陣九朗のバイト IN Heart
to Heart
第13弾
少しバイクを走らせ、誠達の学校の前まで来る。
しかし今日用事があるのは学校のほうではない。
横目で校舎の方を見ながら、学校の裏手のほうへと回る。
適当なところにバイクを止め、ロックする。
軽く首を回してから目の前の階段を上り始める。
バシィーーーン!!
なかごろまで来ると、上の方からこんな音が聞こえてきた。
よかった、どうやら居るみたいだな。
そんなことを考えながら、一気に階段を駆け上がる。
「よ、松原さん!」
「あれ!? 津岡さん!!」
〜 ある日の…勝負! 〜
「おい、俺達には挨拶なしかよ」
「ホント、いい度胸してるじゃない?」
松原さんのそばで組み手をしていたらしい浩之と綾香がこっちを軽くにらんでくる。
「あれ? いたのか?」
「つ、津岡さん!」
なおもボケようとする俺に、松原さんがあせったように声をかける。
うむぅ、お約束は大事だと思うんだが…、
しかたない。
「ま、冗談はさておき…やほー、浩之&綾香♪」
気を取り直し、勤めて明るく二人に挨拶し直す。
「お前なぁ……ま、いいか」
「言いたいことはいろいろあるんだけどね。
とりあえずは…何でここに居るの?」
きついお言葉。
綾香のことだから、言葉どおりの意味じゃないとは思うけど。
「う〜ん、まあ、見学かな?
別に次のバイトまでの時間つぶしじゃないぞ」
「なるほど…次のバイトまでの時間つぶしなのか」
「浩之、な、なぜそれを!?」
大仰に驚いて見せる俺。
「ふっふっふっ、この俺にわからぬことなど無いのだよ…」
浩之も心得たもので、なにやらポーズをとりながらセリフを吐き出す。
「くっ! まさか浩之が読心術の使い手だったとは…」
「はいはい、もうその辺でやめときなさい。
話が全然進まないじゃない」
なおも続けようとする俺(達)の間に、パンパンと手を叩きながら綾香が割り込む。
むう、残念。
「えっと、先ほどのやり取りはよくわかりませんが、
ようするに津岡さんは見学にこられたんですね?」
ぼーっと(失礼)俺たちのやり取りを見ていた松原さんが、ふと我に返り俺にそう尋ねてきた。
「ああ、しばらく前に誠から松原さんたちがここでクラブ活動してるって聞いてたからな。
ちょうど近くを通ってたことだし、少し顔でも見せてくか、と思って」
ポケットから禁煙ぱいぽを取り出し、口にくわえる。
俺はタバコは吸わないが、妙に口さびしくなることもある。
普段は飴でもなめてるんだが、最近メイフィアさんに感化されたのか、パイポに手を出してみた。
案外、俺との相性はいいらしい。
ちなみに、ガムは嫌いで食べない。昔、踏んで嫌な思いしたから。
「でも、浩之はともかく綾香までいるとはな」
「なによ、いたら悪いって言うの?」
「いや、そういう意味じゃなくてだな…」
俺の言葉に、綾香はご機嫌斜めのようだ。
「もうすぐエクストリームの大会があるからな。
葵ちゃんはもちろん、俺も参加するつもりだから前大会優勝の綾香に…な?」
そう言いながら浩之は綾香に目配せする。
綾香が本格的に機嫌をくずす前にすかさずフォローを入れる。
この辺、さすが浩之だな。
「なるほどね、そういうことか。
でも綾香、それじゃ自分のライバルに塩を送ることになる……わきゃないか」
言いながら気が付いた。
こいつらはそんなに浅い関係じゃないよな。
付き合い始めてからそんなに経ってないが、そんな気がする。
「で、陣九朗は見てるだけか?」
「? というと?」
浩之の言葉に、俺の頭上に?マークが浮かぶ。
「見てるだけより、実際に体を動かしてみるほうが面白いぞ?
俺がそうだったからな」
ほう、浩之もはじめは見学から入ったのか。
「そうだな……でも、まずは見学することにするわ。
正直、エクストリームってのがなんなのかもよく理解できてないんでな」
俺がそういうと、松原さんがずいっと前に出てきて、
「説明しましょう! それはもう事細かに!!」
一瞬、松原さんのバックに炎が見えた気がした。
それから20分、松原さんはエクストリームについてその歴史から特徴その他を、
それはもう事細かに『熱く』語ってくれた。
う〜ん、ホントに格闘技が好きなんだな。
余談だが、『説明』されている最中、背後の林から誰かの気配を感じたのだが…、
「と、いうのがエクストリームです!」
「……なるほど、よく分かった」
わかりすぎるぐらいにな。
「……お、終わったのか?」
「相変わらず長かったわね」
二人が同時に立ち上がり、足元にかかれた〇と×を足で消している。
俺が説明を受けてる際中、ふたりでマルペケやっとったんかい。
「ああ、どんなもんかってのは知識としては頭に入った」
「それじゃ、後は実際に見てもらいましょうか?
先輩、お願いできますか?」
そう言って浩之のほうに向き直る松原さん。
その手にはグローブがはめられ、いつでも準備OKといった感じだ。
「よし! いくぞ、葵ちゃん!」
松原さんに向けて、浩之はファイティングポーズをとる。
ふむ、始めて間もないと聞いてたが、なかなか様になってるな。
「それじゃ…レディ、ファイ!」
レフリー(だっけ?)役の綾香が、手を振り下ろすのを合図に、二人の組み手が始まる。
E C M
「はあ〜、すごいもんだな」
組み手を見終わった俺の感想は、ただ『すげ〜』の一言だった。
普段こういった『試合』というか、格闘技を間近で見ることも無いし。
「はぁ、はぁ、……ど、どうでしたか?」
組み手が終わったばかりで、まだ呼吸が整っていないらしい。
結果は、僅差で松原さんの勝ちだった。
浩之って、強いんだな。松原さんは言うまでもなく強いが。
「おう、なんていうか…すごいな。
もともと格闘技は好きなほうだったんだけど、ますます興味が出たぞ」
俺がそういうと、松原さんの顔がぱっと輝く。
「そう。じゃ、今度は陣九朗の番ね♪」
などと言いつつ、何気に俺に向かってファイティングポーズをとる綾香。
手にはしっかりとグローブがはめられている。
「ちょっと待て、なんで俺が綾香と…」
「問答無用!」
ぶんっ!
不意打ち気味に繰り出された回し蹴りを体を反らすことでかわす。
綾香の蹴りは俺の目の前を通り過ぎ、咥えていたパイポを蹴り飛ばす。
地面に落ちたパイポが折れ曲がっていることから、結構本気で蹴りこんだのがわかる。
ひとまず後ろに跳んで、綾香から距離を取る。
「おっと」
跳んだすぐ横に浩之がいた。
浩之は俺の肩をポンっとたたき、
「ま、綾香のすることだから…ガッツだ!」
拳をぐっと握ってそう言いつつ、俺にグローブを渡してくる。
「津岡さん、がんばってください!」
葵ちゃん、声援はうれしいが、この場合はとめてくれ。
「さ〜て、準備はいい?」
綾香は綾香で、軽くステップを踏んでリズムを取ってるし。
…はあ、味方がいない以上、やるしかないんだろうな。
逃げてもいいが、後が怖い。
俺は覚悟を決め、浩之から渡されたグローブをはめた。
「ふっ!」
短い気合と共に、綾香の拳がくり出される。
俺は軽く後ろに跳ぶことでそれをかわす。
しかし、綾香はそれを読んでいたらしく、拳を引き戻すのと同時に前進して、
俺の頭をめがけ回し蹴りを放ってきた。
「おっと!」
俺はそれを身を屈めることでかわす。
「てやっ!!」
綾香は信じられないことに、俺の上を行き過ぎた足を方向転換させ、
斜め上からの踵落としに移行してきた。
「!!」
すんでのところで後転し、それを逃れる。
その勢いのまま立ち上がり、綾香へと向き直る。
「………(大汗)」
綾香のやつ、超マジだな。
目がいつもと全然違う。闘争心むき出しだ。
こりゃ、ちょっとやばいかも。
俺は両腕をだらんと脱力し、少し斜めに構え、綾香のほうを向く。
はたから見れば隙だらけなのだろうが…
そこは綾香、何かを感じ取ったのか警戒して打ってこない。
待ちはだめか。それなら…
「…………」
これまた無防備に、綾香のほうへとゆっくり歩いていく。
綾香はどう対処した物か悩んでいたみたいだが、
「はっ!!」
裂帛の気合とともに拳を打ってくる。
しかし俺は何もしない、なぜなら、
「…!?」
拳はフェイントだったからだ。
綾香の拳は俺の目の前で止まり、それが引き戻されるのと同時に、
反動とひねりを利用しての蹴りが俺の足めがけて振り下ろされようとしていた。
俺は左足のすねで綾香の蹴りを受け止め、
「ぐっ!?」
予想外のその重さにふらついた。
そこを見逃すような綾香ではない。
たちまち距離をつめると、猛烈なラッシュを放ってきた。
ちっ、5発ほどまともにもらっちまったな。
俺は慌てて綾香から距離をとると、自分のダメージを確認する。
…うむ、各部異常なし。かなり痛いが。
「はあっ!!」
綾香が一気に距離をつめてミドルキックを放ってくる。
おそらく先ほどのラッシュで、責めるのは今、と思ったのだろうが……甘い。
俺が待ってたのはこれだ。
「ほい♪」
「!!?」
繰り出された蹴りを思いっきり跳ね上げ、直後に軸足を根元から強烈になぎ払う。
綾香の体は、空中でおもちゃのように回転するが、
「くっ!」
なんと、落ちる寸前に両手をつき、屈んだ状態に態勢を立て直す。
恐ろしいまでのバランス感覚だ。
ただし、
「チェックメイト」
「!!」
詰めが甘い。
屈んだままの綾香の背後から指先を軽く頭にあてがう。
少しでも反撃のそぶりが見えれば、いつでも蹴り込めるように半身に構えるのも忘れない。
「…まいったわ」
綾香が降参宣言をする。
「マジか!?」
「津岡さん…すごいです!!」
浩之と葵ちゃんは驚きの声を上げる。
「は〜、たいしたもんだぜ。あの綾香からこんな簡単に一本とるとはな。
さすがは人狼ってところか」
「浩之…それ、違うわ」
綾香がゆっくりと立ち上がりながらそういうのが聞こえた。
「違うって…どういうことだ、綾香?」
「綾香さん?」
綾香はすそについた砂を払ってから、
「今の動きは、変な言い方かもしれないけど、人間の物よ。
それに、対峙してる際中にも、特別すごいプレッシャーは感じなかったし」
あやや、ばれてたかな?
「陣九朗、どうして力を使わなかったの?」
綾香は俺のほうをまっすぐに見ながら、そう聞いてきた。
…やっぱばれてたか。
俺は新しいパイポを取り出して咥え、少し頭を掻いてから、
「あ〜、最初に言っとくが、決して俺の驕りで力を使わなかったんじゃないぞ。
大体、もうすぐ満月だろ? 使ったら歯止めが聞かなくなる可能性もある」
ちなみに、新月の日には力は使えるものの、効果は感が良くなる程度に留まる。
「勝負に無断で力を使うのが卑怯な気がしたのが一つ。
それと、『自分自身』の力でいこうと決めたのが一つ」
「自分自身の? どういうことだ?」
浩之が聞いてくる。
「ああ、ちょっと語弊があるかもしれんが、ようするに人狼としての力を取り除いた、
俺個人の力っていう意味だ。
…まあ、生まれついての頑丈さはどうしようもないが。
そして、最後の一つ。
これはもう純粋に綾香と手合わせしたいっていうことだな。
やっぱ俺も男だし、強いやつとは闘ってみたいときもある」
しかし、基本能力値の違いで同族以外は大抵相手にもならないんだが。
「そういう意味では綾香は文句なしに強いわ。
大抵は打ってきたところを返り討ちにしてやるんだが、それも読まれてたみたいだし、
動きも並みの連中とは比較にならん」
「…なんだか誉められてもうれしくない」
……?
綾香…もしかして負けた事、根に持ってる?
「そういわないでくれ。
いってることは掛け値なしの俺の本音だから。
大体もうすぐ大会なんだろ? 万が一怪我でもしたら…」
「綾香、陣九朗はお前のことを心配してるんだから」
浩之、フォローさんきゅ。
「う〜、でも、本気の陣九朗と戦ってみたかった」
……おい。
「だから、俺が本気出したら、いっちゃ悪いが3秒もたないぞ?」
言うと同時に、力を7割ほど開放し、
『破ッ!!』
地を踏み込み、気合と力を込め、拳を『離れた』木に向かって打つ。
どぅっ!!
鈍い音とともに木が揺れ、何枚かの葉っぱが落ちてくる。
しゅかかかかかか!!
その葉すべてを空中で切り裂く。
「っと、こんくらいのことは出来るわけだし…って、引かないでくれよ」
パイポを一服し、軽く腕を回しながら振り返ってみれば、
浩之はともかく、綾香と松原さんは顔をひきつらせて引いている。
「浩之は引かないのか?」
「…まあ、知り合いに鬼とかいるし、これくらいは出来るのかな〜って。
しかし…今の確か……え〜〜っと、葵ちゃん」
「は、はい、なんでしょう先輩!」
名前を呼ばれ、あわてて返事をする葵ちゃん。
「さっきの陣九朗の踏み込んだあれ、確か中国拳法の…」
「あ、そういえば。八極拳か何かだと思いましたが。
それに、さっきの綾香さんに仕掛けた技は合気術の…」
「…そうなのか?」
「いや、お前のことだろ」
浩之に突っ込まれてしまう。
むう、そうは言われてもな。
「ま、俺も長く生きてるんでな。
いろんな事を覚えてるわけだ。体に染み込んでることもいくつかあるのかもな」
実際、さっきの技をどこで覚えたのかなんて覚えちゃいない。
一応これでも戦国時代とか世界大戦とか経験してるし。
「よ、ようするに陣九朗はノーマルでも十分強いって事?」
ノーマルって言うな。
綾香、なんかまだ少し引いたままだな。
「まあ、俺には時間があるからな。
その時々で、興味を持ったことにはとことん打ち込んでみることにしてるから。
大体、強いって言っても昔、俺が本気を出しても子ども扱いされた人間もいるし、
格闘技の大会に出ようにも……まあ、出たくもないが…本気出せないからストレスたまるし。
それに、俺にだって弱点はあるぞ。銀の銃弾なんかじゃないのが」
「そうなんだ………あ、用事思い出しちゃった。今日は帰るわねー」
思いっきり棒読みでそういうと、綾香はさっさと帰ってしまった。
「……陣九朗、がんばれよ」
「津岡さん、ファイトです」
? なんだかよくわからないが応援されてしまった。
……そういえばそろそろバイトの時間だ。
俺は、二人に軽く挨拶をするとバイトへと向かった。
それから数日後……
「陣九朗さん、お届け物ですよ、綾香さんから」
「綾香から?」
なんだろうと思いつつ、自室に持って行き開けてみることにする。
えらく厳重に密封されてるが……パカッとな。
もわわわ〜〜〜〜〜〜ん
「ぐぁ! うう…無念」
ガク…
気を失う前に箱のなかに見たもの。
クサヤ、藁納豆、ブルーチーズその他匂いのきつい食材がてんこもりに。
そして、その一番上には…、
『ゆっくり味わって食べてね(はあと)』
などと、妙にかわいらしい文字の手紙があったりもした。
…今後、綾香は怒らせないようにしよ。
『別に怒ってないんだけど、やられっぱなしってのは嫌だからね♪』
おわり
おまけ
「なぁ陣九朗、他にもなんか技とか使えるのか?」
「う〜ん、いや、使えはしないが知ってる技ならいくつか。
例えば、刀に風をまとって目標を切り裂く『烈○』とか、
剣圧で鎌鼬をおこして遠くの標的を攻撃する『斬空○』とか、
目標に連続的に打撃を与えることで粉砕する『二○の極』とか…」
「な、なんかすごいラインアップだな」
「そうか? 他にもいろいろあるぞ?」
「いや、聞いてみたい気もするがやめとく」
おしまい。
後書き
消化不良作品。
も一つ上手くかけませんでした。猛省。
ようするに、陣九朗は強いんだよもん、って事で。
綾香、嫌な役回りごめん。
(了)
<コメント>
イネス 「アキト君っ! テンカワラーメン大盛りっ!」(−−メ
アキト 「は、はい……って、どうしたんスか、イネスさん?
なんか機嫌悪そうですけど?」(^_^?
ルリ 「何でも、今日、学校で『説明』のチャンスを逃してしまったそうですよ」(^_^;
アキト 「は、はは……そうなんだ……」(^_^;
イネス 「うう……せっかく説明できると思ってたのに……、
こうなったら、松原さんで新開発の薬の実験を……」(−o−)
ルリ 「ちょっと訊くのが怖いですけど……どんな薬なんです?」(^_^;
イネス 「――超強力な媚薬よっ!!」( ̄ー ̄)v
アキト 「び、媚薬っスか?!」Σ(@〇@)
イネス 「そうよっ! 仙命樹の催淫作用を利用した薬で、
これを飲んだら、もうシたくてシたくてたまらなくなるのよっ!!」( ̄▽ ̄)
ルリ 「――っ!!(キラーン☆)」(・_☆)
イネス 「ふっふっふっ……明日の放課後にでも保健室に呼び出して……、
そうね、相手は姫川さんにでも……女の子同士なら問題無いし……」( ̄ー ̄)ニヤリ
アキト 「な、なんだか、怖い事を考えてるような……」(^_^;
ルリ 「……そ、そうですね(その薬、成功したら私も譲って貰いましょう♪)」(*・・*)