新学期――
桜咲く季節――
それは、親しいクラスメートとの別れの時……、
それと同時に……、
新しい仲間との出会いの時……、
そんな、新たな一歩を踏み出す季節に――
――俺は、私立リリアン女学院に入学していた。
Heart to Heart
パロディー編
「小説 マリア様がみてる」
「――って、ちょっと待て!」
私立リリアン女学院――
そう書かれた門の前までやって来たところで、
俺は、ようやく重大な間違いに気付き、そこで立ち止まった。
おかしいぞっ!
どういうことなんだ、これはっ!
明らかに、この設定は間違っている!
俺は男だぞっ!
ここは、女子校なんだぞっ!
なのに、何故……、
俺が、入学なんて出来るんだっ!?
ってゆ〜か、既に、制服着ちゃってるしっ!
「とにかく、逃げよう……、
なんか、物凄く、嫌な予感がする……」
そう結論を付けた俺は、
学園から立ち去ろうと、クルリと踵を返した。
だが――
「――あら? あなた、新入生?」
何者かに呼び止められ……、
仕方なく、俺は、その声の主に目を向ける。
そこにいたのは……、
「私は緒方 理奈……あなた、名前は?」
「ふじ――上杉 まこと、です」
上級生だろうか……、
理奈と名乗った女生徒に、俺は、咄嗟に偽名を名乗る。
そんな俺に、彼女は、ツカツカと歩み寄ると……、
「うん……決めた」
「――へ?」
一体、何を決めたと言うのか……、
唐突に、理奈さんは、
俺に、ロザリオのペンダントを差し出した。
「あの……何です?」
「この学園に来たんだもの……、
規則くらいは、ちゃんと知ってるわよね?」
「ええ、まあ……姉妹制度、ですよね?」
理奈さんの言葉に、俺は、素直に頷く。
姉妹制度――
細かい説明は、面倒なので省くが……、
ようするに、上級生と下級生で、
一組の姉妹となり、姉が妹に礼儀作法等を教える、という決まりである。
それが、一体、何だと言うのか……、
理奈さんの意図が掴めず、俺は首を傾げる。
そんな俺に……、
理奈さんは、満足げに微笑むと……、
「そうよ……で、貴方は、今日から、私の妹ね♪」
「――はい?」
理奈さんの言っている事の、
意味が分からず、俺は、間の抜けた返事をしてしまう。
そんな俺に、再度、ロザリオを差し出す理奈さん。
俺は、それを――
反射的に受け取ろうと――
「ダメェェェェ〜〜〜〜ッ!!」
――したところを、横から現れた誰かに止められてしまった。
見れば、そこには……、
息を荒げた、見知った顔が……、
「……由綺姉?」
――そう。
現れたのは、俺の姉貴分である森川 由綺であった。
「もう、ダメでしょ、誠君!!
この学園に入学する時は、私の妹になる、って約束だったのに!」
「え? あれ……そうだっけ?」
ぷうっと、頬を膨らませ……、
腰に手を当てて、俺を睨んでくる由綺姉。
でも、正直なところ、睨まれても、全然迫力が無い。
由綺姉は、顔立ちが優しいからな〜……、
なんて事を考えつつ、
俺は、由綺姉との約束を思い出しいた。
ああ、そういえば……、
確かに、由綺姉の妹になるって約束をした覚えが……、
――って、いやいや!
俺は男なんだから、
約束云々前に、前提条件が間違ってるだろうがっ!
「何を言ってるんだ、由綺姉……、
男である俺が、この学園に入学出来るわけがないだろう?」
「……でも、入学出来たんだよね?」
「それは……きっと、何かの間違いだ」
「そうなのかな〜……?」
と、俺と由綺姉は、
二人して、不可解な現状に頭を捻る。
そんな俺達を、唖然と眺める第三者が一人……、
「うそ……貴方、男の子なの?
こんなに可愛くて、制服も似合ってるのに……?」
「似合っててたまるか!
由綺姉からも言ってくれよ、俺は男だって!」
理奈さんの呟きに、思わず、俺は食って掛かる。
そして、同意を求めようと、
真実を知る由綺姉に、話を振ったのだが……、
「…………」
「……由綺姉?」
「ゴメン……ちょっと自身無いかも」
「――をいっ!!」
目を逸らす由綺姉に、俺は頭を抱える。
頼むよ……、
勘弁してくれよ……、
今は、由綺姉だけが頼りなのに……、
頼みの綱が、由綺姉だけ、って時点で、
もう、色々と終わってしまっているような気もするが……、
「あ〜、もう……ハッキリしないわね〜」
イマイチ煮え切らない、
俺達の様子に、黙っていられなくなったのだろう。
理奈姉は、何やら悪戯っぽい笑みを浮かべると……、
素早く……、
俺の背後へと歩み寄り……、
「分からないなら……、
確かめれば良いだけでしょ〜♪」
そう言って――
一気に、俺のスカートを――
・
・
・
――しばらくお待ちください。
「お、男の子だったわね……」(ポッ☆)
「うん……立派な男の子……」(ポポッ☆)
「ううっ、もう、お婿にいけない……」(泣)
一目で分かる方法で……、
俺の性別を、文字通り、
目の当たりにし、由綺姉と理奈さんは、頬を赤く染める。
そして、着衣の乱れを直しつつ、泣き崩れる俺……、
しかし、いつまでも泣いてはいられない。
俺は、服の袖で、ゴシゴシと、
涙を拭うと、毅然とした態度で、二人に言い放った。
「これで分かっただろ?!
俺は、正真正銘、男なんだ、って事がっ!!」
血を吐くような俺の言葉に、二人は無言で、コクコクと頷く。
そして……、
呆然とした表情で、俺を見つめると……、
「女子校に入学する男の娘……」
「しかも、こんなに可愛い……」
「二人とも、分かるだろ?
この設定は、絶対に何かの間違い――」
「それはそれで――」
「――萌えるわねっ!!」
「待てや、コラッ!!」
「さあ、早くしないと、遅刻しちゃうよ♪」
「急ぎましょうか、まことちゃん♪」
「うわっ!? ちょっと――」
由綺姉と理奈さんが、
両サイドから、俺の腕を、ガッチリとホールドした。
そして、逃れようとする俺を、ズリズリと、学園の敷地内へと、引っ張って行く。
「ゆ、由綺姉、理奈さん!? 何を――っ?!」
「コラコラ、ダメじゃない……、
私の事は、ちゃ〜んと、理奈姉って呼ばなきゃね♪」
「もう、まことちゃんは、私達の妹なんだから♪」
「いや、でも、俺は男なんだってば!
男が、女子校に入っちゃ、色々とマズイだろ!?」
「バレなきちゃ大丈夫よ♪」
「お姉ちゃん達が、守って上げるからね♪」
「い〜や〜だぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」
・
・
・
まるで、処刑場に連行される死刑囚のように……、
俺は、二人掛かりで……、
リリアン女学院の中へと、引き擦り込まれる。
そして……、
――もう逃げられない。
それを象徴するかのように……、
ゆっくりと……、
学園の門が閉まっていく。
・
・
・
こうして――
俺の学園生活は始まった。
年上のお姉さん達の玩具にされる日々が――
「誰か助けてぇぇぇ〜っ!」(号泣)
――ちゃんちゃん♪
<おわり>
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