Heart to Heart 外伝

         
『四人のおひなさま』







 ある麗らかな春の下校時――

 俺の両隣では、ニコニコと微笑みながら歩いているさくらとあかね。
 二人とも俺の腕にギュッとしがみついている。

 まあ、何だ。
 俺のいつもの光景ってやつだな。

 しかし今日は、いつものとはちょっと違ってたりしていた。
 何故なら、今日は浩之とあかりさんが一緒だからだ。

 理由としては、そんな大したことではない。

 偶然、校門でバッタリ浩之とあかりさんと会って、
どうせ帰る方向も一緒なんだからということで、一緒に帰っていた。

「そういえば、今日はひな祭りだね」

 ちょうど公園の並木道を歩いている時に、
あかりさんが浩之にそんなことを言ってきた。

「今日はひな祭りか……全然気がつかなかったな。
今年はあかりの家は雛人形飾らないのか?」

 あかりさんの隣で浩之がそう言い返す。

「うん……たまに虫干しはするけど、
もう飾らなくなっちゃった……」

「もったいねぇな。あかりのとこのは、
結構、凄かったじゃなかったか?」

「うん……」



 ――と、まぁ、二人でそんな風な会話をしていた。



「確か、さくらとあかねのとこにもでっかい雛人形あったよな?」

 俺も二人の会話を聞いて、さくらとあかねに聞いてみる。

「はい、わたしのところにもありますけど、
やっぱり、もう大分出していませんわね……」

「あたしのところも……」

 二人とも、そう口を濁す。

「もったいないなぁ……。
あんなにいいものなのに飾らないんだろ?」

「大丈夫だよ。女の子が産まれたら、また必要になるもん」

「そうです。必要です!」

 すると、二人ともふふふと笑みを溢す。

 さくら、あかね……何だ、お前達のその反応は?
 そして、俺の両腕に絡めている腕に力を入れると……、



っ、あ・な・




 ずがんっ!



 俺は近くの電柱に顔面から突っ込んだ。



「浩之ちゃん、
女の子が産まれたらまた飾ろうね♪」




 ずががんっ!



 すると、前に歩いていた浩之も俺と同時に
コンクリートに顔面から突っ込んでいた――。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 そして、その夜――

 時間はちょうど夕食時。
 俺は四人の手料理を順番に食べていた。


「まーくん♪ はい、あ〜んして♪(ポッ)」


「あ〜ん♪」


「まーくん♪ あ〜ん♪(ポッ)」

「あ〜ん♪」


「誠さん♪ あ〜んしてください♪(ポッ)」

「あ〜ん♪」


「誠様……あ、あ〜んです♪(ポッ)」

「お、おう……あ〜ん♪」


 恥ずかしそうに箸で差し出すさくらとあかねとエリアとフランの料理を、
誘われるように俺は口に入れる。


い?


「美味しい♪」


・・・


 と、まぁ、こんなことがさっきからずっと続いている。
 だから、俺の箸は全然活躍していない。
 可哀想だが諦めてくれ、俺の箸。

 そんな事を思いながら、また差し出されている料理を口にする。

「そういえば、どうしてフランがいるんだ?」

 今一番、疑問に思っていることを口にする。
 俺がそう言うと、フランの手が止まり、ウルウルとした目で俺のほうに向く。

「ルミラ様に言われて来たのですが、ご迷惑だったでしょうか?」

 涙目になって悲しい表情を浮かべながらこちらを見ているフランに、
俺は困ったように頭を掻く。

「い、いや、そういうわけじゃ……別に迷惑じゃないって……」

 そう言うと、安心したかのようにフランはホッと胸を撫で下ろした。
 しかし、逆に俺はフランの言葉を聞き、落胆の溜め息をついた。

 やっぱり、ルミラ先生か……、

 あの人は何を考えてるんだ?
 多分、ロクでもないことだよな。
 いや、絶対……、

 一瞬、悪魔の微笑みのルミラ先生の顔が俺の脳裏を横切っていく。

「そうそう、まーくん」

 突然……と、いった感じでさくらが俺に話しかける。

「なに?」

 俺はフランの料理を頬張りながら、さくらに聞き返す。

「先ほど、学校の帰りの話のことですが……」

 そこまで言うと、何やら恥ずかしそうに俯くと、
さくらは箸を持ちながら、もじもじとさせる。

 だから、何だ?
 何か恥ずかしいことなのか?

 そんなことを思いながら、さくらの次の言葉を待つ。


「一緒にひな祭りやりましょう♪」


「え?」


成ぃ


 俺の答えを聞かず、他の三人は賛成の意見を出す。

 でも、何だ?
 随分張り切っているが……、
 四人とも……、

「ま、まぁ構わないけど……」


やったぁ


 歓喜の声を上げるさくら、あかね、エリア、フランの四人。

 でも、さくら、あかねはともかく、
エリアとフランはひな祭りのこと知っているんだ?

 まぁ、一緒になって喜んでいるんだ。
 ある程度くらいには知っているんだろう。

 どうせ、さくらとあかねが教えたのだろうと思うが……、

「実は、まーくんならそう言ってくれると思って、
もう準備が出来ているんですよ♪」

 そう言ったさくらの指す方向には、いつの間に作ったのか、
でっかいお雛様が置いてあった。



「どうです! まーくん雛人形!!」



 ずべしゃっ!!



 俺は床に顔面から突っ込んだ。
 本日2回目の突っ込み。

 とても痛ひ……、

 その雛人形は、全部さくらの作った『まーくんぬいぐるみ』を改良したものだった。
 そんなお雛様を見て、四人ともポ〜っと眺めていた。

 いいのか? これで……、

 ……あれ?
 よく見ると、ちょっと違和感がある。

 ……。
 …………。
 う〜ん……、

 そうだ、内裏雛がいない!
 三人官女、五人囃子、随身、衛士共々あるが、肝心の内裏雛がいないではないか。

「さくら、内裏雛がないぞ? いいのか? なくなっているんじゃ……」
「大丈夫ですわ。きちんとありますもの……」

 すると、四人ともふふふと笑みを溢す。
 何だ、みんなのその反応は?

 ま、まさかとは思うが……、



「あたし達とまーくんが内裏雛♪」



 ガクッ



 予想の展開に、俺は項垂れてしまった――

「さぁさぁ、だから着替えないと♪ これ、まーくんの衣装♪」

 そう言って、さくらから麻の薄い衣装を渡される。

「え? これって……?」

「もちろん、内裏様の衣装ですわ♪」

 マ、マジでやるんかい!?

「じゃ、わたし達も着替えてきますね♪」

「まーくん、またね♪」

「誠さん、ちょっと待っていて下さいね♪」

「誠様、暫くお待ち下さい♪」

 しかし、彼女達はもの凄くマジらしい……、
 そう言って、四人ともさっさと着替えに行ってしまった。


 はぁ、仕方ないな……、





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 数十分後――

「まーくん、お待たせ!」


 うおっ!!


 そう言って、一番に部屋から出てきたのはあかねだった。
 あかねが御雛様の格好の衣装を身にまとい、俺のほうにトテトテとやってくる。

「まーくん、お待たせしました」

「誠さん、お待たせしました」

「誠様……」


 うおぉぉぉぉっ!!!


 他の三人は、ちょっと恥ずかしいのか、モジモジしながら俺の所までやってくる。
 な、なんか、こういうのも……、


 も、萌えるぞぉぉぉおっ!!!!!!!


「ど、どうでしょうか……?」

 恥ずかしそうに俯きながら、エリアが聞いてくる。
 俺の答えはもちろん……、

「うん、凄く似合っている……可愛いよ」

「ま、誠さん……(ポッ)」

 そう言い、そっと俺の肩に身体を寄せてくるエリア。
 俺はそんなエリアの肩を抱こうと……、





「・・・」



 ……腕を伸ばそうとしたが、それを見て拗ねているさくらとあかねと
羨ましそうな見ていたフランの視線がこっちに向けていたので止めた。

「ふふふ、独り占めはいけませんよね♪」

 そう言って、エリアはペロッと舌を出して微笑んだ。

「誠様……これ……」

 すると、フランが俺に1つの皿を差し出す。
 中には、ひな祭り定番の菱餅が入っていた。

「私とエリア様で作ったのですが、
お口に合うかどうか……なにせ、初めて作ったので……」

 緊張しながらジッと見ているフランを見ながら、
皿の上の菱餅を俺は口の中に放り込んだ。


 モグモグモグ……


「うん、美味しいよ♪」


 なでなでなで……

 なでなでなで……


 俺は微笑みながら、フランにご褒美のなでなでをする。

「あ……(ポッ)」

 なでなでをした瞬間、幸せに惚けるフラン。

「まーくん、白酒もあるよ〜」
「おっ、気が利いているねぇ〜」

 すると今度は、あかねが俺に白酒を差し出す。

「わたしも…… ひな祭りやるなら、お母さんがこれ持っていけって」

 そう言ったさくらも、手には白酒を持っていた。

「あたしも」

 あやめさんとはるかさんが!?

 なんか、イヤな予感がするのだが……、
 気のせいか……?


い、


 そんな不安とは関係なく、さくらとあかねが俺の杯に白酒を注ぐ。


 トポトポトポ……


 コクコクコク……


 ん?
 なんか、味が違うような……、

 白酒ってもっと甘いような?

 まぁ、いいや。
 美味いし。

「はい、ご返杯♪」

 すっかり、いい気分になった俺は二人の杯に白酒を注ぐ。


 トポトポトポ……

 トポトポトポ……


 コクコクコク……

 コクコクコク……





 いつになく、甘い声を出すさくらとあかね。
 どことなく、頬も赤いような……、

「エリアも♪」
「は、はい……」


 トポトポトポ……


 コクコクコク……


「……ふぅ」


 エリアまでも、飲み干した後、甘い声を出した。
 顔もほんのり赤いし……、


 トポトポトポ……


 コクコクコク……


「……はふぅ」


 トポトポトポ……


 コクコクコク……


「……はふぅ」


 トポトポトポ……


 コクコクコク……


「……ふぅ」


 そして今度は、三人とも自分の手酌で飲み出していた。
 それも、ペースが速い……、

 ちょ、ちょっと、飲み過ぎのような気が……、

「誠様、ちょっといいですか?」

 と、そこまで言って、言葉を詰まらせるフラン。

「なんだ?」

 そう言って、俺はフランのほうに向き直す。

「差し出がましいことだとは思いますが、白酒ではないかと思います」


「えっ!?」


 素っ頓狂な声を上げる俺。

「多分、ただの濁り酒かと……」

「…………」

 フランの言葉を聞き、俺は頭を抱えた。

 ――ただの酒!?

 やっぱり、やってくれたか!!
 あやめさん、はるかさん!!

 ったく、あの人達は何を考えてるんだ?
 大よそ見当が付けられるが……、

 だが……、
 このままでは、あやめさんとはるかさんの思惑通りになってしまう。

 何としてでも、この策略を阻止しなければ……、

 俺は頭脳をフル回転させる。
 
 ……。
 …………う〜ん。
 何も言い案が浮かんでこない。





「!?」


 ううううっ……、
 今、すっごいイヤな予感がしたんだけど……、

 「まーく〜ん……」

 さくらが俺の方を見て呟く。

「まーく〜ん……」

「誠さん……」

 あかねとエリアもさくらに続く。


 ジリジリ……


 …………。


 ジリジリ……


 …………。

 少しずつ、俺に近づいてくる三人。
 ……なんなんだ? この間は?

 ま、まさか……、
 自分の攻撃範囲に移動していたのか!?

 そう思った時は、もう遅い!!


「まーく〜〜〜〜ん!!」


「うにゃ〜〜〜〜〜〜!!」


「誠さ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」


「うぉおわぁぁっ!!!」


 まさに、水泳選手が跳び込むかの如く、三人は俺に思いっ切り跳び付いてきた。
 そのままギュッと俺を抱きしめる。



「さわさわして下さ〜〜〜〜〜い!!」



「なでなでしてにゃ〜〜〜〜〜〜!!」



「だきだきしてくださ〜〜〜〜い!!」



「あ、あわわわわわわわ……」



 もう既に、三人に抱きつかれて、動くにも動けない。
 ハッキリ言って、だいぴんち!


「まーく〜〜〜〜ん、お〜ね〜が〜い♪」


「うにゃ〜〜ん♪」


「お願いですう〜〜〜♪」


 甘い声で3人が懇願する。

 うう……いかん。
 このままでは理性が……、
 堕ちてしまう〜。

 懸命に理性を奮い立たせる俺。
 そんな俺の努力にも、理性はあまりにも脆く崩れ去っていく。

 そんな……お前らを柔に育てた覚えは無いぞ!!

 堪えろ!!
 頑張れ!! 俺の理性!!


 そんな懸命な俺の姿を瞳をキラキラ輝かせて、目の前で見ている姿が一つ……、

「フラン……た、助けてくれ……」

 俺は縋るようにフランに声をかける。

「……と、いいますと?」

 俺の言葉に首を傾げているフラン。

「この三人を何とかして欲しいんだけど……」

 そこで、暫く考えているフラン。
 固まって、動かない。

 …………。

 ……そして、何かを考えたのだろうと思いきや、
突然、両頬を赤くして頬に手を当てる。



「誠様。ワタシは、なでなでがいいです♪(ポッ)」



「違うだろぉ〜〜〜!!」



 俺の絶叫がリビングに響き渡る。


「まーく〜〜〜〜ん!!」


「うにゃ〜〜〜〜〜〜!!」


「誠さ〜〜〜〜〜ん!!」


「誠様ぁ〜〜〜〜〜〜!!」





 誰か、助けて……、





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





はるか:「あやめさん、さくらさん達どうでしょうか……?」

あやめ:「どうかな? 成功してくれればいいけど……」

はるか:「そうですね、成功しているといいですね……」

あやめ:「……早く孫の顔が見たいわね」





はるか:「はふぅ・・・♪」

あやめ:「はぁ・・・♪」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





おまけ


あかり:「浩之ちゃ〜ん!! 好き〜〜〜♪」


浩之:「お、お前! 酔っ払っているのか!?」











ひかり:「ふふふ……♪」

終わり


あとがき

 どうも、ぴろりなのだ。
 STEVENさんの相互リンク記念SSなのだ。
 今回は、ボクの好きな”Heart To Heart”のSSを作成したのだ。
 ネタはもうすぐ来るひな祭り。
 なんとなく読める展開でゴメンなのだ。
 ボキャブラリーが少なくて……、

 はうう〜。(悲)

小説作成日 2001/02/28


<コメント>

誠 「……ヤバかった」(T_T)
浩之 「…………」(−−ゞ
誠 「もうちょっとで、いくところまでいっちまうとだったぜ」(T_T)
浩之 「…………」(−−ゞ
誠 「別にイヤってわけじゃねーんだが、なし崩し的ってのはな……」(−−;
浩之 「…………」(−−ゞ
誠 「で、浩之? お前はどうだったんだ?」(−o−)
浩之 「…………」(−−ゞ
誠 「……おい、浩之?」(・_・?
浩之 「……ま、俺は別に我慢する必要ねーし」♪〜( ̄ε ̄)
誠 「お前って奴は……」( ̄△ ̄)