Heart to Heart
パロディー編
「童話 金の斧と銀の斧」
昔々、あるところに――
誠とフランソワーズという、
それはそれは仲の良い夫婦が暮らしておりました。
『ふ、夫婦ですかっ!?』(真っ赤)
『まあ、そういう設定だし……』(汗)
二人は街外れの森の中にある小屋で、
最愛の人との平和で幸せな毎日をおくっていました。
『さ、最愛ですかっ!?』(さらに真っ赤)
『いや……だから、そういう設定なんだから……、
不満もあるだろうけど、我慢してくれよ』(汗)
『そ、そんな……不満だなんて……ワタシ……感無量です』(耳まで真っ赤)
さて、そんな幸せな毎日が続くそんなある日――
その日は、とてもお天気が良かったので、
二人は森の中にある小さい湖ま近くへと、ピクニックに出かけることにしました。
バスケットの中に妻特製のお弁当をたっぷりと入れて、
二人は仲睦まじく腕を組んで歩きます。
『誠様の妻、誠様の妻、誠様の妻……』(ポッ☆)
『と、取り敢えず、落ち着こうな……』(汗)
そして、お昼を少し過ぎた頃、目的地である湖の辺に到着した二人は、
早速、お弁当を食べることにしました。
妻の料理は夫への愛情いっぱいの絶品です。
食いしん坊な夫は、そのお弁当を美味しそうに平らげていきます。
ですが、二人は新婚ホヤホヤの夫婦です。
当然、食事をする時だって、らぶらぶ一直線です。
だから、「はい、あ〜ん☆」なんて日常茶飯事です。
『ほ、本当に……するんですか?』(ポポッ☆)
『……ナレーションには逆らえないだろ?』
『そ、それでは……失礼します』(ポッ☆)
妻はお箸で卵焼きを一つ取ると、落ちないように下に手を添えつつ、
おずおずと夫に差し出しました。
「ま、誠様……はい、あ〜ん☆」(ポッ☆)
……はいはい、奥さん。
あなたは妻なんですから、夫に対して『様』はないでしょう?
ナレーターとしてやり直しを要求します。
「そ、それでは……旦那様、はい、あ〜ん☆」(ポッ☆)
妻は、どうやら、まだメイド根性が抜けていないみたいです。
だから、ナレーターはその呼び方も認めません。
「そ、そんな……」
ちゃんとやるまで、何度でもやらせます。
それまで、お話も進展させません。
「あ……あ…………あなた(きゃっ☆)……はい、あ〜ん☆」
はい♪ よくできました♪
それでは、お話を進めることにしましょう。
「あ〜ん」
妻が差し出した卵焼きを、夫はパクッと咥えます。
そして、ゆっくりと味わって呑み込んだ後、ニッコリと妻に微笑みました。
「あ……」(ポッ☆)
その微笑みに、妻は頬を赤く染めます。
夫の微笑みは、妻にとって一番の喜びだからです。
「じゃあ、今度は俺が……はい、あ〜ん☆」
「は、はい……あ、あ〜ん」(ポッ☆)
夫がお返しに、妻に一口サイズの唐揚げを差し出しました。
妻はそれを恥ずかしそうに口に入れます。
そして、二人はもう一度微笑み合う――
……こうして、らぶらぶでアツアツな食事は、しばらく続いたのでした。
そして、食事も終わり、二人は温かい日差しの下で、
のんびりとした時間を過ごしました。
湖の辺で花を積む妻――
その姿を木にもたれて眺める夫――
「ふわぁ〜あ……」
次第に、夫は眠気を覚え始め、ウトウトと目を閉じます。
そして、ゆっくりと夢の中へ……、
――と、その時でしたっ!
「きゃあっ!!」
ザップーーーーンッ!!
「――っ!?」
突然、耳に飛び込んできた妻の悲鳴と、何かが水に落ちる音。
その音に驚き、夫は慌てて飛び起きます。
そして、すぐに妻の姿を探しました。
しかし、さっきまで花を積んでいた妻の姿は何処にも見当たりません。
ただ、穏やかに揺れていた湖の水面に大きな波紋が……、
どうやら、妻は何かの拍子に、湖に落ちてしまったようです。
「フランッ!!」
そう判断した夫は、すぐさま湖に駆け寄ると、
妻を助ける為、湖に飛び込もうと上着を脱ぎ捨てます。
そして、夫が湖に身を投じようとした、その次の瞬間……、
ぴかぁぁぁぁぁーーーーーっ!!
いきなり、湖の中から光り輝く球体が姿を現しました。
「――なっ?!」
あまりに唐突な出来事を前にして、
夫は飛び込もうとしたポーズのまま、固まってしまいました。
「……何だ?」
一応、警戒しつつも、光の球体を見つめる夫。
その光の球体は彼に見つめられる中、ふよふよと宙に浮かび、
パアッと強い光を放ちながら弾け飛びました。
そして、中から現れたのは……、
「はじめまして……私はこの湖の妖精です」
……美しい白の衣を身に纏った、金髪に近い茶色の髪の美少女でした。
「……お、俺に何か用か?」
いきなり目の前で起こった不可思議なことに戸惑いつつ、
夫は湖の妖精と名乗った少女を見つめます。
その彼の真剣な表情にポッと頬を赤らめながら、妖精は優しく彼に訊ねました。
「今、この湖に落ちたあなたの奥様は、こちらの桜色の髪の少女ですか?
それとも、こちらの空色の髪の少女ですか?」
と、妖精が言うと同時に、彼女の両隣に、二人の少女が姿を現しました。
妖精が言う通り、桜色の長い髪をもつ美少女と、空色の髪の小柄な美少女です。
宙に浮かぶその二人の姿を見て、夫はゆっくりと首を横に振りました。
「二人とも違う。俺の嫁さんはフランソワーズっていう金髪の女の子だ。
フランス人形みたいに可愛くて、ちょっと意地っ張りな子なんだ」
「そうですか……」
彼の答えを聞き、妖精は嬉しそうに微笑みます。
そして、指をパチンと鳴らし、二人の美少女を彼の側に降り立たせました。
「あなたはとても正直な人ですね。
そのご褒美として、その二人をあなたに差し上げましょう」
「――は?」
「実は、その二人は、適正が合わず、この湖の妖精になり損ねてしまった子達なのです。
そこで神様が人間として生まれ変わらさせたのですが、この二人には家族がいません。
ですから、私がこうして二人の家族として相応しいお方を探していたのです。
そして、あなたなら、安心して二人を任せられると、私は判断しました」
「あ……そ、そうなの……」(汗)
いきなり、あまりにも突拍子も無い話を聞かされ、
夫は顔を引きつらせます。
しかし、そこは思考の柔らかい彼です。
すぐに妖精の話を理解し、二人の少女を引き取る決心をしました。
「わかった。そういうことなら、俺がこの二人の親代わりになるよ」
「……娘なんてイヤです」
「うみゅ〜、あたし、お嫁さんになるの!」
と、二人の美少女は彼の腕に抱きつく。
「……まあ、そういうことですので、よろしくお願いしますね」
そんな二人に、一瞬、羨ましそうな視線を向けてから、
妖精はもう一度パチンッと指を鳴らしました。
すると、今度は湖に落ちた彼の妻が現れました。
「あ、あなた……」
「フランッ!! 良かった……無事だったか……」
妖精によって助けられた妻に駆け寄り、夫は妻をきつく抱きしめます。
妻もまた、夫の背中に腕を回し、無事に再開できたことを喜びました。
「これで、ようやく肩の荷が下りました。
これからは、四人で末永く幸せに暮らしてくださいね」
抱き合う夫婦の姿をあたたかな眼差しで見つめながら、
妖精は湖の底へと帰っていきます。
「……もう二度と、皆さんとお会いすることもないでしょう」
と、妖精は湖の中に沈むその一瞬だけ、とても寂しそうな表情を浮かべました。
それを見逃してしまうような夫ではありません。
すぐに、夫は沈みゆく妖精を呼び止めました。
「あのさ……一つだけ頼みがあるんだけど」
「……何ですか?」
「……今まで俺とフランが暮らしてた家って、四人で住むには狭すぎるんだよな。
だからさ、この湖の側に、新しい家を建ててもいいかな?」
「――え?」
彼の言葉に、妖精は驚きのあまり目を見開きます。
そんな妖精に、彼は優しく微笑みました。
「ここで、皆で一緒に暮らせば……寂しくないだろ?」
彼のその提案を聞き、妖精はハッと息を呑みました。
そして、涙をこぼしながら、頷きます。
何度も……何度も……、
「……はい……はい。
ありがとう……ありがとうございます」
……こうして、とある森の湖の側に、一つの家族が生まれました。
優しい夫と、それを愛する三人の妻――
そして、湖とその家族を守護する妖精――
その後、妖精までもが彼を愛するようになり、
人間と妖精が添い遂げるという禁忌に触れ、神様とひと悶着あったりもするのですが……、
……それはまた、別のお話です。
取り敢えず、今回はこのへんで、
この家族の物語を終えることにしましょう。
……めでたしめでたし♪
<おわり>
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