Heart to Heart番外編





 チリンチリン〜♪
 小気味のいい音が響く。

「おめでとうございます三等賞夜のクリスマス、遊園地にご招待〜♪」


「よっしゃぁぁぁ!」
「まーくん遊園地だよ、遊園地」
「うれしいですね、まーくん」
「あらまぁ」


 ここはあかねの店のある商店街、年末恒例の福引きが行われているのだが、

「はい、これがチケット、いいわねぇ。若い子は」

 と八百屋のおばさんがチケットを渡してくれる。
 後ろではあやめさんがなにやら後ろ手に隠しながらウインクなどしている。
 全くあの人は何を考えているのやら。

 さくらたちが気付きはしないかと様子をうかがってみるが……、

「クリスマスの遊園地〜♪」
「ロマンチック…」
「まことさんと夜の…うふふふふ」

 気付くわけねぇか、ってエリア何を考えている、何を。

「ま、とりあえず帰ろうか」

 と素っ気なくいう。
 これ以上、放っとくと、何考えるか解ったものではない。
 とりあえずチケットが手には入ったのはやはりうれしい。
 俺はチケットを取り出してまじまじと見つめる。

 そこには大きな字で……、

「テーマパーク"GURPS"クリスマスペアチケット。」

 と書かれていた。

 ……ん?

 不吉なものを感じた俺はチケットをもう一度よく見てみた。

「クリスマスペアチケット…ペアチケット…ペア



ガサッ



 俺は慌ててそれを懐にしまう、とりあえずさくら達の様子は……、

 問題はあるが異常ない。
 俺はため息をつきながら家路を急いだ。










「と、いう訳なんだ。頼む、浩之。バイト紹介してくれ!」

「お人好しといいたくなるのは俺だけか?」

 浩之に言えたことではないという突っ込みは取り合えす置いておいく。

 あれから考えた俺はもう一枚ペアチケットを買うというきわめて安直な結論にたどり着いた。
 正直クリスマスという付加価値があれだけ高くつくとは予想外だったが、
その場の勢いも相まって予約してしまった。
 とりあえずキャンセルは却下、金を借りる当てはない、となれば働くしかないだろう。

 しかし『即金』『高校生』『他人に見つからない』となると条件は厳しい。
 少なくとも俺は知らない。

「そこまで条件を付けるかよ」

「やっぱむりか?」

「いや、少し待ってくれ心当たりが数件ある」

「すまないな」

 しかし相変わらず浩之の顔の広さには驚く。
 とりあえずカフェオレでも買ってこようとしたら、

「見つかった」

「…早いな」

 とりあえず連絡先のメモを受け取る。

「すまない、恩に着る」

「いや、礼はそこのバイトにいる俺の知り合いに言ってくれ。
なんでも、また神戸に山籠もりに行くらしいからな、代行で紹介してくれるとさ」

 何故山籠もり? まぁいいか、バイトは見つかったんだ。

「じゃ、がんばれよ」

「おう、またな」

 とりあえずそのバイト先へ行ってみることにしよう。












「さすがにきついな」

 浩之の知り合いという男が紹介してくれたバイトはゲームショップの店員で、
クリスマスセールの前のせいか俺に目を付けた上司がやたらと仕事を押しつける。

「十時か…」

 そろそろ帰ろうかと考えようものなら……、

「うむ、その仕事はもうすぐ終わりそうだな」

 というように仕事の種がやってくる。

「うむ、それなら素質ある君に一つ使命を与えようではないか。
吾輩は去るが終わったら店長に報告するよう。では」

 相変わらず身勝手な人である。また帰るのが遅くなった。












 クリスマス前日、バイトを終え、なぜか弁当をもらった俺は家に急ぐ。

今日はエリアが家にいるはずだ。
少し足下はふらつくが明日のことを考えるだけで足取りが軽くなる。

 家について玄関にあがると、

「お帰りなさいまことさん」

 と、エリアがトタトタとやってくる。
 っと、何かめまいがしてきたぞ。
 しかもなんか目が……かすんで……


 ドタッ










「あ、まーくん目が覚めましたか?」

 ――え?

「大丈夫そうですね。よかったです、本当によかったです」

 さくら、なに泣いてるんだろ?
 俺が何かしちまったか?

「エリアさんから、電話があって……」

「なぁ、さくら、俺いまいち状況がつかめないんだけど」

「まーくん覚えてないのですか? 昨日エリアさんのまえで倒れて……」

「昨日って……今何時だ?!」

「券ならキャンセルしておきましたよ、ゆっくり休んでいてかまいせん」

「……エリア」

 重苦しい雰囲気がのしかかる。

「……まーくん?」

 さくらがおずおず口を開く。

「ごめんな」

 俺は返事の代わりに謝った。

「みんな楽しみにしていたのに、情けねえよな」

 ……ふと顔を上げるとエリアの手が見えて、


 パンッ


 小気味いい音と頬に痛みが走る。

「……エリア?」

「何故謝るんですか?」

「……」

「……何故私たちに相談してくれなかったんですか?
何故私たちに頼ってくれなかったのですか?」

 俺は何も言えなかった。さくらも黙ったままだ。

「何故、自分をもっと大切にしてくれないんですか?
いつもいつも自分だけで解決しようとして……」

 エリアがそっと俺の胸に顔を寄せる。

「もっと自分を大事にしてください。誠さんまでいなくなったら、私……」

 言い過ぎともいいたくなるが、
やはり今までがあるエリアにしてみれば、不安でしょうがないのであろう。
 俺は自分の浅はかな行動をを悔やんだ。

「私たちは誠さんさえいてくれて、
さくらさんと、あかねさんと、四人で一緒にいるだけで幸せなんですから……」

 エリアが言い終わると俺は謝る代わりに、そっとエリアとさくらの頭を撫でてやった。




 エリアの涙がつらくて……、




 悲しくて……、




 とてもうれしかった。













「なぁ、さくら。まだエリアと一緒にあの場所行ったことなかったよな?」

「あ、そういえば……」

「こんな時間だけど行ってみないか?」

「え、でも、まーくんが……」

「ま、だいじょうぶさ。ちょっと疲れただけだし」

「それではあかねさんも起こしてあげないと……」

 そういうとエリアはあかねを揺すり起こす。

 実はあかねはずっとこの部屋にいた。
 赤ちゃん◯僕のみの◯のごとく俺の毛布にしがみついていたのだ。

 俺が起きてからずっと頭に手を置いているのを、
知ってか知らずか幸せそうな顔して寝ていやがる。

 俺はとりあえず着替えをするために部屋を出た。

 ……そう言えば何故パジャマを着ているのだろう。
 ……深く考えないことにした。











「わぁ♪」

 ここは少し遠くにある高台の公園。
 フェンスとその際に植木がしてあるため気付く大人は少ないが。

「……綺麗、」

 なかなかの絶景が見渡せる。
 しかもフェンスの外側なのに何故かベンチまで置かれていたりする。
 学校の屋上ほど高くないせいか、街が近くに見えて風も穏やかだ。

「ここはこの街で育った人しか知らない特等席だ」

「……」

 エリアは景色をじっと眺めている。

「あ、雪、雪だよ、まーくん」

 あかねがはしゃぐ、あぶねーだろ。まぁ、落ちることはないか……、

 確かに空から粉雪が降ってきた。

「素敵です……」

 さくらもうっとりと見入っている。
 なんだかアルバイトまでした自分がばからしくなってきた。
 これで俺たちは十分だったんだ。

 四人で雪降る街を眺める、ただそれだけなのに今までで最高のクリスマスだと思える。
 不思議と笑いもこみ上げてきた。

「どうしたの? まーくん」

 あかねも同じなのだろう、ほほえみながら聞いてくる。

「いや、何でもない」

 俺はそう言って街を眺める。

 俺とさくらとあかねが育って……、
 エリアがやってきたこの街の……、

 幻想的な、四人だけの景色を……、

「メリークリスマス、みんな」

 そう言って俺達は景色の中に浸った。








<おわり>


<コメント>

誠 「…………はあ」(−−;
あかね 「うにゅ? まーくん、どうしたの?}(・_・?
誠 「いや……自分が情けなくてさ。
   たかだかバイトがつらかったくらいで倒れたりしなかったら、
   お前達と遊園地に行けたのに、って思うと……」(T_T)
さくら 「もう……まだ言ってます」
エリア 「それはもう忘れましょう。そんなことより、ケーキをどうぞ♪」(^o^)
あかね 「まーくんの為に、一生懸命作ったんだよ♪」(^〇^)
誠 「……ああ。みんな、サンキュ、な」
さくら 「それとですね……この後、プレゼントもあるんですよ♪」
あかね 「うん♪ とっておきの『デザート』が、ね♪」
エリア 「後で『美味しく』『食べて』くださいね♪」
誠 「へ〜、そりゃ楽しみだな。でも、何なんだ、そのデザートって?」
さくら 「それは……(ポッ☆)」(*^ ^*)
エリア 「ひ・み・つ……です♪(ポッ☆)」(*^ ^*)
あかね 「えへへ〜♪(ポッ☆)」(*^ ^*)
誠 「……んん?」(?_?)