。
話の真偽の程も定かではないのだが、意味を知らないレンは肯定も否定もしないので、
アンバーはそれを確定事項として暴走していく。
「向こうに着いたら、何でもお好きな料理を作って差し上げますから、
今夜だけはカゴの中でまじかるな天体ショーを見てて下さいね☆」
それだけ言うと、彼女はにぱっと笑って、颯爽とホウキに飛び乗った。
それは音もなく、物資(プラスサーリア&レン)を満載したカゴをも軽々と持ち上げた。
「よおぉぉぉーっっし!」
まじかるビームバリアーが展開され、ホウキはいや増す速度で星空を目指していく。
本来であれば、今夜のような新月の夜空には、闇夜を照らす明かりはない。
そのはずなのに、今や地上は満月に照らされたかのように明るかった。
――そう。
それは慣らし運転の時とは段違いの出力によって、
ホウキの後方に数キロもの長さの尾を引き、世界に光をもたらしていた。
「まだですっ! まだ終わりませんよ〜〜♪」
アンバーはホウキの柄を引くと、そのまま捻った。リミッターを外したのだ。
「まじかるブースター、最大パワ――っ♪」
ホウキのテールノズルから溢れていた光が二つに割れ、それぞれが元の倍以上の光を放ち出した。
それは、夜空を背にして羽ばたく、一対の巨大な光の翼。星空を彩り、
人の心を照らし、世界を包み込むかのような、青い翼。
「う、うふふふ……行けます! これなら新型の機体も開発出来ますし、
今までの機体の動力炉だってマイナーチェンジして、ジェネレーターの出力も向上させられます!
メカ翡翠ちゃんとは比べものにならない、ぐれーとでぱわふるで、
萌え萌えな機体を設計しちゃえますよ〜!」
ようやく実験が行えて嬉しいのか、全てが予想通りだったのが、
彼女の創作意欲に火を点けたのか、アンバーのテンションは随分と上がりっぱなしだったようだ。
そして、フォンティーユ上空までその光の翼は続いた。
それは人々に天使の再来を思わせる光景であり、
世界中の魔法使いや科学者を不眠症に陥れるには、充分過ぎる効果があった。
[教えて! 紗巫衣先生〜!!]
「と言う訳で、初対面の人には初めまして。それ以外の人にはこんばんわっ♪
サフィ=スィーニーでーす。この裏コーナーでは、本編中でわんさか出て来る変な現象について、
熾天使の名において頑張って説明するコーナーでーす☆」
「はいっ! 先生、しつも〜ん、です!」
「あっ、早速、いい返事ね。ラスティ、どこか解らない場所でもあった?」
「えっと……さっきカウジーさんと見た、空の大きな光……結局何だったんですか?」
「そうねぇ……最近フォンティーユに来た、何だか面白そうな人のしわざ、ね。
私もあまり詳しくないけど、魔法だけじゃない、よく解らない力を使ってるってのは確かだよ」
「そうなんですか……あ、それと……」
「――ん? まだ他にもあった?」
「……私達の出番、本編であるんでしょうか?」
「んーと、作者のネタ帳があればハッキリするんだけど……私はあるよ?
しかも、ラスティより多いかも♪」
「わ、私とカウジーさんは……っ!?」
「ふふっ♪ それは次回の講釈ということで〜」
「あぅっ、に、逃げないで下さい〜!サフィさぁぁぁんっ!!」
そうして……、
蜂起少女は流星になる。
世界に蒼き光を見せ付けながら、幸福の鳥を星空に描きながら……、
<つづく>
あとがき
前回の更新から結構日が経ちましたが……、
色々なトラブルやスランプを切り抜けたり乗り越えたりして、
どうにかこうにか、今回の第五幕を書き上げることができました。
シアリィさん初登場。サーリアのカッコだけアンバー化。
そして、分かる方にはとっても分かる、オペレーション・メテオ……、
やり過ぎだったかという感じはありましたが、
「まじかるアンバーは、危険過ぎるくらいで丁度良いのでは?」という思いがあったので、
そのまま押し通しました。
まあ……ネタ単発で無理矢理押し通すのも、限度があるということを思い知りました。
その辺りを補う目的で[教えて!紗巫衣先生〜!!]を入れたのですが、如何でしたでしょうか?
(紗巫衣と漢字当てたら、友人から「巫女服っ!?」って言われました)
実際、次回のお話で使う予定もありますし……、
その辺りは、一応、反響次第でどうにかしようと考えてます。
次回は、意外とありそうでなかった、あのキャラが話の発端に……!?
という訳で、次回の構想はほとんど脳内補完済みです♪
あとはトラブルに巻き込まれず、ちゃんと書くだけ、ですね。(それが意外と難しいのですが)
それでは、また次回♪
<コメント>
小さい頃〜は〜、神様がいて〜♪
誠 「は〜、お茶が美味しい……」(^_^)旦
翡翠 「秋葉様、お茶のおかわりは?」(−o−)
秋葉 「ありがとう、頂くわ」(−−)/
シオン 「ずずず……」(−−)旦
志貴 「なあ、一つ訊いて良いか?」(−−?
誠 「……何です?」(・_・?
志貴 「俺達、何で遠野家で、のんびりお茶なんか飲んでるんだ?」(−−?
誠 「いきなり、俺の家に秋葉ちゃん達が押しかけてきて、
有無を言わさずに拉致られて来たんですよ。
で、さんざんお仕置きくらった後、事情を話して……、
今は、こうして、琥珀さん達を連れ戻す為の、対策会議を……」(−o−)
志貴 「じゃあ、その会議中に、何で『魔女の宅○便』のビデオなんて見てるんだよ?」(^_^?
誠 「いや、まあ、なんとなく……」(^_^;
シオン 「それにしても……」(−o−)
志貴 「――んっ?」(・_・?
シオン 「このホウキ……一体、どのような構造になっているのでしょう?
とても、興味深いですね」(−−?
志貴 「そういえば、琥珀さんも、何気にホンキで飛んでた……、
って、そうじゃなくて、琥珀さん達を連れ戻す方法を考えてるのに、
何でアニメの設定なんぞを、そんなに真剣に考えてるんだよ!
しかも、分割思考まで使ってっ!!」(T▽T)
誠 「まあ、良いじゃないですか……、
あの人のことだから、何とか自力で帰って来ますって」(^▽^)
志貴 「どうやってっ!?」(;_;?
誠 「ホウキのスピードが140キロを超えた時、時空に穴が開いて――」(^○^;
志貴 「――デロリアンかよっ!!」Σ( ̄□ ̄メ
誠 「琥珀さんなら、次元転移装置くらい作れそうだし……」ヽ( ´ー`)ノ
志貴 「いや、それは否定せんが……メカ翡翠の例もあるし……」(−−;
秋葉 「兄さん、話が見えてこないのですが……」(−−?
翡翠 「先程から、何の話をしているのですか?」(−−?
志貴 「いや、ただの映画の話を……」(^_^;
誠 「バック・トゥ・ザ・○ューチャー全三巻あるけど、見ます?」(^○^?
志貴 「……用意がいいな?」(−−;
誠 「まあね……」(^〜^)v