陣九朗のバイト IN Heart to Heart

第一弾。…の後編





「はあ。世の中って、どっか間違ってるよな……」
「そうでしょうか? そんなに悪いことばかりじゃないと思いますよ?」
「そうかな?」
「そうですよ」

 ……そうなのか?

ある日のお引越し 後編



「で、どういうことなんだ誠?」

 俺はリビングでチキの(もう仮の姿に戻っている)入れてくれた紅茶を飲みながら、
対面に座っている誠にたずねた。
 誠は、先ほど一緒に来た少女(フランソワーズというらしい)に入れてもらった紅茶を
いったん置き、こちらの方に向き直った。

「ああ、順を追って説明していくぜ。
まず、そもそもどうしてルミラ先生やフランがここにいるのかだけど、
この屋敷は、もともとデュラル家のものだったんだ」
「はあ、こんだけ大きな屋敷だから、どっかの有力者の持ち物だとは思ってたけどな。
でもなんで今は誰も住んでないんだ?」
「ええとそれは…」
「差し押さえられちゃったのよ」

 上手のほうに座っていたルミラさんが、一人だけ湯飲みで緑茶を飲みながら言った。

「久しぶりに目覚めてみたら、お屋敷から何からぜ〜んぶ抵当入り。
今は借金を返すための極貧生活……うう、しくしく、よよよよ」

 なんか話の悲惨さの割にはルミラさん元気だな。
 そんな芝居がかって泣かんでも。

「何よ! 結構生活苦しいのよ?
まともな稼ぎを出してるのは私とアレイとエビルぐらいのもんで、
メイフィアはどうもサボりがちで昼間っから酒飲んでるし、
イビルは逆に借金増やすし、たまは……あんなだし」

 ルミラさんの視線の先には、
部屋の隅のほうでリーナとじゃれている猫又(一応化け猫らしいが)の姿があり、
ルミラさんは深いため息をついた。……今、心読まなかったか?

「最近はエビルもこっちに帰ってこないことが多くなったし。
フランソワーズもこのところ誠のところに行ってる事が多いし。はあ、昔は良かったわよねえ」
「ルミラ様、それは言わない約束でしょ」
「あらメイフィア、アレイの具合はどうだった?」

 当然、後ろから入れられた合いの手に振り返ると、
さっきの絵から出てきた女性が禁煙ぱいぽを咥えながら立っていた。
 どうやらこの人がメイフィアらしい。

「かすり傷一つなかったですよ。ちょっと目を回してただけですね」
「ルミラ様、すいません…」

 メイフィアさんに続いて入ってきたのは……、

「あ、あんまん少女!!」
「えっ!? あ、あのときの店員さん!!」


 E  C  M


「やっぱりアレイさんだったのか。どこかで聞いたことあると思ってたんだけど」

 誠がなにやら一人で納得している。
 それにしても、甲冑の正体があの女の子だったとは。ええと、アレイさんだっけ。

「しかしアレイさん、陣九朗の相手してて気がつかなかったのか?」
「はい、なにぶん薄暗くしてましたし。
メイフィアさんに『恐ろしく凶悪な奴が攻め込んできた』と聞かされたものですから」
「うう、すいません。問答無用で襲いかかっちゃって」

 メイフィアさんに謝る俺。
 あの時は頭に血が上ってたから…、

「気にしなさんな。ちょっと驚いただけだから」

 そう言ってひらひらと手を振るメイフィアさん。
 この口ぶりだと、ほんとに他意はないらしい。
 良かった。(その割にはアレイさんに言った言葉が気になるが)

「アレイさんもすいませんでした」
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。えと、それとですね…」

 アレイさんは俺のそばまできて、うつ向き気味に小声で、

「あの、出来ればあのことは内緒にしていただきたいんですが」

 と、言ってきた。
 おそらくあんまんのことだろうが、はて、なぜだろう?

「別に良いけど」
「ありがとうございます」

「で、話の続きは? もう話していいか?」

 この間、ずっと待っていてくれた誠が、俺に言ってきた。
 この屋敷が元はデュラル家の持ち物だって所までしか聞いてなかったな。
 しかし、それで大体の予想がついてしまったが。

「チキ、(推測)頼む」
「はい。今までのお話からですと、間違いなくこの屋敷に出る幽霊というのは
デュラル家の皆さんですね。それで、なぜこんなことをしているのか。
いくつかの候補がありますが、軽い思慮の発言は皆さんに失礼なので
本人から説明していただいたほうがよろしいかと」

「一応、人助けに入るのかな? もともと私たちが住んでたせいもあって、
ここの気は人間にとってあまり良いものじゃないのよ。
ある程度の力や正しい知識を持った人には全然無害なんだけど、
極普通の人やあまりいい精神…まあ心ね、それを持ってない人が長い時間ここにいると、
魔に魅入られやすいのよ」
「だからわたくしたちで、なるべく穏便に出て行ってもらうようにしてたんですが…」

 ……穏便にねえ。
 アレイさんの言葉に思わず苦笑する。

「普段はメイフィアさんが悪夢を見せるとか、イビルさんが炎で脅かすぐらいなんですが」
「そうそう、今回は特別よ、いきなりあなたが襲い掛かってくるもんだから」

 と、これはメイフィアさん。
 ひょっとして、やっぱり怒ってるんだろうか?

「すまん、陣九朗。やっぱり始めに聞いた時に言っておくべきだった」

 突然そう言って誠が頭を下げる。
 おいおい。

「誠が謝ることじゃないだろ。少し驚いたけど、それ以外に実害や怪我があったわけじゃなし」
「それなんだが、陣九朗。おまえ何もんだ?
この人たちの相手して無傷ってのは…普通の人間じゃないぞ。
それに、さっきのチキさんの姿。あれは…」

 誠が真剣な目でこちらを見ている。
 本質を見てないようで見てるな。さすがというか…、

「そうだな。誠の知り合いってのは、変わった奴が多い見たいだし。
いまさら3人増えたところでどうって事ないよな?」
「3にん? ってことはリーナさんも?」
「……おまえは化け猫に普通にじゃれ付くのが普通の人間だと思うか?」
「たまさんにじゃれ付きそうな人なら、知り合いに何人かいるけど?」
「やっぱ変わってるわ、おまえの知り合い」


 …………。

 それから俺は自分のこと、チキのこと、リーナのこと、
それからごく簡単に自分の家庭環境を誠たちに話した。(ここらあたりの内容は、別紙参照)
 時々ルミラさんに横から昔のことを暴露されるのには参ったが…

「とまあ、こんなところだな。あんまり面白くもない話だし、
出来れば黙っておけるほうが良かったんだが。ルミラさんがいる時点でそれも無駄だしな」

 俺は一気に話し終えると、すっかり冷めた紅茶を口に含んだ。
 リーナとたまは遊び疲れて眠っている。

「なるほど、陣九朗。おまえも苦労してんだな」
「いや、結構楽しんでるが。で、俺たちはどうしたらいいんだ?
ここがルミラさんの屋敷なら、俺たちは他のところを探すけど」
「別にいいわよ。今の持ち主は陣九朗君なんだし」

 ルミラさんが指先で空になった湯飲みをあそばせている。 

「実際、私たちがこの屋敷を買い戻せるようになるまで、まだかなりかかりそうだし、
かといって引っ越してきた人を追い出し続けたんじゃいつかは取り壊されることになる。
そういったわけで影響もない陣九朗君たちが住んでくれると、
私たちとしてもありがたいんだけど?」
「それならルミラさんたちがこの屋敷を借りればいいじゃないですか。
条件をクリアーすると格安で購入できるそうですし」

 俺はチキに見せてもらったチラシを思い出してルミラさんに言った。
 もともとの持ち主が借りれば、それでいいのではないだろうか?

「だめなのよ。そのチラシ、私たちも見たんだけど、
そこの不動産屋の親父が『元の持ち主には貸せない』ってさ。
それを聞いたイビルが殴りこみに行っちゃったし。行きづらいのよね、あそこ」
「そういえばイビルさんは?」

 アレイさんがルミラさんに聞いた。

「おしおきちゅう(にっこり)」

 ぞくう!!

 すごい悪寒に襲われて思わず身震いをしてしまった。
 見れば、チキと誠以外のみんなの顔色が一様に青くなっている。


「も、もしかして、エビルっていう人も?」
「ああ、あの子は今日は芳晴君のところにお泊り中。明日には帰ってくるって」


 E  C  M


「それじゃまたな、誠。ルミラさんたちも」
「ああ、バイトに遅れないようにしろよ」
「それじゃまたね、陣九朗君♪」

 あの後、時間も朝の6時となり『帰る前に朝食でも食べていってくれ』という俺の提案に
みんな快く同意してくれた。
 俺とチキ、それからアレイさんとメイフィアさんに手伝ってもらい作った朝ご飯は、
ものの20分もしないうちになくなってしまった。

「陣九朗くん♪ デザートに…」
「だめです」
「…まっことくん♪」
「いやです」
「ふたりともけち。ちょっとぐらいいいじゃないの〜」

 などというルミラさんとの掛け合いがあったりもしたが。


「ふわああ〜〜〜っと。今何時だ?」

 俺は大あくびをしながら自分の腕時計に目を向けた。
 7時10分… コンビニのバイトが9時からだから今からなら1時間は眠れるな。

「チキ、俺寝るわ。8時40分ぐらいに起こしてくれ」
「はい、わかりました。…陣九朗さん?」
「あ、なんだ?」

「ええと…お疲れ様です」
「ああ、ありがと」

 チキよ。今ほどその言葉を聞いてよかったと思うことはないぞ。



 E  C  M



 少し走るといつものバイト先のコンビニが見えてくる。
 時間は…8時55分か。朝の人との引継ぎ業務は…などと考えていると、
今日は珍しく店長が店先の掃除をしていた。

「あ、陣九朗君。おはよう」
「ああ、おはようございます…って、何で店開いてないんですか?」

 見ればシャッターは半分しか上がっておらず、店内の電気は消されている。

「うん、実はね…その前にこの手紙を読んでくれないか?」
「??」

 受け取った手紙は、宛名も差出人も書いてなかったが、普通の封筒に入れられていた。
 封もされてなかったので、そのまま取り出して読み始める。


『前略、一身上の都合により、旅に出ます。
 新店長には、津岡陣九朗君を任命します。

    それじゃ、あとよろしく。


              元店長 長瀬        』


「てんちょおおお!! なに考えてんですかあああ!!!」

 俺が絶叫しつつ眼を向けると、
遠〜〜くのほうで背中に荷物を背負い『じゃあね〜』っと手をあげている店長の姿が見えた。

「はあぁぁぁ、いつもこうだよ……ん?」

 一枚かと思った手紙だが、実はもう一枚あった。


『追伸 前にいたバイトの子はみんなやめちゃったから。
    でも大丈夫! 陣九朗君のためにバイトの募集はかけておいたから。張り紙で』


「それはどうも…」

 なんか、もうどうでもよくなってきた。このまま逃げよかな。
 ふとコンビニのシャッターに目を移す。


『それから、このコンビニは個人営業だけど、
名義や所有権とかも陣九朗君に移しちゃったから。もしつぶれたりしたら、そっちに……』


「店長、あんたは鬼ですか。なんか俺に恨みでもあるんですか?」

 シャッターに貼られた張り紙に深い脱力感を覚える。
 いかん、もっと前向きに考えよう。
 ただで店が一軒手に入ったと考えよう。
 うん、そうしよう。なあんだ、めちゃくちゃラッキーじゃん、俺。
 そう思いながら店内へと入る。
 レジの上に紙が置いてある。すっごくいやな予感。


『追伸その二 借金は五百万だから』


「…………………………」

 ふっ 店長、逃げたな…、
 しかし五百万か…今現在の俺の全財産が三百万ぐらい。
 残り二百万程度なら月の売上からちょっとづつ返していけるかも。
 貯金しといてよかった。まさかそこまで計算したわけでもないだろうが。

「よし! この店もらったあ!」
「きゃっ!!」

 誰もいないと思って叫んだら、いつのまにか入ってきたいた人がいたらしい。

「あ、すいません。あれ? アレイさん?」

 今日の朝、別れたばかりのアレイさんが立っていた。

「はい、ええと、こちらでバイトの募集をされていると、この張り紙で…」
「採用」
「はい? いや、しかしこういったことは店長の方に…」
「今から俺が店長です」
「??????」


 E  C  M


 ……そして、

「はあ。世の中って、どっか間違ってるよな……」
「そうでしょうか? そんなに悪いことばかりじゃないと思いますよ?」
「そうかな?」
「そうですよ」

 ……そうなのか?

 とりあえずことの敬意を話し、アレイさんを急遽採用することにした。
 何でも、以前にもコンビニで働いていたことがあるらしい。

 でもって今はお昼の1時。
 相変わらずひまなので、アレイさんと雑談中。

「ところでアレイさん、今日の朝、あんまんの話し口止めしてたけど、なんかあるの?」

 俺は、ふと思ったことをアレイさんに聞いてみた。

「いえ、あの、ルミラ様がいる前で、勝手にあんまん食べちゃったことがばれると…」
「ははあ、なるほど。内緒のつまみ食いって奴か」
「わ、私だって、贅沢したいんです!!」

「………………」

 あんまんが贅沢ですか。
 いや、なにも言うまい。
 明日からは俺もそんな生活になるやも知れんのだ。

 がんばれ俺! 負けるな俺!!





「陣ちゃん、そんなオチでいいの?」
「リーナさん。これが今の作者に出来る精一杯です」





そして後書きへ…

陣九朗  「はあ、相変わらずだな」
帝音   「そういうな、俺もがんばってるんだよ?」
チキ    「あんまり出番がないです…」
リーナ   「私の出番って…」
帝音   「チキはともかく、リーナは本編で死んじゃってるんだからいいだろ」
リーナ   「理由になってません! 大体本編知ってる人なんているの?」
帝音   「ごく一部には、いる可能性も零ではない」
陣九朗  「どのくらいだ?」
チキ    「小数点であらわさないと…」
帝音   「そうだな」
チキ    「うわ、なっとくしてるし」
陣九朗  「ところで、今回の話は結局なにが言いたかったんだ?」
帝音   「陣九朗たちが誠たちの世界にしゃしゃり出てくる様子」
リーナ   「それだけ?」
帝音   「うん。後は私の好きなデュラル家の皆さんが書ければ幸せ」
リーナ   「うわ、外道。そういえば、まださくらさんとあかねさんが出てきてませんね」
陣九朗  「そういやそうだな、どうしてだ、帝音」
帝音   「いやその……(いえない! うまく可愛く書く自信がないなんて!)いろいろだ」
チキ    「がんばってください」
陣九朗  「お、そろそろバイトの時間だ」
リーナ   「それじゃ、ここでおひらきだね〜」

一同    「お付き合い、ありがとうございました!!」


終幕







 チキ、トコトコと戻ってくる

「よろしければ帝音さんに感想など送ってやってください。鼻血出すほど喜びますんで」


 ほんとに終幕 

 感想はこちらまで。>
tuoka@hi-net.zaq.ne.jp


<コメント>

誠 「ま、これにて一件落着ってところか」
浩之 「まあ、詳しい事はよくわからんが……そうだな」
誠 「なんだよ、浩之? 妙に歯切れの悪い言い方だな」
浩之 「いやな……俺達の住んでる街って、まともな奴いないのか?」(−−;;
誠 「まあ、確かに、妙なところに妙な連中がやたらいるよな」(^ ^;
浩之 「ったく、類は友を呼ぶっていうけど……お前って奴は……」(¬¬)
誠 「浩之……お前さ……自分がその変わり者の筆頭だってこと、理解してるか?」(−o−)
浩之 「……ぐはっ!!」Σ(@〇@)


STEVEN 「えー、誠のルミラに対する敬称に謝りがあった為、
        こちらで修正させていただきました」<(_)>ペコ