大陸召喚術の最高峰《牙の塔》――
言わずと知れた、客も呼べる、悪魔も喚べる。
最強の芸能人たちの養成所である。
マジシャンまーくん・無謀編
近々、ちょっとしたイベントが行なわれる。
正式なイベント名は「牙の塔対外公開日」。
まあ、ひらたく言えば、気合の入った学園祭といった代物だ。
俺たち学生にしてみれば、息抜きの色の濃いイベント。
が――この日には王都の宮廷マジシャン《十二使徒》のメンバーも見物に来るため、
そのスカウトの目を引こうと必死な人間もいる。
その中でも、特にミス・コンはアイドルの卵たちの応募が毎年殺到し、
塔内で厳選な書類予選を通過した者のみが出場を許される。
「由綺姉も理奈姉も塔内予選を通過してミス・コンに出るなんて、すごいじゃないか」
由綺姉と理奈姉、二人とも血は繋がってないが俺にとっては最愛の姉。
二人ともが、ミス・コンの塔内予選を通過したことは自分のことのように嬉しい。
「エントリー条件に性別の表記はありませんから、
ミス・コンというのは正しくありませんが、おめでとうございます」
同じ緒方英二教室に所属する弥生さんも祝いの言葉をのべる。
きっちり間違いを正すところあたり弥生さんらしいが。
性差廃絶主義者が騒がないようにそうしてるだけで、
男が参加したなんて話は聞いたことないぞ。
「私がんばるね。誠君も弥生さんも応援に来てね」
「もちろん。出るつもりだった、
大食いコンテストをキャンセルして、応援にいくよ」
「残念ながら私は用事があるため見にいけませんが、健闘を祈っております」
弥生さんがこの手イベント中に他のスケジュール入れるなんて珍しいな。
「残念ね。じゃあ、誠君はちゃんと最後の投票までしてってよね。
もちろん私に一票入れるのよ」
「わかってるよ、理奈ね……、
(じーっ)
……なに、じーっと見てるんだ由綺姉?」
「誠君は、理奈ちゃんに投票するんだ」(うるうる)
「うっ!」
しまった。投票権は一票しかないのに、姉さんは2人……、
助けを求めるべく弥生さんの方を向くが……、
い、いない!? 逃げましたね、弥生さん。(涙)
当日に用事があるというのも嘘でしょ……、
答えられるはずなどない。
どちらも愛する姉なのだから。
「そんなに悩む必要はないわよ、当日気軽にきめて投票しなさい」
そんな俺の苦悩を汲みとってくれたのか、
理奈姉が軽い口調でそう言ってくる。
言ってくれた言葉は嬉しいのだが……、
なぜ理奈姉は、後ろから俺を抱きすくめながら喋ってるのだろう?
背中に胸の感触が。(爆)
(怒)
(怒)
「なにやってるの理奈ちゃん!!」
そう言うが早いか今度は、由綺姉が俺の頭を抱え込み理奈姉から引き離す。
理奈姉と違い、狙ってやってる訳ではないのだろうが、か、顔が胸に。(爆)
(怒)
(怒)
先ほどから、なんか殺気を感じるんだが気のせいだよな。
とりあえず、その場はなんとか誤魔化して自室に戻ったのだが……、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「逃げよう。一刻も早く、できるだけ遠くへ」
あれから数日。冬弥兄さんが塔外研修で居ないこともあり、
冗談半分でくっつき、投票を迫ってくる理奈姉と、
それを止めようとして、結果的にもっとすごいコトをしてくる、
天然な由綺姉により俺の精神力も限界に達しようとしていた。
その行為自体もそうなのだが、二人とも人目を気にしないため……、
今じゃ、暗い夜道は歩けないぐらい敵が。(涙)
自慢じゃないが、緒方英二教師率いるうちのクラスは、
この牙の塔でも最高のクラスと呼ばれている。
アイドルとして、由綺姉に理奈姉。
マネージャーとして弥生さん。
ADとして冬弥兄さん。
それぞれが、芸能界で戦っていけるための、最高の技能をかね備えている。
あぁ、ちなみに俺は召喚術が得意なマジシャンだ。
ほら、シルクハットから鳩出したり、兎を出したりするやつ。
これでも緒方教室の名に恥じないチカラは持ってるつもりだ。
その気になれば異世界の魔王でも喚びだせるぞ。
ただ、先生はどうやら俺をコメディアンにしたいらしい。
なんでも俺は先天的なギャグキャラだそうだ。
おっと、話題がそれたな。まあ、姉さん達は人気者だということだ。
とにかく、明日のミスコンだけには顔を出すわけにはいかない。
どちらかに投票すれば、投票されなかった方のファンに殺られてしまう。
それ以上にどちらか一方にのみ票を入れるなんて俺にはできないしな。
逃げ出す事を決意し、荷物をまとめ、扉に向かう。
トントン
「うわぁぁぁぁわぁぁうわぁぁぁっっっ!?」
手を掛けた扉がいきなりノックされ、思わず悲鳴をあげてしまう。
ま、まさか、もうヒットマンが来たのか?
「ど、どなたです………か?」
「俺だ、冬弥だ」
「冬弥兄さん!」
神は俺を見捨ててなかった。(感涙)
すぐさま扉を開けようとノブに手を掛ける。
「助かった! この事態を収拾できるのは兄さんぐらいだ。
聞いてくれよ、由綺姉と理奈姉が――」
しかし、開かれた扉から覗いた顔は……、
「や、弥生さん!?」
「夜分遅くに失礼します」
「は、はぁ……今、冬弥兄さんの声が…」
「気のせいでしょう」 (きっぱり)
こちらが言いきる前にきっぱりと言い放つ弥生さん。
この人の性格上これ以上の追及は無意味か。
「で、なんの用です」
「明日の件で少し。長くなるので中に入ってよろしいでしょうか」
そう言う弥生さんを部屋に招き入れ、椅子を勧め、自分はベッドの上に座る。
よく考えると、姉さんたち以外の女の人が部屋に入ってくるのは始めてだ。
うっ、意識したら少し緊張してきた。弥生さんて美人だし。
「短刀直入に要件を言います。明日のミスコンに参加してください」
「いやだなー、もちろん応援に行きますよ。逃げたりなんかしませんって」(汗)
「いえ、そうではなく。エントリーしていただきたいのです」
「………なんですと〜〜っ!?」
「順を追って説明しますと、
今回の由綺さんと理奈さんのミス・コン参加を緒方教師は快く思っていません。
成長過程の二人に無責任な優劣の判定をくだされたくないそうです。
すばらしい速度で輝きを増しつづけるお二人に、今そのような結果は無用。
それどころか、その結果が今後の二人の成長に悪影響を及ぼしかねません」
「で、なんで俺が出場することに」
「私のリサーチでは、明日は下馬評通り由綺さんか理奈さんの優勝で幕を下ろします。
そうならないために少しでも荒れて欲しいのです」
「男一人混じったくらいじゃ荒れませんて」
「普通ならそうでしょうが、これを身に着けていただければ、
会場の雰囲気は大きく変わるはずです」
そう言って、弥生さんは俺に紙袋を手渡す。
そこに入っていたものは……、
一枚のエプロンだけだった。
しかも、真っ白でフリルが沢山ついた非実用的な逸品。
「裸エプロンです」 (しれっ)
「着れるかぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
(ちっ)
「冗談です。こちらを……」
そう言って、弥生さんは俺にまた紙袋を差し出す。
冗談ですか……弥生さん、コメディアンにはむいてませんね。
紙袋を開けるとそこに入っていたものは……、
――それは、一着の服だった。
……ただの服ではない。
色は、見てて目が痛くなりそうなくらいの鮮やかなピンク色の、女物の服だ。
しかも、飾り用の小さなリボンがいっぱい……、
さらに、ヒラヒラのフリルとレースもいっぱい……、
――そう。
つまり、それは、いわゆる……、
ピ〇クハウス系の服だった。
「裸エプロンの後だと普通に見えるところが怖いですね。
つまり、俺に女装しろと……」
「エントリー条件に性別はないのでルール上問題ありません。
当日、一般の方の飛び入り参加が認められていますので、
偽名の『上杉 真琴』でエントリーしていただきます」
確かに、こんなのがいたら大会の雰囲気は変わるだろうが……、
「化粧、カツラの用意もあります♪」(キラキラキラ☆)
弥生さんの声が弾んで聞こえたのは幻聴だろうか?
弥生さんの目が輝いてるのは気のせいだろうか?
「もう一度訊きます。本当に姉さんたちのためなんですね?」
「ええ、すべては二人の輝ける未来のために♪」(キラキラキラ☆)
「なら俺の答えは決まってます――」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大会後――
大会の内容、そして結果、頼むから訊かないでくれ。
ってゆーか、訊かれても、絶対に答えたくないし、思い出したくもない。
ただ、その日以降、俺はゴルゴ13より背後に立つ人間(男)に、
敏感になったことだけは言っておこう。
最後に弥生さんに一言、
「水着審査なんて聞いてませんよでしたよ!! 弥生さん」(涙)
<おわり>
<おまけ、あるいは舞台裏>
弥生「どうでした、王都のスカウトたちは」
緒方「流石にこの『お祭り』を口実に理奈や由綺ちゃんのスカウトは諦めたみたいだよ」
弥生「女装混じりのミスコンじゃ、スカウトの口実になりませんものね」
緒方「ああ、それにしても誠君は良く承知してくれたね」
弥生「『由綺さんと理奈さんのためです』。
――誠さんと冬弥さんに共通する魔法の言葉です」
緒方「それにしても、優勝までするとは出来すぎじゃないかい」
弥生「あら、私が何時間も掛けてメイクしたんですよ。当然の結果です」(うっとり)
緒方「そうかい」(汗)
弥生「そうです」(にっこり)
<あとがき>
このたび、マジシャンまーくん・無謀編をお読みいただきありがとうございます。
今回もPCみことに続きパロディー系の内容となっておりますので、
HtHパロディー編風の配色にしてみました。
今回の元になった作品はHtHと魔○士オー○ェン・無謀編2で、
前回と違い、話のスジはほぼ原作通りとなっております。
読んだことがない人、○ーフェンはオススメですよ。
<コメント>
誠 「まあ、なんつーか……、
俺と由綺姉達との関係が如実に出ている話だったな」(−−ゞ
弥生 「誠さんが、お二人に可愛がられている証拠です」(−o−)
誠 「……可愛がり方に問題があるって思うのは、贅沢な悩みでしょうか?」(T_T)
英二 「誰が見ても贅沢な悩みだと思うぞ、少年。
なにせ、トップアイドル二人に可愛がられているわけだからな」(¬_¬)
誠 「可愛がる、というよりは、玩具にされているとしか思えないんですけど、
由綺姉はともかく、特に理奈さんに……」(−−;
理奈 「まことく〜ん? 私のことは理奈姉って呼ぶようにって、
何回言えばわかるのかしら〜?」( ̄ー ̄)
誠 「いいっ? で、でも、それはさすがに……」(^_^;
理奈 「ここに、誠君の女装写真があるんだけど、どうしようかな〜?」(^〜^)
誠 「スミマセン。ボクガ悪カッタデス、理奈姉」m(_)m
理奈 「ん、よろしい♪」(^ー^)b
英二 「……まあ、少しは同情の余地あり、かな?」(^_^;
弥生 「こういうイジメると楽しい、というところが、冬弥さんの血筋である証拠ですね」(−o−)