陣九朗のバイト 2ndエディション







「う〜ん、んまい!」

 誠は買ったばかりの焼き芋をほおばりつつ、家への道を歩いていた。

 現在、構築中のプログラムがちょっと行き詰ったので、気晴らしにと公園まで散歩に出た。

 少しの期待とかなりの恐怖を胸に、公園内を見回してみたが……、
 残念なことに、あの双子の姿はなかった。

 母親であるみことの姿がないことに少し安堵した誠だったが、
(そういえば普段公園にいる時があるけど、仕事はどうしてるんだ?)などという、
比較的どうでもいい(わけでもないと思うが)疑問に首をかしげた。

 その疑問も、すぐ近くの通りから聞こえてきた、
『い〜〜しや〜〜きいも〜』のアナウンスに霧散したが……、

「このホクホクした食感がたまらん。やっぱりこの季節は焼き芋だよな〜」

 などと上機嫌で言っている誠だが、昨日、肉まんを食べてた時には、
『う〜ん、具がジューシーだぜ。やっぱり寒いときは肉まんに限るな〜』
とか言っていたので、なんだかなぁという感じだ。

 まぁ、こういうのを『食べてるときが幸せ』というのだろう(若干違います)。

 屋台のおっちゃんから買った2本の焼き芋を食べ終わった誠は、
包んでいた新聞紙を細かく折りたたんでコートのポケットに入れた。





 せかんど  「迷子な荷物」





「お、偉いな〜、ごみを持ち帰るのはいいことだ」

 突然、背後から声をかけられた誠だったが、聞き覚えのある声に笑いながら振り返った。

「ども、鈴香さん。ごみを持ち帰るのは当然ですよ」

 そこには、まごころ運ぶペンギン便ドライバー、風見 鈴香の姿があった。

「うんうん、でもその当然のことをしない若者が増えてるからねー。
おねーさんは悲しいよ」

「……どうしたんですか?」

 いつもと違い妙なテンションの鈴香に誠は首をかしげた。
 しかし鈴香は、満面の笑顔のままでこうのたもうた。

「ははっ! 気にしないで!
昨日、峠を攻めに行ってたんだけど、ハマリすぎて寝てないだけだから!」

「ドライバーがそんなんじゃダメでしょうが!?」

 誠のアイテムがハリセンなら、思いっきりツッコミが入れられていたであろう。

「津岡さんがいなくなって、張り合いのある相手が見つかんなくてね〜……、
と、そんなことはさておき、いいところであったわ、誠君」

 さておかれても困るのだが、いっても無駄な気がした誠は、とりあえず話を聞くことにした。 

 鈴香は離れたところに止めてあった運送用のトラックへと誠を連れて行った。
 そして、その荷台にあがり、整理された荷物群の中からひとつを手に取ってきた。

「これなんだけど……誠君、心当たりある?」

 そういって鈴香が渡してきた荷物を、誠は受け取った。
 平べったく、面積は広い……ちょうど、画集なんかが収まりそうな箱だった。

「――? これ、陣九朗宛じゃないですか」

 伝票に書かれた届け先の名前を見た誠は、不思議そうに聞き返した。
 そこには見覚えのない筆跡で『津岡 陣九朗』とはっきり書かれていたからだ。

「そうなんだけど……住所がねぇ」

 言われて誠は、届け先住所を確認した。
 そこには、とても見慣れた住所が書かれていた。

「うちの住所……」

「そうなのよ。おまけに送り主の名前も住所も無記名だから。
こういう場合、まず住所に書かれた連絡先に、そういう同居人がいるかどうか確認するんだけど……」

「まぁ、当然だけど、陣九朗は同居人じゃないし、しかも、まだ帰ってきてないですからね」

 二日前、チキから陣九朗の帰還予定を聞いた誠だが、陣九朗はまだ帰って来てはいなかった。

「う〜ん、それじゃどうしよう……、
この場合、宛て先不明って事になるから、送り主に返送って事になるんだけど」

「肝心の送り主、無記名ですもんね。
会社として許可が降りるんなら、俺が預かりますよ?
たぶん、俺か陣九朗、どちらか宛でしょうから」

「そう? それじゃ誠君に受け取ってもらおっかな。
誠君なら、津岡さんと知らない仲でもないし。それじゃこれ、サインお願いします」

 そう言って鈴香は、上着のペンポケットからボールペンを取り出し、誠に渡した。
 誠は受け取り、伝票にペンを走らせる。

「ありがとうございました!
と、一応、津岡さんのところにも連絡いれておくね」

「あ、そうですね。お願いします」

「それじゃ〜ね〜♪」

 伝票の判取りを受け取った鈴香は、やたらと軽快でふらふらな足取りで車に乗り込んで行った。

「……まぁ、鈴香さんなら事故ることはない、か。
普段の方がよっぽど――」


 ギャリリリリッ!! グォォン!!


 目の前でロケットスタートをかました鈴香の車を、誠は目だけで文字通り見送った。

「あれだもんなぁ。積んでるまごころが壊れないといいけど」

 ぽつりと漏らした言葉は、誰にも聞かれずに風に流されていった……、





「お帰りなさいまーくん。
さっき、チキさんからお電話がありましたよ?」

 家に帰るなり、エプロン姿のさくらが誠を出迎えた。
 世の男性が泣いてうらやましがるような状況だが、当の誠はそれこそ慣れ親しんだ状況だ。

「ただいまーっと。チキさんなにか言ってたか?」

 照れるでも襲いかかる訳でもなく、ごくごく普通にそう返す誠だった。

「はい、『あれは誠さんが中身を確認してください』だそうです。
まーくん、あれって何ですか?」

「ああ、これのことだ」

 誠は、手に持っていた荷物をさくらに見せた。
 さくらは受け取ることはせず、誠が持った箱を確認した。

「あら、津岡さん宛ですけど、住所がまーくんのお家ですね?
なるほど、そういうわけですか」

 大体の事情を読み取ったらしいさくら。
 誠は荷物を脇に抱え直すと、自室のある二階への階段に足をかけた。

「少し部屋にいるから――」

「はい、お夕食ができたら呼びますね♪」

 彼らにとってこの辺りは、言葉も要らないほどだ。
 誠はさくらにほほ笑むと、二階の自室へと足を運んだ。





「―――っと、これくらいにしとこう」

 恐るべき速度でキーボードを叩いていた腕を不意に止め、誠は画面を流すように確認した。

「ん〜〜、もう少し簡略化できそうなんだけどな〜」

 部屋に入るなり、まさに唐突にプログラムのアイデアが浮かんだ誠は、
すぐさまそれをパソコンに打ち込んでいた。

「ふぅ……ん、そういえば」

 とりあえず現時点で浮かんだアイデアをすべて形にした誠は、
ベッドに置かれた宅配便の荷物に目をやった。

 なぜベッドのうえなのかと言えば、単純に机の上はプログラミングのための資料が山積みになっており、
かといって床にそのまま置いておくと、万が一にも踏みかねないからである。

「チキさんの許可は出てるし、開けてみるか。
 それに、もしかしたら俺宛かもしれないからな」

 その可能性は低いと思いつつも、誠は机の引き出しからハサミを取り出した。

 住所が我家とは言え、宛て名に陣九朗の名が書かれている。
 普通、住所の間違いはあれど、受け取って欲しい相手の名前を書き間違えることはまずありえない。

 誠は箱に十字にかけられていたビニール紐を切り取り、
ガムテープで綴じられた箱の一辺にハサミをあてた。

 ……ふと、動きが止まる。

「――まさか、危険物って事はないよな?」

 箱を目の前に、そんなことが頭に浮かんだ。

 送りそうな相手に心当たりは……とりあえずない。
 学校の男連中がトチ狂って送って来た物としても、だとしたら、宛て名を間違えるはずがない。

 ……陣九朗はどうだろう?

 誠の知る陣九朗は……「人」から恨まれるような人物ではなかった。

 だけど、「人」以外なら?

 エクソシストである芳晴の敵になるような「人ならざるもの」。

 陣九朗は昔……いや、今でも人に危害を加えモノたちには恐れられる存在だと、
誠は以前、ルミラに聞いたことがあった。

 しかし、人外が宅配便を利用するだろうか?

 利用したとして、なぜうちの住所がかかれている?
 説明は……つかない。

「ん〜〜、悩んでいても仕方ないか。
チキさんも、特に注意するようなことは言ってなかったみたいだし……大丈夫だろ」

 誠は気を取り直し、箱のガムテープに切れ目をいれた。
 箱の横一面を切り落とし、中をのぞく。

「……本?」

 重さとその形から、ある程度予想はしていたが……、
 誠は箱を逆さにし、滑らせるようにして中の本を取り出した。

 その本は厚さにして二センチ、黒革でコーティングされており、
表紙には金字で『獣』と一文字だけ書かれていた。

「まさか……『幻獣の書』? 陣九朗ならあり得るけど」

 と、一般人には極めて分かりにくい言葉を漏らし、誠はその本を開いた。







「ぐはぁっ!!? なんだこれはっ!」

 開いたページは、見開きで『猫耳をつけた体操服(ブルマ)姿の女の子が、
上着をまくり上げて口元を隠している』
というものだった。

 あらわになったおへそと、上着からこぼれそうな下乳が目を引きまくる。

「……おい、これってもしかして」

 ――そこで誠は気が付いた。
 ――通常なら気がつかないものに。

 それはある意味『誠だから』気がつけたのかもしれない……、

「まさか……本物?」

 意を決して、誠はページをめくった。

「――ぐはっ!」

 そのページは『セーラー服を着たキツネ娘が羞恥に顔を染めながらも、
スカートの前を捲り上げている』
という、ある種の人間なら床を転がり回るような写真だった。

 幸か不幸か、誠はどちらかというと「猫属性」なので、その攻撃(?)に耐えることができた。

 しかし、この写真では疑問を解決するに至らない。

 そこで、しかたなく!
 誠はまたページをめくった。

「……ぐっはぁ!!」

 『コウモリのような羽を生やし、羊のような角をつけた全裸の少女が、
ベッドの上で胡座をかき、挑発するように自分のしっぽに舌を(以下略)』

 前二枚の、比較的ソフトなものからのこの連撃……、

 とりあえず誠はいろんな意味でダメージを受けた。

「と、とにかく、これがどういう本なのか解り過ぎるほどわかった」

 鼻にティッシュをを詰めながら、誠は我知らずつぶやいた。

 それすなわち――
 『本物のけもの娘によるちょっぴりいかがわしい写真集』――

「まさか、陣九朗にこんな趣味が……あれ?」

 誠は、件の写真集に紙切れが挟まっていることに気が付いた。

 少し躊躇してから抜き取る。
 どうやら手紙らしい……?

「俺宛の手紙?」

 誠は紙に書かれた文に目を落とした。


『藤井君へ――

 やぁ、直接会ったことはまだないな。
 私は陣九朗の父親の新朗太だ。
 会うことがあれば、気軽に新ちゃん♪とでも呼んでくれ。
 まず、いきなりの荷物で驚いたと思うが、これは君にあげよう。
 陣のやつに聞いたが、猫娘に興味がある様子じゃないか。
 そこで、愚息が世話になった礼に本物を教えてやろうと思ってな。
 希望があるなら本だけじゃなく『生身』でもいいぞ?
 ……ああ、名前が愚息のものだった理由か?
 物が物だけに、彼女たちに開けられないよう、念を入れてな(にやり)。
 陣の奴にはこれのスペシャルバージョンを贈っておいたから、ぜひ見せてもらうといいぞ』



「…………陣九朗」

 誠は複雑な表情で今は遠くにいる友の名をつぶやいた。

 それは「親父さんになに吹き込んだ!」という怒りと、
「お互い、親には苦労するな」という同情が入り交じっていた。

「――ん? まだ続きがある?」

 てっきり終わりだと思った手紙だったが、下のほうに小さく何か書いてあった。

『それから、この紙が挟まっていたページから先の五枚は見ない方がいいぞ。
どちらかというと、陣の奴向けだから』

「…………(ごくっ)」

 手紙からゆっくりと写真集へと目をうつす。
 それはすでに閉じられており、一見してどこに手紙が挟まっていたか解らない。

「『見ない方がいい』っていうのは、『見てはいけない』とは別物だよな?」

 などと呟きつつ、誠はゆっくりと、手紙が挟まっていたであろう部分に手をかけ……開いた。

「……GUHA!!」

 もろ好みな写真にぶち当たり、思わずのけぞる誠だったが、
鼻ティッシュを真っ赤に染めながらも耐えた。

 手紙に『五枚』とあったことから、連作物だと考えられる。
 とすると、この写真ではないらしい。

 あふれ出る好奇心に身を任せ、誠はさらにページを――

「藤井さん!!」
「まーくん、無事ですか!?」

 めくる直前、ものすごい勢いで部屋の扉が開かれ、チキとさくらが走り込んできた。
 思いっきり驚き、しかし動きの止まっている誠に二人の視線が集まる。

「どうやら、危険物じゃなかったようですね。
その可能性も考えて、念のため来てみたのですが……」

「扉をノックしたのに返事がありませんでしたし……」

 どうやら、誠が煩悩と戦っている間に扉はノックされていたらしい。

「で? その本は――!?」

 何かに気づいたチキが、光を越えるんじゃないかな〜というスピードで、
いまだ固まり続ける誠から写真集を奪い取った。

「なんですか? ――こ、これは!?」

 内容を確認するチキと、それを横からのぞき込んださくらの顔が真っ赤に染まる。

「い、いや、これには海よりも深いじじょ――」

 誠が口を開きかけてすぐに、
チキが手にした写真集をさくらに渡し、達人の動きで誠の懐に入り込んだ。

「……見ましたか?」

「な、なにを?」

 チキは顔を伏せて目線をあわせず、しかし、自分の胸に添えられた手に、
さくらの虎砲並みのプレッシャーを感じた誠は、 やや引きつった声でたずね返した。

「あの本、どこまで見ました?」

「ぜ、前半の数ページだけデス」

 それを聞いたチキが顔を上げた。

 見たことがないほどの冷たい瞳……、
 それが不意に緩んだ。

「ならいいです。あとは……さくらさんにまかせます」

 そういってチキは、真っ赤な顔で、それでも見るのをやめないさくらから写真集を奪い取ると、
作り出した空間の裂け目に投げ込んだ。

「これはお預かりしますが、異存はありませんよね?」

 ゆっっっっくりと、幽霊……、
 いや、死神を思わせる動作で振り返りつつ言うチキに、誠はこくこくと首を縦に動かしまくった。

「それではさくらさん、後はお任せ致します……、
皆さんには私から連絡を入れておきますので、ごゆるりと」

 それだけ言うと、チキは静かに部屋を……藤井家を後にした。








 その夜、いつもの五割増ぐらいでずたぼろになった誠が、
自室の窓(二階)から飛ぶ所と、それを追いかける四人のけもの娘の姿が目撃された。

 さらに、陣九朗が帰って来て数日後、
誠のマシンガンに祝福済みの銀の弾丸が装填された。


 ――共通の敵ができたらしい。





えんど


最後にあるから「あとがき」っていうんですよ?(疑問形)

津岡帝音(属性・獣)

 そういえば、まーくんはおにゃのこに囲まれてますが、その、あっちの処理はどうしてるんだろーかと。
 過去作品から、エロ本を持っているというのは事実みたいですし〜。

 ――え? 陣ちゃんですか?
 そこはそれ、そのうち……、(逃)

 む〜、まだまだ煩悩では(誰とはいいませんが)かの人たちには勝てないようですw
 それではまた〜〜。(Secret Jam Session GOF-Mixを聞きながら)

2002/11/11に更新♪


<コメント>

誠 「……本当にいるモンなんだな〜」( ̄△ ̄)
ルミラ 「あら? 何のこと?」(・_・?
誠 「コスプレとかじゃない、本物のケモノ娘のことですよ」(^_^;
ルミラ 「……何を今更、そんなこと言ってるの?」(−o−)
誠 「――はい?」(・_・?
ルミラ 「あなた、もう実際にケモノ娘に会ってるじゃない?」(−o−)
誠 「あれ? そうでしたっけ?」(−−?
ルミラ 「ウチの『たま』よ」(−o−)
誠 「言われてみれば……でも、たまは『ケモノ娘』というよりは……」(−−;
ルミラ 「ケモノそのものですものね〜。
     さすがに、あの子じゃ、猫属性の誠君の琴線には触れないかしら?」(^_^;;
誠 「……猫属性っていうのは、勘弁してください」(;_;)


メイフィア 「ところで、あの本の『例の5ページ』ってどんなものだったの?
       まあ、だいたい想像はつくけど……」(^ー^)
チキ 「……ノーコメントです」(−−メ