月姫 & 空の境界 SS
magic eyes union
魔 眼 同 盟
「幹也、飯食いにどっか連れてけ」
これが、私の第一声だった。
最近、金欠でろくなものを食べていない私は、久々に尋ねてきた、
その友人、いやもう、世間的に言う“彼氏”……やっぱこの響きは照れるな……にそう言い放った。
「どっかって……どこがいいんだよ、式は」
確かに、この言い方では選択肢が多すぎたな。
「そうだな……じゃあ、アーネンエルベはどうかな?」
“遺産”という意味の名を持つ喫茶店。
陰気そうな店だが、結構、繁盛している。
「う〜ん……」
幹也は財布の中を確認する。
そして、笑顔で……、
「オッケー、じゃあ行こうか」
と、幹也は私の手を引っ張る。
なんで、こいつは、こう……、
私が何も言えなくなるような行動ばかり……、
まあ、でも、別にいやでは無いか……、
「さて、今日はどうしようかな?」
大通りに出た俺は、今日の行動を考えていた。
休日、屋敷で、のんびり過ごすのも、
魅力的だが、たまには、外に出るのもいいだろう。
「アルクェイドはダメっぽいしなあ」
先ほど、アルクェイドのマンションに行った所、
彼女はこっちが入ったことに気付かない位爆睡していた。
「じゃあ……晶ちゃん誘って昼食に行きますか!」
というわけで、俺は秋葉の後輩の瀬尾晶ちゃんの所へと電話した。
「え、いいんですか!? 行きます、絶対行きますっ!!」
と、2つ返事で了解してくれた。
「財布の中が不安だけど、まあ、大丈夫かな?」
俺は晶ちゃんと待ち合わせて、目的の喫茶店へと向かった。
アーネンエルベ……、
ドイツ語で「遺産」という意味らしい。
――私と幹也は店へと入った。
今日は珍しく客足もまばらで、
私たちを除けば3組くらいしかお客はいない。
仕事の打ち合わせで居座っていると思われる2人のスーツ姿の男性。
部活帰りの中学生らしき人達。
それと高校生位の男と中学生位の女の子。
「人が少ないな。まあいいか、適当に座ろう」
幹也に促し席に座る。
丁度向かい側が、そのカップルの座っている席だ。
「じゃあ、僕はコーヒーでいい。
あんまり空腹じゃないし。式はどうする?」
「そうだな、オレは……」
私はここぞと少し多めに注文した。
幹也も少し驚いていたが別に気にとめていない様子。
「金は大丈夫なのか?」
「心配ないよ。余裕はあるから。」
幹也と2人注文した品を待つ。
少し前までは、
手に入らないと思っていた穏やかな時間――
それが、今、目の前にあった――
晶ちゃんは、頼んだラズベリーのパイを美味しそうに食べている。
「いいんですか、志貴さん。私ばっかり食べちゃって。
志貴さん、1つしか食べてませんよね?」
「ああ、いいよ。もとから小食だし。
それに晶ちゃんが元気に食べてる姿を見てたら、
嬉しくてそれだけでお腹いっぱいだよ。」
と、晶ちゃんは急に顔を赤くして顔を下に向けた。
「どうしたの? 俺、何か変なこと言った?」
「べ、別に……なな、なんでもありません」
しばらく、晶ちゃんはそのままだった。
本当に、何かまずい事でも言ったのだろうか?
食事も終わり、私と幹也はとりとめも無い話を始めた。
「そういえばさあ……、
こないだ、橙子さんが妹の名義で何か色々買ってたよ」
「色々って?」
「ヤバそうな薬品とか、明らかに髑髏マークのついている瓶とか……、
で、全部冷蔵庫の中に……」
「はあ……だから生活感無いんだよ、トウコは」
話の種は蒼崎橙子……、
幹也や私のいる事務所の人間である。
それにしても、本来、姿を眩ましているのに、妹名義で買い物などしたらバレるのでは……、
まあ、私には関係の無い話だが……、
「そういえば、志貴さんの眼鏡って、誰かからの貰い物でしたよね?」
「うん、先生から。あっ、先生って言うのは、
学校のじゃなくて子供の頃に会った蒼崎青子って人のこと」
あの出会いがなければ、
今頃、俺はどうなっていただろうか……、
「じゃあ、その眼鏡のおかげで、
志貴さんは普段は問題なく生活できるんですね?」
「そう。晶ちゃんの未来視みたいに、
突然、発動するものじゃなくて、俺のはいつも働いているからね」
「志貴さんの眼の能力ってどんなのでしたっけ?」
今、ここで――
2つの道が1つになった――
「――直死の魔眼って言うんだよ」
この名前はあの白いお姫様に教えてもらった名前。
「えっ……直視の魔眼?」
「直視じゃないよ。う〜ん、分かりやすく言うと……モノの死にやすい線が見えるってこと」
「何か物騒ですね……」
「だから、凄く怖かったんだよ。
でも、先生のおかげで、今もこうして俺はマトモに存在しているから」
「その先生に感謝しないといけませんね」
「そうだね……」
「――な、に?」
今、確かに『直死の魔眼』と聞こえた。
自分に関係のある事は、
よく聞こえるというのも人間の面白い特徴である。
どういうことなのか?
何故、向かいの男はそんな単語を知っているのか。
まさか、本当に……、
「いや、そんなことはないよな」
自分にそう言い聞かせたがやはり気になる。
「どうしたの、式? 何か真剣な顔をして」
「いや、別に……」
あの男が、1人になった時に、聞いてみるとするか……、
「じゃあ、そろそろ出ようか。
晶ちゃんも寮に戻んないといけないだろ」
「そうですね、少し寂しいけど、時間だから仕方ないですよね」
2人で席を立つ。
というか、何か向かいの女性が、
こっちをじっと見てくるので、何か居辛かったのである。
「一体どうしたんだろうか……」
そう呟きながら、俺は会計の方へ歩いていった。
2人が立ち上がり行ってしまった。
私はいてもたってもいられない。
「そろそろ行こうぜ、幹也」
ぐいと幹也の手を引っ張る。
あの男に話を聞かねば。
「わ、ちょっと待って。今、行くから……、」
幹也を強引に立たせて、私も店を後にした。
町の大通りで晶ちゃんと別れる。
あまり、店に長居したつもりは、
なかったんだけど、もう、あたりは茜色の空。
「それでは志貴さん、また……」
「ああ。また時間のいい時に、どこか遊びに行こう」
「はい! また誘ってくださ――」
突然、晶ちゃんが立ち眩みをし、自分の方へと倒れかかってきた。
「だ、大丈夫――?」
「――ん? どうしたんだ?」
物陰から、2人を見ていた私も、女の子が倒れかかるのを見た。
幹也も数分ほど前まで、行動を共にしていたのだが、
トウコから緊急の呼び出しがかかったらしく、ついさっき別れた。
行動を共にしていたと言っても、
はじめから、こうやって彼らを見ていたわけではない。
幹也と別れてからである。
「まあ、もう少し様子を見てみるか」
「志貴さん! 路地裏だけは……路地裏にだけは行かないで下さい!!」
我に返った晶ちゃんが、俺に必死に訴える。
「何か……視えたの?」
「は、はい……」
「――何が?」
「その……志貴さんが2人いて、戦ってる未来が……、
それで……多分、志貴さんの方が刺されて……」
晶ちゃんは、今にも泣きそうである。
そこまで、リアルに視えたということか。
「分かったよ。路地裏には行かない。安心して」
晶ちゃんの頭を撫でる。
少し気持ちが落ち着いたようだ。
「さあ、寮の友達が心配してるだろうから、早く戻った方がいいよ」
「は、はい、じゃあこれで……、
あの……絶対に行っちゃダメですよ」
俺は2つ返事をして晶ちゃんと別れた。
「さて……じゃあ、俺も行かなきゃな」
俺はポケットに「七ツ夜」が、
入っている事を確認し路地裏へと向かった。
男が女の子と別れ、歩いていく。
その表情が一瞬見えたが……、
先程とは打って変わって真剣そのものだった。
「あの男は、一体何なんだ?」
それが、率直な感想だった。
喫茶店での表情とは違う。何か鋭い棘のある顔。
……何故か不安になった。
「とりあえず、1人になったみたいだから行くか」
私は、男の後をゆっくり歩いていった。
――俺は路地裏に到着した。
辺りは闇に溶け、
空には月が浮かんでいる。
俺は辺りを見回し、独り言のようにつぶやいた。
「隠れてないで出て来いよ。七夜……志貴!」
目の前にある壁、いや、ビルの屋上を見る。
俺と同じ格好、同じ顔をした男が静かに立っていた。
七夜志貴――
俺が最も恐れる存在――
「ほう、鋭いな志貴……俺がここにいるとよく分かったな」
「なぁに、俺の力じゃ無いさ。でも、それはどうでもいい。
まだ、タタリの残り香が存在してたなんてな」
「ああ、全く俺を起こすとは……、
よく分からん奴だ、殺されるとも知らずにな」
七夜がナイフを構える。
俺もそれに従いナイフを取り出した。
「これが最後の後始末だ。闇に還れ、七夜志貴!」
「ま、それもいいが。俺はお前を殺す。
今の俺の目的はそれくらいだな。お前の後釜になってやるよ!」
2人ともメガネを外した。
そして――
七夜がビルから飛び降りた――!
私は路地裏の隅にいるが、いまいち現状を把握できずにいた。
目の前では同じ顔の2人の人間が殺りあっている。
得物は同じナイフである。
「しかも……奴ら本当に直死の魔眼を……」
間違いない……、
2人を見ると互いに間違いなく「死」の線を狙っている。
常人には分からないモノの「死」の線を。
私は無意識のうちにナイフを構えていた。
でも、何の為に?
どちらと戦う為に?
戦闘は一進一退のようだが、どうやら少し七夜という男の方が有利のようだ。
体術的に優れている。
では、私はもう1人の男に加勢すればいいのか?
明らかに七夜という男は人間では無い。
動きも人間業では無いし、それに……、
「どこか……変だな……」
確かに、七夜という人間は、あそこに存在している。
しかし、何かが違う。
見ているうちに、どんどん、もう1人の方が劣勢になっていく。
体力的にも限界のようだった……、
「おいおい、どうした殺人貴。お前の力はこの程度か?」
目の前にいる敵、七夜志貴が俺を罵倒する。
しかし相手は七夜の体術だけでなく、直死の魔眼さえも持っている。
本来七夜志貴が持たないはずの直死の魔眼……、
やはり俺自身、この眼を恐れているということか。
「くっ……まだだ!」
俺は立ち上がる。
七夜志貴はほう、と声を上げる。
「流石だな。ま、お前にも七夜の体術の一部は自然と体に染み付いているからな。
だが、お前では俺には勝てん」
ナイフを構える七夜。
元々静かだった路地裏が更に静まっていく気がした。
「じゃあな、遠野志貴!」
七夜はナイフを高らかと空に構え、そして……、
「極死――」
ナイフを投げてくる。
それを受け流そうと俺も構える!
「七夜――!」
七夜が視界から消えた。
気付くと俺の頭上辺りまで飛び込んできていた。
「やばいな、あれは――!」
私は直感で判断した。
あの投げたナイフは……、
あくまで眼晦ましの牽制、本命はおそらく……、
「やっぱりか!!」
七夜が跳んだのが分かった。
しかし、おそらく……、
遠野志貴と呼ばれた、その男は気付いていない。
ナイフのせいで七夜の事を見ていないから。
ここで放って置けば、あそこの遠野志貴という男は間違いなく死ぬ。
別に私には関係の無いこと。
彼と会っている時の先程の女の子の笑顔が思い出される。
本当に何も……しなくて……いいのか?
幹也に「君を許(はな)さない。」と言われて以来、
殺人衝動も殆ど消え、殺す殺さないなどと言う世界から徐々に離れつつあるというのに。
本当に私には関係の無いこと。
でも、私の心は、そう思う前にもう動き始めていた――!
「ちっ! 何で俺が!!」
私はいつの間にか飛び出していた。
2人の殺人貴の真っ只中に。
「えっ……?」
気付いた時にはもう遅い。
七夜は俺の首を獲ろうと構えている。
諦めかけたその時……、
ズンッ、と何かの衝撃が走り俺は横の方に吹っ飛ばされた。
「――んっ?何が起こった?」
七夜の不思議そうな声が聞こえる。
それは俺も同意見だ。
そして、顔を上げると自分の前に、1人の女性が立っていた。
着物の上にジャンパーを着た、どこか不思議な感じのする女性。
「おい、お前……あの程度の技も読めないのか?」
いきなり怒られた。
そんなことを言われても……、
「誰だ、貴様……」
七夜がその女性に尋ねる。
「両儀……式……」
女性はそう名乗る。七夜は興味を持ったらしい。
「ほう、両儀の家の者か。
なるほどいい腕をしていそうだな。」
「殺ってみるか?」
両儀式と名乗った女性も、七夜のようにナイフを構える。
何となく凛々しい感じがする。
「遠野志貴といったか? 1つ聞いていいか?」
両儀さんは俺にそう聞いてきた。
「あの男、人間か?」
私は遠野志貴に聞いた。
先ほど感じた違和感の正体を知る為である。
もしも、目の前の敵が、
妖のようなモノであれば殺してもさして問題は無い。
「人間だけど人間じゃない……、
あれは、俺の恐れるもの。それが具現化した姿だ」
何となく少し予想していた答えが返ってきた。
ならば……、
これで何も躊躇うことは無い――!
私は相手を凝視し、線を視る。
具現化したものとはいえやはり線は存在する。
「俺も戦うよ……」
遠野志貴が立ち上がる。
こうやって見ると顔だけなら幹也に少し似ているな。
「全く、そんな体で殺れるのか?
直死の魔眼を持っていても戦えなければ意味が無いだろ?」
「ちょ……なんで、直死の魔眼を?」
私は遠野志貴の方に振り向いた。
私の持つ青い眼。
それを見て彼も納得したようだ。
「魔眼持ち2人との殺し合いか。中々興味深い」
七夜が少しずつ距離を詰めてくる。
私と遠野志貴もそれに合わせて歩き出す。
「さあ、殺しあおう――!」
七夜が一気に踏み込んできた――!!
正直、圧巻だった……、
両儀式は七夜並み……、
いや、七夜以上の動きで戦っている。
互いのナイフが擦れ合う。
「ちい、やるな! 両儀の女!」
七夜は一歩下がって体勢を立て直す。
それをすぐに追う式。
俺も極力、彼女の邪魔にならないように七夜と戦う。
晶ちゃんの未来視では、俺は死ぬことになっていたが……、
彼女の参入により、その可能性は皆無となった……、
――そして、決着。
結局、攻め込みの殆どは私だったが、トドメは遠野志貴が刺した。
「自分の始末は自分でつける」
ということだった。
そして、彼の恐れる、
具現化された存在は完全に消滅した。
彼曰く……、
「漸く幻影の夏が終わった」
……ということだそうだ。
私にはよく分からないが……、
さて、それから――
どうなったのかというと――
俺は久々に外食する事にした。
晶ちゃんに電話して家を出る。
「――っと、忘れてた」
外に出てしまったので、公衆電話を使うことにした。
「もしもし、両儀さん? 飯食いに行きません? 幹也さんも誘って。
あ、でも、お金はそんなに余裕無いですからね」
「んっ……わかった……幹也にも……伝えておく」
どうやら寝起きだったらしい。
こんな天気のいい日に家に篭ってるのは良くない。
両儀さんも誘わないと、あの人あんま外に出なさそうだからな。
晴天の空の下、俺は晶ちゃんと、
新しく出来た2人の友の下へと歩いていく。
志貴の奴、誘っておいて遅れるとは……、
幹也は気にすること無いというが甘いんじゃないか?
今、私は幹也と、遠野志貴と、
瀬尾晶というこの間の女の子と一緒に食事をしている。
何だか友人が増えて賑やかになった気がする。
でも、こんなのもたまには悪くないかな?
「すいません。ケーキ追加で」
「あ、私もお願いします♪」
私と晶は追加でオーダーする。
志貴が財布とにらめっこしていて面白い。
幹也も半分出すと言ってるから心配ないはずだが……、
新しい友人が出来た。
私の生活は、これからも賑やかになっていきそうである。
ちなみに――
先日の幹也の橙子に呼ばれた用事が――
「魔眼殺しの眼鏡を見かけたから見つけたら持ち主を捕まえろ」
という話で、それを阻止する為に――
赤い髪のトランク持った女が襲来し、
美咲町が物凄い事になるのは、もう少し後のお話。
<fin>
後書き
「月姫」+「らっきょ」っていう感じで書きました。
久々のSSです。とっても疲れました。
最近は自分のHPのオリジナル小説書くのに忙しいからねえ。
因みに題名の「magic eyes union」は直訳で「魔眼同盟」です。
私は英単語暗記苦手なので、この題に間違いがあっても許して下さい。
本当は、もうちっとバトルシーン長くしたかったですが、
それやると、バトルシーンが全体の2分の1になってしまうのでやめました。
では、私は理想を抱いて眠りにつきます。(笑)
<コメント>
アルクェイド 「…………」(・○・)
志貴 「どうした、アルクェイド?
いつにも増して、間の抜けた顔して……」(−−?
アルクェイド 「むっ、何よそれ……、
ちょっと呆れてただけじゃない」(−−メ
志貴 「呆れるって……何を?」(・_・?
アルクェイド 「まさか、こんな極東に……、
直殺の魔眼能力者が二人もいるなんて……」(−−;
志貴 「ああ、なるほど……、
しかも、名前も同じ『シキ』だしな……」(^_^;
アルクェイド 「訊いた話じゃ、他にも色々といるみたいだし……、
ちょっとおかしいんじゃないの、この国……、
こんな小さな島国に、異能力者がうじゃうじゃと……、
まさに、人外魔境ね〜」ヽ(
´ー`)ノ
志貴 「筆頭のお前が、それを言うか?
でもまあ、それも、ある意味、仕方ないんじゃないか?」(−−;
アルクェイド 「え〜、どうして?」(・_・?
志貴 「日本って、教会とか協会の目が届き難いんだろ?
だったら、封印指定受けた奴が身を隠すにはもってこいの場所じゃないか」(−−ゞ
アルクェイド 「あっ、そっか……、
じゃあ、これからも、能力者は増え続けるわけだ。
志貴も大変だね〜」ヽ( ´ー`)ノ
志貴 「……何故、そうなる?」(−−?
アルクェイド 「だって、志貴ってば、そういうのに巻き込まれ易いし……」ヽ(
´ー`)ノ
志貴 「――ほっとけ」(T_T)