陣九朗のバイト IN Heart to Heart

第二弾、すぺしゃるばーじょん。(ちょっと長いよ)




「らっしゃいらっしゃい! お! そこのに〜ちゃん、
おっとこまえやな! たこやきこ〜てって〜な」

「陣九朗さん…はまりすぎです」

 ふと我に返り、俺はたこ焼きを焼く手を(一時)止めて、
隣で綿菓子を作っているチキを見た。

「なあ、俺たちなんでこんなことやってんだろ」
「そんな遠い目をしないでください。皆さんが戻ってくるまでの辛抱です」

 ああ、いつもこうだよ……、




〜 ある日の神社 〜





「相変わらずひまそ〜だな」

 店に入ってくるなり誠はそんなことを言った。

「いらっしゃい…って、いきなりそういうこというなよ。
これでも前に比べれば売上は3割以上伸びてんだから。
ところで今日は何の用だ? もう明日は正月だってのに、何か買い忘れか?」

 俺は例によって中華まんの補充をしながらそういった。
 明日が正月、つまり今日は大晦日。
 コンビニというのは大晦日から正月にかけては、とってもひまなのだ。(立地条件によるが)

「正月の準備はみんなが妙に張り切っててな。いまさら俺のやることなんてねーよ。
特にエリアはこっちの正月は始めてらしくてなおさらだな」
「相変わらずモテモテだな、誠」

 軽くからかってみる。

「陣九朗、モテモテはもう古いぞ」
「……………」

 うう、どうせ俺は……

「で、今日はどうした? 昼飯には遅いし、夕飯にはちょっと早いぞ」
「別に飯を買いに来たわけじゃないって。ええと、アレイさんは?」

 そう言って店内をきょろきょろとみまわす誠。

「アレイさんなら今日はお休み。
なんでもルミラさんに呼び出しをうけたらしい」
「そうか、いっしょのほうが都合が良かったんだけどな」

 ん、てことは俺にもなんか関係してるのか?

「陣九朗、おまえ今日の夜ってひまか?」
「あ? そうだな。家でチキの年越しそばを食べるという予定が終わればひまだな」

 実際、大晦日の夜にすることなんてたかが知れている。
 俺はテレビを見ないからなおさらだ。

「そうか、じゃあ俺たちと神社に行かないか?」
「神社? 初詣に行くのか?」
「どうせならみんなで行こうと思ってな。浩之たちも来るらしい」
「いいね〜、行く行く。待ち合わせ場所とか決まってるのか?」
「いや、現地集合ってことになってる。
みんなどこに行っても目立つからすぐに見つかると思って。場所は……」
「なんだ、案外近いな。わかった。そば食い終わったら俺たちも行ってみる」



E  C  M



「予想よりかはすいてる…かな?」
「陣ちゃん、これってすいてるとは言わないと思う」
「皆さん、見つかるでしょうか?」

 無事にそばも食い終えた俺は、誠に言われた神社へとやってきた。
 割と大きな神社で、早くもテキヤの皆さんがお客の獲得に燃えている。

「さっきまでの寒さが感じられんな〜。
これだけ人が集まるとすごい熱気だ」

 家を出るときかなり寒かったので大きめのコートを着てきたのだが、
 ここではかえって暑いぐらいだ。
 ちなみに、チキも普段より厚着している。
 リーナは普段どおりだが…寒くないのか??

「これだけ人が多いとわざわざ探すのも大変だし……、
いろいろ見ながら行くとするか?」
「さんせ〜! ええと、まずは…」
「こら、リーナ走るな。
この人ごみ、いったんはぐれると会えるかわからんぞ」

 そういう俺の足も、いつもより早く動いてる気がする。
 チキはそんな俺たちを見て相変わらずのいい微笑を浮かべている。

「あ、陣ちゃん! 射的だって! やりたいやりたい!!」
「はいはい、んじゃ俺も。チキもやるか?」
「いえ、私はいいです」
「そうか。おっちゃん、二人分ね」

 俺とリーナはコルク銃を受け取ると、弾を込めて的(キャラメル)にねらいをさだめる。

 …………

 結果、俺は持ちだま5発をすべて的に当てたが、
 リーナは…

「リーナ、まだまだだな」
「あう〜〜、一個も取れなかったよ〜〜」

 かすりもしなかった。

「リーナさん残念でしたね。
…それにしても、先ほどの女性の方、お上手でしたね」
「俺たちの隣でやってた子か。
なんか六甲おろしがどうとか言ってたけど…まさかな」

 俺たちがやってるときにやってきた関西なまりの子は、
 4回分(20発)を見る間に撃ち、そのすべてを命中させていった。

「陣ちゃん、今度は金魚すくいがやりたい」
「はいはい。っても、この辺にはないみたいだな。
もうちょっと奥に行ってみるか」



E  C  M



「やるな、綾香…」
「浩之こそ…やるじゃない」
「ふふふふふふふふふふふ……」
「うふふふふふふふふふふふ……」
「あ、あの。先輩、綾香さん」

 俺たちが金魚すくいのテキヤを見つけると、そこではすでに戦いが始まっていた。

「松原さん。あいつらなにやってんだ?」
「あ! 津岡さん、こんばんわ。
それが、私、綾香さんと一緒にこの神社にきてたんですが、
ここの前で偶然、藤田先輩とお会いしまして…」

 なるほど、それで勝負好きの二人のことだ、
 ごく自然に今の状況にってとこか。

「お二人ともとってもお上手なんですが、そのせいで…」

 そう言って松原さんは水槽(って言うのか?)の中に目を移す。

「陣ちゃん、金魚がいないよ?」
「げっ! もしかして全部?」

 俺の言葉に黙ってうなずく松原さん。
 浩之たちのほうを良く見ると、金魚の入った容器が大量に並んでいた。
 二人の勝負で水槽内の金魚はすべてとらわれの身になっていた。
 たった1匹を除いて。

「浩之、最後よ。あの一匹をすくった方の勝ち。いいわね?」
「へっ! 望むところだ!!」
「うふふふふふふふふふふふ……」
「ふふふふふふふふふふふ……」

 ちゃぷ…   ひょい

「ああ!! 姉さん、ひどい!!!」
「せ、先輩、最後の最後で…」

 浩之たちがにらみ合っている間に、
 芹香さんが最後の一匹をすくってしまった。

「…………ぶいv」
「くう、こうなったら射的で勝負よ!」
「よっしゃ!」

 だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっっ!

 言うがはやいか二人は走っていってしまった。
 おまえら、金魚戻していけよ。

「ああ! 先輩、待ってください! 津岡さん、失礼します」

 慌てて後を追いかける松原さん。
 相変わらず礼儀正しい子だ。

「…………」
「え? 私も失礼します? うん、じゃあまたな、芹香さん」

 ぺこり。 たっ たっ たっ ……

「お二人とも、こちらに気がつかなかったみたいですね」
「勝負になると周りが見えなくなるらしいな、あの二人は。
 じゃ、チキ。次に行くか」
「え〜〜、金魚すくいやってかないの〜?」

 リーナ、あの二人のあとでやっても、惨めになるだけだと思うぞ?

「陣ちゃん、いますっごく失礼なこと考えてなかった?」
「さって、なんのことやら〜」



E  C  M



「あら? 陣九朗じゃない。なにやってんの?」
「メイフィアさん、大晦日に神社に来てる人に言うせりふじゃないですよ」

 ぶらぶらと歩いているとメイフィアさんに出会った。

「そういうメイフィアさんこそ、何やってるんです?」
「ん」

 そう言って数枚の色紙を俺の前に差し出す。
 そこには写真並のきれいな似顔絵がかかれていた。

「なるほど、似顔絵描きですか」
「一枚500円、どう? 描いたげよっか?」
「陣ちゃん、描いてもらおうよ!」
「陣九朗さん、せっかくですし」

 そうだな、これも何かの縁。

「じゃ、お願いします。できれば三人一緒に描いてもらえますか?」
「おっけー。じゃ、こっちの大きい色紙に書くわね」


 …………数分後


「はい、出来上がり」
「え? もうですか、はやいですね」
「数こなさないといけないからね。はい、これ」

 そう言って渡された色紙を三人で覗き込む。

「うっわ〜、すっごい上手〜!」
「すごいですね」
「ああ、あれだけの時間でこれほどのもんが…」

 それは似顔絵ではなく、三人の肖像画といった感じの絵だった。
 表情のとらえ方といい、全体のバランスといい、
非の打ち所のないものだった。完成度も高い。

「気に入ってもらえたかしら?」

 そう言って『ぱいぽ』を揺らすメイフィアさん。

「はい、そりゃあもう。あ、お金払いますね」

 そう言って俺は3000円を差し出した。

「? 多いわよ?」
「3人分プラスお礼です。ところで他のみんなも来てるんですか?」
「ええ、エビルは例によっていないけど、他のみんななら来てるはずよ。
あ、フランソワーズは誠のところね」

 だろうな。
 さて、じゃあまた歩きますか。

「それじゃ、メイフィアさん。また今度」
「失礼します」
「じゃあね〜」
「はいはい。あ、陣九朗」

 呼び止められて、俺は振り返った。

「なんですか?」
「まいどあり。それと、知り合いにあったら宣伝しといてね」
「はい。了解しました」



E  C  M



「誠さんたち、見つかりませんね」

 もうかれこれ1時間近く歩き回っているが、肝心の誠たちの姿は見えない。

「あら? 陣九朗君じゃないの。チキちゃんたちもおそろいで」
「ルミラさん! お店出してたんですか!?」

 そこにはハチマキ姿でたこ焼きを焼くルミラさんの姿があった。
 隣では、

「津岡店長、こんばんわ」

 アレイさんが綿菓子を作っていた。
 旧式のオレンジ色の機体。
 ……安レンタルだな。

「今は店長じゃないって。今日はずっとここにいたのか?」
「はい。お店のほう、出れなくてすいません」
「いいって。もう閉めてきちゃったし。
ええと、イビルって人もいるのかな?
イビルさんにだけ、会ったことないんだよな」
「はい? エビルさんには会ったことがあるんですか?」
「この前CDを買いに行ったとき偶然にね」

 ちなみに、リーナはずっと綿菓子機の方を見ている。
 何が面白いのかは知らんが…

「イビルさんなら、ここから少し離れたところで……」

  
ドオオーーーーーーーン


 アレイさんの言葉をさえぎり、あたりに爆音が響いた。

「なな、なんだあ!?」
「何かが爆発したみたいですね」
「チキちゃん、そんな冷静に分析してる場合じゃ…」
「…ルミラ様、あっちのほうは確か……」

 しばし呆然としていたルミラさんだが、やがて肩が震えだし、

「あ〜の〜馬〜鹿〜は〜〜〜!!!」


 だっしゅ!! ダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ……

「ああ! ルミラ様待って!! 落ち着いてください!!
 陣九朗さん、すいませんが後をお願いします!!」

 だっしゅ! たたたたたたたたたたたっっっ……

「えと、ルミラさん? アレイさん?」
「すごい勢いだったね〜。どうしたんだろ?」

 取り残された形の俺は、しばし呆然としてしまう。

「陣九朗さん。たこ焼きが……」

 チキの言葉に目を鉄板のほうへと移す。

「ああ、真っ黒こげ。
……ひょっとして、俺が作るのか?」
「先ほどのアレイさんのセリフはそういうことかと。
じゃ、私は綿菓子ですね♪」

 なにやらうれしそうに綿菓子を作り始めるチキ。

「はあ、しゃーない(しょうがない)。
………なんだ? 材料も用意できてないし…いや、原材料はあるか」
「作りかけだったみたいだね〜」

 ということは、一からつくらにゃならんのか。

「乗りかかった船か…リーナ、おまえはたこを切っといてくれ。
ちょっと大き目ぐらいでいいからな。俺はだし溶き粉の用意をする」
「りょ〜かい!」

 それぞれが作業を始める。



E  C  M



「らっしゃいらっしゃい! お! そこのに〜ちゃん、
おっとこまえやな! たこやきこ〜てって〜な」

「陣九朗さん…はまりすぎです」

 ふと我に返り、俺はたこ焼きを焼く手を(一時)止めて、
隣で綿菓子を作っているチキを見た。

「なあ、俺たちなんでこんなことやってんだろ」
「そんな遠い目をしないでください。皆さんが戻ってくるまでの辛抱です」



「……っても、なんとかなりそうだな」

 焼き始めて30分ほど、いくつか売れたが今のところクレームの類はない。
 チキの綿菓子も売れ行きは順調だ。

「関西風しか作れないからどうかと思ったが、
わりかしちゃんと出来てたとみていいか…な?」
「お、津岡君やないの。こないな所で会うとはな」
「おお保科さん、こんばんわ。保科さんでも神社とかに来るんだ?」

 すこし意外に思いそう聞くと、保科さんは不機嫌そうに、

「なんやの? 私だって初詣にぐらい来るて」
「その割には…服装が」

 保科さんの服装は、初詣に来たにしては地味で……、
 というよりは塾の帰りとでも言った方が納得できる。
 ………後ろ手に学生かばんも持ってるし……

「……ところで津岡君はこないなところで何してるん?」

 話、そらしたな…と言おうと思ったが、
 やたらと眼鏡が光ってたので自制することにした。

「見てのとおり、たこ焼きやいてる。
本当はルミラさんの屋台なんだが…買ってくか? 今ならおまけしておくぜ」
「ほんま? そしたらよばれるわ(ごちそうになるわ)」

 俺は焼きたてのたこ焼きをトレイにのせていった。

「保科さん、青海苔は?」
「ああ、なんも振らんでええ。そのまま頂戴」

 トレイに並んだたこ焼きの一つに爪楊枝を2本刺し保科さんに渡す。

「いただきます」

 ふ〜〜 ぱくっ……むぐむぐ………

「どうだ、味のほうは?」

 俺はひそかに気になっていたことを聞いてみた。
 保科さんはゆっくりとあじわい、飲みこむ。

「うん、おいしい! 生地にしっかりダシが効いてるし、たこの大きさも絶妙。
津岡君、どこでこんなん仕入れてきたん? 素人の味とちゃうで!」
「昔バイトでちょっとな。しかし誉めすぎだって。
たこを切ったのはリーナだし、たまたまうまくいったのかもよ?」

 実際は俺がちゃんとチェックを入れていたが。

「ところで保科さん、これ、こっちでも売れると思うか?
保科さんは関西のほうだから好みは合うと思うけど」
「問題無いんとちがう? 私はおいしいと思うけど…、
あ、ちょうどええ所に……」

 保科さんは誰かを見つけると、そちらのほうへかけていった。 
 あれは……あ、誠たちじゃねーか。
 隣には姫川さんと雛山さんもいるみたいだ。

「よ、陣九朗。やっと見つけたぜ」
「誠、それはこっちのセリフだ。どこにいたんだ?」
「いや、ここにきてすぐにセリオに会って、マルチが迷子だって言うから捜してたんだ。
結局マルチはあかりさんといっしょに浩之を探してたらしいんだが…」
「なるほど、見つかってよかったな」
「ああ、その途中でさくらたちが琴音ちゃんたちに会ったらしくて、
みんなでいっしょにまわってたところだ。」

 ……ん?

「ちょっと待て、会ったらしいって、おまえら別々に探してたのか?」
「ああ、そのほうがはやく見つかるだろ?」
「津岡さん…」

 さくらちゃんがこちらのほうへ進み出てくる。

「津岡さんは、『この人ごみの中でよく合流できたな』と、
考えられていると思いますが… 」
「ああ、そう考えてたけど?」

 俺がそういうと、さくらちゃん、あかねちゃん、エリアさんが声をそろえていった。


『それは、愛の力です(はあと)』


 ……さいですか。予想はしてたけどね。

「あれ? ところでフランソワーズは?
いっしょじゃないのか?」

 よくみるとフランソワーズの姿が見えない。
 メイフィアさんは、誠の所にいるといっていたはずだが?

「途中まではいっしょだったんだけど…」
「そこでルミラ先生に会ってな。いや、会ったというか、すれ違ったというか」
「その後から来たアレイさんについて行かれました。
なにか、慌てていた様子でしたけど?」
 
 あかねちゃん、誠、エリアさんが丁寧に説明してくれた。
 なるほど、ついて行ったか。
 ……無事を祈ろう。

「ところでみんな、たこ焼き食べるか?」
「おう、食うくう。みんなも食べるよな?」

 誠がみんなに確認する。

「はい。いただきます」
「うん、たべる」
「私、たこ焼きって始めてかも…」
「あの津岡さん、わたしも頂いてよろしいでしょうか?」
「姫川さん、そんな遠慮したらあかんよ。せっかく津岡君の『おごり』やのに」

 ちょっとまてい!

「ほしなさん? あの…」
「ほ、ほんとに? ほんとにおごりなの!?」

 あう、雛山さん。そんな期待に満ちた目で…
 チキ、助けてくれ〜(アイコンタクト)

「…………(すいません・アイコンタクト)」

 うう、リーナ、お前なら…ってどこ行った?

「リーナさんなら、ほれ」

 そう言って保科さんが指差した先には…

「陣ちゃん、これおいしいよ〜〜」

 (勝手に)たこ焼きを食べるリーナの姿があった。
 期待はしてなかったさ。(泣)

「で、津岡君、『お・ご・り』やんな〜♪」

 保科さん、にこやかに目が怖いです。
 ほんと、関西人は身内に容赦ないんだから。

「そんなことはないで」
「心を読むな」
「陣九朗、何の話だ?」
「気にするな。……まあ、一人一皿までならおごる」
「よ、津岡君、おとこまえ!!」

 ふ、財布が風邪を引いちまうぜ…、

「陣九朗さん…」

 チキ、そんな顔するな。
 これも性分だ。許せ。

「陣九朗ってほんと、お人よしだよな〜」

 誠、お前も人のことは言えんと思うぞ。



E  C  M



「ふう、何とか終わったな。チキ、大丈夫か?」
「はい。結構楽しかったですよ」

 あの後、誠たちの呼び込みの成果もあり、
3時間もしないうちに材料がそこをついてしまった。
 当の誠たちのほうは、これから本殿のほうへ御参りに行くという。

「あれ? リーナは?」
「あそこです(くすっ)」

「うにゅ〜 おなかいっぱい〜〜」

 幸せそうに丸くなっているリーナの姿があった。

「しゃーないな。ほら、風邪引くぞ?」
「うにゅ〜〜」

 俺はリーナに自分のコートをかけてやった。

「……………………ただいま」
「陣九朗さん、すいませんでした」

 ルミラさんとアレイさんがやっと戻ってきた。
 二人とも見るからに元気が無い。

「あ、ルミラさん、アレイさん。おかえりなさい。
お店のほうはもうかたずけちゃいましたよ」
「へ? どういうこと?」

 ルミラさんは顔を上げてこちらを見た。 

「こういうことです…ぶいv」

 そう言って俺は、空になった簡易保冷庫をあけて見せた。
 チキはお金でいっぱいの手提げ金庫を広げて見せている。

「陣九朗君……も〜大好きーーー!!!」

 だきっ!

「おわっ! ちょっとルミラさん、落ち着いて!」

 いきなり抱き疲れた俺は、すこしバランスを崩したが何とかこらえた。

「ルミラ様っ! そんなうらやましい」
「あの、ルミラさん。とりあえず落ち着いてください」

 ちう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 
「なにやってんですかーーーー!!!!」


 首筋に感じた感触。
 どさくさにまぎれてルミラさんに血を吸われてしまった。

「あああっ! ご、ごめんなさい!
つい美味しそうな首筋だったから。わざとじゃないのよ!」
「ルミラ様、ちょっとひどいですよ。こんなに良くしてくれた陣九朗さんに」 

 アレイさんが珍しくルミラさんに抗議している。

「だから、わざとじゃないんだってば。その、ついふらふら〜〜っと」
「いいですけどね、分量を守ってくれれば」

 俺はかまれた首筋をさすりながらそういった。傷跡はない。
 正直、吸血鬼に血を吸われるのは、めちゃくちゃ気持ちいいんだが…

「陣九朗さん、そういった発言はルミラさんに誤解を招きますよ?」
「…チキ、すまん」
「あの…陣九朗さん、今日は本当にありがとうございました」

 アレイさんがそう言って頭を下げる。

「別にいいって。途中から俺たちも結構楽しんでやってたし。な、チキ。
それはそうと…そろそろ御参りしとくか」

 俺は、背中にリーナを背負いながらチキに言った。
 その上からコートを羽織る。

「そういえばまだ御参りはしてなかったですね」

 チキもそういいながらルミラさんのほうに向き直る。

「よろしければ、いっしょに行きませんか? 途中でメイフィアさんも呼んで」
「いいわよ、すっかりお世話になっちゃったし。こっちから誘いたいくらいだもの。ね、アレイ」
「はい、喜んでお供します」

 そして俺たちは神社の本殿の方へ向かった。



E  C  M



「おお〜〜い、陣九朗〜 こっちだ」

 本殿についてすぐ。
 呼ばれて振り返ると、誠が大きく手を振っていた。
 誠だけじゃない。

「おお! どうしたんだ? みんなお揃いで!?」

 そこには誠と浩之を始め、今日会ったみんなが勢ぞろいしていた。

「偶然ここで誠たちとあってな。
まだ参ってないって言うからいっしょに行こうって言ったんだが」
「もうすぐルミラ先生たちもくると思って待ってたんだ。そしたらなんか、みんなが集まってきて」
「なるほど、みんな目立つからな〜」
「陣九朗さん、こんばんわ」
「お、フランソワーズもこっちに来てたのか。
それでは! みんなそろってお参りと行きますか!!」


 ・・・・・・・・・・・・


 ちゃりん ガラガラガラ… ぱんぱん!

「あれ、拍手(かしわで)を打つのって神社の方だっけ?」
「さあ? どうでしたか…」

 お賽銭を入れ、例のがらがらも振り、手を合わせて目を閉じる。

「なあ陣九朗、お前何をお願いした?」

 浩之の問いに苦笑する俺。
 初詣ってのは、神様に元旦の挨拶をするものだったと思うが、
いつの間にやら願掛けのほうが一般的になってるからな。

「どうかしたか?」

 誠が俺の顔を覗き込んで聞いてきた。
 その顔をみる限り、聞きたい事は同じのようだ。

「秘密だ。願い事は人にいっちゃダメだってよく言うだろ?」
「ああ、それもそだな。わかった、忘れてくれ」

 この辺、浩之たちは物分りがいいので感心する。

「さて、みんなはこれからどうするんだ?」

 御参りを済ませた後、俺はみんなに聞いてみた。

「俺たちはそれぞれの家に帰るわ。せっかく親も帰ってきてることだしな」
「元旦はやはり家族で迎えたほうがいいってまーくんが言いますので」
「じゃあね、みんな。あ、エリアさんはまーくんの家だっけ?」
「はい。やはり、御両親に挨拶しませんと(ぽぽっ☆)
津岡さん、失礼します。誠さん、行きましょう♪」

 誠たちは帰宅と。
 エリアさん…いや、いいか。

「俺たちはもうしばらく、ぶらぶらしていくことにするぜ」
「うん、せっかくみんなと一緒なんだしね」
「わ〜、今日は皆さんとずっと一緒です〜〜」
「良かったですね、マルチさん」
「浩之! 今度はヨーヨー釣りで勝負よ!」
「…………♪」

 浩之たちはもうしばらく遊んでいくみたいだな。
 心なしか、芹香さんも幸せそうだな。


「あの、私はそろそろ失礼させていただきます。
あまり遅いと家族が心配しますので」
「私も今日は失礼します。葵ちゃん、いっしょに帰ろ♪」
「ちょ、ちょっと琴音ちゃん。そんなにくっついちゃ歩きにくいよ」
「だって寒いんだもん♪」

 松原さんと姫川さんは帰宅と。
 この2人なら送っていかなくても大丈夫か…
 いや、別の意味で危ないかも?

「私も、お母さんと良太たちが待ってるから帰るね」
「うちも帰らせてもらうわ。今日はちょっと出かけなあかん所あるし」

 雛山さんと保科さんも帰宅と。

「さて、私たちはどうしよっか?」
「せっかくですから、初日の出を見に行きませんか?」
「そうですね。いいかもしれません」
「私は寒いからとっとと部屋に帰りたいんだけど…」
「メイフィア、あなたそんな薄着してくるから…」

 ルミラさんたちは初日の出を見に行くらしい。
 ちなみに、たまはアレイさんの服の中にもぐりこんでいる。
 猫だから寒さに弱いんだろう。

「陣九朗さん。よろしければ御一緒しませんか?
あの、もしよろしければ、ですけど…」

 アレイさんが控えめながら誘ってくれる。
 無論、断る理由は無いが…

「陣九朗さん、今日のところは…リーナさんも眠っていますし」
「チキちゃん、呼んだ〜〜?」
「………」

 俺の背中でリーナが顔を上げる。
 いつの間に起きたんだ?

「うにゅうう〜〜、ごはん〜〜」

 ちゅるるるる〜〜〜

「だーーっ! いきなり精気をすうな! 起きたんなら自分で立て」
「うい。りょうかい」

 背中から降りたリーナは、こちらを向いて敬礼した。
 まだすこし寝ぼけてるみたいだ。

「チキ、リーナも起きたし、アレイさん達といっしょに行こう。
……なんか問題でもあんのか?」
「い、いえ、そういうわけでは。ご一緒させていただきましょう」
「んじゃ、アレイさん。一緒に行かせてもらうわ」

 俺たちはそう言ってアレイさんたちの後をついて行く。

 ああいったチキだが、なんとなく元気が無い。
 よく見ると体が小刻みに震えている。

「チキ、ひょっとして寒いのか?」
「? いえ、大丈夫です」

 そうは見えないんだが…、

「チキ、こっち来い」
「?」 

 そばにやってきたチキを不意打ち気味に自分のコートで包む。

「きゃ! 陣九朗さん!?」
「あ〜〜! チキちゃんいいな〜」
「ほれ、リーナも来い」

 俺はもう片方のコートを開いてリーナを招いた。
 俺のコートは両サイドに二人を包んでも十分の大きさだ。

「あったかいね〜」
「だろ? 寒いならそういえばいいのに」
「はい…(ホントは違うんですけど…)」
「陣ちゃん、相変わらず鈍感〜」
「なんだそりゃ?」

 よくわからん。





 俺はご来光に向かって手を合わせる。
 神社での願い事をもう一度…、

(今年も、いい出会いがありますように)




 おしまい?

















 某カラオケ店――

「志保〜、そろそろ帰らないと(泣)」
「あに言ってるのよ雅史。今夜はオールナイトだって言ったれしょ〜〜!!」
「シホ〜。アタシもう飲めましぇ〜ン」
「あによー! 情けないわよレミィ…ヒック。しゃー! もう一曲いくわよ〜ん」 
「浩之ー、誠くーん。(愛する僕を)助けてよ〜!!」


 同時刻


 ぞくぞくっ

「な、なんか急に寒気が…」
「浩之ちゃん、大丈夫?」

「うう、寒気がする」
「大丈夫、まーくん?」



 …おしまひ



後書きの気配がするもの

 おしょうがつすぺしゃる
 むやみに長い。無意味に長い。
 人称等に間違いがありましたら…あああああ。
 しかし、これHtHのSSに入るんだろうか?
 STEVENさんにはご迷惑をおかけしますう。
 あれ? そういやイビルは?

「降ーろーしーてーくーれー(ぶらーん、ぶらーん)」

 あ、神社の裏で蓑虫になってる。逆さに。

 それでは、
 みなさんに『いい出会い』があることを祈りつつ。

  (了)


<コメント>

誠 「たこ焼き〜♪」(^▽^)/
スフィー 「綿飴〜♪」(^▽^)/
楓 「焼きとうもろこし〜♪」(^▽^)/
みさき 「林檎飴〜♪」(^▽^)/
陣九朗 「……お前ら、食ってばっかりだな」(−−;
誠 「何言っんだ……やはりこういう時は、屋台の食い物は全て網羅しないとな」
スフィー 「そうそう♪」
楓 「……当然です」
みさき 「もぐもぐ……焼きそば、おいしいね♪」
陣九朗 「……やれやれ」


往人 「……うぐぐ、目の前に食い物があるのに、金が無い」(T△T)
ポテト 「ぴこ〜」