Ａｉｒ　ＳＳ

heavenly transmigration

　……っく……、
　ひっく……っく……、

「ねえ、どうしたの……？」

　女の子が話しかける。

　目の前にいる……、
　「羽根を持った少女」に……、

　うぅ、っく……ひくっ……、

「――泣いてるの？」

　少女は泣いていた。
　一体、いつから泣き続けているのだろう。

　羽根を持った少女は、
目の前にいる女の子のことに気づいていない。

　そして、誰なのかも知らない。

　でも、女の子の方は、この羽根の少女の事を知っていた。

　昔から……、
　そして、今も、ずっと……、

「――私、観鈴。よろしく。」

　それでも羽根の少女は泣き続ける。
　困り果てた女の子はいつもの口癖を発していた。

「が、がお……」

　と、その声に気づいてかどうかは分からないが……、

　羽根の少女は、泣くのを止め、
自分の横に立つ少女を見つめていた――








　ここは空の上だった。
　といっても天国では無い。

　純粋に空の上――

　周りには白く美しい積乱雲が聳え、青い空が無限に広がっている。

　その空の上を歩いている、２人の女の子がいた。

「私、神尾観鈴。貴女の名前は？」

「……神奈備命」

「かんなびのみこと？」

「……そうだ」

「難しい名前なんだね……何て呼べばいいかなあ？」

「……神奈、で良い」

「神奈ちゃん……うん、わかったよ」

「では、私の方は……観鈴、と」

「うん、それでいいよ」

　２人の女の子は、
ゆっくり、どこへ行くでもなく歩いていた。

　お互いに無言の時間が続く。

　２人は歩くのを止め座っていた、
　――空に。

　普通ならあり得ない話だが、
観鈴と神奈という少女達は"特別"だから。

「「あの……」」

　観鈴と神奈、２人同時に声をあげた。
　流石に、ずっと何も話さないのは辛かったらしい。

「か、神奈ちゃんの方から先に言って」

「いや、観鈴、そなたの方から言うがよい」

「別にいいよぉ。神奈ちゃんからどうぞ」

「私もいいと言っておるだろう。観鈴の方から申せ」

「えっとね、じゃあ……、
どうして、貴女は泣いていたの？」

「…………」

　神奈は、また黙ってしまった。

　が、その様子を、淋しそうに、
見つめる観鈴の目に負けてゆっくりと口を開いた。

　自分が翼人で、ずっと母を探していたということ――
　命を狙われていたこと――
　再会した母が射られた矢によって亡くなったこと――
　自分も同じように矢を、呪を、浴びせられたこと――

　そして、呪によって、
一番大切な人が死ぬ幻想を、何度も見ているということ――

　全てを話し終ったとき、観鈴は泣いていた。

「お、おい観鈴、泣くでない。そなたの事では無かろうに」

「でも、でもやっぱり可愛そうだよ。
神奈ちゃんは何も悪いことなんてしてないのに……」

「そう、だな……、
でもそうやって畏怖され、妬まれるのが翼人の定めみたいなものだから……」

　泣きじゃくる観鈴の頭を撫でながら神奈はそう言った。

「さて、次は私の方から質問してもいいか？」

「うん……いいよ」

　観鈴はまだ少し涙声だったが、頑張って頷いた。

「では、どうして観鈴はこのような所にいるのだ？
そもそも、そなたは何者なんだ？」

　観鈴は神奈の事を知っていても、神奈は観鈴の事を知らない。

「私は……思いを紡ぐ者。
貴女の為に、貴女を救う為に。
その悲しみから解き放ってあげるお手伝いをする者なの」

　神奈にはその意味が理解できた。

　この観鈴と言う少女も、
かつて何度も私の元へ"思い出"を届けに来てくれた人達の１人なのだと。

「そうか……、
でも、誰にも私を救う事など――」

「――出来るよ！」

　観鈴は叫んでいた。

「どんなに辛くても、苦しくても、悲しくても、癒えない傷は無いんだよ！」

　半泣きになりながらも続ける。

「私だって、昔はずっとひとりぼっち……、
私は変な子だから、友達が出来そうになると癇癪おこすような子だったから。
寂しくない、辛くない、ってずっと我慢して、悲しい心をずっと隠してた。
そして、影ではずっと傷ついてた。でも！　今年の夏は違ってた！
往人さんがいて、そらがいて、お母さんがいた！
寂しくなかった、辛くなかった。
癇癪を起こした事もあったけど、それでも、皆、傍にいてくれた。
そしたら、いつの間にか悲しくなくなってた、いつも笑ってた、笑っていられた。
心の傷なんてどっかに吹き飛んじゃってた！」

　もう観鈴は泣き止んでいた。

「だから、神奈ちゃんだって出来るよ。その為に、私はここに来たんだよ」

　観鈴の周りが光に満ちた。
　そして、彼女の手元には大きな光の塊が。

「私から神奈ちゃんへ。
私の思い出、最後の夏の、一番の思い出」

　その光は観鈴の手から神奈の手へと、渡された――








　夏の始まり、綺麗なカラスに私は出会った。

　夏の始まり、堤防で爆睡する貴方に私は出会った。

　夏の始まり、私はカラスに名前をつけた。

　夏の始まり、貴方と一緒に学校まで歩いた。

　夏の初め、カラスはいつも傍にいてくれた。

　夏の初め、貴方は友達のいない私と遊んでくれた。

　夏の初め、倒れた私をカラスは心配そうに見つめてくれた。

　夏の初め、倒れた私を貴方は必死に励まし続けてくれた。



　――そして、貴方は、私の為に光となった。



　夏の只中、諦めそうな私をカラスが応援し続けてくれた。

　夏の只中、カラスの貴方は、最期に私に勇気をくれた。

　夏の只中、お母さんが一緒にいてくれた。

　夏の只中、お母さんの事を忘れても変わらず優しくしてくれた。

　夏の終わり、お母さんともう離れないと決めた。

　夏の終わり、お母さんに初めてプレゼントを貰った。

　夏の終わり、苦しそうな私をお母さんは最後まで心配してくれた。



　そして、沢山の思い出と共に――
　私は大空へと旅立った―――



「これが、観鈴の思い出か……暖かいな」

　神奈は目を瞑り静かにそう言った。
　そして、神奈の体がうすく光りだした。

「乗り越えて、神奈ちゃん！
悲しみを……全て……！」

　神奈から発せられる光は更に強くなり、そして、弾けた。

　観鈴が目を開けると、
さっきまでと同じように神奈がその場にいた。

　しかし、その顔は心なしか明るくなったように思える。

「礼を言う、観鈴……、
私は、呪を乗り越え、解放された。そなたのおかげだ」

「そんな、別に……んっ？」

　空から、いや、ここも空だから表現としては正しくないが、
観鈴達の更に上の空から白いものが舞い降りてきた。

「……雪、かな？」

　観鈴はその落ちてくるものを掴んだ。

　――羽根だった。
　空の雲よりももっと白い美しい羽根。

　と同時に、観鈴は神奈にあった羽根が無くなっている事に気づいた。

「ようやく私も終わりの時を迎えられそうだ」

「もう大丈夫？　寂しくない？」

「ああ、私を待つ者もいるからな。
そして、観鈴にも……ほら、迎えが来たぞ」

　神奈が指をさす方向を見る。
　空の青や雲の白に交じり合わない黒。

　黒いカラスが２人のもとへとやって来る。
　そして、観鈴の肩に止まった。

「そら……？　そらなの？」

　カラスは首を横に振った。

「……往人……さん？」

　ゆっくり優しくカラスは頷いた。
　そして、彼女の肩を降り、空から降る羽根の１枚を口に銜えた。

　カラスは先ほどの神奈と同じように発光し、
次の瞬間、その姿は国崎往人、その姿になっていた。

「――往人さんっ！」

　観鈴が飛びついた。
　往人は、観鈴の頭を撫でながら神奈の方を向いた。

「アンタが俺の……、
いや、俺達の探していた少女ということか」

「そうだ。そなたにも礼を言う。私は呪縛から逃れられた。
観鈴と往人、そなたたちの思い出は私にその力をくれたのだ。
これで長かった私の時間も終わりだ。」

「いいのか？　また１人になっても大丈夫か？」

「ふふ、そなたと観鈴は同じ事を言うのだな。
私は大丈夫だから。待つ者がいる」

「そうか、じゃあ、俺と観鈴も、これでゴールというわけだ」

　往人は優しく笑った。

　しかし、神奈は首を横に振り……、

「いや、そなたらの物語はこれから始まるのだ」

　……そう告げた。

「んっ？　それはどういう――」

　と、往人と観鈴の周りに羽根が集まり始めた。

「私からのせめてもの礼だ。
もう一度、２人、共に同じ道を歩むがよい」

「神奈……」

「神奈ちゃん……」

　往人と観鈴は、
羽根に包まれながら下へと降りていく。

　そして、見えなくなった。

「――往人、観鈴、２人とも幸せにな」

　神奈はそう呟いた。








　そして、間もなく……、
　雲の向こうから、あの２人がやって来た。

　神奈の元へゆっくりと近づいてくる。

　神奈は、その２人の元へと走っていった。








　消える飛行機雲――
　追いかけて追いかけて――


　雲だけが身近にあった日々は終わった――


　早すぎる合図――
　２人笑い出してる、いつまでも――


　駆け出す途中でこけてしまった。

　２人は笑う。
　何と失礼な者たちだ。


　真っ直ぐに――
　眼差しはあるように――


　私は２人をじっと見つめる。
　やっと再会できた。

　私の愛する人と私の大切な人。


　汗が滲んでも――
　手を離さないよ、ずっと――


　２人の手を握る。
　繋いだ手は、もう離さない。

　これからはずっと一緒だ。

　裏葉……柳也……








　そして、３人は――
　空の果てへと還っていった――








　気がつくと俺は海岸にいた。
　横には小さな女の子、と言っても俺も小さいのだが。

「――見に行こう」

　俺は彼女にそう言った。
　彼女は頷き俺と手をつないで歩き出した。

　堤防には１人の女の子が横で寝ている青年が起きるのを待っていた。

　これが全ての始まり。
　星の瞬きの様に短く、永遠の様に長い夏の始まり。

　彼らには、過酷な日々を――
　そして、僕らには始まりを――

　下ろした手を固く握る。

「じゃ、いこうか、美鈴」

　彼女が先に立って、待っていた。

「うん、幸人さん」

　そして、俺たちは歩き出す。

　手を繋ぎ……、
　これから始まる楽しく優しい時間へと。

　――飛行機雲が流れていた。

　美鈴が何かを口ずさむ。

「消える飛行機雲、追いかけて……」

「何の歌？」

　美鈴は嬉しそうに答えた。

「あのね――」







　夏は、どこまでも続いてゆく――

　青く広がる空の下で――
　彼女が待つ、その大気の下で――








＜ｆｉｎ＞

後書き

　久々にＳＳ書きました！
　とっても疲れましたね。

　要はＡＩＲ後日談ですね。

　ハッピーエンドでしめました。
　拙かったり矛盾があっても気にせず読んで下さいな。

　このＳＳ書く為に、ＡＩＲ再プレイして、また泣きまくった朱い月なのでした♪

＜コメント＞

往人　「――おい、誠っ！」（￣□￣）
誠　「往人さん……？
　　　どうしたんですか、そんなに慌てて？」（・＿・？
往人　「人形劇の新ネタが出来たから、ちょっと付き合え」（−ｏ−）
誠　「新ネタ、って……、
　　　どうして、俺の周りって、こ〜ゆ〜のばっかり……」（Ｔ＿Ｔ）
往人　「むっ？　どうした？」（・＿・？
誠　「いえ、別に……、
　　　それで、どんなネタなんですか？」（−−？
往人　「当然、ツッコミ漫才だ！
　　　　お前がボケて、俺が人形でツッコむ！
　　　　間違いなく大ウケで、ウッハウハだっ！！」＜（＾▽＾）＞
誠　「漫才って……具体的なネタは？」（−−；
往人　「抜かりは無い……、
　　　　　ちゃんと、旅先で、協力者を見つけた」（￣ー￣）ｂ
誠　「それって、まさか……」（；＿；）

楓　「……ぶい」（−−）ｖ

誠　「いやだぁぁぁぁーーーっ！！」（Ｔ△Ｔ）