いつか、求めた場所、願った時間。

 それは、刹那の奇跡?





恋セヨ少年少女達
 落書き隊に花束を!

<巻之中(壱) いつか見た夢、いつか願った奇跡>





 水曜日なんて中途半端な場所にある休日ゆえに、人通りは普段とさほど変わりない。
 行き交う人の中に、ベンチに座ったまま腕時計を見てため息をつく少女が一人。

「まーくん、お待たせ♪」
「お、あかね、早いな」

 恋人達の語らいが遠くに聞こえる。
 現在の時刻は午前9時半。

「……早すぎた……かな?」

 呟いて溜息を漏らす、彼女を特徴付けるタコさんウインナーカットの髪も、
心なしか力なく垂れていた。

 約束の時間は10時。
 なのに彼女は9時からずっとそこにいたりする。

 ちなみに服装は、髪の色に合わせた薄紫のジャンバースカートに、
白と見分けがつかないほどに薄いクリーム色のトレーナー。

 流行の上げ底靴は……一回すっ転んで思いっきり顔面を打った後は履いていない。
 ほのかに漂う香水の香りは柑橘系のもの。

 元が良いだけに、本気で外見を決めると中々の美少女だったりする。

 そう、この待ち惚けしている美少女が吉井だ。

 初デートにうきうきしているが、でも、不安。
 そんな雰囲気が彼女から思いっきり発散されている。

「あれ? 先輩……」

 そんな彼女に声をかけたのは、まごう事無き彼女の待ち人。

「谷島君……!? あれ? まだ15分あるよ?」

 時計と、目の前の少年を見比べて目を丸くする吉井。

「それを言ったら先輩だって……まだ9時45分ですよ?」

 一拍の間、二人の視線が真っ向からお互いを捕らえる。

「「ぷっ……」」

 すぐに、沈黙は笑いに取って代わった。
 しばらくの間、本気で笑った後、目じりの涙をぬぐいながら吉井が言う。

「なんだか時間は余ってるみたいだね」
「ええ、2本目が始まるの大分先ですし……」

 映画の上映時間表を見ながら、谷島が言う。

「それじゃあ、ちょっとお茶でもして行こうか?」

 そう言って吉井が指差した先には、『HONEY BEE』と言う名前の喫茶店があった。





「お待たせしました♪ コーヒーとホットケーキセットです♪」

 猫耳のアクセサリーをつけたウエイトレスが、
谷島の前にコーヒーを、吉井の前にホットケーキセットを置いていく。


 『くぅ〜〜〜〜〜〜!! リアン!やっぱり可愛いわ!!』
 『あの〜……このネコ耳外しちゃだめなんですかぁ?』


 厨房の方から誰かが柔らかいものを抱きしめるような音がしたが、
そんなものは吉井の耳には入っていなかった。

「吉井先輩……?」
「あ……何? 谷島君」

 ちょっと永遠の世界に片足突っ込んでいた吉井は、谷島の言葉に現実に帰ってきた。

「……ホットケーキ、冷めますよ?」

 コーヒーにミルクを混ぜながら言う谷島の声に、
吉井は半ば慌てたようにホットケーキを口に運ぶ。

「あ……美味し……」

 さすがにその言葉を出した瞬間にホットケーキが光り出すと言うことは無かったが、
谷島の耳が一瞬ぴくりと動いた。

「美味いんですか?」
「うん! ……ホラ、ちょっと食べて!!」

 そう言って、小さめに切ったホットケーキを谷島に向ける。
 谷島がフォークの先に突き刺さったホットケーキを咥えたのを確認すると、吉井は食事を再開する。

「………あ、ほんとだ、美味い」
「でしょ! いやぁ……なんでこの店に今の今まで気がつかなかったかなぁ」

 また、暫くの間静かになる。

 ふっくらと焼かれた2枚のホットケーキは、きれいさっぱり無くなっており、
セットについてきたジャーマンポテトとジュースもとっくの昔に食べ終えた。


「ありがとうございましたぁ!」


 元気なウエイトレスの声に送られて、谷島と吉井は「HONEY BEE」を後にする。

「ねぇ、谷島君……さっきのホットケーキ代……本当に良かったの?」
「ええ、こう言う時は男が払うもんでしょ?」

 問い掛ける吉井に、微笑みながら谷島が答える。
 自分よりもちょっと背の高い谷島の顔を見ていた吉井は、ある事に気がついた。

「ふふ……谷島君、口元にバター着いてるよ?」
「えっ?」
「ほーら、ジッとして」

 ちょっとお姉さんぶった口調でそう言うと、谷島の頬に軽くてを当て、
ハンカチで口元に着いているバターを取る。

「……うん、これで良し♪」
「あ……すいません」

 なぜか申し訳なさそうに言う谷島。

「いーのいーの♪ 気にしない事♪」

 そう言って笑いながら、吉井は谷島の背をバンバンと叩きまくる。
 その光景は、まるで今が一番幸せなカップルのようだった。

「それじゃあ、そろそろ映画館に行こうか?」

 自覚が在るのか無いのか?
 谷島の腕をしっかりとホールドしつつ、吉井は楽しげに言った。

「あっ…はいっ!!」

 腕を思いっきり引っ張られ、体制を崩しかけた谷島は必死の努力でバランスを取り戻し、
何事も無かったかのように歩き出す。

 ……そんな二人の後をつける栗色の髪の影に、二人は、気づかなかった。





 『ジョニー…? ジョニー! 返事して!! 死んじゃダメ……死んじゃヤダ!!
死なないでよ!! ジョニィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!』

 サラの叫びに答える声は無く、彼女に永遠の愛を誓った青年だった死体は、
世界最大の豪華客船が沈んだ海に消えていく。

 画面はゆっくりとブラックアウトしていき、エンディングテーマと共にスタッフロールが流れ出す。


「……吉井先輩?」


 谷島が吉井を呼ぶ声に、返事は無い。

「…先輩?」

 何の気無しに隣を見ると、吉井は谷島の肩に頭を預けてすやすやと寝息を立てていた。

「…………」

 恐らく、なれない時間に起きていろいろと準備していたのだろう。
 『ピエロ弐号機』やら『矢島MKU-FA』やらと言われている自分のために。

 そう考えると、無下に彼女を起こすことは、酷く背徳的な事に思えてきた。
 それに何よりも、もう暫くこの状況で居たい。

 結局、吉井が目を覚ましたのは2回目の上映が殆ど終わりかけてからだった。





 3時間近くの長時間映画を2回も見たのだから、
映画館から谷島と吉井が出たときには既に日は傾いていた。

「さて、これからどこ行こうか?」

 吉井が夕日に目を細めながら言う。

「そうですねぇ……まさか飲みに行く訳にもいかないし」

 ちょっと困ったような谷島に、吉井は微笑んで見せる。

「なら、いっつも谷島君が行ってる所につれてって」
「――へ?」

 キョトンとした谷島が我に返るよりも早く、吉井はまた、谷島の腕にぎゅっと抱きつく。

「さー! れっつごぉ!!」

 上機嫌な吉井に、少しだけ笑顔を返して……、
 谷島はいつも遊びにいくゲームセンターに歩を進めた。





「谷島君はいっつもどんなゲームやってるの?」

 多種にわたるゲーム機を見ながら、吉井はその言葉を口にする。
 まさか「脱マン」とは言えない谷島は……、

「ガンシューですね」

 などとボケてみる。

「……がんしゅー?」

 一瞬意外そうな顔をする吉井。

「……そんなに変ですか?」
「あ、変って言うか……意外だったんで……」

 何か納得したかのように腕を組み、頷きながら……、

「うんうんそっかー、私はもうクレーンゲームしかやってないからねぇ……」
「あはは……やってみたら簡単なもんですよ」

 軽く笑いながら「TIME TO COP」と書かれたゲーム機に百円銀貨を入れる。


 ゲーム・スタート


 次々と出てくる黒服を、谷島は的確に射殺していく。

 腕や銃を狙うほうがポイントは高いのだが、流石にそれだけを狙うのは難しい。

 ちなみに弾は、オートマティック、リボルバーを問わず、
残り一発になった時点でリロードするのが定石である。

 このゲームをやりなれていない谷島は、一面のボスでものの見事に粉砕された。





 その後、アンティークの小物を見て、食事して、と言うようなことをのんびりと楽しんでいたら、
既に時間は午後8時だった。

「はぁ……もうこんな時間……」
「そうですね」

 駅前のベンチに座って、ぽけ―っとしていた吉井がぴょんと立ち上がる。

「それじゃあ、また明日」
「ええ、じゃ、失礼します」

 谷島は軽く礼をすると、住宅街へと帰ろうとして……、
 吉井に思いっきり腕を引っ張られる。

「……まったくもう、最後は、こうでしょ?」

 そう前置きして、吉井は、谷島の頬に軽く自分の唇を当てる。


「……え?」


 一瞬何が起こったのか判らず、ぽかんとする谷島。

「……じゃ、ね」

 悪戯っぽく舌をだした後、吉井は走って帰路についた。

 谷島の方は、一瞬の出来事に脳がフリーズを引き起こし、あっさりと機能停止していたりする。

 街路灯が照らす帰宅路を、吉井は鼻歌交じりで歩いていた。
 自分の恋した相手との初デートの後ともなれば、こうもなろう。

「ふふふ……♪」

 心底幸せそうな吉井の笑いが、星など余り見えぬ秋の夜空へと吸い込まれていった。





 吉井が去ってから数分後――

 我に返った谷島は、自分の頬に軽く手を当てる。

 彼の心を、妙な感触が襲った。
 さくらの事を考えた時とは又違う感触。

 かつて、幼い頃に味わったものと同じような感触。





 微かに引っかかるものを感じながら、谷島はもう暫くそこに突っ立っていた。





<続くかもしれないです>


後書き

 さて、らくがき中編、谷島と吉井のデートイベントです。
 吉井が張り切ってラブ度最高潮ですね。

 あー、慣れない話書いたから肩痛い……、(涙)

 次回、矢島と岡田のデート結果と相当バレバレな謎の影の正体が明らかに……、
 なるかも知れないし、ならないかも知れないです。(弱気)

 力量不足から、中編を数回に分けてしまいました。
 ご容赦願えたら幸いです。<(_)>ゴメンナサイ


次回予告

松本:幸せいっぱい♪ のデートから帰宅した吉井、
    翌日の学校で彼女を待っているのは一体なにか!?
岡田:谷島が感じた懐かしさとは一体!?
松本:思い出せぬ過去の記憶、それを知った時、谷島と吉井は……?
岡田:ねー聞いてよ松本ぉ……矢島のヤツ……、
松本:黙れ。
岡田:……、

松本:次回、落書き隊に花束を(中編U)「いつか見た蒼空」に……、
岡田&松本:Let's Rock!!

 ――幕


<コメント>

誠 「――っ!?」(@○@)
浩之 「――っ!?」(@○@)
智子 「――っ!?」(@○@)
浩之 「吉井が壊れたーーーーーっ!!」<(@△@)>
智子 「い、一体、何があったんやーーーーっ!!」<(@△@)>
誠 「俺はそっちよりも、谷島が普通にデートしてるところに驚いてるけど……」(^_^;
智子 「なんやもう、らぶらぶ一直線って感じやな?」(−−;
浩之 「でも、何やら過去に因縁があるっぽいが……」(・_・)
誠 「まあ、因縁って程のことでも無いんじゃないか?
   それよりも、俺は矢島の方が気になるぞ」(^_^;
浩之 「確かに……まさか、あいつがあかりを諦めたとは思えねーし」(−−;
智子 「……岡田が傷付くような結果にだけはならんと良いけどな」(−−;