――それは、あかねの何気ない一言から始まった。





「ねえ、まーくんと浩之先輩って、どっちがカッコイイと思う?」





譲れないもの

<< Heart to Heart & 藤田家のたさいシリーズ >>






「もちろん! 藤田さんに決まっています!」
「…………(こくこく)」
「そうですぅ。浩之さんですぅ」
「絶対に浩之ちゃんだよ」
「当然ネ!」
「まあ、あいつもイイ線いっとる方やけど、藤田君には敵わんやろなぁ」
「先輩の方が……ステキだと思います」
「あ、あたしも藤田くんだと思う」
「断っ然っ! 浩之ね!」

「そんなことありません! まーくんの方がカッコイイです」
「そうだよ! 絶対、まーくんだよ!」

「「「「「「「「「むっ!!」」」」」」」」」
「「ムムムッ!!」」


 
――ばちばちばちばち!


「藤田先輩は、凄く強いんですよっ!」
「浩之さんって、目つき悪いよね!」
「藤田君はな、あれで意外に頭の回転早いんやで!」
「まーくんはすっごく繊細なんですよ!」
「そういうのは、ただ単に根暗って言うネ!」
「浩之さんはなでなでが上手ですぅ!」
「まーくんだって上手です!」
「誠なんてアニメオタクじゃない!」
「パソコンだって詳しいよ!」
「そういうのも……オタクって言うんですよ」
「…………(ボソボソ)」
「え、え〜っと……『浩之さんには偏見というものがありません』って言ってるよ」
「まーくんはとっても優しいんですよ!」
「浩之ちゃんはもっと優しいもん!」


「「「「「「「「「はぁはぁはぁ……」」」」」」」」」
「「ふぅ……ふぅ……」」


「……どうやら、お互いに贔屓目があるみたいですね」

「そうみたいやな……」

「これじゃあ、どっちが本当にカッコイイのかわかんないよ」

「……じゃあ、あたし達以外の、第三者の意見を訊いてみるっていうのはどう?」

「OH! それがGoodネ!」
「さすが綾香さん! それがいいと思います!」

「じゃあ、そういうことで……」
「行くわよ、みんな!」


 
――ダダダダダダダダッ!!


「…………」





「………みなさん……行ってしまわれたようですね」





「さて……どうしたものでしょう?」








<< 長岡 志保 の場合 >>


「ええ? ヒロと誠とどっちがカッコイイか意見を訊かせろって?」

「…………(こくこく)」
「はい。藤田さんとの付き合いの長い長岡さんなら、わかると思うんです」
「長岡さんはどっちだと思う?」

「うーん……そんなこと言われてもねぇ。
だいたい、なんで
あんな男がモテるのかが最大の謎なのよねぇ」

「「「…………」」」

「スポーツとかに打ち込んでるわけでもないし……」

「…………」

「目つきは悪いし……」

「…………」

「何事にもやる気なさそうだし……」

「…………」

「まったく
あんな男のどこが……って、何かしら? この刺すような視線は?」

「…………」
「『言いたい事はそれだけですか』って言ってます」
「……滅殺、ですね」

「ええ!? ちょっと、
なんでそうなるのよー!!








<< 佐藤 雅史 の場合 >>


「え? 浩之と誠君のどっちがカッコイイかって?」

「うん。どっちだと思う?」
「答えて欲しいネ、雅史」

「そうだね。僕は二人とも凄くカッコイイと思うよ」

「どうして?」

「だって……
二人とも僕の友達だからね(ポッ☆)

「…………」
「…………」
「……レミィ先輩」
「……あかね」
「どうやら……」
「ここで狩っておいたほうがいいみたいネ」


 
――スチャ


「ね、ねえ、二人とも……その手に持った弓矢とバットは……何?(滝汗)」

「問答……」
「……無用ネ」

「ち、ちょっと待って! 何で僕がこんな目に……
うわあああああああああっ!!」








<< 坂下 好恵 の場合 >>


「……と、言うわけなのよ」
「第三者としての意見を聞かせてもらえませんか?」

「…………ふぅ」

「何よ、
好恵? ……そのいかにも、呆れた〜ってタメ息は」

「事実、呆れてるのよ。まったく、綾香と葵が揃って大事な話があるって言うから、
どんな話かと思えば……私はね、あなた達と違って忙しいの。
そんなくだらない事に付き合ってる暇は無いのよ」


「「……『くだらない事』?」」


「そうよ。だいたい、そんなこと考えてる暇があったらもっと鍛錬を……」


 
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


……好恵……今のセリフは、ちょっと聞き捨てならないわねぇ」
「これは凄く重要なことなんですよ」

「ち、ちょっと、二人とも! 何をムキになってるのよ!!」

「好恵……覚悟しなさいね」
「本気で、いきます」


「ひえええーーーーっ!!」








<< 矢島 の場合 >>


「……というわけで、浩之ちゃんと誠君、どっちがカッコイイと思う? 
矢沢君?
「どっちだと思いますか? ……って、
ところでこの人、誰です?
「とまあ、この二人、何気に名前間違えたり、存在忘れたりしとるけど、
そんな些細なことはどうでもええんや。
男の視点から見て、どっちやと思う? 公平な意見を聞かせてくれへんか?」

「…………」

「ほれ、はよせいや」
「どうしたの?」
「話、聞いてました?」

「…………そっか……神岸さんも園村さんも、おれにそんなこと訊くんだ?
保科さんにとって、おれってどうでもいいんだ……」

「何ブツクサ言うとんねん。サッサと答えんかいな」
「ねえ、どっちなの?」
「答えてください」


「うわあああーーーんっ!!
死んでやる! 死んでやるーっ!」


 
――ダダダダダダダダーッ!!


「……なんや? いきなり泣き出して……男のクセしてみっともないなぁ」
「浩之ちゃんは、人前で泣いたりしないよ」
「まーくんとは大違いですね」








<< 犬さん の場合 >>


「犬さん犬さん、こんにちわ」

「わん!」

「実は、今日は犬さんにお訊ねしたいことがあって来ました」

「くぅ〜ん?」

「浩之さんと誠さんのことは知っていますか?」

「わん!」

「そうですかー。それならお話しは早いですぅ」

「わわん!」

「犬さんは、浩之さんと誠さん、どっちがカッコイイと思いますか?」

「わぅ〜ん」

「そうですよねぇ♪ やっぱり、浩之さんの方がカッコイイですよねぇ♪」

「わわんっ!」

「はう! でもでも、誠さんだってとってもいい人ですし……」

「くぅ〜ん」

「あう〜……わたしは一体どうしたらいいんでしょう〜」

「わぉおおーーーーん!」
















「……って、何よ! ろくな意見が無いじゃない!」
「っていうか、誰もまともに聞いてくれなかったネ」
「どうして、みんな浩之ちゃんの良さが分からないんだろう?」
「見る目が無いですよね」
「まったくです」
「…………(こくこく)」

「……まーくん、カッコイイのに」
「とってもステキなのに……」

「まあ、しかし、なんやな……結局、わいらで決着つけるしか無いっちゅーこっちゃな」

「……そういうことになりますね」

「一番カッコイイのは、浩之ちゃんだよ」

「まーくんです!」

「浩之よ!」
「…………(こくこく)」

「ちがうもん!」

「藤田さんです!」
「先輩です!」


 
――バチバチバチバチッ!!


「「「「「「「「「むむむむむむっ!」」」」」」」」」
「「むぅ〜〜〜〜っ!」」








「「何やってんだ、お前らは?」」








「「「「「「「「「浩之(藤田)ちゃん(さん・君・先輩)!!」」」」」」」」」
「「まーくん!!」」

「……セリオから聞いたぜ。ったく、何くだらないことで争ってんだよ」

「くだらないって……わたし達にとっては重大な事なんだよ、浩之ちゃん!」

「はい。確かに重大な事だと思います。
実際、私もあかねさんの言葉を聞いた時、浩之さんが一番だと思いました。
ですが、こういったことは、比較するものではないと思います。
人それぞれに価値観は違いますから、比較するだけ無意味なのです。
……もちろん、それが分かってても、譲ることができない気持ちは私も同じです。
ですから、私はお二人をここにお連れしました。
お二人なら、きっとみなさんを説得できると思いましたから」

「セリオさんの言う通りだ。俺は、お前達のその気持ちだけで充分だよ」

「で、でも……」

「じゃあ訊くけど、さくら、あかね、もし浩之が一番カッコイイって事になったら、
お前達は浩之のことを好きになるのか?」

「「そんなことない!」」

「みんな……もし、誠が一番カッコイイってことになったら、みんなは誠を好きになるのか?」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

「……みんな、俺は他の誰に嫌われたっていい。
みんなの一番でいられれば、俺はそれで充分幸せだよ」

「俺も浩之と同意見だな」

「「「「「「「「「「浩之(藤田)ちゃん(さん・君・先輩)☆」」」」」」」」」」

「「まーくん☆」」








 ……こうして、少女達は、愛する人の胸に飛び込んだのだった。





 めでたしめでたし。
















「「「「全然めでたくなぁーい!」」」」





 
――ちゃんちゃん♪








<おわり>