Fate/stay night SS

happy day again







 聖杯戦争が終わり、二年が経った――

 桜も、少しずつ落ち着いてきているし、
何より、ライダーの助けもあるから、何の問題も無い。

 そして、今日、海外から遠坂が帰ってきた。

 久々の再会を皆で喜び、そして……、



「……じゃあ、行こうか。皆で桜の花を見に」



 俺を含め、四人は、
二年前にした約束通り、花見に出かけた。

 選んだ場所は、冬木の町の外れにある、
少し大きめな丘の上の公園――隠れた名所である。

 知っている人が少ないので、今、ここにいる人影も疎らである。

「へえ、士郎って、こんないい場所知ってたんだ〜」

 遠坂は感心している。

 それもそのはず、ここには、沢山の桜の木があり、
美しい花をまるで視界の全てを覆うように咲き乱れている。

「姉さんも知らなかったんですか。
私も、去年先輩に教えてもらうまで知りませんでしたよ。
あっ、でも、本当に見に来たのは、今日が初めてなんですよ」

 桜は笑いながら桜の木の下、クルクルと回っている。
 その姿が美しくて見ほれてしまった。

「それで、士郎、これからどうするのですか?」

 メガネをかけたライダーが俺に尋ねる。
 それで、現実に戻された。

「えっ、あっ、とりあえず、皆でのんびりしようよ。
一応、お弁当も作ってきたし」

 俺は片手に持った袋に入った重箱を持ち上げる。

「じゃあ、早速、頂きましょうよ。もう、時間的には丁度いいし。
桜とライダーも、お腹すいてるでしょ?」

「はい、もうぺこぺこです」

「恥ずかしながら、私もそうですね」

 遠坂は、もう、何か仕切っちゃっている。
 というか、俺の意見は無しですか……、

 ……まあいいか、こうやって、皆で、ご飯食うのも久々だし。








 桜の木の下、四人で、ご飯を食っている。

 遠坂と桜はすごく楽しそうに話をし、
ライダーも横で話を聞き、時々会話に入る。

 その横顔は、二人と同じくらい嬉しそうだ。

 と……、

「ねえ、先輩。こんな話、知ってます?」

 桜がこっちに話をふってきた。

「え? どんな話?」

「友達から、この間、聞いたんですけど、
この公園の一番奥にすんごく大きな桜の木があるんですよ。
その桜は願い桜って言われてて、毎年1度だけ、
ただ1人の願いを日没まで叶えてくれるっていう噂があるんです」

「へえ、それは凄いな……」

「――先輩、1人で行ってみたらどうですか?」

「えっ? でも、俺1人で行くこと無いじゃん。皆で行こうよ。」

「いいえ、1人で行かないと意味が無いらしいんですよ。
私はいいですから、先輩行ってみてくださいよ」

 桜が勧める。

 ま、確かに面白そうだし、行ってみる価値はあるかな?
 ただの噂だから、信じちゃいないけど。

「分かった。行ってみるよ。でも、遠坂達はいいのか?」

「ええ。さっき、桜から同じ話聞いたけど、
私は、今で十分満足してるし、別にいいわ」

「私も同意見です。桜と士郎の傍にいる、今はそれだけで十分です」

「……ありがとう、ライダー。じゃ、ちょっと行ってくる」

 俺は公園の奥へと向かった。








「…………」

 ――声が出なかった。

 別段、その桜が大きい、というわけではない。

 ただ、その桜は……、
 他の桜と比べても、どれにも負けない美しさだった。

「願い事か……そうだな……1つだけ……」

 ――騎士王の少女の姿が浮かんだ。

 俺が勝手に召喚してしまって、
何も出来ずに、黒い騎士にしてしまい……、

 ……俺の手で殺めてしまった少女。

 もう一度会うことなんて、
彼女を殺してしまった俺に、そんな資格は無い。

 でも、もしできることなら、もう一度だけ彼女を笑わせてあげたい……、

「はっ、勝手だよな、俺って……、
それが、何になるって言うんだよ……」

 俺は願い桜に背を向け、ゆっくりと立ち去る。

 とりあえず、こんなシケた顔を、三人には見せられない。
 頑張って表情を戻そう。

 そうして――
 桜の木から、数メートル離れた時――





「――シロウ」





 ――と、小さな声がした。

 遠い昔に聞いたその言葉。
 普段から、そう呼ばれているが、今のはすごく懐かしい。

「どうしたのですか、シロウ?」

 俺は振り向く。

 そこには、以前、居間で、
皆で団欒していた時と、何も変わらないあどけなさのある少女がいた。

「セイ……バー……」

「そうですが……、
誰か別の人にでも見えたのですか?」

 紛れも無い。
 目の前にいるのは間違いなくセイバーだった。

 目頭が熱くなる。
 そして、溢れた。

 セイバーは俺の元へ駆け寄りその涙をぬぐった。

「さあ、皆の所へ行きましょう。話はその後ですよ」

 セイバーは楽しそうに、
俺の手をとって引っ張るように歩いて行く。

 そんな顔をしているのに、こっちが暗い顔をしていてはいけない。

「あっ、待てよ、セイバー!」

 俺はいつもの表情を作り、
セイバーの後をついていった。








 三人の元へ、二人で戻ったが……、

 誰一人……、
 驚いてはいなかった。

「お久しぶりです、セイバーさん」

「はい、お久しぶりです。サクラも元気そうで何よりです」

 と、普通に挨拶をかわしていた。

「それじゃ、セイバーも加えて、宴会でも楽しみましょうか!」

 遠坂が、何処からとも無く酒を取り出した。

「ですが、リン、昼間からお酒などと……」

「かたいこと言わないの! はい、座って座って!」

「・・・はあ、リンにはかないませんね」

 セイバーは凛の隣に座る。
 そして、俺も、セイバーの隣に座った。

 そうして、三時間後――
 酒が底をつき、宴会は終了した。

 桜は酔いつぶれて、
ライダーの膝の上で完全に眠ってしまっている。

 かくいうライダーも、うとうとと眠りに入ろうとしていた。

 遠坂の方は、何かぼーっとしている。
 一応、酔っているようだ。

 それに対し、俺もセイバーも、
少ししか飲まなかったので全く酔っていない。



 ――夕暮れが近づく。空が茜色に染まる。


「シロウ、少し歩きませんか?」

「……あ、うん」

 俺とセイバーは、立ち上がり、同じ方向へ歩き始めた。

 特に会話も無くただ歩いている。
 そして、いつの間にか、あの桜の木の前まで来ていた。

「セイバー……」

 俺は無意識のうちに、セイバーに呼びかけていた。

「なんですか、シロ――」

 セイバーが俺の方に振り向く。

 ……俺は、今日二度目の涙を流した。

 こんなこと言って、許してもらうつもりは毛頭無い。
 でも、もう一度言いたかった。

「セイバー……ホントに……ゴメ――」

 そこまで言い掛けて、セイバーは俺の口をふさいだ。

「謝らないでください、シロウ。貴方は何も悪くない」

 俺はセイバーの手を振り解いた。

「――そんなわけない!
俺のせいで勝手に呼び出されて……、
俺のせいで力発揮できなくて……、
俺のせいで傷ついて……、
俺のせいで影に飲まれて……、
俺が、君を、殺した……これで、どこが悪くないって言うんだ!」

「悪くありません。それどころか、
あそこで、シロウが私を殺してくれたことは感謝すべきことです」

 セイバーは穏やかな顔で言う。

「もし、シロウがあそこで、私に止めを刺さなかったなら、
間違いなくこのような穏やかな日々は迎えられなかったでしょう」

 俺は黙って聞いている。

「私はいつもの、シロウの前で笑っている桜が好きだ。
悪態をついても、本当はとても優しい凛が好きだ。
そして、なによりも……」

 セイバーは一呼吸おいて……、

「私は、シロウ、貴方のことが好きだ。その気持ちをシロウが守ってくれた。
私は大好きな貴方達を誰一人も殺さなかった。
それは、シロウ……貴方のおかげだから」

 セイバーは笑った。
 本当に嬉しそうに。

 ただ、それが嬉しくてまた涙が溢れた。

「――シロウ」

 セイバーは俺を強く抱きしめた。
 俺も抱き返した。

 強く、優しく―――

 俺の罪は消えるものじゃない、消してはいけない……、

 でも、彼女にとってそれが幸せなことだったのなら……、
 いつまでも、悲しい顔をしているのは駄目だ。

 俺は、自分のできる限りの笑顔をセイバーに見せた――








 セイバーとの別れの時間が近づく。
 楽しい時間もこれでお終い。

 ――夜がやってくる。

「……それじゃ、セイバー。
こんな風に言うのも変だけど……元気でな」

「はい、シロウも……ありがとう、今日は本当に楽しかった」

 最後に、セイバーは、
一瞬、寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。

 じゃあ、俺も笑顔で見送るとしよう。

 セイバーの体が薄くなっていく。

 俺はそれを悲しむ顔をせず、
笑顔で、しかしまっすぐと見つめた。



 そうして――
 彼女は消えた――

 後に残るは桜の花吹雪だけだった――



「――さて、皆のところに戻らないと」

 後を向く。と、そこには桜の姿があった。

「セイバーさんは、行っちゃったんですね」

「ああ、でも、最後に話が出来て良かった。
さあ、遠坂やライダーが待ってる。早く戻ろう」

「――はい、先輩」

 こうして、二人――

 願い桜に振り返ることなく、その場を去った――








 ――その日の夜、夢を見た。

 俺は1人立っているとも、
座っているとも、寝ているとも分からない状態で存在していた。

「――セイバーに別れを告げたか」

 どこからか声がする。

 男の人の声。
 高圧的なようで、どことなく暖かみを含んだ声。

「じゃがな、何というか、儂は、
お前と、セイバーは共にいる方が幸せだと思うぞ」

 姿はよく分からない。
 ただ、喋り方からいって年配の人だろう。

「儂でも、さすがに完全に一人の者を復活させることはできん。
じゃが、とりあえず、決められた日にだけ、この世に現界させることができるんじゃ。
どうじゃ、そうしようか? 別にお節介だとか、
もう別離したのにというのなら無理にはしないが……」

 良く声が出ないが、とりあえず小さな声で――

「セイバーがいいんなら……」

 ――と言った、はずだ。

「そうか、セイバーも同じようなことを言っておったぞ。
シロウがいいのならと。全く似た者同士じゃな。じゃあ、とりあえずそうしよう。」

 男は視界から消えようとする。
 その前に……、

「イリヤも……お願いできないか?」

 最後に止められなかった少女。
 門を閉じる為、自ら命を捨てた白い少女。

「無論じゃ。一人だろうが、二人だろうが、儂には関係ない。
お前の望みかなえてやるぞ」

 男は立ち止まらずに歩いていく。

 力が抜けていく。
 せめて、その前に聞きたいことが……、

「どうしてそんなこと……それに、アンタは、一体……?」

 男は立ち止まり、こちらを向く。
 瞼は重くなり顔はよく見えない。

「なあに、年寄りの道楽じゃ。気にすることは無い。
あと、儂が誰かって? 儂は魔法使いじゃよ」

 昔、親父が言っていたのと同じことを口にした。
 あっ、ついでに吸血鬼じゃがなとつけたし、老魔法使いは笑っていた。

 俺は、また深い眠りへと落ちていった。








 それから、また1年後――

 去年と同じように、四人で花見に向かう。
 遠坂も忙しい中、今日だけはこっちに来てくれた。

 公園に着く。
 皆で、一番奥まで進む。

 ――見惚れる位に美しい桜の木があった。

 その下、1年ぶりに会う少女と、
白い、雪だけじゃなくて桜も似合う少女の姿があった。

 俺達は駆け寄った。

 シロウったら、去年は、私を呼んでくれなかったあ、とイリヤが喚く。

「お弁当いっぱい作ってきたよ」

 と言ったらあっという間に機嫌を直してくれた。

 そして、その様子を、
静かに見るセイバーの姿があった。

     ・
     ・
     ・








 さあ、今日は思いっきり楽しもう――
 桜吹雪の舞う中六人は笑い合った――
 来年も、再来年も、これからずっと――
 同じ日に皆で桜を見に――

 空は限りなく澄んだ青――
 暖かな風が吹き抜けていった――








 So the winter went by, and spring came along.
        冬が過ぎ、春がやって来た。

 Nature is in its full bloom, and there is nothing left that reminds you of the hard cold days.
              花は咲き乱れ、辛く凍えた日々の思い出たちは消え去った。

 Now enjoy our reunion. I find you and you find me.
   今は、この再会の喜びをかみしめよう。僕は君を見つける、そして君は僕を見つける。


 And now then...
    今や……、

 Long story that unraveled in this town has reached its conclusion.
        この街に解きほどかれた長い物語は結びを迎えた。

 New stages and people...and our kind benefactors are waiting for us...
   新しい舞台と人々が……そして、優しき恩人たちが僕たちを待っている……、








<fin>


<コメント>

ゼル爺 「――これで良かったのか、騎士殿?」(−o−)
??? 「ええ……かたじけない、メイガス」(^_^)
ゼル爺 「なに、構わんさ……、
      元はと言えば、ワシらが撒いた種だ。
      とはいえ、ワシには、これが限界、許せ……」(−−ゞ
??? 「いえ、そのような……、
      きっと、我が王も喜んでくれる事でしょう」(^_^)
ゼル爺 「そうか……では、ワシは、もう去るとするか。
      騎士の誇り、そして誓い……見せてもらった。
      お主とは、もう、二度と、会う事もあるまい。
      ではな……サー・べディヴィエール……」( ̄ー ̄)

べディヴィエール 「今も、見ていますか、アーサー王よ。
           ――夢の、続きを」(^_^)