Heart to Heart SS

あえてかこう、このときを







 ――それは唐突に訪れた。

 すでに壁掛け時計は10時を回っている。

 フィルスノーンが忙しいのか、エリアもいない。
 フランも、今は、ルミラ先生のところだ。
 母さんも、今日は泊り込みのようだ。

 つまり、今日は久しぶりに、一人きりの夜を迎える、ということになる。

 ……なんのことはない、静かな夜だ。

 いつもは、とてもにぎやかな家も、
今日ばかりは、安らぎの闇と、ともにあった。

 そんな詩人みたいなことを考えたり、まるで風流に走るなんて、俺らしくないな。

 いざ一人になってみるとやはり、寂しいものがある。

 別に、今までだって、夜ばかりは、例外を除いて、さくらもあかねも、
自分の家で寝ていたわけだから、俺だって一人で寝るのはそれほど不慣れなことじゃない。

 でも、今日はなぜか、落ち着かない夜だった。

 あまりにありきたりで、でもすべてが普通にあったこと。

 今、こうして、ベッドの上で息を数えられるような、
思考のゆとりは、それら一切が、過去の安穏だったんだ、と思い知らされる。

 でも、今日は、寝るという選択肢以外の、なにものもやる気がしなかった。

 「電子の妖精」に頼まれたプログラムは、
まだ完成には程遠いけれど、なんとなく手につかない。

 今日、やっておかなければならないことが、
何かあったと思うのだが、それをやっておこうという気にすらならない。

 ――疲れている。
 ――疲れている、はずなのに。

 ――眠れない。
 ――目が冴えて、眠れない。

 何かが狂ってしまった。
 いや、それは「元日常」が「日常」でなくなった、というほうが正しい。

 一日一日、俺はとんでもないことにばかりめぐり合わされる。

 体質的なもの、と告げられたことがあった。

 エリアの属性の授業が何を意味するのか。
 ここ最近それがあまりにも強くなりすぎている。

 だから、日常であったことは、
一日経つすでに日常ではなくなっているんだ。

 ……はあ。
 どうにかならないのかよ、この目の冴え。

 ただ原因がわかっても、どうにもならない。
 平凡よかむばっく。

 そう心で、寂しくつぶやくしかないのが、情けない。

 ――ぴんぽーん♪

 ふと、家のブザーが鳴る。

 夜はより深い時間。
 普通こんな時間にたずねてくるやつはいない。

 もちろん普通なら、だ。
 こんな真夜中に、とつぜん押しかけてくるということを、やってしまうやつが、二人ほどいる。

 らちのあかない眠りとの格闘を、
ベッドと一緒にに蹴り飛ばし、俺は家の出入り口のドアに向かった。

 玄関の向こうにうっすらと浮かぶ影が、
水色と、桃色を映し出していて、一目で誰がきたか分かる。



「「まーくん……」」



 ――案の定、だな。

「さくら? あかね?」

 出入り口に立っていたのは、
髪の色と一緒のパジャマをした、俺の二人の……恋人。

 自分でそう宣言してしまったせいで、どうも照れくさい。
 でも、そういう以外に、彼女らを表現する方法はない。

「うん、そーだよ」

 先にあかねが応えてきた。
 さくらもあかねに同じ、といったようにうなずく。

 別にそれだけなら、まあ、寂しくて眠れないとかいう、二人の願望をぶつけにくるいつものことだ。

 でも、彼女らが手に抱いていたのは……、

「そーだよってな、おまえら……」

 等身大、1/1、実物と等サイズの俺。

 いや、俺じゃなくて、俺に似せた抱き枕だ。
 それぞれが自分で作った俺の抱き枕を抱えている。

 途端に、頭に赤い熱が吹き上がった。

「「まーくんといっしょにきたの」」

「あのな……」

 なんてことしてんだ。
 そりゃ、真夜中で人通りらしい人通りはないけどな。

 女の子がパジャマ姿であやしいもの……、
 いや、愛用の、普通なら恥ずかしいような抱き枕抱えて歩いてくるなんて。

 よく見れば、二人ともなんとなく寝起きのよう。

 ……パジャマがなんとなく歪んで、彼女らはチラリズムを悶々とさせていた。

 やばい――

 単に、抱き枕くらいなら、
近所でも俺と二人の間柄は公認済みの関係だ。

 だが、こんな恥ずかしいような格好のまま、
街を歩くのは、ある意味裸でうろつくよりひどい露出をしているような。

 あかねの鎖骨とか、さくらのおへそとか、あかねの肩口とか、さくらのうなじとか――

「――とにかく、入れ」

 あくまで冷静を装って二人を家に入れた。
 すべて、中で聞くことにする。





 俺は二人を黙って招いて、リビングのソファに座る。
 陣取りはいつもどおりの位置で、両方から二人が腕を抱いてる。

 さっき、パジャマがずれている指摘をしたせいで、俺は頭が痛い。

 恥ずかしさに耐え切れずに、
思わず俺をフライパン&くまさんバットで殴ったわけで。

「みゅう、ごめんね、まーくん」

「ごめんなさい、親切に教えてくれたのに」

「いや、いいんだ」

 あたりまえのようなやりとりで、
簡単にいつもどおりになった、俺と、彼女ら二人。

 心なしか、いつも以上に、
二人は俺の腕をしっかり抱いていて。

 あかねのちょっと膨らみかけと、さくらのやや膨らんだ柔らかさが、腕にしっかり押し付けられて。

 そういえば、俺もねま……、

 ――やばい。
 ――なんか、むちゃくちゃやばい。

「まーくん、あったかい」

「ずっといっしょです、まーくん」

 この状況がも二人には幸せこの上ない状態だと思うのだけれど、
そんな二人の恍惚とは裏腹に、俺は余計に目が冴えていた。

 そのぎんぎんとした脳は、ぎんぎんと、ぎんぎんと――

 だめだだめだだめだだめだ。

 考えるな!!
 二人のちらりも二人のむねもふたりのぬくもりも考えるな!!


 がん、がん、がんっ!!


 すべてをかき消したい一心で、
壁を破壊しそうなほど強く頭を打ち付けた。

「「まーくん?」」

「ん? いや、なんでもない……それより<いきなりどうしたんだよ」

 二人に殴られた頭が余計痛い。
 でも<それでちょっとましになってきた、と思う。

 ――改めて理由を聞いてみた。

 考えてみれば、二人が自分の家で夜を過ごすことや、
この抱き枕を抱えていることで、俺がいない寂しさを紛らわすくらいのことはできる。

 それなのにあえて俺を訪ねたのは、重大な理由がある以外に考えられない。

「まーくんと寝たくて」

「まーくんと眠りたかったんです」

「……おい」

 ――前言撤回。

 ありきたり、という言葉は俺には存在しない気がした。

 そんな冗談をいったことにばつが悪い思いだったのか、
二人はちょっと照れたようなふうをみせ、その後に、とても寂しいと顔に書いて、俺を抱く力を強めた。

「ねぇ、まーくんはどこにもいかないよね?」

「まーくんはいつでもいっしょにいますよね?」

 ――そう、意味深につぶやいて。

「どこにも、って、行くわけないだろ。
俺はずっとここにいるし、さくらやあかねの側から離れるわけ無い」

 そんな二人の顔が今にも泣きそうだったのが、
放っておけなくて、もっと、もっと二人を近づけようと腕に力をこめていた。

「「ほんとうに?」」

「ああ……」

 なにげなく、俺はそう応えたのだが……、



「「ほんとうに?」」

「ああ……」


「「ほんとうに?」」

「ああ……」


「「ほんとうに?」」

「ああ……」


「「ほんとうに?」」

「ああ……」


「「ほんとうに?」」

「ああ……」

     ・
     ・
     ・



「「ほんとうに?」」

「いいかげんにしろっ!」

 腕を引き抜きざまに、二人を軽くこづいた。

「みゃっ!?」

「きゃっ!?」

 軽く256回は繰り返した気がする。
 こういうまじめな会話をしようとする時に。

「おまえらな、どうしてそんなこと」

「だって、まーくん……(ポッ)」

 まず、あかねが――

「そんなに元気になってたら、その……(ポッ)」

 ――続いて、さくらが顔を染める。

「ん……!?」

 なるほど――

 合点がいった。
 そりゃ、シリアスなムード崩れるわけだ。

「あのな、おまえら――」

「まーくん、やっぱりギャグより……あたしのほうがよかった?」

「わたしはいつでも大丈夫ですよ。まーくんとなら……」

 ぎんぎんになっていた俺自身を見て、ロマンチックが、
途端に、めぐるめく快楽の世界へと移り変わっていて、その照れ隠しにボケをかましたのか。

 ……なんていうか、芸が細かすぎる。

「うっ……」

 否定したい。
 否定したいけれど。

「無理しないで欲しいんだ、まーくん」

「そんなこといってもな、あかね」

「だって……怖くて。
近くにいるのに、すごく遠く感じるんです」

「さくらまで……」

 本当に、このままだと、やばい。

 二人とも目を潤ませて、俺の目をずっとずっと奥まで見つめている。
 あまりにも切なげな二人の様子を見ていると、いたたまれなくて、ほっとけなくて。

「「あ……」」

 俺は思わず二人を、片腕でそれぞれ抱きしめていた。

「何、変な心配してるんだよ。そんなありえないこと考えるな。
俺はずっとここにいるって、二人のそばにいるっていっただろ」

 ――そう。
 離れるわけ無い。

 ずっと、ずっと一緒にいるって。
 どこかにいくようなことがあったら、俺は二人とも同じところに連れて行くって。

 そんな想いを込めて、誓いにも似た強い感情で、二人を俺の中にひきつけた。

「「まーくん……」」

 二人が熱い。
 夜は涼しさを次第に失いつつあって、余計にそれを強く感じる。

 本当に、絶対に、はなれるわけ無い、それくらい強く、近づけているのに。

「遠いよ、まーくん……」

「もっと、近くに来てほしいです」

 どうやれば、近づけるのか、わかった。
 でも、その方法は、あまりにも過激だった。

 ボタンに指をやると、二人の顔がいつになく赤くなっているのが、わかった。

 俺は――








 ……。

 …………。

 ………………。








「どうして、書きかけで止まったんだろう?」

 その質問に答えられる人はいない。

「ねぇ、このあとどうなるの?
さくらもあかねも、結ばれてめでたしなんじゃないの?」

 そういう結末は、誰しもが考えることだ。

「結局、これもお約束とか、そういうやつで冷やしちゃうんでしょう?」

 そんなオーソドックスな顛末にする事を、この作者はまず望まない。
 そうするなら一線を越えさせてしまう方が好きだ。

 ――ではなぜ?

 言うまでもない。

 これはSTEVEN氏が結論づけるべきことであり、
これを語ることはHtH自体の終末につながるシナリオなのだ。

 つまり、かの少年探偵が完全に元に戻るとか、
かの精霊に告白するだとか、そういったことと同じだということ。

 いくらHtHの二次創作でも、こればかりは補完すべきではないだろう。

 確かに、書こうと思えば書けるし蚊帳の外で済ませることもできる。

 でもこれを進めることは、私の一存では決められない、
完全なる調和なのであり、乱すことはこの作品を取り巻く一切を崩壊させる大罪に等しいのだ。

 この先は、STEVEN氏に任せて、暖かく見守ることにしよう。








<おわり>


あとがき

 ――どうもです。

 なんか、ギャグとシリアスを混在して、エグイことになっているかもしれないけれど、
すべては勢いでどうにかしてしまえなnigerです。

 なんか、最近は、キャラが増えて増えて、
この二人とだけいる時間が無くなっている気がしなくもなくて、こんなものを書いてみました。

 とはいってみたものの、誠のギャグ特性ってなんか難しい。

 ――本編より、かっこよくなっていないか?

 と思ってみましたが、適度にかっこよくないと、
さくらもあかねもついてきませんし、まあこんなもんじゃないでしょうかと妥協してみます。

 投稿宣言して、どんなネタでいこうかといろいろ思考をめぐらせ、
工画堂系でいこうか、葉鍵でいこうか、月姫とか使おうか、といろいろ考えましたが、第一弾はHtHにしました。

 シリアスなほうが書きやすいところはあるんですけど、
まぁ、今回はHtHなので、やっぱりネタに走ってみることにしました。

 皆様のお口にあうかどうかが気になるところですが、どうぞご賞味くださいませ。



おまけ――

あかね:「まーくん、そういえば」
誠:「――なんだ?」
あかね:「まーくんて、あたし達のことを”さくら達”って表現するよね?」
誠:「――ん? そういえばそう呼ぶよな、って……」

あかね:「……まーくん、さくらちゃん以外はおめかけさん?」(怒)
エリア:「……妻なのは、私だけのはずなのに」(怒)
フラン:「……さくら様が一番で、私達はそれ以外なんですね」(怒)
さくら:「……あの、まーくん、それはちょっと(汗)」

誠:「うっ……(泣)」

 ――彼が、お約束箱を引く羽目になったのはいうまでもない。


<コメント>

S 「――その疑問にお答えしよう!」( ̄□ ̄)/
誠 「うわっ、ビックリした……っ!
  って、その疑問って、俺がさくら達の事を“さくら達”って呼ぶ事か?」(−−?
S 「その通り! 誠がそう呼ぶのは、
  実は、まだHtHが未公開だった頃の名残りなのだ」<( ̄▽ ̄)>
誠 「つまり、プロット段階って事だな……、
  それで、その名残りって、一体何なんだ?」(・_・?
S 「元々、HtHのメインヒロインは、さくらだったんだよ。
  もちろん、あかねもいたけど、誠にとっては、妹以上の存在ではなかったんだ」(^_^;
誠 「――なんですと?!」Σ(@□@)
S 「で、そんな普通の話を書いても、
  正直、面白くないな、と思って、今のカタチになった。
  ちなみに、プロット段階での誠の名前は『花丸』だったんだぞ」(−o−)
誠 「花丸って……何ていい加減な……」(T▽T)
S 「そう思ったから、今の名前になったんだよ」(−o−)
誠 「そのままだったら、確実にギャグキャラ一直線だったな」(−−;
S 「今でも、充分にギャグだがな」ヽ( ´ー`)ノ
誠 「――やかましい」(T_T)