――ずっと夢見てた。

 小さい頃、病気がちだった私のそばで……、
 フォルテールを弾いて元気付けてくれた楽士のお兄ちゃん。

 いつか、大きくなったら一緒に旅をして……、

 捜し物を見つけてあげるんだって――
 お嫁さんになるんだって――

 ――約束。

 大切な……、
 でも、叶わないかもしれないって諦めていた、遠い遠い昔の約束。

 でも……、
 あの日、空を滑るみたいに飛んでいく鳥を見ていた私が出会ったのは……、

 ……あの頃と全然変わらない、楽士のお兄ちゃんだった。





 ――声が聞こえる。





『あなたの願いを叶えることはできるよ。
あなたの永遠と引き換えに、あの子の健康を取り戻すことはできるよ。
カウジー……永遠を失って、本当に後悔はしない?』

『……するわけがない。愛する者の命に代えるものなんて何もないよ』

『そっか……うん、そうだよね。それは、わたしのわがまま……だもんね』

『これは……俺の……?』

『凍りついた時は、今、動き出す。
我が願いは叶い、そして、代償は支払われる』

『この羽は……いつも俺が持っている……』

『天使の羽は、願いを叶え、そして代償を求める』

『願いを叶える、天使の羽……』

『あなたにかかっていた時の呪縛は、今この瞬間をもって解除されるよ。
時の流れに抗うことなく、生きて……そして、人としての生命を全うして……ね?
あなたの願いを叶えるよ。熾天使セラフィの名において、たった一つ……あなたの心からの願いを』

『俺の……俺の願いはっ……!』





 真っ白な光に包まれながら、私はその人を見た。
 六枚の大きな白い翼を纏った、赤い髪と瞳の……天使?

「鈍感で、忘れっぽくて、バカだけど……カウジーを宜しくね」

「あなたは……」

 聞こうとした瞬間、光が強くなって、その人は光の向こう側に消えてしまった。

 でも、その人が最後に見せた……、
 泣き笑いのような表情が、目覚めてからも私の心から消えることはなかった。








「あなたはもう、健康だよ……」








エンジェリックセレナーデSS

二人の足跡








「もし、あの子の調子が悪くなるようだったら、首に縄つけてでも帰って来てくれよ」

「分かってます。絶対に無理はさせませんから」

 十二月も末のフォンティーユ。
 街の唯一の宿屋であるアンクルノートでは、カウジーとルーサが向かい合って話していた。

 なんでも、いつか行きそびれた隣のダイダロンの町まで、フィアがリベンジするそうな。

 彼女らしいと言えばそれまでだが……、
 それはまた、ある一つの可能性を見つけるかもしれないことでもあった。

 ――いつか約束した、一緒に旅をする約束。

 彼自身は、当分の間はフォンティーユを離れる気はなかった。
 彼が探していたものは、永遠と引き換えにして見つかったのだから。

 ただ、捜し物がなくなっても、何かがあって旅に出てしまうかもしれない。
 離れ離れになってしまうかもしれない。

 フィアにとって、それは耐えがたいことであったに違いないだろう。

 だから彼女は決心した。
 カウジーが世界中どこへ行こうとも、例えそれが世界の果てであっても、絶対について行こうと。

 という訳で、食材の仕入れという名目でのダイダロン遠征は、
フィアが旅をできるか否かを見極めるものでもあった。

 ちなみに付け加えるなれば、食材の選定眼はフィアの方が上だというのがもっぱらの噂だ。
 それが彼女がついて行く理由の一つでもあったのだが。


 
トントントン……


 軽快に階段を下りてくる足音、そして元気な声。
 彼女が二日前まで死の淵にいたなどと、一体誰が信じられるだろうか?

「ごめーん。色々支度してたら遅くなっちゃった」

「別にいいよ。もう出発できる?」

「うん。お弁当も作ったし、大丈夫だよ」

 それを聞くとカウジーは、長年使ってきた……、
 これからはあまり使わないかもしれない旅の道具が詰まった袋を肩に担ぐと、椅子から立ち上がった。

「それじゃおかみさん、行ってきます」

「二人とも、気をつけて行っておいでよ」

「お母さん。沢山仕入れてくるから、晩ご飯は期待しててね」

 嬉しいやら心配やら、複雑な表情で、ルーサは二人を見送った。
 あの日のようなことが起こるのではないかと、また倒れてしまうのではないかと。

 不安な考えは、考えれば考えるほどに次から次へと出てくる。

 だが、今日の空は珍しく快晴。

 雲一つない、どこまでも澄み切った、
抜けるような青空。風もそう冷たくなく、流れるように街を抜けていく。

 旅人にとっては、これほどまでに恵まれた天候は滅多に望めないだろう。

 だから彼女は信じることにした。
 フォンティーユを見守る熾天使を……、

 ……天使の奇跡を。

「フィアちゃぁぁぁん! カウジーさぁぁぁん! ちょっと待つです〜〜!」

 街から出る階段辺りに差し掛かった時、突然二人を呼び止める声が。
 もちろん、両者とも心辺りは一人しかいない。

「あの声は……」

「サーリア、だよね……」

 振り返ると案の定、遠くから駆けてくるサーリアの姿が。

 片手に魔法の杖を持ち、背中に小さなリュックを背負って走ってくる姿は、
どことなくほほえましさと危なっかさを思わせた。

「にゃ、にゃぁぁ……ちょっと頑張り過ぎたです」

「ちょっとサーリア、平気? また寝不足?」

「違うですよぉ……二人に渡す物があったから、急いで来ただけですよぉ」

 息切れを起こして座り込むサーリア。
 先程の全力疾走が効いてるみたいだ。

 そして、彼女は背中のリュックから、いくつかの瓶を取り出した。

「暖房薬の予備と、結界の魔法薬です。カウジーさんはもう持っていないはずですから、
フィアちゃん共々クマさんに襲われたら大変ですよ?」

「――えっ? ちょっと待ってサーリア。どうして結界の魔法薬がないのを知ってるんだい?
確かにもう残ってないけど……」

 それを聞かれたサーリアは「にゃはは☆」と笑って……、

「お店の売り上げ記録を見ればちゃあんと分かるですよぉ☆
結界の魔法薬を買うのはカウジーさんくらいですし……、
でも、どういう訳か分からないですが、十二月になると、
途端に結界の魔法薬の売れ行きが悪くなるですよ。
それ以上にトレーディングブロマイドが売れちゃいますから、お店は大丈夫なんですけどね」

 ちなみに、この現象はフォンティーユの七不思議と呼ばれたとか呼ばれなかったとか。
 実に奇妙な話である。

「ああそうです、忘れる所だったです! これを渡さなきゃいけなかったんです!」

 慌てたサーリアが渡したのは、曇りガラスで作られていて、コルクで栓がされた小瓶だった。

「これは?」

「必要ないかもしれないですが、フィアちゃんのお薬ですよ。備えあれば憂いなし、です☆
だから、もしフィアちゃんの具合が悪くなったりしたら……、
カウジーさん、優しく介抱してあげるですよ♪」


 
ぷしゅ〜〜☆


 それを聞いた二人から湯気(っぽいの)が出た。
 もちろん、彼女には悪気がないだろうし、かといって狙ったという訳でもないだろう。

 何と言うか、自然にそういうことが言える辺りが(色々な意味で)サーリアの強さだろうか。

「にゃにゃ? 二人ともどうかしたですか?」

「あ……えっと、ありがとう」

「フィアちゃんも頑張るですぅ☆ 後でお話聞かせて下さいね。サーリアは待ってるですから」

 サーリアは、何をとは言わなかったし、敢えてフィアも聞かなかった。
 さすが、ツーと言えばカーと言う仲だ。

「それじゃ行ってくるわね。夜にウチに来てくれればご馳走できるから、今夜はできるだけ来てね?」

「もちろんです! 二人とも行ってらっしゃいです〜☆」

 ぶんぶんと手を……、
 いや、杖を振るサーリアに見送られて、二人はフォンティーユの街を後にした。








「なんだか、この辺りに来るのも久しぶりな気がするなぁ……」

 フォンティーユから続く、長い長い階段をようやく下りたフィアは、
ちょっとだけ遠くなった空を見上げて呟いた。

「そうだね。ここ最近は……何て言うか、色々あったからね」

 隣に立つカウジーも、同じ様に空へと遠く視線を向けた。

 彼が提案したダイダロンへの小旅行は、フィアが体調を崩してとんぼ返りに終わり……、
 その後、数日に渡って彼女が意地を張って無理をし、それによってより一層体を壊し……、

 でも、カウジーは、やっとその時になって、フィアと昔、出会っていたことを思い出した。

 そして、彼は約束していた、世界でたった一人……フィアのためだけの曲を作り上げた。

 病床で、熱で混濁する意識の中で、フィアはその曲を歌った。
 部屋には柔らかなフォルテールの音色が響き渡る。

 涙を浮かべながら、彼は鍵盤の上で指を踊らせていた。

 そして……、
 彼女が目を閉じ、その手がシーツの上に力無く落ちて……、

『フィアを助けたいんだっ!! 教えてくれ、天使の羽の使い方を!』

 フォンティーユを見守る天使に、彼は願った。

『ごめん……あなたは何も失わない。何もかもなくなっちゃうのは、私の方だから……』

 赤い瞳を伏せ、申し訳なさそうに話す天使の言葉の意味を、
カウジーが完全に理解することはきっとないだろう。

 かくしてカウジーの願いは、彼自身の永遠を代償にして叶えられた。

 どこか人懐っこく、彼の過去を知っているであろう天使が、
一体何を失ってしまったのかは、彼には知るよしもないが。

 そしてフィアは以前のように(いや、もしかしたらそれ以上に)元気になった。

 カウジーはもう普通の人だ。
 病弱な少女と不老不死の青年、一緒になったらちょうどよかった、ということだろうか。

 こうした短期間での紆余曲折をへて、二人はようやく結ばれた。
 もっとも、最初に出会った時に彼が気付いていれば、二人の仲は三ヵ月ほど早く進んだだろうが。

「……ごめん。あの時はあたしが無茶して、沢山迷惑かけちゃったよね」

「でも、それで俺はやっと思い出せたし……それに、体はもう大丈夫なんだろ?」

「もっちろん! あ、でも、ずっと寝てたから、ちょっと体がなまっちゃってるかな?」

 嬉しそうにフィアが笑って言うと、カウジーが笑い返した。

「なら大丈夫だよ。俺は迷惑だなんて思ってないし……、
ちょっとハラハラさせられたけど、フィアが元気になったならそれでいいよ。そろそろ行こっか?」

「うんっ!」

 笑いあった二人は、柔らかな日差しと澄んだ空の下、街道へと歩き出した。

「でもさ、あたしとしては、
もっと早く思い出してくれてもよかったんじゃないかな〜?ってのはあるんだけど」

「え、いや、それは……、
まさかあのフィーが、こんなに大人っぽくなってたとは夢にも思わなかったし……」

「ん〜、本当かなぁ…?」

「ほ、本当だって!(汗)」

 ジト目で見つめられて慌てるカウジー。
 一応、それも立派な理由の一端なのだったが、ここで正直に言えるほど彼もバカ正直ではない。

 結果は火を見るより明らかだからだ。
 ただ、追究する側のフィアはどこか楽しそうだった。

「ふふっ、じゃあそういうことにしておいてあげるよ。あ、そうそう。今晩も演奏宜しくね?」

「あはは……それは喜んでやらせてもらうよ」

 軽口を交えながら、二人の足は進んでいく。
 時には笑いあい、時にはノールの村での昔話に花を咲かせながら、二人は街道の方へと進んでいく。

「あ……」

 と、不意にフィアが歩みを止めた。それに気付いてカウジーが振り返る。

「……フィア、どうかした? まさか、体が……!?」

「ううん、そうじゃなくて……体は平気だけど。ほら、この辺りって確か前に……」

 そこまで言われて彼もやっと気付いた。
 そこは、ダイダロンへ行こうとした時にフィアの具合が悪くなった辺りだった。

「だ、大丈夫だよ! 今のフィアならきっと行ける。俺は……信じてるよ」

 「そっか……うん、そうだね! 行こ、カウジーっ!」

 彼が手を差し出す。
 フィアが笑ってその手を取ると、二人はゆっくりと、踏みしめるように歩き出した。


 一歩……

 二歩……

 三歩……


 ……

 ………

 …………十歩


「ほら……ね。大丈夫、今日こそダイダロンまで行けるよ」

「や……やったぁぁぁっ!!」

 がばっ!

 つないだその手を引き寄せ、いきなりフィアはカウジーに抱き着いた!

「うわっ! ちょ、ちょっと……」

「やっと、あたし……約束果たせるよ…」

 ――そう。
 それは二人の間で交わされた約束。

『フィーも一緒に、お兄ちゃんが失くした物探してあげる』

 自分の時を止めた天使を探し、世界中を旅していたカウジー。
 いつ見つかるのか、糸口さえも掴めない旅のさなかで交わされた約束。

 二人で旅をして、捜し物を見つけて……、

 そして、いつか……、
 いつの日か……、

 それは……夢。
 彼女が小さな頃から願っていた……、

 ……夢。

「フィア……」

「あ……」

 自分の胸に顔を埋めるフィアの髪を、カウジーは優しく撫でた。

 思わず驚いて顔を上げるフィア。
 その目には、今にも溢れんばかりの涙が……、

 一瞬だけ目があったのが恥ずかしかったのか、彼女はすぐに顔を伏せてしまった。

「ごめん、嬉しくて……落ち着くまでこうしてて、いいかな?」

「いいよ、焦らないで。時間は沢山あるから…」


 
さあぁぁぁ……


 森の中を、草原を思わせるような風が吹き抜けていく。
 二人を包む音は、寄せては返すさざ波を思わせた。

 それは、かつて二人が歩いたあの森に似ていて、
出会ったあの日のことを少なからずとも彼に思い出させた。

 もし、当時の自分の行き先がノールの村でなかったら……、
 もし、空腹で倒れた自分を幼い頃のフィアが見つけてくれなかったら……、

 もしも、ノート一家が、フォンティーユに移り住んでいなかったら……、

 ……今、こうしてはいられなかっただろう。

 それとも、こうして出会えたことこそが、天使の導き。
 運命や奇跡と呼べるのだろうか。

「もし、今度……どこかに行くことがあったら、
その時は……絶対に置いて行ったりしないからな」

「当然よ……そんなことしたら、カウジーが嫌だって言ったってついて行くんだからっ!」

 二人の約束は果たされ、そして足跡は続いていく。
 ばらばらの大きさだった歩幅は、もう二人とも同じくらいになり、揃って歩けるようになった。

 それは、世界の中では小さな十歩だったけど、二人にとっては、新しい未来への十歩だった。








「ん〜っ! やっぱり遅くなっちゃったね」

 しっかり日が落ちてしまったフォンティーユの街で、フィアは大きく伸びをしながら振り返った。

 そこには、山のような荷物を背負って、
階段の最後の一段をようやく登り切ったカウジーが……、

「あ、あはは……ごめんね。やっぱり買い過ぎちゃったかな?」

「へ、平気平気。フォルテールに比べたらこれくらい……それに……」

「それに?」

「……アンクルノートまでもうひと頑張りすれば、フィアの手料理が食べれるんだしね」

 背中にかかる重みと疲れを感じながら、彼はその笑顔をフィアに向けた。

「そう思えばこの重さも……少しは楽しみになるよ」

「ふふっ。ありがと、カウジー。じゃあきっとサーリアも待ちかねてると思うから、少し急ごっか」

 以前、二人で一緒に夜の街を歩いたのは、夜の街を徘徊する何者かを捕まえるためだった。
 その時は、とてもじゃないが笑顔なんて見せれる状態ではなかった。

 でも、今は違う。
 少し急ぎ足ではあったけれど、二人には夜の闇への怯えはなかった。

 濃紺の夜空と、月明かりに照らされて白く浮かび上がる雲とのコントラストの中、
頭上に小さく輝くる星を眺めながら、二人は大通りを歩いていく。

 月の光で、二人の足元から長く影が伸び上がる。
 二つの月影は、足から離れるほどに大きくなり、それが薄くなる頃には重なり合っていた。

 どこまでも一緒に旅をする、と言う二人の約束のように。

「ただいまーっ!」

「おや、おかえりフィア。その様子だと……って、カウジー君。
その量ではさすがに重かったろうね。ほら降ろして降ろして」

 アンクルノートに到着するや否や、カウジーの肩の荷は文字通り降ろされた。

 フィアはというと、適当に材料を見繕って「すぐ作ってあげるから待っててね〜」とか言いながら、
早々に厨房へと引っ込んでしまった。

 ルーサが心配のためか(一人ではどうしようもなかったからかもしれないが)、
アンクルノートを休業していたため、店内には客の姿はない。

 カウジーが手近なテーブルに着くと、ルーサも向かいの席に着いた。

「悪かったね、まさかアタシもあの子がこんなに買い込むとは思わなかったよ。
それで……大丈夫だったんだね?」

 彼はその言葉の意味を取り違えなかった。

「ええ、フォンティーユにいる時より元気なくらいでしたよ。
あの元気があるなら……世界何周したって平気ですね、きっと」

「そう……よかった……」

 それを聞いたルーサは安堵の溜息をついた。
 それと同時に、ドアの方から控えめな声が聞こえて来た。

「こんばんわですぅ〜。フィアちゃん帰って来てるですか?」

「ああ、サーリアちゃん、あの子なら、今、厨房にいるよ。
知らせてくるから少し待っててくれよ」

 ルーサは立ち上がると、厨房の方へと歩いて行った。
 その空いた席にサーリアが滑り込む。

「カウジーさんもおかえりなさいですぅ〜」

「ただいま、だね。そうそう、使わなかったからこれ、返しておくよ」

 彼が取り出したのは、朝に渡されたフィア用の薬。
 だが、サーリアは首を横に振った。

「いいです。それはカウジーさんが持ってて下さいです。
もしもフィアちゃんに何かあった時は、カウジーさんがそれでどうにかして下さいです」

「……いいの?」

「いいんですっ! これから甘くて危険な蜜月を過ごす二人へのせめてもの贈り物ですよ☆」

 彼女の言い方に語弊があるようなないような気はしたが、
それはそれと割り切って、カウジーは薬のビンをしまった。

「じゃあ……ありがたく貰っておくよ」

「ありがとうございますですぅ☆
あ、でも、もしカウジーさんじゃ手に負えなくなっちゃったりしたら、
無理矢理おんぶしてでも、サーリアの所に連れて来て下さいです。
フィアちゃん、ああ見えて頑固な所があるですから……」

 カウジーの静止を聞かず、無理をして倒れたり……、
 思い起こせばそんなのも時々あったような。

「……なるほど」

「ほらそこ、そう簡単に納得しないの」

 突然、背後から聞こえた声に彼が振り向くと、そこにはお盆の上に料理を乗せて、
ウェイトレスのように(実際そうなのだが)立っているフィアの姿が。

「はい、先にサーリアの分ね」

「ありがとうです。いただきますです〜☆」

「え、俺の分は!?」

 おあずけされて思わず叫ぶカウジーに、フィアは楽しげに笑ってみせた。

「新しくチャレンジしたい料理があるからさ、もうちょっと待っててね」

「……大丈夫なんだよな?」

「もちろん平気ですよぉ☆」

 彼の問い掛けに答えたのは、フィアではなくサーリアだった。
 思いがけない所からの賛辞に、二人とも驚く。

「フィアちゃんの料理の上手さはサーリアが保障するですよ。
だからですね、カウジーさんは幸せ者ですぅ♪」

「……ねえ、サーリア、それってどういう意味だい?」

 そして、今度こそサーリアは会心の笑顔でのたもうた。

「だって、フィアちゃんの料理をずっと食べ続けるのはカウジーさんですよぉ〜☆」

「……はは」

「あはは……」

 二人とも、何も言えなかった。
 ただただ、彼女の言葉の意味が分かってしまった二人は笑うしかなかった。








 フォンティーユの夜は更けていく。
 この月と星の下で、笑い声に包まれながら。

 断崖から吹き上げてくる風は優しく、下に広がる森の香りを運んで来る。








 そして、また星は巡り……、

 太陽と共に朝はやって来る。








「おっはよー! ほら起きて起きてっ!」

 ゆさゆさゆさ……

「あ、あと一時間……」

「だーめっ。宿屋の朝は早いのよ!」








 二人の生活は続いていく。

 天使の加護を受けし街、フォンティーユで……、








<おわり>


あとがき

 得意なサーリアの話に比べて、量は大体同じなのに、かかった時間は約二倍。

 そして、オーラ力もプラーナもネタも使い果たして、
 ようやく書き上げて、達成感は某赤い彗星ばり……、

 ゲーム違いますけど、思わず友人に「……頑張ったよね?」とか訊いてしまいました。

 タイトルも二転三転し、最初はストレートに「フィア救済企画」ってしてました。

 ですが、書いてるうちにどんどんフィアがいいキャラになってきて、
「明日へと踏み出す、未来への十歩」に途中で変更しました。

 そして、全部PCに移して編集しているうちに、このタイトルになりました。
 好きな曲名をそっくりそのまま取ったので、気付く方もきっと多いかと。

 個人的に、フィア編の最後の方のカウジー&サフィの掛け合いがAS内で二番目に好きです。
 カウジーが何気にかっこよかったのと、サフィがちょっと辛そうだったのが……、

 もちろん一番はサーリアの雪が降る中でのシーンですが。

 ただ、書いてるうちにフィアのイメージがかなり変化し、
途中で、それにハっと気付いて「まさか自分はフィア派だったのか!?」とか、
ステキに勘違いしてしまった辺り、
もしかしたらゲーム内のフィアとは違った印象を受けるかもしれません。
(もちろん自分はサーリア派です。あしからず……)

 それと、AS本編で、12月入ったらブロマイド集めに奔走するのは自分だけでしょうか?

 ネタの天使様が降りてきたら、友人からリクが来てるラスティを書くかもしれません。
 今までとは違った手法で、アルテさん書いちゃうかもしれません。

 どちらが先になるかは分かりませんが、また別な作品でお会いしましょう。
 読んで下さった皆様、ありがとうございました☆


<コメント>

サフィ 「ま〜ったく、私達のほったらかしで、すっかりラブラブね〜」ヽ( ´ー`)ノ
ラスティ 「でも、みんなが幸せになれて良かったです」(^_^)
サフィ 「もう、ラスティったら……あたなは、恨み言の一つくらい言っても罰は当たらないわよ?
     熾天使の私が許すって言ってるんだから」(−o−)
ラスティ 「そんなこと……あぅ……」(*・・*)
サフィ 「まあ、いいけどね……、
     さて、それじゃあ、そろそろ行きましょうか? 命が巡り生まれる、その場所に……」(^_^)
ラスティ 「はい、お願いします、サフィさん……」(^_^)
サフィ 「ふふふ、あっちには、あなたの仲間がいっぱいいて賑やかよ〜。
     だから、カウジーが来るまでは退屈しないからね♪」(^〜^)v
ラスティ 「わたしの、仲間……ですか?」(・_・?
サフィ 「んっふっふっふっ〜♪ カウジーが来たら、みんなで一緒に苛めてあげましょうね♪
     今から楽しみ〜♪ るんらら〜♪」(^▽^)
ラスティ 「…………」(^_^;

ルーシア 「あのニンゲンが天寿を全うした時……、
       行きつく先は天国か地獄か……微妙なところだな……」(−−)