「ボクの事……忘れてください……」

 彼女は言った。

「ボクなんて……最初からいなかったことにして……忘れてください……」

 その瞳に、涙を湛えて。

「……あゆ!!」





KANON創作
 Don’t Cly Angel





 ここ2、3日で御決まりになった名前を叫んで、相沢祐一は飛び起きた。
何時もの様に瞳には涙が浮かび、心臓は激しく脈打っている。


   『ボクの事……忘れてください……』


 その言葉を残して……彼女は、月宮あゆは消えた。
 祐一の心に、拭いきれぬ傷痕だけを残して。

 永い時を経て、ようやっと廻り逢えた初恋の人。
 彼女は、祐一と廻り逢い、彼女自身の願いによって奇跡を起こした。


 ひとりの少女を過去から救い出し。

 ひとりの少女の癒されぬ筈の病を取り去り。

 ひとりの少女には力を受け入れる意思を与え…。

 ひとりの少女に人たる力を分け与えた。


 ――そして、この哀しくも心優しい天使の心は、何処へ行くのだろう?――


 幸せに向う筈の運命は、最早動き出す事はない。

 少女は、その力によって多くの奇跡を引き起こし……、

 その代償に、彼女自身の時を封じ込めてしまった。

 それは、逃れ得ぬ『奇跡の代価』か?

 彼女を待つ者が……そこにいると言うのに……、





 病院の一室――

 そこに、7年の間意識不明で眠っている少女がいる。
 その少女の手を握り……祈る様に瞑目する少年が一人……佇んでいた。

「……あゆ……聞えるか?」

 聞えないとしても、なんの反応も無くとも、少年は語りつづける。

 彼女が目覚める時……それだけを信じて。

「お前の大好きな鯛焼きを買ってきてやったぞ?」

「……」

「しかも、こし餡増量だ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 ばきっ!


 少年は、ものも言わずに自らのほほを殴りつける。

「……違うだろ!! 言うべき事はそんな事じゃないだろ!!」

 そう言う少年の瞳には……涙が、浮かんでいた。
 決してそれは、自らを殴った痛みに流している涙ではない。

「……なんでも願いを叶えてやるとか言っといて……、
こんな簡単な事も言えないのかよ……俺って奴は!!」





 彼女は知っていた。
 初恋の相手の不器用さを、根性の曲がり具合を。





 だから、

 彼女は、

 その人形を受け取った。

 そして、奇跡を起こし、幸せを蒔く事で初めて気付く。





『叶える方も……大変なんだよね……』





 最後に残った1つの願い。

 それはまだ、宙を漂っている。

 比翼の天使人形は、柔らかな光りに包まれたまま。

 その願いを待っていた。





『祐一君が幸せになる為に……ボクは消えなきゃ駄目なんだよ……』

『そうじゃないだろ!?誰かを幸せにするってのは……そうじゃないだろ!!』

『ボクがいると……祐一君は傷付くから……』

『あゆじゃなきゃ駄目なんだよ!
あゆが居なけりゃ俺はいつまでもここをさ迷う事になるんだ!』

『祐一君には……導いてくれる人が……居るから……』

『天使の最後の願いはお前じゃなきゃ駄目なんだよ!』

『え……?』

『天使の願いは…あゆの為の願いなんだ!あゆが幸せになるための願いなんだ!』

『ボクの……幸せ……?』






 それは、夢だったのか?





『そうだ! 名雪が居て、舞が居て、真琴がいて、栞がいて、
佐祐理さんがいて、香里が居て、美汐がいて……、
……誰よりもあゆが居ないと、幸せなんて何処にもこないんだ!!』






 或は……人の想いが起こした奇跡だったのか?





『ボクが……祐一君の幸せ……?』

『そうだ!!』

『でも……ボクは……』






 何か言いかけたあゆの体を、祐一はしっかりと抱きしめた気がした。





「あゆ! ここに居てくれ! もう一度……幸せをつかむ為に!」





 7年の時を超えてようやくに伝わった心は、
永きに渡って積もりつづけた真紅の雪を取り払う。





「……ん……?」

 体を揺すられる感触に、祐一は目を覚ます。

「祐一君……」

 目の前にあるのは……小さな天使人形と……求めつづけた、暖かな笑顔。

「あゆ……!!」

 思わず抱きしめた小さな体は、かつての冷たさではなく、温かさに満ちており……

「あゆ!! あゆ!!」

 祐一は、自らの起こした奇跡にすら気付かぬほどに、その少女の温かみを求めていた。

「……祐一君……」

 そんな祐一を、しっかりと抱きしめると……、

「大好きだよ……」

 あゆは、彼の耳元で照れくさそうに囁いた。



 ―動くはずのない運命が再び動き出す。少年と少女の起こした奇跡に導かれて―



 そんな2人を、小さな天使人形だけが微笑みながら見つめていた。

 7年の時を超えて結びついた、運命を見つめる様に……。

 そして、病室の壁に映った二人分の影が、少しだけ重なる。





 ――奇跡は、いつも小さなきっかけに過ぎない。

 人は、その奇跡というきっかけを元に、より大きな幸せを作り出す。
 彼女は、そのきっかけを掴み、少年と共に幸せを生み出した。

 だから――





 祐一は、唇を放すとあゆの頭を優しく撫でながら言った。

「これからは俺がそばに居るから、どんな時にも俺が傍に居るから……だから…」





        あ  
――天使よ、どうか涙を流さずに――





<了>


後書き

ハープ:毎度どーも!
葵:真魚…やっちゃいましたね…、
ハープ:いつかはやるんじゃないかと思ってたけど……、
葵:まさかこんなに早く……、
ハープ&葵:祐一の起こした奇跡で一本書くだなんて…、(・_・;
ハープ:でもねぇ、何より許せないのは…真魚のくせにらぶらぶを書いてるって事よ!
葵:あ。えーと…それはそうとあゆさんと祐一さん幸せになれそうで良かったですね。(^0^;
ハープ:むっちゃ露骨に話し変える娘ね……葵ちゃん。(−−;
     ま、あゆちゃんの元同僚から言わせてもらえれば…、
     アレで幸せになれなきゃ神様シメる……ってとこ?
葵:ハープさんって確か現役の天使…、(−_−;
ハープ:だってさー、やっぱりそれくらいは幸せじゃないと割りに合わないよ?
葵:それはそう思いますけど…、(^へ^;;
ハープ:ま、ともかく!
葵:もしも作者が電波を感じ取ったら、また次の書くと思いますんで!
ハープ&葵:その時には、また会いましょう!
ハープ:ところで、谷島SSは?(−0−)
真魚:あう…、(・_・;

 ――幕。


<コメント>

あかね 「そっか〜……祐一さんとあゆさんって、
      天使の人形のおかげてで幸せになれたんだね」(^〇^)
さくら 「そうですね〜」(^_^)
あかね 「あたし達も、幸せになれるかな?」(^_^?
さくら 「やってみましょう……エントリー・エンジェルッ!」(^▽^)/
あかね 「天使の翼よーっ! あたし達とまーくんをいざなってーっ!!」(^〇^)/
誠 「お前ら……それは天使違いだ」(−−;
あかね 「な〜?」(・_・?