恋すると言うことは、ある意味で究極の我侭だと言えるかもしれない。

 それでも、恋をする者は思いを遂げたいと願ってしまう。





恋セヨ少年少女達!

落書き隊に花束

 <巻之後:少女達の試練>





 前日から降り出した雨は、その勢いを弱めることすら知らずに降り続いていた。
 色とりどりの傘が動きつづける通学路に、松本は居る。

「はぁ……」

 小さくため息を付きながら歩く松本の背中からは、
漆黒のオーラがだだ漏れしているのが見て取れた。

 たまらないのは二歩後ろを歩く二人の友人だ。

「……暗い」
「……雨降ってるからね」

 呟く岡田に呟き返す吉井。

「……空気が冷たい」
「……雨降ってるからね」

 同じような会話を繰り返す。

「寒い…」
「アステロイドベルトまで行っちゃったからね」

 なんだか妙に冷たくて重い空気が3人を取り囲む。

 そして、一番出会いたくない人に出遭ってしまうのが人の世の習い。
 下を向きながら歩いていた松本は、前を歩いていた生徒の背中にぶつかってしまう。

「あ、ごめんなさい……」

 謝ってから相手の顔を見て、松本はその動きを止める。

 彼女がぶつかったのは、間違いなく藤田浩之その人だ。
 もちろん隣には神岸あかりがいる。

「あっ…」

 松本は思いっ切りたじろぐと、ダッシュで学校に向けて走り去った。

「松本!?」
「まつもと!!」

 慌てて松本の後を追う吉井と岡田。
 浩之とあかりは、事態を飲み込めずにキョトンとしていた。





 東鳩高校3年B組――


「松本、どーせ私達とあいつらクラス同じなんだから隠れても意味無いと思うけど……」
「……できるだけ、藤田君の方見ない」

 机に突っ伏したままの松本が弱々しい声をあげる。
 それを聞いた吉井は、不安そうな顔を余計不安そうにした。

「松本ぉ……頭隠して尻隠さずって言葉知ってる?」
「知ってるから言わないで……」

 突っ伏すだけならまだしも、丸まってしまった松本に、岡田と吉井は困り果てた顔をする。

「ひょっとして……手のつけよう無し?」
「あたしに聞かれても……」

 困り果てる2人。

「まあ、松本ならきっと自分で納得する答えを出すよ」
「……うん」

 友人を信頼して全てを時の流れに委ねるのは、その友人を見限るのとは違う。
 彼女達は、完全に友人を信頼できる、今時の若者には珍しい者達だ。





 さて、時間は進んで昼休み――


「はーん、岡田がねぇ」

 教室でパンをかじりながら、一人の男子生徒が呟く。

「んで、いっその事、何とかして矢島と岡田をくっつけちまえば、
あいつもこれ以上あかりにちょっかい掛けてこなくなると思うんだよ」

 その男子生徒の向かいで、弁当をつつきながら浩之が言う。
 その言葉を聞いて、男子生徒……林野 聖がさもありなんと頷く。

「まあ、確かにそれどころじゃなくなると思うが…」
「そこでだ、かつて矢島の相方と言われていたお前に頼みがあるんだ」
「……矢島が岡田をどう思ってるか聞いて来い…ってか?」

 それだけ呟いて、聖はため息をつく。

「ま、いつぞやの借りもあるし……良いぜ」

 初めから断るつもりは無かったらしい。
 あっさりとOKを出し、再びパンに食らいつく。

(……さて、どうやって聞き出すかな…?)

 聖は、早速策を練ることにした。
 痩せても枯れても、かつては矢島の相方と言われた聖。
 矢島を誘導尋問にかける方法など幾らでも思いつく。

 ……筈なのにギャグから頭が離れないのはどうしてだろう?

 初めのうち、しっかりと『矢島が岡田をどう思っているか聞き出す方法』を考えていた聖の思考は、
何時の間にか『自分はギャグキャラか否か』というものに変わっていた。

 その日、聖は授業中に悪夢を見たとか見ないとか。





 更に時は進んで放課後――

「岡田……吉井……」

 松本が、何か決心した表情で友人達に声を掛けた。

「あ、松本」
「少しは落ち着いた?」

 頷いた松本が発した言葉は、二人を驚かすのに十分なものだった。





 その頃、体育館では――

「林野、いきなり話ってなんだよ? 俺、これから部活……」
「矢島、いきなりだが……お前、岡田の事どう思う?」

 聖が授業中悪夢を見ながら考えた方法は、さりげなく本題を聞くと言う事。
 まあ、声色に限って言えばこの上ないさりげなさなのだが……、

「水色の髪した凶悪なツインテール娘だ。
激辛キムチラーメン(キムチ山盛り)をほぼ数瞬で食いつくして口元を握り拳で軽くふいた後、
『舐めないで、岡田なのよ、あたし』とか言ってそうだ」
「お前なぁ……そりゃあ尾根高の有名ツインテール娘の話だろ?」

 ここまでストレートに聞かれると、こうボケたくもなる。
 一概に責めるわけにもいかない。

「あのなぁ、大体なんで俺にンな事聞くんだよ?
ハッキリいって俺は神岸さん以外の女子は眼に……」
「矢島、判ってるんだろ?」

 ぶつくさ言う矢島の言葉を遮って、聖が静かに言う。

「『藤田と神岸』の間に割って入ろうなんて不可能だ、それくらいは、判ってるんだろ?」

 矢島は、その言葉には答えない。

「……判ってても、諦めきれるもんじゃねーよ」

 呟いた言葉は、誰に向けたものか?





 同時刻、3年B組教室――


 松本、岡田、吉井の3人が、教室の中で、妙に真剣な表情を浮かべていた。

「松本……本当にそれで良いの?」
「そーだよ、藤田の事だから今更1人や2人増えても……」

 不安そうな2人に暫くぶりの笑顔を浮かばせて松本は言う。

「もう、決めたから」
「でもさ、何も進んで自分を傷つけなくても……」

 不安げな吉井の顔を見て、松本はもう一度微笑む。
 少しだけ、真剣な表情を浮かべると……、

「わたしは……振られるんだったら本人からすっぱり振られたほうが良いよ。
勝手に片思いして……勝手に諦めて……、
失恋だかなんだかわからないキズを持ったまま生きてく自信なんて無いよ」

 吉井も岡田も、何も言えない。

「それじゃあ、わたし行くね……」

 教室のドアに手を掛けると……、

「わたしって……ずるいよね……」

 そう呟いて、松本は校舎裏手にある神社に歩を進めた。





 校舎裏手の神社――


 そこで、浩之は一人で後頭部を掻いていた。
 何の事は無い、誰も居なくてがらんとしている神社に来てしまって暇を持て余しているのだ。

「まいったな……暫くぶりに部活の日、間違えちゃったぜ」

 そこに突っ立っていても寒いだけなので、もう帰ろうと踵を返した、その時……、

「藤田君!!」

 1人の少女……松本が学校のほうから走ってきた。

「松本、どうしたんだ?」

 はぁはぁと息を切らせる松本に声をかけるが、
実は『この娘って松本でよかったっけ?』とか思ってたりする。

「藤田君…よかったぁ、まだここに居た」

 松本が浮かべた安堵の笑顔に浩之は一瞬ドキッとするが、
そこは百戦錬磨の魔人、何事も無いかのような顔をする。

「少し……時間ある?」
「ああ、少しだけならな」
「それなら、ちょっと聞いて欲しい事があるの」

 真っ向から向かい合う男女。

「あのね、去年の学校祭で……無理やりごり押ししたような私達の企画、
潰れそうになったときに手伝ってくれたでしょ?
その時から……ずっと言おうと思ってたの……」
「――え?」

 男の表情には困惑が、女の表情には決意がそれぞれ漂う。

「……わたし、藤田君の事が好き、本当に、藤田君の事が好き」
「!?」

 発せられた言葉に浩之が感じたのは、困惑。

「でも、わたしは藤田君と神岸さんの間には入れない。
だからね……藤田君に答えてほしいの、たった一つの答えしかない、意地悪な質問に」
「……ああ」

 スポットライトのように、太陽の光が差し込む。
 雨は、何時の間にか上がっていた。

「藤田君、私と、付き合ってくれる?」
「……ごめん、俺は、今の俺は、あかり以外には……」

 沈黙だけが、辺りを覆う。

「藤田君、ありがと」

 その沈黙を破ったのは、松本の言葉。

「ごめんね、こんな事に付き合せて……」
「……何言ってんだよ……友達だろ?」

 浩之の言葉に一瞬きょとんとする松本。

「え……?」
「どーも、岡田とは仲良くやれそうも無いが……岡田も吉井も、松本も友達だろ?」

 そっぽを向いたまま、鼻の頭を掻きつつ言う浩之。

「ありがとう……あり…がと……」

 松本の両目から、こらえていた涙がぽろぽろと流れる。

「あれ……? やだな……悲しくなんか……っ……ないのに……っく!」

 ハンカチを差し出してきた浩之の背に頭を預けて、松本は少しだけ泣く。

 溢れ続ける涙と一緒に、松本は、失恋した。





 吉井の自宅――


 学校から帰った吉井は、鞄を放り投げるとそのままベッドに突っ伏した。

「……」

 何も言わずに谷島抱き枕まで手を伸ばす。
 2.5頭身の谷島を抱きしめたまま、吉井は小さく溜息を付いた。

 点けたばかりのストーブが辺りの空気を暖めるが、その範囲は未だ微々たる物だ。

 学校で松本が教室に戻ってきた時、吉井は何も言えなかった。

 何を言っても無駄に思える、そんな思考さえ浮かび上がるほどに、松本は沈んで見えた。
 それでも、彼女は微笑むと……、

『はは……やっぱり振られちゃったよ』

 と言って、目尻に少し残っていた涙をぬぐった。

 それでも、松本が何処か吹っ切れて見えたのは……、
 それが最良の……いや、最善の方法だったからだろうか?

 今の吉井には、判りかねる事である。

 考えても仕方が無いとベッドから起き上がった時、電話の子機がやかましい音を立てた。

「あー、はいはい、ちょっと待っててよ」

 そう呟いて子機の電源を入れる。

「はい、吉井です」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、彼女が今、一番聞きたいと思っていた声。

『あ、先輩、谷島です』

「ややややや……谷島君!?」

 それでも一番予測していない声だった為に、吉井の声は5.6回スクラッチしていた。

「どどどどどどど・…どうしたの?」
『いえ…その…明日、開いてますか?』

 因みに明日は日曜日、1日ごろごろしようとしていた筈だ。

「開いてるよ! 何があっても絶対開いてる!!」
『あ……はぁ……それじゃあ、明日の夜11時ごろに学校に来てくれませんか?』
「行く行く!! 雪が降ろうが嵐になろうが富士山が噴火してユーラシア大陸が半分沈もうが絶対行く!!」

 言葉の意味を深く考えられなくなっていた吉井は二つ返事でOKを出した。

 ――深夜の学校で何をするのか?





 その疑問に頭が回ったのは……、
 夕飯を食べ終えて風呂に入っている時だった。





<続いてしまったりするんです>


後書きなのです

 えー、松本の恋に決着付けさせて岡田と吉井のラストシーンに向けて伏線張って……、
 死ぬほど忙しい回となりました。

 松本は見事に振られてしまいましたが、中途半端に傷つくよりは、
きっぱりと振られたほうが良いのかなとか思ってたりします。

 因みに松本の状況はある意味体験談です。
 あー、懐かしい反面、中途半端な傷痕が痛い。(涙)

 さー、次は谷島と吉井&矢島と岡田の終局だ―。

 でわ、さらばっ!

 (煙がもうもうと立ち込める、ややあって舞台の隅から”ごすっ!!”とか言う景気の良い音


次回予告

岡田:あいーふるえーるあいー、それはーわかれぇーうーたー♪
松本:エンギでもない歌唄うなぁー―――――!!( ̄□ ̄メ
岡田:あー、なによぉ、せっかく良い気持ちで歌ってたのに。(ー0ー)
松本:あのねぇ、それ、わたしに対する当て付け?( ̄□ ̄メ
岡田:あ……わるかったわよ(−_−;

松本:次回、落書き隊に花束を、巻の終「星屑の小夜曲」。
岡田:英訳すると「スターダスト・セレナーデ」ね。
松本:って事は元ネタは「0083」?
岡田:そりゃ「星屑の記憶」でしょ?


<コメント>

聖 「あっ……俺が出てる」(^_^?
エスタ 「でも、あたしは出てないのね?」(;_;)
誠 「まあ、エスタさんが出てきたら、色々とややこしくなるだろうからな……」(^_^;
聖 「しかし、なんつーか……、
   この三人って、俺達よりも、普通の恋愛してるよな」(−−;
誠 「まあ、俺達は色んな意味で普通じゃないからな」(T▽T)
聖 「それって……俺もか?」(^_^?
誠 「当然……エスタさんと知り合った時点で、普通とはおサラバだろ?」(−o−)
聖 「う〜む……」(−−;
エスタ 「……後悔してる?」(;_;)
聖 「ば〜か……ンなわけ無いだろ?」(^ー^)
エスタ 「えへへ〜♪」(*^_^*)
誠 「あ〜、はいはい……ご馳走様」(−−;