陣九朗のバイト IN Heart
to Heart
第六弾
「…ちっ」
舌打ちをしつつ、空を見上げる。
店から出ると、ぱらぱらと雨が降り始めていた。
当然、傘など持っていない。
雲行きが怪しいとは思ってたが、こんなにはやく降るとはな…、
「こんなことなら……」
自分の手にある紙袋に目を移す。
そこには今買ったばかりのタイヤキが入っていた。
焼き立てでまだかなり温かい。
近所で美味しいと評判らしいので、ためしに買いに来たんだが。
「買わずにとっとと帰るんだったな……」
コートの内側に袋をしまうと、俺は雨の中に駆け出した。
〜 ある日の雨宿り 〜
本降りになる前にと思い、走って家へと向かっていた矢先、
ドザザザザァーーーーーーーーーー!
「おわっ! なんだぁ、いきなり!?」
いきなり大雨へと天気は変わった。
まったく、天気予報じゃ曇りって言ってたはずだぞ?
相変わらず当てにならん。
とにかく、この雨じゃ帰るに帰れない。
なんたって10メートル先もはっきり見えないぐらいだからな…、
俺は近くの店先へと駆け込んだ。
今日は休みらしく、店名の印刷されたシャッターが下りている。
「ふう。やれやれ…」
ヒップバッグの中からタオルを取り出し、体についた雫を拭う。
うむ、こういう時自分の用意のよさに感心する。
すぐに駆け込んだおかげか、思ったよりも濡れていなかった。
「………………」
することもないので空を見上げる。
こりゃ、当分やみそうにないな…、
そう思いつつ視線を前へと向けた。
「…ん? 誰か来る…」
土砂降りの雨の中、誰かがこちらに駆けて来るのがうっすらと見えた。
やがてすぐ近くまで来ると、俺が雨宿りしている軒先へと体を滑り込ませる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
うつむいて荒い呼吸を繰り返す。
かなりの距離を走ってきたのか、その子は呼吸を整えるのに苦労しているようだった。
体も雨にぐっしょりと濡れてしまっている。
「大丈夫ですか?」
何の気なしに話し掛ける。
「だ、だいじょう、ぶです。どうも」
まだ呼吸が整いきってないらしく、途切れ途切れの返事だった。
「すぅ〜〜、はぁ〜〜…… ふぅ、やっと落ち着きました」
その子はそう言って顔を上げた。
そのままその顔が驚きのそれに変わる。
「あっ!? 陣九朗さん!」
「はい?」
名前を呼ばれて、改めてその子をよく見る。
「…………あ! アレイさんか!!」
アレイさんも驚いていたようだが俺も驚いた。
雨に濡れているだけなのに、全体のイメージというか…、
雰囲気といったものが全然変わってくる。
一瞬、誰だか本気でわからなかった。
「陣九朗さん、私だってわからなかったのですか?」
「一瞬な。髪が下りてるせいか? 結構イメージ違うなぁ」
「そうですか?」
「ああ、そういうのも可愛くていいな」
「…え!?(ぽっ☆)」
? なんだかアレイさんの顔が赤いが?
もしかして…、
「ひゃっ! 陣九朗さん!?」
俺はアレイさんの額に手を当てる。
……………。
う〜む、よく考えたら雨で体温が下がってる時に、この方法で熱が測れるわけないな。
しかもさっきまで走ってたわけだし。
しかし…ますます顔が赤くなっているような…??
「アレイさん? とりあえず体拭いたほうがいいぜ?」
とにかく体が濡れたままというのはよくない。
俺は先ほど使ったタオルを差し出した。
自分が使ったあとだが……それほど濡れてもないしな。
「……あ。ありがとうございます」
アレイさんは素直に受け取って体を拭き始めた。
じっと見てるのもなんなので、俺はアレイさんから視線を外し、
いまだ勢い衰えず降りつづける雨を見ていた。
道路はいまや川のように水が流れている。
「………………」
しかし、すごい雨だな…、
これが夏なら、水不足とかも関係ないんだろうが…、
もう少しすれば、これも雪に変わるのかな…?
「…くしゅっ!」
かわいらしいくしゃみに振り向くと、アレイさんが恥ずかしそうに立っていた。
「大丈夫か?」
「はい…だいじょ…くしゅんっ!」
くしゃみしながら大丈夫とか言われてもな。
よく見ると体にはまだ水滴がついている。
髪もよく拭いていないのかかなり湿ったままだ。
「アレイさん、よく拭いとかないと風邪引くぞ?」
俺はアレイさんの手からタオルを受け取ると、
きつく絞ってからアレイさんの髪を抑えるように拭いていった。
本当ならドライヤーで乾かしたいところだが、無い物はしょうがない。
「…っと、こんなもんかな」
完全には乾いてないが、幾分ましだろう。
さすがに体のほうまで拭くわけにはいかないのでアレイさんにタオルを渡す。
「アレイさん?」
ぽおぉ〜〜……
なんだかアレイさんの様子がおかしい。
なんだか熱っぽいような…風邪でも引きかけてるのか?
いや、そういえばこういう状態をどこかで見たな。
確か…エリアさん達が誠に『なでなで』されてる時のような……、
……まさかな。
俺はもう一度タオルをきつく絞ると、自分の髪を覆うように頭に巻きつけた。
腕を上げたときに懐の違和感に気付く。
「あ、そうだ。アレイさん…お〜い」
「…は! はい、何でしょうか?」
目の前で手をひらひらさせているとこちらに気がついたようだ。
俺は懐から例の袋を取り出す。
その中からタイヤキを一つ取り出してアレイさんに差し出した。
「ほい、少し冷めてるけど」
「ありがとうございます…いただきます」
俺も一つ取り出してぱくつく。
うむ、うまい。やっぱり冷めてしまってるがほのかに温かい。
出来たてだともっとうまいんだろうな。
今度、チキとリーナと一緒に、もう一度行くことにしよう。
「アレイさん、もう一個食べるか?」
「いえ、もう十分です。ところで陣九朗さん……、
あの…雨がやむまで何かお話しませんか?」
「ん。そうだな。さて……」
………何を話そうか?
デュラル家の近況は昨日聞いたところだし。
う〜〜む……、
「あ、あの、陣九朗さんって昔、ルミラ様とお会いしたことがあるんですよね」
突然アレイさんがこんなことを聞いてきた。
「ああ。 …あれ? ルミラさんから聞いてないのか?」
「はい、なんとなく聞きそびれてしまって…」
う〜む、細かく話していくとかなり長引くからな…
ここは簡潔に。
「ルミラさんとは大体100年ぐらい前にヨーロッパの……?
まぁ、どこだったかは忘れたが。
俺と父が母から逃げてる最中、一時的にかくまってもらってたことがあるんだ。
いろいろ家庭環境が複雑でね……、
かくまってもらってるときには、親切な普通の人間だと思ってたんだけど…、
そこを出て行く前の晩、俺が寝ているところに忍び込んできて…、
抵抗する俺を力ずく(魅了)で押さえ込んで……、
牙を、か、からだじゅうに………」
「……陣九朗さん?」
「い〜〜や〜〜だ〜〜〜〜!!!!!!」
「じ、陣九朗さん!? 落ち着いてください!!」
「…はっ! 俺は何を…、
なんかすっごく怖いことを思い出してたような…」
「大丈夫です、たぶん気のせいですから」
E C M
しばらくアレイさんとたわいのない世間話をしていると、
雨のほうもあがり、わずかながら雲間から光が差すようになってきた。
こんなに長くアレイさんと話したのは初めてだな。
それに、結構…いや、かなり楽しかったし。
「雨、上がったな」
「そうですね… あ、あの」
「ん?」
「また、こんな風にお話できるといいです…ね」
こちらの様子をうかがうように、上目遣いでこちらを見ている。
「あぁ、そうだな。また今度、喫茶店でも行くか。もちろん俺のおごりで」
デュラル家のお財布さんに無駄な出費はさせられないからな。
「え、それって……(ぽぽっ☆)」
「ん? どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありません。
…あ、途中までご一緒させてください」
俺たちは少しの光にも目を細めながら、雨上がりの道を歩きだした。
おしまい
おまけ。
「うみゃ〜〜!! チキちゃん、すごい雨だよ!!」
「そうですね…陣九朗さん、大丈夫でしょうか?」
「チキちゃん、洗濯物は?」
「それなら先ほど取り入れておきました」
「あれ? どうして雨がふるってわかったの?
天気予報でも今日は曇りだっていってたのに??」
「ああ、それはですね、 顔がむずむずしてたからです」
「チキちゃん…猫??」
おまけ2(予測可)
「うにゅにゅにゅにゅ…」
「なんだ? あかねがしきりに顔をこすりだしたぞ?」
「まーくん、あかねちゃん今、猫さんモードですよね?」
「なんだ、もしかして雨が振るってか?
いくらあかねの猫さんモードでも、それはなぁ」
「…そうですよね、さすがにそこまでは…」
大雨が降る20分ほど前の出来事。
おわり
ここから後書きチック。
今回、目指したのは「ラブラブ」です。
見事に失敗しました。(滝涙)
それと、おまけは悪魔でもおまけということで…
いや、たぶんこうだろ〜な〜〜っと。
ああ! 石はやめて〜〜
(了)
<コメント>
陣九郎 「何て言うか……猫だよな」(^_^ゞ
誠 「あ、ああ……まあな」(^_^ゞ
陣九郎 「一体、どこまで猫なんだ?」(^_^?
誠 「さあなぁ……もしかしたら……」(−−;
陣九郎 「ん?」(・_・?
誠 「もしかしたら、あの人がアレルギー反応を……いや、まさかなぁ……」(−−ゞ
陣九郎 「んん?」(・_・?
??? 「ねこー、ねこー、ねこー……グスグス」(T▽T)