Fate/stay night SS

Intermezzo







 月が綺麗に輝く夜――

 柳洞寺の石段の途中、一人の男が立っていた。

 古めかしい着物を着た青い髪の武人。
 階級アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎である。

「聖杯戦争とやらも、面白いものではないな」

 我ながら、珍しく独り言を口にした。

 サーヴァントでありながら、
マスターであるキャスターによって召喚されて1週間……、

 戦いといえる戦いは、青い鎗兵との1戦のみ。

 それも、あくまで様子見。
 未だ、強き者は現れず。

 と……、

「――つまらぬという様子だな」

 石段の上から声がした。

 見ると、そこに立っていたのは、
キャスターのマスター、葛木宗一郎だった。

「どうしたのだ、宗一郎殿。キャスターも連れずかような所へ。
1度に2体のサーヴァントが現れれば、私1人では対処できぬ」

「構わない。私は貴殿を信頼している。
それに、キャスターは、今、私の部屋で寝ている。起こすのは悪いだろう」

 宗一郎殿はゆっくり石段を降りてくる。
 それに合わせ、私も石段を登る。

 そして、同じ所に立った時……、

「どうだ、酒でも飲まぬか?
いかにサーヴァントとは言えど、このようなことも大事であろう」

 と言って、宗一郎殿は、石段に腰を落ち着かせた。
 私も腰を降ろす。

「有難く頂こう。我が主の主の誘いであるからな。断る方が無粋であろう」

 私の返事を聞き、
彼は持ってきた瓶子と猪口を取り出した。

「――月見酒か。久方ぶりであるな」

 私は少しずつ猪口に入った酒を飲んでいく。

「アサシン、いや、小次郎殿は、
見た目華奢そうだが、酒は多く飲むのか?」

「いや、それほどでも無い。宗一郎殿と変わりはせぬよ」

 彼は、先程より少ししか飲んでいない。
 酒に弱いというわけでは無さそうだが、私に合わせているようだ。

 葛木宗一郎――

 初めて会ったときは、あまりに寡黙で、
冷たいイメージがあったが、本当のところそれほど冷たい男ではない。

 あまり見せないが、優しい面もあったりする。

「私が生前、最期に見た月も、今宵のような満月であった」

「そうか。貴殿はあくまで伝説の人物。
その生い立ちにはなかなか興味がある。教えていただけないか」

 彼はいつもの様な静かな眼で私を見る。

「そうですね。宗一郎殿にはお話していませんでした。
では、しばしの昔話に付き合っていただきたい」

「――了解した」



 それでは、少し昔話をしよう――

 450年ほど前――

 私は越前一乗谷の近くの宇坂で生まれた。

 剣名の高い中条流の、
使い手である、富田勢源のもとで剣術を学んだ。

 この勢源という男は、特に小太刀の名手であり、
永禄3年美濃を訪れ、国主の求めで梅津某と戦い勝利している。

 私は彼の門下にありながら好んで大太刀を使っていた。

 小太刀に比べ、隙は大きくなるが、
それでも弟子達の中で最も優れた小太刀使いにも負けはしなかった。

 数年後――

 私は勢源のもとを離れ、
一人で、隠れ里に住むこととなる。

「○○様程の腕があれば、
どこの国もそなたを仕官に迎え入れたがるでしょう」

 ――と、言われた。

 私はそれが嫌だった。

 仕官になれば、死ぬまでの全てが保障されるだろう。
 死後も確実に名は残る。

 しかし、私は組織と言うものが嫌いだった。

 人に遣われ、自分の、
信念などを曲げたくなかったからだ。

 だから、隠れ里に住んだ。

 そうして10年、門下の頃より愛用していた、
「物干し竿」と名づけた刀で日々鍛錬をし、「秘剣 燕返し」を創り出した。

 ある時、私の下に1人の男が決闘を申し込んできた。
 名はとうの昔に忘れたが、二刀流の男だった。

 特に断る理由も無かったので、私は承諾した。

 場所は巌流島。
 私の家に近い離島である。

 決闘前夜、私と彼は満月の下、酒を飲んだ。

 明日になれば、必ずどちらかが消える。
 ならば、せめて最期くらい2人で飲むのもどうだろうか、という事になったため。

 話の内容は四方山話のみ。
 明日のことについては互いに全く触れなかった。

 ……思えば、この時が、私の人生の中で最も楽しかった時ではないだろうか。

 そして、翌日決闘を行い、
数時間の戦いの末、彼のほうが勝利した。

 私の人生は、ここで終わったが満足だった。

 最期に素晴らしい戦いをすることができたから――

 私は厳密には佐々木小次郎では無い。

 しかし、『物干し竿』『巌流島』『秘剣 燕返し』等の、
伝説との共通点から、私は佐々木小次郎となった――



「なるほどよく分かった」

 宗一郎殿は、この私の話を、
一字一句聞き逃さずに聞いてくれた。

 何となく喜ばしく思い、つい本音が出た。

「私は強い者と戦いたい。聖杯戦争等というものに全く興味は無い。
強いものと戦う事のみが私の望み。」

 そう言うと彼は無表情のまま……、

「私も同じだ。私個人は聖杯戦争に興味は微塵も無い。
しかし、キャスターの為なら1つ戦うのも悪くないかと思う」

 マスターとサーヴァントの夢は繋がることがある。
私とキャスター、宗一郎殿とキャスターの夢も繋がっている。

 私も彼も知っていた。

 キャスター……、
 魔女メディアとして畏怖され、恨まれた過去の事を……、

 きっと彼も、それを見て彼女を見過ごせなくなったのだろう。

「宗一郎殿、そなたのサーヴァントのサーヴァントである故に、
今から言うことを強制はしない。が、1つ私の頼みを聞いてほしい。」

「――何だ?」

「もしも彼女、キャスターが、最後まで、
この戦いに生き残ることができたのなら……、
願わくば彼女を幸せにしてあげて欲しい」

「無論だ。彼女の望みなら何でも叶えよう」

 その即答の返事を聞いて、私は知らず微笑んだ。

 望んだわけでも無いのに、1人になってしまった彼女。
 そろそろ幸せになってもいいのでは無いか……、

 柳洞寺の木々が大きく揺れる。
 敵の侵入の知らせであった。

「宗一郎殿。お戻りください。ここは私が戦います」

「そうか。では、任せた」

 彼は瓶子と猪口を片手に持ち、ゆっくり戻っていく。

 その途中……、

「小次郎殿、貴殿はよい男だ。決して命は無駄にするな。」

 と言い残し、山門の奥へと消えていった。



「そのお言葉、有難くお受けした。宗一郎殿」



 ――満月が柳洞寺を照らす。

 佐々木小次郎と言うサーヴァントは、来るべき……、

 そして……、
 自分の求める、強敵と対峙する為……、








 石段を、少しずつ降りていった――








<了>


<コメント>

誠 「燕返し……多重次元屈折現象だっけ?」(−−ゞ
セイバー 「ええ、そうです……、
       あの剣士の技は、回避不能の同時三連撃……、
       悔しいですが、私が勝てたのは、まさに幸運によるものでした」(−o−)
誠 「凄いな、同時三連撃か……、
   でも、世の中には、同時九連撃が出来る剣士もいたんですよ」(^o^)
セイバー 「――なっ!? アサシンの三倍とは!
       一体、何者なのですか!?」Σ(@□@)
誠 「知名度は佐々木小次郎程じゃないけど……、
   幕末の維新志士だった流浪人です。
   しかも、その九連撃をも上回る、
   超神速の抜刀術も会得してたらいですよ」( ̄ー ̄)
セイバー 「むむむっ! やはり、世界は広い!
       上には上がいるのですね!
       こうしてはいられない! シロウ、稽古です!」( ̄□ ̄)/
士郎 「――待てっ! そいつは、あくまでも架空の人物だ!」Σ( ̄□ ̄)
セイバー 「あのアサシンとて、架空の人物なのでしょう?
       ならば、彼の者が現れないという保証はない!
       私も貴方も、より精進せねばっ!」( ̄□ ̄)/
士郎 「だからって、燕返しの投影は無理ぃぃぃ〜〜〜っ!!」(T△T)