* この作品は、自分の月姫二次創作SS「蜂起少女まじかるアンバー」をベースに、
  ASの世界とのクロスオーバーを図っています。
  色々と変な所だらけですが、
  ゼロシステムで認識できる領域くらいの広い心で読んで下さると嬉しいです。








月姫 & AS クロスオーバーSS

戦力二乗の法則

〜 第一幕 「満月の夜に」 〜








 
――カランコロン♪


「サーリア〜? あれ、いないのかなぁ? 材料採って来てあげたのに……」

 採集用のカゴを背負って、
ウィネス魔法店に来たのは、意外にもフィアだった。

 しかし、返事はなく、店内は無人の様相だ。

 他ならぬ親友の頼みで手伝って、
その結果が夜逃げ(?)では、彼女ががっかりするのも無理はない。

 と、フィアはカウンターの近くに転がっていたある物を見つけた。
 恐る恐る近づいて、そっと手に取ってみる。

「これは……!?」

 彼女が見つけた物は、いつもサーリアが手にしている魔法の杖。
 図書館にある天使の文献にあるものと、同じ形の杖。

「まさか……」

 一瞬浮かんだ嫌な予感を振り払うべく、
フィアは奥のドアを慎重に開いて、そっと顔を出した。

 そして、彼女は見た。

「サーリアっ!?」

 彼女は、突然、扉を勢い良く開けて駆け寄る。

 その先には、ぐつぐつと煮立つ大釜の脇で、
テーブルに突っ伏したまま動かないサーリアの姿があった。








「ありがとうです。フィアちゃんは命の恩人ですぅ☆」

「でもまぁ、自己管理はしっかりしてよ?
徹夜で調合して、食べる物も食べずに頑張って、火を使いながら寝ちゃうなんて、
一歩間違えたら火事になってたわよ? ほら、食べて食べて」

 あまりの忙しさと空腹で、サーリアはダウンしてしまったらしい。

 彼女の目の前のテーブルには、溢れんばかりの料理が。
 フィアがありあわせの材料で作ったのだろう。

「でも、サーリアも大変よね……、
カウジーが行っちゃったから、バイトしてくれる人いないんでしょ?」

「にゃぁ……たまにフィアちゃんが来てくれてもこうですから。
うぅ、ラスティちゃんが羨ましいですぅ〜!」

「あっ……私も、ちょっと思い出しちゃった」

 ――そう。
 カウジーはラスティとゴールインして、今はハネムーンの真っ最中。

 あの時は涙を飲んで見送ったものの、その辺りはやはり惚れた身。

 特にフィアは重症だったのだろう。
 頭を抱えてテーブルに突っ伏しながら、ドンドンと拳を打ち付けていたりしている。

「はぁ……くすんっ。でもさぁ、私はまだお母さんとやってるから……サーリア、ごめん」

「謝らないで下さいです。フィアちゃんは何度も何度も言ってくれたですから。
サーリアがおばかさんだっただけですよ」

 しまった、といった感じで謝るフィアに、サーリアは首を振った。
 以前であれば、癇癪を起こして全く耳を貸さない彼女だったのだ。

 そんな彼女が変われたのは、彼のおかげでもあったのだろう。

「……でも、カウジーさんみたいに誰かに手伝ってほしいですよぉ。
フィアちゃんは、こうやって手伝ってくれるですけど、毎日は無理ですし……」

「そうね……街の立て札にバイト募集のビラでも張る?」

「でも、お薬の専門知識を持ってる人なんて、そうそういないですよぉ。
せめて、サーリアと交代でお仕事が出来るくらいの人じゃないと、この激務には耐えられないですよ」

 サーリアが、力無く壁に掛けられたカレンダーに視線を向ける。
 フィアもつられてそれを見る。

 カレンダーには、いくつもの赤マルが……、

 それが納期であることは、フィアにも容易に想像がついた。

「……ねえサーリア。もしかして、来た依頼全部受けたの?」

「もちろんですっ! サーリアは病気で苦しんでる人を見捨てるなんて真似はできないです!
どんなに忙しくても、サーリアは頑張るです! 忙しいのは商人の誉れですっ!」

 その強い口調に、フィアは何も言えなかった。
 彼女とて、そんなサーリアのお世話になった経験があったからだ。

「でも、たまに私が手伝いに来るにしても、この量はちょっと……、
サーリアの方が体壊しちゃうよ……どうにかしないと……」

「それは……」

 心配そうなフィアに言われて、言葉を詰まらせるサーリア。

 それも仕方ないだろう。

 考えてもすぐに妙案が浮かぶ訳でもないし、
人の心配をしているという点では、お互いに同じである。

「にゃぁぁ〜……お母さーん、こんな時はどうしてたんですかぁ〜…?」

「こらこら、現実逃避しないの」

「違うですよ、お母さんは一人でも……サーリアも店番くらいはお手伝いしてたですけど……、
ちゃんと頑張ってたですよ? あ、そうですっ!
きっとそこに活路が見出だせるはずですっ!
お母さんと同じことができれば大丈夫ですっ!」

 勢いよく立ち上がったサーリアは、すぐさま自分の部屋へと走り出した。
 テーブルに並んだ料理はほとんど減っていない。

「ちょっ……サーリア!」

「フィアちゃん、ちょっとだけ店番お願いしますです〜!」

 とり残されたフィアは、腰に手を当てて……、

「はぁ……仕方ないなぁもう……」

 親友の元気さに少しだけ溜息をつくのだった。








 夜――
 ウィネス魔法店――

「ね、ねえ、サーリア? その格好って……」

 突如として、異世界に迷い込んでしまったかのような感覚に眩暈を覚えたフィアは、
恐る恐るその妖しさ大爆発の源に訪ねた。

 無理もないだろう。

 サーリアは、つばの広い黒の三角帽子をかぶって、
同じく黒いマントを羽織り、蝋燭と妖しげな魔法陣が彩る部屋に立っていたからだ。

 いつもと変わらないのは彼女の杖だけだが、この状況ではそれすらも不気味に映る。

 黒ミサ、ドクロの儀式、生贄、魔王召喚、謎ジャム製造一歩手前……、

 そんな単語を彷彿とさせるイメージの部屋&サーリアを目の当たりにして、
一歩も後ずさりしなかったら、勇者としか言いようがないだろう。

「異世界の某お嬢様魔女さんの服を、見たまま聞いたまま作ってみたんですぅ☆」

「えぇっと……それで、結局、何を始めるの?」

 冷や汗を流しながらの問い掛けに、魔女サーリアは童話を読んで聞かせるような口調で語り出した。

「昔々、魔法使いの国のある王様がいましたです。
その世界は戦争が絶えず、人々は怯え、不安の中で暮らしていたです。
兵力は次第に衰え、国は滅亡の危機に陥りました。
そして、王様は悩んだ末に、異世界の人を召喚することにしたですよ」

「異世界の人?」

「そうです。異世界の人は魔力が高く、それが王国の切り札になったですよ。
実はですね、使い魔召喚の魔法をアレンジすると、その異世界の人を呼べるらしいですよっ!」

 このダークな部屋の内装と、それに調和した彼女の服装と、この話……、
 これだけの舞台が整えば、彼女がやろうとしていることは誰だって想像がつくだろう。

「まあ、サーリアなら何ができてもおかしくないけど……」

「でも、サーリア一人では、この忙しさには耐え切れないのですっ!
今夜は満月ですし、召喚にはもってこいです。
フィアちゃんはさがってて下さいですよ。
いざっ! 召喚開始です〜!!」

「え、あ、ちょっと待っ…!」

「悠久の時の中で数多の世界を映し、照らし出す満月よ……」

 フィアが躊躇するのにも関わらず、サーリアは呪文泳唱に入る。

 目を閉じているから気付かないのか、とても集中しているからか。
 もしかしたら、ただ強引なだけかもしれない。

「今こそ時空の門を開き、この場に希望の光を照らし出せっ、です〜!」

 元気に泳唱しながら、くるくると槍の様に杖を回して、柄を魔法陣の中心に突き立てる。
 瞬間、陣から光の柱が伸び上がり、部屋を閃光で染め上げた。

「うわっ!」

「にゃにゃっ!?」

 圧倒的な光量に二人の目は眩み、思わずうずくまってしまう。

 光が意識をも真っ白に染め上げ、部屋にいた二人は気絶してしまった。
 だから、召喚された人物が思わず戸惑ってしまったのも無理はないだろう。

 ……だって、何の説明もされなかったのだから。

 それは……、
 彼女が予想していた世界ではあったけれど。
















 時間を遡ること一時間くらい前――

「志貴さんっ。第二部開幕でいきなりですが……犯人を、あなたですっ!」

「あの、琥珀さん。ちょっと待って下さい。俺が何したって言うんですか?
そもそも第二部って……文法もなにげに怪しいし……」

 志貴の前に立ちはだかるのは、
目深にフードをかぶって、屋外用の竹ホウキに乗って浮遊する少女だった。

 立ちはだかる、という表現は適切ではなかったかもしれない。

「そうですね〜今宵のまじかるアンバーは機嫌がいいですから、
多少のリクエストにはお答えしちゃいましょう!
現在の時間軸設定は「蜂起少女まじかるアンバー」の続きですが、
所々お話が前後しちゃいますから、パラドックスなお話になっちゃってます!
『蜂起少女まじかるアンバー』の第二部なんですけど……、
そうですね、ある種の平行世界、パラレルワールドだと思って頂ければ、
物語としてはすんなりとあるべき場所へ入ってくれるんでしょうけどね〜。
それでですねー、志貴さんの罪状ですが……」

 おもむろに書類を取り出した彼女は、それを一瞥して一言で片付ける。

「殺人容疑で逮捕しちゃいます!
て言うか罪状なんてどうでもいいですから、大人しくお縄を頂戴してください!」

「無理、てゆーか、おかしいですよ、琥珀さん!
こんな展開おかしいですよ! そもそも第一部の終わりは昼間だったじゃないですか!?」

「あはー♪ 細かいことはのーぷろぶれむです!
Vガンネタを口走っちゃうような志貴さんに敬意を表して……、
まじかるアンバーフライトタイプですっ!」

 アンバーは懐から数本の注射器を取り出すと、両手に一本ずつ構えてほうきに立ち乗りした。
 サーフィンみたいな感じだったが、どう考えてもバランスを取るのは難しそうだ。

「あの……琥珀さん。その体勢は、危ないんじゃないのかな?」

「なんのこれしきっ! ザク?J型やグフだって、ドダイに乗って銃撃戦を繰り広げていたんです!
このまじかるアンバーが愛用のホウキに乗れなくては、蜂起少女の名折れですっ!
宇宙に上がったすぐ後のGP01・ゼフィランサスと同じで、
まだ調整が済んでないみたいなものなんですよ! だから……」

 ちょっと変な理屈を述べながらちょっとしゃがんで、彼女がホウキをぎゅっと握ると……、

「月のアナハイムで調整したらフルバーニアンになるように、
蜂起少女まじかるアンバーも、空間戦闘対応で高機動化ですよ〜♪」

 危なっかしかった足元が安定し、大きかったフラつきがほとんどなくなった。

 そして、彼女は「あはー♪」と笑うと、
これまでとは比較にならない機動力で志貴に突っ込んでいった!


 
ひゅんっ!


「うわわっ!」

 突然の急加速から突撃してきたアンバーを、のけ反りながら志貴は回避した。
 彼の視界には、ニュートンの法則を三段飛ばしくらいで無視した動きを繰り広げるアンバーの姿が。

 彼女は志貴の眼前を通り過ぎると、天井から吊り下がるシャンデリアをかすめながら、
前方宙返りしつつ反転し(もちろんホウキの上に立ったまま)、一瞬床にホウキがついたかと思うと、
注射器を数本投擲しながらもう一度急加速して向かって来た!

「ちぃ……っ!」

 いい感じでスピードが乗った注射器の「線」を見ようと、
志貴が咄嗟にナイフの刃を出し、眼鏡をずらす。

(いや……ダメだっ!!)

 不意に彼の脳裏に浮かぶビジョン。
 離れでの一幕が、七夜の短刀で注射器を切ることに対して警鐘を鳴らす。

 切れば……、

『甘いのは、果たしてどちらですかね〜?』


 
バッ!


 瞬時に、床に伏せた志貴。
 その頭上を、注射器が掠め飛ぶ。

 そして、両手に注射器を構えたアンバーが、一気に距離を詰めてくる。
 視覚ではなく、直感で彼はそう感じた。

「……!!」

 転がって避ける志貴。
 そのまま体勢を立て直すと、距離を取ってアンバーに向き直った。

「……ちぇ。やっぱり志貴さん、注射はお嫌いなんですか?
でも、それじゃダメですよー。私の手元が狂っちゃうじゃないですか」

「だったらせめて、マトモなやつにして下さいっ!」

 打たれたら最後(いろんな意味で)の注射をちらつかせられたら、怖がってしまうのも無理はないだろう。
 志貴が言うこともごもっともである。

「え〜……だって、普通に志貴さんを元気にするだけなら、体液の交換だけで充分じゃないですか。
でも、そうさせて下さらないからこうしてるんですよー?」

「いや、それって、絶対、本音じゃないし!
注射器の中身だって、時南先生とかじゃ扱ってないような物じゃないんですか!?」

「あはー♪ もちろんですよ〜。精神安定剤の濃縮したのを、
ぱぱっと「投薬☆」しちゃえば、鬱になっちゃいますからね〜。
志貴さんの意識はありますけど、安定しきっちゃって、意欲とかその他もろもろなくなっちゃいますから。
だから色々やるのには、眠らせるより好都合なんですよ〜♪」

 彼女が言う「色々」が、一体、何かはさておきとして、その行動はあまりにも危険だ。

 そもそも、本音じゃないと指摘されても、
開き直ってる辺り、絶対的にブレーキが壊れてしまっている。

「――あっ♪ もしかして法に触れちゃうような危ないお薬の方がお好きでしたか?
でしたら、阿片やヘロイン、幻覚剤のLSDに覚醒剤……と、各種取り揃えてありますよ〜♪」

 指折り数えながら、まるで、翡翠に料理の材料でも教えるかのような口ぶりで、
次々と闇の世界の薬品名を口にするアンバー。

 はっきり言ってその知識にも問題があるが、その辺りは調べれば分かる話なのでまだいい。

 いや、そもそも現物を所持している時点で法的にアウトだし……、
 強制的に注射しようとしてるのも常識的に問題アリだし……、

 きゃいきゃいとはしゃぎながら、
救急箱(きっと中身は彼女御用達の薬品類)を取り出す、蜂起少女にも問題がわんさかだ。

 いや、それ以前に、遠野の屋敷の住人へ、
問題のあるなしを問い掛けるのは愚問というものだろうか?

 時代錯誤な巨大な洋館……、
 住人は志貴を除いてみんな異端の血を引く者で……、

 例外である彼とて、負けず劣らず渡り合える能力を備えている。

 敷地内には黒猫の使い魔や、混沌から生み出された漆黒の番犬がおり、
さらには、夜な夜な窓から吸血種の姫君や、埋葬機関の執行人が出入りしている有様である。

 そして、地下室には……、
 全角カタカナの歌詞の曲がお似合いな、元当主候補が長らく監禁されていた……、

 という状況なら、遠野の屋敷で起こる数々の騒動は日常茶飯時に成り下がってしまうだろう。

「あ、恒例の『蜂起少女まじかるアンバーによるお薬レクチャー』のコーナーです〜♪
阿片は世界史で習った通り、1840年にイギリス・中国間で起こった阿片戦争で有名ですね。
その阿片を精製すると脳内麻薬であるモルヒネが作られます。
脳内麻薬は徹夜明けとかだと、ちょっとだけ気持ち良くなっちゃう原因ですね。
えっと、それはさておきにしてですね。モルヒネに無水酢酸を加えるとヘロインが……」

「ちょっ、落ち着いて下さい琥珀さんっ!
俺そんな知識要りませんから語らないで下さいよ! しかも、凄く楽しそうだし!」

 突然、あまりにアレな話を語るアンバーに、思わず志貴が声を上げる。
 彼女は、そんな彼の言葉にちょっとだけ残念そうな笑みを浮かべた。

「志貴さぁ〜ん……タダでさえ扱いが酷かった私なんですから、
こんな時くらいお茶目なまじかるアンバーになっちゃってもいいじゃないですか。
実はこのコーナー、影で人気があったりなかったりするんですよ?
――はっ! まさか、志貴さん、私のことを嫌ってらしたんですか?
やっぱり『世界の萌えは妹にあり』なんですか?
『ご主人様☆』とか呼ばれてみたいエプロンドレス……もとい、メイド服の方がお好みですか!?
翡翠ちゃんの方がいいんですか!?」

 突然、気付いたように口調が変わり、目元に涙を浮かべながらアンバーが詰め寄った。
 その演技力(素じゃないと仮定してだが)もさることながら、理屈も半端ではない。

 そして、彼女は、浮遊するホウキから飛び降りると、彼女の髪の色に似たそのフードを取った。
 その下に隠されていた瞳と、髪と、白いリボンが現れる。

「このリボンにまつわるお話は、月姫でも一、二を争うエピソードじゃないですか!
翡翠ちゃんのお話で、どっぷりとその皮肉なすれ違いに浸かっちゃった後で、
ようやくフラグが立って私のお話が始まるんですよ!?
それはそれは、裏が分かっちゃってるのに私が演技してるのを見てる方々は、
切なさと残悔と涙の暴風雨ですよっ!!
……ってのが、作者さんの持論なんですけど、どうですか志貴さん!」

 琥珀さん、ナイスなお言葉ありがとうです!(by作者)

「あ、あの……琥珀さん? その、どうですかと聞かれても、俺はみんなが好きなんであって……」

「あ、あれだけブービートラップ的な複線が張られた私が、
翡翠ちゃんはともかくとして、他の方々と同列ですか!?」

「え!? そ、その……」

「くすんっ、ならば、高機動型蜂起少女まじかるアンバーフルバーニアンになる必要もありませんっ!
言わばオーキスがないデンドロビウム、GP03・ステイメン……、
いえ、コアファイターで充分です! この生身の巫浄琥珀の必殺のお薬で仕留めて見せます!」

 琥珀の手に、合計十本もの注射器が現れる。
 そして、彼女が大きく腕を凪ぐと、十本の軌跡が志貴に向かって描かれた。

 黒鍵より遅いそれを、彼は難無く避けた。

 死徒とも渡り合って来た上、己が抱いていた最強の死のイメージであった、
紅赤朱と呼ばれた独眼の鬼をも(精神世界の話ではあるが)葬った彼である。

 死線をいくつもくぐり抜けた結果、
多少のことでは負けないくらい、その身体能力にも磨きがかかっていた。

「琥珀さん……やめる気はないんですね?」

「だって、ここで志貴さんに[投薬☆]してから拉致監禁しちゃって、
あーんなことやこーんなことをやっちゃって、既成事実と愛の結晶を作っちゃえば、
誰の目もはばからずにゴールインですからね〜♪
ああそうそう、その前に秋葉様やアルクェイドさん。
それに、シエルさんにトドメを刺しておかないとダメでしたね」

 先程までの剣幕はどこへやら。
 その表情は、いつもの彼女である。

 ただ、その笑顔から察するに、本気であることには間違いない。

 さりげなく注射器を両手に補充している辺り、
『逝ってみよう殺ってみよう♪』的な雰囲気がぷんぷんしている。

 ――視線が交錯する。

 火花が散る、とまではいかないが……、

 タダでさえ不健康な体にこれ以上厄介な薬を打ち込まれたくない気持ちと、
一人のキャラとして再起を図りたい気持ちがぶつかり合い、独特のプレッシャーを醸し出していた。


 
ピシッ……!


 最初は、志貴も空耳かと思っていた。
 何かにひびが入るような鋭い音。


 
パチッ……!


 だが、二度目はハッキリ聞こえていた。

 聞き違いではない。
 そして感じる微かな違和感。

 何かが起こりつつあるのを、彼はもう疑わなかった。

「え……?」

「琥珀さん!?」

 突如として、彼女の周囲に光が溢れた。
 それに驚いた二人は思わず声を上げた。

 だが、しかし、琥珀はすぐに何かに思い当たると、いつものペースを取り戻した。

「これは……異世界への門ですか? なら、オーラロードですねっ!
バイストンウェルへ召喚されて、聖戦士になっちゃうんですね?
それとも、ラ・ギアスに行っちゃって、魔装機操者ですか!?」

 その辺りはゲーム、漫画、その他もろもろに詳しい彼女ならではである。
 そして、完全に光に包まれる前に、志貴へ指を突き付けて捨てセリフとも取れる言葉を残した。

「志貴さん、残念ですがこの勝負はお預けですねー。でも待ってて下さい。
すぐにダンバインとかビアレスとかギオラストとか、
ジャオームに乗ってリターンマッチですから! 覚悟してて下さいね〜♪」

 あはー♪と笑いながら、彼女は光の中へ消えていった。
 ほんの十数秒の間の急展開に、志貴はただただ呆然とするしかなかった。

 だが、異世界ではあるものの、
それが彼女が望んでいたような場所ではないことを、彼女はまだ知らない。

「私としては高機動で、なおかつ戦艦もバンバン落としちゃう、
オーラバトラーが好きなんですけどね〜」

 ――そう。
 今は……まだ……、
















「ん……にゃぁ〜…にゃにゃ?」

 寝苦しさに気付いて、
サーリアが目を開けると、そこは彼女の部屋だった。

 窓から差し込む月明かりが、部屋を青白く照らしている。

「ま、まさか……さっきまでのは夢オチですか!?」

 彼女の時間にして、召喚部屋に先程までいたのに、目覚めてみればいきなり自室で寝ていたのである。

 服も魔女モードじゃなくて、いつもの服だ。
 イコール夢オチと発想してしまっても仕方がない。

「――はっ! そうです。フィアちゃんは……?」

 寝苦しかったベットから起き上がり、親友の姿を探すサーリア。
 だが、一分足らずで彼女は先程までの寝苦しさに気付いた。

 ――探していたその姿は、先程まで彼女が寝ていたベットの上にあったのだから。

「ふぃ……フィアちゃん……」

 サーリアの中で、妄想がビックバンの如く広がっていく。

 そして……、
 彼女はトンデモナイ結論にぶち当たった。

「いくらラスティちゃんから、カウジーさんを寝取る自信がなくなったからって……、
サーリアに夜這いをかけないで下さいです〜っ!!
その手のお話は、他の作家さんにお任せして下さぁ〜い!!」

 あまりに飛躍しすぎた発想だったが、
すんでの所で操を奪われそうになった(と思い込んでいる)彼女は、
壁に立て掛けてあった自分の杖を手に取り、振り回しつつ絶叫した。

「どんぶりはダメです〜〜っ!!」


 
キィィィ……ン


 感情の暴走で魔力が溢れ出す!


 
バタンッ!


 だが、あわやウィネス魔法店崩壊という所で、部屋のドアが勢いよく開いた!

「まあまあ、落ち着いて下さい。そんなことしちゃう悪い子には[投薬☆]ですよ〜♪」

 開け放たれたドアの所に立っていたのは、
着物に身を包み、赤に近い紫色のフードつきマントを目深にかぶった少女だった。

 その手には、針のない注射器が……、

「遂に某北のお国でも使われだした、浸透圧を利用した無針注射器です〜♪」

 素早い動きでサーリアの手首を掴んだ彼女は、自慢のそれを引き寄せた手首に押し当て……、


 
プシュッ!


「――あうっ」

 微かなジェット音が部屋に響く。
 そして、からんと魔法の杖が床に落ちた。

「どちらかと言うと、バイストンウェルより、ラ・ギアスに近いみたいですねー。
でも、球体内面みたいな感じはしませんし……どういうことなんでしょうか?」

 こちらの世界でアンバーの犠牲者第一号となったサーリアは、
加害者に抱き抱えられてベットの上に戻った。

 ここで目が覚めれば、きっと先程のことが繰り返されるだろうが、
彼女の計算では四時間は目覚めないはずだった。

 時間はたっぷりある。

「そうですね〜……皆さんが起きるまで、こちらの世界のお散歩と参りましょうか♪」

 窓を開け放ったアンバーは、パチンと指を鳴らした。
 現れたのは、遠野家の中庭を掃除していたあの竹ホウキ。

 今やそのホウキは、その役割を放棄して、よりトンデモナイことに使われていた。

「投薬! 投薬! 投薬! 投薬!(あはー♪)」

 そして、彼女がホウキに飛び乗ると、恒例のテーマソングが大音量で流れ出す。
 重低音が強化されている辺り、ウーハーでも取り付けたのだろうか?

「さあさあさあっ! 大人気御礼につき、遂に異世界までやって来ちゃいました!
そして、私も遂に銀幕に二時間枠でデビューです!
蜂起少女まじかるアンバー・The Movie特別編!
オファーが来ました! まじかるアンバーのホットスクランブル〜スタートですよー♪」

 夜のフォンティーユ上空を飛行しながら、カメラ目線で喋り終わった彼女は、
そのままフレームアウトしながら夜空へと飛んで行った。
 
 その夜空をバックにして流れ続ける[投薬☆まじかるアンバー]は、
もしかしたら彼女自身が歌っていたのかもしれない。

 頭上には輝く真円の月――

 それは、どちらの世界でも変わらずに夜空を照らし、多くの星の輝きをほんの少しだけ妨げてしまう。

 ――時には真祖の姫君に無限の生命力を与え、
 ――時には少女の祈りによって、破滅の光を地球にもたらす。

 そして、今宵……、
 満月は時空の扉を開き……、

 このフォンティーユに……、








 ――薬物を自在に操る異世界の魔女を呼び寄せた。








<つづく>


あとがき

 実は、「サーリアと琥珀さんを絡めたクロスオーバー」という構想自体は、随分前からありました。

 ですが、どうやって話を始めて、
どう収拾つけたものかと悩んだ結果、心のごみ箱へ送られてしまいました。

 そして、「蜂起少女まじかるアンバー」の完成と同時に、
「アンバー&サーリア」という形で、この企画がスタートしました。

 とりあえず、前回は(あくまで自分の中では)、
TVアニメっぽく書こうとしていたので、今回は劇場版です。

 ただ、薬物ネタが尽きてきたので、前作が好きだった方にはあまり面白く読めないかもしれません。
 その代わり、別方面のネタはアンバーの暴走に乗じて仕込み放題です♪

 あ、作中でちょこっと本音書きましたが、あの意見だけはそう簡単に曲げないです。

 タイトルの「戦力二乗の法則」はですね……、
 あまり詳しくないんですが、要約すると「戦力は兵の数の二乗に相当する」という意味だったかと。
 (一応こういう意味で話を進めます)

 サーリア一人の時に比べて、琥珀さん(アンバー)と一緒なら通常の四倍です!
 作業能率も、ドジっぷりも、萌えも……!!

 とまあそういう訳で、冗談から始まったアンバーから派生したお話です。
 何か一箇所だけは前作を超える気で書きますので、生暖かく見守って下さると幸いです。


<コメント>

志貴 「――誠っ、大変だっ!!
    よく分からんが、オーラロードが開いて、琥珀さんが、異世界に行っちまったっ!!」Σ( ̄□ ̄)
誠 「……静かになって良いじゃん」(−o−)
志貴 「いや、まあ、それはそうなんだが……、
    って、違うっ!! 早く琥珀さんを連れ戻さないとっ!
    今頃、どんな危険な目に遭ってるか……、
    それに、このままじゃ、ずっと翡翠の料理を食べる羽目になってしまうっ!!」(T▽T)
誠 「微妙に本音が混ざっていたような……、
   まあ、それはともかく、琥珀さんを追って、もう一度、オーラロードを開くなら、
   バイクに乗って、海辺のハイウェイを走らないと……、
   志貴さん、バイクの免許って持ってます?」(・_・?
志貴 「……持ってない」(;_;)
誠 「じゃあ、エリア時みたいに、悪魔召喚プログラムを利用するしかないか。
   でも、異世界って言っても、色々あるからな〜……」(−−;
志貴 「……お前、なんか妙に落ち着いてるな?」(−−?
誠 「俺の周りには、異世界なんてゴロゴロしてるんですよ。
   フィルスノーンとか、グエンディーナとか……」(T_T)
志貴 「お互い、波瀾に満ちた生活してるんだな……」(T_T)
誠 「ううう……ギブミー平穏」(T▽T)