Heart to Heart
パロディー編
「童話 赤ずきんちゃん」
昔々、あるところに――
赤ずきんちゃんという、それはそれは可愛らしい女の子がいました。
十六歳という歳の割に、やたらと幼く、妙に猫っぽい性格の赤ずきんちゃんは、
みんなにとても可愛がられていました。
そんな赤ずきんちゃんが、平和に暮らしていたある日のこと――
赤ずきんちゃんは、お母さんにお使いを頼まれました。
お使い先は、村外れにあるお婆さんのお家。
お使いの目的は、焼き立てのクッキーを届ける事です。
そのお使いを心良く引き受けた赤ずきんちゃんは、
バスケットにクッキーを入れて、意気揚揚とお家を出発しました。
「それじゃあ、行こうか、フランちゃん」
「――はい」
もちろん、お気に入りのフランス人形さんを抱いていくのも忘れません。
ちなみに、このフランス人形さんですが、
実は、喋って動いて、さらには心まで持っていたりします。
まあ、今のところ関係無いので、構わずお話を進めることにしましょう。
「し・お・か・ぜを、ほ・ほ・に・うけ、は〜だし〜で〜かけてく〜♪
ふ・り・む・けば、し・ろ・い・すな、わたし〜の〜あしあ〜と〜♪」
元々、お婆さんの事が大好きな赤ずきんちゃんは、
スキップを踏みながら、上機嫌な足取りでお婆さんのお家へ向かいます。
お得意の懐かしのアニメソングも絶好調です。
と、そんなルンルン気分の赤ずきんちゃんを狙う一対の眼差しがありました。
その正体は、茂みの中に身を潜めた狼さんです。
「……美味しそう」
茂みの中から、ジ〜ッと赤ずきんちゃんを見つめ、
生唾をゴクリッと呑み込みつつ、狼さんはそう呟きます。
端から見ていると、変質者そのものです。
しかし、誤解してはいけません。
実は、この狼さん、ご近所でも評判の良い、とっても優しい狼さんなのです。
特に奥様方に気に入られていて、赤ずきんちゃんのお母さんも、その一人だったりします。
つまり、この狼さんは、童話やおとぎ話において、
常に悪役を務めるべき役所である狼の風上にも置けない、人畜無害な狼さんなわけです。
では、何故、そんなお人好しの狼さんが、
変質者みたいに赤ずきんちゃんを狙っているのでしょうか?
――理由は簡単。
狼さんが狙っているのは、赤すぎんちゃんではなく、
彼女が持つバスケットの中のクッキーだったのです。
このお人好しな狼さんは、とても食いしん坊である事でも有名で、
今回も、クッキーの匂いにつられて来てしまった、というわけなのです。
「う〜む……」
バスケットの中のクッキーを見つめつつ、
狼さんは腕を組んで考えます。
どうしても、あのクッキーが食べたい。
しかし、あれはお婆さんへのお届け物ですから、もらえるわけがありません。
赤ずきんちゃんなら、欲しいと言えばくれるかもしれませんが、
それでは、彼女がお母さんに怒られてしまいます。
だから、そんなことをお願いするわけにはいきません。
では、一体、どうすれば……、
「――っ!!」
と、不意に、狼さんの脳裏にアイデアが浮かびました。
あのクッキーは、お婆さんのものなのだから、
お婆さんに頼めば貰えるかもしれない、と。
いえ……お婆さんはとっても優しい人ですから、
絶対にクッキーをご馳走してくれるに決まっています。
そうと決まれば、善は急げです。
狼さんは、赤ずきんちゃんよりも早くお婆さんのお家に行く為に、
全力で走り出しました。
――で、あっという間に、お婆さんのお家に到着。
早速、狼さんはお家のドアをノックします。
――コンコン
「は〜い」
お家の中から返事がして、すぐにお婆さんが出てきました。
桜色の長い髪に、華奢な体つき――
お家の中から現れたのは、
どう見ても十六歳くらいの少女にしか見えない美少女でした。
でも、彼女こそがお婆さんなのです。
設定上、仕方の無いことなのです。
「まあ♪ 狼さんじゃないですか♪」
ドアを開けて、来客である狼さんの姿を見たお婆さんは、
パッと嬉しそうに顔を輝かせました。
「ちょうど良かったです。
実はですね、今日、隆山の千鶴さんから美味しいキノコを貰ったんですよ。
それで、せっかくですから、新メニューに挑戦してみたんです。
良かったら、味見していただけませんか?」
と、そう言いつつ、お婆さんは狼さんの返事も待たずに、
お家の中へと招き入れます。
そして、半ば強引に、狼さんをテーブルに座らせると、
彼の前に出来たてホカホカのキノコのリゾットを置きました。
「さあ、召し上がれ♪」
「お……おう」
あれよあれよという間に、食事の準備をされてしまい、ちょっと戸惑う狼さん。
しかし、目の前にご飯がある以上、食べなければ食欲魔人の名が廃ります。
本来の目的も忘れ、狼さんはキノコのリゾットを食べることにしました。
ぱくぱくぱくぱく……
もぐもぐもぐもぐ……
黙々と、それでいて美味しそうにご飯を平らげていく狼さん。
そんな狼さんを、正面に座ったお婆さんは、テーブルに頬杖をついて、
ポーッとした顔で見つめています。
どうやら、お婆さんは狼さんのことが大好きなようです。
がつがつがつがつ……
むしゃむしゃむしゃむしゃ……
お婆さんのそんな熱い眼差しに気付く事無く、
狼さんはひたすらご飯を食べ続けます。
そして、その姿を、幸せそうに見つめ続けるお婆さん。
なんとも、平和な光景です。
さて、これはお婆さんも狼さんも知らないことなのですが……、
このリゾットに使われているキノコ……、
実は、あの有名な『セイカクハンテンダケ』だったりします。
そのキノコが入ったリゾットを、美味しそうに食べている狼さん……、
果たして、狼さんの性格はどうなってしまうのでしょうか?
「美味かった……ごちそうさま」
「はい♪ おそまつさまでした♪」
瞬く間にリゾットを平らげてしまった狼さんに、
お婆さんは嬉しそうに微笑みつつ、食後のお茶を差し出します。
そして、壁に掛けられた時計をチラリと眺め……、
「そろそろデザートが届く頃なのですが……」
……と、呟きました。
「……デザート?」
そのデザートという言葉に、狼さんはピクリと反応します。
お婆さんが言う『デザート』とは、
赤ずきんちゃんが持って来ることになっているクッキーの事を示しているのでしょうが、
狼さんは別の意味で捉えてしまったようです。
「……デザートのなら、目の前にある」
「……はい?」
本来、狼さんは、何処ぞの性欲魔人さんとは違い、
情欲よりも食欲の方が遥かに勝ってしまう性格をしています。
しかし、今は、セイカクハンテンダケを食べた後なのです。
つまり、その効果によって、その性格は反転し……、
「デザートは……お前だぁーっ!!」
「きゃあっ! 狼さん、そんな、いきなりっ!?
こ、こんな昼間から、ダメ…………あぁん♪」
さて、それから間もなく……、
――コンコン
――ガチャ
「おじゃましまーす」
お婆さんのお家に、
クッキーを持った赤ずきんちゃんとフランス人形さんがやって来ました。
そして、お家の中に入ってみて、ビックリッ!
なんとっ! 狼さんとお婆さんが、ベッドの中で抱き合って、
濃厚なキスを交わしているではないですかっ!
さらに良く見れば、床に脱ぎ散らかされた二人の服が落ちています。
このことから、ベッドの中の二人が、何も身に着けていない事が分かりました。
「……お、お婆ちゃん?」
「ん……(ちゅぽ☆)……はい、何ですか?」
狼さんと、口の中で舌を行ったり来たりさせていたお婆さんは、
赤すぎんちゃんが来たことに気付くと、唇を離し、そちらを向きます。
「お、お婆ちゃん……どうして、お婆ちゃんは、狼さんと一緒に寝てるの?」
「それはですね……狼さんに押し倒されてしまったからですよ♪」
「じゃあ、どうして、お婆ちゃんは裸なの?」
「それはですね……これから、狼さんに食べられてしまうからですよ♪」
「じゃあ、どうして、狼さんも裸なの?」
「それはですね……」
「お前を食べるためだぁーっ!」
「うにゃぁ〜〜ん♪」(はぁと)
叫ぶと同時に、赤ずきんちゃんに飛び掛かる狼さん。
狼さんに襲われた赤ずきんちゃんは、
何故か嬉しい悲鳴を上げながら、ベッドの中へと引き摺り込まれていきます。
ああ……なんということでしょう。
このまま、赤すぎんちゃんとお婆さんは、
狼さんの毒牙にかかってしまうのでしょうか?
しかし、ご安心下さい。
このお話の元である童話と同じように、
ここで赤ずきんちゃん達を助ける狩人さんが、颯爽と現れる筈です。
――バタンッ!!
「ちょっと待ってくださいっ!!」
……ほら、現れました。
赤ずきんちゃんが狼さんに全裸にされてしまったところで、
勢いよりドアが開けられ、魔法の杖を持った狩人さんが飛び込んで…………あれ?
「お、狼さんっ!
二人だけなんてズルイですっ!
わ、私も、一緒に……」(ポッ☆)
そう叫ぶと、狩人さんも、頬を真っ赤にしながら、
ベッドの中へと潜り込んでいきます。
って、ちょっとちょっと……、
「おいおい……ったく、しょうがねーなー」
「えへへへ♪ 狩人さんも一緒〜♪」
「あ……はぁ……狼さん……早く、続き……♪」
強引にベッドに入って来た狩人さんを、
三人は心良く迎え入れて…………もう、好きにしてください。
「はあ……ふぅん♪ お、狼さん♪」
「うにゃ〜ん♪ 気持ちいいよぁ〜♪」
「ああ……素敵です♪」
――というわけで、
赤ずきんちゃんも……、
お婆さんも……、
狩人さんも……、
み〜んな、狼さんに美味しく食べられてしまいました。(爆)
……あ、そうそう。
すっかり忘れ去られてしまっていたフランス人形さんですが……、
「あ、赤ずきん様も、狩人様も……う、羨ましいです」(ポッ☆)
「――フラン」
「は、はい! 何でしょうか、狼様」
「何やってんだ? ほら、お前もおいで」
「ええっ! で、ですが、ワタシは……」
「やれやれ……相変わらず強情だな。
じゃあさ、俺一人で三人も同時に相手するのはさすがに無理だから、協力してくれよ。
お前は、その後で……な?」
「は、はい。(ポポッ☆) そ、それでは、御奉仕させていただきます♪」
こうして、四人の女の子を美味しくいただいてしまった狼さんは、
そのまま四人ともお嫁さんにして、みんな一緒に幸せに暮らしましたとさ。
――めでたしめでたし。
<おわり>
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