何時迄も、その幸せが続くと思っていた。



 幸せを失うー・・・そんな哀しい事を、私は知らなかった。





恋セヨ少年少女達!

落書き隊に花束

  <巻之前:出会いには偶然を>






 彼の名は、谷島。

 名前はまだ無い……のではなくて判らない。

 同じクラスの園村さくらと言う少女に恋い焦がれる高校2年生だ。

「園村さん!もし良かったら……」
「?……すいません……どなたでしたっけ?」

 重い沈黙。

「さくら、どうした?」
「あ、まーくん♪ 何でもないですよ♪」

 幸せそうな声を上げて、さくらは恋人の所へ行ってしまった。

 後に残ったのは、只呆然と立ち尽くす谷島のみ。

 ややあって……、


「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 絶叫が、校内に響き渡った。





「あれ? 何か聞こえた様な……」(誠)
「負け犬の遠吠えだろ?」(浩之)





 さて、いつもの様に崩れ落ちる谷島をみて、小さくため息をもらす1人の少女がいた。

 彼女の名は吉井。

 言わずと知れた、委員長シナリオに出てくる精鋭いぢめっ子集団「落書き隊」の3番目だ。
 また、1番影の薄い娘でもあり、PS版のスタッフロールには名前すら出てこない。(実話)

「…………はぁ」

 そんな彼女は、手にした封筒をポケットにしまうと、ため息をついて天井を見る。

「…………馬鹿」

 信じられない事だが……彼女の目は、「恋する少女」の目だった。
 信じられないが、間違いない。



 彼女、吉井は谷島に恋をしていた……、



 いつ頃からかは、覚えていない。
 ただ、彼に出会った時から、彼の事が頭から離れなくなっていた。

「谷島……君……」

 その名を呟くたびに溢れて来るのは、愛しさと、痛みと……疑問……、
 もっと前に、彼女は彼ともっと親しく話していた様な気がする。

 そんな事を親友の岡田に話したら……、

「……勘違いとか妄執とか思い込みとかじゃない?」

 などとあっさり返された。
 もう1人の親友、松本に至っては……、

「ううっ……ようやっと吉井にも春が来たよぉ」

 などと感涙するばかりで、全く会話にならない。

 で、話しかけるにも度胸がなくて、結局、校内では谷島に見つからない様に、
こっそり後をつけるのがお約束になってたりする。

(これじゃあストーカーだよぉ……)

 目の幅涙をぼたぼたと流しつつ、
彼女は今日もストーキングに……もとい、チャンス探しに精を出す。



 そのチャンスは、意外と早くに訪れた。



 なんと言うか……谷島と真っ正面からぶつかったのだ。

 コテコテな迄に王道である。

 その場面を見ていた奴がいたら……、

「お前ら付き合え」

 と言わん迄に見事なラブコメ的状況だった。

「いてて……大丈夫ですか?」

 先に起き上がった谷島が、手を差し伸べる。

「あ……うん、大丈夫」

 真っ赤になりながら、それでも差し出された手はシッカリと取って吉井は言った。

「あ、なら良かった……それじゃあ、気をつけてくださいね、吉井センパイ!」

 それだけ言って、谷島はどこかへと歩き去って言った。

 ぶつかった事や、会話を交わした事よりも……、

 谷島が自分の名前を知っていたという事に頬を染める吉井は、
暫くの間、只のダメな人と化していた。



「おーい、よしいー!」
「かえってこーい!」



 親友2人の声が、どこからか聞こえて来る。
 そろそろ寒くなってきた空気も、困りきっている親友の顔も、彼女の中では二の次だ。

 ごく自然に両足がスキップを踏んでいるなど、気づいてもいないだろう。

 そんな折り、道の反対側から彼女らの宿敵、保科智子が歩いてきた。
 岡田と松本は露骨に顔をしかめるが、有頂天の吉井は気づいてなかったりする。

 何の問題もなく智子とすれ違う吉井。
 吉井の様子を見た智子が、一瞬ギョッとする。

「……落書き隊リーダー」
「勝手に妙な役職振らないで」
「んなことどうでもええ、一体、何なん、アレ?」

 智子にアレ呼ばわりされた事も聞こえないかの様に浮かれ続ける吉井。

「……あの娘にも、春が来たのよ」

 ちょっとだけ悔しそうに、松本が言う。

「そか……」

 それ以上は何も言わず、智子は其処から去って行った。
 因みに、吉井はまだ浮かれてたりする。

「……ずいぶんと長いわね」

 呆れた様にいう岡田。

「仕方ないよ……」

 苦笑する松本。

(だって……やっと名前覚えてもらったんだから……)

「……岡田」
「ん?」

 突然かけられた声に少しビビりながら松本に答える岡田。

「私たち、いつまでも友達よね?」
「あたしら既にバットエンド確定か!?」

 ボケには突っ込みを返してくれる。

 意外と律儀な岡田であった。





 その日、吉井はお手製谷島抱き枕をしっかりと握りしめて眠った。

「……谷島……くん……」

 幸せそうな笑みを浮かべて、幸せな夢を見続けた吉井は……、

 ……翌日、学校を遅刻した。





 昼――

 東鳩高校3年B組教室――

「うぅ〜……岡田も松本もひどいよぉ……」

 おもいっきり遅刻した吉井がふくれっ面で文句を言う。

「何言ってんの、朝、3回もチャイムならしたでしょーが」
「吉井ってば、まだ文句言ってる……」

 学食でAランチを突付きながら、岡田と松本はさらりと吉井の言葉を流す。

「うぐぅ、岡田、酷いよぉ……」
「別のゲームと言っても、メインヒロインの真似はやめといた方がいいと思うよ?」
「まぁ……所詮わたし達って保科ED向かえる為のフラグ立てアイテムだもんねぇ」

 ちょっと溜め息着きながら、松本が言う。

 しばらく続いた雑談は、智子の悪口へと変貌していく。

「それでもやっぱり気に入らないのは保科よ!」

 岡田が箸を休めぬままに言う。

「そうそう! ちょっと頭がよくてスタイルが良くて……」

 言いながら松本の声が小さくなっていく。

 ちなみに、彼女達のスタイルはゲーム画面を見ての通り。
 頭の方は……まあご想像の通り。

 特に岡田は、春先に思いっきり補習を食らってたりする。

「眼鏡っ娘でお下げで素直じゃなくてCVが久川 綾で……」

 言いながら、吉井の声も小さくなっていく。

「……萌えの要点を抑えてても性格が問題なのよ!
眼鏡とお下げが萌え心をくすぐって、さらに素直じゃない性格とあのスタイルが男達の目を奪っても、
結局、藤田以外とは上手く溶け込めてないじゃない!!」

 それは流石に思い込みが先行しているんじゃあ無いか?
 松本と吉井は期せずして同じ事を考えた。

 そこに……、

「岡田、何、大声で熱弁振るってんだ?」
「ややややややややややや矢島っ!?」

 突然、声をかけられ、岡田が素っ頓狂な声を上げる。

 声をかけてきたのは、あかりにアタックをかけては振られまくって既に4桁目、
ある種の伝説を作り上げつつ在る男。

 名を矢島と言う。

「別に天下の学食何だから何を叫ぼうが俺の関わるこっちゃ無いが……、
せめて一般人に迷惑かけない程度に押さえとけよ」
「……たまに何人かで来ると、藤田のグチ飛ばしまくってるあんたに言われたかないわね」

 学食内に冷えきった笑い声が2つ重なる。
 そんな様を見ながら、吉井と松本はもう1度ため息をつく。

 今度の溜め息には……、

(なんで岡田はここまで素直に自分を出せないんだろう?)

 ってな意味が込められてたりする。

 実は、岡田が矢島に惚れていると言うのは、
当人達以外にとって、既に公然の秘密だったりする。

 やがて、ぎすぎすした空気を振り払う様に矢島が頭を振る。

「っと……何時ものノリで漫才しに来たんじゃねぇんだ」

 そう前置きして、彼は遊園地の無料招待チケットを取り出す。

「えっ……?」

 流石にそうくるとは思っていなかった岡田は1瞬目を丸くする。
 手にしたチケットを少しの間眺めると……、

「あの……矢島?」
「……水曜の10時、正門前、遅れんなよ!」

 それだけを、耳迄真っ赤にしながら言うと、矢島は学食から去って行った。

 後に残るのは、ポカンとする岡田と、状況を飲み込めない無数の人々。
 ややあって……、

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 絶叫が、学食に響き渡った。





「信じらんないよねぇ……」
「うん……」

 放課後――

 松本と吉井は並んで廊下を歩いていた。

「まさか矢島がねぇ……」
「神岸さんの事は諦めたのかな?」

 そんな事を雑談しながら歩いていると……、

「あ、吉井、あぶな……」

 どすんっ!!

 吉井は思いっきり、真っ正面から、
なんとなく見知った男子生徒にぶつかった。

「ああっ! すいません!! ……って、吉井センパイ?」
「やっ……谷島君!!?」

 唖然とする2人を見ながら、松本は「やってらんない」と両手を上げた。





「へぇ……そうだったんですか」

 所変わって、ここは谷島の所属する天文学部。
 小さな部室の中で目だつのは、新品の様なパソコンと巨大な天体望遠鏡。

 進められるままにパイプ椅子に座って、吉井は岡田と矢島について話していた。

「岡田は水曜にデートで、松本は友達と買い物……、
私だけよ青春を灰色に過ごしてるのは……」

 ちなみに、松本はとっくの昔に帰っていたりする。
 ゆえに、部室の中には吉井と谷島が2人きり。

「それにしたって、昨日はずいぶんきっぱりと振られてたわね」
「……見てたんですか?」

 吉井の言葉に、ちょっとつらそうに答える谷島。

「映画に行こうかって……誘おうと思ったんですが……」
「……って、『いかにも』な映画のチケットね」

 谷島が手にしていたチケットに印刷されている題名は「タイタニア」。
 豪華客船の中で出会い、死に別れる恋人達の話だ。

「まったく、ペアチケットなんか買っちまって……どうしたものか……」

 苦笑しながら空を見上げる谷島。
 そんな谷島を暫く見つめたあと、吉井は谷島のポケットから問題のチケットを取り出す。

「へー、今度の水曜ねぇ……」

 それを見て、吉井は少しだけ微笑む。

「どーせ暇なら、お姉さんとデートしない?」

 いつの間にやら手にしたペアチケットをヒラヒラと動かしながら、吉井は楽しげにそう言った。






後書き

 はい、前部分終わりました。

 次はデートイベントです。

 それはそうと何やら矢島が漢ですねぇ……、
 ま、矢島と岡田のオチは次の次に回すとして、問題は谷島君ですな。

 前にBBSでSTEVENさんに聞いた所によれば、
谷島の部活は特に決めてないので好きな様にどうぞ、との事でしたので、
思い切って天文学部と言う事にしてみました。

 この時点で話の落ちが見えますな。(汗)

 では、ここらでさよーならー!


次回予告(?)

岡田:なんとっ! 谷島にデートの約束を取り付けた吉井!
松本:このまま「世界一影の薄い美少女」の汚名返上なるかっ!?
岡田:っつーか、あたしも水曜は矢島と出かけるんだけど……、
松本:んなこた知ったこっちゃないよん♪
岡田:……、

岡田:っつー訳で、次回! 「いつか見た夢、いつか願った奇跡」
松本:吉井の甘々なデートに付き合ってもらいます!

 ――幕


<コメント>

浩之 「矢島……ようやく、あかりを諦めたのか?」(−−?
矢島 「何を馬鹿なっ!! 俺が神岸さんを諦めるわけないだろう!
     岡田はあくまでキープ……」( ̄△ ̄メ

 ドカッ!!

矢島 「ぐえっ!!」(@○@)
さくら 「……最低ですね」(−−メ
あかね 「うみゅ……」(−−メ
矢島 「な、何故……」(T△T)
誠 「自業自得だろ?」(−−;
浩之 「それはともかく、谷島が天文部とは……」(−−;
誠 「似合わねーなー」(−o−)
谷島 「ほっとけっ!!」(−−メ