「巫浄琥珀。もしくは蜂起少女まじかるアンバー。それから、お料理探偵くっきんぐアンバー。
どうぞお好きな名前で呼んじゃって下さいね♪」
「じゃあ琥珀お姉さんって呼ぶですよ。
サーリア=ウィネスです。宜しくお願いしますです〜」
月姫 & AS クロスオーバーSS
戦力二乗の法則
〜 第二幕 「テイク・オフ」 〜
翌朝、というか明朝四時――
ウィネス魔法店の二階、
すなわちサーリアの部屋では、奇妙な自己紹介が行われていた。
おずおずとサーリアが頭を下げる。
「あ、えっと、この度は、こんな形で、
突然、異世界から呼び出してしまってごめんなさいです」
「私は別に構いませんよ。こんな体験そうそうできることじゃないですし、それに……」
謝るサーリアを制して琥珀は言葉を切ると、胸に手を当てて会心の笑みを浮かべた。
「私、プラーナorオーラ力には自信ありますからっ!
例えディンフォースだろうが、ボチューンだろうが、即戦力としてお役に立ってみせましょう!
もちろん、デュラクシールとかライオネックに乗せて頂ければ、
主戦力として最前線で踏ん張ってみせますっ!」
表情は朗らかだが、口調は真剣そのものだ。だが、そんな彼女の思い込みは……
「はにゃ? それって……何ですかぁ?」
「え……?」
サーリアの言葉によって、吹き飛ばされつつあった。
琥珀はやや驚いたように尋ねる。
「あの、もしかしてここって、バイストンウェルでもラ・ギアスでもなくて……、
オーラバトラーとか魔装機とかもないんですか?」
「む〜……サーリアには解らない言葉ばっかりです……」
――何でも粉砕する魔法のハンマーで、彼女の認識が粉砕されていく。
「あ、でも……」
だがしかし、転んでもタダでは起きない彼女である。
何かに思い当たると、すぐにテーブルに身を乗り出した。
「この世界は、一応、ファンタジーな感じで、魔法とか魔術とかありますよね、ね?」
「は、はいっ!サーリアも魔法使いですっ!」
「じゃあ、私……」
あまりにパワフルな彼女のペースに押され、慌てて答えるサーリア。
その両手は、既に琥珀によって握りしめられている。
サーリアが呼び出した理由を告げる前に、琥珀はこの世界での目的を見つけていた。
「この世界にいる間、サーリアさんの弟子になって、立派な魔法使いになりますっ♪」
「にゃ……にゃぁぁぁっ!?」
突然の展開に驚きの声を上げるサーリア。
助けを求めて呼んだ相手がいきなりの弟子入り宣言とあっては、面食らってしまうのも仕方がない。
だが、厳密には彼女の驚きの理由は別な所にあった。
「こっ、琥珀お姉さんっ!?
サーリアのお弟子さんですよ? 本気で言ってるですか!?」
「もちろんですよー♪ サーリアさんなら丁寧に教えてくれそうですし、
まだ私こちらの世界でお知り合い多くないですし……、
とりあえず落ち着いて下さいね。あまり[投薬☆]しちゃうのも副作用とかあるので問題ですし。
深呼吸しましょう! はい吸って〜……」
すぅぅぅぅ……
「はいて〜」
はぁぁぁぁ……
「落ち着きましたか?」
「は、はいです……」
琥珀が促した深呼吸で、サーリアはどうにか落ち着いたらしい。
「さ、サーリアはまだまだお弟子さんを取れるような魔法使いじゃないですよぉ。
お母さんにはまだまだ遠いです。だから、いろんな人にお手伝いしてもらってるですぅ……」
「お手伝い、ですか?」
「はいですぅ……昨日もフィアちゃんにお手伝いしてもらってたですし、
琥珀お姉さんにも、お手伝いしてもらいたくて呼んだんですよ」
琥珀に告げられた、この世界に呼ばれた理由。
それは、当初の彼女の予想とは随分掛け離れてはいたけど……、
「軽く見せて頂きましたけど……ここって、お薬屋さんですよね?」
――実際は、彼女のホームグラウンドだった訳で。
「似てるですけどちょっと違うです。
お薬も扱うですけど、魔法のアイテムも扱う魔法店ですよ」
――実は、ちょっとアウェーだったかもしれないけど。
「じゃあ……」
その笑みは、蜂起少女としてのものだったのか。
それとも、琥珀としてのものだったのか……、
「一緒に頑張りましょうね、サーリアさん。
一人では越えられない壁だって、二人で助け合えば乗り越えたり横から迂回できたり……、
そうそう、魔法のハンマーで粉砕しちゃったりも出来ますからっ!
このお姉さんと一緒に頑張っちゃいましょう!」
「はっ……はいです!サーリア頑張るですよ!」
裏がある笑みか、悪戯が成功した笑みかは別にして、
向日葵のような二人の笑顔が咲く中で、また新しい朝が明けようとしていた。
月は西の空に沈み、東の空からは朝焼けを伴った太陽が昇りつつあった。
そして、フォンティーユに存在する沢山の窓へと光が差し込み、人々へ朝を告げる……、
「にゃぁぁぁっ!! そうだったです!
フィアちゃんが全然起きてくれないのを忘れてたですーっ!」
パタパタと慌ただしく階段を駆け上がっていくサーリア。
そんな彼女を見送った琥珀は……、
「……あはっ♪」
また意味ありげな笑みを浮かべたのだった。
もちろん、彼女のその笑顔の意味を理解できる者は、その場に誰もいなかった。
そもそも、サーリアが走り去ってしまったのだから、他には誰もいなかったのだが。
ジャァァァァ……
カチャカチャカチャ…
台所に立つ割烹着姿――
それは、知っている人であれば「割烹着の悪魔」とかのフレーズが瞬時に浮かび、
カプセル薬や注射器、果ては複数の薬瓶が爆発を起こす様を連想してしまうだろう。
ただ、そのイメージを浮かべる者はこの世界には(今の所は)いない。
その代わり……、
「琥珀お姉さぁ〜ん! 準備してていいですかぁ〜?」
「構いませんよー♪ もうすぐ、こちらも終わりますからね〜」
「はいですぅ〜!」
彼女に助けを求めた人がいる。
これから頑張らなければならないとは分かっていても……、
「ふふっ。何だか、もう一人妹ができちゃったみたいですね〜」
自然と笑顔になってしまう彼女がそこにいた。
「と、言う訳で。今日の午前中は、森まで薬草その他もろもろの材料収集に行くですよぉ〜♪」
琥珀が洗い物を済ませて店内に戻ってくると、
カウンターの上には大きな大きなカゴがあった。
明らかに人が背負えるタイプ&サイズではない。
「森……ですか?」
「はいですっ! あ、琥珀お姉さんはまだ知らなかったですね。
フォンティーユの街から森に行くには、長い階段を降りなきゃいけないです。
だからちょっと遠くなるですよ」
琥珀がこちらに召喚されてから、まだ一歩も外に出ていないと思っているサーリアだったが、
彼女の言葉を聞いた琥珀はポンと手を叩いた。
「あはっ♪ やっぱりそうだったんですね〜。じゃあ……」
どこからともなく、彼女の手に例の竹ホウキが現れた。
同じように現れた手術用の糸で、彼女は先程の大きなカゴをそれにぶら下げた。
「はにゃ? 琥珀お姉さん、何してるですか?」
「えへへー。細かいことは気にしないで、まずはこれを着けて下さい」
首を傾げるサーリアに差し出されたのは、某電○○年でおなじみのアイマスク。
だが、こちらの世界にはそのような物がなかったらしい。
「む〜……小さいマスクですか?」
「あ、あはは……えっと、これはこうして……えいっ♪」
「ぎにゃぁ〜っ! なっ、何も見えないですーっ!!」
瞬時にサーリアの背後に回った琥珀は、手早く彼女にアイマスクを装着させた。
いきなり暗転した視界に、サーリアが悲鳴を上げる。
だが、琥珀は全く気にする様子もなく、あははと笑いながらその手を取った。
「ほーら、恐くないですよ〜。こっちこっち、ゆっくり歩いて来て下さいね〜」
「は、はいですぅ…」
琥珀に手を引かれて、サーリア涙声になりながらホウキに乗せられる。
それを確認した琥珀は、手早く例のフードつきマントをかぶった。
――そう、この瞬間から彼女は琥珀ではなくなった。
ウィネス魔法店の経営を、
さまざまな面から支えるお薬の魔女・蜂起少女まじかるアンバーなのだ!
「サーリアさん、しっかりつかまってて下さいねー。行っきますよ〜♪」
「にゃ……? にゃ、にゃぁぁぁぁっっ!!!」
いきなりで訳の分からない状態から、体験したことのない、
いきなりの急加速を受けて、サーリアがより一層の悲鳴を上げた。
部屋の中には、ドップラー効果で低くなっていく彼女の悲鳴が外から響いて来ていて……、
カランカラン……♪
アンバーが飛び去った際の風圧で、若干派手にカウベルが響く。
そしてドアの掛け札がくるくると回って……、
[あはっ♪お薬が欲しいんですか? 待ってて下さいね。
すぐに濃いのをご用意しますからっ! まじかるアンバーとの約束☆ですよ〜]
いつの間にかすり替えられていた[休業中]のプレートが、店先に出ていた。
「にゃっ、にゃっ、にゃぁぁぁっ!!
琥珀お姉さんっ、一体何が起こってるですかぁぁっ!?」
「あはー♪ ダメですよサーリアさん。
今の私は琥珀であって琥珀ではない者、蜂起少女まじかるアンバーなのですよ〜。
あ、それと、加速しますから、あんまり喋ってると舌噛んじゃいますよ?」
「ぎにゃぁぁぁ〜っ!」
目隠し空中ジェットコースターとも言えるだろうか。
しかも安全ベルトなしの垂直降下ともなれば、絶叫マシーンに慣れた人でも絶対にヤバイだろう。
アンバーとサーリアを乗せたホウキは、
採集用のカゴをぶら下げながら、フォンティーユへ続く断崖の階段のすぐ側を、
重力加速度を三倍にしたくらいの加速で、きりもみ回転しながら落ちていく。
そうしている間にも、眼下の森はどんどん近づいてくる。
あとわずかという所で、アンバーは一気に機首(と言うか、ホウキの柄の先)を持ち上げた!
「上がれぇ〜〜♪」
ぐんぐんとその方向が垂直から水平になり、また垂直になった。
方向修正して、地面すれすれをかすめたまではいいが、そのまま上昇していたのである。
「あ、上がってるですかぁぁ〜っ!?」
「あはっ♪ すぐに水平飛行に移りますから平気ですよー」
彼女の言う通り、数秒後には軌道修正して、木々のすぐ上辺りを飛行していた。
そして適当な河原の空き地を見つけた彼女は、そこにゆったりと着地した。
フードを脱いでアンバーから琥珀に戻ろうとした彼女は、
不意に背中にしなだれかかる重さに気付いた。
「あらら……やっぱり、サーリアさんには刺激が強かったですかねー」
あまりの曲芸飛行に耐え切れなかったのだろう。
サーリアは、彼女のフードつきマントに顔を埋めて失神していた。
優しく笑った彼女は、サーリアをどうにか抱き上げると、
近くの木陰にその体を寝かせ、今度こそフードつきマントを脱いで琥珀に戻った。
ただ、その傍らに、彼女愛用の救急箱がなぜあったのかは……、
「あれ? 今日は何だか面白い人が来てるんだね〜」
回廊から水鏡を用いて、フォンティーユを見守る天使様も預かり知らぬことだった。
ぷしっ!
なでなでなで……
「あはー♪ やっぱりサーリアさん、可愛いですね〜。髪もさらさらですし……、
瓶詰にして持って帰っちゃいたいくらいです☆」
その琥珀の独り言は、色々な意味で妖しかった。
きっと、どこかの誰かが、
「そんなセリフ、修正してやるっ!」とか言い出してしまってもおかしくはないだろう。
木陰に移動したはいいが、サーリアが何の薬草を必要にしていたのか分からない彼女は、
サーリアに膝枕をしながら目覚めるのを待っていた。
まあ、全く何もしなかったという訳ではなかったが、何をしたのかは闇の中だ。
「んんっ……」
「あ、サーリアさん。大丈夫ですか?」
「にゃぁぁ……琥珀お姉さん……」
「はい、ここにいますよ」
なでなでなで……
「もしかして、酔っちゃいましたか?」
「サーリア、お酒が飲める年じゃないですよぉ……まだ十六歳ですぅ」
かなり通常とは掛け離れた返事をするサーリア。
具合が悪いのか、そもそも車酔いや船酔いを知らないだけなのか。
「あら、やっぱり年下だったんですか。私より一つか二つくらい下なんですねー」
「うぅ……気持ち悪いですぅ」
「あはっ♪ 酔い止めのお薬ありますけど、どうしますか?」
琥珀が取り出したのは、立派に市販のラベルが貼られた茶色の小瓶。
リ○Dやアリ○○ンV、グ○ンサ○や新○ロモ○ドなどの瓶より一回りほど小さいタイプだ。
もちろん開けられた形跡はない。てか、あったら恐い。
「いただきますですぅ……」
ごくごく……
「変な味がするですよぉ……」
「まあまあ、お薬なんてそういうものですよ。
飲みやすくて効き目があるお薬なんて、そうそうありませんしね〜。
いい所を挙げても○ポDが妥当でしょうかね。ユ○ケ○は効果バツグンですけど味は凄いですし」
まあ、その辺りは人それぞれ、自分の体に合った物を飲みましょう。(作者見解)
「サーリアさん。もしまだダメでしたら、私が代わりに集めましょうか?
自家栽培もしてましたから、これでもお薬になる草花に関しては自信あるんですよー♪」
サーリアの体調がすぐには戻らないのを感じた琥珀は軽く提案した。
だが、以外にもサーリアは激しく反応した。
「ダ、ダメですっ! サーリア、琥珀お姉さんに迷惑かけっぱなしです……頑張ってサーリアも……」
「それこそダメですっ!!」
びくっ!
いきなり声を上げたのは琥珀だった。
そのあまりの勢いに、サーリアが身を強張らせた。
「いいですかサーリアさん。休む時は休む、動く時は動く、投薬する時はしっかり投薬する。
人の体にはリズムというものがあるんです!
それを無視して三日連続徹夜で修羅場モード発動で原稿仕上げを敢行しちゃったら、
体を壊しちゃったりするのは火を見るより明らかです!
締切前の作家さんも今のサーリアさんも一緒です!
医者の不養生というものです! 苦しんでる人達を助けたいなら、まずは自分を救うんです!
アミ○サプ○です!ア○ノン○ャーですっ!
どうしようもない時は、ちゃんと周囲に助けを求めるのがピンチの上手な切り抜け方なんですよ?」
「にゃ、にゃぁぁ……」
あまりの琥珀の剣幕に押されっぱなしのサーリア。
しかも、言ってることはフィアと同じようなことなので、ここでもまた言い返せない。
琥珀の論理武装は完璧だったようだ。
「と言う訳で、私に任せて頂けませんか?
困った時はお互い様と言いますし、人類みな兄弟です。
バイストンウェルだろうとラ・ギアスだろうと、世界を隔てても一緒ですよー♪」
お軽く哲学(?)をぶちかました琥珀は、
それこそ「あはっ♪ チェックメイトですー」とでも言わんばかりの笑顔を見せた。
もちろん、サーリアが神の一手を放った彼女に勝てる訳もない。
「うぅ……ごめんなさいです。お願いしますですぅ……」
「いえいえ、お気になさらないで下さいね。それで、集める薬草ですけど……」
ざぁぁぁ………
さざ波に似た風の音が、森の中を優しく駆け抜けていく。
「にゃぁ……」
サーリアは木陰で横になりながら、木漏れ日に少しだけ目を細めた。
遠くから微かに聞こえる鼻歌は、きっと琥珀のものだろう。
スキップでもしながらるんたった♪って感じで、薬草を探している光景が容易に想像ができた。
「もっと、頑張らないといけないです……」
小さな声で、決意を口にするサーリア。
もちろん、琥珀に言われたことはちゃんと守っている。
だからこれは現在ではなく、未来への決意。
と、不意に木漏れ日を遮る「何か」が現れた。
「にゃにゃ……猫さんですかぁ?」
(ふるふる……)
サーリアには、逆光で黒い猫のようなシルエットが見えたらしい。
だが、よく見るとそれは違うことに気付いた。
空色のストレートヘアに、一輪の黒いリボンが咲く。
そして大きな、幼さを残すルビーの瞳が真っ直ぐに見つめている。
その体には闇夜を思わせる黒いローブを纏い、
さながら、見習いの魔術師とでも言った所だろうか?
「あ、ごめんなさいです。猫さんじゃなかったですね……」
(ふるふる…)
サーリアが謝ると、その少女は静かに首を振った。
おそらく、それに対する互いの意味は全く別だっただろう。
まぁ、元をただせば、ある意味では同類なのだろうが、その分類をしてしまうと圧倒的に格が違う。
多分、生きて来た年数も、行使する魔力も。
(じ〜〜〜……)
「あ、あのぉ……」
(じ〜〜〜……)
「えっとぉ……」
(じ〜〜〜……)
ぴとっ――
「ふにゅぅ……」
少女が額に手を当てると、サーリアの意識は簡単に薄れてしまった。
と、突然その眠りを妨げるような陽気な声が響いた。
「サーリアさぁ〜ん。大体、集めて来まし……あらレンちゃん!?
こちらにいらしてたんですか? しかも何気に人間モードですか?」
びくっ!
いきなり背後から聞こえた声に、その少女……レンは驚いて振り返った。
そこには……そう、彼女がいた。
手には浮かぶホウキ、そして頭からすっぽりとかぶったフードつきマント。
遠野の家の中庭とかどこかで見た覚えのある、ほうき少女、改め蜂起少女まじかるアンバー。
きっとサービス期間だったら、洗脳探偵みすてりあすジェイドももれなくついてくるだろう。
ギュワっっ!
アンバーは相当離れていたに違いないその距離を、
高機動モードを発動させることによって一瞬にして埋めて、レンを羽交い締めにした!
驚愕するべきは、大きなカゴに一杯の薬草を詰め込んだ状態でも、
全く機動力の低下が感じられないホウキの推進力だろうか。
「まあ細かいことはどーでもいいです!
あの時のサーリアさんの召喚には、志貴さんは巻き込まれてなかったはずですから、
こっちの世界ではレンちゃんの契約者はいませんよねー?
ですから、この際一時的にということで、
この蜂起少女まじかるアンバーと仮契約を結んじゃいませんか?」
言葉こそ丁寧で、選択肢はレンにありそうだったが、
実際アンバーは首筋に注射器(普通に針があるタイプ)を突き付けているのである。
選択を迫るどころではない。ほとんど強制だ。
もちろん、良い子も良い大人も真似しちゃいけません。
「使い魔さんに、感応者としての能力が使えるかどうかは分からないですけど、
とりあえず、こちらの世界にいる限りは安泰ですよね」
繰り返すが、あくまでもこの会話(喋ってるのはアンバーだけだが)は、
注射器をレンの首筋に突き付けながら行われている。
「そういえば、レンちゃん、ケーキ好きでしたよね?
このまじかるアンバーにかかれば、和・洋・中・デザート、何でもお作りして差し上げますよ♪」
まぁ、結局の所、蜂起少女の実力は遠野の家に関わる者の間には知れ渡っていて、
それは、レンも例外ではなくて……彼女に選択肢はなかった。
ぺろぺろ……
「あはっ♪ 指ちゅぱって結構くすぐったいんですね〜。
――えっ、違う? いえいえ、そのまんまじゃないですか♪
それは、確かに語弊があるかもしれませんけど、そんなのは気にしたら負けですよー♪」
血で濡れたアンバーの指をくわえている、
レンからの抗議の視線(上目使い)を軽く無視して、アンバーはここぞとばかりにからかう。
そりゃもうすごーく楽しそうに。
「はぁ、志貴さんもこーいうシチュに燃えちゃったり、萌えちゃったり、
ヒートエンドしちゃったんですかね〜。その辺レンちゃんどうですか?」
(………ぽ)
「あはっ♪ やっぱり長く生きて来たって言っても、やっぱり十歳は十歳。
まだまだ照れ屋さんなんですね〜」
十歳と言えばラスティより下ではなかろうか?
あくまで容姿の話だが、これはこれで凄いことかもしれない。
もっとも、暦が違うので、厳密なその辺りの話は換算してからの方がいいだろう。
「あら、もういいんですか?」
(こくこく……)
口からアンバーの指を離したレン。
血はもう止まっている。
「じゃあ晴れて契約成立♪ですね〜。
――え? いえいえ、仮契約ですよー。
レンちゃんの御主人様は志貴さんですもんね〜」
これでもかと言わんばかりに追い討ちをかけるアンバー。
その笑みはまさに子悪魔そのもの。キュピーンと光るその目がやたらと恐い。
「まあ、それはいいとして、サーリアさんの家に行ってお話しましょうね。
もうすぐお昼になっちゃいますから、支度もしなくちゃいけませんし……、
午後からはきっと調剤作業ですから、お手伝いして下さいね」
召喚された夜に、一通りは見ていたのだろう。
下調べは万全といった感じだ。
アンバーは、木陰で寝ているサーリアの体を採集用のカゴに寝かせる。
人も入るサイズのカゴが、何でウィネス魔法店にあるのかは問答無用で企業秘密だ。
それを、森に飛んで来た時の様にホウキにぶら下げて、飛行体勢を整えようとするアンバー。
くいくい……
「あら? レンちゃん、どうしましたか?」
レンに着物の袖を引っ張られて、アンバーは振り返る。その先には……、
「ガァァッ!!」
フォンティーユ周辺在住のハラヘリ熊さんがっ!
「あはー♪ 今晩のおかずですね? ありがとうございます、レンちゃん。
これで今夜はお鍋ですよー♪」
だがしかし、アンバーは臆する様子など微塵もなく、
颯爽とホウキから降りると、そのホウキの先の部分をぐぐっと掴んで引き抜いた。
仕込まれていたスラスターユニットとオーディオ機器が外され、その後には鋭い刃が踊り出る。
アンバーはくるりと回して柄を長く持つと、薙刀スタイルで熊に相対した。
「えへへー♪ やっぱり着物でリボンだと、某活心流の師範さんを連想される方が多いですけど、
やっぱり古来から女性の武器は薙刀ですよね〜。着物振り乱しながら薙刀振り回せば、
ごく一部の方々にはそれだけでクリティカルヒットですよー♪」
楽しそうに笑いながら、薙刀化したホウキの素振りをするアンバー。
レンは少し離れた所で成り行きを見守っている。
そして……、
「でわっ!狩りの時間です〜♪」
……森に血の雨が降ったのは言うまでもない。
<つづく>
あとがき
さて、第二幕です。
いつも以上に、やりたい放題書かせて頂きました。
魔装機とか、オーラバトラーとか、何でも粉砕する魔法のハンマーとか……、
知ってる方は知ってますよね。
第一幕では表記する必要がありませんでしたが、
今回から「琥珀さん」と「まじかるアンバー」を使い分けてます。
少なくとも、自分の中では互換性アリなので、これからもちょくちょく変わります。
それと、この場を借りて一つお礼を。
少し前のお話なのですが、友人の戒さんから何とまじかるアンバーの壁紙を頂きました!
もう「あれは、いいものだぁぁぁっ!!」とか言いたくなる物だったので、
しっかり目の保養にさせて頂きました。
だからもう、シャレにならない容量だったのは気にしません。
戒さん、本当にありがとうございました。
そして、次回も頑張りますので、読んで下さる皆さん、宜しくお願いします!
<コメント>
志貴 「誠〜っ!! 頼むから、早く何とかしてくれ〜っ!!」(T▽T)
誠 「ああ、もう、分かってますって!
今、急いで、召喚プログラムの調整をしてますから……、
それにしても、さっきまでは割りと落ち着いてたのに、
どうして急に、こんなにも取り乱し始めたのやら?」(−−?
志貴 「今、気付いたんだが、どうやら、レンもあっちに行っちまったみたいなんだよっ!
琥珀さんなら、何かあっても、自力でどうにかするだろうけど、レンは、レンは……、
ってゆーか、俺がいない間に、レンが琥珀さんに、
ヘンな事されてるんじゃないかと思うと、落ち着いてなんていられない〜っ!!」<(T△T)>
誠 「琥珀さんのこと、信用してるんだか、してないんだか……、
っと、調整終了! 志貴さん、早速、起動させますよ!」(^○^)
志貴 「ああ、やってくれっ!」( ̄□ ̄)
誠 「それでは、悪魔召喚プログラム、起動――って、何ですとぉぉぉぉぉーーーっ!!」Σ(@○@)
志貴 「ど、どうしたっ!?」Σ( ̄□ ̄)
誠 「モ、モニター、見て……」(;_;)
志貴 「――んっ?」(・_・?
『【天津神 まじかるアンバー】 召喚しますか? Y/N』
志貴 「……あの人、悪魔召喚プログラムの召喚対象になってるのか?」Σ( ̄□ ̄)
誠 「ってゆーか、天津神? アマテラスと同格なのか?」Σ( ̄□ ̄)
志貴 「…………」(−−;
誠 「…………」(−−;
志貴 「……み、見なかったことにしよう」(‘_‘)
誠 「らじゃー」(‘_‘)ゝ