陣九朗のバイト IN Heart to Heart

第一弾。…の中編




「お疲れ様でした〜〜」

 バイト帰り。ふと見上げた夜空に、それは見事な満月がその姿を浮かべていた。
 季節のせいか、今日は空気が澄んでいるのか、あるいはその両方か…
 月はそのほかの星が霞むほどに輝いていた。

「はあ、今日は満月か… 道理で体がうずくと思った。
帰ったら、チキに精神の落ち着くハーブ料理でも作ってもらわなきゃな…」


 その時の俺は知る由も無かった。
 今夜が、あれほど長い夜になるとは…

ある日のお引越し 中編




「ただいま〜〜〜」

 うむ、帰りなれた玄関も良いが、新しい家に帰ってくるというのも、新鮮でいいな。
 最も、2週間とたたずにこれが当たり前になるんだろうけど。

「………あれ、何で出てこないんだ?」

 いつもなら、俺が靴を脱いで部屋に上がる前に『お帰りなさい』って出迎えてくれるのに…、
 まあ、前と違って広い家だから、どこか声の聞こえないところにいるのかもな。
 なんてことを考えながらリビングへと足をむける。
 ドアノブに手をかけようとして、俺は異変に気付いた。
 今朝、家を出たときとは明らかに違う雰囲気。
 玄関の方はそうでもなかったが、中に進むにしたがって異質な気が漂い始めていた。
 しかも、目の前のドアからは今までに嗅いだことの無い強い気が漂ってきていた。

「なんだ? ……ただの幽霊ってわけじゃなさそうだが」

 実際、今までにも何度か『バイト』で除霊とかそういったことをやっているし、
小さい頃から母親にいびられたせいもあり、こういったことには慣れているはずだが…、
 ここまで強い気…いや、もはや瘴気や魔気に近いものを感じたのは久しぶりだった。
 俺は、ゆっくりとドアに向かいかまえる。

「今日が満月で…助かったかも…なっ!!」

 気合一閃、人狼としての力を半分ぐらいまで解放した俺の掌底で、ドアは粉微塵に吹っ飛ぶ。
 そのまま俺は、部屋の内に低い姿勢で滑り込みあたりを警戒する。

「あらら、勝手に壊されると、困るんだけどね〜」
「!!」

 人狼の力を出している俺が聞き違えるわけもない。
 声は俺の真正面、壁にかけられた絵の中から聞こえてきた。
 さらに…、

「チキ、リーナ!!」

 絵のすぐ下。赤い絨毯の敷かれた床に、二人が力なく倒れているのが見えた。
 その絵から何か気流のようなものが出て、
床に横たわっている二人へと注がれているのが、獣の目には『見えた』。

「てめえ、二人に何をしていやがる!」

 俺は本能が暴走しかけるのを気合で引き止め、敵意むき出しでその絵をにらみつけた。
 俺に意識に反応して、体に少しずつ変化がおき始める。

「べつに。ただちょっと厄介な力を持ってるみたいだったから眠ってもらってるだけよ。
死なない程度に精気は抜かせてもらったけど。
本人たちにはすこ〜し悪夢を…ってええええ」

 ザシュザシュ、どかっ!!

 俺は最後まで聞かずに、その絵を獣のつめで引き裂き、気を込めたこぶしで叩き割った。
 しかし、その直前に何かが絵から抜け出るのを感じた。

「あ、あんた! いきなり危ないじゃないの!」
「…おまえが本体か?」

 俺の後ろで金髪の女性が俺を指差し非難している。
 しかし、俺は意に返さず、チキとリーナの安否を確認するとゆらりと向きなおった。

「死ねっ!」
「だあっ! だから、いきなりあぶないでしょ! あんたは柳川か!?」

 金髪女性は何かを叫びつつも俺の攻撃をよけていく。
 ククッ、オもしロイ。なラばっ!

「ええい、『突風』!!」
「!!!」

 一気に深く飛び込もうとした俺の目の前で、何かが弾けた。
 次の瞬間…、

「っっっがあ!」

 俺は思いっきり壁にたたきつけられていた。
 しかし、壁のほうは無傷で、俺に冷たく硬い感触をプレゼントしてくれた。
 背中が強烈に痛むが、俺は追撃に備えるべく体を起こし、前をにらみつける。
 …しかし、女性の姿はもうそこにはなかった。

「くソ、ドこに行きヤガった!!」
「陣九朗さん、落ち着いて!」
「陣ちゃん、しっかりして!」

 どうやら別の強力な術を使ったため、二人にかけられていた術が解けたようだ。
 二人の声に、俺は我に返る。そして、自分の姿を見て愕然とした。
 そこにいたのは、もはや人間と呼べるのかも疑わしいほどに変化した、獣としての俺の姿だった。
 その姿を見てしまったとき、何かが内から出てこようとするのを感じた。

「あ、俺は…何をして……(グゥ、コ…コロ…テ……ヤル、アノオンナ!)」

 だ、だめだ、引きづられ……

『我が力を持って、歪めし力、均衡をなさん!!』

 カッ!!!!   しゅううう〜〜〜……

 激しくも優しい光に包まれ、俺は元の、人間の姿の戻った。
 意識も完全に自分のものだ。

「すまん、チキ。また迷惑かけた」

 俺は、俺を元に戻してくれたチキに向き直り礼を言った。

「!? チキ、しっかりしろ」
「チキちゃん、しっかり!」

 チキは青ざめた顔で自分の肩を抱いてうずくまっている。
 そういえばさっき……

『……眠ってもらってるだけよ。死なない程度に精気は抜かせてもらったけど。』

 くっ、しまった。精気が残り少ないのに浄化術なんて技を使わせちまったからか。

「う、うううう、ううううううううううみゃああああ!」

『ぽむっ!』

 やたら軽快な音を立てて、チキが本来の姿に戻ってしまった。
 精気が足りないため、仮の姿を保てなくなったためだ。
 猫とリスを足して割ったような姿。昔ながらのたけぼうきを持った身長60センチ程度の妖精。
 いわゆる『キキーモラ』だ。別にメイド服は着ていない。割烹着は着てるが。

「うみゃあ、元に戻っちゃいみゃした」

 ぽりぽりと頬をかきながらチキが言った。

「チキ、すまん。俺のせいで…」
「気にしないでくださいですみゃ。今日は満月ですし、すぐ戻りみゃす」

「ああ、チキちゃんのその姿見るのは久しぶりです〜」
「うみゃみゃ! リーナさん、やめてくださいだみゃあ!!」

 あ、リーナ、チキにほお擦りするのはやめれ。
 って、ちょっとまて。

「リーナ、おまえなんでそんなに元気なんだ? おまえも精気抜かれたんじゃないのか?」
「………………あううううう、陣ちゃ〜ん」

 へなへなと崩れるリーナ。
 ……忘れとったんかい。
 まあ良い、チキと違ってこっちは対処が楽だからな。

「ほれ、こっちこい」
「うりゅう〜〜〜」

 そう言って俺はリーナを抱き寄せ、その唇を自分の首筋に当てた。
 はた目から見たらかなりあれだろうが…

「ちう〜〜〜〜〜〜〜じゅるるるるる」
「音を立てて飲むな!」

 正確には血を吸っているのではなく、
精気を吸っているのだが(あとも残らない)なぜか音が鳴る。
 リャナン・シーならではの技だと、俺は勝手に思っているが、
他のやつらもなのかは知らない。

「ぷはあ〜〜。美味いんだな、これが」
「何を言っとるか。それで、いったい何があった。さっきの奴は何なんだ?」
「知らない」
「おのれは……」
「陣九朗さん、それについては私から話みゃす。実はですね……」

 チキの話をかいつまんで話すとこうだ。
 チキとリーナは、屋敷全体を掃除していたが、いくつかの場所で妙な気配を感じた。
 妙だと思いつつ、俺が帰ってくるまではおとなしく二人でまっていようということになり、
掃除を終えたあと、このリビングでお茶を飲んでいたところ、
先ほどの絵のほうから声が聞こえた気がして(実際、聞こえていたのだろうが)、
二人で近寄っていったと。
 すると、どこからか心地よい風が吹いてきて…、

「そこから先の記憶はないですみゃ。気が付いたらさっきのような状態に」
「そうか……」
「………」
「? リーナ、どうした?」

 見るとリーナが肩を震わせている。
 どうした…と聞く前に、

「ああ〜〜ん、チキちゃん可愛いよ〜〜〜(ほおずりほおずり)」
「うみゃあああ!! だからやめてくださいだみゃあ!!」
「うにゃああああ!!」

 はあ、いつもの発作か。

「(ほおずりほおずりほおずり)」
「うみゃみゃみゃ!!」
「うにゃにゃあ!!」

 ………ん?
 一人多くないか?

「(ほおずりほおずりほおずりほおずり)」
「うみゃみゃみゃみゃみゃ!!」
「うにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!」

「おい、リーナ。おまえ何にほおずりしてるんだ?」
「はい? 何って…」

 そういいながら自分がほおずりしていたものに目を向けるリーナ。
 一人はもちろんチキ、残るもう一人のほうは…

「………」

 なんと言うか…いわゆる『猫又』だな。
 しかし、リーナも対象を確認してからにしろよ。いや、チキの場合は確認しても嫌がるだろうが。

「か、か、かわいい〜〜〜〜〜」
「うにゃにゃにゃあああ!!!!!」

 ずるぺちっ!!

 おい、そういう反応なのか? 他に何かないのか?

「ああん、も〜(ほおずりほおずりほおずりほおずりほおずりほおずり…………)
「うにゃあああ………」

 でた、リーナひっさつ『ひゃくれつほおずり』。
 猫又、少し同情してやる。

「うな〜〜〜(ごろごろごろ)」

 なついてるし!!
 ああ、前半のシリアスっぽい展開は?
 このままギャグ路線なのか?

   ピンポーン。

「陣九朗さん。あの、もしもし?」

   ピンポーン、ピンポピンポーン。

「陣九朗さん! かえってくるですみゃあ!!」

 ばきいっ!

「なかなか痛いぞ、チキ」
「陣九朗さん…しっかりしてください」

  ピポピポピンポピンポピンポーーン。

「お客さんみたいですみゃ」
「だけど、今……夜中の2時半だぞ? 誰が来るってんだ?」

 自分の腕時計を確認して、俺はリビングから廊下へと出た。

「……おい、チキ。この家の廊下はこんなに長かったか?」
「電気もついてないですみゃ。まさに『廊下は続くよどこまでも』ですみゃ♪」

 俺の前には終わりの見えない薄暗い廊下。俺の後ろにも廊下。窓すらなくなっている。
 そして、今出てきたはずのリビングへの入り口は跡形もない。

「はめられたかな」
「そうみたいですみゃあ」
「チキ、力は?」
「まだしばらくかかりみゃす、すいませんですみゃあ」
「ふむ。んじゃ、とりあえず玄関のほうにでも歩いてみるか。ここにいても仕方ないし」

 ガシャン………

 玄関へ向かおうとする俺たちの背後で、やたらと重厚な音が響いた。

「チキ、薄暗くて先の見えない廊下、後ろからのあの音、とくればなんだ?」

 ガシャン……

「そうですみゃ、学校の怪談とかだと、巨大な足が追いかけてくるとかですけど。こ
ういった西洋風 なところでは…」
「ところでは?」

 ガシャン…

「たいてい甲冑が勝手に動いて追いかけてくる、とかですみゃ」
「なるほど」

 がちゃ、ばきいっ!!!!

「うおう!」
「みゃあ!」

 ああ、現実はいつも厳しい。

「チキ、逃げるぞ、とりあえず!」
「でも、リーナさんが!」
「さっきの場所とは空間的に切り離されたみたいだ。リーナの匂いがかけらもしない」
「!!!」
「大丈夫。あとで助ける! 今は走れ!!」
「はいですみゃあ!!」

 しかし、あれだけ重そうな甲冑であるにもかかわらず、その速度は驚くほど速い。
 このままでは、俺はともかくチキが追いつかれてしまう……そうだ!

 ひょい。

「うみゃあ!」

 俺はチキを小脇に抱えた。今の姿だから出来る技だ。
 そのまますくらんぶるだあっしゅ!!

 だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!!

 走りながら後ろを振り返る。
 どうやら引き離せたようだ。
 見る限り甲冑の姿は見えない。

「うみゃあ! 陣九朗さん、前まえ!!」
「へ? どわ!!」

 いつのまにか俺の進行方向に『突撃準備!』しているような構えの甲冑がいた。
 と、とまれない!

「いっきまーす!!」

 だだっ! ひょい、ぽん、たっ、どどおおん。

 説明しよう。
 突撃してきた音。ジャンプ。片手馬跳び。着地。甲冑が壁に突っ込んだ音。
 説明終わり。

「うわ〜〜、痛そうですみゃ」
「甲冑に同情してどうする」
「でも、さっき声が聞こえましたよ?」
「あ、そういえば…」

 壁に激突した甲冑は、そのまま動きを止めている。
 あ、なんかぴくぴくしてるし。

「陣九朗、無事か!?」
「ああ! アレイさん。大丈夫ですか?」

「あれ、誠じゃないか。それと…?」

 いつのまにか空間が元に戻っている。
 玄関の門を勢いよくあけて入ってきたのは、誠と見たことのない女の子だった。

「陣九朗、大丈夫だったか?」
「ああ、俺は大丈夫だけど。でもなんで誠がここにいるんだ?」

 俺の言葉に、誠の顔に不服の色が浮かぶ。

「何だよ、せっかく心配してきてやったのに」
「そうか、すまんな」
「でもまあ、心配することもなかったみたいだな。
それにしても、また派手にやったな。ちょっとは手加減してやれよ、女の子だぜ?」
「突っ込んできたのをさばいたらこうなっただけだって……おい、今女の子って言ったか?」

 そういいながら壁にめりこんでいる甲冑のほうへ目を移す。
 先ほど誠といっしょにきた女の子が懸命に助け起こそうとしているが、
いかんせんその超重量のせいでぴくりとも動かせない。

 仕方ない。俺は再び(加減して)獣の力を呼び起こした。

 せいのっと!!(がらがら…)

 抜いた拍子に壁が大きく崩れてしまったが、今は気にしているときではない。

 …ううむ。

「誠、俺は甲冑の性別の見分け方は知らないんだが」
「どあほうが!!」

 ぱしこーん!!

 痛いぞって、あれ、誠は目の前にいる。
ってことは、今おれにハリセンで突っ込みを入れたのは?

「はあ、まったく、しょうもない事いわないの」
「ルミラ先生! どこ行ってたんですか、探しましたよ?」

 どうやら誠の知り合いらしい。
 しかし、ルミラと呼ばれた女性(美人)からは、抑えていてもわかるほどの強い闇の力を感じる。

「おい、誠、この人は?」
「ああ、このひとは」
「デュラル家当主、ルミラよ。お久しぶり、陣九朗君」

「デュラル家のルミラさん?」

 お久しぶりって事は、以前どこかで会ってるんだろうけど……、
 俺が思い出せないでいると、すっと、ルミラさんが俺に耳打ちをしてきた。

『また、献血よろしくね♪』
「!!!!!!!!!!!!!!」

 お、思い出したぁ!!
 100年ぐらい前にヨーロッパのほうで思いっきり(ミイラ一歩手前)血を吸われた吸血鬼!!

「ひいい!!!」
「みゃみゃ!?」
「ど、どうした、陣九朗。知り合いじゃないのか?」

 ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん!!!!!!!

 俺は激しく首を振った。

「やーねえ。しばらく見ないうちにますますおいし…いえ、かっこよくなって」
「今なんか言いかけませんでしたでしょーか!!!!?」
「ルミラ先生、またなんかやったんですか?」

 違うんだ誠。時効かもしれないが、結構トラウマになってるだけなんだ。
 リーナだったらなぜか問題ないんだが。

「さ、そんなどつき漫才やってる場合じゃないの。あ〜もう、こんなに壊してくれちゃって〜」

 そう言いつつ、まだびびっている俺の前を通り過ぎ、屋敷の内へと入っていった。
 ちなみに、アレイと呼ばれた甲冑は無視している。

「なあ誠。いまいち、というか全然状況が飲み込めてないんだが」
「説明するぜ。でもとりあえずアレイさんを屋敷の内へ連れて行ってやってくれねーか?」
「了解」

 俺は甲冑をかついで、屋敷の内へと入っていく誠にチキと続いた。
 壁のほうはいつのまにか、傷一つなく直っていた。





 待ってて。後半。




後書きっぽいもの。

 ぐはあ! すいません。反省はしてまス。でも技術がともなわないんです。
 言いたいことはいろいろあるでしょうが、勘弁して『了承』してください。
 だめ?

 後編…一応書きます。がんばります。ミステナイデ(雨に濡れた子犬の瞳)


リーナ(ほおずりほおずりほおずりほおずりほおずり……)
たま「うにゅにゅうううう〜〜〜〜(ごろごろごろごろ)」


 まだやっとんのかい。 


 感想はこちらまで。>
tuoka@hi-net.zaq.ne.jp


<コメント>

リーナ 「かわい、かわい、かわいー♪」(^〇^)

 ほおずりほおずりほおずりほおずり……

あかね 「うみゃああああああああっ!」\(@o@)/
誠 「しまった……遅かったか」(−−;

 ほおずりほおずりほおずりほおずり……

結花 「あーっ! ズルイわよっ! あたしもあかねちゃんにほおずりしたい〜っ!」(^▽^)
さくら 「あかねちゃ〜〜〜〜ん♪」(^▽^)
はるか 「あらあらあらあら♪ ここにこんなに可愛いお洋服があるんですよ〜♪」(^▽^)
某デパートの店員 「お客様、こちらの服などどうでしょう♪」(^▽^)

 わいわいがやがや……

誠 「…………さて、と」(←逃げる)
あかね 「ああっ! まーくん、見捨てないでーーーーっ!!」(T△T)