陣九朗のバイト IN Heart to Heart

第11弾




「どーっすかー? いかがっすかー?」

 ちょっと遠出のバイトの帰り道、聞き覚えのある声に足を緩めた。

「はい、そこのお兄さん、見てってねー。
いい物いっぱいあるよー」

 少し辺りを見渡すと、向かいの路上に見慣れた姿を見つけた。

「おにいさーん。 …あーくそ、このごろ調子悪ぃーぜ。ちっとも売れねー」

「…よぉ、イビル」

「らっしゃーい…って、なんだ、陣九朗か」




〜 ある日の露店 〜




「なんだはないだろう。ま、別に客ってわけでもないがな」

 イビルの前にはシートが敷いてあり、その上にはいろいろなアクセサリーが並べられていた。
 客ではないといいながら、目の前のアクセサリーを物色する俺。

「ぁんだよ、なんか買ってくれるんじゃねーのか。
冷やかしとは、友達がいのねーやつだな、おい」

 都合のいいときだけ友達にすんなってーの。
 しかし…まあ、俺はアクセサリーは『つける』ほうじゃなく『作る』ほうだからな。
 いろんなアクセサリーを見るのは勉強になって面白いんだが。

「案外普通なのしか置いてないんだな」

「…どういう意味だ、そりゃ? あたいに喧嘩売ってんのか?」

 なんでそうなる!?

「いや、仮にも悪魔が出してる露店だから、そっち系の商品があるもんだと思ってたからな。
こうやって並べてあるのは、木製や石製のアクセサリーばっかで、
それも別に月桂樹やヒスイなんかの魔力を持ったもんでもなし。
なんつーか、思いっきり『普通』な感じがしてな」

 俺の言葉に、イビルは一つ大きなため息をついてから、

「お前なぁ、なんかあたいたちに妙な偏見持ってんじゃねーだろうな?
言っとくが、あたいたちゃあ至極まっとうに生活してんだからな」

 別に偏見など持っちゃいないが…

「それに、そんなに細かい作業はできねーし」

 そっちが本音か。
 しかしまぁ、イメージで物を言うのはあんまりよくなかったな。反省。

「それについては謝る。
 ところで、こいつら、イビルが作ったのか?」

 目の前のアクセサリーを指であそばせながら聞いた。
 こいつらっていうのは、アクセサリーのことだ。念のため。

「商品で遊ぶなよ。
あぁ、一応ここに並んでるのはあたいが作ったもんだ。
本当に極まれにメイフィアが作った物も置いてんだけど…どうもな」

 …メイフィアさんのことだから、なんか呪いがかかったようなもんとか?
 ま、いくら魔女だからってそんなことをする人じゃないか。
 また、イメージで物を考えたことについて、猛省。

「なるほどな。
しかし…見たところ売れ行き悪いみたいだな。
さっきから立ち止まるお客も全然いないし」

 ここは結構人通りの多い場所なんだが、先ほどから行き交う人は、
立ち止まるどころかみんなこちらを見もせず、足早に通り過ぎていく。

 う〜ん、大体の原因はわかるんだけど。
 まず、やっぱり品揃えがちょっと…
 商品の数自体が少ないため、スカスカに見える。
 商品の質は決して悪くない。どころか、かなり良い方だ。
 しかし、センスの差なのか、ちょっとばかし一般受けしなさそうな気はある。

 後は…

「ちょっと、おにーさん、いい物あるよー…
ちっ、なんでい、ちょっとぐらい見ていきやがれってんだ」

 ……イビルの性格…かな。
 このところ売れてないのが性格に拍車をかけてるみたいだし。

 しかし、こんなことイビルに言ったら、また燃やされるのがオチだ。
 かといって、このままじゃあラチがあかないだろうし…

(後で考えてみりゃあ、別に俺がかかわる必要はなかったような…これも性分か)

 …! いいこと思いついた。
 用は品数が増えて、目玉になる商品ができればいいわけだ。

「イビル、いっつもここで露店開いてんのか?」

「あ? ああ、大体この辺でやってるけど、それがどうかしたか?」

 俺は少し考え込むそぶりを見せる。

「実はな、昔、俺がいまのイビルと同じように露店を開いてたことがあるんだが、
その時の商品がいまだにさばききれてなくてな。
物自体は良いもんだから、よかったらここに置いてくれないか?」

「そりゃあかまわねえ、と言いたい所だが、まさか変なもんじゃないだろうな。
身につけたら犬になるとか…」

 ……イビルが俺のことどういう眼で見てるのかがわかった気がする。

「別に普通のアクセサリーだ。
(まぁ、多少細工はしてるが…)」

「今、小さい声でなんか言わなかったか?」

「んにゃ、なんもいってない。それじゃ、また今度持ってくるわ。」

 そういいながら、俺は家路につくことにした。
 さて、これからしばらくは忙しくなるかな?



E  C  M



「陣九朗さん、夕飯ですよ」

 …う? もうそんな時間か。
 いかん、少し眠ってたみたいだな。

「はぁ、これでやっと10個か」

 俺は机の上に載っている作製中のアクセサリーを見ながら一人つぶやいた。
 アートクレイシルバーを使った(一応)純銀製の物だ。
 つい最近、趣味でたまの鈴を作ったときとは違い、売り物を作るわけだからそれなりに気を使う。
 でもまあ、実質売れ残ってた在庫品とあわせれば、もうちょうどいい量かな?

「陣九朗さん? なにしてるんですか?」

 チキが部屋の扉を少し開け、こちらをのぞいている。
 俺が夕飯に下りて行かないから様子を見に来たんだろう。

「なんでもない、ちょっと片づけてただけだ」

 そういいながら、机の上を少し整理する。

「そうですか… あれ? また露店のほう、出されるんですか?
以前、もうやらないといっていたと思いますが」

 俺の机の上を見たチキがそう聞いてきた。
 たまに気晴らしにアクセサリーを作ることがあるが、今回は量が違うからな。

「うん、まあ、そんなところだ。
それよりも今日の夕飯はなんだ?」

 俺は、下手に詮索される前に話題を変えることにした。

「今日は八百屋さんにタケノコをおまけしてもらいましたので、タケノコご飯を作ってみました」

「ほう、それは楽しみだな♪」

「陣九朗さん」

「ん、なんだ?」

「あんまり無理はしないでくださいね」

 もっとも、チキは全てお見通しって感じだったけど。



E  C  M



「…………よし」

 とりあえずは完成。

 俺は手のひらの炎を握り消した。
 …なにをやってたのか多少は説明しないとな。

 今やってたのは『焼結』という作業で、簡単に言うと粘土状のアートクレイシルバーから、
不純物を燃やして純銀にする作業だ。

 普通はバーナーや専用の電気釜(電磁釜?)なんかを使うんだが、
俺が使ったのはいわゆる『鬼火』だ。
 ここで、普通に作ったんじゃ出来ないことを付け加えている。
 いわゆる魔力付加だな。

 この前作った鈴には簡単な言語能力を付け加えたが、今回のアクセサリーには…
 ま、それは後のお楽しみってやつかな?

 おっと、あと少し、作っとくもんがあったな。
 ……それは帰ってきてからでいいや。気合入れて作らないといけないしな。

「とにかく完成っと。んじゃ、さっさとイビルのところに持っていくとしましょうかね」

 俺はバイクを走らせ、イビルの露店へと納品(笑)を急いだ。



 E  C  M  …数週間後…



「おーーーい、じんくろーー」

 ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴんぽーーーん

「だああぁ! うるさいっ! なんなんだイビル!」

 う〜、くそ。久しぶりに昼寝という名の惰眠をむさぼりまくってたのに。
 なんか日本語おかしい気もするが。

 自室のベッドからのっそり起き上がると、少し急いで玄関へ行き扉を開けた。

「なんだ? こんな時間…っても昼だが、なんか用か?」

「ま、何だ、立ち話もなんだし、上がらせてもらうぜ」

 イビルはそれだけ言うとさっさと家のなかへと勝手にあがっていった。
 そのまま俺の部屋に入ると座布団の上にどっかと座る。
 ううむ、相変わらず豪快なやつ。
 しかし、普通は客間かリビングに入るもんじゃないのか?

「話ってのはこれのことだ」

 目の前の簡易テーブルにポケットから出したものを置く。

「これって…なんだ、俺が持ってったアクセサリーじゃないか。
これがどうかしたか? あ、売上なら前言った3:7でいいぞ? 7がお前で」

「そうじゃねえよ。売上のことはひとまず置いとけ。
実際、売上は好調だ。お前のを置くようになってからはな」

「それはよかった。…で、何が問題なんだ?」

「てめえは人の話を聞かねぇやつだな。少し黙ってきいてろ」

 むう。

「それでだ、売れ行きがいいのはおおいに結構なんだが、少し聞きたいことがある。
これ、メイフィアのやつに見せたんだが、なんか魔力付加がしてあるらしいじゃねーか」

 さすがはメイフィアさん。
 イビルぐらいのレベルでもわからないようにコーティングしてたのに…
 さすが魔女だけあって、こういうことに関してはかなわない物があるな。

「あ〜、お察しの通り多少魔力付加してある」

「そうか。陣九朗のことだから変なことはしてねーだろうけど、
一応どういったもんか聞いとこうと思ってな」

 …メイフィアさんのことだから、中身が何なのかまでは言うのめんどくさがったんだろうな。

「簡単簡潔に言うと『気を活性化』させる効果を付け足した。
身につけてる者の気の巡りをよくして、好気を呼び込んだり願いをかなえやすくする効果がある。
神社で売ってる御守りのパワーアップばーじょんって感じだな」

 実際、神社で売ってある御守りの中には、
気を活性化させる効果のある護符が入っているものがある。

「はぁ〜、なるほど。器用なもんだな。
 今度あたいにも作り方教えてくれよ」

「いや、そりゃいいがイビルには無理だな。
……落ち着け、まずその槍をしまえ。それからちゃんと座れ」

 俺の言葉に問答無用で殴りかかろうとしたイビルを座らせる。

「無理って言ったのは、お前が使うのが魔界の炎だからだ。
難しい話は省くが、俺が使う鬼火とお前の炎じゃ、性質がまったく違う。
だからお前のじゃ魔力付加とかの細かい作業は出来ないの。
どうしても魔力付加がしたいなら…芹香さんじゃないが、魔法陣とか使った儀式が必要だぞ」

「…やっぱいい。そんなめんどくせー事、いちいちやってらんねー」

 そりゃそうだろうな。俺もいやだし。

「魔力付加についてはわかった。じゃあもう一つの質問だ。
そもそも、狼男のお前が何で銀細工なんだ?」

 ……おい、

「俺は狼男じゃなくて人狼族だ。
似てるようだが別物だからな。そこんとこ、間違えんな。
で、質問の答えだが…お前、本当に悪魔か?」

 ごすっ!!

 止める前に、問答無用でイビルの槍が俺の頭を捕らえた。

「てめぇ、殴られたいのか!?」

「もう殴ってるだろうが!! まあいい。
俺たちは別に銀そのものが怖いんじゃなくて、そこに込められた感情が怖いんだよ。
銀ってのは『気』やら『気持ち』やらの形のないものを蓄える性質があるからな。
普通、銃を向ける対象には殺意や憎しみが付きまとうだろ?
それが銀の銃弾に込められて、俺たちにダメージを与えるわけだ。
本当の意味で破魔力があるのは超希少金属の『ミスリル』ぐらいのもんだ。
RPGとかではあふれ返ってるがな」

 イビルに殴られた側頭部をなでながら説明してやる。
 あ、こぶになってやがる。

「こんなこと、少し魔界にいたやつなら誰でも知ってると思ってたんだがな」

「やかましい。ちょっと忘れてただけだよ」

 深くは突っ込まないことにしよう。

「補足として、銀の特性を利用したのが俺が作ってるアクセになるわけだ。
応用でいろいろ出来るだろうが…めんどくさいしやる気もない」

「へっ、言ってろ。
今日の用件はそんなところだ。今日も露店出すつもりだから、もう帰る。
またなんかあったら来るぜ。
じゃあ…っとと、なんだこりゃ?」

 立ち上がろうとしたイビルが何かに足をとられてよろける。

「あん? 何だ、指輪じゃねーか。
この前もってきたやつのあまりか?」

 ? まえ持ってった分は数の確認もしたし、何より余分な物など作った覚えは…
 
だあぁ! それは!

「イビル! それは商品じゃない、返してくれ!!」

 イビルの手から指輪を取り上げようと手を伸ばすが、一瞬早くイビルは後の机の上へと跳んだ。
 …机に載るなよ。

「へえ? 陣九朗がそんなに慌てるなんて珍しいな。
お、ここにもあるじゃねーか。ちょっと感じが違うが」

 そういいながら、机の上にあった分も手にとる。

「だあああぁ! 返しやがれ!!」

 ちょっぴり力を解放しつつイビルへと跳ぶが、また一瞬早く、
イビルは部屋の反対にあるベッドの上へ跳んだ。

「この指輪がどうかしたのか? なんかシンプルに見えてやたらと細かい…文字か、これ?」

 まずい! いくらイビルでも魔術文字ぐらい読めるだろう。
 読まれたら大まかな付加内容がばれてしまう。
 それだけは阻止せねばっ!!

「ていっ!!」

 避けられないよう、イビルの上から覆い被さるように跳躍する。

「あ、なにしやがる!」

「やかましい! さぁ、とっとと返しやがれ!!」

 逃げられないよう、イビルの両腕を頭上でおさえつける。
 そのままイビルの手から指輪をもぎ取ろうとするが、

「おら!」

 げしっ!

 思いっきり顔面に蹴りを喰らい、のけぞる。

「あ、すまん、モロに入ったな」

「イビル…もう手加減しねぇぞ」

 力を解放すると、一瞬にしてイビルを押さえつける。 

「ちょ、ちょっと待て、なんか眼があぶねーぞ!?」

「くく、聞こえんなぁ。さあ、指輪を返せ」

 返せと言いつつ、イビルの手から指輪をもぎ取る。

「返しただろ!? さっさと離せ!」

「いやだね。さっきの仕返しだ。
貴様のおでこに油性マジックで『肉』って書いてやる!!」

「や、やめろーー!!」

 そのとき、部屋の扉が開き、

「……陣九朗…さん?」

 チキがトレイにお茶セットを載せて立っていた。

 さて、ここで思い出して欲しい。
 いま、俺とイビルがいるのはベッドの上である。
 んでもって俺はイビルをそこに押さえつけているわけだ。
 あまつさえ、逃げられないように上に乗っかってたりもする。
 さらに、イビルは仕返しがよっぽどいやだったのか半泣き状態である。

「あ、あの、お客様と思いお茶をお持ちしたんですが…
 ……し、失礼しますっ!!!」

 バタン! たたたたたたたたたたた… 

 …………………………………。

「…ま、まあ、今回は運が悪かったって事で。
そんじゃ、あたいは帰るぜ、それじゃ」

 俺の下からするりと抜けたイビルは、そのまま素早く帰って行った。

 ひゅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…

 窓から吹き込む風に、思わず灰になって吹き飛ばされそうになる。

「…ご、誤解だっ!!
誤解なんだチキっ!!!」


 それから俺は……

 誤解を解くのに……

 丸一日を費やした……

 一日で済んだのは、不幸中のさいわいか………








 おひまひ

























おまけ

「……………」

「チキ、まだ怒ってるのか?」

「いえ、そうじゃないです。ただ、私も何か作って欲しいな〜、なんて」

「なんだ、そんなことか。
…ま、後少しで完成するんだが、試作品なら見せてもいいぞ、ほれ」

「あ、指輪ですね……これは」

「? どうかしたか…し、しまった、そっちは!」

「…陣九朗さん、これ」

「…ま、まあ、日ごろの感謝を込めてだな。
もうちょっとで完成するから、それまでまて」

「…ちょっとはめてみていいですか?」

「だから、まだ製作途中…ま、いいか。サイズの確認もあるしな」

「じゃあ……えへへ☆」

「ま、まて! そこはまだ早い!!」

「……まだ?」

「…………………………………………じ、自爆(赤)」

「…………ぽぽっ☆」











 なんだこれ?
 とにかく、おしまい。




後書き

帝音  「今回のおまけはこっぱずかしい内容だったな」

陣九朗 「…まず本編に触れんかい。はぁ、疲れた」

帝音  「お疲れ。そういえば、結局あの指輪は何個作ったんだ?」

陣九朗 「ああ、一応三個だな。」

帝音  「って事は、チキ、リーナ、アレイってとこか?」

陣九朗 「まぁな。言っとくが、日ごろのお礼以上の感情はないからな」

帝音  「はいはい、そういうことにしときますかね」

陣九朗 「気になる言い方だな。またなんかろくでもないこと考えてるんじゃないだろうな」

帝音  「………いや、別に?」

陣九朗 「…はぁ、またなんか嫌な予感がする」


(了)


<コメント>

誠 「あー、ようするに意思の伝達率の高い物質で出来た武器ってのは、
   お前達みたいな奴等にとっては脅威なわけか?」(−−ゞ
陣九郎 「ま、簡単に言うとそういうこったな。
      ちなみに、銀ってのはその中でも最下位に位置するんだ」(^_^)
誠 「じゃあ、ミスリルとかオリハルコンとかは?」(・_・?
陣九郎 「……ハッキリ言って脅威だな。
      まあ、攻撃が当たらなければ意味ないんだけどな」(−−;
誠 「ようするに、某スレイ〇ーズと同じようなもんか」(−o−)
陣九郎 「ぶっちゃけた話、そういうことだ」(^_^ゞ
誠 「それにしても、お前、スフィーさんみたいな真似が出来るんだな?」(−o−)
陣九郎 「まあな。さすがにあそこまで応用はきかないけどな」(^_^ゞ
誠 「もしかして、エンチャントやりすぎて体が小さくなったり……」(−w−)
陣九郎 「するかっ! チキじゃあるまいし」(−−メ
誠 「ちっ……つまらん」(¬¬)
陣九郎 「をひをひ……」(−−;


STEVEN 「しかし、陣九郎はあの指輪にどんな魔力付与をしたんだろうな?」