皆さん、「まじかる☆アンティ−ク」はプレイしましたか?
ネタバレはないつもりですが、ちゃんとプレイしてから読むことをおすすめします。
ちなみにこのSSは、スフィ−達が来る、前の年のお話です。
まじかる☆アンティ−クSS
『大晦日(おおみそか)』
ズズ−…
…ズルルルル…
…コトン。
空になったドンブリを、こたつ台の上に置く。
「ふぅ、ごちそ−さん」
ニカっと笑って言う俺。だが、結花は箸を止めて固まったままだっ
「どした?」
俺がもう一声かけると、結花は驚いた表情のまま、
「あ、あんた……わんこそばの早食い大会にでも出る気なの?」
と訊いてきた。
「はぁ?」
「だって、健太郎が今食べたソバ…」
「ふむ」
「あたし、一度に3人前をゆでたんだよ?」
「ふむふむ、それで?」
「それを…1分かからずに食べたのよ、あんた」
「ふむふむふむ、だから?」
何事もなくそう言うと、結花は頭をかかえた。
…ふっ。
今の俺を甘く見ちゃいけないぜ。
なんたって、おとといの夜から何も食っていねえんだからな。
年の瀬は、骨董屋の稼ぎ時である。
普段は奥さんにサイフを握られてるおっちゃん達が、
冬のボ−ナスを振りかざして店にやって来るからだ。
おかげで儲かるのはいいのだが、急がしいったらありゃしない。
さらに、親父と母さんが骨董仲間の忘年会に行ったまま、帰って来ない。
多分そのまま、年末恒例の骨董祭で仕入れをしてるんだと思うけど…。
ったく、一言くらい連絡よこせってんだ。
そんなこんなで、骨董屋では希にみる忙しい生活を送っていた。
そして…気が付けば食料がなくなっていた。
買出しに行こうとしても、次から次へ押し寄せるお客の波。
骨董好きってこんなにいたんだ…と驚きつつ、お客を裁く。
たまに店を手伝う程度の俺が全てのお客の相手をするのには、丸一日を要する。
そのおかげで、昼飯の時間も取れない始末。
結花に応援要請の電話をかけるが、この時期は『HONEY BEE』の忙しさも尋常ではないらしく、
逆にバイトに来てほしいと言われてしまった。
やっとのことで店を閉める時間には、商店街も閉まってる。
こうも疲れると料理をする気も起きない。それ以前に材料がない。
近くに大型ス−パ−が無いことを恨みつつ、コップに5杯の水を飲み、布団に入る。
そして今日、大晦日。
今年最後のお客を裁いた俺は、店のシャッタ−を降ろすと同時に、その場にぶっ倒れてしまった。
年越しソバを作りに来た結花が俺を発見しなかったら……俺、マジでヤバかったろうな…。
というわけで、2日ぶりのメシにありついた俺は、人の限界を越えるようなスピ−ドでソバを食べ終えた
結花が驚くのも無理ないが、そういう状況に陥った俺にとっては、ごく当たり前のことなのだ。
「まあ、この健太郎様に不可能はないってわけだ…ズズ−」
と、食後のお茶をすする。
「胸はって言えることじゃないと思うわよ、あたし」
結花があきれ顔で言う。
「…うむ。確かに、はれる胸がないヤツの前で言うセリフじゃなかった…ぶっ!!」
結花の右ストレ−トが、俺の額にヒット!!
飲んでいたお茶が気管支に流れ込む。
「…ゲ、ゲホッ、ゲホッ…」
ぐっ…結花のヤツ、本気で殴りやがったな…。
「ほかに言う事は?」
笑顔でパキポキと指を鳴らす結花。 …こ、怖いぞ。
「いいえ、何もありませんです…」
アハハハハ…、と乾いた笑いを浮かべる俺。
こりゃ、早く話題を変えた方が懸命だな、うん。
「と、ところでさ、何でまた年越しソバなんて作りに来てくれたんだ?」
話題を変えるときは疑問形で。
親父から教わった、数少ない役立つ知恵だ。商売上でも、よく使っている。
「えっとねぇ、あまったから」
自分のソバをすすりながら、結花が答える。
う〜む、実に分かりやすい理由だ。
だが、納得はできない。
喫茶『HONEY BEE』のメニュ−には、12月31日限定で『年越しソバ』が加わる。
泰久さんいわく「趣味のレベルでやってる」そうだが、その味は正規メニュ−にも引けを取らない。
特に、昆布とカツオのダシの効いたつゆが絶品だ。
それだけに、「あまった」というのには頷き難かった。
「おいおい、あんだけ忙しそうだったのに、全部出なかったのか?」
俺は当然の疑問を口にする。
すると結花は得意そうに、
「そう、お父さんの『年越しソバ』に、私の『年越しスパゲッティ−』が勝ったのよ!」
と顔をほころばせた。
「…と、年越しスパゲッティ−!?」
そんなメニュ−、あったのか?初耳だぞ!?
「そう! 今年から始めた大晦日限定メニュ−、『年越しスパゲッティ−』!!」
嬉しそうに話す結花。
「つ、作り方は?」
「ソバの代わりに、ゆでたスパゲッティ−をつゆと絡める、以上!」
ゴンッ!!
俺は思いっきり、こたつ台に頭をぶつけた。
「おい…思いっきり手抜きなのは気のせいか…?」
顔だけ持ち上げ、力の抜けた声で訊く。
「失礼ね。シンプル・イズ・ベストっていうでしょ」
「シンプル過ぎると思わねえか、おい…」
「いいのよ。お父さんに勝った事実は変わらないんだから」
結花はそう言うと、にっこりと笑った。
…まあ、気持ちは分からんでもない。
師匠である泰久さんに、まがりなりにも注文の数では上回ったんだからな。
「で、あまったソバをウチに持ってきたわけか」
「そゆこと。お父さんが、『年越しソバ自身が年を越すのはよろしくない』って」
「ふ〜ん」
「あと、『健太郎くんもお腹をすかせていると思うから』って言ってた」
…うぐ。
さすが泰久さん、俺の行動を完全に読んでいる。
「…ま、一応例は言っとくぜ。ありがとな」
「どういたしまして」
「それにしても、ホントすごいな。泰久さんに注文数で勝つなんて」
「でしょ? えっへん!」
腰に手を当て胸をはる、得意そうな結花。
「うむ。これでもう少し、はりごたえのある胸があれば…おっと!!」
今度は予想していただけに、素早くこたつから飛び出て結花のパンチをかわす。
「こら、逃げるな−!!」
結花もこたつから出て、かまえをとる。
「…今年最後の決闘か。面白い、受けて立つぜ!!」
「手加減しないわよ!」
「望むところだ!!」
俺たちの間に、緊張感が走る。
………。
どちらとも、動こうとしない。おそらく、先に動いたほうが負けだ。
……………。
じれったさが、体を動かそうとする。
だが、ここで動いちゃいけない。
結花に勝つには、最初の一撃を見切るしか方法がない。
しかし、結花もそれに気付いているだろうが。
………………。
まだか?
まだ動かないのか?
…くっ。
緊張感に、体が震えてきやがった。
結花の方も、飛び出したい気を必死におさえているのが見てとれる。
しばらく、この状態が続くのか…。
そう思った時だった。
ゴ−ン………
ゴ−ン………
ゴ−ン………
やたらとでかい鐘の音が、はりつめた部屋の空気に響いた。
…除夜の鐘だ。
ゴ−ン………
ゴ−ン………
ゴ−ン………
なおも、鐘の音は鳴り続ける。
鐘の音は、落ち着きと威厳をもって響いていた。
「…なあ。やめにしないか、今年最後の決闘」
…なんだか、気がそれちまった。
これだけどっしりと鳴り響かれると、なんか自分達のやってたことが
アホらしく感じてしまったからだ。
「…うん、そうね…」
結花も同じ気分らしく、あっさりと停戦に応じた。
二人とも、ペタンとその場に座り込む。
今までの緊張感が抜けると一緒に、体の力まで抜けていった気がした。
ゴ−ン………
ゴ−ン………
ゴ−ン………
「除夜の鐘か…」
天井を見上げたまま、俺はつぶやいた。
「一年間にたまった108つの煩悩を払う、っていうものだったよな。
ちゃんと払っとけよ、結花」
「あたしはいい子だから、煩悩なんてないわよ」
ゴ−ン………
ゴ−ン………
ゴ−ン………
「いや。自分じゃ気付かなくても、結構あるもんだぜ、煩悩って」
「ふ〜ん、例えば?」
ゴ−ン………
ゴ−ン………
ゴ−ン………
「そうだな…例えば、『胸を大きくしたい』、『胸を成長させたい』、『胸を――――」
ゴンッ!!!!!!!
頭への衝撃。
そして、除夜の鐘の音を越える、鈍い音。
その音を聞きながら、俺の意識は急速に遠ざかっていった……。
グッバイ、今年。
来年は…なんかいい事あるかな…?
(終わり)
<あとがき>
どうも、ジュンです。
最後までこのSSを読んで下さって、ありがとうゴザイマス(^^)。
「まじかる☆アンティ−ク」ネタですが、登場ヒロインは結花オンリ−です。
まだ全キャラクリアしてないもんで、スフィ−とかリアンを自然に動かす自信がなかったので…(^^;)。
いや、結花さえまともに動いてないか…(^^;;;)。
肝心の本文も、なんだか尻切れトンボに終わってしまいました。
書いたSSはまだ2作の若輩者ですので、ある程度は許してやって下さい(^^;)。
修行中の身でありますから、ご意見・ご感想・アドバイス・苦情・お問い合わせなどを
頂けると、ホントに嬉しいです。次に書くときの参考や、エネルギ−源になります。
それでは、また会う日まで…(^^)/。
<感想>
ジュンさん、投稿ありがとうございます!\(´▽`)/
やったぜ! 我がサイト初の『まじ☆アン』SSです!
読後の感想としては、
「……大晦日に読みたかった」
……ですね。(笑)
あと、『ゴンッ!!』もお約束通りでグッド!!
結花の使い方も、なかなか良い感じでしたよ。
それでは、最後に、
素晴らしい作品をありがとうございました!!
でわでわー。
【追伸】
HTMLファイルがあまりに重かった為、
こちらで若干加工させていただきました。
ご了承ください。