「おーい、あかりー。料理の準備はいいかー?」
「うん。もう出来てるよー」
「マルチちゃん。ケーキにロウソクを立ててもらえます?」
「はい。分かりました〜……っと、何本でしたっけ?」
「十六本です。マルチさん」

 よしよし……こっちはオッケーだな。

「綾香ー! 飾り付けは順調か?」
「まっかせなさい! 完璧よ!」
「レミィさん。飾り付け上手ね?」
「Home partyはよく家族と一緒にやってたから、こういうのは慣れてるネ」
「…………(ふるふる)」
「『今回はホームパーティーとは違います』っちゅーとるで」
「そうですね。今日はいつものとはちょっと違いますよね」

 よし。どうやら、準備は整ったみたいだな。
 あとは、『あいつら』が来るのを待つばかり……、


 ――ぴんぽ〜ん
 ――ガチャッ


「おい。浩之ン家なんか連れてきて、一体何なんだよ?」
「いいからいいから。ホラ、早く上がって」
「ち、ちょっと待てよ。勝手に上がったらマズイだろ?」
「とにかく、早くしてください。みなさん待ってますから」

 おっ? どうやら、今日の主役が到着したみたいだな。

「みんな……準備はいいな」

 俺が小声で言うと、皆は黙って頷き、手に手にクラッカーを構える。

「なあ? みんなが待ってるってどういう……」

 そして、『今日の主役』が部屋に姿を見せた瞬間……、


 
ぱぱんっ! ぱぱんっ! ぱぱぱーーーんっ!


 クラッカーの乾いた音が、盛大に鳴り響いた。


『ハッピーバースデー! まーくん!!』



幸せ
〜それぞれの作り方〜

<<『Heart to Heart』&『藤田家のたさいシリーズ』>>

 



 というわけで、今日は俺の友人の『藤井 誠』の誕生日だったりする。

 このことをさくらちゃんとあかねちゃんから聞いた俺達『藤田家』は、
誠の為に誕生日パーティーをプレゼントしようということになったのだ。

「……なるほどねぇ。こういうことだったのか。そういえば、今日って俺の誕生日だっけ?」

 さくらちゃんとあかねちゃんに案内され、ケーキの前に座りつつ、
誠は納得顔でうんうんと頷いている。

「頭のキレるお前が気付かないなんて珍しいな」
「いや、さくらとあかねの二人だけだったら、多分すぐに気付いただろうけど、
浩之達まで絡んでたからな」

 俺達に一杯食わされた形になり、誠はちょっと悔し気だ。
 でも、その表情は嬉しさのあまりかなり緩んでいる。

「ふふふ……誠君、ビックリした?」
「そりゃあもう……特に全員に『まーくん』って呼ばれた時には、思わず膝の力が抜けたぜ」

 ゲンナリとタメ息をつく誠。
 どうや、さくらちゃんとあかねちゃん以外に『まーくん』呼ばわりされるのは慣れてねぇみたいだな。
 ふっふっふっ……作戦通りだぜ。

「ほらほら、誠! いつまでもムダ話してないで、サッサッとロウソクの火を吹き消しなさいよ。
みんな今か今かと待ってるんだからね」
「わーったよ。んじゃ、いくぜ!」

 綾香に急かされ、誠は大きく息を吸い込む。
 そして、一気にロウソクの火を吹き消した。

 
パチパチパチパチパチパチッ!!

 一斉に湧き起こる拍手の嵐。
 よしっ! ここで作戦第二段発動だっ!


『おめでとう! まーくんっ!!』


「……あう〜……勘弁してくれよぉ」

 二度目の俺達の攻撃に、誠はテーブルに突っ伏したのだった。








「わりイな……俺なんかの為にわざわざ……」
「別にいいって。気にすんなよ」

 俺がそう言っても、誠はまだ申し訳なさそうな顔をしている。
 ったく、俺達の間で、そんなに遠慮する必要ねーだろが。

「そやそや。別に気にする必要ないで」

 と、委員長が間に入ってきた。

「ウチらは単に何か適当に理由を付けてバカ騒ぎしたかっただけやからな。
せやから、藤井君も楽しまな損やで」

 ともすれば、冷たくも思えるぶっきらぼうな委員長のセリフ。

 でも、俺には分かる。
 これが委員長なりの優しさであり、心遣いだということが。
 こう言えば、誠は自分の中で納得できるだろうからな。

 そして、誠にもそれは分かったようだ。
 委員長の言葉に、ようやく表情が和らぐ。

「サンキュー、委員長さん。そう言ってもらえると助かるよ」
「礼なんかええ。ただ、今日の主賓がいつまでも辛気臭い顔しとったら、
イマイチ盛り上がりに欠けるやろ。それに……」

 そこまで言うと、委員長は俺達の隣に座るさくらちゃんとあかねちゃんに目を向けた。

「礼を言うなら、そっちの二人に言いや。今日のパーティーの主催者はその二人なんやから」
「……え?」

 委員長の言葉を聞き、誠は二人を見た。

 さくらちゃんもあかねちゃんも、誠をジッと見つめている。

「あ、あの……今までは、いつもわたし達だけでしたから……」
「まーくん……寂しがり屋さんだから、賑やかな方がいいかなって……」

 その眼差しは不安げで、どこか訴えかけるようで……、

「……まーくん?」
「迷惑でした?」

 訊ねるさくらちゃんとあかねちゃんに、誠は優しく微笑み……、

「バーカ……ンなわけねーだろ……ありがとな、さくら、あかね」

 そっと二人の頭を撫でる。

「ま、まーくん……(ポッ☆)」
「はにゃ〜♪」

 誠に撫でられ、ウットリとしている二人。

「誠……お前は幸せ者だな」
「……ああ」








「……と、いうわけでぇ〜、最後に締めとしてさくらとあかねから、
誠に誕生日プレゼントを渡してもらうわよん」

 何か『というわけ』なのか知らないが、いきなり綾香がそんな事を言い出した。

 終始、パーティーは宴たけなわのドンチャン騒ぎ状態だった。
 当然、酒も入ってるから、みんな妙にハイテンションだし。

 ちなみに、どれだけテンションが高いかというと、綾香が
猫耳猫尻尾つけてたりする。
 いや、それだけならまだしも、あかりまで
犬耳犬尻尾つけてるし、
葵ちゃんまで
狐耳狐尻尾姿だ。

 どうやら、あかねちゃん特製のコスプレグッズらしいけど……。
 なんか……漢の夢が一つ叶ったって感じだな。
 うーん……目の保養になるぜ。

 誠なんかは、三人のその姿見て、鼻血噴きそうになって、
それを見たさくらちゃんとあかねちゃんに張り倒されて本当に鼻血出してたりする。
 で、さくらちゃんとあかねちゃんは鼻血出した誠を介抱しつつも、
誠にベッタリと抱き付いて離れようとしない。

 さらに、レミィと委員長は訳も無く大笑いしてるし、
マルチとセリオは一升瓶片手に何やら語り合ってるし、
先輩と琴音ちゃんと理緒ちゃんは仲良く酔い潰れて眠ってるし……、

 シラフなのは、俺と誠くらいなんじゃねーか?
 いや、もしかしたら、俺達もすでにヤバイことになっているのかも……。

 まあ、とにかく、かなりハチャメチャ(死語)な状態だった。

 で、そろそろパーティーも終わりに差し掛かったところで、
最後のイベントとしてさくらちゃんとあかねちゃんから誠にプレゼントを渡すこととなった。

 しかし、この状況では、もはやどんなプレゼントをしても、感慨も何もあったもんじゃねーよーな……。

「……ふあ?」
「ふにゅ〜〜」

 プレゼントを渡す二人は、酒による酔いと、長時間誠にくっついていたことによる甘々モードで、
すっかりふにゃふにゃになっている。
 おいおい……マジで大丈夫か?

「ホラ、二人とも早くプレゼントを渡しなさいよ」

 綾香に促され、二人はトロ〜ンとしたままゆっくりと頷く。

「は〜い……」
「あたし達からのプレゼントはぁ〜……」

 二人がゆっくり誠に顔を近付けていく。
 そして……、

 ――ちゅっ☆
 ――ちゅっ☆

「……ンフフフ♪」
「えへへ〜♪」

 プレゼントを渡し、幸せそうに微笑む二人。
 そんな二人をポカンとした表情で見つめる誠。

「ひゅ〜ひゅ〜♪ 熱いわね〜♪」
「やってくれるやんか」
「三人ともvery very Hotネ!」
「ふふふ……仲が良いっていいよね」
「さくらちゃんもあかねちゃんも、大胆です」

 あかり、綾香、委員長、レミィ、葵ちゃんが、口々にひやかす。

 なるほどね。こういうプレゼントならオッケーだよな。

「……さくら、あかね、ありがとう。最高のプレゼントだよ」

 二人のプレゼントが嬉しくてたまらなかったのだろう。
 誠は少し泣きそうな顔で、二人を抱きしめたのだった……。








 そして――

 時計の針は0時を回り、日付が変わった頃、誠達を見送る為、俺達は玄関に集まった。

「なあ、ホントに泊まっていかなくていいのか?」
「別に遠慮しなくていんだよ?」

 俺とあかりの言葉に、誠達は首を横に振る。

「ああ……さくら達の両親にあんまり心配かけるわけにはいかないからな。
それに、この間みたいに、さんざんからかわれるのはまっぴらだしな」

 誠の言葉に、俺達は何も言えなくなってしまう。
 確かに、あの時はさんざんイジメたからなぁ……。

「浩之、あかりさん、みんな……今日は本当にありがとう。
今までの誕生日の中で、一番楽しくて、一番幸せな誕生日だったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃ、また明日……じゃなくて、もう今日か」
「ははは、そうだな。じゃ、そろそろ帰るよ。おやすみ、浩之。おやすみ、みんな」

 みんなが誠達に口々におやすみと声をかける。
 そして、誠達は少し名残惜しそうに帰っていった。

 こういう時って、何か妙に寂しいよな。
 別に、またすぐに会えるのによ。

『今までの誕生日の中で、一番楽しくて、一番幸せな誕生日だったよ』

 俺は何となく、誠の言葉を思い出していた。

 ……幸せ、か。
 そういえば……。

 俺はあることを思い出し、誠達を追い駆けた。

「おーい! 誠ーっ!」

 しばらく走ったところで誠達に追いついた。

「浩之、どうした?」
「はぁはぁ……ちょっと、誠と……はぁ……話しが、あって、な……」

 と言いつつ、息を整える俺。

「……分かった。さくら、あかね、ちょっと先に行っててくれ」
「はい……じゃあ、浩之さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい、浩之先輩」

 そう言って、二人はぺこりとおじぎをすると、先に帰っていった。

「わりィな」
「いや、いいよ。ところで、一体何なんだ、話って?」

 誠に促され、俺はさっき思い出したことを誠に訊いてみることにした。

「……なあ、誠」
「なんだ?」
「この前、俺が言ったこと……少しは理解できたか?」
「……『いつまでも、俺のままでいろ』ってやつか?」
「ああ……」
「そうだな……正直、まだ、よくわかんねぇや」

 そう言って、誠は軽く肩を竦める。

「でも、一つだけ分かったことがあるぜ」
「分かったこと?」

 俺が聞き返すと、誠は夜空を見上げる。
 そして、ゆっくりと語り始めた。

「浩之……俺は、今までお前を尊敬していた。
どうすれば、お前のように、愛する人を幸せにできるんだろうって考えていた。
どうすれば、お前みたいになれるんだろうって考えていた。
ずっと、ずっと……それだけを考えていた」

 誠……お前……。

「でもさ、あの時、お前に言われて気付いたんだ。
俺は『藤井 誠』なんだって。
俺は『藤田 浩之』になる必要は無いんだって」

 誠の表情は、自信に溢れていた。
 もう、不安も、迷いも無い、晴れやかな顔だった。

「だから、俺は俺らしくやってみる!
俺らしく、俺のままで、俺のやり方で、さくらとあかねを幸せにしてみせる!
……もちろん、お前を尊敬しているってことに変わりはないぜ」

 誠の力強い言葉に、俺は大きく頷いた。

 ……なあ、誠。
 それでいいと思うぜ。
 それが、お前なりに考えて出した答えなんだ。
 だから、それがお前にとって正しい答えなんだよ。

 お前はもう……俺が言ったことを理解しているよ。
 誠らしい、誠なりの解釈でな。

「浩之、感謝してるよ。お前は俺に大切なことを教えてくれた……ありがとう、浩之」

 誠が右手を差し出してきた。
 それを、俺はグッと握った。

「なあ、浩之?」
「ん? 何だ?」
「また、こうして話しをしに来ていいか? まだまだ、お前には話したいことが一杯あるから」
「ああ。いつでも来いよ。話だけならいくらでも聞いてやるぜ」
「サンキュー。じゃあ、またな」
「おう。またな」

 そう言葉を交わし、俺達は手を離す。
 そして、誠はさくらちゃんとあかねちゃんを追って走っていった。

「…………感謝、か」

 誠達を見送りながら、俺は思う。

 なあ、誠……俺もお前に感謝してるんだぜ。
 お前の話を聞いていると、俺も再確認できるんだ。

 俺は間違っていないのか?
 俺は今も俺らしくあるのか?
 俺はみんなを幸せにできるのか?

 その疑問に、お前は答えてくれるんだ。
 お前の言葉が、俺の背中を押してくれるんだ。

 お前は間違ってなんかいない。
 お前なら大丈夫だ。
 お前なら絶対にみんなを幸せに出来る。

 ……ってよ。

 だから、本当に、迷ったらいつでも来いよ。
 いくらでも力になってやるからよ。
 そして、俺の力にもなってくれ。

「浩之ちゃ〜〜〜ん! もう遅いから寝ようよ〜〜!」
「浩之ーーーっ! 早く来なさいよーっ! 鍵閉めちゃうわよー!」

 あかり達に呼ばれ、俺は玄関に向かった。
 だが、途中で足を止め、もう一度、誠達を振り返る。

 頑張れよっ! 誠っ!!
 誠らしく、誠のままで、誠のやり方で、さくらちゃんとあかねちゃんを幸せにするんだぞ!

 俺も頑張るっ!!
 俺も、俺らしく、俺のままで、俺のやり方で、幸せにしてみせるぜっ!

「浩之ちゃん!」
「浩之っ!」
「藤田さん!」
「浩之さん!」
「藤田先輩!」
「浩之サン」
「藤田君!」
「……
ひろゆきさん
「ヒロユキ!」
「藤田クン!」

 誰よりも愛している女の子達――
 何よりも大切な家族――

 この『藤田家』をなっ!!

「おうっ! 今行くっ!」








<おわり>