月姫 & AS クロスオーバーSS

戦力二乗の法則

〜 第三幕 「彼女たちの舞台裏」 〜










「琥珀お姉さん。どうして、そんなに料理が上手なんですかぁ?」

「向こうでの私の仕事は、住み込みの使用人だったんですよー。
お料理と家計簿の担当でしたから、材料があれば多少はお作りできますよ。ねーレンちゃん?」

(もぐもぐ……)

 テーブルを囲む三人の前には、紅茶とイチゴショート。
 もちろん琥珀の手作りなのは言うまでもない。

「そうなんですかぁ。でも、やっぱり琥珀お姉さん凄いですよ。
お店が出せるくらいじゃないですかぁ?」

「えへ、ありがとうございます。
いつかお金を貯めて、妹と一緒にお洒落なアンティークカフェを開くのが夢なんですよ〜」

 実はお金はちゃんとあるのだが、それは秋葉も翡翠も知らないことだ。
 (詳細は「頑張れ知恵留先生」にて)

「妹……はにゃ? レンちゃんのことですかぁ?」

 どうやら、サーリアにはまだ詳しく紹介されていなかったらしい。

 色違いではあるにせよ、似たようなリボンをしていたためか、
彼女には二人が姉妹に見えてしまったようだ。

「あはは……レンちゃんは私の妹じゃないですよ。
話すと長くなりますけど、先ほど、私が住み込みで、
使用人のお仕事をしているのはお話ししましたよね?
それでですね、私は当主様付きの使用人なんですが、
双子の妹の翡翠ちゃんは当主様の兄の志貴さんの使用人なんですよー」

「琥珀お姉さんは双子だったんですかぁ☆」

「そうですよー。そして、レンちゃんは、その志貴さんの……、
そうですね……レンちゃん、何て紹介してほしいですか?
例えば従者、飼い猫、使い魔、ナイトメア、サキュバス……、
何なら魔女の○急便にならってジジとか、色々ありますけど、どれがお好みですか?」

 またまたからかう琥珀。
 どうやら、アンバーであっても琥珀であっても、イタズラ好きなのには変わりはないらしい。

 レンは困った顔をして抗議の視線を向けている。
 二人のやりとりを分かっていないのはサーリアだけだろうか。

(じ〜〜……)

「あ、やっぱり嫌でしたか? じゃあ、そうですね〜。
無難な所で、年の離れた妹ということでいいですか?」

(こくこく)

「む〜……ちょっと難しいお話ですね」

「結構遠回りしましたけど、結局は家族の一員ということですよー♪」

 あまり深くツッコまれても困るので、琥珀はお茶を濁した。
 結局、それは志貴の言葉でもあったのだが……、

「そろそろお茶の時間も終わりですね。サーリアさん、これからは調剤作業ですか?」

「そうですよぉ☆ だから宜しくお願いしますです」

(こくこく)

「えへへ……何だか、カウジーさんにお手伝いしてもらってた時みたいですぅ」

 嬉しそうに笑うサーリア。
 だがしかし、聞き慣れない名前に琥珀は耳をぴくっとさせた。

 目にはキュピーンと妖しい光が宿り、口元には子悪魔の笑みが浮かぶ。
 その表情は、今すぐアンバーに変身しちゃってもおかしくない状態だ。

「あらあら〜? カウジーさんってどなたですか?
もし宜しかったら、私にも教えて下さいませんか?」

 テーブル越しに楽しそうな口調で、穏やかに追い詰める琥珀。
 いや、割烹着を脱いだ悪魔。

 サーリアがその追究に赤面すると、琥珀は完全に確信を持った。

「にゃにゃっ!? えっと、えっと……今はちょっといませんけど、
フォンティーユで演奏してた楽士さんで、お店のお得意様で……えっと、えっと……」

「ふふっ♪ じゃあ、夜にでも聞かせて頂きましょうかね〜。
夜は長いですから、洗いざらいお話しして下さいね〜」

 どうやら、琥珀は一旦退くらしい。
 だがしかし、ちょっとすねたサーリアは、口を尖らせながら言い返した。

「にゃあ〜……だったら、琥珀お姉さんも向こうでのお話を聞かせて下さいですよ。
大きなお屋敷のご主人様と使用人さんの恋愛は、いろんなお話でもあるですよっ!」

「……え!?」


 
ぽひゅんっ♪


 ――不意のカウンター。

 言ってることは過分に偏見に満ちているが(きっとフィアの入れ知恵だろう)、
不意打ちこそが琥珀の最大の弱点だった。

 耳まで真っ赤になって、頭から湯気が出そうになった状態で、彼女の口から言葉がほとばしる。

「ああああのですね、私と志貴さんはまだまだそのような関係ではない訳でして、
何と言いますかライバルが多すぎまして恋のバ○ルロ○イヤルと言いますか
好きな方ほどちょっかいだしたりからかっちゃったり悪戯したくなっちゃうとか、
やっぱり手料理を食べて頂いたり看病をさせて頂いたり
色々とお世話をさせて頂けるだけでも幸せと言いますか、
でもやっぱり私としてはこのリボンとかで昔色々とあった訳でして
志貴さんが私のことを見ていて下さればとても嬉しく思えるので……」

「はにゃ? ちょっとびっくりですね。
てっきりサーリアは、琥珀お姉さんと当主さんのお話だと思ったですけど……、
お兄さんだったですかぁ☆」

 余程効いたのか、頬に両手を当てて少しだけ俯き加減に口をぱくつかせる琥珀。
 その話を受けて、これまたとんでもないことを口走るサーリア。

 当主が秋葉(女性)ということを知らないから、その勘違いも仕方ないだろう。

 だがしかし正気を取り戻した琥珀は、
お医者さんが厳しく言いつけるような感じで、ビシっと指を立てた。

「そんな……秋葉様と私が○○○で○○○○であーんなことやこぉーんなことをするお話なんて、
作者さんが書ける訳ないじゃないですかっ!! 万一そんなことがあろうものなら、
私がこの手で空気を注射しちゃいます!!」(注:自分じゃ絶対に書けません)

(じ〜〜…)

 すさましい話の応酬のさなか、二人へ無言の視線を送るレン。

 口元にはフォークと生クリーム。
 どうやらずっとイチゴショートを食べていたらしい。

(……くいくい)

 サーリアの服の袖を引っ張るレン。

「レンちゃん? どうかしたですか?」

(じ〜……)

 サーリアの問い掛けに、視線で答える。
 そして、あることに気付いたサーリアは、ちょっとだけ首を傾げた。

「あ……もしかしてレンちゃん。喋れない、ですか?」

(……こくこく)

「そうだったですか……ラスティちゃんと一緒なんですね」

 またまた飛び出るこちら側の世界の名詞。
 だが、琥珀はここでは先程のように飛び付かなかった。

 きっと、名前からして女性だと判断したためだろう。

「サーリアさん。一段落したら、こちらの世界について色々教えて下さいね?」

 彼女はお盆を手にして、ティーカップとケーキのお皿を片付け始めた。
 いつの間にか、彼女のお手製ケーキはレンの胃袋の中に消え失せていたのである。

「私は洗い物をしてますから、レンちゃんはサーリアさんのお手伝いをしてて下さいね。
すぐにこちらも終わりますから」

「分かったですよ〜。じゃあ、レンちゃん、サーリアと一緒に準備するですよ」

 サーリアに手を引かれて、レンは歩いていく。

「何だか似ている気がするんですよね……気のせいでしょうか…」

 その二人の後ろ姿を見送って、琥珀は意味深な呟きをもらした。

 もしも、サーリアが、三毛猫柄の猫耳でも装着していようものなら、
即座に琥珀のオモチャとなっていただろう。








「まずは、材料になる薬草やハーブを細かくきざむですよ。
それからお鍋の中に全部入れて、どろどろになるまで煮込むです。そして……」

 教える側ではあるのに、先生というよりは保母さんに近い口調のサーリア。
 カウジーにも何回か説明していたためか、あまり緊張の色はない。

 そして、見上げる形でじーっと見つめるレンと、熱心にペンを走らせる琥珀。
 その時の彼女は、試験前の女学生を思わせるような、真剣そのものの表情だった。

「……そして、最後に薬瓶にそれぞれ移して終わりですぅ ☆どこか分からない所はあったですか?」

(ふるふる……)

 説明を終えたサーリアの問い掛けに、首を横に振るレン。

 そして、琥珀は、「む〜」といった感じで自分が書いたノートを見ると、
さらさらといくつか書き加えて、あはっ♪と笑った。

「ね、ね、サーリアさん。今、説明された作業手順を私なりにまとめてみたんですけど、
こうやっても問題ないですか?」

 じゃんっ♪と擬音語をつけて、丁寧に書き込まれたノートがサーリアに差し出される。
 それを興味深く読んだサーリアは……、

「こ、これはっ!?」

 かなり専門分野の話であったにも関わらず、驚きの声を上げた。

「作業標準案……つまり作業順序と、
その中で安全・能率・品質に関わる注意事項をまとめたものなんですよ。
元々は工場などの生産業で用いられるものなんですが……、
前に古本屋で立ち読みしてて正解でしたね♪」

「そっちじゃないですっ! 確かこれはこれで凄いですけど……何でこれを知ってるですか!?」

 ビシっとサーリアが指差す行を見つめる琥珀とレン。
 そこには、端正な字でこう書いてあった。

[注釈その5:図鑑を見てお薬を作る際は、絶対にページを間違えないようにしましょう。
        図鑑がややこしい構成になっている場合は、別紙に書き写して作業をしましょう]


 ――そう。

 それはサーリアが図鑑のページを間違えて、
ハラ薬を作ったはずがホレ薬を作ってしまった事件の原因に他ならない。

 もちろん同意の上とは言え、実験台になったカウジーがとんでもない大暴走を引き起こし、
駆け付けたフィアの手でノックアウトされたのは当事者の記憶に新しい。

 ただ問題は、どうしてそれを琥珀がこうも適切に指摘できたのかだが……、

「あはー♪ 残念ですけど、ニュースソースは非公開にさせて頂きますねー。
情報戦は結構好きなので、いくら情報公開制度が発達しても、
私のネットワークは一切非公開ですよ〜♪」

 どうやら謎は謎のまま、闇に葬られる運命だったらしい。
 きっとそのネットワークの中には、薬学以外にも怪談話や兵法だってあるんだろう。
 相当にジャンルも広いに違いないのだが、やはり秘密だそうだ。

 その中には、謎ジャムの製造方もあるともっぱらの噂だが、依然として裏は取れない。

「それでも納得いかないですぅ〜〜!!」

「まあまあ、細かいことはどーだっていいじゃないですか♪
それよりも、お仕事しませんか? ほらレンちゃんも待ってることですし」

(じ〜……)

 琥珀に言われて我に帰ったサーリアは、あたふたしながら準備を始めた。
 琥珀が著した作業標準案に反して、安全そうには見えない。

「そうだったですっ! じゃあ、早速、お仕事を始めるですよ〜!」

 そんな彼女の元気さを見ながら、
琥珀はそのトレードマークの白いリボンをきゅうっと強く締めた。

「あはっ♪ 私も頑張りますからね〜〜」

(……こくこく)

 そして琥珀は、例のフードつきマントを手に取るのだった。

 ぱたぱたぱた……

 手際良くサーリアはエプロンを身に纏うと、
自分の部屋へ向かって何やらごそごそしていた。

 戻って来た彼女の手には、小さめのエプロンが……、

「レンちゃんには、サーリアが小さい時に使ってたのを貸してあげるですよ。
サイズが合ってるといいですけど……」

「あはっ♪ レンちゃんがエプロン姿になっちゃったら、
志貴さん&全国数千万人のファンの皆さんが卒倒しちゃうかもしれませんね〜♪」

 楽しそうにはっちゃけたことを口走るのは、琥珀ではない。
 彼女は蜂起少女まじかるアンバーなのだが、それでもいつもとはまた違う。

「あ、琥珀お姉さんはもう準備オッケーですね」

「月並みですが、そろそろ覚えて下さいな。
この場合の私は琥珀であって琥珀ではない、蜂起少女まじかるアンバーなんですよ〜。
あ、それでも、今はチョバムアーマー……じゃなくて割烹着着用中ですから……、
そうですね、フルアーマーまじかるアンバーとか、
まじかるアンバーPlusということにしておきましょうか。暫定的に」

「にゃぁ……琥珀お姉さんじゃないなら、どう呼べばいいですか?」

 レンにエプロンを着せながら、サーリアは困り顔で聞き返す。
 その表情の変化にレンは首を傾げた。

 そして、アンバーは少し考え込んで……、

「個人的には、敬称はお姉さんだと嬉しいですね〜。
ほら、慕われてるような響きといいますか、そんな感じがするじゃないですか。
でも、姐さんとは呼ばないで下さいね。私のキャラじゃないですし」

 と、よい子は分からないようなネタを交えて楽しそうに笑った。

 しかし、アンバーを「姐さん」と呼ぶのは…どうだろう。
 身のためにも、勇気があってもなくても止めた方がいいか。

「んしょっ、と。レンちゃん、これで大丈夫ですよ。
こは……じゃなくて、アンバーお姉さん。一緒に頑張るですよ☆」

 どうやら、サーリアの中では[アンバーお姉さん]として定着したらしい。
 志貴から見てもあくまで[琥珀さん(似)]なので、それほど変化がないのは当然か。

「あはっ♪ そうですね〜、じゃあ、私は薬草とかをみじん切りにする担当ですね。
料理に似てる感じがしますし」

「じゃあ、アンバーお姉さん、お願いしますです☆
それじゃあ、レンちゃんは……どれがいいですかぁ?」

 多分、素人であるレンに、サーリアは先程の作業標準案を見せた。
 これはこれで、彼女なりの配慮なのだろう。

 しばらく、それを眺めていたレンだったが、何かに気付いたように首を傾げた。

「はにゃ? レンちゃん、どうかしたですか? もしかして、変な所でもあったですか……?」

「え〜? 確かに即興で書いた物ですけど、致命的なミスはしてないはずですよ。どれどれ……」

 レンの肩に手を置いて、後ろからアンバーが自分のノートを覗き込む。
 その際に、レンがビクっと震えた理由をサーリアは知らない。

 彼女から見れば、仲のよい二人なのだ。

「……あっ」(汗)

「アンバーお姉さん、やっぱり変な所あったですか?」

 ノートを持ち替えて、内容を再確認しようとするサーリア。
 だが……、


 
シュッ!

 
ひょいっ♪


 亜音速の動きで、その手からアンバーがノートを取り上げる。
 そして、彼女はテーブルにすたすたと戻ると、シャカシャカと音を立てて消しゴムを動かした。

 フルアーマーでも機動力の低下は見られないようだ。
 さすがというべきか。

「……ふう♪ まさか昔、書いてたZZガン○ムがまだ残ってたなんて、
さすがのまじかるアンバーもビックリでしたね〜」

「にゃにゃ? アンバーお姉さん。今、何したですか?」

 彼女のあまりの高速動作は、サーリアの動体視力を越えていたらしい。
 レンと一緒に首を傾げている。

「まあまあ二人とも、こーんなちっちゃな問題なんて、
ウィングゼロのツインバスターライフルの威力の前ではとぉーってもささいなことなんです!!
だから気にしない気にしない♪ あ、レンちゃんは、瓶への詰め替え作業をお願いしますね」

 さあさあさあっ! といった感じで、強引に収拾をつけるアンバー。
 この強引さは彼女ならではだろう。

 いや、その強引さは演技だったのか。

 アンバーは急に表情を引き締めると、その視線を自分のノートと目の前の大釜に向けた。
 その目はかなりマジモードが入ってる。

「……この容量でしたら、一回の作業で三十瓶くらいは作れそうですね。
でも、水分の蒸発を考えると……、
サーリアさん、今日作るお薬は、どのくらいの量が必要なんですか?」

「え!? えっとぉ……教会と行商の人達から頼まれてた風邪薬ですから……、
全部で八十瓶近くあったはずですよ」

 突然、真剣になったアンバーのペースに、サーリアは一瞬戸惑ったものの、
すぐに一枚のリストを引っ張り出すと目を走らせてアンバーに伝えた。

 そして、真祖の姫をも策略に引き込むアンバーのはっちゃけ思考回路が唸り、
焼き切れる寸前のペースを一重で制御しながらスケジュールを組み立てていく。

「えーと……まず、三回作って、余ったら在庫としてストックするとして……、
今日と明日一日で終わる作業ですね。早速始めましょうか」

「は、はいですっ!」

(こくこく……)

 アンバーの指揮で二人が動き出す。


 
さくさくさくさく……


 びっくりするくらい小さな果物ナイフが、まな板の上に、
山積みになった薬草を細かくみじん切りにしていくのは、どう見ても不思議な光景である。

「サーリアさん、そっちはどうですか?」

「今、お水を張ったですから、これから点火ですっ☆ マグナスっ!」

 杖から放たれた魔力が属性を帯び、炎となって釜を熱していく。
 それを見ながら、アンバーはお手製の高振動果物ナイフを動かし続ける。

「今のが魔法なんですね……こちらもすぐに終わりますから、ちょっと待ってて下さいね。
レンちゃんは、今のうちにラベル貼ってて下さいな。後から混ざっちゃうと大変ですし」

(こくこく)

 大量の薬瓶に囲まれたレンは、
シール用紙とハサミと黒のマジックペン(多分100%油性、もちろん落書き禁止)で、
ラベルを作ってはペタペタ貼っていた。

 詰め替え作業は薬ができてからなので、これもまあ下準備だろう。

「さてさて、こっちは終わりましたよ♪」

「終わったですかぁ? じゃあ、アンバーお姉さん、どばっと入れて下さいですよ」

「あはっ♪ それじゃあ遠慮しませんよ〜」


 
どばどばどばっ!


 煮立つ大釜の中に緑の色彩が放り込まれ、掻き回されて拡散していく。

 そして、ぐるぐると混ざり合いながら加熱されるうちに、その色は濁った緑から透き通った青へ。
 そして鮮やかな赤へと変わり、また元の緑へと、何度も変化していった。

「あ、綺麗ですね〜」

「加熱するとこんな風に色が変わるですよ。目安としては、色が五周したら火を止めるです」

 塩色反応みたいなものですかねー、と呟きながら覗き込むアンバーは、
 ふと思い付いた疑問を口にした。

「あら? でも、これって魔力の炎ですよね。
燃える物もありませんし……どうやって消すんですか?」

 彼女の問いも当然だ。目に見えるような可燃物もなく、ただそこに存在するだけの炎。
 見掛けは同じだが、理屈は全く違う。

 酸化・燃焼反応で発生する常識的な炎であれば、
彼女が疑問を滑り込ませる余地はなかっただろう。

 だが、これはこちらの魔法世界の日常的な現象。
 強い想いが力を持ち、物理法則に干渉していく。

 下手をしたら、何かトンデモナイ事態が巻き起こってしまうのではないか。
 そう考えてしまうのは、策士・まじかるアンバーならではだろう。

「サーリアが使う程度の魔法だったら、普通にお水をかけても消えるです。
それに、魔力を絞れば火加減も調節できるですし……、
いざとなったら、サーリアが作ったアレがあるですっ♪」

 得意げにサーリアが説明し、指差した先には……、

「タル……ですか?」

 部屋の隅に置かれた木製のタルが。
 レバーが付いているのだろうが、それでもタルには違いない。

「はっ……まさか、サーリアさん。無類のタル好きだったんですか!?」

 それは二刀流の優柔不断な某紋章剣士ですよ、アンバー。
 もちろん、即座にサーリアが否定したのは言うまでもない。

「ちーがーうーでーすっ! アレは中に燃えない空気が詰まってるですよ。
そして、脇に付いてるレバーを動かして、火元へ一斉噴射してバッチリ消火するです☆」

「ああ、つまりハンドメイドの窒息性消火機ですね。
でも、燃えない空気って、何を使ってるんですか?」

 燃焼反応は、可燃物と酸素、そして、熱があって発生する。
 逆に言えば、その中の一つがなくなれば、結果として炎は消える。

 その方法の中で、不燃性気体を放射して酸素との化合を妨害する方法が窒息消火と呼ばれる。
 ただ、問題は中身に何を使ったかだが……、

「燃えない空気は燃えない空気ですけど……?」

 サーリアの知識では、それが何であるかを言い表すことはできなかった。
 こちらの世界では、化学があまり進んでいないのだろう。

 アンバーは少し考え込んだ末に……、

「サーリアさん。アレ、絶対に人の顔に向けて使っちゃいけませんからね。
多分二酸化炭素だとは思いますが…毒性はなくても、呼吸に支障を起こしたり、
昏倒したり、使う物によっては目、鼻、喉を痛めたりしちゃうことだってあるんですから。
商品化する時はしっかり注意書きを添えて下さいね」

 ……と、しっかり的確なアドバイスを。

 アンバーがこちらに来たおかげで、ウィネス魔法店で起こる騒動が極端に減ったというのは、
後にご近所の方々から聞かれる意見だが、日頃のこういったアドバイスが効いているのだろう。

 それはさておき――

「はいです。ちゃんと気をつけるですよ。あ、もう少しで完成ですね」

 ぐるぐると掻き回しながら、サーリアは答える。色の変化はそろそろ四周目。

「じゃあ、私はレンちゃんのお手伝いをしてましょうかね〜」

 レンの隣に座り込み、どこからともなく色々な道具を取り出すアンバー。
 魔法のような、手品のような、不思議な感じだ。

「にゃ〜にゃ〜にゃにゃ〜♪」

 上機嫌で鼻歌を歌うサーリア。そんな彼女を見ながら、
アンバーが「やっぱり猫さんみたいですねー」とか思っていた矢先、声が上がった。

「にゃぁ〜、完成ですぅ♪」

 火を止めて笑うサーリア。
 薬の色は、今や透き通ったオレンジ色になっていた。

「まだ完成じゃありませんよ。瓶に詰め替えて栓をして、後片付けまで終わったら完成ですよ。
ですから、もう一息、頑張りましょうね♪ 終わったら晩ご飯ですから」

「はいです〜☆」

(……こくこく)

 アンバーの料理は、それこそ彼女達を魅了するのに、充分過ぎるものだったのだろう。
 その後の作業能率が上昇したのが、その証拠と言えるだろう。








 そして――
 夜――


「……はあ、それは何と言うか、勝負ありって感じですねー」

「……にゃ、にゃぁぁぁ」

 サーリアの部屋では、中断された会話が行われていた。
 ちなみに、レンは既に琥珀が用意した毛布に包まって寝ている。

 最初に琥珀が(質問をさせる間もないくらい強引、かつテンポよく)話し、
そこから先はサーリアの防戦一方だった。

 時には毒針で急所を突く程の、ピンポイント攻撃を……、
 また時には、真綿で首を絞めるかのごとく、じわりじわりと攻めていく。

 まあ、志貴でさえそんな琥珀の攻勢には、
手を焼いていたのだから、サーリアは完全に茹でダコになっていた。

「やっぱり、どの世界でも、そーゆー極悪人はいらっしゃるんですねー。
はぁ……人当たりの良さとか、考えなしの恥ずかしいセリフとか、約束忘れられたりとか、
突然、倒れたりとか……志貴さんに似てらっしゃいますね〜……、
一体どれだけの女性を泣かせて来たものか……、
まぁ、身を固めてしまわれただけ、志貴さんよりはマシでしょうが……」

「そうよね〜、本当に、カウジーったら、何人の女の子を泣かせて来たのかしら。
でも、やっぱり、その人の方が酷いかな。カウジーはラスティとくっついちゃったし」

 ――あれ? と二人は首を傾げた。
 この部屋で起きているのは二人だけのはず。加えて、レンは喋れない。

 だとすれば、今の声は誰だったというのだろうか?
 二人は同時に同じ結論に思い当たった。

「ぎにゃぁぁぁっ!お化けですぅぅぅっ!!
クラビスさんに泣かされた挙句に
想いを断ち切れないまま自らの命を絶った女の子の亡霊ですーーっ!!」

「あはっ♪ ソロモンの亡霊ならぬ、フォンティーユの亡霊ですねー♪
これで秋葉様達にお土産話が出来ました☆」

 そして、対称的な声を上げる二人。

「あら? サーリアさんはこの手のお話は嫌いでしたか? 残念ですねー。
私、もっと生々しくて、身の毛もよだつようなすっごい怪談話のストックがあるんですけどねー♪」

「お、お話を聞くのと実際に遭遇するのは違うですーっ!」

 頭まで布団をかぶり、びくびくしながらサーリアは就寝モードに入ってしまった。

 通常は壁に立て掛けられている杖をしっかり握っているので、
 下手なことをすれば即座にジオスソードが飛んで来るだろう。

「じゃあ、おやすみなさいですね、サーリアさん。
また明日……と言いますか、これから宜しくお願いしますね☆」

 そう言うと、琥珀は床に敷いた布団に横になった。

 レンがくるまってる毛布と同様に琥珀が持参した物らしいが、
いつの間にとか、どうやってとか、その辺りを突っ込み出すと、確実に注射器が飛ぶだろう。

 この辺り、「琥珀さんドラネコ説」を強調しているのは間違いない。








 こうして……、
 長かったフォンティーユでの一日目は終わりを告げた。
















「亡霊じゃないのに……天使なのに……うぅ……」
















 どうやら、フォンティーユを見守る天使様にとっては、
あまり愉快な夜ではなかったようだったが……、








<つづく>


あとがき

 琥珀さんと言えば、お薬、注射、投薬……、

 もちろん、それだけではありませんが(後輩に怒られそうですが)、
今回はそれ以外の部分が結構前に出てきています。

 料理とか、計画性とか、不意打ちに弱いとか、楽しそうにからかって気分爽快♪って所とか……、

 そういった所も含めて琥珀さん好きなんですが、どうも薬のネタに走ってしまうのは、
やはり蜂起少女のイメージが固まってしまってるだけなのでしょうか?

 まあ、それはさておき、最近、ようやくメルティブラットを始めました。

「うわ、アルクの声って明るい」とか、「秋葉、強えぇ」とか独り言大爆発でしたが……、


「はい、お掃除完了です♪」(←琥珀さん勝利セリフ)


 ……駄目です、反則です。
 まさか声まで完璧にツボに直撃してしまうとは……、

 それに、第二幕で薙刀使わせてしまったのが悔やまれてなりません。

 後輩が「ほうきに仕込み刀ですよ、やっぱ」と言っていたのはこのことだったんですね。

 まあでも、格ゲー苦手な自分でも(キーボードで)何とかなるので、
最近まで敬遠してたことが一番悔やまれる程いい作品です。

 という訳で、次回からは必要に応じて(ネタ不足はいつもですが)そっちのネタも使っていきます♪

 第四幕をお待ち下さい。


<コメント>

サフィ 「――というわけなのよ、カウジー」(T_T)
カウジー 「お前なぁ……それは、怖がられて当たり前だろう?
       何も無いところから声が聞こえたら、誰だって怖いぞ」(−o−)
ルーシア 「まったくだな……」ヽ( ´ー`)ノ
サフィ 「うわーん、ルーシアにまで言われた〜!」(T△T)
ラスティ 「それにしても、琥珀さん、ですか……どんな人なんでしようね?」(^_^;
サフィ 「会ってみる? だったら、コレを渡しておくわね」(^_^)
ラスティ 「……うさぴょんバトン?」(・_・?
カウジー 「変身には変身で対抗、ってか?
       いくらなんでも、そんな物、必要無いだろう?」(−−;
ラスティ 「……分かりました。一応、お借りておきます」(−o−)
カウジー 「ラスティ……?」(・_・?
ラスティ 「もしかしたら、志貴さんって人にも会うことになるかもしれませんし……、
      その時は、これで『天罰☆』下しておこうかと……」(−−メ
ルーシア 「フッ……ニンゲンよ。これで、滅多な事は出来なくなったな」( ̄ー ̄)
カウジー 「な、何故に俺まで……?」(T_T)
ラスティ 「いいえ、カウジーさんには、すぐに使います……今夜にでも☆」(*・・*)
サフィ 「あらら、カウジー、ご愁傷様……って、今夜!?」Σ( ̄□ ̄)
ルーシア 「お前達……一体、何に使うつもりだ?」(−−;
ラスティ 「…………」(*・・*)
カウジー 「…………」(*・・*)

 一方、別の世界では――

志貴 「――ぶぇっくしっ!!」(><)
誠 「どうしたんです? 誰かに噂でもされてるんですか?」(・_・?
志貴 「さ、さあな……、
    ところで、どうする? 琥珀さんを召喚するのか?」(−−?
誠 「それを決めるのは志貴さんだろ?」(−o−)
志貴 「……レンだけ呼ぶってのはダメか?」(^_^?
誠 「そういう人の道に反する事は……、
   それに、レンだけじゃなくて、他のも一緒に呼んじゃいそうな予感が……」(−−;
志貴 「ううっ……一体、どうすれば良いんだ〜?」(T△T)
??? 「どうやら、お困りのようですね、志貴……」(−o−)
志貴 「えっ? その声は、まさか……っ!?」Σ(@□@)
誠 「ってゆーか、コメントで引くのかよっ!!」Σ( ̄□ ̄)